相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第135話 ホームズ&ワトソンの挑戦 その7

「おい、戻ったぞ!!」

 

 ふたりが議論しているところに魔理沙が戻ってきた。戸を開ける彼女の左腕にはスイカ程度に膨れた麻袋が抱えられており、右京を見つけるや否や、麻袋から汚れた衣服を取り出した。

 

「おじさんの言った通り、空き家の空箱にこれが詰められていたぜ!」

 

 目の前に広げられるのは腹や膝辺りに赤い液体がついた男性用の和服だった。

 色合いと作りから見て里で若い者が着用する衣服だと思われる。

 ビンゴだ。右京はほくそ笑んだ。

 

「付着している液体の範囲からして包丁を突き刺した際に浴びた返り血のようにみえますね」

 

「ですね」

 

「だよな」

 

 ふたりは頷いてからマジマジと和服を観察する。尊が裏側を確かめるべく服を捲った。シミとなっている部分を避けながらチェックしていると、襟足のところに一本の黒い髪が絡まっていた。

 彼はハンカチを取り出して髪の毛を回収。写真を撮った上でビニールに保管した。

 魔理沙が疑問を呈する。

 

「なぁ、髪の毛なんて保管して何に使うんだ? 藁人形か? カンカンって」

 

「んわけないだろ。犯人のものかもしれないからな。解析すれば人物を特定できる」

 

「あん? どうやってだ?」

 

 右京が説明を代わる。

 

「表の世界では髪の毛や指紋から本人を特定できる科学技術があるのです。それを使えば犯人特定に大いに役立つ」

 

「進んでんねぇ。でも表に戻らなきゃ使えないんだろ? ここじゃ意味ないんじゃ……」

 

「いざとなれば、表に戻って同僚に解析してもらいます。一応、知り合いの専門家がいますから」

 

「米沢さんですね。警察学校に左遷されても仲がよろしいようで」

 

 左遷された米沢を思い出し「あのころから無茶振りされていたよな」と尊が懐かしむ。

 

「田端の自宅はどうでした?」

 

「もぬけの殻さ。証拠になりそうなものはなかったよ」

 

 田端の家へ直行して隅々まで漁ったが、手がかりになりそうなものは皆無だった。始めから覚悟を決めていたんだろう。捜索を行った魔理沙はそのように振り返った。

 

「証拠を残さない徹底ぶり。まるでこちらの手を知っているようですねえ」

 

「私らのか?」

 

「いえ、表の警察のですよ。僅かな証拠から犯人に繋がってしまう。そのリスクを極力犯さないように努めているようにみえる」

 

「衣服は残っているのにか?」

 

 魔理沙が言った言葉に右京が見解を述べる。

 

「燃やせばそれなりの煙がでます。緊張状態の里の中でやってしまうと、結社や僕らがそれを怪しんで押し寄せてくる。それを恐れたのでしょうねえ。幻想郷では血液検査もDNA鑑定もできませんから、血のついた衣服だけではどうしようもない」

 

 ついでに指紋鑑定もできないために犯人を追い詰めるには確実な証拠が必要なのだ。

 表の世界なら指紋、血液、毛髪――あらゆる品が証拠となりうるがここではそうもいかない。

 人の証言や犯人しか知り得ない何らかの情報を可能な限り集め、人物を特定するしかないのだ。

 

「これだけじゃ証拠にならんって訳か。服屋で売っている一般的な普段着だしな」

 

「そうとも限りませんよ。里で服を売っているお店は二から三軒。ハンドメイドなので、店主らに衣服を見せればどこの誰が作ったものかわかるかもしれません。作った時期や売った里人のことを覚えている可能性だってある」

 

「自分の家で作ったヤツかもしれんぞ?」

 

 裁縫が得意な者がいる家庭では自分で衣服を作ることも珍しくない。

 魔理沙の意見はもっともだが、右京はそれでも調べるつもりでいる。

 

「調べないよりはずっといい。神戸君、この服を持ってお店の店主に話を訊きに行きましょう。せっかくですから魔理沙さんもご一緒に」

 

「おう」

 

 魔理沙を含めた三人は人里で服を売る店を訪ねて服を見せて回った。

 最初の二軒は自分の商品ではない、と答えるも三軒目の店主は血だらけの服を見た瞬間、自分のところの商品だと語った。

 右京が作った期間を訊ねると「この男性用の服は改良した商品で半年前から販売している」と答えた。続けざまに「このような男物の和服。美男子には似合うでしょうねえ。狩野君のような」と発言する。店主は「ええ、狩野君も買って行ったわよ。三ヶ月くらい前に」と言った。

 用が済んだ右京は店を後にして、その足で稗田邸に向かう。

 道中、魔理沙が先ほどの質問の意味を問うた。

 

「なぁ、なんで狩野のことを話題に出したんだ?」

 

 右京はさりげなく。

 

「彼が怪しいからですよ」

 

「アイツが狙撃犯なのか!?」

 

「それはまだわかりません。しかし、何かを隠しているのは事実でしょうね」

 

「隠している……? 一体、何を?」

 

「今度はそれを調べます。真実に近づくために」

 

 

 稗田邸に到着した右京たちはすぐに女中に阿求への面会を求めた。

 彼女に連れられて書斎を訪れると、阿求と共に先客の霊夢と小鈴、変装したマミがいた。

 簡単な挨拶を交わしたのち、右京は集めた証拠と三人の死について導き出した自身の仮説を四人に披露してみせた。

 里の外を探索していて状況を把握できなかった霊夢や協力した妖怪たちに感謝を述べて回っていたマミ、さっきまで両親につき添っていた小鈴は大きな衝撃を受ける。

 

「まさか母親だけじゃなく、後のふたりも殺されていたなんて……」

 

「衝撃的すぎて言葉が出んわい」

 

「小鳥遊さんたちが殺されただなんて……」

 

 三人とも落ち込む素振りをみせるが、特に小鈴の落ち込み具合が大きいようだった。

 里の仲間が三人も殺されれば当然の反応だ。つい最近まで殺人などなかったのだから。

 失意の彼女に右京が訊ねる。

 

「小鈴さん、小鳥遊さんとはおつき合いが?」

 

「おばさんがたまに本を借りにくるので、結構お話しするんですよ。明るくていい人だったのに……」

 

「狩野君もお店を利用しますよね? 最近、お店を訪ねたことは?」

 

「デモが起きた次の日に本を返しにきました」

 

「頻繁にお店を訪れるのですか?」

 

「はい、よく見られます。借りて行く本は様々で多趣味だと思います。神戸さんがきたときも色々借りていったんですよ」

 

「そういえば君、狩野君と会ったことがあるそうですね。いつごろですか?」

 

「演説が始まる前日です」

 

「そのときの彼の様子は?」

 

 頭を捻ってから尊は説明する。

 

「特に変わったところはありませんでしたね。目つきが鋭かったとか、そういうのはありませんでした。後は……本と野菜籠を持っていたっけな」

 

 野菜籠のワードに、右京は引っかかりを覚える。

 

「その籠には野菜が入っていましたか?」

 

「はい、入っていましたが……」

 

「小鈴さん、鈴奈庵から一番近い八百屋はどちらですか?」

 

「へ? えーと、奥村さんのところです。狩野さんはつき合いもあって奥村さんのお店で野菜を買っているそうです」

 

「やはり、舞花さんの言う通り、日常的なおつき合いがあったことは明白ですね。訪ねてきた相手が彼ならば失意のどん底にいる奥村さんが自宅に招いてもおかしくない」

 

 情報が集まるにつれて一歩一歩、真実へと近づいていく。

 右京は確かな手ごたえを感じ取り、皆の前でこう発言した。

 

「狩野宗次朗は何らかの形で事件に関与している可能性が極めて高い。皆さんのお力をお貸しください」と。

 

 尊以外の全員が息を飲み、様々な角度から疑問を口にするも、尊と魔理沙に語った内容を話すことで一定の理解を示して貰い、皆の協力を得られた。

 

 

 一夜明けて朝の九時。特命係は狩野家を訪問する。

 

「本日もお話が聞きたいのですが、構いませんか?」

 

「はい、いいですよ」

 

 昨日と同様、居間に招かれて座る。

 狩野が口を開こうとした瞬間、右京が遮るように訊ねる。

 

「里の方からお聞きしたのですが、君のひいおじいさま()()()()からこちらへやってきたそうですね。しかも狙撃が上手かったとか」

 

「ええ、そうですね」

 

「どうして昨日はそのお話をして頂けなかったのでしょうか? 何か嫌な思い出でも?」

 

「はい。ひいおじいさんは表に居たころの話を嫌ってましたから。それを思い出したくなかったので。なので、伝えそびれてしまいました」

 

「そうでしたか。もしよろしければ、その辺りのお話も詳しく聞かせて頂けると助かるのですが」

 

「……俺が知っているのはひいおじいさんは日本兵だったくらいです。ですが俺が生まれてからボケが進んでしまって。どのような戦いだったのかと、訊ねると『やめてくれ!』と叫んで耳を塞んで、泣いてしまうし、火を見ただけで怯えて布団に籠ってしまう。このようなことが度々あったんです」

 

「だから思い出したくなかったのですね」

 

 痴呆ぎみの老人が怯えて泣いてしまう姿は子供心には辛すぎる光景だ。宗次朗の言い分はわからない訳でもない。

 

「申し訳ない」右京は謝罪してから続ける。

 

「スマホはお使いになられますか?」

 

「いえ、持っていません。どうしてですか?」

 

 外来人でもない里人がスマホなど持っているわけがない。そう言いたげに彼は右京の目を見た。

 

「昨日は僕のスマホの画面を上手にタッチしていたので、使い慣れているのかなと思いまして」

 

「前に外来人の方とお話した時に触らせてもらいましたので、少しだけ操作を覚えました」

 

「どなたに教えてられたのですか?」

 

「敦さんですね。今はもういませんけど……」

 

「辛いですね……。君は彼に続いて奥村さん、小鳥遊夫妻まで失ってしまった。家族のように親しくしていた間柄だったでしょうに」

 

「残念です。まだ恩返しもできてないのに」

 

「恩を返す。お若いのに立派ですね。僕も君がその無念を晴らせるように協力します。そのためには情報が必要。もう少々質問してもいいですか?」

 

「もちろんです」

 

「演説が起こる前日、奥村さんの八百屋で野菜を買いましたか?」

 

「買ったと思います」

 

「その際の彼女の様子は?」

 

「ちょっと疲れている感じを受けましたけど、普通そうでした」

 

「数か月前に、服をお買いになりましたか?」

 

「えーと、買いましたね。どんな服だったかな」

 

 宗次朗は天井に視線を移しながら考えている。

 

「どんな服でしたか?」

 

「うーん、忘れましたね」と彼は何気なく答えた。

 

「ひょっとして()()では?」

 

 右京はカバンからビニール袋に入った血のシミがついた和服を取り出して宗次朗の目の前で広げた。彼の目は一瞬だけ見開くが、同時にこう言った。

 

「いや、そんな服ではなかった気が……」

 

「この服を売っているお店のご主人は三か月前、君にこの服を売ったと仰っていましたが?」

 

「あぁ……。そうでしたか……忘れていました……」

 

 宗次朗の顔から笑顔を消えた。

 人は都合の悪い事実をつきつけられると咄嗟に嘘を吐こうとする。記憶力のよい宗次朗がこの程度のことを忘れるとは考えにくい。

 隣で見ていた尊が「表情変わった……」と目の前の少年の変化に少なからず引いた。

 攻略の糸口を掴んだ右京が追撃をかける。

 

「事件は同一犯によるものです。か弱い女性を後ろから襲い、首をへし折り、男性に罪を擦りつけるため、刺殺後に偽装を施した」

 

「なんの話です?」宗次朗は首を傾げた。

 

「事件の話ですよ。不可解な事件の」

 

「いやいや、里でそんな事件が起きる訳ないじゃないですか――」

 

 直後、右京が目を見張った。

 

「おや、僕は()()()()()()()などと言いましたかね。神戸君?」

 

「いえ、言っていません。ただ事件は同一犯と語ってから推測を述べただけです」

 

 白々しい振り方だな、と思いつつも尊は相方の要求に答えた。

 実のところ、今回の事件はまだ公には事件化されていない。現状は自殺の段階なのだ。その件について語っているのだと思って答えてしまった宗次朗はハッとしたような表情を覗かせた。

 何気ない話を振ってボロを出させる。警察の常套手段だ。

 右京が微笑んでから今回の事件について自身の推理を聞かせる。

 

「今回、里で起きった三つの遺体には不可解な点が多くありました。奥村さんはロープで首を吊ったにも関わらず、締められた箇所以外にもアザができていた。死の直前に誰かに料理を振る舞った跡もある。ひとりで自宅に籠っていた人間が自殺する際、複数人分の食事と食器を用意するでしょうか? 死んだ息子さんを想ってというのも否定できませんが、不自然なアザがある時点でその可能性は低い。ほぼ間違いなく他殺です。

 同じく小鳥遊家も不審な点が多かった。僕が戸を開けて中に入るとそこには夫妻の遺体がありました。妻、恵理子さんは囲炉裏の手前側に。夫、幸之助さんは部屋の端でしりもちをついて包丁が腹部に刺さっている状態で発見されました。

 恵理子さんの首には大きなアザができており、首の骨が折られて死亡。幸之助さんは刺殺による出血死が濃厚です。しかし、その二つの遺体にはとある共通点がありました。何だと思います?」

 

「さぁ、俺にはさっぱり……」

 

 元気なく答える宗次朗に右京がお決まりのポーズを取る。

 

「四肢の末端が紫色に変色していたのです。これは急性ヒ素中毒の症状です。おそらく鍋に亜ヒ酸が入っていて、それを摂取したことが原因でしょう。部屋の中には狙撃犯が使った銃が隠されており、これだけだと狙撃犯だった幸之助さんが心中を図って毒を盛り、中毒に苦しむ恵理子さんを見かねて首の骨をへし折って――激痛から自らも後を追って自殺したように思われる。

 しかし、これはおかしい。何故なら、居間と台所の間などで血痕が拭きとられた跡があったのです。自殺する人間がわざわざ血痕をふき取る訳がない」

 

「……誰かが、殺したということですか?」

 

「そうとしか考えられません。引き戸や木戸は閉められていて室内は密室のようでしたが、糸を使えば簡単にトリックを施せる」

 

「トリック……?」

 

「つっかえ棒に切れ込みを入れて軽く巻きつけ、歪んだ引き戸の隙間から糸を通して引き戸を表から閉じるという方法です。古典的な仕かけですね。僕が見た瞬間にとけるくらいに」

 

「……そうだったんですか。じゃあ、幸之助さんたちを殺した犯人は狙撃犯?」

 

「僕はそう睨んでいます。奥村さんは口封じ、小鳥遊さんは犯行をなすりつけるために殺されたと考えれば辻褄が合う」

 

「なるほど。ちょっと――あまりに急すぎて頭が追いつきません。幸之助さんの自宅に銃があったなんて知りませんでした。正直、信じられませんよ」

 

 肩をガックリと落として宗次朗が嘆くが、右京はお構いなく質問を続ける。

 

「犯人は誰だと思いますか?」

 

「いや、俺に言われてもわかる訳ないじゃないですか」

 

「少なくとも犯人は何らかの形で銃を手に入れる手段を持っており、狙撃や殺人の知識を持ち、動体視力や運動神経も優れ、奥村さんと仲がよく、引き籠っている最中に食事を振る舞われ、食事中の小鳥遊さんの鍋に毒を混ぜることが可能。かつベテラン狩人を大した揉み合いなく、殺害できる人物が該当するでしょうねえ」

 

「少なくないと思いますが……。そんな人物どこにいるんですか?」

 

「ここにひとりだけ」

 

 右京が人差し指を向けた先にいるのは宗次朗本人だった。

 瞬間、彼は目を細くしたが平静を保つ。

 

「俺が犯人……? あはは、冗談キツイですよ。幸之助さんたちを失ったばかりなのに……」

 

「冗談で言っているのではありません。現時点で可能性が一番高いのは君なんです。ひいおじいさまにもっとも近く、狙撃を教えて貰え、スマホも扱える。頭も運動神経もよい。離れた兎を一矢で仕とめるほどの動体視力も持っている。疑うなというほうが、無理がある」

 

「酷い言いがかりですね」

 

 冷たいトーンで吐き捨てるように宗次朗は語った。

 片や右京はポーカーフェイスで「申し訳ない。それが警察官です」とさも当たり前のように言い切った。

 

「大体、俺が物心ついた時にはひいおじいさんは痴呆ぎみでした。狙撃を教わることなんてできませんよ」

 

「コツなどを教えて貰うことは?」

 

「ありませんよ」

 

「本当ですか?」

 

「本当です」

 

 打って変わって素っ気ない態度を取る宗次朗だったが、尊は「もっと怒ってもいいはずなのに。冷静すぎないか?」と違和感を覚える。

 通常、犯人と疑わる人間は精神を乱し、大声で反論したりするものだ。彼にはそれが見当たらない。若さの割に異常なまでの冷静さが宗次朗にはあった。

 右京もまた宗次朗の揺れ動かない心に気づいていた。里基準では成人しているとはいえ、中身は十五歳の少年。ここまではっきり疑われていてさほど精神の乱れを感じさせないのは肝が据わりすぎている、と。

 

「そんな君の疑いを晴らすために、よろしければ君の毛髪を一本、頂けませんか?」

 

「毛髪? どうしてですか?」

 

「表の日本には毛髪鑑定という技術があります。それを使うと本人かどうかわかります。この血で汚れた衣服に付着していた黒い毛髪と君の毛髪のDNAが一致すれば――後はわかりますね?」

 

「俺が事件に関わっているかわかる。ということですか……。別にいいですけど、その技術って今この場で調べられるものなんですか?」

 

「残念ながら調べるための装置は表にしかありません」

 

「じゃあ、採取しても俺の疑いは晴れないってことですか……」

 

 がっかりしたように息を吐くが、どこかに白々しかった。そこに右京が。

 

「ですので、この証拠を表の知り合いのところへ届けます。ツテはありますので」

 

 逃がさないぞ、という意思表示を込めて右京は少しだけ口元を吊り上げる。

 宗次朗も負けじと訊き返す。

 

「ツテというのは、博麗さんの神社ですか?」

 

「色々ですよ。色々」

 

 含みある言い方をする右京に宗次朗はイラッとする。

 

「へぇ、そうなんですか」

 

「時間はそうかかりません。しかるべき機関に回せば、鑑定結果はすぐに出ます。数時間くらいでしょうかね。無事に届けば、遅くとも明日の朝には結果報告ができるかと」

 

「そうですか。お待ちしています」

 

 宗次朗は笑顔で見せてから右京の要望通り、床に置いていた毛髪を手渡した。

 毛髪をハンカチで包み終わった右京が最後にこのように言い残す。

 

「仮に証拠が表へ届かず、鑑定ができなかったとしても必ず真実を解き明かして犯人を追い詰めてみせます。そのときを楽しみにしていてください」

 

 不気味な表情とトーンで言い放たれた右京の言葉は相棒の尊ですら寒気を感じさせるほどの何かを秘めていた。

 それは確実に宗次朗にも伝わっており、彼は微かに奥歯をギリッと噛む音を鳴らした。

 そんな様子を満足げに眺めた右京は「これで失礼します」と言って、尊と共に立ちあがった。

 玄関までふたりを案内した彼は「お気をつけて」と別れの挨拶を告げて戸を閉める。

 

「行きましょうか」

 

 特命係は狩野家を後にした。

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