相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第14話 作戦会議

「それではまず、皆さんの特技や能力を詳しく教えて下さい」

 

「私らが使う力のことか?」

 

「はい」

 

 幻想郷の住人は特殊な特技や能力を持っているケースが多い。右京はそれをどう使いこなすかが早期解決の鍵だと考えた。

 三人は一瞬、戸惑ったが、話す決意を固めた。

 

「わかった。まずは私からだ」

 

 先陣を切ったのは魔理沙だった。

 本人の自己申告によると彼女はオリジナル魔法が使用可能かつ空を飛べる。

 追尾や探索といった能力はないが、破壊力だけなら誰にも負けないらしい。

 右京もその攻撃力を目の当たりにしているので特に疑わなかった。

 

 その次は霊夢が口を開いた。

 彼女は博麗の巫女をやっており、霊感に優れている。また霊力や神道系のお札を駆使して速やかに妖怪を退治可能と豪語する。

 魔理沙と同じく空を飛べるが、自分のほうが小回りが利くと語り、直線なら自分が有利だと魔理沙が口を挟んだが、無視される。

 右京は「なるほど」と呟くにとどめる。

 

 最後は慧音である。

 彼女はワーハクタクで戦闘がとりわけて得意ではないらしいが、その特殊能力は白沢の逸話に限りなく近く、表の刑事を驚かせた。

 なんと()()()()()()()()()()()()()()()を持っているのだ。さらにワーハクタク時は“歴史を創る能力”を持つと説明。右京もその全容を把握するのに少し時間を要した。

 

「上白沢さんの能力は限定的な改ざん能力ということですか……。何とも、凄い能力をお持ちのようですね」

 

「それしか取り柄がありませんから……」

 

 謙遜しているが、実際凄い能力である。

 歴史をなかったことにする能力とは、実際に起きた出来事をあたかも初めからなかったかのようにする能力で、影響下にある者は初めからその歴史をなかったものだと認識する。

 歴史を創る能力はワーハクタク時限定であるが、一時的に過去の歴史を知り、なかったことになっている歴史をサルベージし、改ざんする能力だ。

 これらは歴史が誰かによって書かれてこそ歴史になるという概念から生まれた能力である。

 表の人間が聞いたら喉から手が出る程欲しがるだろう。主に官僚や政治家が。

 もちろん、彼女はそれを悪用したりせず、里の人間に妖怪を必要以上に敵視させない、つまりは人のために活用していると語った。

 

 右京は「ワーハクタクの能力で犯人を見つけられませんか?」と訊ねたが、慧音は申し訳なさそうに「ワーハクタクになれるのは満月の夜だけです。それに……最近は仕事量が多かったせいか変身能力が上手く制御できなくなっているのです。知り合いには一時的な現象だと言われましたが……」と答えた。

 

 右京は「申し訳ない」と謝った。

 個々の能力を把握した右京は今後の方針を考えようとする。

 その際、魔理沙が「アンタの能力も教えろよ」とニヤケ顔で机をトントンと叩く。

 一考した右京は「幻想郷風に言うなら“真実を明らかにする程度の能力”でしょうかね」と冗談交じりで返した。

 すると魔理沙は「なら、この件における参謀役に相応しいな。任せるぜ」と言った。そのやり取りで少しだけ場が和らぐ。

 刑事は彼女たちを活動させるにあたり、自身のテクニックを伝える方針を固める。

 

「魔理沙さん、霊夢さん。これからあなた方には里の外で妖怪への聞き込みをやって貰おうと思います」

 

「「里の外?」」

 

「はい。里の内部に犯人がいる可能性が高いと思われますが、外に逃げた可能性もあります。そこで怪しい者が居ないかを調べてほしい」

 

「二人である必要があるのか?」

 

「刑事の聞き込みは複数で行います。聞き込み役と見張り役で分かれるで情報収集の効率性向上や対象者または関係者の不審な動きに対応しやすくなります」

 

 魔理沙は頷いたが、霊夢は納得できない様子だった。

 

「私は妖怪から人間を守る巫女です。ここに人を殺した妖怪が居る可能性がある以上、この里から離れる訳には行きません」

 

「ですが、魔理沙さん一人だけだと聞き洩らしが出てくる可能性があります」

 

「だとしても私は巫女です!」

 

 霊夢はそこだけは譲らなかった。右京は彼女の瞳に強い意思を感じた。

 

「わかりました。魔理沙さん、申し訳ないのですが――」

 

「私一人で行けってんだろ? 心配すんな。ヘマはしない」

 

 魔理沙はニヤリと笑いながら了承した。

 

「ありがとうございます。ということで魔理沙さん――僕が表で使っている聞き込み方を簡単にですがお教えします。上白沢さん、少々お付合い下さい」

 

「は、はぁ……」

 

 右京は聞き込みの仕方を魔理沙に教えるべく、慧音相手に実践した。

 メモを取りながら慧音に事件発生当時、何をしていたか、どこに居たか、それを証明できる者は居るかなどの情報をそれとなく聞き出すテクニックを簡潔に伝授する。

 

 その手法を魔理沙は興味深く観察しており、隣で見ていた霊夢も感心したかのような態度を示した。

 一通り、教え終わった右京は魔理沙にペンとメモ帳を持たせて事件に関係ありそうな妖怪達へ聞き込みに行かせた。

 残った三人は里で調査を開始する。里は天気が良いとあってか日差しが強くなってきた。霊夢は「このところ、涼しかったのにちょっとだけ暑いわね」と片目をつぶる。

 まず、右京たちが向かったのは敦の自宅だった。酒場を出てから自宅に戻ったのかを確かめるためだ。彼の自宅は大通りにある酒場から十分程歩いて右折したところにある小さな借家だった。

 

 慧音に許可を経て、家の扉を開けた右京は隅々まで調査する。男所帯とあってか脱ぎっぱなしの衣服や食べかすなどが散乱しており、慧音は「汚いな……」と苦言を呈していた。

 寝床や小物入れ、厠、台所、押入れなどを調べるも敦が殺される原因になるようなものは見つからなかった。気になったのは電池切れのスマホくらいだ。

 手掛かりがないと判断した刑事は思考を切り替え、二人を連れて敦の自宅周辺での聞き込みを開始する。


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