相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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Season 5 学校の怪談
第151話 和製ホームズへの依頼


 時は移り変わって十一月中旬。

 首都東京に冬が到来し、人々は厚手のコートを着用して電車やバスに揺られながらの通勤ラッシュを経て職場へと向かう。

 そこに学生も社会人も関係ない。当然、杉下右京もそのひとりである。

 最寄り駅からズラッと続く人混みを、いつもの華麗な身のこなしでスルスルと抜けて、あっという間に警視庁の建物を視界に入れる。

 登庁した右京は隣接する組対五課を通って特命係の室内に到着した。

 時刻は八時十分。余裕のある出勤だ。

 名前が書かれた木札をクルッと返し、定位置にカバンを置き、席に着いてA社製のデスクトップパソコンを起動する。

 次に手の届くところにあるオーディオのスイッチを入れ、ヘッドフォンを装着して高音質のクラシックを響かせる。

 最後にパソコン脇の小説を手に取り、ページを捲れば和製シャーロック・ホームズの一日が始まる。中身はもちろん愛読書のホームズ作品だ。

 

「アイリーン・アドラー。やはり強かな女性ですねえ」

 

 目を通している回は《ボヘミアの醜聞》。

 ホームズを出し抜いた勇敢なる女性、アイリーン・アドラーが登場する話である。ホームズファンからの人気も高く、ファンであれば知らない者はいない。

 右京もアイリーンという強かな女性を気に入っている。彼女の魅力は知恵と勇気、そして抜群の演技力だろう。

 幻想郷のアイリーンは不遇の死を遂げた上に里人の記憶から抹消された。その事実こそ知らないが、右京の記憶には事件の真相がしかと残っており、頭の中の彼女と小説の中の彼女を重ねながら憐れんだ。

 集中すること一時間。右京は音楽を聴きながらひたすら小説に没頭する。

 ハッとして機械式の時計を見てみれば、登庁時間をとっくにすぎていた。

 

「冠城君がいませんねえ~」

 

 また遅刻か。ちょいワル親父もどきの現相棒、冠城亘(かぶらぎわたる)は遅刻の常習犯である。

 たまたま目に入ったスマホを確認すると冠城からメールがあった。

 

 ――右京さん、すみません……。高熱で動けません。今日はお休みします。

 

「おやおや」

 

 体調管理も社会人の仕事ですよ。とでもつけ加えようとしたが、こんなときもあるだろうと『そうですか、お大事に』の一言を添えて送るにとどめた。

 小説を閉じた右京は周囲を念入りに見て回り、不審な点が見当たらないかチェックしてからインターネットブラウザを立ち上げる。

 ブックマークを開くとwebページが表示された。最新のオカルト研究論文、都市伝説情報、風邪に効く茶葉の記事、イギリスで起きた連続殺人事件、孤児院が舞台となった忌まわしき事件など様々な記事が流れては消えていく。

 右京がひと息つくころには時計が十一時を回る。もうじき昼休みだ。警察官にとって暇であることに越したことはない。

 そろそろ紅茶が欲しくなる頃合いだ。彼がカップに手を伸ばそうとしたとき、見知った人物が特命部屋を訪れた。

 

「お久しぶりです」

 

 若い層向けの黒いダークスーツを華麗に着こなして女性受けする容姿をした天性の女ったらし。そう――。

 

「おお、神戸君。久しぶりですねえ。どうかしましたか?」

 

 共に幻想郷を戦い抜いた相棒、神戸尊であった。

 

「警察庁のお使いでこちらへお邪魔していて。用事が早めに終わったので、こうして顔を出しました」

 

「元気そうで何よりです」

 

「杉下さんこそ相変わらず、お暇そうで羨ましいです」

 

 皮肉のジャブを受けた右京が含み笑った。

 

「ふふっ、今日だけですよ」

 

「ってあれ、冠城さんは?」

 

「高熱を出して自宅で療養中です」

 

「大変そうですね……。最近はインフルエンザも流行り始めてますから、検査したほうがいいかもしれませんよ」

 

「かもしれませんね。後でメールしておきます」

 

「とか言いながらもぼくたちも他人事じゃないかも。来週はもっと冷えるそうですし。早めの予防接種を心がけたほうがいいですね」

 

「ニュースを見る限り、来月の上旬には雪が降るそうです。その前にはすませたいところですねえ」

 

「ですね」

 

 七年の壁などどこへやら。ふたりは以前のように――いや、それ以上にフレンドリーな会話ができている。亀山、カイト時代に比べ、現在の右京は頑固さを保ちながらも柔軟性を帯びている。

 若い相棒の凶行に気がつけなかった反省か、または冠城亘の人懐っこさがきっかけか、いずれにせよ事件や興味、感心が絡まずとも人と他愛のない雑談を楽しんでいる。

 かつての尊も棘のある皮肉が目立ったが、今はそこまでではない。

 見えないわだかまりは完全に解消されたといえる。

 

「よ、暇か? ――おぉ、元警部補どの!? 久しぶりだねぇ~」

 

「あ、角田課長。ご無沙汰してます」

 

 角田が特命部屋に入室した。意外な来客に驚きながらも空っぽになったお気に入りのマグカップだけは放さない。課長も相変わらずだな、と尊は思った。

 

「あれ、冠城は?」

 

 繰り返される質問に右京が答える。

 

「高熱を出してお休みです」

 

「熱ぅぅ? そりゃあ大変だ。インフルエンザが流行ってきたからな。病院、行ったほうがいい」

 

「ご心配なく。伝えるつもりですから」

 

「それがいいね。ん、コーヒーないのね……」

 

 定位置に置かれたコーヒーメーカに目を向けるも豆が入ってない。

 その担当はコーヒー通の冠城亘であって右京ではなかった。

 

「それは彼の担当ですから」

 

「だよなぁぁ。冠城ぃぃ、早く帰ってこ~い!」

 

 角田はガックリと肩を落とし、尊が「この人も変わらないな」と内心で懐かしむ。

 右京もかつての雰囲気を思い出してニッコリと微笑んだ。

 

 

 昼休み。右京は尊を連れて近くのオープンカフェで食事を取るべく警視庁を出た。

 それとなく角田も誘ったのだが「行きたいのは山々だが、かみさんの作った弁当、残したら殺される」と言って断られた。実に恐妻家らしい理由であった。

 お昼どきとあって洒落た大通りを人々が行きかう。ある程度、歩いたところで尊が右京の隣に近寄るように距離を詰め、小声で話しかけた。

 

()()……されてませんよね?」

 

「おそらく」

 

 気づかれないようにチラッと後方を確認し、歩きながら尊が続ける。

 

「本当なんですか。あの妖怪――《八雲紫》が人間に変装して近づいてきたって……?」

 

「ほぼ間違いないと思います」

 

 隠れ里事件を解決後、八雲紫の表での姿と思わしきメリーに出会った右京は、すかさず買い直したスマホにチラ見防止フィルムを張りつけ、警視庁の誰もいない個室から尊宛てに以下のメールを送った。

 

 ――スキマ妖怪が偽名を使ってこちらに接触してきました。名は《マイリベリー・ハーン》と言い、ニックネームは《メリー》。プラチナブロンドのウェーブのかかった綺麗な長髪と紫の瞳を持った大学生くらいの女性です。彼女そっくりなので会えばわかります。目的は進捗状況の確認を兼ねた監視でしょう。迂闊に犯人を見つけると先回りされて犯人を殺害される恐れが出てきました。捜査しつつ手がかりを掴んでも勘づかれないよう慎重に行動する必要があります。

 ここからは別々に行動しましょう。僕は長野県へ向かい、遭難した村を中心に聞き込みなどの調査を行います。君は去年の暮前後から二月まで日本に入国したイギリス国籍を持つ日本人を探し出して足取りを追ってください。何か用があれば、こちらから連絡します。それまで連絡は控えてください。ですが、仕事の用事などで警視庁を訪れた際は特命係に立ち寄って僕に話しかけてください。以後、返信不要です。このメールは読み終わったら速やかに削除してください。杉下より。

 

 元上司の指示を受けた尊はいたずらメールを処分するかのようにメールを削除。雑務をこなしつつ、その裏では黒幕に繋がる情報を探っていた。

 右京が問う。

 

「何か掴めましたか?」

 

「いえ、ご期待に沿えるようなものは何も……」

 

「そうですか。せっかくです。君が行ったことを聞かせてください」

 

「はい――まず、杉下さんからのメールを確認したのち、警備局の知り合いに頼んで指定された時期に滞在したイギリス国籍の日本人を探してもらいましたが発見できませんでした。直接、入国管理局の出入国記録を閲覧しようと考えましたが当然、一個人が何の理由もなく覗き見れるはずもない。……ぶっちゃけ、強引な手口を使えば可能ですが、リスクが高すぎるので割に合いません。現在進行形で起こっている事件とかなら、ある程度、理由をつけれるんですけどね。それとスキマ妖怪がどこに潜んでこちらを監視しているのか不明なので、あまり派手なアクションも取れず、今に至ります」

 

 現在、特命係杉下右京の元部下として警備局内で一目置かれる尊はその影響力もあって、お役人や知り合いの政治家を動かせる力を有している。

 しかしながら、彼らも馬鹿ではなく、相応の見返りを要求してくるため、迂闊に頼みごともできない。

 交換条件用のカードは何枚か用意できているが、私的捜査で切れるほどの枚数は持っておらず泣く泣く、追跡を断念したというわけだ。

 

「わかりました」

 

 右京は真顔で頷いた。

 今度は尊が進捗状況について訊ねる。

 

「杉下さんのほうはどうです?」

 

「僕は内村刑事部長や大河内監察官、冠城君の目を盗み、三か月前、長野へ飛んで遭難した集落を中心にあちこち聞き込みを行いました。ちょうど二月下旬ころ、コートを着た彫りの深い紳士が村を訪れ、神社周辺を散歩していたそうです。村人の証言によると、笑顔で挨拶を返してくれたが、会話にはならなかったとのこと。何の変哲もない村を訪れて誰とも会話せず、神社へ向かうなど不自然です。気になって調べましたが、その後の足取りは掴めませんでした」

 

「なるほど。ぼくたちの遭難した村をウロウロしていた謎の紳士。怪しいですね。ひょっとしたらその男も神社から幻想郷に入ったのかも……。村に防犯カメラってありましたか?」

 

「ほとんど事件が起こらないので、設置されてないとのことです」

 

「あー、じゃあ、そこから絞り出すのは無理か……。道中、利用したと思われる交通機関に片っ端から連絡して防犯カメラの映像を見せてもらうとか」

 

「私的捜査では無理でしょうねえ」

 

「ですよね……」

 

 コネを使ってでも捕まえると意気込んだが、出世先で手に入れた自らの立場と責任を考えるとできることは限られてくる。

 理想と現実のギャップに尊は深くため息を吐いた。

 

「焦らずにいきましょう。そろそろ、カフェですよ」

 

 落ち込むワトソンを励まし、右京は彼と共に行きつけのカフェに入店した。

 店内は都会的で落ち着いたコーヒー屋らしい室内と木目調のテーブルと椅子が何組も並んだオープンカフェに分けられ、A社製ノートブックを置いて作業する社会人や大学生、友人たちとランチを楽しむOLなどで賑わっていた。

 今日は天気がよいのでふたりは外のテーブルを選択し、空を仰げる場所に席を取る。

 店の周囲は木々で覆われ、利用者に自然の中にいるような心地よさを与える。アスファルトで作られた東京において自然を堪能できる空間は貴重だ。

 洒落たカフェだな。今度、知り合いの女性でも誘ってみるか、と尊が考えながら店員が置いたメニューをパラパラと捲る。

 目に入るのは豊富な種類のコーヒーにサンドイッチ、サラダ、ケーキなど定番料理。それにオムライスやハンバーグにパスタ類、ピザなども揃えている。

 コーヒーは頼むとして肝心の料理はどうするか。

 彼が右京に助言を求めた。

 

「オススメのメニューってあります?」

 

「僕はサンドイッチと紅茶しか頼みませんので、他のメニューについて詳しく語れませんが、強いて言うなら……」

 

 自分のメニューから目的のページを開き、指でなぞる先に書かれた料理は。

 

()()()()()ですかねえ。前に冠城君が『ここのナポリタンは美味しい』と言っていました」

 

「あ、そうですか――ん? ……もしかしてぼくが、ナポリタンが好きだからこの店を選んだとか?」

 

「ええ。ダメでしたか?」

 

「いや、そうじゃないですけどっ」

 

 いつから俺=ナポリタンになったんだよ。俺はナポリタン狂いじゃないぞ。このように尊は言い返したかったが、好物には変わりないので、元上司の計らいとして好意的に受け取った。

 

「……わかりました。冠城さんオススメのナポリタンを頂きます」

 

 彼がメニューを決めたのを確認した右京が店員を呼び、ふたりで注文を伝えた。

 店が混雑している影響か、いつもより時間がかかったが無事、注文した料理がテーブルに届けられる。

 尊の前に現れたのはトマトとバターの香ばしさが鼻孔をくすぐるオレンジ色のナポリタンだった。

 よくスーパーなどで見かけるケチャップの酸味が飛び切ってない赤色ナポリタンはツウの彼の口に合わない。本来のナポリタンと大きく異なるからだ。

 この店のナポリタンはピーマンとソーセージ、玉ねぎにマッシュルームがパスタの中央に盛られ、しっかりと焼き色がついていた。

 

「頂きます」

 

 期待に胸を膨らませた尊はフォークでナポリタンを口まで運ぶ。

 入れた瞬間、口の中でパスタに絡まる酸味のないトマトの味とバターの香りが広がった。

 噛めば塩気を含んだパスタの弾力と共にソーセージ、マッシュルームの旨味が舌に伝わって纏まりのある味に変化する。

 パスタを胃袋に流し込んだ彼に右京が感想を訊ねた。

 

「お味はどうですか?」

 

「とても美味しいですね。冠城さんの言う通りだ。名古屋で食べたものに近いです」

 

「それはよかった」

 

 そう語って満足げにナポリタンを一口、また一口と運ぶ元部下を眺めながら右京は「やっぱりナポリタンが好きなんですねえ」と、ひとり納得してお気に入りの紅茶で喉を潤した。

 そこから三十分ほど何気ない会話を楽しんだふたりは店を後にする。

 来た道を戻る形で歩道を進んでいく右京たちは、再び互いの距離を縮めた。

 

「これから、どうするおつもりです?」

 

 部下の問いに上司が小声で答える。

 

「僕は機会を見計らって長野に飛んで情報を集めます。君は引き続き、イギリス国籍の日本人の足取りを調査してください」

 

「わかりました。ですが、あまり期待しないでくださいね。入国管理局を丸め込むカードは使えませんから」

 

「わかっています」

 

「はぁ……。ジェームズ・アッパーでもヒットしなかったしな。何か手がかりとかないんですかね? 黒幕の名前とか……」

 

「さあ、どうでしょうねえ。()()()()()()()()()()()

 

「ですよね。一から頑張るしかないなぁ」

 

 独り言のように呟く相方を余所に右京は僅かながら顔つきを鋭くした。

 

 警視庁の前で尊と別れた右京は、特命部屋に戻って検索を再開する。

 ジェームズ・アッパーとハンドルネームの謎を解いたにも関わらず、彼は南井十のことを相棒に伝えていなかった。

 口に出してメリーに盗み聞かれる可能性を疑ったのか、それとも出世コースを歩む神戸尊を巻き込みたくなかったのか、またはその両方か。

 

「(南井十。僕は必ず、あなたを逮捕する)」

 

 杉下右京は敵味方全てを欺いて幻想の宿敵を追い続ける。

 

 

 次の日、登庁した右京は机に座ってパソコンを起動する。

 冠城亘は昨日に引き続いて自宅療養中である。体力に余裕が出てきたら病院へ行くそうだ。メールを貰った右京は「それがいいですね」と優しく返信した。

 お隣さんの暇課長は事件を追っているようで朝から部下を引き連れて現場入りしている。事件が長引けば右京の出番が回ってくるだろう。

 それまで作業に集中しよう。

 彼は紅茶を口に含みつつ、パソコンと睨み合った。

 

 午後十三時。特命係に一本の電話が入る。

 

 ――杉下君、甲斐だ。今、空いているかね?

 

 電話の相手は特命係の管理責任を受け持つ、警察庁長官官房付きの甲斐峰秋(かいみねあき)。かつて右京の相棒を務めた甲斐享(かいとおる)の父親である。

 

「ええ、空いておりますが」

 

 ――少々、君にお願いごとがあってね。私のところまで来てくれないかな。

 

「わかりました。すぐ伺わせて頂きます」

 

 パソコンの電源を落とし、特命部屋を出た右京は警察庁にある甲斐の部屋を訪ねた。

 ノックをすると部屋の主が彼を招き入れて客人用のテーブルに座らせた。

 

「お茶はいるかね?」

 

「いえ、結構です」

 

「フフ、君はいつも通りだね」

 

 白髪交じりの髪を触りながら、甲斐は杉下右京の変わらぬ態度に苦笑を禁じ得なかった。

 

「気が利かないようで申し訳ない」

 

「それは知っているよ。もう八年になるからね。君とのつき合いも。――ま、それは置いておこうか」

 

 右京と向かい合うように自らもソファーに腰をかけ、本題に移る。

 

「実は、私立高校の校長をやっている知り合いから相談を受けてね。学校内で妙な噂が立っているそうなんだ」

 

「……妙な噂?」

 

「あぁ、『夜な夜な人のうめき声がする』ってね。むろん、私は非科学的なことは信じないが……」

 

 君とは違って。そのようなニュアンスに受け取った右京は「存じています」と相槌を打った。

 

「普段ならこの程度、気にすることはないんだが、うめき声を聴いた三年生の生徒が階段を踏み外して足を骨折してね。保護者会で問題になったらしい。『きっと誰かの仕業に違いない。早く犯人を見つけろ』とね。怪我をしたのが受験を控えた三年生だったから、同学年の保護者は気を揉んでいるのだろう」

 

「もうじき受験ですからねえ。ピリピリするのは致し方ないかと」

 

 十一月下旬は受験を控えた学生たちがスパートをかける時期だ。

 優秀な右京とは異なり、死にもの狂いでテスト対策に励んでいる。そのタイミングでの怪奇事件とあっては不安が広がるのも理解できる。

 甲斐も右京と同じ見解だった。

 

「受験は人生を左右する一大イベント。経験者である私たちが心配するなとは到底言えない」

 

「仰る通り」

 

「しかしながら我々も暇ではない。事件性が無ければ公には動けないからね」

 

 右京は上司が自分に何を頼みたいのかを瞬時に悟り、口元を弛めた。

 甲斐もまた()()()()()()と笑みを零してから。

 

「そこでだ、杉下君。調べてみてはくれんかね?」

 

「構いませんが、僕でよろしいのですか?」

 

 途端、甲斐が噴き出したように言った。

 

「君しかいないだろ!? オカルト絡みの事件に本気で取り組めるのは」

 

「なるほど」

 

 確かにその通りだ。納得した右京は捜査する方向で方針を固める。

 

「それで、その高校はどちらに?」

 

「調布市の西高見(にしたかみ)高校だ。知っているかな?」

 

 脳内にある情報を高速で引き出しながら右京が言葉を発する。

 

「多摩川からそう離れていない場所にある私立高校だと記憶しております。偏差値は66。同じ市内の明国大学付属高校にも匹敵する進学校でしたかね。確か、神奈川に姉妹校があったような」

 

「よく知っているものだね。感心するよ」

 

「大したことでは」

 

 和製ホームズにとっては至って普通のことだ。今までの実績からしてこの男なら必ずやオカルトの真相を暴くだろう。

 甲斐は知人の安堵する顔を思い浮かべて微笑んだ。

 

「ハハ、校長には僕から連絡しておく。頼んだよ」

 

「わかりました」

 

 こうして杉下右京は上司の依頼を受けて私立高校へ向かうことになる。

 そこで彼を待ち受ける現代の怪異とは。

 今、新たなる〝学校の怪談〟が幕を開ける。

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