相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第155話 奢侈文弱な女子高生 その2

 次の日の十時。

 愛車で高校入りした右京が調査を再開する。

 真っ先に向かったのは四階の転落現場。鍵を持った教員と一階からコツコツと一歩一歩、階段を上がりながら不審な点がないか目を凝らす。

 壁は人が触る部分に塗装の剥離が見られるが、気になるほどではなく、壁面に取りつけられた手すりにも歪みや壊れている部分はない。踊り場や段差部分も凹んでいる様子はない。

 普通に歩くだけなら全く問題なかった。それは転落地点も同様であった。

 つまり謎の声を聞かなければ生徒は足を滑らせなかったということになる。

 

「謎の声……どこから聞こえてきたのでしょうねえ~」

 

 考察モードの右京に困惑しながらも「あの……音楽室の鍵、開けましたよ?」と、つき添いの教員が伝える。

 

「これは失礼」

 

 さっと手を挙げてから右京は音楽室に入室した。

 室内は壁には名だたる音楽家たちの肖像画が飾られ、窓側左奥の隅にピアノが置かれたシンプルな作りをしている。他にも木琴などの楽器が見受けられるが、人の声を出せるような楽器は存在しない。

 カタカタと音がする窓に目を向けると、風がノックを鳴らしている。

 試しに開いてみると室内にビューっと冷たい空気が流れ込み、右京の顔を叩いた。

 

「この階は下の階よりも風当りが強いんですよ」

 

「そうですか」

 

 窓のロックを閉めた彼は音楽室を出て通路側の窓を調べる。

 風の強さは共通していて、これ以上、強くなればガタガタという音に変わるだろう。

 都合悪くガラスを叩く音を人の声と勘違いして足を滑らせた、または生徒の悪戯。大半の人間がこれらの筋書きを支持するはずだ。

 つき添いの教員の顔にもそう書かれている。

 相手の視線を上手に躱したホームズは「他の部屋も見せて貰えますか?」と依頼して教員に扉の鍵を開錠させる。

 自習室は、三人がけできる木製の丸机が十台と机一台につき三脚の椅子が置かれていた。

 人の腰くらいの大きさがある戸棚には自習用に貸し出されている資料が重ねられている。

 必要最低限のものしか存在しないどこにでもあるフリースペースだ。

 視聴覚室も入室したが、一世代前の機材が並べられているだけで不自然な点はない。

 つき合ってくれた教員に礼を言って別れた右京は同フロアを歩きながら、ひとり情報を整理する。

 

「事故当時、音楽室も視聴覚室も開いておらず、使用可能だったのは自習室だけ。鍵は職員室にあり、マスターキーも使われた形跡はない。転落した生徒さんは周囲に人気はなかったと証言している……。不運な事故――」

 

 右京の頭には何らかの引っかかりがあった。

 自分が現場を見て回った時と今日の現場はどこか異なっているのだ。

 それはほんの微かな違いだ。もしかしたら空気感かもしれない。しかし、右京の高感度レーダーに反応があるのだ。この胸のざわめきは一体、何だ。そう考えながら彼は無意識のうちに事故現場の階段に足をかけようとした。

 そのとき、背中に殺気にも似た黒い稲妻が突き刺さった。まるで誰かを下へ落とそうするような悪意を持っている。

 瞬間、気配を察知した右京は直前の行動をキャンセルして素早く身を反転させた。当然、視界の先には誰もいない。廊下に出て周囲を確認しても結果は同じだった。

 

「どうやら僕が思っている以上に厄介な怪奇なのかもしれませんね」

 

 幻想郷で亡霊の女王から手ほどきを受けた彼の霊感は以前とは比較にならないほど高まっている。

 元から所持している推理レーダーと相まって怪奇に対しても感知力を得た。右京は「この事故の裏には何か得体の知れないモノが潜んでいる」と確信する。

 

 

 中央階段を使って下の階に降りた右京は生徒たちへの聞き込みを開始する。

 人の少ない休日とはいえ、昼近くになればベンチや自動販売機周辺、食堂などに生徒が集まる。

 とはいえ、怪奇について堂々と生徒たちに訊いて回れば不信感を持たれる可能性もある。右京は考えた末――。

 

「どうもどうも、生徒さんがた。ここはいい学校ですねー。実は親戚の〝孫〟がこの学校に入りたいと申していましてね~。たまたま仕事でここを訪れたもので色々、お話をと思いまして」

 

 優しい紳士を演じながら情報収集を行う手法を取った。

 最初こそ、嫌煙されるも警察で培った軽快なトークで若者の懐に入り込み、立場を明かさず質問することに成功する。

 右京が知りたい内容は主に三つ。

 怪談に関連する情報、転落した生徒の情報、当日の詳細な状況である。

 自販機の隣でコーラを飲んでいた二年の男子生徒は『この前、体育館脇にあるトイレの中に入ったら影が動いたような気がしました』『池を覗いたら目つきの細いおじさんの顔になっていて驚いたことがあります』と答えた。

 偶然近くを通った眼鏡の男子学生も『四階の階段は呻き声がするので有名です。僕自身、聞いたことはないけど、気味悪いので日が暮れたら通らないようにしてますね。先生がたは信じようとはしないんですけどね』と怪談話を語った。

 そこから離れていないベンチにて、転落した生徒と同クラスだと語る女子生徒へ彼女について訊ねると『ノリはいいけど結構、傲慢かな。クラスの女子とか後輩を平然とディスってたから、転落して「ざまあみろ」と喜んでいる子もいたの』と教えられる。

 食堂に向かう途中、縮毛の長髪をした女子生徒とも会話して、当日の状況を聞き出せた。女子生徒いわく『あの日は曇りの上に、風が強くて、ビューっという音が窓ガラスを叩いてました。それが人の声に聞こえたんじゃないでしょうか』とのことで、職員の証言とも矛盾はない。

 質問を切り上げた右京が通路端で情報を整理する。

 判明したのは、怪談話が存在し、転落した女子生徒が周囲に恨まれていたくらいだ。

 転落に繋がる直接的な手掛かりはない。怪談に登場するトイレでも確認してみるか。

 右京が体育館のトイレへ赴くと先客がいた。

 

「うーん、影らしきものは見当たらないなー」

 

 パシャパシャとスマホで写真を撮っては画面と睨めっこする菫子だった。

 刑事は咳払いをしてから彼女の注意を引いた。

 

「あ、刑事さん。こんにちは!」

 

「こんにちは」

 

 昨日と異なり、菫子は笑顔で挨拶をした。

 その表情から右京は彼女が昨日、自分が言ったことの本質を理解していないのだな、と察してから、ため息交じりに訊ねる。

 

「何をしていたのですか?」

 

「見ての通り、写真を撮っていました。今、昼休みなので、ちょうどいいかなって思って。当然、先生たちに訊いて回ったりしてませんよ? 昨日、帰ってからネットで怪談情報を収集しましたんで!」

 

 ニヒヒ。菫子は楽しそうな笑顔と共にスマホをかざして見せた。どうやら和製ホームズを以てしてもオカルト高校生を完全に制御することはできないようだ。

 右京はその目を細めるも、自身の言葉が足らなかったこともあって彼女を咎めなかった。

 

「なるほど……。収穫は?」

 

「ありません。影なんて一ミリも動かないですっ」

 

「写真を撮ったところは?」

 

「トイレ周辺です」

 

「ほうほう」

 

 そう言って、トイレ周辺をグルっと見て回る。コンクリートで作られたどこにでもある普通のトイレだ。地面に不審な点もなく、影が動く要因もない。右京はその足で男子トイレに入る。内部は洋式の男子用小便器が三つと個室用便器が二つの至ってシンプルなものだ。こちらも変わったものはない。

 何枚か写真を撮り、トイレを出る。入口の左端で菫子が待っていた。

 

「どーでした?」

 

「普通の男子トイレでしたねえ」

 

 周囲、男子トイレと観察したのであれば残りは女子トイレだ。隣にある入口をロックオンする。

 

「ま、まさか入る気なの!?」

 

 いくら調査のためでも白昼堂々、女子トイレに入るのはマズイだろう。菫子が大きく口を開けるのも無理はない。それもそうか。右京が足を止めた。

 そのタイミングで菫子が目をパチパチさせ始める。刑事が知らん顔すると今度はチラチラと不自然な仕草で気を引く。私がいるぞ、というアピールだった。

 実に子供らしいやり方に和製ホームズは苦笑いを浮かべるも、最後は折れる。

 

「菫子さん。女子トイレの中を見てきてくれませんか?」

 

「ほい、きた! お任せあれ!」

 

 手に持ったスマホを握り直した彼女は一目散に女子トイレへ駆け込む。昨日のカフェでのやり取りで気を許したのか、いつも以上に浮かれているような印象を受ける。

 パシャパシャという音が連続的にトイレ内で反響し続けた。

 五分が経ち、外に出た菫子は詰まらなそうな顔をしながら右京へ「怪しいところは何もありませんでした」と報告した。

 

「影の一つくらい動いてもいいと思うんだけどなー」

 

「同感ですねえ。写真、見せて貰っても?」

 

「どうぞ」

 

 彼女は撮影した画像を順番にスワイプしてみせた。枚数は数十枚程度で本人が言う通りおかしな点はない。

 

「やっぱりただの噂だったのかなぁ~」

 

 顎に手を添えて残念がる菫子を余所に、右京は次の怪談を調べようと動き出す。

 

「池を見てきます。宇佐見さんも一緒にきますか?」

 

「いきますっ」

 

 昨日までの警戒心はなくなり、すっかり右京を仲間と認識した彼女は意外にも人懐っこかった。

 少し前まで全能感に浸り、他人を見下していたのが嘘のようである。

 庭の池についた右京は昨日同様、周囲を探索する。光の反射による現象や意図的な悪戯の可能性も考えて地面や草木や障害物、建物など念入りに調べるも何も出てこない。

 その間、菫子は池を覗きながら首を捻っていた。

 

「どう見たって普段の私だよね……」

 

 自身の容姿に変化が起きるはずもなく、続けて水面に映る顔をカメラに収めるが当然、画面の中の顔にも異常はない。

 これはガセネタの雰囲気がしてきたぞ。菫子は肩を竦めて空を仰ぎ、冬の冷気に頬を叩かれる。オカルトマニアにとって、これは日常だ。

 中学までの彼女なら腹を立てていただろうが、日本最大級のオカルトである幻想郷の存在を突き止め、幻想入りを果たした彼女の精神にはどこか余裕が感じられる。

 それは右京も同様で、かつてのような好奇心の暴走は見られず、安定した状態で行動している。幻想入り理由はどうであれ、東の国の秘境は関わった者たちへ変化を促すのだろう。

 

「周囲に怪しい箇所は見当たりませんねえ」

 

 彼の呟くに呼応するように少女が頷く。

 

「水面にも変化ないです」

 

「ふむ」

 

 現時点では聞き込みの浅さも相まって情報の確度が低い。

 この段階でガセと決めつけるのは早計だ。何より背中で悪寒を感じ取った右京なら簡単には諦めない。

 もっと証言を集めねば。調査の方針を決めた彼は菫子のほうを向いた。

 

「宇佐見さん、授業のほうは大丈夫ですか?」

 

「ん……? あ、もう時間だ」

 

「おやおや、でしたら急いだほうがよい」

 

「だけど、ぶっちゃけ基本情報って簡単だし。サボっても……」

 

「それは感心しませんね。せっかく授業を受けにきているわけですから。きちんと受けるべきです」

 

 真顔で圧力をかける右京。

 

「うげ……。わかってますって」

 

 諭された彼女はタジタジになりながら「戻ります」と言ってこの場を後にした。

 基本情報の試験内容は比較的、難易度の高く、受験した人間の多くが不合格になるので有名だ。それを高校生の立場で簡単だと語ってしまうのだから、優秀だと言わざるを得ない。

 実際、菫子本人の学業成績は常にトップであり、いつも寝ているのに成績トップの学生として半ば怪談化しているが、本人に気にかける様子は見られない。

 孤立しようが自らの目的のために行動を起こす宇佐見菫子は、かつて学生だった右京に少なからず似ていた。

 その後ろ姿に自身の背を重ねてしまい、ホームズは頭を痛めた。

 

 

 夕方、十七時二十分。辺りはすっかり暗くなった。右京は生徒たちに聞き込みや周辺調査を続けていたが、収穫はゼロだった。

 休憩を兼ねて自販機でホットのミルクティーを購入し、ベンチに座った彼は一服する。

 そんなタイミングで右耳にファンシーな女性の声が入ってくる。

 

「あの……」

 

「おや、小島先生」

 

 転落した女子生徒の担任、小島だ。

 彼女は恐る恐る刑事に近寄って「何か……わかりましたか?」と訊ねてきた。

 右京は「直接的なものは何も」と首を横に振ってから続けて。

 

「実は何点か、お聞きしたいことがありまして。お時間よろしいですか?」

 

「は、はい。私なんかでよければ……」

 

 気乗りしないのか、浮かない顔つきで同意する彼女に刑事は問いかける。

 

「同じクラスの生徒さんは、転落した生徒さんを我の強い人物だと語っていました。それは本当ですか?」

 

「あまり人の言うことを聞かない娘ですね。気に入らないことがあるとすぐ言い争う娘で、私が注意してもその場、限りでまた繰り返すんです。まぁ、私が先生として見られていないというのもあるのですけど……」

 

 そう語って、小島は地面へと目を落とした。

 

「見られていないとは?」

 

「えっと……。い、一部の生徒から〝こじちゃん〟とかアダ名で呼ばれているので。私、声高めだからか、皆『声が子供っぽくて可愛い』ってイジってくるんですよね……」

 

 小島は威厳のある人物ではない。人畜無害のお人よしというのがしっくりくる。そのために教師として軽んじられているのだろう。

 彼女の暗い表情で生徒からの評価を察した右京は、配慮しつつ相槌を打つにとどめる。

 

「彼女は誰かに恨まれていたりしますか?」

 

「恨まれているかどうかまではわかりませんが、嫌っている人間はそれなりにいると思います」

 

「クラスメイト以外にも?」

 

「いると思いますね。あの性格ですし」

 

 被害者が周囲に恨まれている人物であれば、故意に仕かけられた可能性も高まる。そのちらの線でも調査する必要があるだろう。

 右京が次の質問に移った。

 

「昨日、林先生とお話する機会があったのですが。彼――五味教頭とあまり仲がよろしくないですよね?」

 

 五味の名前を挙げた途端、小島がバツの悪そうな、何とも言えない態度を取った。

 

「もしかして、見てしまったんですか?」

 

「穏やかではない光景が目にとまりました」

 

「あ……そうですか……」

 

「いつもあのような態度で林先生に接しているのですか?」

 

「はい。あの人、ちょっと融通が利かないので五味先生と相性が悪いんですよね」

 

「それで手が出てしまう、と」

 

「……」小島は無言で頷く。

 

 鈍感な林と重箱の隅をつつきたがる五味とでは仲よくできるはずもない。

 おまけにあの教頭は初対面の刑事の前で愚痴を零すなど、軽率な態度を隠し切れない。影で日常的にパワハラを行う人物であっても不思議ではないだろう。

 小島もまた視線を落としたまま正面を見ようとはしなかった。

 気になった右京が。

 

「あなたはどうですか?」

 

「へぇ、私!?」

 

 驚きのあまり、声が裏返ってしまったが、彼女は続けて。

 

「私はそういう暴力的なのは受けてませんよ……」

 

 と、手を振って否定し、何かをボソッと吐き出そうとした。

 そこに講義を終えた菫子が向かってくる。

 彼女と目が合った瞬間、右京は小島との話を中断して「授業はどうでしたか?」と訊ねた。

 和製ホームズの正面までやってきた菫子はふふん、と鼻を鳴らしながら「簡単でした。たぶん、合格できます」と余裕の表情を見せた。

 

「さすがですね」

 

「いやいや、それほどでも!」

 

 天狗のように鼻っ柱を伸ばす菫子。褒められた時のドヤ顔は幻想郷の新聞少女とそっくりだ。

 いきなりの来客に戸惑う小島へ右京が小声で「彼女は情報系の講座を受けにきた東深見高校の生徒で、僕の知り合いです。余計なことは何ひとつお話ししてませんから」と告げる。

 小島は納得したが、どこか落ち着かない振る舞いで「こ、これから会議がありますので、失礼します!」逃げるように去っていった。

 

「私、何か気に障ることしました?」

 

「さぁ……」

 

 ふたりは首を傾げながら互いに顔を見合わせた。

 考えてもどうせわからない。人づき合いなんてそんなものだよね。このようなマインドの持ち主である彼女はすぐに気持ちを切り替える。

 

「あれから収穫ありましたか?」

 

「休みの日とあって生徒さんが少ないので」

 

「収穫ゼロですか。ガッカリだなぁ~」

 

「そういうものでしょう? オカルトを追いかけるというのは」

 

「ははっ、確かに!」

 

 当たり前ながら休日は聞き込みに不向きである。得られる情報にも限りがあった。

 軽い話ののち、菫子は「今日は電車の到着時刻が早いので」と断りを入れてきた。本当は共に調査や昨日のようなオカルト話を行いたいところだが、電車を逃がしたくない。右京が大丈夫だと返事をするも心残りがあるようで。

 

「その……何か進展があったら教えて欲しいんですけど」と後頭部をポリポリと掻きながら恥ずかしげに漏らした。余程、オカルトが好きなのか、幻想郷の仲間から顰蹙を買って自由に行動できないからか、それとも目の前のオカルトに本気で取り組む右京にシンパシーを感じたからか。彼女は自分から頼んだ。

 気恥ずかしさの中に寂しさ故の孤独を感じ取った刑事は、懐から革製の入れものを取り出し、特命係と書かれた名刺を手渡す。

 

「学校に関係する内容はお教えできませんが、多少のオカルト話、程度なら」

 

「本当ですか!? ありがとうございます! 後で連絡しまーす! それじゃあ、さよなら!」

 

「お気をつけて」

 

 コロコロと態度の変わる菫子を見送った右京は自身も職員室に寄ってから愛車に乗って自宅へ帰宅した。

 

 

 休日を挟んだ月曜日、右京は少し早めの八時に登庁する。

 組対五課部署のドアを開けると、いつもより室内が騒がしかった。

 壁際の通路を通り抜け、デスクに荷物を置いた彼は部屋の入口から様子を窺う。

 少ししてそこに角田がやってきた。

 

「警部殿。今日は早いね」

 

「早く起きたものですから――この騒ぎは?」

 

「あぁ、これ? ガサ入れの準備だよ。最近、神奈川を拠点にしている半グレ集団がこっちにも手を伸ばしてきてね。色々、調子乗ったことやってくれてんのよ。だから、これからシバきにいく」

 

 組織対策五課は反社会勢力や半グレの取り締まりも受け持っている。彼らが動いているとあれば裏を取って一網打尽にするのが仕事だ。

 そのための準備だと聞いて右京は「なるほど」と頷いた。その際、角田から「できれば警部殿も一緒に手伝ってくれればね~」と懇願されるが、同行したくないので適当にはぐらかしつつ、テレビをつけた。

 表示された画面には()()というテロップが出ており、女性キャスターが現場中継していた。

 

 ――調布市の西高見高校で遺体が発見されました。男性は同高校に勤める六十代の男性教頭と見られております。詳しい情報が入り次第、おってお伝えします。現場からは以上です。

 

「調布の高校で遺体だと!? 只事じゃないね――ん、警部殿?」

 

 角田が口を開くのと同時に和製ホームズはハンガーにかけたコートを羽織り直し、カバンの柄を握った。

 

「申し訳ない。用事ができました。いってきます」

 

「ええ、ちょっと――こっちの手伝いは!?」

 

「それはまた別の機会に」

 

 顔を顰める角田を余所に右京はポーカーフェイスの内側を燃やしながら、現場へ急行するべく警視庁を後にした。

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