警視庁の一角に存在する鑑識課。かつて米沢守が在籍していた場所である。
彼がいた頃は特命係と密な関係にあったため、右京とその相棒は足繁くなく通っていたが、米沢の左遷をきっかけに訪問回数が著しく減る。
それは益子という頑固親父のせいだったりするのだが、ここ最近、相棒の亘がある突破口を見つけた。
「どうです? この娘、可愛いでしょ?」
「あぁ、とてもツヤツヤしてるな……。コイツはいいぞぉ!」
年甲斐もなくはしゃぎ始める益子に周囲の目が集まる。
「まだまだ、ありますよ。この娘なんかも」
「いいじゃないか。可愛らしいなぁ〜」
傍から見るとスケベ親父たちの雑談に思えるが、実際のところは違う。
「この猫、名前なんて言うんだ?」
「《マリーちゃん》って言うそうです」
「ほうほう、マリーちゃんか!? いいねー。きっと〝いい飼い主〟に飼われているんだろうなぁ。こっちまで嬉しくなるよー」
「ですね」
益子は大の猫好きで、猫が絡むと話が弾む傾向にある。
亘の持ってきた絶版の写真集に釘付けで、マタタビを嗅いだかのような砕けっぷりだ。頃合いを見計い、右京が耳元で囁く。
「青木くんから聞いたのですが、音楽室から林さんの持つ二足の靴のゲソ痕が出てそうですねえ。詳しく知りたいのですが」
「あぁー、そういう魂胆か……」
「お願いできませんかね?」
亘が招き猫のように右手をユニークに動かす。
「できませんかね?」
続くように上司も腰低くしてお願いする。
いつもならば門前払いなのだが。
「うーん…………特別だぞ?」
骨抜きにされた益子は不服ながらも捜査資料を見せてくれた。中身は音楽室内のゲソ痕の鑑定結果などが詳細に載っている。
採取された三つのゲソ痕は五味と林の靴で間違いなかった。
「仕事用の靴と通勤時に使用する靴ですかねえ」
かたや味気ない灰色のスニーカー、もう一方は洒落たブラウン色のスエードの厚底靴だ。作りからしてブランド品だ。
靴を使い分けるのは珍しいことはない。が、自室の散らかりを察するに自堕落な生活を送っていた彼がこのような高級な靴を履くだろうか。些か、疑問が残る。
益子に写真集を手渡し、暇になった亘が右京の隣に立った。
「何かわかりました?」
「いえ、特には。強いて言うなら、あまり身なりを気にしない林先生がどうしてこのようなブランド靴を履いているのか、くらいですかね」
「ナチュラルにディスってますね……。そういうのは、いけませんよ?」
「悪気はないのですがねえ〜。気をつけます」
毒を吐いたことを注意され、右京が軽く謝った。
その後方で周りの目が気にして咳払いした益子が猫の本を引き出しに隠す。彼は鑑識らしく振る舞うべく二人に近づいて、右京が手に持つ資料のゲソ痕画像を指差した。
「これらのゲソ痕を調べていてわかったんだが、どうにも不自然な点が多い」
「と、いいますと?」
「被害者の抵抗した形跡が見当たらないんだよ。階段側の廊下から入ってきて、ピアノの椅子に座り、貧乏ゆすりでもしていたような形跡がある。誰かを待っていたんだろうな。そして、後から入室した犯人と思わしきゲソ痕の主と教室中央で向かい合い、その後、犯人から少し距離と取って、後ろを向き――」
「鈍器のような物で犯人に撲殺された」
「と、俺は見てる。しかしだ」
資料に手をやり、益子がページを捲る。そこには犯人に対して後ろを向く五味のゲソ痕がくっきりと写っていた。その周囲にも足を動かしたような形跡がある。
位置は音楽室中央から数メートル奥へ進んだところだ。重心のかかり具合から、そこで仁王立ちでもしていたかのようだ。
それがどうしたのか。亘が口元に手をあてがった。反対に右京は人差し指でゲソ痕をなぞる。
「色のつき具合がやや濃いですね。その場で足を動かした形跡がありますが――まるで股を開くような、大胆な動かし方ですね」
「そうなんだよなぁ」
「確かにこれは少々、不自然ですねえ」
「だろ?」
「どういうことです?」
理解できずに置いてけぼりを食らう亘が声を上げた。右京がわかりやすく説明する。
「ゲソ痕をよく見て下さい。五味さんは後ろを向いてから殴られるまで足を広げる以外の動きをしていない。おかしいとは思いませんか?」
「確かにそうですけど、何かの資料を見ていた可能性もあるような」
「犯行時刻は夜です。明かりを照らして時折、足を広げてながら資料を読んでいたのでしょうか? 僕ならもう少し動きますねえ」
「しゃがんでいたとか?」
二人の会話に益子が口を挟んだ。
「ゲソ痕のつき方からして、立っていたのは間違いない。足を広げてからはつま先に重心が集中しているが、足全体にも体重が掛かっている。圧力の具合からみて、スクワットしてるみたいな状態だと推測できる。しゃがんでいるとは言いにくい」
ゲソ痕はつき方によってその人物がどのような姿勢だったのかを割り出せる。例えば、つま先のほうに重心が集中していればつま先に体重をかけていることになる。
対象の靴を調べ、普段の歩き方などをデータ化できれば、すぐに違いを発見できる。それが事件解決に繋がることも少なくない。まさに現代捜査の切り札である。それ故に扱う情報が高度化する。今回のようなケースがそれだ。
「人と会っていたにも関わらず同じところからさほど動かずに、後ろを向いて立ち続けて足を開いてつま先に体重をかけた――確かに謎だ」
亘はまるで謎かけされているような感覚に陥った。女が絡むのなら得意なのだが、それ以外はご遠慮願いたい。ちょいワル親父はそう思った。
数秒の無言が続いた後、益子が右京に資料を寄越すように催促し、ホームズはその要求通り、紙束を手渡した。
鑑識の頑固親父は戻ってきた資料をしまうのかと思いきや再度ページを捲り、違うゲソ痕の画像を二人に見せる。それは犯人と思わしき人物の物だった。
「この靴跡、不自然なまでに爪先あたり重心が掛かっていて、ゲソ痕のつき方が安定してない。これは靴のサイズが合ってない証拠だ」
「つまり犯人は林先生よりも小柄な人物、ということになりますねえ」
「同意見だ」
右京の見解にベテランの鑑識が同意した。亘が言葉を引き継ぐ。
「ってことは、犯人は林先生ではない」
「断定はできないが、その可能性が高い」
益子が誰かを思い出して目をつぶった。その行為の意味を理解した天井の隅に視線を移して。
「伊丹さん、ご愁傷さま」
叱られるだろう刑事に同情する。かたや右京は次なる疑問を口に出す。
「犯人が別人となると動機はなんでしょうかね?」
「動機?」
益子が困惑する。
「五味さんを殺す動機ですよ。林先生には相手を呪い殺したいほどの明確な殺意がありましたが、この犯人の動機は不明です。今わかるのは林先生のスニーカーを履いて五味先生を殺害したという事実だけ。目的は犯行の偽装でしょうか。相応の恨みを持っているのは明らかです」
「靴を林先生の私物に履き替えてまで被害者を撲殺したんですから、かなりの恨みがありそうですよね。益子さんはどう思います?」と亘が益子に振った。
「うむ……そこまではわからん。推理は専門外だ」
それはお前らの仕事だろ? そう言わんばかりに小さく肩を竦めて考えることを放棄する鑑識官。ホームズとワトスンはクスッと笑いながら頷いた。
☆
特命部屋に戻った二人をお疲れ気味の角田が出迎えた。
「お帰り。どこ行ってたんだ?」
代表して右京が答える。
「鑑識です」
「あぁ、ゲソ痕の件か。犯人、林じゃないかもしれないんだろ? もう、そこら中で噂になってるよ」
「まだ決まったわけではありませんが、その可能性が高いですね」
「あーあ、伊丹のヤツ、こっぴどく叱られるだろうね。不運だね、事情を聞きに行って自殺されるなんて」
知り合いから伊丹の失態を聞いた角田は「それは防ぎようがないよ」と同情するも、失態は失態。それなりのお咎めはあるだろうと警察組織の厳しさを嘆くにとどめる。
「林先生はどうして自殺したんですかね? 犯人でもないのに。まさか、呪いなんて本気で信じたんじゃ……」
「んなわけないだろうよ。いい大人なんだからさ」
亘と角田が話す最中、右京は一人、ブラインダーの隙間から覗かせる人工の光を観察してからそれを閉める。
「ないとは言えませんねえ。精神的にも追い詰められていたようですから」
五味に叩かれた直後の林の態度は何かを必死に堪えているようだった。抑圧に耐えている。まるでかつての村木のように。
「『抑圧から開放された』とも考えられますね」
独り言を呟いて自分の世界に浸るホームズに暇課長は乾いた笑いを送った。
「ホント、好きだね、推理ゴッコ。羨ましいよ、暇な部署はさ。俺なんて半グレの取り調べだよ?」
「そういえば、捕まえた連中、あれからどうなりました?」
自分が関わった摘発だ。興味がない訳がない。そんな亘に角田が取調室での出来事を聞かせる。
「ほとんどの連中はゲロしたよ。ただ、高橋ってヤツが粘っててな。仲間の話だと日曜日の夜、調布で顧客にヤクを捌いてたらしいんだが、いざその件になると口を閉ざしちまいやがった」
「バレたらマズいことでもあるんですかね」
「俺はあると睨んでる。しっかり裏取って白状させてやるよ。お前らもほどほどにな」
カッコつけるような発言と共に角田が特命部屋をあとにする。
静かになった室内で右京はおもむろにブラウザ画面を立ち上げて村木重雄と検索をかける。
検索結果は《平成の殺人鬼》《カリスマ講師の裏の顔》《止まらぬ連鎖〜模倣犯の供述〜》などのニュースや個人運営のまとめ記事だ。
どれも面白半分に恐怖を煽っているだけで青木がまとめた情報に及ばない。目立った収穫は得られないだろうと考えつつも納得するまで調べるのが右京の性質だ。
休憩がてらにコーヒーを飲んでいた亘が何気なく上司のパソコンを覗き込み、その胡散臭い内容にため息を吐く。
「青木が調べた以上の情報は載ってませんね」
「ですね。しかし――」
右京は観覧中のページに掲載されている村木の若い頃の画像に目をやり、足元を右人差し指で差した。
「この靴、林先生のスエード靴に似ていませんか?」
「あ、似てますね。同じメーカーかな?」
村木の全体画像に写っている靴は林のスエード靴によく似ていた。
「憧れの人物だったのでしょうねえ。林先生にとっての村木は」
《ウィンパティオ》といい、靴といい。林が村木シンパなのは誰の目から見ても明らかだ。なぜ、冴えない中年教師がそこまで執着するのか。右京の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。
「もしかすると林先生と村木は単なる生徒と教師以上の関係だったかもしれませんね」
かつての若い模倣犯とは違ってどこか崇拝というより尊敬しているような印象を抱かせる。調べずにはいられない。
和製ホームズは席を立ち「青木君のところに行きます」と伝え、足早に特命部屋を出ていく。
「そうやっていつも部下を置いてけぼりする。右京さんの悪い癖」
不満を口にしながらも和製ワトスンが部屋の電気を消して彼の後を追う。
☆
警視庁の一角にはサイバーセキュリティ対策本部というサイバー犯罪へ対抗する部署が存在する。三十二畳程度の広さにデスクと机、高性能PCがぎっしり並べられて日夜、捜査員たちがにらめっこする。まさに青木年男のためにあるような部署だ。
サイバー対策本部を訪れた特命係の二人は一直線に青木の席へと向かうも、その姿はなかった。すると、その隣にいた眼鏡をかけたひょうきんそうな男性がブラウザを閉じてから二人に声をかけてきた。
「これはこれは、特命係のお二人。出戻りの青木は現在、お花を摘みに行っておりますが故、少々お待ちを」
「相変わらずだな。
サイバーセキュリティ対策本部に在籍する土師太は青木の同僚だ。青木とは比較的、仲がよく、この部署であの陰キャの減らず口を止められる貴重な存在だ。
しかしながら青木とは違った方向のオタクで、掴みどころのないキャラクター故に一般人とはウマが合わないという難点がある。
早速、亘の言葉が気に触った土師が文句をたれる。
「いやいや、フルネームはやめて下さいよ。なんだか気持ち悪いんで」
「わかったよ。太君」
「下の名前でも呼ばない下さい。お友達じゃないんだからっ」
彼に亘の冗談を受け入れるだけの能力はない。
それを知っておちょくる部下に「相手をおちょくるのが君の悪い癖」と内心で毒づいてから土師へ話しかける。
「なるほど、では青木くんが戻るまでここで待たせて貰いますね」
「え、ここで、ですか?」土師が露骨に嫌そうな表情をする。
「ええ。お邪魔だったでしょうか?」
「いや、邪魔ってほどじゃないですけど、ちょっと気が散っちゃうかな〜って思いまして、仕事中なので」
土師が答え終わると同時に右京が笑う。
「おや、今、作業中でしたか? ちらりと動画のようなものが見えましたので、休憩中なのかと」
「へ? やだなー、そんなことするわけ――」
声をうわずらせて否定する土師だったが、一瞬の隙を突いてマウスを奪取した亘がブラウザを立ち上げ、履歴を表示させる。
「『
「あ、ちょっちょっ、これはちょっとした息抜きですよ!」
マウスを取り返し、すばやく履歴を消してからブラウザを落とす。右京は青木がいないと悟った瞬間、とある事件で協力を依頼したことがあった土師太をロックオンしていたのだ。その際に画面を覗かれていたのがアダとなった。和製ホームズに生半可な嘘など通用しない。
そこへ青木がトイレから戻ってきた。慌てふためく同僚の姿に青木の陰キャレーダーが反応する。
「あらあらぁ〜土師太ぃー、何かいけないことでもしてたのかい?」
「べ、別にぃ〜。で、出戻りには関係ないさ!」
「誰が出戻りだ! ふん、どうせお前のことだ、VTberでも見てたんだろ?」
「な、なぜそれをっ」
図星を突かれた土師が声を荒げ、ドヤ顔の青木があざ笑う。
「ボクが知らないとでも思ったか? お前の行動はチェック済みなんだよ。しっかし、あんな承認欲求丸出しの素人や声優のなり損ないがやってる動画なんてよく見られるもんだ。理解できないね!」
VTberとは3Dモデルで作られた架空のキャラクターに生身の人間が声を当てて動画配信、生放送をする配信者の名称である。声が綺麗な一般人や声優経験者、実況経験者がボイスを担当する。
ここ最近、流行り始めてきたホットなコンテンツだ。それ故に懐疑的な意見も少なからずあり、青木年男は否定的な見方をしている。その態度に腹を立てた土師が反論する。
「はぁ!? 何いってんだお前? Vってのはあの素人感がウケてんだ。アットホームな感じがいいんだよ。楽しかった学生時代を思い出すようなさぁー」
「何が学生時代を思い出す、だよ? 陰キャ、オタクの学生時代なんてボッチと相場が決まってるだろ」
「お前はそうだったかもしれないが、僕は違うんだよねぇ〜。青木くんって可哀想だねー、クスクスっ」
「あ、今、笑ったな!?」
馬鹿にされた青木が犬歯をむき出しにして暴言を言い放つ。
「このサブカルクソメガネが!」
「うるせー、
「なっ!?」
一歩も引かずに放たれたパワーワードが青木のメンタルを深く抉った。
「……こ、この青木年男がそんなオタクな訳ないだろ……。ねー、杉下さん」
「ふっ……かかったな、アホめがッ」
咄嗟に右京を頼りにしようと画策するも、土師は眼鏡を上下させてからスマホを取り出して、一枚の画像を特命係の二人に提示する。
それは仕事中の青木が自身のパソコンである〝まとめサイト〟を観覧している様子だった。
右京がウェブページの内容を目で追う。
「『次期プリキュアのタイトル正式発表 その名はヒーリングっとプリキュア』。確かにプリキュア関連のページですねえ」
「いやいや、それはたまたま捜査に必要で……」
言い逃れする陰キャに亘が鋭いツッコミを入れる。
「何が捜査に必要で、だ。俺たちのようにしょっちゅう事件に首突っ込んでるわけじゃないんだから、趣味だろ?」
「黙れ、冠城亘! 誰がそんな幼児モノなんて見るかよ!?」
「あー、プリッキュア♪ あー、プリキュッア♪」
音頭のようなテンポで自身を挑発する土師に青木のライフは風前の灯だ。
「は、土師太ーー! いいかげんにしろよぉ!」
「なんだ、その面は?
泣きを入れるように食ってかかるも土師は舌を出してざまぁ、といった表情を顕にする。
青木の我慢が限界を迎えそうになり、取っ組み合いの喧嘩が勃発するかと思われた次の瞬間、二人は武闘派の亘に首根っこを掴まれて身動きが取れなくなる。
「ここは職場だ、あまり騒がしくするな。お互いの趣味がバレちゃうぞ?」
他の同僚たちからの冷ややかな視線を向けられていると知った両名が声のトーンを数ランクほど下げた。
「くっ、元はと言えば、お前がここにきたのが原因じゃないかッ……」
「そ、そうですよッ……」
小声で皮肉を言うも形勢は圧倒的に不利。亘が不敵な笑みを浮かべながら「そんなこと言うならここの上司に言いつけちゃおうかなぁ〜」と青木たちの耳元で囁けば、あら不思議、うるさかった二人が言葉を喉の奥へと押し込める。
静かになったサイバー警官を前に右京がここへ出向いた理由を話す。
「青木くん、また君に調べて欲しいことがありましてね。引き受けてくれませんか?」
「いやいや、ボクも暇じゃないんですけど――」
「プリキュア」
そう亘が口にすると青木の目が見開かれる。
「シィー! 言葉に出すな! ひ、卑怯だぞ、冠城亘ッ」
「なら俺たちの頼み、聞いてくれる?」
「お、脅しかよ。ボクは屈しないからなッ」
粘る青木を見た右京がターゲットをもう一人のほうへと移す。
「そうですか、では土師くん。代わりにお願いできませんかねえ?」
「いや、なんで僕なんです? 僕は出戻りとは違うんで――」
「VTber」
またもや亘の口から飛び出す単語に土師が血相を変える。
「いやいや、たまたま検索に入っただけですから、お、脅したって無駄ですからねッ」
中々にしぶとい。亘が口元を歪め、右京をちらっとみやる。上司は大丈夫ですよ、と目配せしてから天井の一点を見つめた。
「そうですか、残念ですねえ。君は以前、サイバー警察官としての腕なら自分のほうが青木くんよりも上だと豪語していたので、その実力を間近で見てみたかったのですが」
聞き捨てならない台詞に青木が抗議する。
「はぁ? コイツのほうがボクより上? 冗談じゃない! 天地がひっくり返ってもこんなヤツに負けやしませんよ」
ディスられた土師がお返しに煽り文句を吐き捨てた。
「はっ、出戻り風情が生意気な。僕のほうがお前よりも数段上だよ!」
「口を慎め、土師太!」
「うるせー、出戻り野郎!」
いい歳した大人の見苦しいなじり合いに亘とサイバー対策本部の同僚たちが「コイツら、本当にどうしようもないな」と言わんばかりの痛い視線をぶつける。言い合いがヒートアップしていく中、タイミングを見計らった右京が、一つの提案を出す。
「では、どちらが優秀か。対決してみては如何でしょう? 内容は西高見高校教頭殺人事件と関係者である教師の自殺、それらの真相解明に繋がるデータを多く出したほうが勝利。どうです? まぁ、難しそうなら他をあたりますが」
その挑発めいた台詞にプライドを激しく刺激された青木が名乗りをあげる。
「ふん、ボクにかかればそれくらい楽勝ですよ。コイツと違ってね!」
陰キャに鼻で笑われたオタクが歯ぎしりしながら。
「僕だってこんなヤツには負けませんから、いいですよ、何でもご依頼ください!」
啖呵を切った。
「ふふっ、そう言って貰えると思っていました。青木くんは村木茂雄の予備校以前の経歴の詳細と林先生の経歴、できれば二人の接点になる情報の収集を。土師くんには五味さんについて調査して貰います。経歴や趣味、交友関係など手がかりになりそうなモノはすべて集めて欲しい」
「「了解しました!」」
返事が被り、真似するなと視線で牽制し合ったサイバーの二人が鼻を鳴らして作業に取りかかった。
すべては和製ホームズの作戦通りに進み、優秀なサイバー警察官たちの協力を取りつけた特命係は特命部屋へと戻った。
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