相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第163話 刑事たちの手腕

 土師が手に入れた情報が警視庁内に拡散されてから、対応する部署が一斉に動き出した。二十一時、伊丹と芹沢が英語教師、宮下凜子を警視庁へ任意同行させる。

 取調室に通された宮下は不機嫌さを上まで表しながらも席に着いた。取り調べ担当は伊丹、補佐に芹沢がつく。

 

「で、話ってなんです? まさか、私が五味先生を殺したとでも?」

 

「その件もありますが、まずは……高橋マオトさんとのご関係について、です」

 

「……誰、それ? そんな名前の人、知らないんですけど」

 

「本当に知らないんですね?」

 

「知りません」

 

「わかりました」

 

 しらばっくれる宮下に伊丹がスマホに移した例の映像を音声つきで流してみせた。途端、彼女は目を逸らして舌を打つ。刑事の顔が般若のそれへと変わった。

 

「ここに写っている女性はあなたで、お間違いない?」

 

「他人の空似では?」

 

「自分には動画の女性の声があなたそっくりに聞こえるんですがねー」

 

「私には、そうは聞こえない」

 

 伊丹の後方で立っていた芹沢が彼女の斜め左側に移動して、予め録音アプリが起動されたスマホを宮下の視界に入るよう、かざす。

 

「たった今、録音した音声を鑑識に回して声紋鑑定すれば、嘘かホントかはっきりしちゃうんですよね〜。しかも、たったの数分以内で。これでも、しらばっくれるんですか?」

 

「……」

 

 腕を組んだ凜子が口を閉ざした。

 こりゃあ、何かあるな。刑事の勘がそう告げていた。

 

「日曜日の午後七時から九時まで間、どこにいましたか?」

 

「……自宅にいました」

 

「それを証明できる方は?」

 

「一人暮らしなので、誰もいません」

 

「高橋マオトさんとお会いになっていたのでは?」

 

「会ってない」

 

「なるほど、そうですか」

 

 宮下のアリバイが証明できないように、伊丹たちも彼女が犯行に関わったとする証拠を持ち合わせていない。この場合、自白に追い込むのがセオリーだ。般若は相手が聞きたくないであろう事実を語る。

 

「この動画、撮影したのは五味さんなんですよ」

 

「へー、初耳です」

 

「その割にはあまり驚いていないようですね」

 

「別にそんなんじゃ――」

 

 伊丹が被疑者に顔面を近づけ、脅すような口調で自身の立てた仮説を叩きつける。

 

「あなたは高橋さんとの情事を五味さんに撮影され、彼に脅された。口止め料として、お金か、身体か、あるいは両方を要求された。それに耐えきれなくなり、あの夜、林さんのスニーカーに履き替え、五味さんを音楽室に呼び出して殺害した。違いますか?」

 

「違います! そんなことしてません」

 

「では、五味さんに脅されたことはないんですか? 以前、肩を触られて怒っていたそうじゃないですか。その時にでも脅されたのでは?」

 

 亘を通して伝えられた情報を脅しに使う。すると、宮下が視線を床へと落とした。

 

「……私はやってない」

 

 白を切り通す彼女に伊丹が次なる手を打つ。

 

「一旦、質問を戻しましょう。改めてお聞きします、高橋マオトさんとのご関係は? 無関係とは……言わせませんよ? 人一人、死んでるんですから」

 

 刑事二人に睨まれた彼女が渋々、口を開く。

 

「…………旅行で神奈川に行った時、立ち寄ったバーで出会った。顔も悪くなかったから、そのままホテルへ行った。身体の相性がよかったから、定期的に遊ぶようなった。言ってしまえば、セ○レ」

 

「そのセ○レと公園で遊んでいるところを被害者に撮影された」

 

「動画を見る限り、そうなんじゃないですか?」

 

「そして、脅された」

 

「……」

 

「黙っていても、いいことないですよ? もちろん嘘を吐いても。我々は真相にたどりつくまで、どこまでも食らいつきますからね?」

 

 伊丹の糸目が、獲物を狙う狐の眼光のように鋭さを増す。

 

 

 同時刻、宮下の取り調べから、少し遅れるように高橋マオトの聴取が始まった。

 担当するのは角田だ。

 

「さて、高橋くん。今日こそ喋って貰うよ?」

 

「喋ることなんてないっすよ、刑事さん」

 

 愛想を振りまくも、高橋の顔は引きつったままだ。

 

「またまた、そんなー。日曜日のこと全然、話してくれないじゃない」

 

「いや、喋りましたから」

 

 彼の言葉を遮るように角田が詰め寄る。

 

「嘘吐くんじゃないよー。だったら、午後七時から午後九時までどこで何してた? お仲間はお前さんがドラックを捌きに調布へ行っていたと証言してる。ところがその件になった途端、だんまりだ。誰に売ったんだ?」

 

「だから、売ってませんって。あれは遊びに行く口実が欲しかっただけで」

 

「……そんな言葉、信じると思うか?」

 

 角田の顔から笑顔が消えていく。鬼面へ戻りそうな彼に高橋が懇願するかのように訴える。

 

「信じてくださいよ!」

 

「じゃあ、調布のどこで遊んでた?」

 

「え、駅正面のメインストリートをぶらぶら、と」

 

 瞬間、角田が机を両手で強く叩いた。

 

「監視カメラを調べたが、その時間にお前の姿はどこにも見当たらなかったぞ! あの辺りは監視カメラが多数、存在してる。映らないで行動するのは不可能だ! つまり、お前は嘘の供述をしているってことになるんだよ!」

 

 高橋の供述に疑問を持った角田は調布駅周辺の監視カメラの映像を顔認証システムまで使って、徹底的に調べ上げた。それでもヒットしなかったのだ。高橋の供述に信憑性はない。

 

「本当はどこにいたんだ?」

 

「……その辺りをぶらぶらしていただけ、です」

 

「ふむ、困ったねぇー、じゃあ、そろそろかな〜」

 

 攻めあぐねていたこれまでとは違い、今回はカードを用意してある。

 角田がスマホから盗撮動画を再生させる。高橋は驚いたように「なんでそれが!?」と声を上げた。

 

「なんでそれが、だって? そりゃあ、撮影した本人の私物から失敬したからだよ。お相手は宮下凜子さん、西高見高校の英語教師だ。知っているよな?」

 

「いや、そんな女、知らない――」

 

「お前、いいかげんにしろよ?」

 

 もう我慢の限界だ。角田は身を乗り出し、高橋の胸ぐらを両手で掴んだ。

 

「盗撮されたことを知ったお前は日曜日の夜、五味さんを呼び出して殺害したんじゃないのか? えぇ?」

 

「さ、殺害!? な、なんで俺がそんなこと――」

 

「美人の彼女ためだよ。ちなみに今、警視庁内で取り調べてる最中ね」

 

「はぁ!? アイツ、ここに、いるの!?」

 

 突然の出来事に高橋の頭がついて行かない。

 

「で、本人に聞いたけど、お前とはセ○レらしいな。かっこいいところ見せたかったんじゃないの? それが相手と口論になって勢い余って殺害しちゃった。違うか?」

 

 その質問に首を横にブンブン振って否定する。

 

「いやいや、待って、待ってくれよ!! してない、俺そんなの、してないからッ!!」

 

「じゃあ、被害者が殺された時間、どこで何してた!? とっとと吐け! このままじゃ、殺人者にされちまうかもしれないぞ?」

 

「ちょ、それはないだろ――」

 

 さらに角田が首を締め上げる。

 

「じゃあ、吐きな!」

 

「わ、わかりました――その時間、俺は……」

 

「俺は?」

 

 耳を澄ます角田。

 

「アイツとホテルでセ……」

 

「セ? その後は?」

 

 眉間にシワを寄せる角田。

 

「セ……」

 

「はやく、言え!!」

 

 脅しつけるように睨みつける。すると、高橋は大音量で暴露した。

 

「セ○○○してましたぁぁぁぁぁ!!」

 

「はいっ、よく言えました」

 

 開放され、椅子に着席した高橋はため息と共にうなだれた。

 その後、伊丹と角田が互いの情報を交換し合い、連携プレイで二人の証言を得ることに成功する。

 

 

 二十二時。特命部屋にて角田と伊丹が聴取の結果を二人へ伝えた。

 

「で、まとめると、高橋はセ○レの社会的事情を考慮して黙っていたってわけですか」

 

「宮下さんのほうも相手が半グレ、それもドラッグ服用者だとわかっていて関係を続けていた。それが明るみになるのは避けたかったから、白を切り通そうとした。五味先生に一度、脅されるも『やれるものならやってみろ、タダじゃすまないからな?』と逆に脅し返して撃退した。そんなところですかね」

 

 亘と右京のコメントに疲れ気味の角田が「蓋を開けてみればそんなもんだったよ。一応、彼女の毛髪もチェックしてみるけど、クスリが身体の中に残ってたら、任意同行に応じてないだろうしなー」と嘆いてから愛用のマグカップでコーヒを啜る。大口の顧客へ繋がるかもしれないと、張り切っていたのに見事、裏切られたからだ。

 それは伊丹も同じだった。

 

「こっちも自白を元に連中の泊まったホテルに電話して確認したら、ばっちり記録に残っていました。調布市の外だし、監視カメラにも出入りの映像が写っていた。犯行は不可能です」

 

 高橋と宮下の証言が彼らのアリバイを立証してしまったのだ。殺人事件の捜査は振り出しに戻る。二人に対して、右京が一言。

 

「焦らず行きましょう」

 

 そう言って、この場を締めた。

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