相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第173話 特命係、東へ その1

 食事を終えた右京は休暇を申請してから特命部屋に戻った。

 相変わらずの暇な時間が続いていたが、亘が席を外した隙きを見計らって、近くの空き部屋に向かい、鍵を締めてから周囲を確認して、尊に次のようなメールを送った。

 

 ――君、休暇は取れますか? 可能なら、今すぐにでも取って下さい。一緒に登山でもしましょう。期間は一週間から二週間程度です。テントや寝袋などのキャンプ用具、防寒着、着替えの衣類、水と食料、モバイルバッテリー等のサバイバルグッズを忘れずに。

 

 届いたメールを読み、意味のわからない内容に大きく口を開けた尊だったが、登山という単語でなにかを思い出し、慌てて休暇を申請。有給が溜まっていたこともあって、三日後に二週間の休暇を与えられる。

 三日で有給が取れると告げると、右京から「その日は晴れなので、大丈夫ですね。それでは、三日後の夜七時。警視庁近くの神社で待ち合わせましょう。遅刻はダメダメ、ですよ?」とのメールを受け取り、尊は白けつつ「はいはい。わかってますよ」と舌を出した。

 そして、三日後の夜六時五十五分。指定された神社の正面入り口でタクシーを降りた尊は、寒さ対策を兼ねた厚手のジャンパーを着込み、背中にアウトドア用の大きなリュックサックを背負っていた。

 

「おもっ。ちょっと、詰め込みすぎたかなぁ……」

 

 キャンプ用具一式とあっちにいってから着替える予定のダークスーツと革靴が、荷物を圧迫しているせいで、リュックがパンパンに膨れ上がっていた。

 ここ数年、オフィスワークが中心だった尊には辛い量である。

 

「さて、あの人はいずこに?」

 

 境内に足を踏み入れ、あちこちに目を向けるも、ひとっ子ひとり見当たらない。ホッとしながら彼は、こんな格好、同僚に見つかったら嫌だな、と思った。

 背後より誰かが近寄ってくる。まさか同僚か? 嫌な予感というのは案外、当たるものだ。まさかな、と思いつつ、尊が背後を振り向くと。

 

「やあ、神戸くん。こんばんは」

 

「あ、杉下さーー」

 

 同僚ではなく、装備を整えた元同僚の杉下右京が出現した。

 上は迷彩柄の長袖に薄茶色のベスト。服の厚みからインナーを何枚も着込んでいる。下は青いジーンズで、靴はがっちりとした作りの登山靴。背中には登山家が重宝する容量六十五リットルの緑色のバックパック。腹部にはポケットの多いベージュ色のウェストポーチを装着しており、服装と装備だけに絞れば、日帰りで登山しにいく人間だろう。

 が、尊の意識はそこにはなく、両手両肩いっぱいにぶらさげている手荷物にあった。

 

「なんですか、その荷物!? ……爆買いにきた中国人ですか?」

 

「君。そこまで、言うことないでしょう」

 

 とは言うが、限界ギリギリまで持たれた荷物は、テレビに取り上げられる観光客と見分けがつかない。それくらい大量なのである。

 

「ちなみに、それらの荷物には、なにが?」

 

「皆さんへのお土産です」

 

「お、お土産?」

 

 まさかの返答にうまく言葉が返せない。固まっている尊に右京が言う。

 

「ええ。お世話になりましたから。いけませんか?」

 

「いやぁ……。いいと思いますが」

 

 幻想郷の住民たちには、かなり世話になった。土産を持っていくのが筋だろう。だが、仮に幻想入りできたとして、どこに出るのかわからない以上、手荷物は極力、少なくしたほうがいいに決まっている。

 場所が悪ければ、妖怪の生活圏の真ん中を歩くハメになるのだ。そんなナリで襲ってくる妖怪たちからどうやって逃亡するのか。

 尊が頭を抑えながら「勘弁してくれよ」と内心で愚痴る。一方の右京はなぜだか楽観的な様子だった。

 

「大丈夫ですよ。どんなに運がなくとも、着地先は竹林になるでしょうしね」

 

「え、それって、どういうーー」

 

「時間が惜しいので、それはまたのちほど。さ、拝殿の前まで向かいますよ。ついでに、これ、半分持って下さい」

 

 右京は右手に持ったバッグと荷物を尊に押しつけるように預けた。

 

「えっ。ちょっと、もう!」

 

 こちらが文句を言う前にそそくさと歩いていく元上司に、尊は久しぶりの地団駄を踏みながらも、渋々とその後をついていった。

 拝殿中央の賽銭箱手前で止まった右京は、遅れてやってきた尊にポケットから〝あるもの〟を取り出して手渡す。

 

「これって、あの葉っぱですよね?」

 

「はい。それも二枚」

 

 青くきらめく葉っぱが右京の手にも握らえており、この場には葉っぱが二枚存在することになる。ずいぶん、マウントを取るな、と腹を立てていたら、実は葉っぱの使い方を教えるための演技だったとは。なんと回りくどいことを。尊はため息まじりに、

 

「どうせなら、最初から渡してくれればよかったのに」

 

 と零す。右京は微かに笑ってから「そういう方でしょう? あの方は」となだめ、尊が「そうですね」と納得したように拝殿正面を向いた。そのタイミングで月が雲の中から姿を現そうとする。

 

「神戸くん、もうじき月が出ます。葉っぱをかざす準備を」

 

「了解です。狸さんに化かされていないことを祈りましょう」

 

 マミに一杯食わせられていたとしたら、せっかくの有給を無駄に使わせられたことになる。とんだ大損だ。当然、右京もそのリスクを考慮しており、幻想入りが失敗した場合、別の計画を実行するつもりでいた。

 

「そのときは、余計な荷物を置いて旅行にでも行きましょう」

 

「あ、いいですね、それ! どこいきます?」

 

「どこでも構いませんよ。国内でも海外でも」

 

「あー、だったら、海外がいいな。オススメってあります?」

 

「そうですね。イギリス……っと言いたいところですが、イタリア、フランス、ドイツも捨てがたい」

 

「全部、ヨーロッパですね。たまにはアメリカとかどうです? だいぶ前に研修で長期滞在していたので、案内くらいならできますよ?」

 

「おやおや。それはいいですねえ。おっと、月が顔を出しそうですよ」

 

「じゃ。かざしますか」

 

「ええ」

 

 雲から月が出てきた瞬間を狙って、ふたりはマミからもらった葉っぱを天高くかざした。

 なにも起きなかったら、という不安はあったが、月の光と反応したそれは光を吸収するかのような挙動を見せる。

 驚いたのもつかの間、次は周囲からも粒子状のエネルギーを吸い寄せる。次第に彼らの周りをコバルトブルー色の粒子が舞い始め、徐々に覆われていく。集まった粒子は空間を歪めるようにグニャグニャと動き出し、ふたりの視界を奪う。

 しかしながら、決して禍々しいものではなく、北極の夜に揺らめくオーロラのように美しかった。

 目の前で発生する怪奇とはまた違った超常現象。性質から言えば、神秘にも等しい。杉下右京は童心に帰ったかのように感動していた。

 

「青い粒子の渦が空間を歪めていますねえ。まるでぼくたちを現実から切り離して、別のところへ連れていこうとしている。あぁ、なんと神秘的なのでしょうか」

 

「いやいや。感動してる場合じゃないでしょ……」

 

 非現実的な体験の真っ最中とも関わらず、冷静なツッコミを放り込める尊も大概であるが、右京が怪奇慣れしすぎているのも事実だろう。

 興奮気味の和製ホームズは「これで感動せず、いつ感動するのですか。いいですか、このような体験、現実社会上では、滅多にできることではありません。楽しまなければ損です。――ところで、この粒子でできた壁は、触っても大丈夫なのでしょうか?」と饒舌に語ってから、粒子の壁を触ろうと手を伸ばす。

 尊が危ないからという理由で制止すると右京は「いいじゃないですか、少しくらい」と引き下がらない。説得を試みるも中々言うことを聞かないので、あーでもない、こうでもない、との押し問答になった。

 

 話し合いがエスカレートして、問答から口論に発展しようとした、まさにそのとき、両名は一瞬だけ身体が宙に浮いたような感覚を味わう。

 すると、粒子の壁が崩れ落ちるように崩壊して、視界が一気に開けた。

 彼らの前に飛び込んできたのは、細く長い筒のような緑色の植物がところせましと立ち並んだ空間。そうーー。

 

()()ですねえ」

 

「みたいですね」

 

 正気を取り戻した彼らは、自分たちが幻想郷の竹林に移動してきたのだと理解できた。すぐさま、辺りを見回して、自分たちに害を加える妖怪がいないか確認する。

 

「ひとの気配はありませんね」

 

 尊が右京に視線を移すと、彼は足元をじっと眺めていた。気になった尊も目を移すと、整備された形跡があった。人が通る道だと思われる。

 さらに、よく目を凝らせば、正面からポツンと明かりが見えるではないか。もしかすると、よく知っている場所かもしれない。右京の脳裏にピリっと稲妻が走る。

 

「道なりに歩いてみましょう。あの場所にたどりつけるかもしれない」

 

 直前までいがみ合っていたのが嘘のように、ふたりは歩幅を合わせて歩き出す。そうして、一分もしないうちに、竹の隙間から屋敷の形がチラチラと見えてくる。さらに二分も経過すれば、屋敷の入り口にたどりつく。

 右京の予想通り、そこは世話になった医者の診療所兼自宅であった。

 

「本当についたよ……」

 

 竹林のどこに出るかわからない。マミからの言葉が竹林でひどい目にあった尊のトラウマを蘇らせていたが、ここまでくれば安心だ。

 大きな息を吐いて「よかったぁー」と口にする尊を横目でチラッと見やってから、右京は玄関まで近寄り、ガラスが埋め込まれた引き戸をコンコンとノックした。

 

「ごめんくださーい」

 

 微かに少女らの声で「レイセン、お客さまよ。手、空いてる?」「はい、大丈夫です。姫さま」というやり取りが聞こえ、次第に足音が近づいてくる。

 

「はい。こちら永遠亭です。ご用件をお聞かせ下さい」

 

 ガラガラと開かれた引き戸の中から姿を見せたのは大きな笠をかぶったエプロン姿の少女だった。妖怪がいると思われるのはまずいと思ったためだろうか、顔と頭部を隠して接客をしているようで、おそらく彼女は、ふたりの足元しか見えていない。

 きっと、この少女は自分たちを外からやってきた単なる迷いびとと勘違いしているに違いない。かつて、ここでお世話になった患者はにっこりと微笑む。

 

「お久しぶりですねえ。優曇華さん」

 

「えっ、どうして私の名前を……」

 

 顔を上げた瞬間、相手の容姿を視界に入れた彼女は、来客が何者なのかを理解できたようで。

 

「えっ!? ま、まさかーーあの杉下さん、ですかっ!?」

 

「ええ。杉下右京、本人です」

 

「同じく、元部下の神戸尊です」ついでに同行した尊も名乗り出た。

 

「えっ、えっ、えぇーーーーーーーーーー!?」

 

 あまりのできごとに、大きく口を開けた優曇華は、言葉が続かないどころか、玄関でフリーズしてしまった。

 

 

「なるほど。じゃあ、いつの間にか手元にあった、その青い葉っぱを使って、もう一度、幻想入りした。そういう訳ね?」

 

「そうなります」

 

 気絶しかけていた優曇華に代わり、奥から様子を窺いにきた蓬莱山輝夜が、ふたりを居間に招き入れて、部屋の隅に荷物を置かせてから座卓につかせた。

 優曇華に呼ばれた八意永琳は驚くような素振りをしつつも、すぐに現実を受け入れて、右京たちにどうやって幻想郷に戻ってこられたのかを尋ねた。

 

 隠す必要があるのかも不明だが、色々配慮した結果、右京は「東京の神社で、この葉っぱを月にかざしたら、戻ってこられました」と語るにとどめる。

 どこで入手したのか、と問われるが「いつのまにかポケットに入っていた」と答え、マミが関与していると疑わせないようにした。

 なんとも、腑に落ちない回答だったが、永遠亭の三人は納得するしかなかった。

 

 大方の事情説明を終えた右京は両手を軽く合わせながら「そういえば、皆さんにこのお礼の品を持ってきていました」と言って、手荷物の中から数点の品物を取り出した。

 のしで包装された縦六十、幅十五センチ程度の桐箱、ピンク色の包装紙と赤いリボンで包まれた箱、青い包装を施された細く薄い長方形の物体。その三つを自身の座る座布団の右隣に置く。

 

「そんな、お礼だなんて」

 

 困ったような口ぶりの永琳だったが、右京から「医療機関の整ってない幻想郷で、迅速かつ的確な処置を施してもらったのです。お礼くらいさせて下さい」と言われたことで「そういうことでしたら……」と受け取りを了承する。

 彼は、身を乗り出してから、永琳に一番大きな桐箱を手渡した。

 

「これは、なにかしら?」

 

 受け取った箱を傾けても中央から重心が下がらない。クッションのようなもので大事に保護されているようだった。

 開けるように右京から促され、のしを外して、桐箱を開けると、色のついていないワインボトルのような容器が姿を現す。中身は深い琥珀色に輝いており、ラベルには現代日本の漢字で大きく《玄海》と書かれていた。

 

「《玄海》? 聞いたことないわね。表のブランデーかしら?」

 

 この紳士がまずい酒を持ってくるわけがない。きっと、美味しいはずだ。たまには洋酒も悪くない。彼女がそう思っていると、元部下が仰天したように右京を凝視した。

 

「《玄海》って……。あの、熟成日本酒の《玄海》ですか!?」

 

「そうですよ」

 

「んっ、これ日本酒!?」

 

「はい。れっきとした日本酒です」

 

 通常、日本酒は透明か、薄っすらと色がつく程度で、ここまで琥珀色に染まった品は中々、見当たらない。目測を誤った永琳は両手に抱えるボトルに視線を戻し、これは、とんでもない酒かもしれないと、息を呑んだ。

 

「えっ、でも、ボトル大きいですよね? ぼくが今年、見たものだと500mlでしたよ」

 

「三年前までは750mlで販売していました。そのとき、注文したお酒です」

 

「注文……。販売方法は抽選式でしたよね?」

 

「確率はあまり高くありませんでしたが、運良く僕のところにやってきてくれました」

 

「はぁ、なるほど。本物――初めて、見たな……」

 

 唸るように《玄海》を眺める尊の様子に、他のふたりも渡されたものが、そこらの日本酒ではない、と察した。輝夜が問う。

 

「じゃあ。表では、希少なお酒なの?」

 

「まぁ……。治療費の代わりにはなるかと」

 

 その瞬間、女性陣の意識がボトルに注がれる。

 

 この《玄海》という日本酒は、幾多の偶然が重なったことで、この世に生まれ出た。

 関西の大震災で被災した酒造が機材破損により、泣く泣く精製途中の日本酒を熟成庫に入れたことで発酵が進み、二十年の熟成期間を経て、試飲した関係者たちが驚愕するほどの深みを持った日本酒へと変貌。日本酒の限界を超えた、として《玄海》と銘が打たれ、販売に至る。

 上記のエピソードと唯一無二の味わいから〝奇跡の日本酒〟とも称される、日本屈指の名酒だ。

 一本500ml入りで二十万円の高級酒だが、購入希望者は後を絶たず、抽選の時期になるとホームページが落ちるほどの人気ぶりだ。

 価格と量はその年によって変動するが、右京が購入した《玄海》はサイズが小さくなる以前の750mlで、当時も今と変わらない二十万円の価格がつけられた。

 しかし、その希少性からオークションであれば、三十万超えの価格で落札される。弾丸摘出手術と療養の代金としては十分、釣り合うだろう。

 

 本来なら現金で治療代を払うべきであるが、一円札での支払いは難しく、他のもので代用するしかなかったので、右京は自慢の一品を持っていくことにした。

 本来、この酒は元妻と再開した際、開けるつもりだったが、いつまでも手元に残しておくのは未練がましいと思い、恩人たちに渡す意思を固めたのである。

 価格を伝えられずとも、紳士の顔つきで、とても良い酒だと理解した医者は両目を閉じてから「わかりました。これは治療費として受け取らせて頂きます」と返事した。

 次に右京は輝夜のほうを見た。

 

「輝夜さんにも、お渡しするものがあります」

 

「え? 私にも?」

 

「はい。ご迷惑をおかけしましたから」

 

 そう言って、隣に置いたピンク色の箱を輝夜に渡す。

 

「ありがとう。中身は何かしら?」

 

「玉露です。一切の渋みがなく、まろやかな甘みと心地よい後味が特徴で、海外の日本茶品評会でグランプリを受賞しています。輝夜さんのお口にも合うかと。甘味などと一緒にお飲み下さい」

 

「へぇー。嬉しいわ」

 

 中身は、容量百五十グラムの缶に詰められた玉露だった。

 こちらの茶葉も巨匠の手作りによる高級品で、国内外問わず、高い評価を得ており、百グラム二万円で販売されている。裕福な家の者が、大切なひとへの贈りものやお祝い品にも選ぶそうで、ルナティックプリセンスの輝夜にはピッタリな贈りものだ。

 輝夜本人も「この紳士が持ってきたのだから、きっと良い品物だろう」と想像し、純粋に喜んでいた。

 その姿に優曇華が「よかったですね。姫さま」と声をかけてから、残りの贈りものは誰に渡すためのものなのか、と疑問に思っていた。彼女と目があった右京は、小さくスマイルを作ってから、最後の品物を月のウサギに手渡す。

 

「えっ、これ……私の分!?」

 

 贈りものなんて生まれてこのかた一度も、もらったことがなかった優曇華は、腰を抜かすほど驚いていた。

 

「これは、三徳包丁とペティーナイフです。よくお料理をするとお聞きしたので。あっ、ちょっとだけ、変わった包丁ですので。よかったら、開けて見てくれませんか?」

 

「あっ。はい」

 

 言われるがまま、二つの箱の包装を剥がすと中から、蒼色に輝く刀身の三徳包丁と紅く輝くペティーナイフが姿を見せる。「え!? なにこれ、色がついている!?」と、思考が追いつかない優曇華。人差し指を立てた右京が解説を始める。

 

「その二丁は、チタンコーティングを施された包丁でして、三徳包丁が名を《蒼月》、ペティーナイフは《紅月》と言います。両方とも、とても良く切れる包丁ですので、日々の調理にお使い下さい。研ぐ際は付属の研ぎ石で数回研いで頂ければ、切れ味が戻ります」

 

「へぇ。チタンで表面を保護しているとはねぇ。素敵な包丁じゃない。よかったわね、優曇華」師匠が目配せすると、助手は外来人たちに顔を戻してから「は、はい。ありがとうございます!」と礼を述べた。

 

 この包丁はプロシェフにも人気のある商品で、その切れ味はスイカを楽に輪切りにでき、大きめの魚も背骨ごと切断可能。料理するのが格段にラクになる、そんな代物だった。

 永遠亭の包丁は、切れ味が研いでも落ちやすくなっていたので、優曇華的にはこの贈りものはグッドタイミングだった。彼女も輝夜同様、嬉しそうにしていた。

 

 すべての品を渡した右京は、これで治療費を払えたと、胸をなでおろす。

 贈りものの時間が終わり、永琳が来客ふたりに「今からお夕飯を作るけど、食べる?」と訊ねた。代表して右京が「よろしいのですか?」と、訊き返す。

 彼女は笑いながら「これほどのものをもらって、ご飯のひとつも出さない訳ないでしょ。大したものは出せないけど」と続けて「もちろん、寝床も用意させるわ」と、幻想入りしたばかりの特命係に配慮した。

 紳士は「お言葉に甘えさせてもらいます」と、頷いて無事、本日の宿泊先を確保するのであった。

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