右京は釜でご飯を炊く準備してから肉や野菜を購入しに外に出る。その間、尊がグツグツと音を立てる釜の様子を眺めていた。
三十分後、右京は野菜、肉、魚、複数の調味料を籠に入れて帰宅し、すぐに調理を開始する。
手際よく下ごしらえする右京に尊が感心したように声を漏らした。
そこから一時間半後にはご飯、味噌汁、肉じゃが、川魚の塩焼きを完成させて、二人で頂いた。素材が新鮮かつ薬品が加えられていないおかげか、自然の味が楽しめた。
右京は「これはよいですね~。作った甲斐がありました」と感想を述べ、尊が「久々に和食、食べましたけど美味い……てか、杉下さん料理上手すぎでしょ」と感動した。
「それほどでも」
右京はいつものトーンで返すが、明らかに上機嫌だった。
夕食を終えた二人は食器を片づけてから雑談に勤しみ、二十二時に床に就く。
翌朝、目を覚ました右京は昨日、作り置きしておいた料理を皿に取り分けて、自分の分と尊の分をテーブルに出した。
肉じゃがや味噌汁は具に味がしみ込んでさらに美味くなっていた。
右京が食器を運ぶと尊は「僕も手伝います。腰も大分よくなってきたので」と言いだしたので食器洗いを任せた。
尊が食器を洗う間、右京は香霖堂から買った本に目を通していた。種類は幻想郷の歴史が書かれた物や妖怪についての手記など幻想郷に関連する書物ばかりだ。
作業を終えた尊は右京の読んでいる本が気になり覗いてみるも、変体仮名で書かれていたのであまり理解できなかった。
ページをさらさら捲ってある程度ポイントを抑えると右京は尊に「十時頃になったら鈴奈庵に行きますが、君はどうしますか?」と訊ねた。元部下は「貸本屋ですよね? 僕にも読める本ありますか?」と問う。右京は笑顔で頷き、それを確認した彼が「でしたら行きます」と言った。
右京たちは鈴奈庵の開店と同時に家を出た。鈴奈庵まで十分程度なのですぐに到着。入口を潜ると小鈴が出迎えてくれた。
鈴の少女は刑事の隣にいる見慣れない男を不思議そうに観察していた。
「えっと、表の方……ですよね?」
「そんなところかな」
「ほえー、杉下さんのお友達ですか?」
「ええ、そうだと思って頂ければ」
「わかりました。私は本居小鈴って言います! 見たい本があれば是非お申し付け下さいね!」
「ハハ、ぼくは神戸尊って言います。今後ともお見知りおきを」
もともと、小鈴は明るい性格なので右京の友人とわかると尊にも笑顔を振りまいた。
二人は本棚を漁り、テーブルで何冊か本を取って読みふける。もちろん、今回は無料ではない。右京が小鈴に本代を支払い、読書させて貰う形を取っている。
彼らのテーブルには妖怪の残した本から昭和初期に出版された古本や外来本など様々なジャンルのものが置かれていた。
右京は主にまだ読んでない幻想郷の歴史、妖怪、落語、妖怪の手記などの本を。尊は表の人間用に書かれた幻想郷縁起や幻想入りした外来本に目を通していた。
二人は昼を過ぎても本を手放さない。尊は幻想郷や妖怪の知識を深めるため、右京は自身の目的のために学習を怠らない。
暇になった小鈴が二人に紅茶を出して外から流れついたと思われる蓄音機にレコードをセットし、曲をかける。流れた曲は昔懐かしいクラシックだった。
外来人たちは懐かしそうに互いの顔を見やった。音楽があるかないかで店内の雰囲気がガラッと変わるものだ。右京や尊のような現代人には音楽があったほうが落ち着くのだろう。二人はさらに読書を続けた。
時刻が十三半時を回る。さすがに腹が減ったのか、二人は読んでいた本を一旦、小鈴に預けて自宅に戻り、昼飯を食べる。ご飯、味噌汁、肉じゃが、焼き魚と純和風なメニューに尊は「なんか健康になれそうですね」と呟き、右京も「ですね」と返す。
昼食を食べ終わった二人は再び、鈴奈庵を訪れる。そこには小鈴と話す魔理沙の姿があった。
「よぉ、おじさん」
「こんにちは、魔理沙さん」
「杉下さん、魔理沙って……あの?」
「そう、彼女が霧雨魔理沙さんです」
右京が尊に魔理沙を紹介した。
魔理沙が紳士に聞き返す。
「そっちのにーさんが表から来たおじさんの友達か?」
どうやら、尊のことは小鈴から聞いていたらしい。
「そうです」
右京が答えると魔理沙が挨拶した。
「私が霧雨魔理沙だ。よろしく」
尊は右京から魔理沙のことを聞いていたので彼女の口調が男っぽいのは知っていた。
しかし、遥か年下の小娘がここまでラフに接して来られるのは些か不愉快だった。それでも、人間離れした戦闘力を持っているのでここはグッと我慢して、素の態度で白黒の少女に接する。
「どうも、俺は神戸尊。この人の
「
「今は違う部署で働いてるからね」
「ふーん、そうか。じゃあ何でここに迷い込んだんだ?」
「この人の現相棒に頼まれて探していたら幻想入りしてしまったってところかな」
「そいつは大変だったな……」
「ハハハ……」
尊は苦笑いしながら自分の運の無さを呪った。一歩間違えば、妖怪に殺されていたのだから当然だ。魔理沙が疑問を口に出す。
「で、どうやってこっちに入って来たんだ? おじさんと同じく長野ってところの神社から迷い込んだのか?」
「そうだよ。村の人に話を訊いて、神社を散策していたらいつの間にか竹林に迷い込んだんだ」
「竹林か……。あそこも妖怪や幽霊がうじゃうじゃいるしな。普通の人間が迷い込んだらマズイ場所だ」
「正直、死ぬかと思ったよ。途中、白髪の女の子に助けて貰わなかったら、ヤバかったかも……」
「白髪の女――
「知ってるのか?」
「
「不老不死!?」
物凄いワードに面食らう尊。
即座に右京が聞き返す。
「おやおや、不老不死とは!?」
「実際、私もよくわからんが、攻撃を食らっても即時再生するところをみると満更でもないのだろう。気になるんだったら竹林へ行って本人に訊いてみればいいさ」
尊を助けた人物は藤原妹紅という人物だった。彼女は竹林に住む人間だが、不老不死であり、強力な妖術を使う。右京も名前は知っていたが、相手が不老不死だったことまでは知らなかった。阿求が執筆している幻想郷縁起にも書いてあることとないことがある。
竹林の話題はマミとの雑談でも出たが彼女は「あそこにはやたら健康な少女がいるらしいのう」としか喋らなかった。
右京は日本における不老不死の話でメジャーな物を頭の中に連想して。
「(不老不死の伝説となると、竹取物語に登場する不死の薬か人魚の肉を食べたとされる八尾比丘尼でしょうかねえ。いずれにしても無視はできませんね)」
好奇心を巡らせた。
その後は魔理沙を混ぜた四人で雑談に花を咲かせる。右京と尊は表の話題。魔理沙と小鈴は幻想郷の話題を互いに出し合い、交流を深めながら情報を得ていくのであった。