相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第43話 緋色の提案 その1

 紅魔館が誇る西洋料理と右京の紅富貴(べにふうき)の力もあって、出席者は皆、満足そうに晩餐会を楽しんでいる。

 立ち上る優雅な香りと共に、右京はカップに残った最後の一杯を飲み干す。

 

「本当に良い味ですねえ~」

 

 気品に溢れつつもどこかオリエンタルな味を出す紅富貴は右京の心を満たし、彼を幸福へと導く。隣の尊も「ご馳走様でした。凄く美味しかったです」と感謝を表す。「どう致しまして」右京が言った。

 出席者たちは余韻に浸りながら親しい者と雑談を行っていた。霊夢は魔理沙と楽しげに、小鈴は阿求とマミの三人で会話に勤しんでいた。

 そんな中――レミリアがこっそりと不敵な笑みを浮かべ始め、従者である咲夜のほうを向き、片目を閉じて合図を行う。それに気がついた咲夜はコクンと頷いてから主の隣へと一瞬で移動する。同時にレミリアはパチュリーにも視線を送り、何かを報せた。大図書館の主も了承したかのような態度を見せた。

 間髪入れず、レミリアが出席者たちに向けて「ちょっといいかしら?」と声をかけ、注目を引いてから〝とある提案〟を持ち出した。

 

「せっかくだから、これからゲームでもしない?」

 

 その言葉に対して魔理沙が真っ先に反応する。

 

「まさか――これから決闘(スペルカード)でもしようって言うのか!?」

 

 魔理沙の発言を堺に霊夢やマミが嫌そうな顔をした。

 幻想郷におけるゲームでもっともメジャーなのはスペルカードを使った決闘なのだが、これが表の人間の連想するゲームとは違い、一歩間違えば、大けが間違いなしの危険な遊びなのだ。

 知っている者ならこんなリラックスしている最中、そんな遊びをしたいとは思わないだろう。余程の戦闘狂を除いて。

 些か早とちり過ぎる三人に呆れたレミリアが首を横に振る。

 

「そんな訳ないでしょ……。皆が参加できる遊び――パーティーゲームよ」

 

「ぱーてぃーげーむ?」

 

 聞きなれない用語に戸惑う霊夢。すかさず、魔理沙が「多人数で遊べるゲームだ。花札とかさ」とフォロー。霊夢は手をポンと叩いて納得した。

 吸血鬼の提案に興味を持った右京が訊ねる。

 

「それは楽しそうですね。ちなみにどのようなゲームを?」

 

「うふふ、それはね――」

 

 子供らしい無邪気な笑みを周囲にばら撒くレミリア。今まで見せたことがない表情に右京の顔が若干だが、引き締まった。直後、彼女が意外なゲームの名前を挙げた。

 

「一風変わった〝人狼ゲーム〟よ」

 

「「「「「人狼ゲーム?」」」」」

 

 表から来た二人とパチュリーを除いた面々が疑問の声を上げる。 

 レミリアは彼女らの態度を当然のように受け入れた上で説明に入った。

 

「簡単に言うと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かしらね」

 

「うえ……。随分、趣味の悪いゲームだな」

 

「いかにも吸血鬼って感じね……」

 

 妖怪退治の専門家の二人は人狼ゲームの内容によい反応を示さない。

 魔理沙が「その内容――どっかで聞いたことがあるんだよなぁ」と一人呟く。そこに右京が「もしかして《汝は人狼なりや?》ではありませんか?」と訊ねると、白黒の少女は「あぁ、それだそれ! 香霖が言ってた奴だ」と言った。

 二人の会話を聞いた阿求も「なるほど、あのゲームですか」と納得する。周りが納得していく中、霊夢、小鈴、マミは意味が理解できず、ポカンとしていた。

 そこで右京が三人に向けて補足を行う。

 

「《汝は人狼なりや?》とは、昔からあるヨーロッパの伝統的な遊びをゲームとしてまとめた〝マフィア〟や〝人狼〟をアメリカの企業が商品にして販売した物です。日本では〝人狼ゲーム〟と呼ばれ親しまれており、最近はスマホの普及もあってか、若い人たちの間で流行っていましたね」

 

「ハハ、そうですね」と尊。

 

「君は人狼ゲームを遊んだことがありますか?」

 

 右京に問われた尊は「え、まぁ、祖父の別荘で親戚の子たちと遊びました」と答える。

 

「親戚の子供たちと楽しく人狼ゲームですか、よいですねえ」

 

「結構、疲れましたけどね」と尊は苦笑った。

 

 そこに小鈴が「どんなルールのゲームなんですか?」と右京に質問した。

 右京は話を戻す。

 

「参加者は村人陣営と人狼陣営に別れてゲームを始めます。ゲーム開始前にゲームマスターと呼ばれる進行役の方が参加者に陣営と役職が書かれたカードをランダムに配ります。基本的に陣営は村人と人狼の二つですが、村人の役職には占い師やハンターなど特殊能力を持った者が存在しており、それらの能力を駆使して人狼を追い詰めていきます。

 対する人狼側は村人に自身が人狼であると悟られないように立ち回り、村人に嘘を吐き、疑心暗鬼にさせるようなセリフで村人側が自滅するように導いて、夜にはターゲットの村人を選んで殺害して行きます。これを人狼側が全滅するか、村人と人狼の数が同じになるまで続け、前者なら村人の、後者なら人狼の勝ちとなる――という心理戦を用いたゲームです」

 

「へえー(ほう)」

 

 三人は右京の説明に合点がいき、人狼ゲームの内容を大まかながら理解した。

 その様子を見たレミリアが「説明、ありがとう」と自身の代わりに説明を行った右京へ感謝を述べた。

 これで全員が人狼ゲームの概要を理解したことになる。

 レミリアが何故、この場で人狼ゲームを提案したのか――不思議と右京はそこが気になったが、その疑問はすぐに払拭される。

 

「まぁ、幻想郷的に言うと――これから行うゲームは()()ゲームって感じになるかしらねぇ……?」

 

「……あ?」

 

 レミリアが放った()()というワードに霊夢の表情が突如として険しくなり、周りの空気が重くなった。同じく右京と尊以外の客人たちもまた、目を逸らしたり、呆れた顔になったりと、いかにも気まずそうな態度を取った。

 それを察しながらもレミリアはクスリと笑う。

 

「あら、どうかしたの? 私はここが〝妖怪の国〟だから、()じゃなく、()()と例えたのだけど?」

 

「ぐぐ……」

 

 レミリアにそう言われ、霊夢は腕を組んでから悔しそうにした。

 事態が把握できない尊は「え? え?」と驚きながら霊夢とレミリアの顔を交互に見やった。

 一連の会話を前に右京は霊夢の強張った表情を注視しながら、レミリアが何かしらの目的を持っていると察する。

 

「(これは面白いことになりそうですねえ)」

 

 これから始まる人妖ゲームに右京はそのポーカーフェイスの裏側で期待感を膨らませた。


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