相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第44話 緋色の提案 その2

 レミリアの顔を睨みながら霊夢は諦めたように大きなため息を吐き出し「わかったわ……」と呟く。

 次第に場の雰囲気が落ち着く方向へと向かった。

 この状況に不気味さを覚えた尊が右京に小声で質問する。

 

「杉下さん、これどういうことなんですか?」

 

「……さあ、僕にもさっぱり」

 

 右京は彼の質問には答えず、静かにこの事態を見守っていた。

 間が空いたのが気まずかったのか、マミが仕方なく、レミリアに訊ねる。

 

「と、ところで……その〝人妖ゲーム〟と言ったか? 具体的に〝人狼ゲーム〟とどう違うのじゃ?」

 

「人狼ゲームは人間対人狼――つまり、ワーウルフとの戦いでしょ? 幻想郷のワーウルフは大して強くないから恐怖感が出ず、面白みに欠ける。だからワーウルフを妖怪に置き換え、人と妖怪の戦い――人妖ゲームにした。今はそう思って頂戴」

 

 幻想郷のワーウルフは日本狼である。その数は不明だが、並み居る妖怪たちの中では決して強い妖怪とは言えず、ここにいるメンバーの実力からすれば、恐怖を感じる者はごく少数だろう。

 レミリアの話に納得がいかない魔理沙が重ねて訊ねる。

 

「何故、ワーウルフから妖怪に設定を変える必要があるんだ? わざわざ、そんなことしなくても楽しめるんじゃないか?」

 

「より幻想郷に身近な設定のほうが皆、楽しめるじゃないかと思ったのだけど……いけなかったかしら?」

 

「いや、別にそうとは言ってないが……」

 

 こう言われてしまうと、図々しい魔理沙も追及し難くなる。幻想郷の住民にわかりやすいよう、人狼を人妖に変えたと言うのだから。

 霊夢もしっくりとこないが、レミリアに悪意はなさそうなので、特に反論しない。

 それとは反対に阿求やマミは薄々とだが、何かに勘づいたらしく、レミリアの顔を意味ありげにジッと見つめていた。パチュリーは退屈なのか、終始無言であった。

 右京は各々の表情を悟られぬように観察。考察を続けていた。

 人妖ゲームへの質問が無くなったと判断したレミリアはゲームの説明へと移る。

 

「じゃあ、ストーリーを説明するわね――とある山に囲まれた平和な人里で突然、人が消えていなくなる事件が起きました。

 当初、里人は山で遭難したのだろうと考えていましたが、毎晩、一人ずつ消えて行くので、不審に思った若い男の里人が里外れに住む知り合いの薬師に相談へ行くと、彼女は家の中ですでに息絶えていました。

 しかし、死体の近くを見ると、床にとある文字が刻まれてしました。そこには『人に化ける妖怪が二匹』と書かれており、男は里に妖怪が侵入した事を知ります。

 急いで里に帰った男は生き残った里人にその事実を伝えました。ですが、里は他の集落からかなり離れており、どんなに急いでも三日以上はかかり、妖怪退治の専門家を引き連れてきたとしても最低、一週間は必要です。

 里人たちは悩みましたが、このままでは里人は全滅してしまうと察した若い男は残った里人を集めて、このように訴えました。『脚力に自信のある何人かに集落まで行って、妖怪退治の専門家を連れてきて貰うしかない。それまでの間、自分たちだけで耐えよう』と。こうして、里人と紛れ込んだ妖怪の戦いが始まりました――こんなところね」

 

「「「「「生々し過ぎる(ます)!!」」」」」

 

「あらあら……」

 

 人妖ゲームのストーリーが想像以上にシリアスだったため、周りから不満が噴出。レミリアは口元を押さえながらワザとらしく、驚いたフリをした。

 尊も引き気味でレミリアを見ていたが、右京は微かに笑みを漏らしながら、彼女に言った。

 

「中々――興味深いシナリオですねえ」

 

「杉下さんには好評みたいね」

 

「ええ、非常に良く、()()()()()()()()()()()されていると思いましてね」

 

「ふふ、考えた甲斐があったわ」レミリアは満足げだった。

 

 周囲の反応はイマイチであるが、緋色の吸血鬼は気にせず、話を続ける。

 

「次はルールを説明するわ。進行役の咲夜が参加者全員にランダムにカードを配り、参加者はカードに書かれている陣営と役職を暗記したらカードを裏に伏せる。そこからゲーム開始よ。

 ゲームは夜から始まり、最初に参加者以外の架空の里人が死亡し、妖怪が人里にいることが確定するわ。そこから里人全員が集まって、十~ニ十分程の議論を行い、怪しい人物を投票で決めて処刑するの。投票は咲夜が渡す紙に名前を書いて提出、集計の後、選ばれた里人が処刑されるわ。

 その後、夜へと移り、今度は妖怪陣営のターンとなり、ひっそりと妖怪たちが集まって殺害対象を一人決定し、襲って殺す。これを妖怪を全滅させるか、里人の数と妖怪の数が同じになるまで続けて、前者なら里人陣営の、後者なら妖怪陣営の勝利よ」

 

「ふむふむ、なんとなくわかった。じゃが、役職? と言ったのう……それらの持つ特殊能力とはなんじゃ?」

 

 マミは今の話で気になった点があった。それは役職の特殊能力である。人狼ゲームの醍醐味とは何かと言えば、この特殊能力を挙げる者が多いだろう。

 人間と人狼の騙し合いを左右する重要な要素である。これを知らずにこのゲームは遊べない。

 レミリアが彼女の質問に答える。

 

「役職は里人陣営に《里人》《易者》《狩人》《妖怪信者》。

 妖怪陣営は《人食い妖怪》が割り当てられているわ。

 《里人》は特殊能力を持たない一般人。

 《易者》は深夜に一度、占いを行い、対象の里人の陣営を知ることができる。

 《狩人》は一日に一度、選んだ里人を護衛し、妖怪から守ることが可能で、守られた里人は死亡せず、自分も死亡しないけど、連続で同じ里人を守る事ができず、妖怪に狙われたら一方的に死んでしまうから注意が必要よ。

 《妖怪信者》は里人の中にあって妖怪側の勢力――つまりは裏切り者ね。でも、片思いみたいな物だから妖怪からは味方だと思われておらず、易者に占われても当然、里人としか出ない。勝利条件は妖怪側が勝利する際、生き残っていること。反対に妖怪が敗北すれば自動的に妖怪信者も敗北する。ちょっと、変わった立ち位置の役職になるわ。

 対する妖怪陣営は《人食い妖怪》の一種類のみ。深夜に里人一人を選んで殺害する能力を持っていて、里人の数を減らして陣営を勝利に導くため、連携して里人を化かして行く。これでいいかしら?」

 

「まぁ、大体は把握したが――他の者はどうじゃ?」

 

 マミが周囲を見渡すと、そこにはルールを理解している右京とその相棒。何となく理解できている魔理沙、阿求、小鈴と意味があまりわかってない霊夢がいた。

 霊夢は基本、スペルカードや花札以外のゲームは嗜まないので、こういったゲームへの理解力は高くない。腕を組みながら頭を回転させているのか、停止させているのかその瞳から光を消している。全員が彼女に視線を集中させ、困り顔でその姿を眺めていた。霊夢は恥ずかしかったのか、気まずそうに顔をそらす。

 そこで右京が「一度、皆で練習してみませんか?」とメンバーに打診。レミリアも「そうね」と頷き、ルール把握を兼ねて、練習を行うことになった。


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