相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第46話 緋色の提案 その4

「夜が来ました。里の住民は皆、寝静まりました。私はこう言いましたら、皆さんはテーブルに伏せて下さい」

 

 咲夜の指示に従い、参加者はテーブルにうつ伏せになる。

 

「続いて――狩人の方は周りに悟られないように身体を起して下さい」

 

 指示通り、右京がそっと身体を起こす。

 

「それでは、狩人の方は警護対象を一人選んで、指差して下さい」

 

 右京は周りに気が付かれないようにレミリアを指差す。理由は易者名乗りをしているからだ。易者は重要な役職であるため、狩人が最も警護しなければならない対象である。

 右京としても客観的に見る限り〝レミリアが易者を騙っているのでは〟と怪しんだが、周りにゲームの面白さを伝えるなら、レミリアのほうがよいと踏んで、彼女を選んだ。

 彼の選択を確認した咲夜は「対象が決定されました。狩人の方は再び、伏せて下さい」と指示。右京はそれに従った。

 

「次に、妖怪の方は周りに悟られないように身体を起して下さい」

 

 指示通り、レミリアとマミがそっと上体を起こす。

 

「それでは、妖怪の方は襲う方を一人選択して下さい」

 

 レミリアとマミは互いの顔を確認し合い、ジェスチャーで襲う相手を決める。レミリアとマミの選んだ相手は同一人物であった。対象を確認した咲夜は妖怪二人に伏せるよう促す。

 最後に咲夜は易者を起こす。

 

「続いて、本物の易者の方は周りに悟られないように身体を起して下さい」

 

 指示通り、霊夢はそっと伏せていた身体を置き上げる。

 

「易者の方は占いたい里人を指差して下さい」

 

 霊夢は無言でパチュリーを指差す。その瞬間、咲夜は小声で「あの方は里人です」と告げてから再び、霊夢に伏せるように促した。

 

 これで夜のフェイズは終了である。

 咲夜がゲームを進める。

 

「それでは、夜が明けました。昨晩の犠牲者は〝霊夢さん〟です」と宣言。

 

 霊夢はゲームから脱落となった。

 

「な!?」

 

 唖然とする霊夢。その事実を下に魔理沙が考察を始める。

 

「霊夢がやられたとなると、狩人役はレミリアを守ったと考えられるな。つまり、狩人はレミリアを本物だと思った。ま、素人の考えだがな」

 

「易者の重要性を知っている狩人役の方ならば、易者を守るでしょうし、そう考えるのが妥当かもね。ということは……」と呟きながらレミリアに視線を向ける阿求。

 

「ゲーム内の易者がレミィ一人になった」

 

 パチュリーが静かに語った。

 

 話を聞いて右京も「果たして、レミリアさんは本物の易者かそれとも……」と意味深な言い方をする。

 練習のため、カードがオープンになっているが、皆、互いの役職を知らない前提でゲームを進めている。

 

 人狼ゲームの人狼は基本的に自らを襲うなどという行為には及ばない。通常は村人、特に厄介な占い師を優先して狙う。今回のケースは右京が偽占い師のレミリアを守ったので、霊夢は守られず、村人にとっての切り札を失わせる結果となった。

 だからこそ、占い師は自分が本物であると信じて貰えるように立ち振る舞っていかなければならない。今回はゲーム初挑戦なので、不慣れであるのは仕方ないが、慣れてきたらあの手この手で証明していくのがよいだろう。

 

 妖怪側も狩人を欺けたおかげで成りすましに成功。ゲームの主導権に握れる立場になったが、信用が足りておらず、レミリアが妖怪または妖怪信者の可能性が残っている事実である。

 なので、役職が多くない人妖ゲームにおける妖怪信者役は易者を騙るのがいいかもしれない。

 そうする事で妖怪側のリスクを少なくできる。ちなみに魔理沙も内心こうなるなら自分も動けばよかったと少なからず思った。

 

 妖怪にやられた霊夢はここでリタイアとなるが、彼女は元々、負けず嫌いなのか、ゲーム上の敗北であっても凄く嫌そうな表情を浮かべていた。

 これで脱落者が二名となる。

 その後は、レミリアが易者となり、嘘の占い結果を参加者に伝えた。参加者達は議論と吊り、襲撃を繰り返しながら、ターンを重ねて行き、結果的に右京、阿求、マミが残るが、最後はマミが吊られて、里人側の勝利となった。

 

 練習試合を制した右京は阿求に「とても、すばらしい考察でした」と称賛し、阿求もまた「杉下さんこそ、お上手でしたよ」と笑顔で返した。マミはため息を吐きながら「練習とわかっていても負けるのはあまり、良い気分ではないのぉ」と愚痴を零す。

 そこに右京がすかさず「いえいえ、マミさんの発言も説得力があり、聞いていて納得する部分が多く、只者ではないなと思わされましたよ」とフォロー。マミは「口が達者じゃのう、杉下どのは!」と上機嫌になった。

 

 早い段階で脱落した尊も口を開き「皆さん、話し上手で、外野で感心しながら聞き入ってましたよ。とても、初心者とは思えませんでした」とコメント。

 魔理沙も右京、阿求、マミを指して「まぁ、この三人は上手いよなぁ……」と呆れ気味に呟く。

 右京は警察官として、阿求は物書きと政治、マミは謎に包まれているが、それぞれ話術を必要とする職業や地位におり、その一端を人狼ゲームという推理ゲームで披露しただけに過ぎない。

 実際、右京は人狼ゲームの知識こそあるが、プレイ回数は数える程度。阿求も同じく知識があるだけでプレイそのものは初めて。マミに至っては勘を頼りに化かし合いをしているだけである。

 

 ルールをある程度、把握した参加者たちは少し、休んでから本番を迎えようとするのだが、そこに魔理沙がとある指摘を行う。

 

「一ついいか?」

 

「何かしら?」咲夜が反応する。

 

「さっきのやり取りで机に伏せてから狩人、妖怪、易者がそれぞれ、起き上がっただろ? その時、振動で誰が立ったのか、何となくだが、わかってしまったんだよ……。進行役の足音も響くし――おまけに物音に敏感そうな連中もいるんだ――このままだとそいつらが有利な気がするんだよなぁ」

 

 魔理沙はレミリアやマミの顔をチラチラと見ながら言った。

 

「なるほど、一理あるわね」霊夢が同意する。

 

 それをきっかけに魔理沙の意見に同意する声がちらほらと挙がった。

 実際、近くの人間が動けば多少なりとも気がついてしまうのは仕方ないことである。

 大型の長方形テーブルを用意すれば、解決するのでは? とレミリアが提案するが、今度はテーブルを囲んで楽しむという人狼らしさが損なわれる可能性をパチュリーが語った。

 その際、咲夜が「椅子だけ用意して、円形になって囲むというのは?」と発言。物音も咲夜なら、時間を止めて音を立てずに移動できるので問題はない。その意見が採用された。

 参加者が同意したので、試しのその案でゲームを進めてみたが、やはり、ジェスチャーの際、どうしても物音が出る。物音はレミリアやマミだけではなく、隣の人間にも勘づかれてしまい、ゲームがつまらなくなってしまった。

 妖怪と人間が共存する幻想郷において、ルールの決定は難しいのかもしれない。

 

 悩んだ末、右京が「投票する際に紙とペンを用意してそこに自分の名前、里人の投票先、特殊役職の指定先を記入し、進行役に渡すというのはどうでしょう?」と言い出した。

 すると、阿求が「名前と投票先はいいですが、指定先を書くと自分が特殊な役職であるとバレてしまうのでは?」と心配する。

 右京は「投票先と役職による指定先はアルファベットで記入、もしくは囲むするようにすれば、解決出来ると思います。追加ルールとして参加者は特殊な役職ではなくとも、役職欄に記入するという行為を付け加えれば、そこから見破られるリスクは限りなく低くなるかと」と発言。

 レミリアは顎に手をやりながら「それなら、公平性が保てるわね。だけど、妖怪側の打ち合わせするタイミングがなくなってしまうのは痛いのではないかしら?」と自分の考えを述べる。

 右京も「その通りですねえ」と頷きながら、再び、良い案がないかと模索し始めるが、咲夜が手を挙げ「特殊役職の欄を二か所用意して上を第一候補、下を第二候補として、記入して頂ければ、私が照らし合わせてからお選びできますが……」と一言。

 その方法ならば、妖怪の襲う対象が割れるケースが減るが、肝心の話し合いができない。

 アナログの人狼ゲームでもアイコンタクトやジェスチャーでコミュニケーションを取り合う。スマホなどのネットタイプならば別枠のチャットや音声システムが設けられており、人狼同士の意思の疎通が可能であるが、幻想郷にインターネットは存在しない。

 アナログで人狼ゲーム――しかも、参加者に人外を含むなど、日本では決してあり得ない夢の試合。その分、ルールも必要に応じて変わってくるのだ。

 

 検討の結果、妖怪側は夜の時間、起き上がらず、昼の投票時に襲撃する相手を選択する方針になった。

 物音や揺れに敏感な者を考慮しての決定である。

 なお、尊が「もう少し、特殊役職を増やしたほうが盛り上がるのでは?」とレミリアに告げて、彼は幻想郷へ来る前に祖父の別荘で親戚の子供達と遊んだ人狼ゲームについて話した。

 尊は子供たちとインターネット上でプレイ出来る人狼ゲームでトップクラスの人気を誇るゲームをプレイしており、そのゲームの内容を大まかに説明した上で《霊能力者》や《恋人》などの様々な陣営の役職名を挙げた。

 その中でレミリアは〝とある人狼側の役職〟に注目。夜の打ち合わせが出来ない分、妖怪陣営側が不利になるので()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という特殊役職《妖怪賢者》を追加したいと提案した。

 実際、人狼版占い師と呼ばれる能力を所持しているので、妖怪側の戦力が大幅にアップするのだが、周囲から強すぎないか? と懸念の声が上がる。

 だが、右京が「結果を知れるのが《妖怪賢者》だけにするという設定をつけ加えれば、仲間に伝えるのも一苦労でしょう」と助言。

 阿求が顎に手をやりながら「そうなると、昼に里人を含めた議論の中で仲間に知らせないと行けなくなりますね。相当な難易度になりますが――大丈夫でしょうか?」と言った。

 すかさず魔理沙が「できるのは、お前とおじさんくらいじゃないのか?」と真面目に言った。

 卓越した話術や見た物を全て記憶する《瞬間記憶能力》を持つ阿求と帝都大出身の《和製シャーロック・ホームズ》《窓際の天才》と複数の異名を持つ右京ならば可能だろう。

 もしかすると、魔法使いパチュリーやエリートの尊や切れ者のマミも里人陣営の裏を斯いて仲間とコンタクトを取れるかもしれないが、常人には難易度が高すぎる。

 考える一同。

 そこにマミが「ならば、回数限定で仲間に進行役を通じて報せられるという風にすれば良いのじゃなかろうか? 進行役は朝、易者に情報を与えるのじゃし、そのタイミングで先程のようにメモに書いて張り付ければよかろう」と発言。

 その意見に尊が「《妖怪賢者》も情報を知れるのは朝で、情報を伝えられるのも朝。おまけに回数限定となれば、早い段階から情報を伝えるのも善し悪しがある」と考察。

 続けて右京も「仮に妖怪賢者が吊られた場合、貴重な情報はそのまま、闇の中――となれば、駆け引きも生まれますね」とつけ加える。

 そこに小鈴が「回数限定の能力はどうやって使うんですか?」と質問。

 右京は「例えば、投票用紙の名前の横などに悟られぬよう、小さくを○を書く。そうすれば、何気なく、限定的な能力を使用できると思われます」と返答。

 

 それから間もなく《妖怪賢者》の追加が決まった。なお、妖怪側もメモで会話できるようにすればよいのでは? との意見もあったが、襲撃時に打ち合わせできる訳ではないので、その効果は薄い。

 また、尊が参加者九名の人狼ゲームは人狼がやや有利という俗説があると親戚の子供達から聞いたと話し、里人側に人狼ゲームで言うところのメジャーな役職である《霊能者》を入れていないので、もしかしたらバランスが取れているかもしれないと語った。

 それ以降、議論は収束へと向かい、ついに人妖ゲームのルールが完成するのであった。


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