相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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阿求と小鈴の席順を間違えていたので修正しました。
ご迷惑をおかけしました。


第49話 緋色の遊戯 その2

「おやおや、僕ですか! 大役を預かってしまいましたねえ」

 

「似合っていると思いますよ」と尊。

 

「無難じゃねぇか?」

 

 魔理沙が踏ん反り返った。

 他のメンバーも不満はなさそうだ。

 周囲をぐるっと見渡した右京が宣言する。

 

「それでは議論を行いましょう。とその前に――」

 

 右京は勿体付けたように言った。

 

「――この中に実は〝占い〟ができるという方はおりませんか?」

 

「占いだと!?」

 

 ワザとらしく驚く魔理沙。

 

「ええ、もし超常的な能力を持つ方がいるのでしたら、その方の意見を是非、参考にしたいと思いましたので!」

 

「あー、言われてみりゃあ、この里には〝一人だけ〟占いができる奴がいたっけなぁ~」

 

 魔理沙は白々しく言い放った。

 参加者の中から〝二人〟が手を挙げた。

 

「儂じゃ」

 

「私よ」

 

 マミとパチュリーだ。二人はほぼ同時に手を挙げた。

 その動作はごくごく自然な物で不審な点は見当たらなかった。

 どちらも互いを見やり、

 

「儂が易者じゃ」

 

「私が易者よ」

 

 と語った。

 クレバーな表情のマミに無表情のパチュリー。いつも通りの二人だ。

 

 参加者は二人の様子を観察するも、どちらも雰囲気に変化がないので、表情や態度だけでは判断できないようだった。

 右京がクスクス笑う。

 

「おや、二人いますねえ~」

 

「これはおかしいぞ」

 

 顎に手をやる魔理沙。

 

「まさか、どちらかが……妖怪ッ!?」

 

 たじろぐ尊。白黒の魔女が怪しんで、元部下が妖怪の疑惑をかける。まさかの連係プレイであった。

 参加者は思わずクスクスと笑ってしまう。二人を視界に据えた右京が確認を取る。

 

「これは――確かめるしかないようですねえ。お二人ともよろしいですか?」

 

 二人はその意味を理解して「かまわん(ないわ)」と応えた。

 右京は二人の候補の中で自身の視線に近いパチュリーを指名した。

 

「パチュリーさんから簡単な紹介と占い結果をお教えください」

 

 指名されたパチュリーが自己紹介を始める。

 

「私はごく普通の里人よ。変わっているとしたら趣味で占いをやっているくらいかしら。オーエンさんのような悲劇を生まないため、微力ながら協力させてもらうわ」

 

 パチュリーはその場で立ち上がり、右掌を正面にかざし出す。

 その瞬間、掌を中心に七色の小型魔法陣が展開。球体を模した光の渦が形成され、いくえにも重なり合うように擦れ動く。

 周囲が驚く中、彼女は「光の天球、ホロスコープよ――我を導け」と呟く。

 すると、光が結晶のように砕け、粒子が地面に落ちる前に霧散した。

 それを見届けたパチュリーが饒舌に語り出す。

 

「星の導きによれば〝本居小鈴さんは人間〟と出たわ。信じるか信じないかはあなたたち次第。だけど、そこの占い師さんに私以上のことができるかしら?」

 

 彼女はマミを軽く挑発してから席に着く。

 パチュリーの占術を模した魔術パフォーマンスに右京は感動を顕わにしながら拍手した。

 

「すばらしい西洋占星術ですねえ! 感動いたしました!」

 

 それにつられるように皆がコメントした。

 

「さすがはパチェね!」友人の行動に喜ぶレミリア。

 

「すごーい……」口を塞ぐ小鈴。

 

「お見事」と阿求。

 

「すげえ……」腰を抜かした尊。

 

「それくらい私でもできる」お株を取られて、ご立腹な魔理沙と霊夢。

 

 周りが拍手する中、挑発されたマミだけは目を細め「コヤツ、やってくれるわい」とポーカーフェイスの裏側で対抗心を燃やしていた。

 ある程度拍手が鳴り止んだタイミングで右京はマミを指名する。

 

「お次はマミさん、よろしくお願いします」

 

「うむ。儂はこの里に住む焼き鳥好きの健康マニアじゃ。占いは趣味で嗜んでおるが、ここに来る前はそこそこ当たると評判じゃった。今からその技を見せてやろう――ふんっ」

 

 マミは紋付羽織の裾から周りに見えぬよう緑色の葉っぱを一枚取り出して、それを机にドン! と押し当てると、連動するように葉っぱが煙へと変化。テーブルの上に八本の柱が出現した。

 

 一定間隔に立ち並んでから煙同士か線を結び、八卦の陣を形成する。

 すかさず、マミが右手を天にかざして指を鳴らすと煙が弾けるように消え去り、テーブルには細長い紙だけが残った。

 その紙には日本語で〝博麗霊夢は人間〟と書かれていた。

 

「天の導きによると〝博麗霊夢は人間〟だそうじゃ。当たるも八卦、当らぬも八卦――信じるのはおぬしら次第。じゃが、そこの占い師よりは当たる。そう断言しようぞ」

 

 そう決め台詞を吐いてからマミは席に座った。

 その姿にパチュリーは微かに笑顔を作ってから、拍手を送る。

 進行の右京が「こちらは東洋占星術ですねえ! 御見それしました!」と拍手した。

 周りもパチパチと拍手。その中で尊は「やっぱり妖怪だったか」と内心思うも元々、隠す気がなかったのだろうと考え、ごく自然に流した。

 マミは「なぁに、大したことないわい!」と満更でもない表情だった。

 もはや、ゲーム関係なく、純粋なパフォーマンスに参加者は喜んでいた。

 お酒が入っているせいか、いつも以上に皆のノリがよかった。

 

 しかし、魔理沙が呆れながらに「これじゃあ、新春かくし芸大会だぜ……」。霊夢が「どっちも人間業じゃないわね……」とこぼした。

 

 そこに右京が「ここは妖怪がいる不思議な世界ですから」とフォロー。

 追求は野暮だと思ったのか、参加者たちも空気を読んで占い方法については無視して議論の準備を始める。

 右京は時間を気にしてか、やや早口ぎみに場を仕切る。

 

「占いにてパチュリーさんは小鈴さんを人間。マミさんは霊夢さんを人間と断言しました。ですが、里の占い師は一人だけです。どちらかが妖怪かその関係者であることは明白です。

 この点におきまして皆さまはどう思われるのか、また誰が妖怪だと思うのか――レミリアさんから順に時計回りでお聞きして回ろうと思います。

 時間も残り十二分ほどでしょうし、一人三十秒から一分程度の時間でご意見を述べてください。易者の方は全員の意見を聞いた後、マミさんからご意見や反論などを伺わせて頂きます。残りの時間はフリートークとします。それではレミリアさん、お願いします」

 

 レミリアは進行役の手際を指して「お上手ねぇ」と無邪気に微笑む。

 

「パチェもマミさんもすばらしい技術を持っているわね。どちらかが妖怪だなんて信じたくないけど、あえて言うならマミさんが妖怪かもしれない。

 根拠は特にないわ。二人とも上手だしね。ただ、パチェの〝星の導き〟というフレーズが気に入った。そう思って頂戴。それと他の妖怪は魔理沙辺りじゃないかと睨んでいるわ。理由は〝仕切りたがる〟からかしら? ふふっ」

 

「仕切りたがって悪かったな」と即座に魔理沙が返す。

 

「なるほど、参考になりますねえ。お次は阿求さん。お願いします」

 

「はい」

 

 そう返事をして阿求は意見を述べた。

 

「お二人の占術はとても魅力的でした。西洋と東洋の共演。この地ではまず見れる物ではありません。甲乙つけがたいですが、今回はマミさんを支持させて頂きます。理由はパチュリーさんが妖怪ではないかと疑ったからです」

 

「それはどうしてでしょうか?」

 

「まず、パチュリーさんが議論を進行しようとしたところに引っ掛かりを覚えました。彼女はあまり話し合いに参加しなかったのにも関わらず、肝心な場面に入るところで議論をまとめようとした。そこに些細ですが、不自然さを感じました。それだけです」

 

 このように阿求が説明した。

 話を聞いたパチュリーは「そんなつもりはなかったのだけれど」と、いつものトーンで述べる。

 

 人狼ゲームとは相手を疑うゲームである。

 相手の言動や動きを見て疑問に思えばそれを率直に伝え、議論を活性化させていくのだ。

 反対に議論へ参加しないメンバーがいればそこから選んで吊っていくという戦法も存在する。

 ただ、攻めた発言をしすぎると反対に自分が吊られるまたは人狼に襲撃される恐れもある。

 この駆け引きが中毒者を続発させる要因となっているのだろう。

 阿求はこのゲームの本質をよく理解しており、必要以上に発言し過ぎないように配慮していた。右京に匹敵するその頭脳は洞察力でも秀でている。

 

 右京が「他にありますか?」と問う。

 彼女は「今のところ、それくらいですかね」と一言。

 進行役の右京は、わかりましたと告げてから、次の発言者の名前を呼ぶ。

 

「お次は小鈴さん――お願いします」

 

「ふえ!? あっ……えっと、パチュリーさんの占いは西洋感特有の煌びやかさが出ていて、凄くよかったと思います! マミさんの東洋占星術もカッコよかったです! 煙がバーって出るの!」

 

 小鈴は目を煌めかせながら感動を身体で表した。

 

「ありがとう」とパチュリーは返し、マミも「ふっ、それほどでも」と、気分をよくした。

 

 小鈴は続ける。

 

「――どちらも凄いけど、私にはどっちが本物かの区別がつけられません。だけど、東洋占星術にはその……〝苦い経験〟があるので、今回はパチュリーさんの占いを支持しようと思います。マミさん、ごめんなさい」

 

「よいよい」と本人がフォローした。

 

 右京が訊ねた。

 

「他に何か気になったことなどはありましたか?」

 

「気になったことですか?」

 

「例えば、怪しい動きをする人物、妖怪なのでは? と思う人物など、些細なことで構いません」

「うーん、そうですね――」

 

 小鈴は周囲を見渡してから「全員が自然体すぎて、誰が妖怪だとかわからないんですよね……」と困り顔をした。

 

「わかります。僕も正直、区別がつきません。これからじっくり考えていきましょうか――お次は霊夢さん。よろしくお願いします」

 

 霊夢はコクン頷いてから自分の意見を述べた。

 

「まぁ、占いの演出は皆が賞賛しているので置いておきますが――占いの結果を考慮すると、私を白に指定したマミさんが正しいような気がしますが、何だか胡散臭いので微妙な感じもします……」

 

「何じゃそれは」と白けるマミ。魔理沙は「どっちも信じてないってか?」と尋ねた。

 

 彼女は「必ずしも易者が名乗り出るとは限らないでしょ? ここの連中の性格を考えるとね」と返した。

 このゲームしかり、本家人狼ゲームしかり占い師役の人物が必ずしも手を挙げなければならないとするルールは存在しない。それすら任意なのだ。

 しかし、それをやると本家では大バッシングを受けるので極力控えよう。

 霊夢の意見に尊は「これでどっちも偽物だったらハードモードだよ」とこぼした。

 里人陣営で一番、力を持つ易者が序盤から名乗り出ないのだ。当然だろう。

 その意見に幻想郷の住民は「ありえない話じゃない」とこぼし、尊は苦笑った。

 彼女は続ける。

 

「二人占い結果だけが全てではない。そう言いたかっただけです」

 

「なるほど、参考になります。他に何かありますか?」

 

「……妖怪かなって思う人はいます」

 

「それはどなたでしょうか?」と右京が問う。

 

 霊夢は視線を移さずに、こう言った。

 

「杉下さん」と。

 

 メンバーはまさかの進行役への指名に皆が驚いた。

 名指しされた本人は「おやおや! それはまた」と驚いて見せてから「どうしてそう思われるのですか?」と訊き返した。

 彼女は「何となくです。というより〝敵だったら厄介かも〟って思っているからかもしれません」と、どこか不敵な笑みを浮かべた。周囲は図書館でのことをまだ根に持っているのか、と苦笑した。

 

 確かに右京は味方なら心強いが、敵なら最悪の相手だ。

 霊夢や魔理沙などは嫌と言うほど彼の能力を理解している。霊夢はゲームの役職うんぬんよりも相手のスペックで吊るか吊らないかを判断したのだ。

 本家ではあまり聞かない話だがもし《シャーロック・ホームズ》が自分たち主催の人狼ゲームに参加しているなら、そういう選択もアリだと考える者もいるだろう。

 

 それだけ脅威なのだ。ホームズも右京も。

 右京は自分が妖怪だと疑われているがそのスマイルを崩さず「ご心配なく、僕は里人ですから」と語った。

 続けて彼が他に疑わしい方はいるかと問うとも彼女は首を横に振った。

 次の発言者が魔理沙へと移る。

 

「お次は魔理沙さん、どうぞ」

 

「ようやく私の出番か。ここは〝汝は人狼なりや?〟経験者としてガツンとかましてやるぜ!」

 

 魔理沙は高らかに宣言した。

 それを見たメンバーは一抹の不安を覚えた。

 自身満々に魔理沙は発言した。

 

「占いの結果からして小鈴か霊夢のどちらかが白だろう――だが、どちらかを妖怪側が庇った可能性もある。両方()()()()

 

「「ちょ!?」」まさかの吊っとけ発言に口を開ける対象者二人。

 

「でもってだ。セオリー通りだとパチュリーとマミのどちらかが妖怪側だ。本物だったらいいが、偽物を選んでいたら大惨事だ。どっちも普段から〝曲者〟だから遅くとも中盤辺りで両方吊っとけ」

 

「ぶっ」と吹き出すマミ。

 

「……」目を細めるパチュリー。

 

 魔理沙は無視して続ける。

 

「今言った四人は消えると仮定して、残りは誰を消すだな」と辺りを見回す。

 

 周囲は面を食らったような顔をしている。

 そこに彼女は更なる爆弾を投下した。

 

「霊夢も言ったが、敵に回したら厄介な奴も危ないから吊ったほうがいいと思うんだよなぁ。

 うーん、阿求は頭がよくて機転が利くし、おじさんはこの手のゲームはべらぼうに強そうだから、安全策を取るなら早めに吊ったほうがいいかもな――次は表のにーちゃんとレミリアかな。そうなれば、里人の勝利だぜ!」と彼女は里陣営が勝利するプランを公に語って聞かせた。

 

 大胆すぎる発言に参加者と咲夜を含めた全員がズッコケそうになった。

 それもそのはず。

 彼女が語ったのは人狼のセオリーという名の〝自分が生き残るぜ大作戦〟だからだ。

 あまりにもド直球。

 右京が笑いながらコメントを贈る。

 

「いやー面白いですねえ~。人狼系のゲーム序盤でここまで思い切った発言をする方など見たことありませんよ!」

 

「だろ? ゲームは楽しく、激しくだ」

 

 鼻高々な魔理沙。

 

「味方まで混乱させて、どーすんだい!」

 

 ツッコミを入れるレミリア。

 

「「全くです(だわ)」」と愚痴る阿求と霊夢。

 

「クレイジーすぎんだろ……」と呟く尊。

 

「なんか、気分悪いんですけどっ」とジト目を向ける小鈴。

 

「おぬしよ、もう少し考えんかい……」とマミ。

 

「アンタらしいわ……」と呆れるパチュリー。

 

 魔理沙は「気に入って貰えたようで何より!」と言い放ったが間髪入れず、

 

「「「んなわけあるかーーー!!」」」と咲夜を除く、幻想郷勢から総ツッコミを受けた。

 

 尊はあんぐり、右京は腹を抱えて大笑い。

 当の本人は両手を挙げながら「あーはいはい」と、いつも通りの態度だった。

 人狼ゲームをやる際は過激な発言は慎んだほうがよい。

 最悪、友情まで破壊してしまう可能性がある。

 魔理沙の場合は元々そういうキャラクターだというのを皆が理解しているからギリギリで成立しているのだ。くれぐれもご注意を。

 こうして幻想の夜は続いていく――。


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