魔理沙ショックがある程度、落ち着いてから発言者が尊に回った。
彼は手慣れた感じで考察を述べる。
「占いの件ですが、僕はパチュリーさんの占いを支持――つまり、本物の易者だと思っています。
理由は大したことではありませんが、占われた二人の意見を参考にした場合、小鈴さんはいつも通りでしたが、霊夢さんはどこか演技っぽく見えました。
なので、ぼくはそこに妖怪っぽさを感じて、占ったマミさんを妖怪陣営側ではないかと疑うに至りました。
他には魔理沙の言う通り、杉下さんはこの手のゲームに
口元を緩ませながら尊は、左手で発言権を右京へ返すような素振りをした。
右京は元相棒からのさり気無い追い打ちに「おやおや……困りましたねえ」と困り顔をしてみせた。
釣られるように周りから笑い声が上がった。
笑いが引いたのを確認した右京が口を開く。
「僕の番ですね――西洋占星術のパチュリーさんと東洋占星術のマミさん、どちらも完成度が高く、そのパフォーマンスはほぼ互角だと思います。非常に悩みましたが、僕はマミさんを本物の易者だと考えました。
始まったばかりで根拠に乏しいのですが、やはり、先ほど阿求さんが述べた意見に説得力を感じたのが理由でしょうか」
右京の見解に魔理沙がコメントする。
「ん? 阿求の考察に乗っかろうって感じだな。何だか怪しいなー」
「おや、そうでしょうか?」
「おじさんならもっと切れのあるコメントをするはずだ――もしかして、進行役に託けて議論を操ろうって魂胆かい?」と意地の悪いことを言う魔理沙。
それを右京は「ふふ、僕はごく普通に議論を進めているだけですよ。そういうあなたこそ、僕を隠れ蓑にしようという考えなのではありませんか?」と綺麗に返した。
「はっ、考え過ぎだぜ!」
「どうだかねー。案外、妖怪信者なんじゃないのアンタ?」と口をはさむ霊夢。
「議論に大きな衝撃を与えた訳だしのぅ」とマミ。
「あり得そうね」と阿求。
「そうかも」と小鈴。
魔理沙は「おいおい、そんな目で見るな。私は里人だ。じゃなかったら里人が有利な話をする訳ないだろ」と言った。
レミリアが「あれが里人に有利な発言なの?」と疑問を呈する。
「里人のための発言だぜ。里人が勝てば私の朝飯が豪華になるんだからな」
魔理沙はきっぱりと言い切った。
周囲は「コイツらしいな」と再び呆れ返る。
しかしながら、魔理沙の言い分は里人陣営が戦略を練る際、重要なポイントをいくつか押さえていた。
易者は易者を驕る妖怪や妖怪信者が潜みやすい。この役職に手を挙げた里人を吊れば敵を潰せる。彼らが最初に庇った里人も、妖怪がターゲットを逸らすために選んだ可能性もあるが故、吊ればリターンを得られる可能性がある。
最後の阿求や右京を吊れという発言も敵だったらと仮定すれば十分、選択肢に入る。
インパクトこそ大きかったが彼女が有益な発言をしたことになんら変わりない。
果たして霧雨魔理沙は里人側か妖怪側か――参加者は頭を抱えることとなる。同時に咲夜が「残り時間五分です」とアナウンス。
右京は易者役のマミに「一分程度でご自身のお考えを述べて頂けますか?」と端的に回した。
マミは唸りながらに言う。
「儂は本物の易者じゃ。手を上げるタイミングも同時じゃったからわかり難くいかもしれんが、嘘は吐いておらんぞ?」
「どーだかなー? 霊夢が妖怪という線もあるぜ? 発言的に議論を乱そうとした気もしなくもない」と魔理沙。
「少なくとも、おぬしよりは里人側っぽいがの」とマミが反論。
続けては彼女は「しかし、パチュリーどの以外の妖怪陣営がわからんかったわい。皆、上手じゃ」と参加者を評価した。
「互いに意見を出すだけであまり考察が進んでいないからねぇ」とレミリア。
「まぁ、初日ですから」とフォローする尊。
マミはふふっと笑みを零した後「後は皆に任せる」と右京を見やり、左手で進行するように促した。
右京はパチュリーに意見を求めた。
時間も時間なので彼女はすぐに語り出した。
「私が本物です。大分、疑われているから信じられないかもしれませんが」
「話に入ってこなかった奴が議論を進めようとしたからな」
魔理沙の言う通り、全員がいつも通りだったせいで普段、積極的ではないパチュリーが目立ってしまった感が否めず、彼女が妖怪側で議論を握りたがっているのでは? という疑惑を生んでしまった。
事実、右京や阿求からそこを指摘されている。
そうにも関わらず、パチュリーはニヒルな笑みを見せた。
「確かに――私が進行役になって議論を誘導しようとしたのは事実だからね」
とパチュリーは魔理沙へ言い返した。
彼女自身が議論を握ろうとしたと告白したのだ。
魔理沙は「自ら尻尾を出したか、妖怪!」と勢いよく指差した。
自身へ視線が集中する中、彼女は平然と言った。
「けれど、全ては里人陣営のためです」
「ほう~、それは一体どういうことかの?」と眼鏡をクイッと上下させるマミ。
パチュリーはマミを見ながら「あなたと阿求さんが〝共犯〟だとわかったからです」と告げた。直後、更なるどよめきが巻き起こった。
妖怪陣営扱いされた阿求は「どういうことでしょうか。ご説明願います」と間を置かず返した。
パチュリーが続ける。
「このゲームにはとある欠点があります――妖怪が打ち合わせするタイミングないという欠点が――。それ故、最初の易者騙りの際、妖怪陣営が全員易者を騙ってしまうというケースが想定されます。もしくは誰も手を挙げないだったりなど――」
何点の欠陥を抱えるこのゲーム。その一つが妖怪の打ち合わせ時間がないことだ。
そのため、易者騙りなど連携を必要とするタイミングでブッキングしてしまう可能性がある。
練習試合では空気を読んだのか、意図的だったのか〝全て上手く行っていた〟ので誰一人として気にしなかったのだ。
「練習試合では上手く行っていたので誰も気にしなかった――私自身、気が付いたのはついさっきでした」
「だったら今回も上手い具合にいったんじゃないのか? もしくは空気を読んだとかさ」と魔理沙。
「それは違う。ゲームが始まってからコンタクトを取っていたのよ」
パチュリーは断言した。
「なんだと!?」
声を荒げる魔理沙を余所に彼女は仮説を展開した。
「マミさんと阿求さんはこのゲームの欠点をある程度、察していた。そこにたまたま妖怪役が回ってきた。お二人は切れ者ですから、何かしらの方法でどちらが易者を騙るかを考えていた。判別できない妖怪信者はあてにはできないので自分たちで動こうと。だからこそ、議論開始時から五分で意思の疎通を図った。違いますか?」
彼女の考察にマミと阿求が反論する。
「ずいぶん――興味深い話じゃが、些か突飛過ぎるような気がするのう」
「全くですね。このメンバーの中で意思の疎通を行うなんて容易ではありません。テレパシーでも使えれば話は別ですけど、私たちはただの里人ですから、そのような力は持ち合わせていません」
すぐさま、パチュリーが切り返す。
「テレパシーなんていりません――」
「あん? じゃあ、どうやって……」
「ジェスチャー」
「「「ジェスチャー!?」」」
マミと阿求、パチュリーと進行役以外の全員が驚愕の声をあげた。
面食らったように右京は「それは、それは!? パチュリーさん、一体いつ、お二人はジェスチャーで意思の疎通を図ったのですか?」と説明を求めた。
「タイミングはマミさんが杉下さんに〝オーエンの話題〟を振った時です。あなたが彼女にオーエンの説明をした際、彼女は『お手上げじゃ、お手上げ』と言って手を挙げた。それが合図だった。
ほどなく、阿求さんが小鈴さんの話に乗って『私が訳してあげよっか』と言いました。小鈴さん――あの時、阿求さんは何かしらのマークを作っていませんでしたか?」
話を振られた小鈴が首を捻りながらも「えっと、右指でお金のマークを作っていたような……」と再現する。
すると、参加者はそのマークがとあるマークであることに気が付き始めた。
メンバーを代表して右京が「まるで○に見えますねえ……」と唸った。
パチュリーはニヤっと笑う。
「その通り――私もその瞬間を目撃していました。これは〝マミさんが手を挙げ――阿求さんがそれに答えた〟=〝自分が易者を騙る――わかりました〟というサインではないでしょうか?
そう考えた私は議論の主導権を握り、意見を伺いながらさり気無くお二人を追い詰め、ボロを出させるつもりでいたのです。全ては里のためを思った行動です。私の話は以上です。
そろそろ終わりまで残り一分を切っている頃でしょうし――後は皆さんにお任せします。私を信じるか、マミさんたちを信じるかを」
彼女は制限時間を測った上で席に座った。
その顔は無表情そのものだったが、全ての参加者が彼女の顔から目を離せずにいた。
右京が「すばらしい考察ですね……」と彼女の考察に感動した。
マミは「……ユニークな考察ではあるがのぅ。我々に反論をする時間を与えんよう、計算したやり口――偶然を利用して儂らを陥れようとしているにしか見えんわい。どっからどう見てもおぬしが妖怪じゃ」と苦言を漏らす。
阿求は「たまたま、タイミングが重なっただけです――ですが、周りを見る限り、私が妖怪だと怪しまれているのは紛れない事実。どうしても疑うというのなら、私を吊る――もしくは占ってみれば真偽がはっきりするはずです。パチュリーさんの理屈ならば私が妖怪なのですから」とやや苦しげだが、挑発的な態度を取った。
二人の言い分を聞いたレミリアが
「そう聞いちゃうと迷うわよねぇ~。いっそ――易者以外に投票というのも選択肢に入るかしら……」
とこぼした。
まもなく、制限時間がゼロとなり、投票フェイズへと移行する。咲夜はメンバー全員に投票用紙とペン、木製の下敷きを渡した。
参加者たちは投票用紙と睨めっこを始める。
(誰に投票すべきなのかしらねぇ~)
笑うレミリア。
(パチュリーの考察は説得力があるけど、信じていいものか……)
疑う霊夢。
(私の献身的な助言が霞んじまったぜ……)
ため息を吐く魔理沙。
(うーん、パチュリーさん凄いなー。でもなー迷うなー)
迷う小鈴
(どうなることやら……)
案ずる阿求。
(やれやれ、儂のメンツが丸つぶれじゃのう)
嘆くマミ。
(さて、どう動いていくかしら?)
警戒を怠らないパチュリー。
(レベルたけー……これは本気でやったほうがいいな)
気合を入れ直す尊。
そして――
(ふふっ、これは――楽しくなってきましたねえ!)
人外たちを交えた心理戦に武者震いの右京。
参加者は厳しい表情を浮かべながら対象者を選ぶ。
この用紙に易者なら占う対象、狩人なら警護対象、妖怪は襲う対象、妖怪賢者は襲撃対象と能力起動の選択を記号で書かねばならない。
妖怪賢者の能力はさておき、易者と狩人は能力対象をアルファベットで記入しなければならない。
この時、全ての参加者は吊るメンバーと襲撃メンバーを選ぶ訳だが、ここでもちょっとした心理戦が始まる。
例えば、早く書けば白々しいと帰って怪しまれ、遅く書いても襲撃対象を悩んだのではと怪しまれる。
空気の読み合い――特に策がなければ目立たないのが吉。
参加者はそれを理解している者もいればしていない者もいた。
霊夢はぱぱっと記入し終え、一番早くテーブルに裏返しで紙を置いた。
その数秒後にレミリア、魔理沙、阿求、マミ、右京、パチュリー、尊の順に紙を四つ折りにして見えないようにした上でテーブルに置いた。
小鈴は最後まで迷っており、尊が書き終えてから三十秒後に用紙を裏に伏せた。
咲夜が参加者のテーブルを確認してから「書き終わったようなので投票用紙を回収致します」と声を掛け、瞬時に用紙を回収。集計ののち、彼女が告げた。
「これより、吊られる人物の名前を発表します」
緊張の一瞬。
果たして誰が最初の処刑対象となるのか。
皆、咲夜が発表するのを今か今かと待っている。
そして――
「投票により〝マミさん〟に決定しました」
参加者の大半は「やっぱりか」とマミをみやった。
マミは肩を竦めながら「儂じゃないんじゃがのう~」と一言呟く。
刹那、マミの姿がこの場から消えてなくなった。
「え!?」
あまりの出来事に尊が狼狽えた。
すかさず、レミリアが「咲夜の演出よ」と語り、本人も「マミさんは近くの部屋にお連れしました」と笑顔で語った。
尊は咲夜が時間を止められるメイドかつその中で自由に動ける彼女の能力に心底、恐怖した。
「こんなのが表にいたら完全犯罪し放題じゃないか」と。
右京はいつもの雰囲気を保ちながら「凄い能力ですねえ~」と賛辞を送るだけだった。
「これより、夜のフェイズへ移行します――皆さん、目を瞑り伏せてください」
参加者は指示通りに行動した。
彼女は続ける。
「仲間の一人を処刑した里人は互いに疑心暗鬼になりながらも夕暮れになったことを理由にそれぞれの家に帰って行きます。その深夜、音もない暗闇の中、里に不審な影が忍び寄るのでした――」
決まり文句を言い終わるとすかさず、彼女は能力を発動。参加者が気付かないように〝とある人物〟をこっそりと運ぶのであった。