「朝がやってきました。目を開けてください」
一同、目を開ける。
参加者が互いを確認しあうのだが――
「あん? アイツがいない!?」
声を上げる魔理沙。
全ての視線が魔理沙に集まり、彼女が顔を向けている先へと対象が移る。そこにはさっきまでいた少女の姿がなかった。
周りが戸惑う中、咲夜が告げる。
「昨夜の襲撃で〝霊夢〟さんが犠牲になりました」
「霊夢の奴がやられたのか!?」
魔理沙は呆気に取られながら周囲をぐるっと見た。
右京は「そのようですね」と冷静にコメントする。意外な人物の早すぎる退場に一同、言葉を失った。
三十秒程の間を空けて、咲夜がゲームを進め始める。
「今から皆さんにカードを配りたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
参加者が首肯にて同意した。
咲夜は能力を展開後、カードを置いた。
「どうぞ」というかけ声と共に全てのプレイヤーはカードを捲り見た。
そのほとんどは、いつも通りの顔で中身を確認する。
早すぎても遅すぎてもダメだ。
皆、疑われないような仕草でカードを伏せている。が、その中で一人だけ明らかな動揺を見せたプレイヤーがいた。
そのプレイヤーはカードを見た途端、目が点になり、ポーカーフェイスが僅かに崩れた。
その表情を何人かは見逃さず、しっかりと目で捉えていた。全員がカードを伏せて、咲夜が回収し、ゲームは議論の時間に移る。
「二日目です。マミさんと霊夢さんが帰らぬ人となり、残り参加者は七人に絞られました。制限時間は二十分――参加者全員の同意で短縮可能です。頑張ってください」
一日目の進行役である右京が「議論の進行はどうしましょう? 僕が続けますか? それとも新たに決めますか?」と問う。
「んじゃ、また多数決するか?」
そう、魔理沙が言ったことで一同同意。多数決が始まった。
その結果、再度、右京が議論進行役に抜擢された。
周囲からの異論はなかった。
「一日目に続き二日目も僕が進行を担当させて頂きます。では、パチュリーさん、早速ですが、今日の占い結果をお教えください」
「……はい」
歯切れ悪い返事をするパチュリー。魔理沙や尊が訝しむ。
直後、七曜の魔女は占い結果を包み隠さず語った。
「……阿求さんを占った結果――彼女は《里人》という占いが出ました」
「な、なんだってーーーーー」
魔理沙がバン! とテーブルを叩いた。
易者の発言に面食らった尊が「パチュリーさん、さっきの議論でマミさんと阿求は共犯と言ってましたよね? それって二人は繋がっていたって意味ですよね。そうだとすると阿求さんは妖怪側――それも役職が《妖怪》じゃないと辻褄が合わなくないですか?」と、ズバッと斬り込んだ。
初期の段階で互いの正体を知っているのは妖怪の二人だけ。
あの短い間に妖怪勢と妖怪信者がコンタクトを取るのは考えにくい。
ならば、あの二人は妖怪のはずだ。尊はそのように考えた。
「確かに私もそう思っていました……ですが、彼女は里人でした」
動揺を隠せないパチュリー。
ここぞと言わんばかりに阿求が「どうやら、パチュリーさんが私の潔白を証明してくれたようですね」と、真顔で言いきってから続けた。
「先ほどのあれは全くの偶然でしたが、ゲームの特性上、疑われても仕方ないと思いますのでお気にせず――ですが、これで誰が妖怪かわからなくなりました。もちろん、易者に手を挙げたマミさんも本物の妖怪か、現状では判断できません。今わかることは霊夢が妖怪ではなかったという事実だけです」
「妖怪が妖怪を襲うメリットはないからね」とレミリア。
「じゃあ、誰なんだろう……」と考え込む小鈴。
「それを皆さんで考えて行きましょう――」
右京が進行役として舵を取った。
「今回は参加者が七人なので、残り時間十分までの議論を挙手制とし、十分になったら僕から順に反時計回りでご意見を聞かせて頂こうと思います。その際の持ち時間は先ほどの同じで、余った時間もフリータイムに当てる――ということでよろしいでしょうか?」
「今度は杉下さんからなのね?」とレミリアが訊ねた。
右京は「一日目はレミリアさんから時計回りだったので」と回答する。
周囲も反対せず、彼の案が採用された。
メンバーは残り十分まで挙手により任意の相手に質問可能となった。
数秒後、魔理沙が手を挙げ、パチュリーに質問する。
「なあ、さっきの推理が滑った感想を聞かせてくれ」
「特になし」
「ふーん、何だか怪しいなー。もしかして……お前が妖怪か?」
「違う――そもそも私は間違っていない」
「どういうことだ?」
「整理してから話す」
パチュリーは強気な態度を崩さずに魔理沙の揺さぶりを躱した。
次は阿求が彼女へ質問する。
「パチュリーさん、推理を外していないと仰いましたが、それは未だ、私とマミさんが共犯かつ妖怪陣営であると疑っていらっしゃると解釈してよろしいでしょうか?」
「その解釈で構いません」
「しかし、私は里人陣営なのですよね?」
「そうです」
「ということは、パチュリーさんは私を《妖怪信者》だと思われているのでしょうか?」
「はい」
「ならば、いつ私はマミさんを妖怪だと知ったのでしょうか? 妖怪信者は妖怪陣営の情報を持っていません。あの短時間での意思疎通は不可能ではありませんか? 互いに情報がないのですから」
「ほとんど不可能でしょうね」
「それでも、私をお疑いになられるのですか?」
「あの段階でサインと取れるジェスチャーをしたのはお二人だけなので」
「……なるほど、わかりました」
阿求相手にも態度を変えず、パチュリーは質問を乗り切った。
周囲――特に魔理沙や尊は七曜の魔女へ疑いの目を向け始めていた。
次にレミリアが魔理沙へ質問する。
「どうして霊夢が妖怪にやられたと思う?」
「何故、私に聞くんだ?」
「一番、近くにいたから」
「それだけかい――まぁ、アイツがやられたのは意外だったな。私と違って特に目立った発言をした訳でもないのに」
「そうよね。理由が見当たらないのよ。もちろん、何かしらの意図があった可能性もあるし、適当に選んだだけかもしれないけど」
このゲームは投票時に襲撃対象を決定し、夜は形式的な意味合いしか持たない。
不慣れな参加者が多いのなら襲撃対象を絞れず、ランダムに選択することもあるだろう。
魔理沙はため息交じりに「否定はできん」と言った。
レミリアは参加者にこう持ち掛けた。
「皆さんは霊夢襲撃についてどう思う?」
少し悩んだ後、尊が手を挙げた。
「ぼくも正直、霊夢さんがやられたのは驚きました。選択対象が割れた場合は咲夜さんがターゲットの中からランダムに対象を選ぶ――そうですよね?」
「はい」
咲夜が頷いた。
「だとすると霊夢さんは妖怪の意思によって襲撃されたという点は変わらない。ここから察するに妖怪には彼女を消す何らかのメリットがあったと考えられます」
「メリット……。何かしらね」
次にレミリアは偶然、目が合った小鈴に訊ねた。
「小鈴さんはどう思う?」
「私にはわかりません。偶然か必然かなんて区別付かないですし。ただ、理由があるのなら、何かしらの理由があるんじゃないのかな? とは思いますけど――例えば、霊夢さんの行動とか言動とか……?」
「行動と言動……」と阿求が思考を巡らせる。
「ん? 何か思い付いたか?」魔理沙が阿求にちょっかいを出す。
彼女は間を空けずに言う。
「霊夢の仕草は普通でした。考察もどっちつかずで
阿求は議論進行役を視界に捉えた上で、
「杉下さんを妖怪ではないかと怪しんでいました」
と語った。
周囲の顔が右京のほうを向く。
しかし、 右京は表情を崩さない。
「確かに彼女は僕を怪しんでいましたね」
「つーことは霊夢に指摘されたおじさんがアイツを襲撃対象にしたってことか?」
唐突に右京妖怪陣営説を立ち上げた魔理沙。
右京以外の参加者から疑問の声が巻き起こる。
「いくらなんでも唐突すぎるんじゃないか」と尊。
「杉下さんが妖怪――なんか違う気がする」と小鈴。
「このゲームで自分を怪しんでいる人間をピンポイントで襲撃する妖怪がいるとは思えないけど」と苦言を呈する阿求。
「僕ならしないですね」と右京は笑った。
周囲の反応に焦った魔理沙が「あくまで仮説だ。私だってそんなことはしない」と弁明した。
その中にあってパチュリーだけは違った見方をしていた。
「もし、それが作戦だとしたら――」と聞こえぬように呟いた後、再び考えにふけった。
阿求はその様子を悟られぬようにこっそりと伺い、静かに唸った。
小鈴は両者の空気にどこか圧倒されつつあった。
それから参加者は右京が決めた残り十分まで挙手しながら質問を続けた。
咲夜が残り時間十分を報せるのと同時に右京が議論をまとめに入る。
「時間ですので、僕から順番に反時計回りで考察を述べていきます。霊夢さん襲撃の件は無差別襲撃、僕が襲撃したといった憶測が飛び交いました。前者は考察妨害を狙った無差別襲撃の可能性はありますし、後者において僕は里人ですので論外だと言い切りたいですが、このゲームには無実を証明する手段がありません。信じて貰う以外の方法はない」
「確かにね。このゲームは議論で相手に信じ貰うしかない。なら、私から質問。もし、杉下さんが妖怪の立場だったら誰を襲撃する?」とレミリアが訊ねた。
疑われているところに鋭いメスを入れてくる。
実に彼女らしいやり口だ。
右京は困ったような素振りを見せながら「神戸君あたりですかね?」と、おどけて答えて見せた。隣の本人からははっと乾いた笑い声が漏れ出した。
彼女は一日目の二人のやり取りを思い出し「困ったときはパートナーを頼る――私とパチェの関係みたいね」と言って見せた。直後、パチュリーは少しだけ視線を逸らした。
発言者が尊に移る。
順番が回ってきた彼がやや早口で喋った。
「上司が困った際、良く無茶振りをされる神戸です。霊夢さん襲撃で杉下さんが疑われた件ですが、普通に考えて杉下さんが自身を名指しで疑う霊夢さんを襲撃対象にするとは考えられません。仲間がいて票が割れたというのもいかがでしょう? もっと、狙うべき対象がいます。
例えば、攻めた発言する魔理沙や大人しい小鈴さんなど、無難なところを選ぶはず。ゲームに不慣れという線もありますが、事前に数回ほど練習しているのである程度のセオリーは心得ていると思われます。
その面から見て霊夢さん襲撃は何かしらの意図があるのではないでしょうか? それと忘れがちですが、パチュリーさんの推理と占いには疑うべき点がいくつか存在します。彼女が本当に易者なのかよく考慮していくべきでしょう。以上です」
「ちょうど、一分ですね。お見事」と右京。
「どうも」
コホンコホンと咳をしながら神戸は発言を終えた。
レミリアが「お疲れさま」と声をかける。
次の発言者は魔理沙だ。
「相方が速攻で退場してイマイチ張り合いのない魔理沙だ。私は表のにーさんの意見を支持するぜ。仮におじさんが妖怪だったとしても霊夢を襲撃するのはデメリットしかない。ランダムというのもなくはないが――作為的と見ていいような気がする。なんで選んだかまではわからん――まぁ、おじさんに恨みのある奴の犯行かもしれんが?」
ニヤリとしながら尊を見やる魔理沙。
尊は「いや、それはないから」とキッパリ否定した。
魔理沙が続ける。
「ってのは冗談だ。ここからはパチュリーの件だが、私も怪しいと思う。それらしいことを言って里を都合の良いように操作している感が出ている。もしかするとマミの奴が本物の易者だったの可能性もある。吊るなら今かもな」
発言を終えた魔理沙は発言権をパチュリーへパスした。
彼女はため息を吐きつつもすぐに顔を元に戻した。
「時間がないので結論から言います――妖怪は〝マミさん〟と〝杉下さん〟だと思われます――」
またもや、参加者がどよめく。
彼女の度肝を抜く発言に魔理沙が「おま――自暴自棄にでもなったのか!?」と本気で心配し始めるが本人は「私は至って冷静。だから聞きなさい」と制して話を続ける。
「最初、私はマミさんと阿求さんが妖怪だと思っていました。しかし、いざ占ってみると阿求さんは里人でした。正直、動揺しましたが、同時にもう一つの可能性が浮かび上がり、真実に辿り着くことができました――」
「それは一体?」
右京が訊ねた。
彼女は阿求に顔を向けながら自らの推理をぶつける。
「妖怪信者である阿求さんがマミさんのジェスチャーを見てマミさんと杉下さんが妖怪だと察し、それを観察していた私を欺くためにワザと彼女のジェスチャーに合わせた。おまけに杉下さんが妖怪側なら自分が信者だと報せることもできる――こう考えれば全ての辻褄が合うのです。あなたほどの頭脳の持ち主ならこの程度、造作もないはず。いかがですか?」
「……私は多少、記憶力がよいだけの女です。アドリブには、あまり強くありません。あなたのおっしゃるような連携など、取れる訳がない。第一、何故マミさんのジェスチャーの相手が杉下さんと断定できるのですか? 他の方へ向けたモノかもしれないのに」
「……その部分は〝カン〟です。そしてあなたもそう直感したからこそ動いた」
「カンですか……」呆れる阿求。
「カンです」言い切るパチュリー。
二人の間には見えない火花のようなモノが散っていた。
その様子には魔理沙は「探偵がカンに頼るなんてなぁ~」と肩を竦めた。
彼女の言葉に自身の経験を照らし合わせた尊は「意外とカンって奴も必要だけどね」と一人呟き、右京もクスっと笑みを零すも、持ち時間の一分を過ぎていたこともあって、次の発言者に意見を求めた。
「パチュリーさん、ありがとうございました。続いて小鈴さん、よろしくお願いします」
「はい。ええっと、パチュリーさんの推理する姿はカッコいいと思いました。だけど、阿求は頭こそいいけど意外と抜けていて、アドリブとか、お世辞にも上手いと言えないので、パチュリーさんは少し買い被りすぎな気がしました」
「ぶーーーーーー」あまりにド直球な意見に魔理沙が吹き出し、阿求はがっくりと肩を落としながら「アンタ、そこまで言う!?」と食って掛かった。
「え、あ、ごめん。でも本当のことだし……」
「どこがよ!?」
「そりゃあ……まぁ色々?」とぼける小鈴。
周囲も〝クリスQ〟の件を思い出してどこか納得してしまった。
「けど、だからこそ、阿求は違うと思うんだ」と述べたことで阿求本人も渋々引き下がった。
小鈴は続ける。
「パチュリーさんには申し訳ないけど、マミさんが易者だったんじゃないかなって今になって思います。これくらいでいいですか?」
「貴重なご意見、ありがとうございます」
右京は次に阿求を見た。
「阿求さん、お願いします」
彼女は返事をしてから周囲を見やり、パチュリーに対して反撃する。
「つい先まで妖怪陣営として疑われてきた私ですが、私は妖怪陣営ではありませんし、パチュリーさんの言うジェスチャーというのも全くの偶然です。では、誰が妖怪陣営なのでしょうか? 私ですか、杉下さんですか、魔理沙ですか? いえ、違います。あなたですよね? パチュリーさん」
今度は阿求が攻勢に出た。推理でやられたら推理でやり返す――それが流儀と言わんばかりの態度を示した。ここからは阿求のターンである。
「あなたは私やマミさんの行動を利用して里を混乱させようと画策した。そのおかげでマミさんは退場してしまうことになりました。そして、私や杉下さんまで退場させようとした――」
「ん? お前ならわかるがおじさんもか?」と疑問を覚える魔理沙。
「そうよ。じゃなかったら霊夢を狙わないはずよ」
「どうして?」と小鈴。
「次の投票先を決定させるためよ」
「投票先?」首を傾げる魔理沙。
「霊夢を吊っておけばその行為を杉下さんがやったように誘導しやすくなるからよ」
「皆、否定してたと思いますけど……」
尊が一言、添えるも、阿求は持論を曲げない。
「そう――だからこそ彼女はあえて霊夢を狙った。『杉下さんの頭脳ならば〝自分を疑う相手を襲撃するようなミスを犯さない〟――と思わせて意識を他者に向けようとする――この程度、造作もないはずだ〟』とでも語り、押し切るつもりだったのでしょう。私の時と同じ手口を使って議論を妖怪有利な展開へ持ち込もうとした。パチュリーさんが易者としての信用を集めれば、大胆に動けますからね。狩人が存命の内は長く残れるでしょう。全てそれを予測したあなたの行動だった。このように考えれば辻褄が合います。いかがでしょうかパチュリーさん?」
意見を求められたパチュリーが応じる。
「私のやり方に被せてくるなんて、お上手ね。あなたは噂通り聡明な方――しかし、それが私の推理の正しさを後押ししているわ。アドリブで合わせられるとね」
「小鈴の言う通り、買い被りすぎです。ですが、その精神力と考察力には敵ながら驚かされました。
マミさんを失ったのは里にとって大きな損失でしたが、二日目にして妖怪と思わしき、あなたを吊れるのであれば良しとしなければなりません」
「私は里人陣営です。誰がなんと言おうと」
パチュリーは笑った。
彼女の話が終わるのと同時に「時間なので、後はレミリアさんに」と、阿求が右京へパスし、発言者がレミリアへと移った。彼女は切れ者たちの健闘っぷりに拍手を送った。
「二人とも素晴らしいわ。パチェの考察も阿求さんの考察もレベルが高くてどっちも正しいのではと思ってしまった。名探偵が三人もいる人狼ゲームなんて滅多に味わえない。刺激的だわ」と個人的な喜びを顕わにした。
傍から見ていた咲夜は「里人がこんな態度、取るのかしら」との考えが脳裏を過ぎるも「設定はあくまでも設定だしね……」内心で納得した。今更である。
そこに魔理沙が「三人目の名探偵は進行役だけどな」と茶化し、笑いを誘った。
続けてレミリアは「ジェスチャーの件も霊夢の件も納得できるけど、そのせいで判断に困る。正直言って困っているわ」と告げて皆、同意して考え込んだ。
自身の腕時計を見た右京が咲夜を小声で呼んでから「残り時間は後二分ほどでしょうか?」と訊ねた。「はい、ちょうど二分です」と彼女は答えた。
右京は沈黙を破り「残り二分を切りました。ここからはフリータイムとします。お好きな方をお話しください」と言った。
それぞれが気になったメンバーと話し合う。
魔理沙が尊に「どう思うか?」と問うと「まあ、阿求さんの意見が正しいかなって思っている」と回答。
未だぎこちなさが残る小鈴にレミリアが「大丈夫? 緊張していない?」と声を掛け彼女が「大丈夫です。とても楽しいですから」と答えたり、阿求とパチュリーの会話では――。
「どちらが正しいかこの投票で決まるのでしょう」
「そうね。どちらが信じてもらえるか――皆さんに任せましょう」
次の投票結果次第でどちらの考察が正しいか軍配が上がるだろうと予測している二人は静かに互いの健闘を称え合った。
魔理沙からは「はえーよ」と突っ込まれるも華麗にスルーした。
制限時間がゼロになったところで咲夜が皆を静かにさせ、一日目と同じように投票用紙を配った。
全ての参加者は記入欄にペンで書き込む。
一分後、全ての参加者が用紙を裏向きに伏せた。
魔理沙が一番早く書き終わり、その次にレミリア、小鈴、右京、阿求、尊、パチュリーと続いた。
ここで咲夜が用紙を回収――少し間を空けてから投票結果を発表する。
「それでは、投票結果を発表します――」
緊張の一瞬――誰が吊られるのか。
一日目に疑われつつも反撃した阿求か、大胆な発言を仕出かした魔理沙か、エリートらしい考察を行う尊か、ゲームを楽しむレミリアか、慣れないながらも頑張る小鈴か、易者のパチュリーか、それとも特命係改め進行係になった右京なのか――。
咲夜の口が開かれる――。
「投票の結果、退場するのは――〝パチュリー様〟です」
阿求を占った際、彼女を里人陣営と言ってしまったのが信頼の失墜を招いた。
むろん、彼女は二人を共犯関係と指摘しただけで妖怪だと断言していないが、そこを挽回できず、信用が阿求へと傾いた結果、こうなってしまったのだろう。
パチュリーは「残念だわ」と言い残し、この場から消えた。
二回目の投票ともなれば驚くことはなく、メンバーは咲夜に言われるがまま、伏せた。
夜のフェイズがやってくる。
彼女がお決まりのセリフを吐いた。
「二人目の仲間を処刑した里人は更なる疑心暗鬼に陥るも夕暮れになったことを理由にそれぞれの家に帰って行きます。深夜、音もない暗闇の中、里に不審な影が忍び寄る――」
彼女はまたもや、その能力で《妖怪》が選択した参加者を音もなく連れ去るのであった。