参加者は起き上がり目を開ける。
右京は左右を見やりレミリアと尊を確認。尊も阿求と小鈴を確認する。
席順的に残り参加者を見渡せる位置にいたレミリアが何とも言えない顔をした。
「やかましい白黒魔法使いがいないわね……」
咲夜が発表する。
「昨夜、襲撃されたのは魔理沙さんです」
彼女の退場にメンバーは考察を巡らせる。
「魔理沙の奴は尖った発言が多かったしな。そこを疎ましく思った妖怪の犯行か――」と尊が口にしたのを皮きりに各々が一言ずつ発言した。
「どうかしらね? アイツが妖怪信者の可能性もあったわよ?」とレミリア。
「それにしては疑ってくれと言わんばかりだった気が……」と阿求。
「魔理沙さんの性格っていっつもあんな感じだしっ」零す小鈴。
遅れて右京が「彼女はあれが自然体でしょうしねぇ」と呟き、皆が一様に頷いた。
そのタイミングで咲夜が参加者へカードを手渡す。
いつも通りカードを見た彼らは十秒程度でカードをテーブルに伏せた。
咲夜がそれを回収し、付箋を貼りつけて再度配った。
参加者がカードを確認し終えたのを確かめたのち、咲夜はカードを回収。昼のフェイズへと移行させた。
開始早々、右京が議論の進行役をどうするか問うも、参加者から続投して欲しいと頼まれて了承――三日目の議論がスタートした。
「残り五人となりましたが、先ほどの変わらずに十分まで挙手による質問。残りは各自一分程度の考察とフリートークとします」
「後半の考察は誰周りかしら?」とレミリアが質問。
「おっと、忘れていましたね――どなたか一番、最初に発言したい方はおりますか?」
そうは言っても誰も手を挙げなかったので、一日目のレミリア、二日目の自分ときたので三日目はレミリアに近い阿求を指名。
そこから時計回りで考察を出し合うことに決まった。
スケジュールがまとまったところでトークに移っていく。
少しして尊が手を挙げ、右京に質問した。
「パチュリーさんがいなくなって魔理沙もいなくなった。これについてどう考えますか?」
「そうですねぇ。パチュリーさんがいなくなったことで易者が全滅したことになります。少なくとも騙っていた妖怪勢力が最低一人は消えた――と考えられます」
「残る妖怪は一人から二人。おまけに妖怪信者も潜んでいる可能性がある。けど、妖怪陣営は残り二人と言っていいかも」と呟く阿求。
「里人は五人だから、最悪のケースを考えると次の投票で片が付くかもしれないわね」と腕を組むレミリア。
セオリー通りならば、マミやパチュリーの内、どちらかが妖怪陣営であることはほぼ確定している。残る妖怪陣営は二人。マミとパチュリーの本当の役職がなんだったのか。それは誰にもわからないのだ。
尊が続ける。
「魔理沙については?」
「そこなんですよ――何故、魔理沙さんを襲撃したのか。その意図がわからない」
「普通なら、有益な発言をしている方を狙いますよね? 阿求さんやボクとか、それに杉下さんとか」
「僕は取るに足らないと思われたのでしょうかね?」
「そうは思いません。杉下さんも模範的な考察をしていました。ただ、パチュリーさんと阿求さん推理バトルのインパクトが強すぎて霞んでしまった。普通なら襲撃候補に入るはずです。それでいて狙われたのは魔理沙だった。ちょっとそこが引っ掛かりません? 彼女は里にとっても有利な発言をするわけでもなく、かといって妖怪に有利な発言をした訳ではなかった」
「むしろ、両陣営をかき乱してたわね」とレミリア。
「その感は否めませんね」と右京。
「同感です」と阿求。
「確かに」小鈴も同意した。
「彼女を襲撃するメリットってどこにあるんですかね? ぼくにもそこがわからない」
「安全策を取ったとか? 例えば、有益な阿求さんを襲撃しようにも狩人がいたらガードされてしまうからとか?」とレミリア。
「その場合、次に厄介な相手を襲うはずです」
「その厄介な相手って?」
「ぼく、レミリアさん、そして杉下さんから一人を選ぶはずです。特にぼくや杉下さんは格好の的だったと思います。ぼくはそれなりの考察もするし、魔理沙の言う通り、杉下さんは切れ者ですから。その話を聞いていれば放置はしないはず――」
「しかし、妖怪はそれをしなかった」
阿求の補足に尊も同意する。
「そこが怪しいんです。ぼくならそんな真似はしません。確実なリターンを得るなら必ずどちらかを襲撃します。つまり、杉下さん――あなたが妖怪陣営、それも《妖怪》である可能性が高い」
尊は元上司に妖怪の疑いをかけた。
心理戦でほとんど勝ったことがない上司をゲームとはいえ、追い詰めている。
少なからずそんな手応えがあった。
右京は眼鏡をそっと動かし、愉快そうに笑いながら、このように切り返した。
「一つ忘れているのではありませんか神戸君? 妖怪陣営からすれば、君も立派な襲撃対象ですよ? もしかして――君が妖怪陣営なのではありませんか?」
見事にカウンターする右京。
されど尊も負けじと反論する。
「本当にぼくが妖怪勢力なら真っ先にあなたを襲撃します」
「でしょうね。顔にそう書いてあります」
したり顔の尊とスマイルを崩さない右京。
その様相はまさに〝ホームズVSワトスン〟といったところか。
先ほどのパチュリーVS阿求と似たような構図だ。
そのコンビ間対決を観察していたレミリアが二人に問いかける。
「だったら、お二人の内どちらかが妖怪陣営ってことよね?」
「神戸君の言う通りであればそうなんでしょうね」と、右京が回答する。
「なら、お二人の内、どちらかを吊ってみるというのはどうかしら? 里人陣営は三人、妖怪陣営は二人。数ならこちらが上――疑わしい人を吊るのは正攻法よね?」
レミリアの発言に阿求が待ったをかける。
「それはどうかと思います。パチュリーさんが妖怪信者であった可能性も捨てきれません。お二人のどちらかを吊っても妖怪が残ってしまえば、最悪その時点で我々の敗北が決定してしまいます。もっと慎重に考えるべきです」
「それでもやってみる価値はあるわよね?」
何を思ったか、今まで聞き手に回っていたレミリアが突如として牙を剥く。
その方針転換を阿求が追求する。
「……今までどこか受け手に回っていたあなたがどうしてここにきて尊さんに加勢するのですか?」
「私がパチェの推理を支持しているからと言ったら?」と、レミリアは語った。
阿求は息を飲む。
「ということは私が妖怪信者で杉下さんを妖怪だと認識しているということでよろしいでしょうか?」
「そう思って頂戴。神戸さんはどう?」
「……ぼくはパチュリーさんの推理は疑わしいと思う点が多いと言いましたが――この状況から見るにもしかすると間違ってなかったのでは? と考えさせられました」
「仮に僕が妖怪だとして何故、魔理沙さんを選んだのですか? ゲーム全体を見るなら違う人物を襲撃するべきだったのではないでしょうか? それこそ守護される可能性があった阿求さんは別として、君やレミリアさんを対象にしたほうがゲームの展開が有利になるではありませんかね?」
上手に返す右京。
尊は唸りながら、こぼした。
「そこなんですよね。難しいところは――」
何故、魔理沙なのか? その疑問に上手く答えないと議論が進まない。口元に手を当てる尊。
流れが右京に傾き始めたーーかに思えた、その瞬間、クレバーな元部下は不敵に笑う。
「――っと以前なら、言い返せなくなっていたんでしょうけど。あいにく、今回は回答は見つけてます」
「ほう」
「魔理沙は独特な性格のためその考えが読めない――投票になった場合、数がモノを言います。パチュリーさんの推理を信じるなら、妖怪勢力は二人で里の勢力は三人。そうなった場合、過去の発言を見るにレミリアさんはパチュリーさんの意見を支持するのはわかっていたが、襲ってしまうとパチュリーさんの推理を後押ししてしまう可能性があり、僕や魔理沙辺りに訝しまれる。
阿求さんは妖怪信者でしょうし――言うまでもなく杉下さんの味方です。素性も察しているでしょうし。そうなると無難な襲撃候補はぼく、魔理沙、小鈴さんになります。小鈴さんは阿求さん寄りの傾向がありました。説得は十分可能でしょう。となれば――」
「候補は君と魔理沙さんに絞られる」
「そこでぼくと彼女を天秤に掛けた杉下さんは思考が読めない魔理沙を選んだ。かつての〝相棒〟ならその思考を読んで上手く説得できると踏んで――どうです?」
尊の考察は右京の心理状態を丸裸にするような緻密さを誇っていた。恐るべき、元相棒――神戸尊。流れが尊に傾きかけている。常人ならチェックメイトだろう。
だが、そこは杉下右京。当然ながら彼の意見に対する回答があった。
「ふふっ、君も言うようになりましたねえ。〝元〟上司としては感慨深い物があります――」
その哀愁を帯びた発言に全ての視線が右京へと集中する。
まるで劇を鑑賞するかのように辺りは静かになった――。
「ですが――君は思い違いをしています」
「……それは?」
「僕が魔理沙さんの思考を読めないという点です。君にもお話ししましたよね? こっちにきてから彼女にお世話になってきました。出会いこそ口論で始まりましたが、共に行動し、共に捜査を行った――その過程で短い時間ながらも沢山の言葉を交わしました。苦楽を共にした仲間なんですよ。霊夢さんだってそうです。従って魔理沙さんの説得はそう難しくはありません――彼女はただ
それを聞いた幻想郷勢が心のどこかで右京の言葉に納得した。
右京は続ける。
「むしろ、僕が本当に妖怪なら誰よりも真っ先に君を襲撃します――どうしてだか、わかりますか?」
「いえ、それは……」と困惑し始めた尊。
そこに右京が彼を見据えながら――。
「――君は歴代相棒の中で唯一、この〝僕〟と互角以上に渡り合った〝相棒〟なのです――そんな手の内を知り尽くされた相手をこの心理戦において放っておくと思いますか? この僕の性格を知る君ならばわかるはずです」と問いかけた。
尊は「あ、あぁ……」と〝かつての事件〟を思い出して言葉を詰まらせた。
「残り時間十分――です。申し訳ありません……。五分前の報せを入れ忘れてしまいました」
申し訳なさそうに咲夜が謝罪する。
右京が「お気になさらず」と笑顔で返した。
反対に尊は口元に手を当てながら、気まずそうにしていた。
その様子にレミリアがそっと目を閉じながら「いつの間にかいい話になったわね」とコメント。
阿求も「同感です」と頷き、小鈴が「なんか〝小説〟みたい……」と目を輝かせ始めた。
言いたいことを言い切った右京は議論の進行役へ戻る。
「皆さんの考察をお聞かせ頂きます――阿求さんお願いします」
阿求は考察を述べた。
「はい。前半戦の大半は杉下さんと神戸さんの〝元相棒同士〟の対決となりました。どちらも一進一退の舌戦というべき内容でどこか惹きつけられるものがありました。客観的に見て、元上司の言い分に軍配が上がったと判断し、私は杉下さんの意見を支持します。妖怪陣営は神戸さん、そして彼を支持したレミリアさんが怪しいと思います。以上です」
次に小鈴が意見を述べた。
「えっと……正直まだ迷っています。神戸さんも杉下さんもどちらも説得力がありますし、考えれば考えるほど、パチュリーさんとマミさんのどちらが本物なのか、わからなくなるんです……もう、ちょっと考えさせてください」
次は尊が胸中を語る。
「言い負かされたようにな感じになった神戸です。ぼくの考察は当たっていると思っていましたが――ぶっちゃけ自信を失ってます。ですが――これ自体、杉下さんの作戦かもしれませんのでお気を付けてください。あ、僕はパチュリーさんの推理を信じます。では」と、疲れたように言った。
周囲は「負けず嫌いなんだな」と苦笑った。
次は右京の番である。
「元部下にまったく信用されていない杉下です。神戸君と話して理解できたのが、彼が僕を疑っており、そこにレミリアさんが乗っかってきたということくらいです。僕を何かとライバル視する神戸君が執着するのはわかりますが、レミリアさんが掌を返したように打って出てきたのには疑問が残ります。もしかすると、パチュリーさんとレミリアさんが襲撃の決定権を持つ《妖怪》で、魔理沙さんへの襲撃はかく乱を狙った作戦だったのかもしれませんね。以上です」
最後にレミリアが口を開く。
「色々な意見があったけど、私は《妖怪》ではないわ。といっても、名探偵二人から疑われているから風向きが悪いけどね。考察とかそこまで苦手じゃないけど――小鈴さんと同じでどの意見も素晴らしくてどれが正しいのかわからない状況に陥っているわ。だから、最後までパチェが残した推理を参考にさせてもらったの。
杉下さんを妖怪だと思って議論を誘導したのもそれが理由。全ては里人のためよ。後は皆が決めて頂戴。それと――パチェと阿求さんの推理バトルに続き、日本のホームズ対ワトスンの友情物語が見れて満足だったわ。以上よ」
レミリアは楽しそうに会話を締めくくった。
残り時間は五分。
それから、メンバーは無言で座っていた。
小鈴だけが「うーん」と頭を捻っており、彼女を急かさないような配慮だった。
そして、制限時間が無くなり、咲夜がそれを報せ、三日目の議論が終了した。
配られた投票用紙に全てのメンバーが記入する。誰もが迷うことなく、スラスラと記入し終えた。
咲夜は用紙を集めてから退場者を発表する。
「投票の結果、退場するのは――レミリアお嬢さまです」
その瞬間、レミリアは「楽しかったわ」と言って姿を消した。
続けて、残りの参加者はテーブルに伏せて夜明けを待つ。
咲夜が決まり文句を述べると参加者の一人を別室へ移動させ、再び戻ってきた彼女が朝を告げる。
「四日目の朝を迎えました。起きて下さい」
参加者が目を開けると、そこにあるはずの
その光景に勝敗が決したのだと悟った尊がため息交じりに言った。
「
これにてレミリア・ジャッジメントは終了です。
以下、ネタバレになります。
・参加者が担当した役職
杉下右京:妖怪賢者
神戸尊:里人
博麗霊夢:狩人
霧雨魔理沙:里人
稗田阿求:妖怪信者
本居小鈴:里人
レミリア・スカーレット:里人
パチュリー・ノーレッジ:易者
マミ:妖怪
推理する楽しさと嘘を吐く楽しさを同時に味わえるレミリア・ジャッジメント
楽しんで頂けたでしょうか?
中々、複雑になってしまった上に期間を開けてしまい、申し訳なく思います^^;
紅魔館編はまだ続きますが、これからもよろしくお願いします。