相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第86話 稗田の四家訪問 その3

 同時刻。捜査に行き詰った尊は鈴奈庵を訪れ、店番の小鈴と会話していた。

 

「今日も貸本屋を開けてるんですか?」

 

「本を借りにくる人がいるかもしれないので」

 

「歩いている人、少ないけどね。天気も曇ってきそうだし。ほら」

 

 尊が指さす窓ガラスの先には薄暗い雲が後方から里を覆うように徐々に迫っている。

 

「あはは……そうですね」

 

 こんな天気だとほとんど人がこないな。悟った小鈴が右手で頬をポリポリと掻いた。そのときだった。ガラガラと扉が開き、客と思わしき人物が店内に入ってきた。

 

「ごめんください」

 

 その人物は尊の見覚えのある人物で、小鈴に挨拶して店内をキョロキョロと見回し、彼を発見するや否や、一直線に歩み寄って会釈する。

 

「こんにちは。文々。新聞の射命丸です」

 

「……あぁ、どうも」

 

 尊が歯切れの悪い挨拶で返した。何故なら、彼女こそが杉下右京排除論ができるもしくは後押しのきっかけを作った張本人だからである。

 彼の態度で自身がよく思われていないと察するも文は気にかけることもなく「座ってもいいですか?」と訊ねてから尊と向かい合うようにテーブルについた。

 真面目な顔つきをした文が右京について訊く。

 

「杉下さん、撃たれたそうですね」

 

「ええ、この店の正面で」

 

「災難でしたね。ご容態のほうは?」

 

「安定していると思います」

 

「永遠亭に運ばれたのですよね。あそこなら警備も万全。後は回復を待つばかりですね」

 

「ついでにホシもあげたいところです」

 

「手土産ですね。アタリはついてるんですか?」

 

「まだです」

 

「優秀な神戸さんのことですから。実は証拠とか掴んでいるんじゃありませんか?」

 

 文がジッと尊を凝視する。笑い顔やしたり顔など、表面的な圧力はないが、静かながらにプレッシャーを放ち、相手を威圧する。相変わらずな女だな、と彼は呆れた。

 

「ない訳ではありません」

 

「見せて頂けませんか?」

 

 すかさず催促する文に対し、尊も瞬時に首を振って断る。

 

「まず稗田さんに許可を貰ってください。ぼくは部外者です。勝手な真似はできません」

 

「何かわかるかもしれませんよ?」

 

「だとしてもです」

 

「こちらを信用なさってくださらないのですね。こう見えても老舗の新聞屋なんですよ、私」

 

「幻想郷には報道協定がありません。表で刑事をやっていた身としては協定なしでの情報開示は強い抵抗があるんです。申し訳ありませんが――」

 

 報道協定を引き合いに出して揺さぶりを回避する尊だったが、何度も同じ手にやられる文ではない。突如、彼の話しに被せるようにこっそりと告げる。

 

「こちらも色々掴んでいる情報があるのですが……。例えば()()()()()()とか」

 

「――ッ!?」

 

 行き詰まりの状況の中、少しでも手がかりの欲しい警官の心をくすぐるような言葉。ここにきてしたり顔になった文の顔を目の当りにした尊は「コイツ、こっちが手詰まりなのをいいことにっ」とポーカーフェイスを装いながら舌打つ。相手の表情が崩れたのを確認した文が立て続けに、

 

「お互いの情報――交換しません?」

 

 と囁いた。里人には警戒され、阿求は自分をはぶいて独自に捜査を行う、マミは油断ならない。味方のいない状況で持ちかけられた情報交換。揺らがないはずがなかった。だが、警察官はその信念を曲げず、

 

「……致しません。阿求さんに相談してからいらしてください」

 

 はっきりと断った。文は微笑して、

 

「わかりました。それではまた」

 

 鈴奈庵を後にした。彼女が室内から消えた途端、尊は特大のため息を吐いた。

 

「厄介すぎんだろ、ここの住人」

 

 幻想郷の住人――特に人外勢力はスタンドプレーを好み、首を突っ込んでは好き勝手に行動する連中が多い。

 そのため()()()()()()()()調()()()()()と指摘される。もちろん、組織に属している者は組織内では力関係に従う。けれど、一度離れてしまえば、後は自由気まま。レミリアジャッジメントで体験した通りである。

 その様子を脇から見ていた小鈴が気を利かせて「大丈夫ですか?」と緑茶を持ってくる。

 

「ありがとう。ちょっと疲れただけです。心配しないでね」

 

 全ての住人が協調性皆無という訳ではない。親切心を見せる小鈴からお茶を受け取りながら、尊は乾いた喉を潤し、身近で協力的だと思われる人物に片っ端から声をかけるべく鈴奈庵を立ち去った。

 

 

 時刻は十二時半。阿求たちは土田家を訪問しており、すでに客間で話し合いが始まっていた。

 

「で、稗田さん。今日は何の用ですかい?」

 

 座卓を挟んで一行が対面するのは袴を着た小太りの六十代の男性――土田家当主だ。彼は肌色が見え隠れする頭をボリボリと掻きながら、笑って見せる。

 背後では筋骨隆々な若者が四人ほど立ち並んで代表を守っていた。

 その若者たちはどこか面倒くさそうにしており、中には仕事中にも関わらず、欠伸すらしてしまう輩もいる。明らかに教育がなっていなかった。

 四人は不快感を覚えたが、ぐっと我慢する。

 

「昨日の狙撃事件の犯人を捜しております。心当たりありませんか?」

 

「ある訳ないじゃないですか。ん、その目――もしかして儂を疑ってらっしゃるんですか!?」と土田は声を荒げた。

 

「そうではありません。ただ、怪しい者を見かけなかったか、とか手がかりになりそうな情報が欲しいのです。全ては里のために」

 

 阿求が否定するのを聞いた土田は安堵したように、

 

「あーそれならよかったですわー。うちもガラの悪いがヤツ多いんで、こういう時になるといっつも疑われる。堪りませんわー」

 

 事態の深刻さがわかっているのかいないのか。マイペースな土田にイライラしながらも阿求が質問の内容を変える。

 

「何か変わったこと、おかしいと思ったことはありませんか?」

 

「ないですなぁ……。あん? そーいえば……狸がコソコソしてますな」

 

「狸……ですか?」と阿求は目元をぴくんと動かした。

 

「そうですー。前々から狸が増えてますけど、ここ数週間は特に数が増えてるんで、困ってるんですわ。山に食い物ないんかなー。だから〝毒餌〟でも撒こうかなと思っとるんです」

 

「それは……控えて頂けませんか? 無関係の動物も巻き込むかもしれませんので」

 

「ん~なこと言っても、こっちも屋敷の周辺に糞出されて毎回掃除しとるんですよ!? これ以上、我慢できませんわ!」

 

 狸の存在が気に入らない土田が声を荒げて訴えた。阿求は彼のイライラを鎮めるべく腰を低くして対応する。

 

「こちらでも対処しますので、何卒……」

 

「はぁ……わかりましたわ。ご当主の頼みですからなぁ~」

 

 稗田家当主の頼みとあって土田は嫌々ながら聞き入れる。阿求は()()()()()()()()()()()と知人の狸に憤りを覚えながら話を進める。

 

「他に何かありませんか?」

 

「他ねぇ……。うーん、特にないですわな。あ、曇り雲がこっちにくるな――雨が振りそうですな。今度、荒木が移り住む一軒家、昨日の内に大方の工事終わらせてよかったわ」

 

 向かい来る雨雲を見て納期に間に合わせたと喜ぶ土田に「お前は話し合いをする気があるのか?」と阿求が頭を抱えるもなんだか、まどろっこしくなり、こちらが聞きたい内容をストレートで訊ねた。

 

「あの……秘密結社について何か聞きませんか?」

 

「ん? 秘密結社。……特にないですわ。だってここ最近、まともに活動してないでしょ? 里内で演説も妖怪への攻撃もやってない。解散でもしたんじゃないですかい?」

 

 と早口気味に回答した。阿求は口元を押さえながら、

 

「……かもしれませんね」

 

「ははは、子供の集まりですからな!」

 

「ええ」

 

 さらに話し合うも特別、気になる情報が聞きだせた訳でもなく、土田のくだらない世間話が大半を占めた。

 慧音に「息子がアンタのことが好きだと言ってた。どうです?」と結婚話を振り、魔理沙には「しっかし、母親に似てかわいくなったな。本当にあの親父の娘か?」と笑いながら冗談を語って彼女の顰蹙を買い、霊夢には「アンタ、よく空飛んでの見かけるけど、下着とか覗かれたりしないんか?」や「神社の経営、大丈夫か? もしもの時はうちで買い取るぞ?」など失礼な発言を連発。

 

 三人とも腹立たしいまでのストレスを抱え、いつ爆発してもおかしく状況に陥ったのを察し、阿はが予定より早く話し合いを打ち切った。

 見送りに若い衆がつくが、半ば無視するように霊夢と魔理沙が外に出ていき、それを阿求と慧音が追う形となり、足早に土田家を去る。

 ある程度、離れたと見るや否や、

 

「なんだよ、あの無神経クソじじいは!! 人が黙っていれば!!」

 

「全くよ!! 何が下着よ――何が経営、大丈夫か? よ。余計なお世話だわ!!」

 

 魔理沙と霊夢が怒りを爆発させ、地団駄する。遅れて慧音も、

 

「あんなところに嫁などいけん」

 

 と吐き捨てた。

 

 阿求は「ごめんなさいね」と呟いてから、先ほどの土田の受け答えを思い出し、

 

「(終始、能天気な土田さんだったけど、秘密結社の話題に触れた途端、真面目な語り口になった。怪しいわね)」

 

 より強い警戒と周辺を探らせることを密かに決めた。

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