相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第90話 集いし乱雲

 同時刻、稗田邸にて。

 阿求は霊夢と魔理沙、慧音を自室に集めて対策会議を練っていた。

 先ほどの会談により、もたらされた情報から必要な部分をだけを掻い摘み、大方の説明を終えた阿求が皆に結論を聞かせる。

 

「――以上のことから疑わしいのは秘密結社だと思っている」

 

「まさか、そんな厄介な連中になっていたとはね……」

 

「だな……。お遊び集団が里の代表を狙う過激派集団に変貌、か。酷い冗談だぜ」

 

「前々から注意していたのだがな……」

 

 霊夢、魔理沙、慧音は深刻そうに唸った。そこに女中が扉をノックし、阿求へ来客を報せる。すると女中の後方から何事もないように、

 

「上がらせてもらうぞい」

 

 マミが入ってきた。阿求は顔を顰めて「勝手に入らないでください」と強めの口調で牽制。来客を快く思っていないようであった。

 しかし本人は、そんなことどうでもよかった。

 

「特命係が秘密結社を疑っているようじゃぞ?」

 

「なんですって?」

 

「里人に聞きまわって情報を手に入れたらしいのぉ。さすがは表の警察官といったところじゃわい。カッカッ」

 

 そう言って、彼女は部屋の壁に持たれかかる。飄々としたマミの態度に阿求はいつになく腹を立てるも、平静を取り繕った。

 

「まぁ、それならそれで構いません。向こうの出方に合わせてある程度の情報をお渡しすればよいのです」

 

「いっそ、皆で捜査すればとも思うじゃが」

 

「できませんよ。わかるでしょ?」

 

「冗談じゃよ。知っておる」

 

「用件はそれだけ? でしたらお引き取りを」

 

「冷たいのー。せっかく情報を持ってきてやったというのに。儂くらいは仲間に混ぜて欲しいものじゃがなぁ~」

 

「その程度の情報、大して役に立ちません。対価にしては高すぎます」

 

「なんじゃ、その冷たい態度は? こっちが親切に教えてやっておるのに」

 

「親切心には感謝しています。ですが、今はふざけている場合ではないのです。あ、それとあなたの子分が糞をまき散らしていると四家から苦情がありました。今すぐ撤退させてください。じゃないと毒餌をばら撒かれますよ?」

 

「ふん、そうか。ご親切にどうも! さて、邪魔者は消えるとするかの!」

 

 阿求は尊だけでなくマミもよそ者と同じように扱い、退席を求めた。

 ヘソを曲げたマミは不機嫌そうな態度を顕わにしながら扉を開け、出ていこうとしたが、何かを思い出したのか、ピタリと立ち止まり、

 

「――そういえば明日、秘密結社の連中が空地で演説すると張り切っておったぞ。何もなければよいな」

 

 とだけ告げ、屋敷を後にした。

 

 

 翌日。鈴奈庵帰宅後も特命部屋で事件の整理を行っていた尊は睡魔に負けて寝落ち。朝八時に目を覚ます。

 

「ヤッバ、もうこんな時間かよ。今日は空地で演説があるっていうのに」

 

 急いで身支度を整え、三十分で特命部屋を飛び出し、稗田邸へと駆け出す。屋敷の正面に到着した彼は門を叩いて、中へと入った。

 女中の案内の下、客間でいつもの護衛二名をつけた阿求と面会する。軽い挨拶を交わしたのち、尊がこう訊ねた。

 

「どうやら秘密結社がよからぬことを企んでいるようです」

 

「こちらも掴んでおります」

 

「リーダーは八百屋の倅の奥村雅彦という若者だそうです。どのような人物かご存じでしょうか?」

 

「素行はよくないけれど頭はよい人物だと聞きました」

 

「なるほど。そこまで知っていられるのであれば本日、彼らが空地で演説を行うといった情報も……」

 

「入手しております。報告が遅れてすみません。何分、いろいろ仕事が立て込んでいましてね。朝までに片づけるのは大変でした。これで正午過ぎの演説に間に合います」

 

 その発言に尊は耳を疑う。

 

「演説に出向かれるつもりですか!?」

 

「距離を取った物陰からこっそりと観察するつもりです」

 

「絶対に止めたほうがいい! 演説自体、あなたをおびき出す罠かもしれないのに」

 

 大きな声を上げ、阿求に詰め寄るも彼女は「私は稗田家の当主ですから、最低限のことはしなければならないのです」と回答して、尊をさらに腹立たせる。

 

「面子とかそういうの関係ないでしょ! 命を大事にすべきだ!」

 

「私らも止めたんだがな、聞かないんだよ」

 

 隣にいる魔理沙が肩を竦め、霊夢がため息を吐く。ふたりの疲れた様子を見るにかなり揉めたのだろう。

 

「どうして、そこまでするんですか?」

 

 尊の質問に阿求は静かに、そして冷たく答える。

 

「演説の内容によっては彼らを拘束。排除しようと思っているからです」

 

「拘束、排除って」物騒な物言いに尊はたじろぐが、阿求は感情を入れることなく続きを語る。

 

「この状況下で里を不安に陥れるような行動は見過ごせません。全ては里のためです」

 

「……ちなみに拘束の基準は?」

 

「私の判断です。それ以上は申し上げられません」と阿求は冷たく言い放った。

 

「そういうことですか」

 

 尊は阿求の面構えから演説内容に関わらず、秘密結社メンバー全員を拘束する気でいるのだと悟り、目つきを尖らせる。

 

「拘束する理由づけのために演説を許容する訳ですか。演説の視察も民衆に対して自身の決断の正当性をアピールするためですね?」

 

 隠れながらもその場にいたと主張すれば、民衆への説得力が増す。尊はそれが狙いだと勘繰るも彼女は否定した。

 

「いえ、そうではありませんよ。自分の目や耳で確かめたいのです。彼らの考えを。その上で拘束の決断を下します。リスクは承知しております。……ですが、皆さんに守って頂ければ何とかなるかと思っています」

 

 どこか強気な態度を感じさせる彼女の言葉。相手が〝人間〟だと踏んでの態度は誰の目にも明らかだった。尊は説得を諦め、拘束後の処置について訊ねる。

 

「拘束され万が一、彼らがあなたの暗殺未遂に関与していた場合、どうなりますか。追放ですか? それとも――」

 

「それもこちらで決めます」

 

 まるで警官に喋らせないように少女は口を挟んだ。尊は全てを理解し、奥歯をギリッと噛み締めて不服であると訴えるが、彼女は意に返さない。

 

「ここは表の世界ではありませんから」

 

 今の阿求は紅魔館で楽しくゲームをしていた時の彼女ではなく政治家、稗田阿求である。感情でどうこうできる相手ではない。尊は視線を床に落とし、

 

「知ってますよ」

 

 と零し落胆する。続けて阿求本人、霊夢と魔理沙もまた同じように後ろめたさから顔を背けた。

 

 

 同時刻、八百屋の一室。

 男は机に向かい、筆で何度も文章を書き直しては真っ赤に充血した目からその内容を自身の頭へと叩き込んでいる。

 

「今日、俺たちの戦いが始まる」

 

 震える声に連動するかのようのくしゃりと紙を握る。それは喜びかそれとも――。

 

「雅彦~。お友達がきてるわよ~」

 

「わかった。ありがとう、母さん」

 

 雅彦は母親に礼を述べ、そのまま玄関まで向かう。そこにはひとりの若者を筆頭に四人の結社メンバーと思わしき者たちが待っていた。

 皆、緊張からか強張った顔つきをしていた。雅彦は先頭の男の肩をポンっと叩いた。

 

「緊張しすぎだぞ。副代表?」

 

「悪かったなリーダー」

 

 副代表はふふっと苦笑いを浮かべてから、深呼吸と共に胸を擦った。

 

「大丈夫だ。俺も緊張している。というよりも恐怖を感じている。ただ話すだけなのにな」

 

「なぁ……雅彦、本当にやるのか? 何もお前がそこまでやらなくとも」

 

「言っただろ? 俺はやる男だ。全てを背負う覚悟がある。気にするな」

 

「でもさ、もしも。もしもだぞ――」

 

「もう決めたことだろ? よろしく頼むぞ、副代表」

 

「……」

 

 半ば強引に副代表を説得した雅彦は、大通りに出てすぐに右拳を天に掲げた。

 

「全てはよりよき明日のために」

 

「「「「「全てはよりよき明日のために!」」」」」

 

 メンバーの宣言を背中越しで見届けた雅彦は運命の場所へと赴く。

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