相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第91話 デモクラシー・ストーム その1

 時刻が十三時を回り、昨日と打って変わって燦々と輝く太陽が人里を照らしている。

 そんな中、周りに塀の一つもない、開けた空地に人だかりができ始めていた。最後尾に紛れ込んだマミが呟く。

 

「ずいぶん、人が多いのう。一体、どうやって集めたんじゃ?」

 

「先ほどまで結社の方々が里を駆け回っていましたからね。その影響でしょう」

 

 マミの背後から文が顔を出して小さく会釈した。ふたりは肩を寄せ合い、小声で会話する。

 

「……おぬしが宣伝に協力したのではないのか?」

 

「あはは、そこまでの関係ではありませんよ」

 

「どうだかのぅ~。里の代表が狙われて間もない時期の演説。内容はどうあれ、外の連中は気になるじゃろうからなぁ~。金になると踏んだか」

 

「お金なんていりませんよ。ネタさえあればね」

 

「ふん、相変わらずじゃな」

 

「あなたこそ、記者に負けず劣らずの野次馬っぷりじゃありませんか。狸にしておくには勿体ない」

 

「鴉に言われとうないわい」

 

 妖怪同士といえ勢力が違えば不仲なのはよくあることだ。人里で情報戦を繰り広げ、互いに妨害し合った彼女らも例外ではない。

 

「ところで稗田さんはきてますかね?」

 

「さあな。どこかで見ているやもしれんが」

 

 チラリと周囲に視線を向けるも、それらしき姿は確認できない。

 

「人混みの中にいるってことはなさそうですね」

 

「木を隠すなら森の中というが」

 

「森ごと燃やされたら終わりですよ」

 

「警戒しておる訳か。それがよい」

 

「お優しいのですね。人情派妖怪は伊達じゃないってヤツですか?」

 

 文が鼻で笑った。

 

「心にもないことを言うでない。アレがいないと里の運営に支障をきたすじゃろ」

 

「確かにその通りです。おかげで支配も難しいですよね」

 

「強かじゃからのう。つけ入る隙がない」

 

 マミは肩を竦めながら目を閉じ、文は雲一つない青空を仰ぐ。

 

「〝人里の支配者問題〟。この事件が終わったら再沸騰しそうですね。あらゆる勢力が本腰をいれてくるかも」

 

「その前に取れるところは取りたいのう」

 

「新参者のあなたじゃ無理ですよ」

 

「やってみなきゃわからんぞ」

 

「あなたに取れるならすでにこちらが取ってますって」

 

 顔を合わせず、互いを牽制しあう両名。そこに青いワンピースの女性が割って入るように現れる。

 

「こんなところにきてまで謀か?」

 

 慧音だ。

 

「まさか。ただの雑談ですよ」

 

「うむ、そんなところじゃ」

 

 笑う記者に人差し指で眼鏡を持ち上げる頭領。白沢は眉をひそめるも、鼻を鳴らすだけにとどめた。

 

「……何でもいいが里の中で話すのは止めてくれ。皆が不安がる」

 

「気をつけます。稗田さんは?」

 

「さあ。しらん。一々、余計な詮索はしないでくれ」と、慧音は強い口調で妖怪たちに釘をさす。

 

「わかりました(わい)」

 

 肩を竦めたふたりは共に首肯して開演を待つ。

 その後方、二十メートル付近にある民家の小窓から魔理沙が顔を微かに出しては、すぐ閉めた。彼女は自らの後ろにあるテーブルに座る阿求とその他、護衛たちに向かって告げた。

 

「ここなら演説内容もギリギリ聴こえると思うぜ」

 

「距離を取ったとはいえ、犯人が襲撃してこないとも限りません。今からでも引き返しませんか?」

 

 変装のために茶色の和服に身を包んだ尊が再度確認する。

 

「ここで声だけでも聴きます」

 

「スマホだってありますし、録音も可能です。わざわざ身を危険に晒す必要なんてないかと」

 

「もし仮に犯人に怯え、稗田の当主が弱腰だったと知れたら顔が立ちません。ご厚意だけ受け取らせて頂きます」

 

「……わかりました」

 

 尊は不服そうに頷いてから一か所しかない扉側を見張るべく立ち上がった。その姿にほんの少しだけ巫女が同情するかのような視線を送った。そこからしばらくの間、無言が続いた。

 

 

 午後十三時。空地には人だかりができ、外まで聴衆が溢れんばかりだった。

 マミと文のふたりは前列から三番目辺り、慧音は最前列に陣取ってリーダーの演説を待つ。

 三月の中頃とあってか未だ寒さが残るも人々の熱気で熱がりな里人が汗をかく。そんな具合だ。やがて、どこからともなく結社のメンバーたちが用意した木箱を正面に重ね始める。

 聴衆がまだかまだか、と騒ぎ出す。そこへ数人の部下に囲まれた雅彦が姿を現し、重なる木箱の上に登った。その周辺を守るように部下たちが壁を作る。

 

「アレが結社のリーダーか」

 

 雅彦は灰色の着物に草鞋を穿いた大男で髪は逆毛の短髪だ。目つきは鋭く、酷く無愛想。身体は八百屋で鍛えられているのか、自ら鍛えたのか不明だが、着物の上からでも胸板が盛り上がっているのが見て取れる。その体躯に里の人間たちは息を飲む。

 檀上に立った雅彦は上着部分にあるスペースをトントンと叩き、小型の物体があることを確認してから軽くお辞儀する。

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます。私は《人里の夜明け》――通称、秘密結社の代表を務めさせて頂いております、奥村雅彦と申します」

 

 数ヶ月ぶりとなる演説。それもリーダー交代後初となれば緊張するのも当然のはずだった。しかしながら、雅彦は誰よりもスムーズかつ丁寧な口調で演説を行い、聴衆を驚かせた。

 

「(やはり頭のよいヤツというのは本当じゃったか。しかも妙に落ち着いておる。これは何かあるぞ)」

 

 マミは自慢の眼鏡を上下させながら静かに唸り、反対に文は「化けの皮を剥いでやる」と意気込んだ。

 

「今回、この状況下で演説を開いたのは皆さまに聞いて頂きたいお話があるからです。それは――()()()()()()()()()についてであります!」

 

 会場が一気にどよめく。聴衆の大半が予想していたとはいえ、序盤から切り出してくるとは思わなかったのだろう。

 

「お集まりの方々は我々をお疑いかと思われますが人里の夜明けはこの件に一切、関与しておりません。その上で結論から言わせて頂きます。今回の事件の犯人は()()である可能性が極めて高いということを!」

 

 更なるどよめきが巻き起こった。

 

 ――どういうことだー!

 

 ――説明しろー!

 

「ご静粛に。今から理由を説明します。今回、使用された武器は銃だったことはご存じの方も多いでしょう。その銃は数十秒の内に次弾装填、発射可能な優れた命中精度だったことはあの場にいた人間なら誰でも知っています。そんな銃は里では作れない。となれば外からやってきたと考えて間違いない。

 その場合、疑わしきは外からやってきた人間となりますが、稗田代表を庇ったのは表の人物であり、間髪入れず反対方向から駆けつけた人間もその方の部下。つまり、彼らではない。里に住み着く外来人も高い射撃能力を持っているとは言い難い人材ばかり。ならば、新たに外からやってきた人間の犯行か? それも不自然。では答えは何か――それは妖怪以外にあり得ないのです!」

 

 ――おい、ふざけるなー。証拠がないじゃないか!?

 

 ――本当はお前らなんじゃないのか!?

 

 ――インチキかー!

 

 秘密結社の話は憶測でしかなく、聴衆は罵詈雑言を飛ばし始める。それに臆することなく彼は堂々と話を続けた。

 

「証拠がないのが証拠。そうだとは思いませんか? 事件が発生して三日目、まともな痕跡が一つもないんですよ? 今までそんな事件を人間が起こせましたか? 無論、ついこの間、若い外来人が里人に殺されたという事件はありましたが、それを含めても里人が表の銃を上手に使いこなし、稗田氏を狙撃できますか? 人里の夜明けにそんな力が能力を持った人間がいるとお思いですか? 我々は、銃はおろかまともな武器さえ携帯させてもらえず、有り合わせの武器で妖怪に挑んできた過去がある。武器があれば死者を出したと思いますか? ないからこそ多くの死者を出したのです!! したがって、我々には銃を扱う技術はない! 犯行は不可能なのです!」

 

 雅彦は必死に訴える。その内容にリーダーの言い分を信じる声がチラホラと出始めるが、それでもなお否定的な意見が多かった。

 

 ――全くないとは言い切れない。

 

 ――表の武器を使いこなすのは無理だとは思うけど、それが妖怪の仕業なのかしら

 

 ――秘密結社の言い分なんて信じられるかよ。

 

 ネガティブな意見に雅彦が反論する。

 

「では、あなた方にお聞きしたい。妖怪以外の誰にこのような犯行が可能なのかと!! 我々は潔白を証明するためこうして立ち上がり、里が妖怪に狙われているかもしれない中、必死に演説をしている! 我々を疑うなら我々が関与したという客観的な証拠を提示して頂きたい! この中に秘密結社が犯人だという証拠を持った方がいるなら今すぐ名乗り出て欲しい!!」

 

 リーダーの逆切れとも取れる発言に聴衆は動揺する。言われてみれば皆、結社が怪しいと睨んでいても証拠を持っていないのだ。憶測だけでものを言っているのは結社も聴衆も変わらない。マミは危機感を覚えた。

 

「(この若造、証拠がないのをいいことに都合のよい解釈で周囲を誘導しようとしておるな。民衆というのはその場の勢いに流されやすいからのぅ)」

 

 村社会で長年、育ってきた里人たちは情報を精査する能力が大きく欠けており、雰囲気だけで流されてしまう可能性があった。

 周囲の様子に目を配る文も同様に「この空気はちょっとマズイかもしれない」と焦った。だが、聴衆の中にも意地の悪い返しをする者もいる。

 

 ――実は隠滅を隠滅したんじゃないのか!? だから強気でいられんだろ!

 

 ――そうだ、そうだー。

 

 ――きっとそうよ!

 

「証拠を隠滅? 御冗談を。我々にそんな能力はありません! それに証拠となるものは表の警察官の部下が押収したと記憶しておりますが。怪しむならそちらでは?」

 

 ――どういうことだー!?

 

 ――責任転嫁かー!!

 

「それは違います! 部下の方が調査に乗り出し、証拠となる品を回収した。皆さん、その人物が里をグルグル回っていたのは知っているでしょう? それは事実だ! 彼の動きは早く、真っ先に証拠を集めて行動していた。つまり、隠滅が可能なのは彼だけである!」

 

 雅彦がそのように述べた瞬間、歯ぎしりした慧音が「そのような心無い言い方は失礼だ!!」と声を上げた。

 聴衆が一斉に慧音のほうを向き「先生だ!」と発した。目立つつもりはなかったが、注目されてしまっては仕方ない。

 彼女は最前列から数歩ほど進み、奥村の正面に立つが、奥村の間に結社メンバーが入り込み「これ以上は近づかないでください」と警告される。

 慧音は壇上の奥村を見上げながら皆に説明を行う。

 

「その人物は稗田家当主の許可を得て活動している。集めた証拠も見せて貰っているし、こちらが預かっている品もある」

 

「それはどのような品ですか?」

 

「現在調査中であるため、公表はできん」

 

「公表できない理由でもあるのですか? まさか犯人が妖怪だからですか!?」

 

「まだ断定できないのだ! 話を飛躍させるな!!」

 

 ――妖怪!? 犯人が妖怪だから先生が庇ったってのか!?

 

 ――そんな訳ないだろ!

 

 ――そうよ、先生は半人半妖だけどいい人よ!

 

 人格者の慧音を支持する声は多数を占めるが雅彦は以前、強気だ。

 

「でしたら、証拠の品の一つや二つ、見せて頂けますか?」

 

「稗田家当主に可能かどうか訊ねてみる」

 

「そこは是非とも『私が開示させる』といつもの強気な態度で語って欲しかったところですが――先生がそこまで言うのですから今回は引きます」

 

「なんだ、その態度は」と慧音は今にも爆発寸前だが、ここはグッと耐える。

 

 ――確かにいつもの元気がないよな。

 

 ――やっぱり疲れているのかな?

 

 ――顔色悪そうだし、やっぱり何かを隠しているとか。

 

 聴衆からチラホラと聞こえる言葉に慧音は焦りを覚える。そこで奥村が独り言のように「やはり、妖怪が関わっているのですか?」と呟き、彼女はさらに苛立った。

 

「ッ――。先ほどから何故そうも結論を急ぐのだ!?」

 

 声を高くして対抗する慧音だが、雅彦は冷静かつ強い口調で、

 

「我々が疑われて困っているからです。メンバーがあらぬ疑いをかけられ、実害が出ているのです! メンバーを守るのが代表の務め。例え、寺子屋でお世話になった恩師とはいえ、言うべきことは言わせて頂きます!」

 

 ――いいぞー、奥村ー!

 

 ――中々、骨のある奴じゃん!

 

 雅彦を応援する声が響く。それでも、

 

 ――慧音先生にそんなこと言うなんてひどい!

 

 ――恩師への態度ではない!

 

 との声も上がる。

 

「それもこれも捜査を秘密裡に行い、里人へ情報を出さない稗田家の体制に問題がある! 人里は昔こそ小さな集落だったが、今ではかなりの規模となった。表の世界は法で動いている。権力者もルールに従い、平等だと聞く。では人里はどうだ? 大半を稗田家が決めている――これは紛れもなく()()である!」

 

 ――独裁ってなんだ?

 

 ――難しい言葉なんてわからなーい。

 

「早い話はごく少数の人間が自分勝手に人々を動かし、他者を道具のように扱う自己中心的な行いだ! 稗田家は自身に権力を集め、里を牛耳り、妖怪から見返りを貰っている。私はそう見ている!」

 

「な!? そんな根も葉もない言いがかり――」

 

 ――それが今回の事件とどんな関係があるんだよー。ちっともわからんぞー!

 

 慧音の言葉を遮るように野次が飛び、奥村が飛びつく。

 

「稗田家は妖怪に都合のよい運営を行っているのです。スペルカードなるものが流行り始め、妖怪があちこちで戦いを繰り広げている。それは里の中でも行われる。本来、そのような危険な行為は規制させて当然のはず。それを稗田家は黙認している!」

 

「稗田家は黙認などしていない。きちんと注意している!」

 

「それは本当ですか? 我々は稗田家が妖怪に注意している姿を見たことがありませんが?」

 

「人前で行わないだけだ!」

 

「誰も知らないことに変わりありません。妖怪に忖度でもしたんじゃありませんか? 何かと引き換えに」

 

 ――それは本当なのか!?

 

 ――稗田家って名家じゃない。妖怪から何か貰う必要なんてないでしょ?

 

「稗田家代表は自身の好奇心を満たすため、妖怪と関係を持ちたがっている。表向きは幻想郷縁起執筆という名目ですが、本心は自身も妖怪になりたがっているのではないですかね。その梯子渡しを条件に妖怪たちの行動を黙認している」

 

「さきほどから馬鹿なことばかり、いい加減にしないと――」

 

 と鼻息を荒くした慧音が雅彦に詰め寄ろうとする。

 

 そのとき、雅彦を守るメンバーに肘が当たる。メンバーは「うわぁ!」と声を上げ、後方に倒れ込む。

 倒れたメンバーは当たった箇所を庇い痛がる素振りを見せながら「いってぇ――」と涙目になりながら訴える。

 慧音は「すまない、悪気はなかった」とすぐさま謝罪するが、周りのメンバーが一斉に「今、肘で押した!」「暴力だ!」「これが先生のやることか!?」と騒ぎ立てる。

 

「いや、軽く肘が触れただけだ」と慧音が弁明するも。

 

「軽く触れただけでこんなに痛がるのか!?」

 

「強く押しましたよね? ねえ、強く押しましたよね?」

 

「俺たちは話をしているだけなのにっ」

 

「いや、だから――」

 

 ――先生、無理やり押したよな。酷くないか?

 

 ――あの人、痛がっているよ。

 

 ――あれは暴力では?

 

「くっ……」

 

 聴衆の声が倒れたメンバーの擁護へと回り、慧音は前後から攻撃される形となった。

 自身の味方だったはずの聴衆が敵になる。彼女は恐怖を感じて唖然とするも、そこに雅彦が追い打ちをかけにいく。

 彼は檀上を降り、倒れた部下に「大丈夫か?」と問いかけてからゆっくり引き上げ、身体の埃を自らの手で払う。

 そして、慧音に近づき「こういった暴力行為は止めて頂きたい」と静かに警告。彼女が「す、すまない」と謝罪して軽く頭を下げる。そのタイミング――奥村は彼女の耳元付近で誰にも聞こえぬように、

 

「相変わらず獣くせえ女だな。半人半妖の混ざり者が人間の真似ごとなんてすんな。気持ち悪いんだよこの×××××××――」

 

 と度を越えた侮辱を行った。慧音の頭は一瞬で真っ白となり、

 

「――ッ!! このォォォ!!」

 

 ――パン!!

 

 と右掌で雅彦の頬を打ち、彼を転倒させる。まさかの出来事に聴衆から悲鳴が上がった。

 

 ――慧音先生がリーダーを殴った!!

 

 ――それはないだろ!?

 

 ――最低だぜ!!

 

 ――信じていたのに……。

 

 ふと我に返った慧音は「しまった――」と声をうわずらせるももう遅い。

 聴衆の大半は雅彦の味方となってしまっていた。雅彦はほんの少し笑みを浮かべ「私なら大丈夫です! 皆さま、お騒がせしました」と立ち上がり、檀上へ戻る。雅彦の行動と慧音の表情からマミは全てを察し、

 

「……見ておれんな」

 

 と取り乱す慧音のところに向かう。

 

「白沢どの一旦、頭を冷やせ」

 

「し、しかし――」

 

「相手の思うツボじゃ。今は引け」

 

「うぅ……」

 

 マミに促される形で慧音はしぶしぶ引き下がっていった。雅彦が演説を再開する。

 

「途中、いざこざがありましたが、先生のことを悪く言わないで頂きたい。彼女は稗田家の深いつながりがあり、そのせいで気を立ててしまったのです」

 

 ――気を立てた? どういうこと?

 

「私が言った見返りという言葉にたまらず反応してしまったのでしょうね。私が侮辱しているように感じたと思われます。ですが、同時にやはり自分の意見が正しいのではないかと強く感じました。稗田家と妖怪は癒着している。そして、妖怪が里に入り込んでいる、とね」

 

 その言葉に普段なら流すだけの聴衆たちが「そうかもしれない」「癒着しているのか」「慧音先生の態度はそれが原因か」と騒ぎ出し、雅彦に同調した意見が相次ぐ事態となる。

 そんな聴衆にマミと文は一抹の不安を覚え、互いに顔を合わせる。

 

「(事態を打開しようぞ)」

 

「(了解です。ここは共闘といきましょう)」

 

 アイコンタクトで共闘を張ったふたりが行動を起こす。

 

「質問してもよろしいかな?」

 

 とマミが手を挙げた。雅彦は一呼吸おいてから、

 

「見ない顔ですね。里人ですか?」

 

「儂は長屋に住んでおるマミという者じゃ。いつもその辺を歩いておるぞ?」

 

 ――うんうん、よく大通り歩いているよね。

 

 ――俺、あの人見たことある。

 

 ――人のよさそうな人ね。

 

 聴衆の態度を見た雅彦が彼女に質問の許可を出す。

 

「……わかりました。なんでしょうか?」

 

「先ほどから稗田家を敵視させるような話ばかり持ってきていると思うんじゃが、ちと作為的すぎんかの?」

 

「私は真実を言っていると思っておりますが」

 

「全て憶測でしかないぞ。証拠がないのじゃから」

 

「それはそうでしょうね。稗田家が全てを隠し、表に出ないように計らっているのですから。私は真実を明らかにしたいのです」

 

「なら本人と対談しては如何か?」

 

「話し合いを持ちかけてもまともに取り合いません。『後で調べます』とはぐらかされて終わりです」

 

「やってみなければわからんぞ? 本人との対談を避け、いない場で妄想を垂れ流す。これはどうにも引っかかるんじゃよ」

 

 ――言われてみればそうだな。

 

 ――証拠もないもんね。

 

 ――情報がすぐに流れないのはいつものことよ。

 

「では、マミさんは、稗田家は妖怪から見返りを貰っていないとお考えで?」

 

「それはしらん。じゃが、だとするならもっと妖怪が里の中にいてもおかしくないと思うが」

 

「変装して入ってきているんですよ。人間の女の恰好ならバレにくい」

 

「変装? 確かに変な恰好のヤツはたまに見かけるが、それが妖怪なのかの?」

 

「その大半は妖怪、もしくは妖怪の関係者だとこちらは把握している」雅彦は断言する。

 

「儂はおぬしが言うような、妖怪が気楽に里の中へ入ってくるところなど見たことないがなぁ。いても許可を貰って行動している者ばかりじゃろ。人形師や音楽家といったな」

 

 ――確かに人形使いのお嬢さんとかプリズムリバーも里に入ってくるよな。

 

 ――態度のよい妖怪たちよね。

 

 そう言い出す聴衆。しかし、別のところでは、

 

 ――人形使いは元々、種族的には人間だし、プリズムリバーは幽霊。それを妖怪と言っていいのか?

 

 ――あの人たちって妖怪って感じしないよねー。

 

 との声が出る。

 

「あれらはどちらかといえば()()でしょう。本来の妖怪とはまた別の存在だ。それを妖怪のように語って、ここにいる人間を誘導しようとしていませんか?」

 

「そんな訳あるかい。幻想郷では人外も妖怪のように扱われているではないか!」

 

「それを決めたのは誰ですか?」

 

「誰じゃと……。そんなの前々からじゃろ?」

 

「ならばそう誘導した人間がいてもおかしく訳ですね? 稗田家がやりそうなことだ」

 

「なんじゃと!? 何でもかんでも稗田家になすりつけおって!」

 

 マミは雅彦の言い分に腹を立てた。

 

「事実ではありませんか? 稗田家のつき合いのある先生も忖度を疑った私をいきなり殴りつけましたしね。暴力で言論封殺を行おうとしたのでは?」

 

「それは、お前が侮辱したから――」と慧音が反論するが。

 

「皆さん、私はそのようなことを言いましたか?」

 

 ――言ってない。

 

 ――先生がいきなり殴った。

 

「く、皆……」

 

 慧音は反射的に手を出したことを悔やむ。それを間近で目撃し、同情を寄せた文が「私にお任せを」と彼女の耳元で呟き、マミの隣に並び立つ形で前に出た。

 

「私もよろしいですか?」と、手を挙げる文に雅彦は首を傾げながら「あなたも見ない顔ですね?」と問う。

 

「私はルポライターの文と申します」

 

「あぁ、妖怪の射命丸文さんですか」と一言。

 

 すると、聴衆が「妖怪!?」「うっそだろ!」「やっぱ簡単に入ってこれんじゃん!」「キャー」と騒ぎ出し、一時騒然とする。

 さすがにマズイと思った文は咄嗟に「そ、その方とは別人です。名前が同じだから間違われるんですよ!」と苦しく弁明。訝しむ雅彦は「では帽子を取って下さい」と要求した。文は「わかりました」と頷いて帽子を取った。

 普段、尖った耳は髪の毛で覆い隠しているので、聴衆はあどけない少女として彼女を認識する。

 ある程度の聴衆が彼女の素顔を確認したところで雅彦は「わかりました。どうぞ」と質問の許可を出した。

 

「情報に携わる者として拝聴しておりましたが……あまりにも酷すぎません?」

 

「と、いいますと?」

 

「明らかに特定の人物、組織への悪意ある内容だと申しておるのです。先ほど、あなた、小声でこう言ってませんでしたか。『獣くせえ』『気持ち悪い』とか。それで白沢氏は逆上したように見えたのですが?」と文は言いながら慧音にアイコンタクトを送る。

 意図を察した慧音が「そう……言われた!」と発言し、聴衆は驚いた。

 

 ――そんなことがあったのか!?

 

 ――先生、可哀想!

 

 徐々に広がる擁護の声を雅彦は大声でかき消そうとする。

 

「私はそのようなことは言っておりません! 文さん、嘘を吐かないで頂きたい!」

 

「嘘なんてついていません。確かにそのように聞こえました!」と文は強い口調で言い放った上で続けて「そんなやり方で里人を誘導しようとする。さすがに呆れました。なのであえて言わせて頂きます――卑怯であると!!」と指さして、痛烈な批判を浴びせた。




デモクラシー・ストーム その2 へ続く。
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