突然の銃声。気がつけば雅彦が血を流して倒れていた。目の前で見ていたマミ、文、慧音はあまりのできごとに絶句――思考停止に追いやられる。
霊夢も阿鼻叫喚の聴衆を目撃して身体が硬直する。魔理沙、阿求、尊も開いた口が塞がらない。
絵に描いた通りのパニックだった。
「雅彦ォォォォォォォォォォォ!!!!!」
泣き叫ぶ副代表が雅彦を仰向けにして身体を揺らす。瞳孔は開きっぱなしで反応はない。即死だった。
「チクショーーーーーーーーーーーーー!!!!」
悔しい。その想いを声に乗せて天まで送り出す。けれど雅彦はもう帰ってこない。その事実に副代表は遺体の胸に自らの額を擦りつけて心からの涙を流す。
それは戸惑う群衆も同様で、
――死んだ、奥村が死んだ!!
――誰がやったんだー!!
――どうしてこうなるのよぉぉぉぉぉ!!
――アイツは悪いことしてないじゃないか!!
――誰だぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 撃ったのは誰だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「み、皆、お、落ち着いてくれ」混乱しているのは慧音も一緒だった。それでも年長者として里人をまとめようと努力するが、現実は非情だった。
――ゴロゴロ。バシュ!
突如、何かが投げ込まれて会場のあちらこちらから白煙が発生したのだ。すごい勢いで煙が会場を包み、聴衆のパニックを煽っていく。
――なんだこれは!!
――前が見えないわ!!
――恐いよぉぉぉぉぉ!!
視界が遮られ、参加者は状況を把握できない。マミや文も動けずにいる。
「なんじゃこれは!?」
「知りませんよ!!」
妖怪とはいえ、こうした状況は想定外である。文は妖怪の姿に戻ろうとするも人が密集しており翼を出すのを躊躇っていた。マミも変装を解除するか迷っている。
行動を決めかねていたところ、後方から複数の
「ま、まさか――」
手投げ爆弾だ。もう遅い。
――ドォン!! ――ドォン!! ――ドカァン!!
球体は爆発。周囲に思わず耳を覆うほどの音と肌を火傷させる程度の火炎をまき散らした。
威力からしてその殺傷力は大したほどではないが、視界が遮られたこともあり、更なる混乱を招く。
――爆発だああああああああああああああああ!!
――キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
――助けれくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
――いやあああああああああああああああああ!!
間一髪、攻撃を回避したマミと文だったが、慧音だけは里人を庇い、身体を負傷していた。爆風を浴びながら慧音はヨロヨロと立ち上がるもすぐに蹲ってしまう。
「白沢どの!!」
「上白沢さん!!」
心配したマミや文が彼女に駆け寄るも二人の姿を見た聴衆が「妖怪くるなあああああああああああああああ!!」と泣き叫び、それに釣られるように「アイツらがやったのか!?」「妖怪の仕業なのか!?」「妖怪が奥村を殺したんだ!!」「俺たちも巻き添えかよ!!」「いやああああああああああああ殺されるーーー!!」とあちこちで絶叫が巻き起こる。
「何故そうなるんじゃ!!」
「私たちは何もしてませんって!!」
混乱の中、一人二人が騒いだところでどうにもならない。伝言ゲームのように後方へ伝われば伝わるほど、その内容は変化する。霊夢がいる地点では「妖怪が里人を殺してる!!」と言い出す者が後を絶たず、
「ちょ、ちょっと……嘘でしょ!?」
霊夢は慌てながら飛翔した。上空十五メートル付近で様子を確認するも、
――上空に人影だ!!
――妖怪だああああああああああああ!!
と聴衆に叫ばれ、焦って着地するハメになる。何もかもが後手後手に回り、誰も適切な対応ができない。さらにダメ押しとばかりにマミたちのところに追加の爆弾が投げ込まれ、ドカン! ドカン! と周りを巻き込んで複数の爆発を起こす。煙のせいで視界が悪く犯人もわからない。
正気を失った聴衆が一番広い大通りに通じる道へと殺到する。彼らの勢いは凄まじく神戸たちは民家から正面通りに出られず、身動きが取れなくなった。
「おおい、どうすんだよ!! これじゃ、身動き取れねえぞ!!」
魔理沙が声を荒げながら阿求に詰め寄るも彼女も混乱しており、
「わ、わからないわよ!!」
と言い返す。今の阿求にいつもの冷静さは微塵もあらず、魔理沙相手に食ってかかることしかできずにいた。呆れた尊がふたりの間に割って入った。
「いい加減にしろ!! 言い争いなんてしてる場合じゃない!! まず外へ脱出するんだ! 音からして空地では爆発物が使われている。いつ火の手が回ってくるかわからない! この民家に裏口はあるか!?」
「あ、あるけど裏路地も人が殺到してるぜ!!」
「だったら、お前の火力で民家の一部を破壊して脱出口を作れ! 民間人を巻き添えにしないように屋根を打ち抜け。いいな!?」
「あぁ、わかった――」
「その後は稗田さんを連れて彼女を安全なところまで避難させろ! 俺は避難誘導と救助に回る。いいか、できるだけ高い建物を迂回して飛翔するんだ。少しでもスナイパーから距離を稼げ!」
「おおう。てか、安全な場所ってどこだよ!?」
「里の外に出すべきだろうな。稗田邸も犯人が先回りしているかもしれない」
「それでは誰が里をまとめるのですか!?」と阿求が訴える。まともなリーダーシップを発揮できるのは彼女だけ。やむを得ないと、尊が妥協する。
「少しでも危険だと感じたらその時は博麗神社とか紅魔館とか永遠亭に避難させろ!! お前ならできるよな。稗田さん、それでいいですか!?」
「え、あ、はい」と阿求は勢いに押されて返事する。
「それと稗田邸に到着して余裕があるなら人員を寄越してください。火消しも必要だ――けが人の運搬、介抱する場所が必要です。診療所に多数の人を手当てできるスペースはありますか!?」
「せいぜい、十数人くらいでしょうね……」
「煙を吸い込んで呼吸器をやられた人もいるはず。軽傷も含めれば負傷者の数はそれ以上に達する恐れがある! 他に広い場所は!?」
「あるにはありますが――」と阿求が言った。
「どこです!?」
「……目の前の空地です」
「――ッ!? なんてこった……」
混乱している場所が人里最大のスペースとはいざ知らず、そこで演説を行わせてしまったのだ。大量のけが人のことなど想定外とはいえ、警察官として配慮すべきだったと尊は後悔した。
そこに阿求が提案する。
「でしたら、稗田家を解放します!」
「いいんですか!?」
「やむを得ません!」
「わかりました。診療所が埋まり次第、稗田邸にけが人を誘導します! 魔理沙、急いでくれ!!」
「お、おう――」
そう言って魔理沙は八卦炉を取り出し、出力を調整――民家の屋根の一部をぶち抜き、人が通れる穴を作った。
その中から先に尊が顔を出して周囲を確認するも辺りは煙で見えなかった。
「これなら狙撃手も狙えない。今なら稗田さんを連れて避難できる! 急げ!」
「アンタも気をつけろよ!(お気をつけて!)」
魔理沙は阿求を後ろに乗せて箒で飛び立った。見送った尊もすぐに民家を脱出し、屋根を伝って、人がいないところから降りて里人の避難誘導と救助を始める。
その頃、空地から少し外れた路地で衣服がボロボロになったマミと文が身を潜めていた。
「くっ、してやられました。まさか我々がハメられるとは――不覚!!」
悔しさのあまり文は右拳で地面を叩き、拳一つがめり込む穴を作った。かたや、マミは得意の妖術で別人に変装し、文とふたりで連れてきた慧音を介抱していた。
「白沢どの、しっかりしろ!」
「わ、私なら、大丈夫です……」と呼吸を乱す慧音。
「嘘を吐け! 里人を庇って爆風を身に浴びたじゃろ!? 如何に妖怪といえどもダメージはある! すぐに医者にいくぞ」
「だ、駄目だ――さっきの騒ぎで負傷者が出たはず。私の分は他の者に」
「おぬしはどうする!?」
「……救助に、加わります」
「ヨロヨロじゃろうて!? 休め!」
「私にとって……里は大切な場所だ。例え、半人半妖と罵られようとも、里人は助ける――」
壁にもたれかかりながらも慧音はその歩みを止めない。彼女の心意気にマミが心を打たれた。
「なんという心意気……。わかった、儂も手を貸そう。新聞天狗よ、オヌシも手伝え」
「手伝えとは」
「こういうことじゃ!」
有無を言わさずマミは文の額に葉っぱを取りつけ、彼女を別人に変身させた。容姿は目立たない地味な女の子そのもので変身前とは、どこからどう見ても似つかない。
自分の変化に気がついた文は「なんですか、これー!?」と戸惑う。
「もともと、儂らの失態が原因じゃ。少しでも穴埋めせねばならんじゃろ!」
「そ、それは、そうですけど……」
「じゃ、いくぞい!」
半ば強引に文を巻き込み、三人は救助活動に参加すべく空地へ戻って尊と合流する。時間を開けず霊夢も合流し、皆で救助活動に専念した。
その行動を他所に副代表は無言で雅彦の遺体を空地の隅に寄りかけた。
「(お前の犠牲は無駄にしない。必ず成し遂げてやるさ)」
瞳孔を隠すために右手で瞼をソッと閉じ、彼はひとり姿を眩ました。