相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第96話 マーチ・オブ・テンペスト その2

 大通りを進むデモ隊。その規模は優に五十を超えていて、里の人口からすればかなりの規模に膨れ上がる。

 見かねた慧音が「止めないか!!」と立ちふさがるも、先ほどの手口同様「半人半妖」「妖怪の手下」「権力者の犬」と罵られ、妖怪の画像や動画を流された挙句、間髪入れず大音量の『妖怪・消えろ』コールの前に引かざるを得なくなる。

 腹を立てた霊夢も「いい加減にしろ!!」と、デモ隊に怒鳴り込むも、こちらも妖怪との繋がりを暗示する画像や動画を流されて「妖怪巫女」と大声で叫ばれる。

 彼女はブチ切れ寸前のところを魔理沙になだめられて撤退させられ、慧音と共に稗田邸へと避難していった。

 慧音や霊夢といった強者が逃げる姿を見た一部の里人は「やっぱりアイツらは敵だった」と思い込んでデモ隊への参加を表明した。

 恐ろしい勢いで勢力を伸ばす秘密結社。そのニュースは幻想郷全土へと瞬く間に広がり、各勢力の知るところとなる。

 

 

 夕暮れ時。物陰に潜みながら日没の光を見つめる少女。

 

「大変なことになったわね」

 

 紅魔館の主レミリア・スカーレットは、屋敷のベランダで紅茶を飲む参謀と会話していた。

 

「杉下右京が撃たれたと思ったら今度はデモか」

 

 友人の言葉を受け、パチュリー・ノーレッジは顎を手にやりながら考えを巡らせる。

 

「何か起きている……。私たちの知らない何かが」

 

「そうでしょうね。やらかすなら()()()()かと思ったんだけど」

 

「里にも反抗的な勢力はいる」

 

「これは静観なんて言ってられないかもしれないわね」

 

「動くなら早い方がいい」

 

「わかってるわ」

 

 そう言って、レミリアは影の中に姿を消した。

 

 

 白玉楼では魂魄妖夢が庭園を慌ただしく駆け抜け、その視界に主の姿を捉えた。

 

「幽々子さま、大変です! 里でデモが起こっているそうです!」

 

 冥界の空を仰ぐ西行寺幽々子は、そのままの体勢で妖夢に質問する。

 

「規模は?」

 

「大規模だと伺いました!」

 

「そう……」

 

「どうなさいますか!?」

 

「どうもこうも、妖怪は里の人間には手を出さないって約束があるからね。私たち幽霊も例外ではない。武力で解決しようとすれば人間側の反発を強めるだけ」

 

「ですけど、このままだと危険ですよ」

 

「……少し様子を見ましょう。私も何ができるか考えてみるから、あなたも落ち着いて」

 

「は、はい……」

 

 妖夢は不安を拭えずに視線を落とした。険しい顔つきをする幽々子は「そろそろ起きて貰わないと」と呟いた。

 

 

 永遠亭では、八意永琳が居間に輝夜と優曇華を呼び寄せて里の状況について話し合っていた。

 

「里が荒れているわ。しばらくの間、薬の訪問販売は中止します」

 

「それはよいのですが……。今後、どうなるんでしょうか?」と優曇華が零す。

 

「そうねぇ……。人間側の出方次第だけど。最悪、武力衝突もあり得るわ」

 

「戦いになったら、人間に勝ち目なんてない。デモを起こしている連中はわかっているのかしら?」と、輝夜はそう言って永琳を見た。

 

「どうなのかしらね。本人たちに訊いてみないことにはわからない」

 

「そうよね」

 

 輝夜は近くにあった盆栽に目を移した。

 

「いつも通り()()()()()()()()()――ってなればいいんだけど」

 

「ただの人間はスペルカードを使わない」と永琳が言った。

 

「厄介よね。スペルも暴力もダメな相手って」

 

「幻想郷で一番、守られた空間の守られた存在だからねぇ」

 

「彼らに対抗できるのは誰なのかしら?」

 

「きっと()()()()()――でしょうね」

 

 そう言って、永琳は静かに瞳を閉じた。

 

 

 翌日。デモ隊の抗議活動は夜通し続き、里に静寂が戻ることはなかった。

 彼らは稗田家の正面入り口に陣取り、日の出と共に魔法の言葉が大声で叫ぶ。

 

 ――妖怪・消えろ! ――妖怪・消えろ!

 

 ――妖怪・消えろ! ――妖怪・消えろ!

 

 ――稗田家・出てけ! ――稗田家・出てけ!

 

 ――稗田家・出てけ! ――稗田家・出てけ!

 

 稗田家の中は女中や帰れなかったけが人があちらこちらで疲れ果てている。眠れていないのだろう。阿求、霊夢、魔理沙、慧音も同様に目の周囲に隈を作っていた。

 

「眠れなかったわね……」

 

 襲撃へ備えて客間に布団を用意し、川の字で寝るもうるさくて睡眠が取れなかった。阿求の呟きに皆は無言ながらも目で返事をする。彼女は続けた。

 

「稗田家がこんなに恨まれていたとは――知らなかった」

 

 すると慧音が割り込むように、

 

「そんな訳ありますか!! 集まっているのは若い衆と元から素行不良そうな連中です。昔から幻想郷を知る方や良識ある方はデモに参加していないのです! 弱気にならないでください!!」

 

「……言われてみればそうね。ん、素行不良……? どこから沸いてきた?」

 

 頭が回らない中、思考する。数秒後、阿求の眠気が吹き飛ぶ。

 

「四家の子分どもかあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「おおう!?(はい!?)」コクンコクンと身体を揺らし、眠りかけの魔理沙と霊夢が背筋をピンとさせて目を見開く。

 

「あ、ごめんなさい。腹が立ったからつい――でも元気が出てきたわ。アイツら、どうしてやろうかしら――あははははははははははははは、今から楽しみだわ、うふふふふふふふふふふふふっ」

 

 無礼な四家代表――主に水瀬家、土田家の顔を思い出し、後でギタギタにしてやると腹に据えた阿求の形相は凄まじく、少しだけ狂気をまとったフランドールに似ていた。

 

「「ようか……(そう……)」」

 

「まぁ、元気になってよかったの、か?」そう慧音は苦笑うも「平和的に解決できるのか?」と今後の行く末を案じた。

 

 

 午前十時。あちらこちらで抗議が活発化していた。

 

 ――妖怪・消えろ! ――妖怪・消えろ! ――妖怪・消えろ!

 

 お決まりのかけ声。それだけでは収まらず、今度は《幻想デス・トピア》なるオリジナルソングまで登場する。

 大通りのど真ん中で秘密結社の人間が踊りと共に熱唱し始めた。

 かなり韻を踏んだ曲で、エッジの効いた幻想郷批判だった。

 

 ――よし、いいぞ!

 

 ――中々、うまいじゃん♪

 

 ――ひゅー、ひゅー名曲だぁ!!

 

 もはや騒げれば何でもいい連中の行動である。()()()()()()()()でもしたのか、大通りの端っこで事件捜査中の尊が内心でそう皮肉った。

 里の雰囲気は殺伐としており、声を出す人間たちが大通りのど真ん中を占有し、道端を怯える人間たちが静かに通り抜ける。酷い有様だった。

 尊はこの様子を()()()()()()()()()()()()()()()()と思った。

 民衆を眺める彼の隣にソッと変装したマミがやってくる。

 

「どうじゃ調子は?」とマミは小声で尊に問いかける。

 

「駄目ですね。この騒ぎじゃ一筆があっても意味をなさない」と尊が答えた。

 

「皆、引き籠っているか。騒いでいるかのどちらかじゃしな」

 

「……そちらは?」

 

「狸たちに偵察させようとしたのじゃが、里の中と周辺に毒餌がばら撒かれておっての。迂闊に呼べなくなった」

 

「毒餌……ずいぶん、ピンポイントな対策ですね」

 

「阿求のヤツが『四家が毒餌ばら撒く』と忠告しておったな。どこの家がやったのか」

 

「もしくは結社が奪った、とか」

 

「あり得ない話ではないな。阿求と合流したいのじゃが、稗田家は昼夜問わず、周囲を人間に囲まれておる。いけぬことはないが、もしバレると阿求のイメージが悪化する」

 

「今は近寄らないほうがいいですね」

 

「うむ」

 

 マミは首肯し、騒ぎ立てる里人に嫌悪の目を向ける。無言で彼らを観察していると今度は里人に扮した文が静かにやってきた。挨拶を後回しに彼女は報告を優先する。

 

「里の外で聞き込みしてきましたけど、特に変わった妖怪は見かけてないとのことです」

 

「となると敵は里の中にいると見ていいか……」

 

「それと。外の妖怪たちはこの問題を極めて深刻であると捉えており、一部の勢力は武力介入も検討しています」

 

「それはどこの勢力ですか?」

 

 尊が訊ねると文は、ばつが悪そうに語った。

 

「妖怪の山。私の所属している勢力です」

 

「あそこは大所帯じゃからな。力も経済もある。鎮圧は十分、可能じゃ」とマミが補足した。

 

「ですが、反対している勢力もあります。紅魔館なんかは『一勢力が勝手にやってよいことではない』と言っているそうです」

 

「その、詳しいことはわかりませんが――派閥同士で考え方が異なる。そういう解釈でよろしいですかね?」

 

「そんなとこじゃな(です)」

 

 返答を聞いた尊は「妖怪は人里の人間に危害を加えないんですね」と問う。ふたりは「それが暗黙の了解となっている」と答えた。

 用が済んだふたりは情報を収集すべくこの場を去る。ひとりになった彼もデモに浮かれる若者を横目に事件解決のために捜査に戻った。

 

 

 時刻は正午。鈴奈庵は今日も開店している。

 デモ隊の大騒ぎは扉越しでもはっきりと聞こえ、店内にも「妖怪・消えろ!」コールが入り込む。

 

「うるさいなぁ。これじゃお客さんこないよ……」

 

 ただでさえ事件現場となった鈴奈庵は、客足がいつもの五割いくかいかないかの状況だった。そこにデモにより治安が悪化した影響で、本日は開店からひとりも客がこない。

 

「阿求の様子も見にいきたいけど危険みたいだしなぁ」

 

 若干、捻くれているが唯一の親友である阿求の顔を脳裏に思い浮かべながら彼女は不満タラタラといった感じでカウンターに頬杖をついていた。

 

 ――ガラガラ。

 

「いらっしゃいませ! あぁ、狩野さん!」

 

「どうも」

 

 来店客は片手に数冊の本を抱えた宗次朗だった。退屈なところにイケメンの登場。乙女が燃えないわけがなく、

 

「いらしてくれたんですね!! 今日はどのような本にします!? あ、これとかオススメなんですけど――」

 

「あはは……、今日は借りた本を返しにきただけです」と宗次朗は若干引いた。

 

「そ、そうでしたか。すみません、はしゃぎすぎました……」

 

「いえいえ、とても可愛かったですよ」

 

「か、可愛いだなんてそんなー。照れます」

 

 その言葉を遮るように、

 

 ――妖怪・消えろ! ――妖怪・消えろ! ――妖怪・消えろ!

 

 ――もう稗田に任せるな! ――もう稗田に任せるな!

 

 ――妖怪・消えろ! ――妖怪・消えろ! ――妖怪・消えろ!

 

 と叫ばれる。

 一定間隔でリズムよく発せられる抗議の言葉を両手を上下させて謳うデモ隊。宗次朗は冷ややかな目つきで「まるで一昔前の軍歌のようだ」と評した。

 彼に同意するように小鈴は「酷いですよね!! 商売あがったりなんですよ!」と受付カウンターを叩く。

 

「どこも似たり寄ったりですよ。その行動のせいで誰も商売ができない。彼らは自分たちのやっていることにどんな意味があるのか、それすらもわかっていない」

 

「そーですよ!! 稗田家を囲んだって意味なんかないですよ!!」

 

「おっしゃる通りだ。ちょっと期限は残っていますけど、お返しします」と宗次朗は小鈴に本を手渡す。

 

「あ、はい。確かに受け取りました」

 

「失礼します」

 

「はい、またのご利用をお待ちしておりますー」

 

 小鈴の言葉に宗次朗は笑顔で手を振りながら扉を開けて外へと出ていった。

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