火口家に併設された武器製造所へ突入した田端は手薄になった通路を進み、火薬倉庫までたどりつく。倉庫は予め鍵が外されており、田端たちは難なく倉庫を開けられた。
目の前にはズラリと並ぶ火縄銃と麻袋に入った火薬が置かれてあった。置いてある火薬は火縄銃どころか花火だって打ち上げられるほどの量だった。
田端は「これなら使いたい放題だ」と笑いながら直近の部下にメンバーを手招きさせて火縄銃と火薬を持ち出させる。
しかし、すぐ異変に気づいた火口家の者たちが運搬を阻止すべく通路から襲いかかってきた。
「応戦せよ!」
田端も負けじと武装したメンバーに火縄銃を発砲させた。
――ドン! ――ドン! ――ドン!
「ぐあああああああああああああああ!!」
放たれた銃弾が火口家の人間に直撃。ひとりは心臓を撃たれてその場に倒れ、動かなくなった。それにも関わらずメンバーたちは罪悪感どころか、
「稗田の犬を始末してやったぜ!」
下衆びた笑みを浮かべた。田端が満足そうに叫んだ。
「そうだ、ヤツらもまた妖怪側の敵だ。容赦するな! ここで武器を奪取できるかで勝敗が決まる!! 戦え!!」
――オォォォォォォォォォォ!!
その声を聞きつけ、徐々に表門の連中が信介の開錠した裏口から侵入――製造所は敵味方入れ乱れた戦場と化す。
製造所に人手を回したことで今度は表門が手薄になる。そのタイミングで頭を包むように手ぬぐいで顔を隠した屈強な男たちが梯子を片手に到来した。
「そこをどけ」とデモ隊を退かし、梯子をかけて無理やり中へ強行突入し、火口家の男たちをトンカチなどの道具で次々と打ちのめし、あっという間に開門してしまった。
「中に押し入って武器を取ってこい」
それきっかけに火口家に数十人ものデモ隊が一気に流れ込み、邸内は大混戦に陥った。
☆
同時刻、稗田邸でもデモ隊の攻撃が続き、表門は持ちこたえているものの、火口邸同様、塀に梯子をかけた連中が門内に侵入する。それを見た霊夢、魔理沙、慧音は。
「やむを得ないわ」
「やるしかないぜ」
「仕方ない」
覚悟を決めた。
――オラアアアアア!
暴徒たちが屋敷内に侵入しようと庭から通路へ乗り込む。その瞬間、目の前に巫女が出現し、お祓い棒でバッタバッタと薙ぎ倒す。
暴徒たちが「妖怪巫女が本性を現したぞ!」と慌てふためくが、霊夢は表情を変えずに「アンタらは一線を越えた」と一蹴し、宙を舞いながら迫りくる暴徒を陰陽玉や光弾を駆使して押し戻す。もちろん、殺傷しないように力はセーブしていた。
――コノォォォォォォォォォ!
後ろから飛びかかられるも空間を移動できる彼女は、瞬きよりも早く相手の後方に移動して落下時の重力を利用したドロップキックで返り討ちにする。
庭の中央では魔理沙が星型の弾幕を散弾のように前方へばら撒き、暴徒を弾き飛ばす。こちらも威力は抑えられており、辛うじて人間を行動不能にできるかどうかの攻撃力だった。
それでも侵入者には屈強な人間も多く、弾幕を浴びながらもその場で耐えて飛びかかろうとしてくる。
「コイツらタフ過ぎんだろ!?」
身体の筋肉もそこらの一般人より明らかに膨らんでおり、肉体労働を生業にしている者の身体的特徴に酷似していた。
そのなりふり構わない戦い方に危機感を覚えた彼女は、地上で戦うことを止めて箒で飛翔して空中戦に切り替えた。
「威力は落としておいてやる――くらえ!!」
魔理沙は自身の周囲に小型の星を展開――流れ星のように地面へ落とす。
無数の星々が庭に落下し、そこにいた暴徒たちに降りかかる。攻撃を浴びた彼らは成す術もなく地面にひれ伏した。
しかしながら、稗田邸は広く、侵入を完全に防ぐことはできない。奇声をあげながら屋敷内部へ突入する暴徒たち。彼らは大広間へと繋がる通路へ流れ込む。
大広間の襖を蹴り破ると、その中央で仁王立ちの慧音が待ち構えていた。
「お前たち――」
慧音の真顔のまま、
「これ以上、先へ進むのなら――」
と言い放ち、
「骨の一本や二本は覚悟しろ」
拳を打ち鳴らした。
暴徒たちは息を飲むも、後方から「ここで戦わなければいずれ稗田家に追放されるぞ!! やれええええええええええええ!!」との檄が飛び、連中は奇声と共に飛びかかった。
「馬鹿者どもが」
慧音は深く息を吐いた後、目つきを鷹のように鋭くしながら、暴徒を迎撃する。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
裂孔と共に武術の構えを取り、先頭の男へ向けて正拳突きをお見舞いし、みぞおちを的確に捉えて数メートル後方へ吹き飛ばす。男は悶絶して床を転がりながら泡を吹いている。
暴徒たちが倒れた仲間に気を取られている隙を見逃さず、慧音は一気に間合いを詰めて頭突き、掌打、平手打ち、拳骨、縦蹴り、膝蹴り、一本背負い、エルボにラリアットなど様々な技を駆使して三十秒足らずで侵入した暴徒たち七人を戦闘不能にする。
弾幕を使わずとも彼女は強かった。普段から怒ると怖いと言われていたが、本気で怒った彼女はその非ではない。もはや鬼である。それを知らずに大広間へ侵入してくる暴徒たち。
慧音は出入り口付近にいる連中に向かって、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
飛び蹴りを浴びせて三人をまとめて吹き飛ばし、倒れたところでみぞおちを踏みつけ、気絶させ、通路から迫りくる連中を片っ端から殴り倒す。
ある者は壁に叩きつけられ、ある者は投げ技で宙を舞い、ある者は
白沢はその性質上、豊富な知識を持つ。武術の知恵もその一つなのだろう。慧音のおかげで大広間周辺の敵は壊滅した。
勝ち目がないとみるや、邸内から脱走する者が相次ぐが、今度は霊夢に叩きのめされ、辛うじて外に脱出しても魔理沙に弾幕を撃たれて戦闘不能といった具合でとことん追い打ちをかけられる。
ついでに騒ぎを聞きつけた尊まで加勢し、逮捕術や海外研修時代に習ったマーシャルアーツなどを駆使して残りの暴徒たちを制圧し、敵の戦意を喪失させていく。
この四人の奮戦によって稗田邸の戦いは稗田側の勝利が濃厚となった。
☆
そのころ、火口邸は工具や農具を持った暴徒、製造所では秘密結社メンバーに苛烈な攻撃を仕かけられていた。あちらこちらで激しい取っ組み合いが続き、そこらかしこに血が飛び散っている。火口家当主もまた顔や腕に切り傷を負いながらも日本刀片手に暴徒を退け、邸内の個室で指揮を取っていた。
「状況はどうなっている!?」
「客間まで敵が押し寄せ、後退を余儀なくされています!」と部下が答える。
「クソッ――数は多いわ、相手は武装した屈強な男衆ばかり。まさかとは思うが、他家の子分どもか!?」
「可能性は高いかと……」
「くっ、誇りを捨てたかッ」
反妖怪思想を持った四家のどれかの家が離反した。そう考えるほかなかった。火口はやり切れないながらも気持ちを切り替える。
「火縄銃は――製造所はどうなっている!?」
「わかりません!!」
「馬鹿野郎!! 敵の狙いはそっちじゃねえか!! 邸宅はくれてやってもいいが、武器と火薬だけは何としても死守しろ!! そっちの防衛に人員を裂け!!」
「「「はい!!」」」
火口の指示を聞いた部下たちは数人の護衛を残して一斉に製造所に向かった。
「援軍さえきてくれればと思うが」
本当ならこんなとき、里にいる博麗の巫女や魔法使いが援軍に駆けつけてくれるはずなのだが、それもない。稗田家が動けない状況にあるのだ。
火口は自分たちだけでこの窮地を乗り切らなければならないと察する。しかし、数が足りず、聞こえてくるのは部下の悲鳴。この状況に火口は心を痛め、
「俺も出る!」
そう言って、部下を置いて自分も飛び出していく。
「邪魔だ、どけぇぇぇ!!」
彼は刀を振り回し、敵を切り倒す。火口の剣術は尊に比べれば遥か劣る児戯であったが、腕力だけの荒くれ共を切るには十分だった。返り血をその身に浴びながらも彼は動じることなく、戦いを継続する。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
占領された客間から出てきた敵も切り倒し、劣勢を跳ね除けようと火口は前進する。部下たちも自分たちの代表へ続けと勢いが加速し、ついに客間に残っていた敵を一掃した。
「休む暇はない! 進め!!」
客間の中、指示を出す。部下たちが「はい!!」と返事をして部屋を出ていく。
血がベッタリと付着した顔を袖で擦りながら「いつ終わるんだ」と漏らす。かなり無理をしたのか息が上がっており、つい膝を押さえながら動きを止める。
そこへ――。
――見つけた。
割れた窓から手投げ爆弾が投げ込まれ、爆発を起こす。おまけに投げたのは磁器で作られた爆弾で、破裂するのと同時に大量の破片を巻き散らかす。現代で言うところの
「ガァァァァァァァァァ!!」
爆発で身体中に尖った破片が刺さり、悶える火口。彼は左目が潰れており、意識が朦朧としている。それでも諦めず、刀を取ろうとするが何者かに足で遠ざけられた。
火口はそのとき、生きている右目でその者の姿を見た。
フードを被り、顔が何かで覆われていたため素顔は確認できなかったが、身体つきは人間と同じだと思った。
「誰……な、んだ……お前、はっ――」
その者はこう名乗った。
――
そして、火口の日本刀を拾い上げてから、彼の脳天へ何のためらいもなく突き刺し、殺害してから静かに窓から出ていく。
そこから間を空けず、司令塔を失った火口家は健闘むなしく陥落した。