葉月だけじゃなくて、ウチのこともちゃんと見てよね?

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あきの時間

 

 

 

「バカなお兄ちゃん。バカってどういう意味ですか?」

 

 

「え……?葉月ちゃん、意味を知らずに使ってたの……?」

 

 

 

屋内と屋外の温度差から、ちょっとずつ窓に結露が現れ始めた季節の変わり目。

 

 

ウチはアキを家に呼んで勉強会を行っていた。

 

 

突然の質問とその内容から発生した疑問に、持っていた日本史の暗記本から膝に乗せている妹ーー葉月に目を落とすアキ。

 

 

確かに意味も知らずにバカと言われていたとは予想だにしなかったのかもしれない。

 

 

 

「なんとなくは分かるんですけど、明確な基準が分からないから教えて欲しいです」

 

 

「あぁ、そういうことね」

 

 

 

葉月の返答に納得するアキ。

 

 

なるほど。

 

 

『なんとはなしに使っているが詳しい意味は知らない』みたいなものか。

 

 

小学生ならではの疑問とも言えるかもしれない。

 

 

 

「う〜ん。バカかぁ……あっ!」

 

 

 

いくら小学生にバカ呼ばわりされる程にバカと言われ続けたアキでもーーいや、そんなアキだからこそバカの意味なんて分かるはずがない。

 

 

が、どうも答える雰囲気だ。

 

 

というより、何か思いついたと言った感じだけど。

 

 

おそらくここでの返答次第で今後『バカなお兄ちゃん』と呼ばれなくなるかも、と打算しているに違いない。

 

 

余計な考えは持たない方が良い気がするけど……。

 

 

 

「バカって言うのはね、何か質問された時にだらだらと長ったらしく話して、結局はその話した相手に答えの意図が伝わらないような人のことさ。分かった?」

 

 

「だらだら長くてわからないです」

 

 

「………」

 

 

 

ほら。

 

 

自爆だ。

 

 

 

「アキ……」

 

 

「見ないで!こんな惨めな僕を見ないで!」

 

 

 

ううっ、と顔を両手で覆うアキ。

 

 

自らバカを露呈したのだ。

 

 

まぁアキの説明が分かってないみたいだから葉月はこの意味に気づいてないだけ、まだ救われるかもしれないけど。

 

 

 

「バカなお兄ちゃん?」

 

 

「うん、そうだよ……。僕はバカなお兄ちゃんさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『葉月、綺麗なお姉ちゃんの名前漢字で書けるです!』

 

 

『へぇ、じゃあ漢字教えてよ。《みずき》の《みず》は?』

 

 

『端っこの《はし》です!』

 

 

『おおっ、凄いね。じゃあ《き》は?』

 

 

『樹木希林の《き》です!』

 

 

『………どれ?』

 

 

 

葉月の相手をアキがしてくれたおかげでウチはさくさくと勉強を進めることが出来た。

 

 

その内、存分にアキと話したことで満足した葉月がアキの膝の上で寝入ってしまったので葉月の部屋のベットに葉月を運ぶ。

 

 

下に降りると葉月の相手をした分を取り戻そうと今度は机上にノートを広げて勉強していたアキ。

 

 

隣の参考書を見ながら真剣に問題を解いているようだ。

 

 

あまり勉強の邪魔になるようなことはしたくないけど……少しくらいならいいわよね。

 

 

そーっと背後からアキに近づいて、膝をつく、

 

 

ふふっ、気づいてない気づいてない。

 

 

そのまますっと両腕を首に回してアキの背中に吸いつくように身を寄せた。

 

 

 

「み、美波!?」

 

 

「なに?」

 

 

 

首を回した段でウチに気づいたみたいで慌てて振り返ろうとするアキだけど、そんなことさせない。

 

 

ピタッと頬を付けて密着。

 

 

ひんやりとした体温が頬越しに伝わった。

 

 

 

「『なに?』じゃないよ。突然どうしたの?」

 

 

 

なにかを心配するような声で、持っていたシャーペンを置いた。

 

 

多分、あまりこんなことしないからだろう。

 

 

性格上、人に甘えたりするのは恥ずかしくて苦手なウチのことをアキが理解してくれているからこそだ。

 

 

 

「した。葉月の相手ばっかりしてた」

 

 

「だ、だってそれは……」

 

 

「分かってる。けどあんなのみたらウチだって甘えたくなったのよ」

 

 

 

妹に嫉妬だなんて馬鹿らしい。

 

 

分かってはいても感情は制御できないものなのだ。

 

 

そんなウチの子供っぽい理由にアキは困ったように笑った。

 

 

 

「まさか美波がそんなこと言うなんてね」

 

 

「……悪い?」

 

 

「ううん。全然」

 

 

 

そういってアキは自分の隣にあるウチの頭をそっと撫でてくれる。

 

 

アキなりの優しさ。

 

 

困った顔したくせに。

 

 

でも多分、それは面倒くさいと思ってやってないはずだ。

 

 

それが伝わってくるくらいに、優しい手つき。

 

 

 

「ありがと、アキ」

 

 

「お礼なんていらないよ。だって僕は美波の彼氏でしょ?」

 

 

「……そういうのさらっと言うのってずるい」

 

 

「え?なにが?」

 

 

「ううん、なんでもないわ……」

 

 

 

アキらしい。

 

 

本当に恥ずかし気の欠片もない。

 

 

その真っ直ぐな言葉に、頬が蒸気する。

 

 

また少しアキの頬がひんやりと感じた。

 

 

 

「アキ、晩ご飯食べていかない?」

 

 

「いいの?」

 

 

「うん。今日はお母さんもお父さんも帰りが遅いみたいだし。葉月も喜ぶと思うわ」

 

 

「じゃあそうさせてもらおうかな」

 

 

「決まりね。見ててなさい。今日こそはアキの料理を越えてみせるんだから」

 

 

「う〜ん。僕は美波の料理は全部僕のより美味しいと思うんだけど……」

 

 

「嘘ばっかり……。葉月はまだまだだって言うのよ?」

 

 

「あはは……手厳しいね……」

 

 

 

まだアキは家にいるんだ。

 

 

そう思っただけで嬉しくなる。

 

 

少しでも長く、アキと居たい。

 

 

 

「あ!お姉ちゃん何してるんですか!」

 

 

 

葉月が起きてきたみたいだ。

 

 

 

「何ってアキに抱きついてるのよ?」

 

 

「ズルいです!葉月もしたいです!」

 

 

「だ〜め。彼女の特権よ?」

 

 

「む〜っ!バカなお兄ちゃんっ!」

 

 

「僕に言われても……」

 

 

 

少しだけ騒がしくなった我が家。

 

 

たとえ葉月といえど、アキは渡さないわ。

 

 

そんな気持ちを込めてぎゅっと、抱きつく強さを強めた。

 

 

 

「アキ、大好きっ!」

 

 

 

 




次作、なにかお題を募集したいです。


予定カプは雄二×翔子


メッセージにてお願いします。



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