ドラゴンズドグマオンライン小話
『やさぐれ覚者のやり直し』
※ ネタバレを多量に含んでいます。閲覧には十分注意してください。
◆
「1000リムを消費しました。1000リムを消費しました。1000リムを消費しました。1000リムを消費しました。1000リムを消費しまし……耐性30きた……ってあぁぁ! 水濡れとかもうっ!」
普段は静かなクラフトルームに苛立たしげな声が響く。
見れば、青髪の女性覚者が大柄な男を怒鳴りつけていた──名前はアクア。勿論、私。
「悪いな……こればっかりはどうにも……」
強面のハゲ親父──クレイグが気の毒そうな顔をして慰めの言葉をかける。
目を合わせて睨んでやると、彼はすぐに視線を逸らした。そりゃそうだろう。
「ねぇ……私は貴方に何十万のリムをつぎ込めば良いんですか?」
「え? いや、俺はただ合成の素材に使ってるだけで──」
「1000リム使って、水濡れ防止加工ねぇ……」
ハゲ親父の目が僅かに泳ぐ。
それを見逃す私ではない。
「最近知ったんですけど、貴方……最近ディナン深層林の秘弓師の住居に足繁く通ってるそうじゃないですか?」
「ど、どこでそれを……?」
サッと青ざめるクレイグ。
覚者様の情報網を甘くみるなよ、とニマニマしながら私はハゲに詰め寄った。
「お相手はエリマスのロンドジールさん? それともジョブマスのリングディールさんですかね? それはそうと、あんな辺境を行き来するなんて……随分とリムの羽振りがいいじゃないですか」
「ははは……いやそれは……──っ!?」
煤焦げた親父の匂いが鼻につくが我慢しよう。
脂汗を流して笑うハゲ親父を、私は至近距離で睨みつけた。
「あと1回で当たりが出なかったら……分かってますよね?」
「そ、そんな無茶な……」
「へぇ……いいんですか?」
私は輝きを失った目で薄く笑う。
「もし外れたら──さっきの件に加えて、貴方が私に使い古した自分のパンツを渡したって叫ぶ」
「なっ……!?」
「鍛冶屋の親父は歪んだ性癖持ちだって全サーバーにシャウトしてやる。ディナン深層林にも届いちゃいますね?」
「おいおいおい……!? それはもう済んだ話だろう、勘弁してくれっ!」
「あっと1回! それ、あっと1回!」
「頼む許してくれっ! チョンボは認めるが、ガチャの結果は本当に分からないんだ!」
「あははは! 当たりを引くまでリムをタダにしてくれるなら考えてあげますよ!」
貴重なリムを代償に、鍛え抜いた武器や防具に特別な能力を付与する作業──通称『リムガチャ』にどっぷり浸かっていた私は、この通りヤサグレの境地にいた。
単騎で竜をも屠る私が、ちまちまとリムガチャをして悶絶し、お使いをこなしてリムを集める毎日。
戯れにウサギやシカを狩るだけでは発散出来ないほどのストレスが溜まっていたのは間違いない。
そんな頃である。
私に一人の依頼者が文字通り降臨したのは。
《──聞こえますか……覚者様》
「その声は……ミシアル!?」
不貞腐れ、パートナーポーンすら追い出して自室のベッドで寝転んでいた私は、驚いて飛び起きた。
かつて悪の錬金術師ディアマンテスの策略により(自ら)命を落とした少女──神官ミシアルの声が聞こえたのだ。
《──今私は、貴女に一つのお願いをするために、直接貴女に語りかけています》
「ミシアルー……貴女、霊体で結構出世してるんですよね? その超常能力でリムガチャなんとかしてくれません?」
《──この状況で逆にお願いされるのは想定外でしたが……そうですね、依頼に応えて頂けるなら、尽力しましょう》
「どうすればいいですか?」
《──急に素直》
かつてレスタニア、フィンダム、アッカーシェランという3大陸を救った私だ。
彼女の願いがどんなものであろうと、リムガチャの苦難に比べれば大したことはないと考えていた。
しかし、彼女の願いは驚くべきものだった。
《──貴女の覚者人生をやり直し、過去から私が生きる未来を作り出して欲しいのです》
「ミシアルが生きる未来を……過去から?」
《──私はぶっちゃけ……死ぬつもりはありませんでした。変に出世して、余裕ぶってますけど……もっと青春を謳歌したかったし。大体、私が死ぬ必要なんてなかったんですよ》
「それは……」
それは私も常々思っていたことだった。
イリスの拘束を逃れ、こちらに来るかと思いきや、向かった先は崖。『こうすることが私に残された唯一の道なのです!』などと屁理屈を喋って、止める間も無く飛び降りてしまった。
この子……なんで死んでしまったん?
今でも思っている。
イリスの狼狽えぶりには笑ったが、彼女の『これ何……?どういうこと!?』にはちょっと同情したものだ。
そんなことを思い出していると、低いテンションでミシアルが語り出した。
《──私、神殿からほとんど出たことなかったし、攫われて外に出て少し興奮してたんですよ。いけませんね……その場のテンションで飛び降りては。どうも雰囲気に飲まれてしまって……》
そりゃ後悔もするだろう。
返答に困るので話題を変える。
「でも、過去なんてどうやって行けば……?」
《──それなら簡単です。私はエピタフの英霊から過去へと渡る術を教わりました。今なら貴女をレオ達と出会う寸前まで導くことが可能なのです》
「へぇ、それは凄い」
《──でしょう? 頑張りました》
ミシアルは自慢気にそう言った。
《──それに。レスタニアを始めとした全ての事件を熟知している貴女なら、私を救いつつ、全ての忌まわしき事件を未然に解決することが出来るのでは?》
「確かに……」
最近は特にやることもなく、ひたすら自身の研鑽に努め、リムガチャをし、ヤサグレていた私にとってその提案は、非常に興味をそそられるものだった。
加えて、脳裏に浮かぶ憎い顔は一つや二つではない。過去に戻れるなら盛大に鬱憤を晴らしたい。
そのためには、時系列的にもまずミシアルの依頼を解決しなくてはならないだろう。
ちなみに今の時間軸は、黒騎士を倒したのに黒竜が渡界にもたついており、竜武器の合成などで忙しくなる前の話である。
「ミシアルを救うには、あの場面みたいなことにならなきゃいいんだよね。なら単純に、イリスの洗脳を防げば……」
《──あ、彼女は真っ先に仕留めて下さい。確殺です。彼女は私の頭を足蹴にした女ですよ? 遠慮や慈悲など必要ありません》
ミシアルがきっぱりと言い放つ。
それでいいのか元神官。
「でもイリスは一応私の先輩で……」
そこまで言って思い出す。
『ごめぇん、新人の指導は私の役目だけど、今忙しいんだ』
『悪いんだけど、一人でポーン卿に行ってくれるぅ?』
新米覚者で右も左も分からなかった私を私情で放任したんだったアイツ。あの後、散々迷って大変だったのだ。
それからもあのメンヘラには何度使い走りをされたことか……。
思い出すと段々ムカムカしてくる。
「了解。イリスについては任せて」
《──確実な駆除をお願いします》
「駆除言うな」
《──と言うとこは、この依頼……受けてくれるのですね?》
「勿論です」
《──やったぁ!》
年相応の歓喜の声を上げたミシアル。
しかし、彼女はすぐにコホンと咳払いをして取り繕った。
《──ええと、一つだけ注意があります。貴女の経験や持ち物、ポーンなどは過去に運ぶことが出来ますが、貴女自身の研鑽値……所謂レベルについては非常にエネルギーが大きく、私では運ぶことが出来ないのです》
「ふぅん……まぁ大丈夫、当てはあるから」
《──そうですか……申し訳ありません。では……》
そう言うと、ミシアルの声は徐々に遠ざかり、私は光の粒に包まれ始める。
《──過去の私を、どうかよろしくお願い申し上げます》
「ちょっと待って」
《──はい?》
トボけた声で返事をする神官だが、こいつは絶対分かってやってる。
「過去に戻ったら貴女との約束も無くなるでしょ。どう考えてもリムガチャが先」
《──ちっ》
「舌打ちするな元神官!」
その後すったもんだあり、私は嬉し嬉しと生命治癒力30がついたマントに頬擦りしながら、淡い光に包まれる。
《──今度こそ、よろしくお願いしますね》
「はいはい、約束は守りますよ」
さてここからは依頼であり、任務である。
自身以外の全てを断ち切り、過去へ飛ぶ──。
不安が無いかと言われれば嘘になる。けれど、自信はある。
向こうの顛末は全て分かっているのだから。
(あの時、私のジョブはファイターで、すぐにレオとイリスが駆けつけてきた……なら、チャンスはそこしかない)
そんな思惑を考えながら、私は再びあの戦場へと転移したのであった。
◆
白い光と共に、私はとある場所へ降り立った。
初めに認識したのは、煙の匂いだ。
すん、と鼻を鳴らすと、嗅ぎ慣れた獣臭が鼻腔を突く。
次に怒声、唸り声、そして激しい金属音が耳に煩く響き出す。
「さて、始めますか……」
私はそう言って、ゆっくり目を開いた。
見慣れた渓谷の細道、奥にそびえ立つ巨大なグリッテン砦。
その雄々しさに変わりないが、今はオークの軍隊が攻め込んでいる真っ只中である。道は燃え、彼方此方にオークが闊歩して巨大な剣を振るっているのが見えた。
その道を、オークを屠りながらこちらに走り寄る男女がいる。
鎧を着込んだ青年──裏切り統率のレオは、私に向かってあの台詞を吐くだろう。
私が返す言葉は既に決まっていた。
「新人覚者だな?」
「──違います」
「何!?」
言うなり私は勢いよく地面を蹴り、横にいた弓使い──イリスの胴を剣で一突きにする。
「ぐふっ!?」
「い、イリスっ!? お前何を……っ!」
驚くレオに向けて、私はニヤリと笑いかける。
「全ては理だと思いませんか? なら、壊してしまうのも一興かと思いまして」
「お前は一体何を言ってるんだ!?」
「こっちの台詞です。いずれ分かりますよ」
「えっ……なに、これ……? ねぇ、レオぉ……どうしたらいい……?」
イリスは何が起こったのか分からない様子で、呆然と自分に刺さった剣を見つめていた。
「今ここで貴女を殺さなくても、どのみち私が貴女を殺します」
「い、意味わかんないよ……ふざけないで……死にたくなんてないよ……!」
胴体を貫いた程度では、覚者は死なない。
反撃に出ようとするイリスの耳元で、私は切り札を切った。
「──ちょっと聞いてください、実はですね──」
貴女これから、あーしてこーなって。
「……えっ」
それからそーしてレオに……で、こうなるんですよ。
「……うそ」
全てを聞かされたイリスの目が見開かれる。
「おい、イリスから離れろ! 新人、お前に白竜の覚者としての誇りはないのか!?」
「貴方にだけは言われなくないです、その台詞」
「何だと……!?」
「……なぁんだ……すれ違いかぁ……」
「イリス……? すれ違い……?」
「私がいなくても──世界は変わらない……」
納得したように頷いた彼女は、満足した顔でゆっくりと地面に倒れ、呆気なく事切れた。
それを見たレオは驚き混乱しながらも、こちらに向けて剣を構える。
「何だと……イリスが……死んだ……!? すれ違い……何がだ? どうやって……貴様ぁっ!」
レオは激高して私に剣を振るう。
「むんっ……!」
「くっ……」
軌道を読んで剣を合わせるも、彼の力は相変わらず強く、勢いに負けて僅かに後退する。
「ふっ……いくら初陣の加護があろうと、貴様はまだ未熟な覚者に過ぎん。俺は誇りある白竜の覚者として、一人の騎士として、今ここでお前を討たねばならない!」
「自意識強すぎませんか?」
「悪いかっ! これはイリスの仇だ……我が剣の錆になるがいい──うおおおおぉ!」
レオは気合いと共に、私の剣を腕ごと上に弾いた。
「うっ……! この気合、禊の神殿で振るえば良かったのに!」
「もらった!」
レオの剛剣が、無防備を晒す私に向けて振るわれる。
低レベル故に能力は下がっており、防具も着の身着のままだ。このまま直撃すれば死は避けられないだろう。
だからこそ、私はニヤリとほくそ笑む。
「確かに私のレベルは1です。けれど、それ以外は何も変わってないんですよ──ねぇ、ウェスター」
『──ええ、解っていますとも』
「……何っ!?」
レオが驚愕の表情を浮かべ、大きく目を見開く。
『御機嫌麗しゅう。誉れ高き、裏切り覚者殿?』
「俺の剣を指先で止めただと……何者だ、この老人!?」
「プリーストのマイポーン、ウェスター(レベル100)です」
「馬鹿な……、ウォリアーの間違いだろう!?」
彼が驚くのも無理はない。
私とレオの間に突如として現れたのは、老人と言っても、熊のような筋肉を持て余し、白髪にピンクのリボンを付けた老人なのだから。
『主人殿、再び貴女と御一緒できるとは……このウェスター、無上の喜び』
かつて共に死地を駆け抜け、戦い抜いた戦友は、茶目っ気たっぷりに私へウインクをしてみせる。勿論、その間も刃先は摘んで離さない。
「くそっ……その指を離せっ!」
『おっと、それはできませんねぇ』
余程の怪力で摘んでいるのか、レオが懸命に引っ張っても彼の剣はピクリとも動かない。
「そいつはイリスを……そいつはイリスの仇なんだ! ここで葬らなければならない目をしているんだ……! そうだろうイリス!?」
『怒っていますねぇ、見苦しいことです』
相変わらず余裕を見せるウェスターだが、ここで時間を無駄にするわけにもいかない。
私は彼に目で合図を送る。
『ふむ……仕方ありません、軽くあしらってやりましょう!』
「うおおおぉ!? この──っ!」
不意に剣を離されたレオは一瞬たたらを踏むが、流石は覚者の統率、すぐに態勢を整えてウェスターに斬りかかった。
その太刀筋は鋭いが、ウェスターは僅かな動作で優雅に刃を躱していく。
『甘い甘い──当たるとでも?』
「くそぉぉぉ! イリスぅ!」
昂ぶったレオの大振りが見事に透かされ、懐に致命的な隙を産む。それをウェスターは見逃さなかった。
『ふははは! この技を受け、せめて美しく散るといい!』
ウェスターがワンドから無数の光の弾を放ち、レオの胴体に炸裂される。
「ぐっ、うぐぅ、うおぉぉぉ……っ!」
プリーストとは言え、レベル100が放つ光弾は威力が高く、レオにまとわりつくようにぶつかり続け、やがて彼の体を大きく吹き飛ばした。
『おやおや、あまり血は見たくないのですが……』
「ぐおぉ──っ!? ぐふっ……」
頭から地面に突っ込んで倒れるレオを見下ろして、ウェスターは自慢のヒゲを手で撫で付けて不敵に笑う。
『勝利の美酒を、竜と貴女に』
「はいご苦労様。帰っていいよ」
『そんな──っ!?』
用済みのウェスターをリムに還した後、私は倒れるレオに歩み寄る。
「う……ぐぐ……イリス……」
「『強くあれ』──とある幸薄神官からの伝言です。あと、考えてることはちゃんと皆に説明して下さいね──ややこしくなるから」
そう言って、白竜の住まう神殿『レーゼ』へと転移する。
グリッテン砦の戦いは所謂チュートリアルだ。砦の主であるヴァネッサが倒れたレオも含めて何とかするだろう。
「ふぅ……」
白竜神殿の広間に着いた私は小さく息を吐いた。
「これでとりあえずは助かったかな……」
心の中でかつての友人を想う。
しかし、諸悪の根源はまだ残ったままであり、やる事は山程ある。
私はレーゼの宿屋で強引にハイセプターに転職すると、その足で白竜神殿へと駆け込んでいた。
《……覚者よ──我に心臓を捧げし者よ──》
「ジョセフさん、これで!」
「ん? おぉすまん、少し考えごとを……っぶっ!?」
重々しく話しかける白竜を無視し、不動の上司こと神官長ジョセフの顔面に向かって課金アイテム【レベル100になる宝珠】を叩き込む。
「さて、ここからは駆け足になるなぁ」
レベル100に上がったのを確認して、アイテムボックスに入れていた武具を着込む。
それからマイ拠点に記憶していた【フィンダム】の始まりの洞へと転移する。
どうやら転移先である礎の解放は、時空を超えて共有されているらしい。
「な、何者だっ!?」
「あ、やっぱり居ましたね」
精霊竜が守護する異界の大陸、フィンダム。
その精霊竜を祭る洞の中央部に到着すると、フィンダム人の男──ロイグがまさに、大陸の要である巨大樹【芯なる樹】の根に向けて漆黒の液体を振り掛ける寸前であった。
この液体が樹を蝕み、病魔の原因になり、それが竜の汚染へと繋がってしまう。
つまり、原点であるここを断てば全ては解決するのだ。
「初めまして、そしてさようなら。病人を見捨てない、運命に流されないフィンダムを作るので協力して下さい」
「何を──うっ!?」
私は左手から魔力弾を放ち、ロイグの手から液体を弾き飛ばすと、追撃して消滅させる。そして一気に彼の懐に飛び込み、ロイグを袈裟懸けに斬り付けた。
「ぐふっ……何故、だぁ……わたしはフィンダムが大好きだ……ただ、それだけなのにぃ……」
「貴方の顔がモブじゃなかったら生存ルートもあったかも知れませんね──お、そろそろ来るかな」
洞の大穴に落ちていくロイグを見届けながら、私は手の平に光の魔力球を作り始める。
やがて、禍々しい気配と共に目の前で黒い煙が噴き出し、中から黒い鎧の騎士が姿を現した。
『我の計画を邪魔するとは──』
「エクリプス・ブラストぉぉ!」
『ぐおおおおおおぉ──っ!?』
圧縮させた光の魔力球を黒騎士を中心として炸裂させる。不意を突かれた黒騎士は、やけにゆっくりと倒れ始める。
無抵抗で崩れ落ちる黒騎士を袋叩きにしながら、以前理不尽にやられた仕返しをしていく。
「お前が遅延に弱いのは、とっくに知ってるんですよ! この白竜の剣の錆になれ!」
『み、見事だ……だが、我を滅ぼすことはこの世から闇を消すことに等しい……ぞぉ……』
黒幕である黒騎士はそれだけ言うと闇の塵と化して消えていった。
これでしばらくは大人しくなるだろう。
「よし。後はあっちですか。時期的には……ギリギリ間に合うかどうか」
再び記憶の中から、今度は【アッカーシェラン】の火垂れ山野営地へと転移する。
まだ野営地の出来ていない、広々とした火垂れ山の中腹に降り立った私は、辺りの異様な光景に驚いた。
「もう終わりだぁ!」
「く、黒い竜が火竜様を……っ!」
「邪悪な竜が火口に……!」
「間に合わなかったかぁ……」
火竜を祀り、アッカー家を王とする異大陸【アッカーシェラン】。
前の時間軸では、若き火竜が黒竜に倒され、悪しき竜に挿げ替えられる。その後、大陸がオークに侵略され、民が絶望に包まれたところから物語は始まる。
最善なのはここで火竜を襲う黒竜を仕留めることだったが、別大陸では時間の流れが歪むのか、それは間に合わなかった。
こうなっては悪しき竜を倒すしかないが、ただ倒しただけでは火竜の竜力が途絶えてしまう。
「確実なのは前と同じ状況に近づけること……か」
確かこの後、王都メガドにオーク達が攻め寄せる。その混乱する城下で、唯一火竜の竜力を継承できる覚者──アッカー家の王子ネドが行方不明になって勝手気儘に歩き回るのだ。
「よし、そっちならまだ間に合うか」
リム転移でオークが攻め込む前のメガド城下町に飛び、悪しき竜の異様な気配にざわめく街の階段を駆け登って城を目指す。
城内を走っていると、混乱する兵士達の真ん中で、少年の叫ぶ声が聞こえてきた。
「──皆さん落ち着いて下さい! 女王が、火竜がそう簡単に負けるはずがありません!」
「いた!」
「え──何ですかあなた……うわっ!?」
兵士達を必死で指揮しようとするが、子供である王子が民の希望になるのは、大陸が絶望に包まれてからだ。
そんな王子をどさくさに紛れて小脇に抱え、走り回る兵士の間を縫って離れると、そのまま王家の墓と呼ばれる場所に転移する。
可哀想なことに、王子は知らぬ間に行方不明になったとされたのである。
「離して下さい……っ! 何なんですかあなたは!」
「暴れないで。王子をお母さんの所に連れてってあげる」
「え、母さんのところに……?」
「王子はお墓の扉を開けてくれればそれでいいです」
王家の墓前に転移した私は、ネド王子を抱えたまま墓の封印を解き、火垂れ山の火口を目指してショートカットを走り抜けた。
最短で火口まで辿り着いた私達を待っていたのは──案の定、悪しき竜であった。
《グハハハハ! よくぞ来た王子よ、残念ながら貴様の母はもう居らん!》
「そんな……母さん、母さんっ!?」
「大丈夫、お母さんはあの竜の中にいます」
「ほ、本当ですか……!?」
「もちろん」
取り乱しそうな王子を後ろから抱きしめて落ち着かせる。
嘘は言っていない。
《最後の時間だ、喚きながら死ぬのも興醒めだな。少しだけ待ってやろう》
なんとも都合のいい竜だった。
あとは王子を何とか瀕死にして放置しないといけないのだが、悪しき竜の盾にするのは流石に忍びない。
どうしようか考えあぐねていると、ネド王子が恐る恐る私に尋ねてきた。
「あの……あなたは声で女性だと思っていましたが……男性なのですか?」
訳:やーい、この洗濯板、抉れ胸。
「──絶対に許さんっ!」
「え、えっ……うわああああ!?」
気付けば私は、抱きしめた王子を渾身の力で持ち上げ、ジャーマンスープレックスを火山の大地に撃ち込んでいた。
嫌な音と共に王子の頭が火山にめり込み、そのまま動かなくなる。
私はそれを確認すると、キッと目つきを鋭くさせ、悪しき竜に向かって武器を構えた。
「──おのれ、よくもっ!」
《……》
「……」
《……ふっ、人族の考えることは全く分からん……だが、我が力を前に戦いを挑むその心は褒めてやろう。誇れ。そしてその誇りを胸に、散れ!》
「やってやる! ウェスター!」
『おや? この辺りにジョブ修練敵がいるようですねぇ』
出番とばかりに現れたウェスターが、牽制とばかりに煽りを入れる。
だが悪しき竜と呼ばれる存在はそれどころでは無かったらしい。
《何だこの力は……この気配まさか……お前はレスタニアの覚者……!? 一体何故……どうやってここへ来た!?》
結論から言うと、悪しき竜として生まれたばかりの奴は敵ではなかった。
自分が同じ理由で簡単に仕留められるとは思っても無かっただろう。悪しき竜の最後の顔はそんな驚きに満ち溢れていた。
そして、悪しき竜の残した火竜の竜力により、案の定だが王子は復活。
「悪しき……竜は……? 母さんは……?」
未だ虚ろなクソガキに向かい、私は満面の笑みでこう答えた。
「亡くなりました!」
「うわぁぁぁぁん!」
こうして、素早く2大陸を救った私は、メルゴダに転移して、待ちぼうけのディアマンテスを軽く嬲り、ミシアルと楽しく暮らしたのであった。【完】
「──と言う夢を見たんだが……」
(ちょっとエリオット、ガルドリン……頭でも打ったの?)
(リズ……これはヤバイよ。隊長に報告したほうがいいんじゃないかな)
(うん、メイリーフにも相談してくるね)
「おい! やめろ! ヒソヒソと話すんじゃねぇ!」
【シーズン4にリム転移します──。完】
続きません(´・∀・` )