幼馴染で隣人で許嫁な彼女と惚気たい   作:金枝篇

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岩傘調は支配したい

 さて、一行の前に立ち塞がったのは、この事件の黒幕だ。

 今まで味方として傍にいた怪しい吟遊詩人:シラベが真の姿を現すぞ。

 

 『何故こんなことをしたんですか……! 勇者ミユキも、賢者カグヤも、戦術師イシガミも、貴方を信じていたのに……! 貴方は裏切った! そして今私の前に居る!』

 

 では、その言葉を聞いて、吟遊詩人シラベは邪悪に笑うぞ。そしてこう続ける。

 決まっている、お前を手に入れるためだ……! 神官チカ。他の仲間達を全員殺してでも俺はお前が欲しかった……! お前さえ手に入れれば、他には何もいらない! 身分も地位も知ったことでは無い! 世界の支配すら興味がない。俺はただお前が欲しいのだ!

 

 『っ……。残念です。貴方とはもっと別の出会いがあれば、きっと幸せな関係を作れたのかもしれません。ですが私はその道を選べない……! 大事な仲間の命を奪った貴方とは、ここで決着を付けます! ――皆が負けた日から私も強くなったんです……!』

 

 飽くまでも俺と戦う道を選ぶか。良いだろう、足掻いてみるが良い。お前の心が折れるまで丁寧にお前の心を攻撃してやろう。まずはその、新しい仲間の屍を見せつけるところからだ……!

 

 『なんて邪悪な顔をするんですか……! でも負けられない。マッキー! テラ子! 貴方達の力を貸して……! 私に彼を倒すための力を……!』

 

 ではクライマックス戦闘だ。

 エネミーは吟遊詩人シラベが1体。またフィールドの上には「シラベの心」というオブジェクトがある。勝利条件はオブジェクトの破壊だ。

 シラベは魔法で、セットアップを迎えるごとにエネミー1体を召喚する。1D6を振って、1・2は勇者ミユキ、3・4は賢者カグヤ、5・6は戦術師イシガミのゾンビだ。嘗ての仲間そっくりのアンデッドを召喚して攻めようという戦法だね。

 で、注意事項。オブジェクトには複数のバリヤーが張られていて、このバリヤーは吟遊詩人シラベと戦闘をする事で徐々に解除されていく。バリヤー1枚に付きダメージを50点軽減だから、まずシラベのHPを減らさないとハートは破壊できないよ。

 シラベにはキーワードが設定されています。良いRPをすると、ダメージにボーナスが乗ります。シラベに対して今までの思い出とかが話すと良いと思うよ。

 

 ……どしたの? 千花。何をそんなに悶絶してる? 

 これはただのTRPGのセッションだよ?

 

 「ちょ、な、だって、エネミーの行動原理があ!!なんですかこれえ!」

 「何が? 神官チカを詩人シラベが欲しいって言ってるだけで、千花とも僕とも何にも関係がないからね? 現実と虚構を区別しなきゃダメだよ。ちなみに戦闘データはちゃんと作った。頑張れ」

 「くっ、ぐぐぐ、ぐぬぬぬぬ……!」

 「ちなみに抜け道が一個ある。此処で素直に神官チカが身を差し出すと、彼は約束通りこれまでの暗躍に対して補償をして、チカを連れて去っていくね。まあその場合、チカはキャラロストになるけど。マッキー先輩とテラ子さんのキャラは『戦いは終わりました』って王様に報告し、約束通りの謝礼と経験点が貰える。まあ最後の手段だと思ってくれれば」

 「……こ、こんな方法で私に攻撃してくるなんて……!」

 「まあまあ、不治ワラちゃん、落ち着いて。シナリオは面白いし! エネミーの配置も、ギミックも面白いじゃん……! 私達が外野になってないし……」

 「だからですー! だから悔しいんですー! かんっぜんに! いーちゃんの掌の上じゃないですかっ! これ私、RPしながら詩人シラベ倒すんですよ!? おのれ……っ!」

 

 僕はにやにやしながら千花の反応を伺っていた。

 

 さておき、僕は現在GMをやっている。

 

 『嘗て謎の敵に、全滅させられた勇者一行。しかし神官チカだけは奇跡的に一命を取り留めた。心の中にトラウマを残したチカは、新しく出会った二人の仲間と共に、謎の敵を探して旅立つ』――とこういう感じのシナリオだ。

 

 戦闘のトラウマが残っているため、嘗ての強さは失っている。だから初期作成でキャラメイクねーと伝えてあった。TG部の二人と三人パーティを構築し、遂にボスに到達した訳だ。

 幾つかの救済措置も用意した。全滅してもパーティを復活させる『奉心の石』とかな。

 

 「ぐむむ、此処で負けを認めるのはゲーマーの血が許しません! 良いでしょう! やってやろうじゃないですか! その代わり恥ずかしくなって負けても知りませんからね!?」

 「そうこなきゃね。そっちを降参させてあげるよ?」

 

 かくしてクライマックス戦闘の幕が開けたのである。

 

 ◆

 

 「恋をしよう」。

 それが僕の提案だ。今のままの「愛」ではダメなのだ。重要なのはその前の過程である。

 言うなれば以前の、公園で一緒のコートに包まれているとか。動画を消す消さないのやり取りとか。そういう新しい試みをする。それが重要だと考えたのだ。

 ポイント制度は、このためにあった。

 

 だが間違えてはいけない。

 

 あれの本当の意味は「ポイントが積み重なること」ではない。

 ぶっちゃけポイントとか一瞬で貯めようと思えば貯まる。行動すれば自分から敗北することが出来る。些細でも申請するだけで、一瞬で負けに自分から近付くことが出来る。

 だから単純に積み重ねる事に、意味は無いのだ。全くないとは言わないが、本筋ではない。

 

 キモは『条件は追加可能。ただし過去に遡って適用しない』と言う部分。

 

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 ここが真の狙いなのだ。

 

 互いに今までやったことがない惚気を探して、実行する!

 その為の工夫なのだ!

 

 無論、幾つかの条件――もとい不文律がある。

 

 一つは「攻撃時、無関係な人を巻き込まない」。事情を語って協力して貰ったり、此方が巻き込むつもりは無かったのに向こうが勝手に割り込んできたりする場合は除外する。要するにテロ的な行為はアウトなのだ。放送部を使って学園全域に告白を流すなど以ての他である。

 

 もう一つは「素直に負けは認める」。負けた時は強がらないという事だ。負けず嫌いであることと、負けを認めないことは全く違う。それはゲーマー千花なら良く分かっているだろう。

 

 最後の一つは「自分を傷つけない事」。極端な話をすれば自傷行為はアウト。言い換えれば「自分でやりたくないことをやる」のはアウトと言う意味だ。

 

 この三つの不文律を下地に、僕と千花は対決を始める事にした……!

 即ち「今までやってない方法でのいちゃつき方」を互いに考え、実行する戦いに……!!

 

 ◆

 

 そして僕がまず選んだのが、これだ。

 

 TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)である。

 TG(テーブルゲーム)部でも流行中のこれである。

 僕はTG部だが、別に千花がいるからTG部に入ったのではない。単純に好きなのだ。

 

 単純なロールプレイングゲームは、誰でも一回は経験したことがあるだろう。シナリオを追いかけつつ、味方を増やしたり敵を倒したりしてレベルアップし、最後に世界を救う感じで進んでいくアレだ。

 

 TRPGは、平たく言えば、プログラム的に処理されているこれらを、全部アナログでやるゲームだ。シナリオを作ってゲームを進めるGM(ゲームマスター)――システムによってはKP(キーパー)とかDM(ダンジョンマスター)みたいな呼び方もするね――と、PLに分かれ、ゲームは進んでいく。

 アナログなので、戦闘データなんかは全部GM側が作る。キャラクターもPLが作る。

 

 例えばLv1だと覚えられる魔法と武技はこれだけ。装備品に使えるお金はこのくらい、とルールブックに記載されて決まっている。そこから自分の好きなデータを選んで取得する。うんと強くて高級な剣を一本だけ装備して防御0とか、攻撃性能を最低限にして生存性を上げるとか、そういうデータ管理は全部PLの判断で行われる。

 性格や設定もPLが決める。だから出来上がったキャラクターは、基本的に唯一無二だ。そのキャラクターをPLは動かす。これが楽しい。

 

 で、例えばエネミーの行動値は8+1D6、PL側の行動値は6+1D6、みたいな感じでサイコロを振って、出目に従う訳だ。エネミーの方が早いならエネミーが先に動く、みたいな感じで。

 

 僕は大好きである。言葉に出来ないくらい好きである。何が良いってGMとPLが共同で物語を作る。これが良い。自分一人でシナリオを作るよりずっと楽しくなるからだ。

 幾つかのシステムではキャンペーンGMも完遂したし、PLも結構な数を重ねている。インドア派の石上も実はオフセとかでやってるんじゃないかな?

 さておき! まあ好きな物に早口になってしまう僕の趣味はさておき!

 

 僕はこれを使って、千花への攻撃を行う事にした。

 RP(演技)ならば恥ずかしいセリフを言っても「これはPC発言だから!」で幾らでも切り抜けることが出来る。素知らぬ顔で延々と攻め続けることが出来る。

 

 クライマックス戦闘に入るまでは、極力、ボスの心情や行動理由を判明させないように努めた。そして満を持してラスボスを登場させ、本気の求愛こそが動機だと伝えたのだ。

 

 どうやら効果的だったらしい。

 悔しそうな顔で、クリティカルヒットしたことを隠すこともなく、千花は戦闘を選んだ。

 

 同じTG部の友人、テラ子さんとマッキー先輩は、僕と千花とのやり取りに「何時も通りだな」と思いながらも嬉々として乗ってきた。

 あ、マッキー先輩と呼ばれていますが、彼女:槇原こずえさんは1年A組の後輩です。

 

 単純にイチャイチャするだけなら、こうはいかない。

 君たち二人でやっててね、となる。

 だがゲーム上における役割を与え、各自に行動理由を渡すことで、より一層効果的になる。

 PCチカの味方としてボスに言うセリフは、そのままPL千花に対する追加攻撃だ。

 

 そう、単純に千花に恥ずかしい台詞を囁いては効果が薄い。

 だが身内――味方、友人から会話を暴露されると! ダメージは大きかろう!?

 

 『シラベ、今まで貴方が私達にしてくれた助言は、全て私達を此処に導くためだったんですね……! 何てこと、純情なチカの心を玩んだなんて許せない……!』

 『ほう、その剣……。勇者ミユキの剣……、そうか。見習いケイから受け取ったのか。なるほど、これも因縁だ。ならば貴様も再び倒して見せよう。そしてその屍の上、俺はチカを手に入れる! お前の死体の上で彼女を攫い、世界の前で告白し、結ばれて見せようか……!』

 『話に聞いていたよりずっと狂ってしまったんですね……! チカは喜んでいたのに! また再会できたって宿で日記帳を抱えて嬉しそうに笑っていたのに! 貴方は!』

 

 これはテラ子さんの聖戦士。勇者ミユキが持っていた剣を、彼の妹ケイから受け継いで戦うという設定の女騎士だ。三人パーティの最前線で敵を倒すアタッカーである。

 

 ぐさっ! という音でテラ子さんの言葉が千花に突き刺さった。

 普段は茶化せない僕と彼女の関係を、ここぞとばかりに全力で煽って来る。恐らくTG部のゲームで負けがこんでいることも拍車をかけている。個人的な恨み、入ってるよね?

 

 「テ、テラ子……! お前、お前ぇえええ……!」

 「口調がおかしなことになってるよ? チカは仲間だよ。心配をするのは当然。大丈夫、カバーリング能力とダメージ0化、連続攻撃も確保してる。チカが回復してくれれば暫く持つ」

 

 続いてマッキー先輩が乗った。

 

 『貴方は可哀そうな人……。貴方の情報を、ミスカト市で調べた。貴方は嘗ての『ギルド:聖灯火(せいとうか)』でも決して悪い扱いじゃなかった。貴方は恵まれていた。なのにそれを捨てた。たった一人の為に……。その狂気を、私は哀れに思う……。チカは貴方に惹かれていた……。なのに何故、味方を裏切るような真似を……?』

 『……それを語る必要は無い。そこに意味はない』

 『嘘ね。それが貴方の行動の本当の理由じゃないの? ……良いわ、あなたのその心を暴いて見せる。そして貴方の心に敗北を突き付けてあげるわ。――聞いたわねチカ。それこそがアイツの心を折るキーワードよ!』

 『良く喋る口だな。魔法使いは毎度余程の油が舌に載っていると見える……!』

 『お生憎様。これも全てチカからの話よ。貴方はチカよりも口達者! チカは幾つもの言語を操れる天才神官だからこそ、基本の呪文に苦労した……。その言葉遣いを丁寧に丁寧に教えたのは貴方だとチカが嬉しそうに話していたのを、私は聞いているの。分かるかしら。つまりこの弁舌は、貴方がチカに教えたからこその物よ……!』

 

 マッキー先輩の設定は精霊魔導士だ。チカと同郷で、賢者カグヤの弟子。偉大なる師匠の背中を追いかけるが、やがて背中を追いかけるだけではダメだと気付いて成長していくという設定。一人だけちょっと年上で、面倒見が良い制御役に収まっている。

 この春入学の一年生だが、積極的に毎回TG部に顔を出しては楽しく遊んでくれている。先輩としては有難い。なんか永久部長とか称号が与えられそうだ。

 

 「マッキー先輩の癖に……! 癖に……! 覚えててくださいよ……! 次罰ゲームしたら先輩じゃなくて先ハイって半濁音を消して呼んでやります……!」

 

 TRPGにおいて、GMは基本シナリオを構築する。この際に注意すべき点は、仲間外れを作らない事だ。千花のPCに焦点を当てた際、必ず他二人の活躍場面を入れる。存在価値を与えてやると、全員がやる気になって盛り上がる。逆に誰か一人でも楽しめない人が居れば失敗だ。

 

 上手いこと、全員にモチベーションを与えた結果、テラ子さんとマッキー先輩は、僕の計画に便乗した。ここぞとばかりに千花を激励――するついでに――惚気ろ! と後押しする。

 普段の逆恨みが絶対入ってると思ったがそこはスルーだ。

 僕の笑顔が邪悪に見えた、とは千花のアフタープレイでの台詞であった。

 

 『ほう、どうした神官チカ。まさか心が折れたのか……? ならば俺の手を取れ……!』

 『負けません……! ええ、負けません! 例え貴方の手を取らなければ負けるとしても、私はここで降参なんかしません……!』

 

 覚悟を決めたらしい千花は、チカのRPを開始した。

 その目はまだ僕への攻撃を諦めていない目だ。まだ対抗心に燃えて惚気る気満々の目だ。

 

 面白い。面白い! さあかかってこい藤原千花!

 ある意味がここからが本番だぞ!?

 

 ◆

 

 聖騎士テラ子の剣が、アンデッド戦術師:イシガミを切り裂く。

 彼がフィールドに効果を与えていたペナルティが消え、変化した行動値によってマッキー魔導士が呪文を唱える。

 パーティ全員を強制移動させ、加えて防御力と攻撃力を上昇。更に二重詠唱のスキルを使って広域魔法を発動。シラベに若干のダメージを与えるとともに、邪魔なトラップを破壊!

 そして神官チカが、杖を持って殴って来る。彼女は殴りアコライトなのだ!

 

 『マッキーの言うとおり、何かおかしいと思っていました……! 勇者としての私達と一緒に居れば、貴方は何も不足が無かった……! 無かったと、思っていました! でも違うんですね? ……貴方は何か、もう一つ欲しい物があった。それが私。そしてそれは……きっと……勇者と一緒なら絶対に叶わない願いだった……! 違いますか……っ!?』

 『鋭いな……! そうだ。その通りだ! 勇者と共に魔王を倒した神官は、その功績を持って高位司祭に任命される。そうなってしまえば、婚姻は疎か、まともに愛を囁くことも! 謁見することも! できなくなる! 分かるか! その時の俺の苦しみが……っ!』

 『そのために皆を……!』

 『その為だ! ああ、その為だ! 例え世界を救い、例え権力や報酬を手に入れ、名声をほしいままにするとしても、そんな事より俺には! お前と一緒の時間の方が大事だったんだ……!』

 

 千花が仰け反った。

 これはRP!これはRP!と言い聞かせながら必死に言葉を紡ぐ。

 そこに背後から追撃が入った。

 攻撃対象はエネミー:シラベにだが、PL発言は千花に突き刺さるのだ。

 

 『馬鹿な話を……! もしもそうだとしても! 貴方は大馬鹿だ! 貴方は途中で諦めたんだ!』

 『ほう、何を言いたい聖騎士! 勇者の剣を受け継いだだけの女が!』

 『剣からは勇者の言葉が響いてくる。だから言おう。貴方は、世界の平和と彼女、そのどちらかを手に入れるのではなく――「どちらも手に入れる」方法を考えるべきだった! 仲間の力を借りればその位出来た筈なのに……! それをしなかったのは貴方の弱さだ!』

 『ぐっ……! 悪いか!? 世界と個人を天秤に乗せ、個人を選んだ俺を愚かだと言うか!? それだけ大事な存在だった!』

 『開き直るな! その行動をしてチカが喜ぶと思うのか!』

 

 僕とテラ子さんの会話が届くたび、千花はびったんびったんと水揚げされた魚みたいになっていく。だからこれはRPなんだって。

 

 「……うん、良い指摘だね。ダメージボーナスを+20どうぞ。これはメインプロセス中に継続するから、連続攻撃をする場合、その回数全部に乗る」

 「はーい。ムーブで踏み込み、マイナーで剣術無双、メジャーでダブルスラッシュ。このタイミングでオートアクション二刀流発動。ダメージ前に勇者の剣で、相手の装甲を無視します。コロコロ……命中、ダメージは44+2d6+20が2回、合計で……137点です」

 

 聖騎士の刃が切り裂く。元々余りHPが高くないシラベは大きく削れ、ハートを覆うバリヤーが一枚破壊される。残り1枚だ。

 

 『俺が頼ればよかっただと……!? 馬鹿な話を! 勇者と賢者の関係に心を砕いていた。戦術師は、旅の途中で出会った監察官とのやり取りで手一杯。神官だけが俺の――僕の意味になっていたんだと気付いた時の、俺の絶望が分かるか……!?』

 『そう。それを話せば良かったんだ。貴方の仲間は、貴方が助けを求めた時に応えないような人たちじゃない。それは貴方が良く知っていた。なのに勝手に離れたんだ。その際の悲しみは、私が知っている。偉大なる先輩が日記に残していた……! 彼女の従者から受け取ってきた!』

 『くっ、……戯言を! 例えそうだとしても、もはや止められない……! 今更、後に引けるものか!』

 

 イニシアチブに割りこんで、追加攻撃。シーン攻撃だ。

 書籍を捲ると、無数の文字が躍る。それらが一つ一つ意味を成し、全員に攻撃だ。属性は【精神】。この効果を受けると混乱だ。『あれ、ひょっとしてシラベの発言正しい?』とか思う。

 

 「抵抗判定……。私は成功。って、マッキー先輩失敗してる!?」

 「いや、私の行動はもう終わってる。私への回復リソースはチカに渡してあげて。相手のHP的に、チカがフルコンボを叩き込んで、更にギルドスキルの『神速』を使えば追加攻撃できる。倒せると思う。無理でも次Rまでチカが生きてれば問題ない。テラ子がカバーできるし」

 「了解。じゃあチカに万能薬を投げる。これで回復。あと任せた」

 「任されます。――『いいえ、まだ引き返せます!』」

 

 エネミーの発言に、チカが動く! まっすぐに杖を構えて詠唱。

 マイナーで神罰。相手の受けるダメージを+10し、メジャー、神力の一撃。

 

 『なんだと……!?』

 『ここで私が貴方を倒す。貴方を倒せば、貴方の名誉は守られる! 例え貴方が罪を犯しても、私は貴方を忘れない。私は貴方との旅を忘れない。――貴方との思い出は胸に残ります! ならば、これ以上貴方を貶める事はさせない……!』

 『知ったことか……! 例え俺の名前がどうなろうと、お前と一緒ならば――!』

 『いいえ、倒れて貰います! ……私は貴方が好きでした。仲間の活躍を広め、色んな人々から力を借りる貴方の姿が好きでした。こんな事をしなくても、私はきっと貴方と一緒に居たのに……! 馬鹿な、人!』

 

 ぐっ、結構大きなダメージ来るなこれ!?

 エネミーシラベと僕が別だと分かっていてもダメージ大きいぞ。

 

 だが、しかし! と思う。

 ましてRPしている千花の精神状態は如何ほどか!

 このまま続ける!

 

 そのまま神官チカの攻撃が命中! シラベは戦闘続行でHP1となって起き上がるが、「シラベの心」を覆うバリアは全部破壊されてしまう。

 そこに神官チカは追撃を加えた。

 

 「攻撃終了後にシナリオ1回の「加護」発動。フィールド上の味方1人を未行動に戻します。自分自身を指定。そこから「心」に向かって殴ります。バフ効果モリモリに――」

 「勿論、RPダメージも乗る。+20どうぞ」

 

 「はい。ではダメージが……50+2d6+20です。これで一撃……!」

 『ぐっ、まだだ……まだ負けない……まだ、俺は……!』

 『いいえ、貴方は負けます。だって貴方は、今もまだ諦めていない。貴方は何時もそう。何かに真っすぐになると、本当に限界になるまで走り続ける。限界を超えても走る。自分が見落としている事にも気付かずに。それを拾うのは私の仕事だったんです。忘れましたか……!』

 『――っ!』

 『だから……休んで良いんです!』

 

 「チカの攻撃! ギルドスキル「神速」、からの追加でギルドスキル「結集」を発動。味方全員の武器攻撃力が追加されます」

 「……それは隠しイベントのフラグだ。チカが使った瞬間、かつての仲間達の姿が見えるぞ。具体的に言えば」

 

 と此処でミユキ、カグヤ、イシガミと書かれた自作のキャラシートを取り出して、僕は見せた。

 そこに書かれている攻撃力を、神官チカの攻撃に上乗せさせる。

 

 『……力が溢れて……! 皆が応援してくれているんですね……! 受けなさいシラベ! これが私と、貴方が見落とした仲間の力です!』 ――攻撃……クリティカルッ!」

 「ここで出すか! 回避不可能だ。クリティカル効果でダメージにボーナスどうぞ」

 「ダメージは……さっきの数字に、+……64+10D6です。トドメっ!!」

 「それは――言葉と共に、シラベに届くぞ! 彼は致命傷を受け、心を砕かれる!」

 

 『ぐああああっ! ……そうか……そう、か……忘れていた……俺は……僕は……』

 『目が覚めましたか? ……ああ、やっと元の顔に戻りました。それでこそ、私が好きだった、貴方です――。本当に馬鹿なんですから……』

 

 「――っ、エネミー撃破だ! 戦闘終了、PC側の勝利」

 「っし! ――勝った! 勝ちましたよ! ……勝負には勝ちましたが試合に負けましたけど! なんですかこれ! 楽しいのが腹立つ!」

 

 RPをやり切ったチカは千花に戻って、大きく息を吐く。ダイス目を伺っていたテラ子さんとマッキー先輩もよっしゃーとハイタッチを交わす。

 

 千花の顔は、赤かった。

 だがそれは、今までの、のんびりした……溶ける様な赤さではない。ドキドキとした心拍数が上がる、興奮にも似た赤さだ。どうやら狙いは上手く行ったらしい。

 

 「さて、無事に戦いも終わったし、EDからアフタープレイに移ろうか」

 「あ、ちょーっと待って下さい! 調さん。やりたい演出があるんですけど良いです?」

 「おーどうぞどうぞ。じゃあシーン管理を任せるね」

 

 だが千花もタダでは終わらなかった。

 まだ、勝負は終わっていなかったのである!

 

 ◆

 

 「はい。じゃあ、戦闘終了後、倒れたシラベを地面に寝かせます。多分……もう限界で死にかけですよね?」

 「だね。……『チカの顔を最後に見るのは……悪くないな……。向こうに逝ったら……皆から怒られそうだ……。いや、僕だけ地獄行きかな……?』と言いながら目を閉じるだろう」

 

 「『させません。……私は一人になりました。だけどシラベがまだ生きていた。貴方がしたことは! 許せません! だけど、また仲間を失うのは嫌です……!』 と、GM! ここで「奉心の石」残ってましたよね、これ使って回復させられません?」

 「良い発想だね。許可だ。ではチカが石を翳すと、そこに込められた「奉心の奇跡」が発動。シラベの身が癒える。『……これは……どうして……』」

 「『言ったじゃないですか。貴方がそんなことをしないでも、私は貴方と一緒に居たのに。……生きて下さい。私も一緒に行きます。そして、貴方が行った罪を、一緒に濯ぎに行きましょう』

 「『……それは――』」

 「『良いんです!』 ――と神官チカは叫びますよ」

 

 「『私が一緒に居たいんです! 散々我儘を言ったんだから、今度は私の我儘を聞きなさい!』」

 「『あ、はい、分かりました』」

 

 「と、こういう感じで、神官チカは詩人シラベを仲間に加えます。で、更に此処でシラベの能力を使います。魔法で文章作成ありましたよね? それで、勇者一行を倒した謎の敵は、私と私の仲間、更に生きていた詩人シラベで退治したという情報を流します」

 「ふむふむ。それは出来るね」

 「で、更にその新聞にこう付け加えます。神官チカは、神殿の前でこう宣言しました」

 

 すう、と千花は息を吸って。

 

 

 「調さん! 結婚しましょう!!」

 

 

 言葉が僕の頭にめり込んだ。

 最後の最後でボールが飛んできた。

 

 確かにそれが一番綺麗なハッピーエンドだ。だが……まさか千花の方から提案してくるとは……! してくるとは……!

 まさか! 堂々と「結婚しましょう!」と言われるのは貴重(レア)! それも貴重を通り越して神話レア! テラ子さんもマッキー先輩も唐突な惚気に頬が赤い。

 

 最後の最後で、卓の支配を奪られたのだ。

 僕は「やられた……!」と言いながらアフタープレイに入るのだった。

 

 

 本日の勝敗:引き分け。

 理由:RPが盛り上がり、両PCが共にハッピーエンドを迎えたため。




システムの名前を出せないのが悲しみですが、筆者はTRPG大好きです。
C○Cは?と疑問に思った方。鋭い。

※指摘でマッキー先輩が1年生だと頂きました。
既に修正済みですが、原作呼んでるのにミスるとは……。申し訳ない。
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