月はぼかされていますが、2016年において「×月4日土曜日」は6月のみ。
アニメ4話だと5月になっているようですが、歓迎会の買い出し日に渋谷駅冠水の大雨が降っており、三巻冒頭で衣替え&相合傘イベが発生しています。ならフランス交流会が6月でも問題ないと判断しました。1巻1月ペースで、4巻末で夏休み(7月末)に突入する形。
そういう感じで行きます。
さてチャージした分ラブコメ全力だぞ!
ネコミミである。
以上! 以下略! 終わり!
と言っては何の事だから分からないだろう。だから簡潔に説明する。
秀知院学園には姉妹校がフランスにある。その姉妹校が、一時日本にやってくるのだ。その歓迎会を校長から任されたのだ。開催は三日後である。
もう一度言おう。三日後である。
お前それふざけるな! 死ね! デスマーチじゃねえか! とか校長に、生徒会役員の全員が思ったが、決まってしまったものはしょうがない。今日から三日間の間、全力で準備に取り組むしかないのだ。かくして強制収集が掛けられ、猛烈な勢いでタスクを処理することになった。
そういや『チクタクマン』騒動の時に教員を集めて何か会議をしていたな?
ペスカロロ校長、普段はフリーダムだが、あれで中々敏く鋭い。加えて彼は、元フランス姉妹校の校長。計画的犯行は明らかだった。
買い出しはかぐや嬢と御行氏、物資管理は石上、会場設営は僕、千花はその他色々と役割分担がなされ、猛烈な回転で準備は進んでいった。その際、かぐや嬢と御行氏と千花の間でNGワードゲームが行われたが……! 割愛! また今度話す!
千花はゲームになると全力だ。オンセで人狼ゲームとかやった事あるが、あのブラフと演技は中々出来ない……。あの時、占い師を引き当てた僕は、人狼二体をストレートで的中させ、狐を溶かし、狂人騙りを見破って、狩人生存状態のままラス狼を探す、というところまで持ち込んで勝利目前だったが、……真っ白過ぎた千花にカウンターを受けて敗北したという経験がある。
会長副会長、共に千花に完敗し……二人はドキドキ買い出しデートに行くようになったらしいが、これは次の機会にでも語るとして。
問題は猫耳である。
猫耳だ。……超可愛い。
「フランスは日本に次ぐ第二のコスプレ大国です! 最低限のお持て成しをしなければなりません。コスプレに言葉はいりません……! 言語の壁を越えて親睦を深めるには、これ以上の策はありません!」
と主張した千花は、何時ぞやの九郎さんからのお土産を引っ張り出してきた。
そして装着した。
可愛いのは当たり前なので言わない。いや可愛いのは当たり前なのだ。元々がふわふわ系天然ガールの千花、そこに猫耳が重なったら言葉に出来ない。僕はずーっと彼女を見ていた。
手だけはキーボードを叩いて会場準備の指示書を作成していたが、その間ずーっと目が離せなかった。……破壊力がやばい。語彙が消える。尊くて消える。
かぐや嬢は黒く小さな猫耳。黒髪のかぐや嬢には良く似合う。
御行氏には白い猫耳。目付きが悪いのであんまり似合わない。ただ「あーでもこういう野良猫居るわ」みたいな感じはした。かぐや嬢は、彼の見えないところで悶えていた。
で、千花の猫耳である。
これやばいなー、やっばいなー、勝手に手が動きそうになる。じゃらしたい。撫でたい。顎の下とかこしこししたい。したらセクハラなので出来ないけど……。超弄りたい……。
にゃん♪ とかされたら僕はそのまま動けなくなるだろう。
「にゃん♪」
…………。
……………………。
……はっ、……すいません、動けなくなったわ。
そうこうしている内に、かぐや嬢は御行氏の姿を写真に収めようとし、御行氏も合法的に写真を手に入れられると承諾。互いに可愛さを顔に出さないように、表情筋へ、殊更に力を込めた結果、互いにメンチを切る姿になったので、慌てて千花が両者の猫耳を、外し――。
外そうとして――。
……外れなかった。
「……おい外れないぞ、これ」
「え、ちょっと待って下さい。そんな訳……外れない!? 嘘です本当に外れない!?」
御行氏が慌てた声で叫ぶ。かぐや嬢も慌てて外そうとして外れないと愕然とした。
ふと見ると、地面にヒラリと落ちている取扱説明書が一枚……。
『尚、装着した者は一日取り外しが出来なくなります。
『P.S. 洗髪には支障がなく、寝る際の邪魔にもならない。安心せよ』
「待て。一日だと!? 今は朝……、つまり……」
「明日までこの格好ですかっ!?」
互いに「マジで!?」という顔で固まる会長&副会長。
猫耳を付けている事そのものは、事情を説明すれば教員からの理解は得られるだろう。個人的な羞恥心に関しても、二人は図太い神経の持ち主だ。多少の揶揄は気にするまい。
最大の問題は――互いへの視線を外すことが出来ず、明日までこのままだという事だ。
今頃互いの間では――
『今日ずっと四宮の猫耳姿を見続けるだと……!? くっそこれでは仕事にならんぞ!』
『今日が終わるまで会長の猫耳姿を見続けるだなんて……、これは耐えられません……! 仮面を被り切れずににやけてしまいます……!』
みたいな会話がされているに違いない。
そして僕もまた動揺を隠せなかった。
「いーちゃん、どうしましょう。外れません……!」
千花もまた、猫耳を付けたまま、外せなくなっていた。
猫耳そのものは校則違反ではない。カチューシャの一種だと押し切れる。若干、校則の隙間を突っついている感じはあるが、それでも違反でないからセーフ。
問題は! 問題は!!
この姿を――他人に見せるという事だ……!!
「取れないんじゃ―しょうがないですね……」
「任せろ。何があっても千花には指一本触れさせない」
業腹だが写真に撮られることまで覚悟しなければなるまい……!
男子が勝手に隠し撮りをする可能性以上に、女子が面白がってノリ良く写真撮る可能性は高いのだ。そしてそれは拡散する。絶対に拡散する。
僕が一日中ひっついて、何としてでも千花を、守らねば……ならない……っ!
固く決意を込めて拳を握る。
装着されなかった最後の猫耳が、土産袋の中で寂しく置かれていた。
◆
「あー、……岩傘、その、なんだ。藤原に猫耳を付けたのは、お前の趣味か?」
「……そうだ!!」
教室に入るなり、豊崎からの質問が飛んだ。
ざわ……ざわ……と、どよめきが走った。
そりゃそう思うよな。
だが、事故なんです!取れないんです!困ってるんです!とかこっちが主張しても状況打破にはならない。大変だなーと思われて、やっぱり写真を撮られる事には違いない。
であれば、嘘の上に嘘を乗せて、外せない理由を作っておこう。
『生徒会内部でゲームをして僕が勝利した。負けた御行氏、かぐや嬢、そして千花には、猫耳を装着する罰ゲームを与えた』。
と主張したのである。
僕が変態のレッテルを貼られそうだが、構うものか。
こう主張しておけば、御行氏かぐや嬢千花の三人は『あぁ広報の被害者なんだな……』と受け止められるし、困っているんだという顔をすれば写真を撮る人間も減るだろう。
A組は早坂が居てフォローしてくれるだろうし、千花は僕がフォローする。完璧だ。
「その、えーと、……良いのか?」
「校則違反じゃない。良いんだ。可愛いから良いんだ。可愛いは正義! 千花は可愛い。だからこの猫耳姿は正義。寸分の狂いもない論理だ。――自慢だぞ!」
「「「うるせえよ! 死ね!!」」」
男子達から蹴りが飛んだ。椅子も飛んできた。危ないなおい!
「写真を勝手に撮った奴は殺すからな! 社会的な意味で抹殺するからな!? この姿は僕だけのものだけど、罰ゲームだから皆にも見せてるんだ! 崇めて良いぞ!」
僕の渾身の叫びに、男子達はすっげえ恨みがましい目でこっちを見た。
実家の仕事は好きじゃないのでこの宣言はハッタリだが、効果はある。
「畜生、悔しいけど可愛い」
「恨めしいけど可愛い」
「眼福だけどアイツ許せねえ」
「羞恥プレイとか羨ましすぎる」
「しかも藤原が満更でもないのが余計に腹立たしい……!」
などと集まって歯噛みしている。
僕の胸に感じる優越感。ああ、これがリア充である実感か。
これがかぐや嬢が感じている『お可愛いこと』の気分……!
「あいつやっぱり闇討ちしようぜ。俺100万までなら出せる」
「俺は250だ。誰か良いヒットマンの伝手とかないか」
「
「いや俺は投資と株取引で一億まで稼いでるから結構いける」
「でも岩傘が死んだら藤原、悲しむよな」
「……悲しむだろうなあ」
「…………藤原の笑顔、可愛いもんなぁ……」
「……そうだよなぁ(ぐすっ)」
「しかもアイツの家を敵に回すと社会的に被害でかいし……」
「メディアパワーとかずるいよなぁ……!」
アイツら何を話しているんだろう。
そんなに悲しいなら自分で彼女でも恋愛相手でも見つければ良いのに。
言ったら今度は机が飛んできた。解せぬ。
◆
生徒会役員である御行氏、僕、千花の三人は、席も近い。席替えで近くなったのだ。
となれば会話に混ざるのは男子達だけではない。風祭や豊崎みたいな男子以外の、親しくコミュニケーションが取れる関係の女子もやってくる。
御行氏は気遣いが出来る秀才で、礼儀正しいが、それ以上に威厳がある。なので、気後れする女子も多いのだが――千花という最強の人脈を誇る娘が傍にいるため、その流れで、特に支障がなく話をする女子はいる。
そして女子達も、きゃいきゃいと騒いでいた。
淑やかな才女達とはいえ、基本は青春中の高校生なのである。
「藤原さん、その猫耳可愛いね、写真撮って良い……?」
「折角だからもうちょっとポーズまでして、こう……」
「というか猫耳プレイとか、岩傘さんと何処まで進展しているの……?」
「ひょっとしてそのまま猫耳姿で夜のご奉仕とか……」
「何を想像してるのよ、きっと逆よ逆。あれで藤原さんが岩傘さんを調教してるのよ。逆よ」
「そういえばA組の四宮さんも猫耳だったわ……!」
「早坂さんも真似して猫耳付けてたわ。これ流行かしら……!」
早坂、巻き込まれたらしい。ドンマイ。
女三人で姦しいと書く。
しかも女子の方が、男子よりストレートに下ネタが飛んでくる。
普段は表に出せない分、煩悩を隠している分、盛り上がる時の盛り上がり方は凄い。
「こう、猫耳だけだと物足りなくない……? 尻尾とか……」
「尻尾て。尻尾何処に付けるのよ。アクセ?」
「いや、そりゃあこう……挿れる感じで」
「それで学園に来るのは流石にアウトすぎるわ」
「というか、あの二人って『許嫁』だけど関係どこまで進んでるの?」
「中等部時代にキスしてたのは知ってる」
「高等部の一年生の時にもディープなのしてたのは聞いたわ」
「え、でもまだセッ……」
「声が大きいわよ。もっと淑やかに……!」
聞こえてるってーの。
御行氏は、聞こえていないふりをしつつも、耳が動いていた。
女子達の意見を聞いて『猫耳の評判を確認しておこう』と言う感じか。
あれで案外、白銀御行は普通の男だ。
割と青い情動があるのも、GW中に互いに確認している。
だが今の彼に話しかける人間は多くない。
僕の主張と、千花が一層目立つ、という事象。更に『猫耳がつらい』という態度。
これらのお陰で御行氏の猫耳は全然問題にならなかった。
むしろ同情されて慰められていた。良いことだ。
千花はと見れば、なんというか、困っていた。
ちょっと顔は赤いのだが、ストレートに溶けている感じは無い。困りましたねーと言いながら、指先をもじもじさせたり、髪を弄ったり、そわそわと落ち着かない様子だった。
まさか下ネタに反応した訳ではないだろう。
どうしたの? と目を向ければ、何時もより若干小さい声で、千花は答えた。
「いえ、あの、……注目されるのが久しぶりだなぁ、と……」
「ああ。そうだね。確かに何時もの惚気じゃ皆は反応しないもんね」
「ここ、これも計算ですか? 調さんの、私への攻撃で……」
え、やだな、そんなの決まってるじゃないか。
「そそ、そそうだよ? 千花への攻撃も兼ねてる。うん、兼ねてるんだよよ?」
わ、忘れてなんかいないぞ!?
「思いっきり動揺してるじゃないですかっ! さては指摘されるまで忘れてましたね……!?」
「いや、覚えてたよ。覚えていたけど、千花の姿が可愛くて! 一瞬頭から抜けていたの!」
「くっまた、いけしゃーしゃーと。これだからいーち……調さんは鬼畜なんです……っ! この前だって散々私が欲しいとか会話して……!」
おい待て、違う。それは違うぞ、混ざってるぞ。
TRPGの話とかと混ぜるな。誤解されるわ。
……いや誤解でもないな?
その誤解を、千花が意図的に言葉を選んで引き起こしているなら
――これは乗っかるべき事案だな!?
はっとして千花を見ると、ほんの一瞬だけ計算高い光が見えた。誤魔化せねえぞ!
もうこうなりゃ自棄だ。
千花の猫耳の為に、僕は今日から卒業までの名誉を投げうってでも、勝ってやる!
「ああ、欲しい。だからこっち来い。来てくれれば可愛がってやる!」
「言いましたね!? い、いい一度吐いた唾を飲み込むなんて真似は、ささせませんよ? ど、どど、どうせ今までみたいに途中でヘタレるに、き決まってるんですからね!?」
「はー、そういうこと、言う? ゲームで決めたのは僕だけど、ノリノリで猫耳付けたのは自分からの癖にそういうことを言う? にゃん♪ とか僕の前でやった千花が言う!?」
「良いでしょう、じゃあ放課後の教室で待ち受けてやります! かかってこいやぁ!」
「お前ら授業始まるぞ。そこまでにしておけ」
御行氏の言葉でふと我に返ると、教室できゃいきゃい騒いでいた男子も女子も、揃って机に座っていた。こいつら一瞬で身を翻して、素知らぬ顔で真面目な態度を取っている。おのれ……!
やって来た教員といえば「そろそろ授業始めて良いか?」と言う顔だ。
……僕と千花は無言で着席し、ノートと教科書を取り出すのであった。
目立ち過ぎた影響で教員に何回も当てられたが、授業が国語で助かったよ。本当。
◆
そして放課後。僕と千花は向かい合っていた。
2年B組教室は、まるで乾いた風が吹く荒野のようにも感じられる。
対峙する僕と彼女は、互いに目を逸らすことは無い。これは合戦――いや、言い方を変えよう。これは決闘、一騎打ち、真っ向勝負なのだ。
ごくり、と誰かが息を飲んだ。これから起きる戦いに向け、静かに緊張が高まっていく。
僕は、さながらガンマンがホルスターから獲物を出すように、静かに「それ」を取り出した。
「そ、それは……っ!」
「そう。これは――『猫じゃらし』だ」
「な、なんて……っ! 恐ろしい真似を……!!」
ガガーン! という音が千花の背後に見える。
国語の授業後、即座に家に電話し、憂さんに頼んで、届けて貰ったのだ。
新品で匂いが強いのは不味かろう。丁寧に一度洗い、微かにフローラルな香りを付け、乾かしてある。
さて大事な確認をしておこう。
不純異性交遊はアウトである。
最近は特に取り締まりが厳しく、なんだっけ……あの一年生で小さくて目がキリッとしていて気が強い娘が、やたら彼方此方に顔を出している。石上が鬱陶しそうにしていた。
なので不純異性交遊にならない――つまり『相手に触れない』事が重要なのだ。
僕と千花の勝負において重要なのは「過去にやったことをやらない」という点だ。
マンネリ化を打破するための
「そ、その『猫じゃらし』を……! さては私の鼻や喉に突っ込む気ですね!?」
「しねえよ! 僕はもっとストレートに攻めるわ!」
千花のボケをスルーして、僕は『猫じゃらし』を指で
先端に付いたふさふさが、ぴょこぴょこと動いた。
ふふふ、これからこれでお前を攻撃だ。
「さっき千花は言ったな? 僕の攻撃が途中でヘタレると言ったな? なら僕の攻めを受けて耐えてみろよ? かかってこいって言ったのは千花だ。だから僕が攻撃だ。ルールはたった一つ、今から五分間、僕がこれで千花を触る。無論、アウトな場所は触らない。服も動かさない。肌が見えていて、尚且つ粘膜に接触しない場所に限定する」
「なるほど? つまり目や口の中、鼻腔なんかは無いと。脱がされる心配もないと」
ねーよ! 教室で服脱がせるとか変態じゃねーか!
僕は千花の裸を、千花が信頼する同性と、僕以外の異性に見せる気は無いぞ!
「そうだ。その間、千花は椅子に正座をする。椅子から落ちた……いや違うな。床や机に、体の一部が触れたら千花の負け。五分耐えるか、僕が中断したら僕の負けだ」
「へえ? その程度ですか? で、そっちがが負けたらどうするんです?」
即答した。
「僕も猫耳を付けてやる」
教室が別の意味でどよめいた。
アイツ正気か……!? という声が聞こえた。
千花だけに恥ずかしい格好をさせる気は無い!
無論、僕の猫耳姿なぞ害悪にしかならないだろう。
しかし千花には効果がある筈だ。
僕が今から猫耳を付ければ、それは明日まで外れない。
つまり御行氏、かぐや嬢、千花らが猫耳を外す中、明日一日、僕一人だけが猫耳状態だ。
そうなったら、もう千花が幾らでも僕を弄れるという事だ。弄り放題と言う事だ。
僕はこの勝負に、未来の羞恥心をベットしたと言えるだろう。その覚悟は千花に伝わった。
「まさか……そこまでの覚悟を決めてくるとは……良いでしょう……受けて立ちます……!」
額に冷や汗を流し、椅子の上に正座。背筋を伸ばして、迎え撃つ姿勢。
僕は呼吸を整え、猫じゃらしを手に――攻撃を開始した……っ!
◆
「…………ん、……ふっ……きゅ……」
嬌声が聞こえている。
猫じゃらし。
正式名はエノコログサ。五穀の一つ「粟」の原種として有名で、その辺の公園で直ぐに発見できる、よく見る雑草の一つだ。ふさふさした穂先を持つアレである。
そしてそれを手に取った僕は、慎重な手つきで、顎を撫でた。
こんなもので快楽を引き出すのは困難を極める。なので方法は限られている。
即ち「こそばゆさ」――くすぐったさを生み出して、与え、相手が逃げるように仕向けるのだ。
「負けを認めるか?」
「み、みとめましぇん……、くふうぅ……!」
触れた瞬間から肩をびくびくとさせて千花が震える。
どうだ……! 猫が顎を攻められれば悶えるのは、必定……!
ふふふと僕の心の中でペルソナが囁いた。
『そう、お前の目の前に居るのは猫……! 子猫……! お前は今、千花の飼い主……! だから可愛がれ……! ペットの様に……!! 調教するんだ……!!』
そいつは三つの目を持って邪悪に笑う黒い女だった気がする。
脳裏に響いた声に従うまま、僕は顎から――首に移動した。
「!?!? ひゅうぃ!?」
「どうした? まだ二分だぞ? あと三分だ」
「く、こ、このていど……ぉ! ……ぅぁぅあぅ……!」
首は弱点の一つだ。
性別関係なく、喉の下辺りに服の襟が触れていると落ち着かない、という人間は多いと思う。
血管と気道、食道が密集した此処は、その分、肌が薄い。
肌が薄いとは、感覚が鋭敏という意味だ。
神経が近く、僅かな刺激でも敏感に反応してしまう。
すーいすーいすいーと上下に切っ先を動かしてやると、伸ばした背筋をさらに伸ばしたり、逆に前のめりになりながら、千花は必死に椅子の上で正座を維持していた。
膝の上に置かれた手が、わなわなと動いている。
握ったり開いたりを繰り返している。これは限界が近い。であれば最後の一押しだ……!
「さあ、とくと見よ、これがトドメの一撃……!!」
僕は懐から、二本目の『猫じゃらし』を出した……!!
それを両手に構え、ならば喉と顎を同時に責める構え……!!
「! そ、そんな、二、二刀流……だなんて……っ!?」
千花の顔が戦慄する。
己の敗北を悟った騎士の目だ。
「さあて降参するなら今の内だぞ……!! 今負けを認めれば、これ以上の醜態を晒さずに済むぞ……? ……いや、その目、まだ諦めていないようだな……、良いだろうその身に刻むが良い、この猫じゃらしの脅威を!!」
「くっ、ね、ねこじゃらしなんかに、絶対に負けない……!」
それは敗北フラグだ。しかも即落ちフラグだぞ!
来るなら来い! と改めて背筋を伸ばす千花の顎と喉に、同時に猫じゃらしを当てて――。
「そこまでデスねっ!!」
瞬間、僕は背後から何者かのタックルを受け、床に転がっていた。
……はい?
見れば! 見ればなんと!
津々美竜巻が、僕を床に押し倒し、そのままロープで両足を縛っているではないか。
何だ? 何が起きた!?
一瞬の後で、先ほどの自分の言葉を反芻する。
『五分耐えるか、僕が中断したら僕の負けだ』
「しまった……っ!! 千花ああ!」
「うぅ、……ギ……、ギリギリでしたぁ……ナイスですぅ、……ヤバかった……!!」
千花……! さては最初から……!
僕が余計な手出しが出来ないように、援軍を呼んでいたな!?
確かに場外からの乱入は明言していない。
如何なる方法であれ、千花は僕に『中断させること』を成功させたのだ!
はわわわ、とそこで緊張が途切れたのか、千花は机にべったりと倒れこむ。
同時に、決闘を見守っていた周囲の
千花への応援と激励と歓声。
あそこまでやったのに負けた僕へのブーイング。
「負けた!くそう!缶ジュース10本奢りかよ!」「もうちょっと藤原の姿を見てたかったのに……!」とか叫んでる奴もいる。
あ、これはテロ行為じゃないぞ。
ちゃんと日時と場所を指定し、観戦する場合、撮影写真は禁止と通達をした。更に風紀委員と教員が近寄れないように何人かと取引し、見張りまで立てて実行に移している。
見ているのは皆、僕と千花の惚気に理解ある人間だけだ。
既に誰かと交際しているとか、僕らの関係を応援してくれているとか、そういう人ばかり。
こんな騒ぎを学園内でやっても、問題にしない人々ばかりである。
しかし、同時にそれが仇となった。同じクラスの女子:津々美竜巻であればその警戒網は抜けられる。そして人込み故、彼女が近寄って来る事に気付けなかった……!
「わ、私の勝ちですよ……認めますね……? はぁ、はぁ、……
彼女もギリギリだったらしい。
技術開発部からこの教室までは結構な距離がある。
もう少し時間が足りていれば……!
もう少し千花の忍耐が遅ければ……!
僅かなIFがあれば、僕が勝っていた……!
だが――。
これは負けを、認めるしかないだろう。
降参を認めて、僕は机の横にかかっていた紙袋を指さす。
ちゃんと持ってきていたぞ。
かくして四つ目の猫耳は、僕に装着され、それから24時間、頭の上を占拠することになる。
本日の勝敗:藤原千花の勝――。
「さて、写真でも撮るか」
「はえ?」
頭に猫耳が乗っかり、本当に外れないんだなあ、と感心したところで、僕は千花を確保。
そのまま竜巻に、スマホを渡した。
「え、え? え、え? ええ!?」
「負けた時の事を考えてないわけがないだろ?
語尾を真似して告げてやる。
言葉を理解して、千花は『やられた!』と言う顔をした。
「!な、なああああ!! そこが! そこも、狙い……っ!? ま、待って下さい竜巻さん! ほら、またお菓子とか上げますから! 依頼出しますから! TG部は今後も技術開発部と懇意にさせていただくので何卒ご配慮を」
「さっきの確保で千花さんとの契約は履行済みネー、なので岩傘との約束守るネー」
あわわわ、と慌てる千花を、僕は笑顔で掴んで逃がさない。
パシャリ、とカメラの音が響いた。
本日の勝敗:岩傘調の勝ち。
尚、猫耳はフランス姉妹校の歓迎会でも使用されることが決定しました。