幼馴染で隣人で許嫁な彼女と惚気たい   作:金枝篇

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副題:四条眞妃は格好良い女

過去最長の長さ+後半、規制に入らない程度の表現です。
とはいえR15タグは入りますが……。

キューバリファカチンモは……原作のどっかで補完される日を待ちます。


幕間:学生達はチョコが欲しい 後※

 「ごめん。悪かった」

 「ふんだ!」

 「……反省してる。ごめんなさい」

 「知りませんよーだ!」

 「この通り。申し訳ありませんでした……」

 「謝ったって取り返しが付く話じゃないんです!」

 

 僕と千花の仲が非常に良いことは当たり前だが、それでも互いに機嫌を損ねてしまう事はある。こればかりは人間であるからしょうがない。のだが、今回は完全に僕が馬鹿だった。

 

 バレンタインのイベント終了後!

 藤原家の千花の部屋。椅子に座った千花を前に、僕は床に座って謝っていた。頭を下げていた。それでも会話をしてくれているだけマシかもしれない(本当に怒ると会話すら出来なくなる)。

 今回の件は、完全に僕のやらかしが理由である。自覚がある。肩身が狭いまま、何とかして千花の機嫌が良くなってくれないかなと方法を探っている。

 

 少し離れた机の上には、チョコレートが置かれていた。

 

 ◆

 

 さて今回のネタばらし……というか元々の話をしよう。

 

 僕がバレンタインに千花からチョコレートを貰うのは、これはもう当たり前だ。初等部どころか幼等部から貰っていた気がする。仲良く食べ合うのは習慣で、欲しいとも上げるとも言わない。ただ『今年はどうなるのかなあ』と僕は期待し、千花は『今年はどうしましょうか』と考える。それくらいの、それだけの話なのだ。

 

 しかし高等部一年生で、昨年の秋口に生徒会役員となった自分達が、風紀を著しく乱す真似は出来ない。常日頃の関係ですら『危なくないか?』と言われてしまっているのだ。

 それは困る。万が一にも不純異性交遊だのと言われたら困る。まあ不純っていうか『許嫁(こんやくしゃ)』なので不純でもないのだが、節度を持って自宅でやりなさいと言われれば『はい』としか言いようがない。そこで僕は考えた。かなり考えた。

 

 今後!

 というか主に来年度!

 生徒会が一新されるまでの間、何とかして惚気ても良い風潮を作りたい、と。ならばもういっそカップルを成立させてしまおう、と。

 そう考えたのだ。

 

 「岩傘、お前、馬鹿なのか?」

 「いや、真面目に真剣だ。まあ聞いてくれ御行氏。実際この計画は色々なメリットがある」

 

 僕と千花という要素+カップルを沢山作ってあげたい、という二つの要素を抜いたとしても、今回のイベントにはきちんとメリットがある。

 

 まず治安の維持だ。バレンタインに限らず、クリスマスやらGW前やら夏休み前やらにはカップルが急増する。告白が行われるだけなら良いが、加速度的に段階を踏んでいく人々が増加し、風紀が乱れる、となると必然取り締まりも厳しくなる。

 

 (それをされると僕と千花の取り締まりが厳しくなる! それは困る!)

 

 「まず生徒会側からバレンタイン企画を行う事で、参加者を一か所に集め、監視や取り締まりをしやすくなる、これが一点だ。風紀委員の動員人数を減らせれば負担も減る。上手くやれば、風紀委員も一緒に楽しめるかもしれない。生徒全員に楽しんで貰うように意識をするのは大事だ」

 「一理あるな。他には?」

 「ストレスを発散し、その後、気合を入れ直せる……つまり緩んでいる規律を締め直せる」

 

 今の時期、つまり新年が明けて二か月。年度が替わるまでも二か月。

 寒い冬も終わり、段々と温かくなってくる。それでいて新鮮さが失われている時期だ。

 三年で外部大学進学を志している人はそんな余裕は無いかもしれないが、高等部一年二年の学生は気楽である。テストでちゃんとした点を取っていれば別に進学にも問題は無い。加えて私立高校である秀知院では、冬休みも春休みも結構ちゃんと長い。

 であれば、ここで一個イベントを入れ、全員を盛り上げ、その後で意識を切り替えさせる。

 

 「つまりオンオフをしっかり作ってやる。そうすれば勉強の能率も上がるし、この時期に特有の……のんびり? で良いのかな。のんびりした空気を存分に味わって、引き締められる。実際、三年生に進級してしまったら、学園祭まで暫く肩の力は抜けないだろう?」

 「ふむ。中々理にかなっているな」

 「後は……生徒会への支持率アップというメリットも上げておこうか」

 「む、それは言われると弱いな」

 

 大半の生徒は、白銀御行を生徒会長として認めている。僕も認めている。かぐや嬢も認めている。だが『大半の生徒が認めている』とは『一部の生徒は認めていない』と同意味だ。

 

 ただでさえ『混院』の御行氏は風当たりが強い。地味な妨害工作もある。そういうのはかぐや嬢が密かに対処し、僕も密かに動いているが、あーいうのは雑草だ。どこからでも沸いてくる。

 話せば分かってくれる豊崎みたいな奴ばかりじゃないのだ。

 僕は広報としてあっちこっちに顔を出し、千花の人脈と共にその辺の情報収集もしているが、やはり伝統が長い秀知院。伝統と同時に悪癖も育っていて、そうそう簡単に駆除はしきれない。

 新一年生が入って来た時の為にも、生徒会の掌握しておく部分が多い方が良い。

 

 「岩傘、お前……結構、強かな性格をしてるな」

 「そんなことは無い。僕は千花と一緒にイチャイチャラブラブ楽しく生活する為に全力なだけだ。そっちにリソースを割いているだけの話だ」

 「……まあそれは分かった。良いだろう。ただし承知の通り、現在我が生徒会には、会計が居ない。先輩方に任せる訳にもいかない。予算案や計画書はお前が建てろよ」

 「お任せを会長」

 

 そこからの行動は早かった。

 

 かぐや嬢が、無駄に大量のチョコレートを買い込んでしまい、始末に困っていたと聞いていたから、それを再利用させて下さいと話を持っていく。

 教員の皆と風紀委員、各種部活のVIPに話を通して活動に賛同してもらう。

 各種ギミックについて技術開発部に話を持っていき、津々美に頼んでドローン作成をして貰う。

 計画書を建て、報酬(メリット)を明記した上で美少女の皆さんを集めていく。

 

 「いーちゃん、なんかすっごい頑張ってますねー応援しますよー」

 「おう、任せろ」

 

 ……この時、千花に事情を説明するのを怠ったのが、後々響くことになる。

 

 後日この時期を振り返っての話になるが、当時、僕はまだ白銀御行―藤原千花のラインが成立するのではないか不安があったのだ。だから如何にして千花と惚気られるかは大事だった。

 結局、翌年度の春過ぎには、その心配は杞憂だったと実感するのだが、それでも不安な物は不安だった。彼の悪い部分(もの凄い運動音痴だったりとか)を千花が知らなかったというのもある。

 かくして今回のイベントに漕ぎつけたのである。

 

 頑張ったぞ!

 頑張ったが故に、ちょっと見落としをしてしまったともいう。

 

 「という事で、今日は皆さん、宜しくお願いします。皆さんは、皆さんらしくチョコレートを渡してあげて下さい。作り笑顔とか必要ないんで。媚びる必要も無いので。自然体で良い人を集めたつもりです」

 「広報。なんで俺まで配布メンバーに入っているのかを聞いて良いか?」

 「一人くらい女子の相手をする人が居た方が良いでしょう。タダでさえ、会長は、壁が在ってとっつきにくいと言われてるんですから。それに此処で少しは女子相手との距離感を掴んでおくと良いと思いますよ。……(自然体で会話が出来れば、どっかの誰かも喜ぶんで)」

 

 最後の一言だけは御行氏にだけ聞こえるように囁いた。

 それに女子には何のフォローもしないと言ったら、そっちの方がダメージ大きいし。

 

 僕は応対が出来るほどの美形でもない。そういう華のある仕事は、表舞台で踊る人に任せれば良いのだ。大丈夫、周囲には剣道部や柔道部などの屈強な男子達を護衛に付けている。

 その指揮官には憂さんを設置してある。何の心配もない。

 

 「むーん、引き受けました。でも後でお話ありますからね?」

 

 その時の、千花のちょっとだけ不満そうな顔を、僕は見逃してしまった。

 これが先ほどから触れている、ちょっとした反省会を引き起こすことになるのだが。

 ともあれ、無事にバレンタインイベントは開催されたのである。

 

 ◆

 

 「っしゃあ一番乗り!! 此処で良いな!?」

 「おう流石に間に合ったな風祭、豊崎。ちょっとずるい気もしたが、まあ普段からの感謝って事で受け取っておけ。それとマスメディア部の二人もご一緒のようで」

 「ええ、恙なく入手しましたわ。これで交換が出来るのですよね?」

 「勿論」

 

 まずは巨勢エリカを一番に据え、やって来た生徒の皆に『これはこういうイベントです』と目で教える。巨勢は腰砕けになって邪魔になったので、紀(彼女は御行氏から貰った)に任せて、次は男性陣の番。風祭と豊崎が、それぞれマスメディア部を指名。

 やはりそうなった。勿論確信犯である。

 そこからは、ほぼほぼ順当な感じで推移していった。

 

 「なんで私がこんなに人気あるんだ……? ほら、やるよ。残すなよ」

 「ギャップに引かれるーって奴じゃないかなっ? あ、愛をこれからもよろよろ~っ!」

 「今日は来てくれて有難う。おまけではないけど占いを一つ……。ご自宅の机の三番目の引き出しに、貴方が先日無くしたと思っている物が入っているわ。探してごらんなさいな」

 「手作りじゃないけど美味しいから味わって食べてね! 元気出していこう!」

 

 無難に人気なのが、早坂愛、子安つばめ、藤原千花。

 カルト的な意味で人気なのが、白銀御行、四宮かぐや、阿天坊ゆめ。

 そしてそれら六人をぶっちぎって、やたら人気が高いのが、龍珠桃であった。

 

 いやこの結果は僕も予想外過ぎる。

 これは後日、チョコレートを貰いに行った人間に聞き取り調査をした結果なのだが『絶対に貰えない人より、万が一にでも貰えそうな感じの人』に位置しており、その素っ気ない態度が受けたらしい。『男っぽい友人がふと見せる女の子っぽい姿』みたいなギャップが良かったそうな。

 なるほど、理解できなくもない。

 

 こうして徐々にイベントは進んでいき、ドローンから排出される銀カードも終わりが見えてきた。一番に駆け付けた風祭や豊崎には、列整理を任せてあるし、手配した護衛の皆さんも活躍しないままで終わるだろう。一安心である。

 

 「ちょっと休憩してくる……」

 「おう、一息入れてこい」

 

 準備からイベントまで一気に駆け抜けた。

 僕は、心地の良い疲労が乗っかった肩を思い切り伸ばす。

 そうして休憩がてら学園内を歩いていると、声が聞こえた。

 同じクラスの四条眞妃の、声であった。

 

 ◆

 

 今回の計画実行の裏には、カップルを他にも成立させてしまおう、という狙いがあったとは話したと思う。その最大理由は、語った通り、僕と千花の惚気る機会を増やす為だ。――ただ同時に『好きな人を作るのは良いぞ』という気持ちがあったのは本当だ。

 

 イチャイチャするのは素敵なことなのだから。

 この幸せを分けてあげよう……という考えが原動力の一端を担っていたのは間違いない。

 

 で、昇降口前であんなに堂々とイベントを起こせば、必然、学園内部の監視は緩む。人数も減る。そもそもドローンを追いかけるような奴は、チョコレートに縁がない奴ばっかりなのだ。

 本命がいる奴は『今の内に此処でね』と約束をしているに違いない。

 そう思っていたのだが……。

 

 「で、ええと、翼君。バレンタインのチョコレートを渡そうかなと思……が、がん泣きしてるっ!? マジ泣き!? 落ち着いて! なんで泣いてるのよっ!?」

 

 思考は、教室から聞こえてきた声に中断された。

 そっと身を潜めて様子を伺うと、1年B組の中では、四条眞妃が、男子を慰めていた。

 ええと、あれは確か翼君だ。あんまり目立ったところがない、ごく普通の秀知院の学生。クラスメイト。一応名前は知っている。苗字は……えーと……僕にだって知らないことはある。

 

 「え、ちょ、マジ……!? 落ち着いて。落ち着いて。チョコレートが辛い……!? あ、あああ、そそうなんだ。安心して! わ、私はチョコレート渡すつもりとか全然ないから!」

 

 なんだなんだ? と様子を伺うと、件の翼君は涙で袖を濡らしていた。

 四条さんは咄嗟に後ろ手で何かをロッカーに放り投げ、何があったのか? と尋ねる。

 僕が密かに耳を欹てて伺うと、大体こんな感じらしい。

 

 本日、翼君は放課後、女子に呼び出された。

 このタイミングでの呼び出しなら確実にチョコレートだと思っていたそうだ。

 ただ同時に『自分にそこまで都合が良いことなんか無いかもしれない』とも思っていたそうで、警戒はしていたらしい。

 彼を呼び出した少女は、少し前に『付き合ってる人、居るのー?』と質問をしてきた人物であった。だから『これはひょっとして』と其処でちょっと期待した。

 しかし期待に反して、渡されたのはチョコボールが三つだけ。

 それだけなら笑って受け流せたのだが、彼女が去った後、チョコボールを齧り……。

 聞こえてくる楽しいイベントのBGMを耳にしていたら、つい感極まって泣いてしまったらしい。

 『俺、何やってるんだろう』と……。

 

 「お、落ち着きなよ。ちょ、チョコボール三粒だけを渡すだなんて、ひ、酷いね? うん、そそそれで? えっと、食べたら……? うん、甘かったんだけど、しょっぱかった? もうチョコは、遠慮したい……? そ、そう……」

 

 複雑な顔をして聞いている、四条眞妃。

 四宮かぐやの遠縁にあたる女の子だ。学年三位の才女。クラスメイト。話し方に自信と、ちょっとばかりの刺々しさはあるが、基本は良い子だ。ちょっとだけ、かぐや嬢に似ている。

 そして面倒見が良いところも、かぐや嬢に似ている。

 気持ちは分かる。この騒動の中、教室で一人さざめく男子を見たら、動揺するよ。

 

 「ほら、ちょっと座って落ち着こう。私が相談に乗れるなら相談に乗ってあげるから! それで……えっと、うん……ゆっくり話してね。聞いてあげる。辛い時は誰かに相談すれば良いんだって教わったし……?」

 

 むっちゃ本気の顔で慰めていた。それだけで眞妃さんはイイ女だと思う。

 泣いている男子を前に、背中を叩いて慰めて、嫌みにならないように立ち直させるのは並みの人間には出来ない事だ。

 

 何よりも、だ。その顔に下心がない。

 

 『泣いてる!? 良く分からないけど、何とかしてあげよう!』という表情なのだ。

 計算ではなく、本気で翼君を心配しているのが分かる。

 むしろ話を聞いて罪悪感すら覚えているようだ。立派である。

 

 翼君の発言は、徐々にネガティブになっていく。普段は穏やかな分、一線を越えると結構危ないらしい。テンションが乗っかるとワイルドになりそうだが、逆に下がると凄い落ち込む、みたいなタイプだろう。

 

 「え“、な、渚がそんな人とは思わなかった……? ちょっと酷いと思う……? 嫌いになりそう……? 違う! 違うよ翼君! 渚がそんな酷いことをする娘じゃないよ。だ、誰かが、唆しただけなんだよ。ひ、酷いよね!」

 

 そうかな、と確認する翼君は、どうやらチョコレートを渡した渚さん――柏木渚さんかな? に対して良い印象を抱かなくなったらしい。加えて彼女に対して負の感情を持ちそうになっている。

 翼君からそう告げられた、眞妃さんは、それこそ必死に弁護を始めた。

 

 そういえば彼女は柏木さんとは幼等部からの付き合いか。

 彼女にとってそれだけ重要な親友なのだ。

 記憶を探れば……確かに一緒にいた記憶がある。何分、幼等部とはいえ秀知院なので……男女で活発に遊びまわるなんて経験は少ない。あって同性同士でやんちゃするだけだ。その当時からの友人なら、その絆はさぞかし強かろう。

 

 「翼君! 自信をもって! 翼君は、それでも立ち上がれると思っているし……! きっと素直に渚に、気持ちを言えば、謝ってくれると思う。私の方からも、伝えておくし。その、渚に――余計な、あ、悪意ある、い悪戯を吹き込んだ奴……くっ……は、ゆ、許さないから……!」

 

 途中、ものすっごいダメージを受けているような顔をしていた。理由は分からない。

 だが気持ちは分かる。彼女は友情に厚いのだ。

 眞妃さんの言葉で、翼君は段々と立ち直って来る。

 そして彼女は、気合を入れなさい、とばかりに背中を叩いて笑いかけた。

 

 「これからもどんどん頼って良いのよ! 私は渚の親友だし……! そ、そうね、今回の件で、翼君とも()()になれた、からねっ……!」

 

 そう言って翼君を元気づけ、彼が涙を拭いて顔を上げたのを確認した後、四条さんは『じゃあ!私は早速、渚の元に、行ってくるね!』と颯爽と立ち去って行った。

 

 ……こういう方向で問題が起きるとは思っていなかったが……結果オーライ、と奴だろうか。四条さんは実に格好いい女だと思った。

 きっとこれからも翼君は、眞妃さんに何かと相談をしに行くだろう。

 柏木さんと翼君の仲直りに協力するとか。

 

 出ていく際に、後ろ手で放り投げていた何かを回収し、慎重にしまって駆けていった。さっきの話、というかさっきの態度で、チョコレートを渡したかったというのは無いだろうと思う。

 それなら会話中、少しは下心というか、そういう『ラッキー!チャンス!』だという気持ちが出る物だからだ。

 

 その後も、僕はちょくちょく、翼君と眞妃さんが会話をする光景を教室で見ることになる。そしてその全てに柏木渚が同席して、徐々に関係が変化していくと知ることになるのだが……。それは此処では蛇足であろう。

 これもまた青春か、と良い休憩になったなと思いながら、僕は昇降口に戻ったのであった。

 

 ◆

 

 こうして無事に、バレンタインイベントは終了した。

 

 大体の生徒はチョコレートを手にいれ満足して終わった。

 中には親密な関係を構築した生徒もいて、彼らはイベント以上に情熱を燃え上がらせた。

 銀カードとドローンは技術開発部の手で回収されたし、手伝ってくれた友人達:風雲と豊崎からも感謝された。マスメディア部も沢山の写真を撮れてほくほく顔だった。

 協力してくれた女子の皆さまには、約束通りの報酬を渡した。彼女達に対して、男子達からのファンクラブなんてものも設立されたらしいが、本人達の迷惑にならないなら構うまい。

 来年、新しく部活に入る人間も増えるだろう。

 

 とはいえ、幾つかの問題が残った。

 

 生徒会、引いては会長副会長の問題が一つだ。

 つまりかぐや嬢、御行氏、共に互いに対する若干の不満というか苛立ちはあった。

 二人とも互いが色んな人にチョコレートを渡している姿をずっと見ていただけで、それは必然、なんとなく不快感を煽る。

 

 しかし僕はこれを大きな問題だとは思わなかった。

 確かにそれは不満になるが、同時に距離が近寄る契機でもある。

 甘ったるいチョコレートの香りから脱出した二人を労って、熱々の緑茶や紅茶、コーヒーで落ち着かせ、そこに追加のお菓子を差し出す体裁を整えた。

 無論、差し出された品はかぐや嬢の一品(早坂の助言有り)である。

 

 疲労困憊したところに、甘すぎない、落ち着いた甘み。良い感じに癒される御行氏を見て、かぐや嬢は内心でガッツポーズをしていた。直接手渡しができたか、と言えば怪しいが、彼女の選んだ逸品を彼だけが味わい、二人だけで過ごしたのだ。それで良しとしよう。

 尚、無論、僕は千花と共に、さり気なくだがその場を離れた。

 

 「さて、これで無事にイベントは終わった……。千花、チョコレート、貰って良いかい?」

 「嫌です」

 

 そしてもう一つの、最も大きな問題が、千花である。

 ……千花である。

 彼女の目は、かなり怒っていると僕に伝えてきた。機嫌は、はっきりと斜めであった。

 

 「あの、千花さん?」

 「嫌です! 乙女心が分からない調さんとか知りません! 今年のチョコレートは無し!」

 「…………えっと」

 「(ぷいっ)」

 

 と、こういう訳で。

 何とか実家に戻って来た僕は、千花の部屋で、怒った彼女に対して謝っていたのである。

 

 ◆

 

 自分の行動を振り返って暫く、本当に何故千花が怒っているのか分からなかった。

 分からなかったのだが、ずっと神妙にして小さくなっていたら。

 千花が小さく『なんで一番じゃないんですか』と呟いたのが聞こえた。

 そこで()()()と思い至った。

 

 千花は、僕がチョコレートを貰う事に嫉妬したりはしない。その程度で起こる程狭量ではないし、僕が色々そこそこ貰うのは知っている話だ。

 ぱっと名前を上げるだけでも、憂さん、(キーちゃん)、萌葉ちゃん、豊実姉。今年で言えば津々美も入る。義理チョコ友チョコもそれなりに多い。だから『なんで一番じゃないのか』という発言の意味は、僕がチョコレートを貰ったことに関してではない。

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()について、なのだ。

 

 「そっか、えっと、……ごめん。千花は、イベントより僕を優先、したかった、よな」

 「………そうです!」

 

 僕の発言に、頬を膨らませてそっぽを向いていた千花は頷いた。

 怒った理由が分かった。納得した。

 

 今回の僕のミスは、完全に()()()()()()事に他ならない。

 僕は他の女子の皆さんには丁重に根回しをしたが、千花に対してのお願いはかなり後回しにしていた。後回しにしても『大丈夫だ』と勝手に考えていた。

 千花と僕の為に行動をしていたが、千花自身の感情を僕が汲み取れていなかったのだ。

 

 理由をきちんと説明し、お願いをして、彼女に先んじて僕へのチョコレートを渡して貰えば、この出来事は起きない。

 好きな人との時間の為に頑張る一方、好きな人自身を振り回していると気付けなかった。

 

 本末転倒である。

 千花が怒るのも、むべなるかな。

 

 千花としては、イベントで騒ぐよりも、それこそ学園内で内緒のバレンタインをしたかったのだ。其処に僕が()()()イベントを入れ、()()()協力をお願いした形。千花も『良いですよ』と言ってくれたが、燻る感情はあったのだ。

 それがこうして吹き出し、怒っている。

 

 謝るしか出来ない。

 これは百パーセント、僕が悪い。

 

 「ごめん、千花。どうすれば良い?」

 「………チョコレート。チョコレートは、私が食べます。私に、食べさせて下さい!」

 「はい」

 

 無言で僕の為に作られた包装を解く。ハートマークのシールが貼られていた。

 反省する。反省しか出来ない。

 そうだよなぁ……。千花は、これを僕に渡したかったんだよなぁ……。その機会を僕がうっかり不意にしてしまったんだよなぁ……。いけない、罪悪感で涙が出てきた。

 

 「ど、どうぞ」

 

 無言で箱を空けて差し出す。中に在ったのは、細めのボンボンチョコレートだった。

 棒状の形をしていて、ナッツやオレンジピール等が散らしてある。

 甘い匂いだけではなく、柑橘系の香り、香ばしい香りと幾つも種類があって香しい。

 

 「それじゃダメです。箱出すだけじゃ許しません」

 「……はい。では、お口をお開け下さい」

 「手で持つのも駄目です! ついでに足とか箸を使うのも駄目です!」

 

 指先で掴んで口元に運んで行ったら、それもダメ出しされた。

 そっぽを向いた千花はちょっと頬が紅い。

 とすると、もう残りは一つしかないのだが。

 

 「ふんだ。謝るなら、それくらいはしてくれないと、ダメです!」

 「…………分かりました。お姫様」

 

 僕はチョコレートを口に咥えて、千花の元まで近寄り、彼女の顔を向けさせる。

 所謂、ポッキーゲームだ。

 

 「……むう。……ぱく」

 

 僕が顔を近付けると、千花は反対側に食いついてきた。

 じっと至近距離で瞳が合う。じーっと見ていると、千花の険のある目力が徐々に和らいできた。そのまま、無言で、互いに、一口、前進。

 

 ぱり、ぱりという音がして距離が縮まる。

 何となく手と腕が寂しかったので、近寄ってきた千花の身体に手を回す。

 一瞬だけ、それに身体を固めたが、すぐに脱力して、僕に引き寄せられた。

 

 「………(じー)」

 「………(じー)」

 

 そのまま、互いに無言で、もう一口。

 ぱり、ぱりと距離が縮まる。

 互いの微かな呼吸音すら肌で感じられる。大きな目が近く似合って、引き寄せた千花の身体が体温を伝えてくる。柔らかい物が当たっていて、そのまま更に距離が密着。千花の方がらも、僕の背中に手を回してきた。

 

 こうなったらもう、一息である。覚悟を決めた。久しぶりだし!

 覚悟を決めて、もう一口、先に進める。

 

 「……ん、……むぅ……。……ん!」

 

 唇と唇が触れ合った。

 そのまま、行為は継続された。

 

 ◆

 

 一本目が終わり、二本目も終わる。

 ……互いの口の中でチョコレートが溶け切るまで、じっとしている。

 カチカチ、と時計の針が夜を伝えている。静かで、物音はしない。僕と彼女の音しかしない。互いの鼓動は聞こえる気がしたくらいだ。微かに喉が鳴る動き。相手側の甘い味。無言で口を離した時には、チョコレートが微かに混ざった唾液が糸を引いた。

 

 「……収まった?」

 「……。もっとです……」

 

 とん、と押されて、そのままベッドに腰かける姿勢になる。

 千花はそのままもう一本、チョコレートを口に咥えると、膝の上に乗ってきた。彼女が向かい合わせて、腿の上に。所謂、対面する格好だ。

 

 そのまま、今度は千花の方から口を寄せてくる。

 勿論、そのまま咥えた。一気に、大胆に。

 

 「……ん、……ちゅ……る……」

 

 ぎゅ、と抱きしめられて千花の身体の形が変わる。微かな甘い匂いが漂ってきた。

 頭に霞が掛かりそうになったので、気合を入れて攻めた。

 腰のあたりを掴んで、姿勢を変える。

 

 「ふ、ん……、んん……っ……」

 

 頭を押す形で、啄む形から、奥に入れるように。深く、舌を入れて、啜るように千花の舌と絡める。チョコレートよりも互いの唾液の方が多く溢れるほどだ。

 ゆっくりと動かしていると、段々と千花の顔にあった険しさが消えてくる。

 背中に回された手だけはぎゅうと強いのに、体温が上がって、目が熱っぽくうるんでいる。

 

 ……これちょっとやばいな。

 やばいなーと思ったけど、理性的に止めるのは無理だ。

 

 チョコレートが媚薬だと話したが、まさに魔性の薬。箱に適当に指を伸ばす。互いの呼吸が挟まれて、一拍、空気が交換される隙に、追加で放り込んだ。

 直ぐに溶けて、甘く甘く、形を変えていく。

 千花の口の中がチョコレートでコーティングされて、何時までも口を付けていれそうだ。

 なんとなく互いの感覚が鋭敏なのが分かった。色々反応しつつあってヤバイ。

 

 「……、……いー、ちゃん、……その……」

 

 小さく呟かれた声が耳に届く。

 皆まで言われない内に、抱きかかえて、向きを入れ替えた。

 そのまま寝かせて、僕は上に被さる形になる。

 

 あー、うん、なんかもう、このまま進んで良いや、と思った。

 普段はへたれとか言われる僕だが、今回だけはもう色々限界。

 千花は、一瞬だけ目をぎゅっと瞑ったが、離れないでというように手を伸ばして僕の腕を掴む。応じるように、身体を傾、け――。

 

 「義弟くんー、チョコレート持って、きた……! ……わ……よ………」

 

 そこで、ガチャリと扉が開いて、豊実姉さんが顔を出した。

 手にはチョコレートが握られている。

 

 すると当然、色々と直前になっている僕と千花が見える訳で。

 一瞬で状況を理解すると、彼女の顔が真っ赤に染まる。

 バタンッ!と猛烈な勢いで戸が閉められた!

 

 『お、お邪魔したわね……! ごご、ごゆっくり……っー!!!』

 

 …………。

 ………………。

 

 「……はっ」

 「はっ!!」

 

 そこで正気に戻った。

 ななななな、あわわわわと互いに言葉にならない言葉を言いながら、離れる。

 もう猛烈な勢いで距離を取り、僕は頭を壁ぶつけ、千花はベットから転がり落ちた。

 どたん!ばたん!いたい!

 

 「ちょ、ちょ、ああわわわ、今、今やばかったです! あのまま完全に流れるところろでしたよ!?」

 「やばかった! やばかったやばかった超ヤベエ! 絶対あのままだと及んでた! セーフ! せーふだよな!?」

 「セーフです! ……ちょ、ちょっと惜しい気もしますけど!」

 「それはある! ちょっと惜しかったけど! 此処で流されないで済んだのは……。……なんか……あー、くっそ、すっげえチャンスを逃した気がする」

 

 別に服が脱げていたわけではないが、なんとなく身支度を整えて、互いに深呼吸をする。顔が赤い。真っ赤だ。暫くは目を合わせる事も出来なかった。

 もう互いの頭に怒りとか反省とか(いや反省は心に刻まれたが)残っていなかった。

 

 そして冷静になって思い返せば惜しい。あれ完全に運動(比喩表現)する直前だった。普段は理性的に惚気ているが、完全にトリガー外れていた。こういう機会は早々ない。千花も完全に受け入れ姿勢だったし。

 悔しさと安堵と興奮と羞恥心と、そういう色々が混ざった感情が頭の中に溢れて、それらを一緒にまとめて、僕は溜息を吐いた。

 

 千花も同じだったようだ。今も室内にある空気がピンク色に見える。

 慌てて窓を開けた。二月の風が吹き込んで、頭を冷やしていく。

 

 「……チョコレート、余ってます。一緒に食べましょう」

 「そうだね。……じゃあ、一緒に食べようか。……後で誤解、解いておかないとなあ」

 「ですねぇ。……また今度、そういうタイミングがあったら、その時は……その時です」

 「その時は……今度は邪魔されないようにしたいね……」

 「はい……」

 

 その後、二人でゆっくりとチョコレートを食べた。

 先までの熱烈な甘さではなく、静かだが互いの距離感が丁度良い仄かな甘さを堪能する。

 

 食べ終わったところで部屋を出ると、扉に耳を当てている豊実姉と萌葉ちゃんに遭遇。……興味があるのは分かるけど聞き耳を立てるのはどうかと思います。

 特に萌葉ちゃん、君には刺激が強すぎるから。

 

 その後、『結局何もありませんでした』と報告をしたら残念がられた。

 特に万穂さんは『そこは押しておきなさいよ!』と言われてしまった。

 いやいや、次女の純潔消失に関して残念がらないで下さい。絶えず居心地が悪そうだった大地さんは、報告を聞いて安心したらしいけど。

 

 結局そのまま、夕ご飯をご馳走になって、僕は帰宅した。

 

 帰って来た僕を見て、憂さんは『惜しかったですね』と告げる。

 どっから聞いたのかと言えば、豊実姉からメールが来たそうだ。

 

 イベント終了まで護衛を務めた憂さんには、色々とファンが増えたらしい。

 最後の方では『あの護衛のお姉さんからチョコレートが欲しい』と言った業の者も居たとか。

 きちんとサービスしてあげたそうだ。

 その話をした際、鉄面皮に、ほんの一瞬だけ笑みが見えた。余程、面白かったのか……それとも、楽しいと思ったのか。定かではないが、貴重だった。

 

 尚、妹にはゴミを見る様な目で睨まれた。いや、そんな顔をされても、困る。

 

 翌日……もとい週明けに学園に通った時、僕と千花の距離感は戻っていた。

 戻ったと言うと誤解をされるかもしれないが、つまり何時も通りの、惚気るのに丁度良い距離だ。教室で隣に座り、生徒会室で仲良く仕事をし、僕は御行氏とかぐや嬢の応援をする。

 

 あんな経験をした後でも『なんとなく千花の周囲に誰か男が来ると不安だなあ』と思うのだから、僕の嫉妬……というか、愛情というか、千花への想いは相当深くて重いらしい。会長との距離が近いのを見るとザワザワする。情けない。

 

 「何言ってるんですか。距離感が戻ったとか言ってましたけど本気で言ってます?」

 「……聞こえてた?」

 「聞こえてました! どう考えても進展しましたよ! いーちゃんも心では分かっていますよね!? 全くもう、変なところで目を逸らすのが上手なんですから。……あーあ、あの後で元通りの態度を取れる、いーちゃんは、馬鹿なのか、平常運転なのか、SAN値が高すぎるのか、私には分かりませんー。もうちょっとガンガン距離を詰めてきてくれて良いんですよ? 女の子は、好きな人に強引に求められるのも嫌いじゃないんですから」

 「……はい」

 

 叱られた。千花の言葉の通りだから否定できなかった。

 

 結局、勇気が僕には、ちょっと足りないのだ。だから惚気るだけで、イチャイチャするだけで、最後の一線を越えられない。へたれと言われても、仕方がない。

 

 だから自信をもって行動できる御行氏を凄いと思う、のだと思う。

 だから千花と御行氏の距離が近いのを不安に思っているのだと思う。

 

 結局、僕がその最後の一歩を踏み出すまで、このバレンタインから半年では済まない時間が掛かるのだが――それはまた今度の話にしよう。

 

 季節が変わる。各々が進級し、生徒会は今まで通り動く。

 石上が会計として加わり、相も変わらず御行氏とかぐや嬢は恋愛頭脳戦を繰り広げている。

 

 そして僕は、今日も千花と一緒に、惚気る事に全力を注いでいる。




四条眞妃の敗因:イイ女過ぎたこと
1:泣いている翼君を、本気で慰めてしまった。
2:その際、自分のチョコレートを渡す下心よりも、元気付ける方を優先した。
3:親友・柏木渚への風評被害(原因は自分)を撤廃する為に全力だった。
4:その後も、何かと友人としてアドバイスをし続け、渚と翼君の関係構築まで手伝ってしまう。
頑張れ。
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