皆さまの応援に感謝します!
多忙に付きちょくちょく投稿期間に間が開くことがありますが、最後まで書くのでご安心を!
では、どうぞ!
誰にだって人間関係における相性とか、好き嫌いはある。
朝一番で好きな人の顔を見たら嬉しい。
逆に寝起きで最初に見たのが嫌な奴だったら気分は最悪だ。
今日、僕が、朝一番に見たのは、我が妹の顔。
授業が終わり、無事に昼を食べ終わった後に見たのは。
「くふふ。という事で転入したんだ、くふ、宜しくね、いーちゃん先輩?」
「言っておく。僕の事を、いーちゃんと呼んで良いのは千花だけだ!」
「そんなに大きな声を出さないでくれよ。私はこの通り、一般生徒になったんだぞ!?」
「何が『なったんだゾ(可愛く)』だ。くふふって笑っただろうが。信用しないからな」
わざわざ挨拶に来た邪神系女である。
誰が好き好んでコイツと遭遇しなきゃいけないんだ。もっと別の奴を!と思う。
チェンジを要求したい。コレよりは伊井野ミコの方がまだマシだ。
追い払ったら、ダメージを受けるかと思いきや、挑発が返ってきた。
去り際に歪んだウインクと投げキスを投げて来やがった。嫌がらせか。嫌がらせだな。
制服を着こんでモノクロカラーの衣装が消えた、と思ったら。靴を黒にして靴下を黒白片方で変えるとか、髪を黒と白に染めるとか、そういう細かい芸をしていた。鬱陶しいアホ毛も健在だ。
イクス・クルーシュチャとか名乗って転校して来たあの女。この時期に、この学園に、という事で既に有名になっている。四宮家からの派遣という事実は知らずとも、誰かが編入を手伝ったのは自明の理。果たしてどんな人間か、と興味の目が向いた。
僕も学歴を確認したが『カリフォルニア工科大学卒業』と書かれている。
MIT(マサチューセッツ工科大学)と比肩するアメリカ屈指の大学だ。名声の割に規模が非常に小さく、確か生徒と教授を合わせても二千人程度ではなかったか。
……これ捏造じゃねえんだろうなあ、と思った。あの女、ニャルラトホテプの化身であることは間違いないが、同時に唯の娘である。数学の天才少女が、うっかり『クルーシュチャの方程式』を解き明かしてしまい、結果ニャル汚染を受けたとか、そういう感じなんだろう。
イクサというのも『
そしてこの経歴を確認して、僕は『やっぱり頭脳でクルーシュチャに勝つのは良い手段ではないな』と再認識した。だってそうだろう。下手に勝利して、僕が『クルーシュチャの方程式』を解いた、なんて状態に追い込まれるなんて、考えるだけで恐ろしい。
「今の編入してきた一年生だよな。……すっげえ険悪だったけど何かあったのか?」
「千花との距離が縮まった」
「……良いことじゃないか」
問いかけてきた風祭に、いいや違うね、と僕は断固とした意見を言う。
「違う。千花との距離が縮まったのは『結果』だ。その『結果』に至るまでの過程が問題だった! あの女のせいで! 僕は、もうちょっと先だと思っていた、イベントへの時計の針を進める羽目になった! ……比喩で言ったが、――あの女が暗躍しなければ、姉の結婚式はもうちょい先で起きる筈だったんだ。その平穏を壊した原因である、あの女は、僕は嫌いだ。大嫌いだ」
「岩傘が其処まで嫌うってのも珍しいな……」
「情に絆されることはあっても、時と場合により手を組むことはあっても、僕はアレとは相いれないさ。同族嫌悪が若干入っていることは否定しないけど」
神妙な態度ならまだしも、愉悦が好きそうな態度で歓迎されても嬉しくない。結果オーライという言葉があるが、それにしたって限度やらセーフラインという物がある。
そこまで断言した後に、荒んだ心を宥めるべく別の話題を口にした。
「それに比較して千花は癒しだ。まじ癒し。いやな、さっきも言ったが姉貴分が結婚するんだよ……まだ婚約の手前だけど。ショックを受けた僕を慰めてくれてな……、直前にあの女がいたから、猶の事、僕の心は溶けそうになった。膝枕とか最高。此処で出来ないのが残念だ」
「お前なら教室でやってても不思議じゃないと思う」
「そうか? ……今度やってみるか?」
「やらんでいい! そういうのは二人きりでやってくれ。……俺も彼女が欲しいよ」
風祭と豊崎ならマスメディア部を誘えそうなものだけどな。
僕がそういったら『どうも歯車が食い違ってる感じがあって上手くいかない』そうだ。
互いを応援しても、彼女達が応援しあっても、タイミングが合わないとかなんとか。
そりゃ悲しいな。今度、何かアドバイスでもしてあげようと思った。
◆
千花は僕をいーちゃんと呼ぶ。岩傘でいーちゃんだ。
幼い頃「いわかさ」と発音が出来なかった。「いわかさ」→「いあかちゃ」→「いーちゃ」と言う感じである。それが今でも続いていーちゃんだ。一応「調さん」と呼ぶこともあるし、公衆の面前ではそう呼ぶように意識しているようだが、徹底は出来ていない。
そして社交関係が広い千花だ。僕の話を出す時も、最初は「岩傘さん」なのだが、最後の方になると「いーちゃん」と混ざるらしい。だから……いや、だからという表現が正しいかは知らないが『藤原先輩の許嫁は生徒会広報の
だけど僕は、この愛称を千花以外に呼ばせる気は無かった。御行氏やかぐや嬢に、皮肉や揶揄を込められてちょっと使われる程度なら許せるが、その位。ましてクルーシュチャに呼ばれるのなど御免被る。
……ただ「いーちゃん」の名前は、有名である。
僕の名前や役職、活動とか、会報での写真とかがあっても、マスメディア部のインタビュー記事が載っていても、それは僕本人ではない。御行氏やかぐや嬢が、本来どういう人間か――を知らないのと同様に、僕にもバイアスがかかっている。
だから後輩とか年下を相手にするときは、割と気を使うのだが――。
幸いなことに今日のお客は、そういうのとは無縁な相手だった。
着飾らないでコミュニケーションができる相手は貴重だね!
クルーシュチャとは雲泥の差だね!
……ともあれ。
「失礼致します。あの、会長の白銀御行は留守でしょうか?」
かぐや嬢の風邪も治り、生徒総会が数日後に迫ったある日。
放課後にやってきたのは、御行氏の妹:圭さんであった。ちゃん付けしたいところだが、見知っているとは言え、レディを相手にちゃん付けは不味かろう。
出迎えたかぐや嬢は『これが話に聞いている会長の妹さんね!?』と感動していた。
「会長でしたら今は部活連の予算案会議に出席しています。暫く戻らないと思いますよ」
「部活連の会議ってあれですよね。昔、外部入学の生徒会長が失礼を働き、日本に住むのが難しくなったって言う……」
「大分、噂に尾ひれがついていますね。その話はデマです。ただ彼の父親の勤務先がカンボジアになっただけですよ」
「それ飛ばされてますよね!?」
「カンボジアで良かったね。中東だったらもっと笑えない。……いらっしゃい白銀さん」
「あ、岩傘先輩。お邪魔しています」
パソコンのデータをセーブして顔を出した。
僕が関わった事件ではない。ただ時期的に、憂さんか豊実姉のどちらかは、在籍期間的に耳はしている筈だ。今の世代に限らず、部長たちは基本、取扱注意の人ばかりである。仮に僕がマスメディア部に入ったら、多分同じように表現されたんだろうさ。
秀知院VIPの一人に、本物の王族が居るという話は前にしたな。
ガルダン・アーラサム王国という中東の小さな国があるのだが、そこの王族である第二王子が秀知院には居る。『サハ部』という丸太を使った新種の部活動をしている変わった男だ。向こうの国だとお家騒動(※真面目にヤバイ権力闘争)をしているらしい。そちらから圧力が掛かれば紛争地帯にまっしぐらだっただろう。いや本当、カンボジアでよかった。
「あら、お二人はお知り合いで……?」
「白銀さん、僕の
流石に見知らぬ異性にパジャマ姿やらを見せるのは遠慮したいだろう、と配慮して、そういう場合、僕は藤原家に顔を出さないようにしている。顔を出したとしても、夕食時くらいだ。
しかしそれでも、僕と千花のプライベートを知っている貴重な後輩であることは違いない。中等部に顔を出すことも時々はある僕だが、そういう時に素直に接してくれる人間は本当に貴重なのだ。生徒会の男子というなら猶更に。
だから適度に交流はしている。それこそ千花の家に泊って行った翌日、遊びに出る時に付き合う(荷物持ち)することもある。そういう場合、妹が同伴するから、一概に喜べもしないけど。
「むしろウチのが迷惑をかけてないかなと心配です」
「いえ、頼らせて、頂いています」
我が妹を、いつぞやに石上が『雷みたいな娘らしいですよ』と表現していたが、まさにそれ。
断じて他人に自ら喧嘩を売るような娘ではないが、怒った時が超怖い。兄の目からしても怖い。事ある毎に『着火するぞ』が口癖なのも怖さに拍車をかけている。
まあ人望は一応あるのだ。
が、それはリーダーとしての人望ではない。生徒会役員に就任するような人望ではない。水戸黄門ではなく助さん角さん的な、『先生、後は、お願いします』的な意味で担ぎ出される用心棒みたいな存在である。
身長は伊井野ミコより小さいけど、憂さん仕込みの護身術を取得してるのもあって強いのだ。
とか思って会話していると、かぐや嬢の顔が計算高くなった。
将を射んとする者はまず馬を射よ。此処でアピールしておいて、後々会長を相手にする時に味方につけたいという魂胆か。それが読み取れるくらいに付き合いが長いというのもちょっと複雑だが……。しかしあの二人の関係を後押ししたい僕としては、その企みには協力しよう。
「そういえば、かぐや嬢は、末っ子さんでしたか。お兄さんがいるとは聞いていましたが。……年下の後輩と仲良くなる、というのは意外と新鮮ではありません?」
「え“!? ……ええ、そうね、広報の言う通りですね」
内心でガッツポーズをしているだろうか。
ここ数日、生徒会の仕事が出来ていなかった二人(かぐや嬢は風邪ひいてたし)で、こんな企みしてて良いんだろうか、とも思わなくもないが。まあ仕事に支障は出ないし、良いだろう。
「ええと、白銀さん。して、今日はどのようなご用件で?」
「えと、生徒総会の配布資料のチェックをお願いしようと思って来たのですが……」
「でしたら私を頼ってください。私、こう見えて出来る女ですから」
「石上会計石上会計、ちょっとこっちお願いして良い? 確認したいんだけど」
かぐや嬢がアピールを始めたので、僕はソファの背後に座っていた石上を招く。
圭さんも会計だから石上を活用する選択肢はあった。しかしかぐや嬢がこっちを見て『お願いしますね?』と微笑んだのだから、しょうがない。
彼を招いて、不在の間の仕事がどんな進捗なのかを確認する。
『ここ、こういう感じで纏めました。こっちにあの資料挟んで、此処を変えてあります』
『こっち側の部分は広報にお願いする感じで……。数字だけは纏めておきましたんで、追加して貰う感じで』
『ああ、うん、ふむふむ。あ、ここレイアウト変えたんだ。見易いね。流石』
話を聞いた感じ、本当に何ら支障はない。このまま生徒総会が出来るレベルで僕の仕事がきちんと片付けられている。有能さは知っていたが本当に有能だな。
小さな変更点まで
「こんにちー、あー圭ちゃん! こんにち殺法!」
「こんにち殺法返し……! お仕事でお邪魔してます、千花
とか言っていたら千花もやって来た。
女子達の会話には花が咲いていく。挨拶の後、ハイタッチに、夏休みの計画まで色々と。
かぐや嬢が少しばかり羨ましそうな顔をしているのを、圭さんは見逃さなかった。
この辺、御行氏の妹だけあって流石だ。先ほど、資料を見てもらったお礼もあるのだろう。彼女の方から、やや緊張しつつも話が切り出される。
「あ、あの、四宮先輩……。そ、その、もしよろしければ、なんですけれど――ご一緒、しませんか? め、迷惑じゃなければ……」
「迷惑だなんて、そんな」
果たして、かぐや嬢が内心でどこまで喜んでいたのかは不明である。が。
「いいえ、是非ともそのお誘い、受けさせて頂きますね。誘ってくれて有難う、白銀さん」
「かぐやさんかぐやさん! それじゃ会長と被りますよ? そこはもっとフレンドリーに! 名前で! どうでしょう? ――圭ちゃん的にはどうですかー?」
今度は千花がかぐや嬢の背中を押した。そして多分……、千花の奴、これは圭さんが、かぐや嬢との距離を縮めたがっているのも見抜いたな? 二人を応援する形である。
ラブ探偵チカの嗅覚、恋愛のみならず人間関係全般に使えるのかもしれない。流石は僕の嫁だ。
「あ、えっと、……それだと嬉しい、です」
「あら、嬉しい。――じゃあ、圭さんと呼ばせて貰いますね」
かくして僕らの前で、美しい女性同士の友情が形になったのであった。
「ところで、かぐや嬢。あのクルーシュチャって女なんですが」
「あの『チクタクマン』事件について詳しく知って良そうな女ですね? 良い手駒になりました。彼女が何か」
「いや、理解されてるなら良いです。ですが手綱は握るようにお願いしますよ……。毎日こっちに顔出してきそうで嫌なんですよ。主人から念押しして頂けませんか」
「貴方も気に入られているという事では?」
「あの女に気に入られるなら、その労力は全部、千花との惚気に使いたいです」
僕の言葉に、かぐや嬢は『またお可愛い希望ですのね』と告げた。笑わずに。
ちゃんと他人の好悪を慮ってくれるのが、彼女の良いところである。
◆
さて憂さんが家から居なくなる、となると生じる問題が幾つかある。
一つは家事。まあこれは僕や妹が協力してやるようにすればフォロー出来る。憂さんも『私が居なくなった後に家が回らないのは困るので』と既に動いたようで、龍珠組やら、昔のコネやらを駆使して、新しいお手伝いさんを手配に動いている。
一つは護衛。まあこれも……上の人と一緒だ。どんな人が来るかは分からないが、滅多な人を寄越すことはないだろう。同時に色々な工作も出来る人になると思っている。心配はない。
憂さんの尽力で、妹とも、義母とも、仲が良いと言えるレベルに家庭環境は改善された。
「まあ、なので、そのお手伝いさんにお願いしちゃっても良いかなという気もするんだけど」
「少しやってみようということですか」
「いう事です」
元少年兵という経歴故、彼女に運転出来ないものは少なかった。
車(勿論左ハンドルもOK)、バイク、船までは免許を確認済み。多分、工事現場で使われる大型特殊車両も動かせるだろう。嘘か本当かは知らないが『戦車も動かせますよ』と話していた。
あの人ならメタルギアを動かせますとか言っても出来そうだ。
「実際に見ると結構、大きいな?」
ガレージに眠っていた二輪車。所謂、普通二輪車だ。十六歳から免許が取れるバイクである。勿論、僕は免許を取っていない。だから公道を走る事は出来ない。
が、しかし、私有地なら別だ。幸いなことに我が家の庭も、藤原家の庭も、きちんと道路から門扉で隔離されている。壁もあって内部が見れないようになっているし、同時にパーツが飛んだり、他人が事故に巻き込まれることもない。
これは親父が学生時代に乗っていた物だ。
もう数十年物のヴィンテージ品だが、整備はちゃんとされていて動く。
ガレージにはもう一つ『どうやって運転して、どうやって支えるんだこれ』と言わんばかりの超大型バイク(名前は知らないが凄く高い奴)が置かれていて、こっちは実母の持ち物である。一瞥して不可能だと理解したので、素直に親父のを借りることにした。
「えーと、動かし方は教わったんだよ。エンジンを掛けたら、左手のクラッチで馬力を制御して、右手でアクセル。レバーを握るとブレーキ……」
「ふむふむ。座ってみたらどうでしょう?」
「そうするか」
因みに秀知院にバイク通学は禁止という校則はない。誰も乗らないだけだ。どちらかと言えば優雅さ、品性に欠けるという思想が強いというのもあるかもしれないな。
スタンドを閉じて跨る。
サイズが其処まで大きくないので、僕の体格でも十分に足が地面に付く。
足がこう、えーと手がこう、こんな感じか? と四苦八苦させていると、千花が乗ってきた。
まあ普通二輪車は相乗りが許されているので、それは不思議ではない。
だが僕は思わず動きを止める。
「……千花、今気づいた。これ僕、運転出来ないわ」
「はい?」
「いや、背中に超当たる。すっげえ気が散る。安全運転とか無理だこれ」
エンジンをかける前に速攻で頓挫した。中座せざるを得なかった。
千花のサイズが大きいのは知っているが、二人乗りをするとなると、必然、彼女の上半身は自分の背中に引っ付くことになる。そうするともう、なんか凄い。やばい。
前から抱きしめる時に、胸板で得る感覚とは違う。
背中にぴったりと付いた時、すっげえこそばゆいのだ。
ちょっと動くだけで背中に感じるそれが揺れる揺れる。
形を変えてゆさゆさふにふにと。たゆんたゆんと!
くすぐったいで済めばいいが、興奮のあまりブレーキを入れ損ねるとかあり得そうだ。諦めよう。バイクの場合、急ブレーキだと後ろの人の方が、被害が大きいともいうし。
「そーですかー。ちょっと残念ですけど。えい」
「……当たってますよ千花さんや」
「当ててるんですよ、調さんや。ふふふ、背後は取った。お前の命は私が握っているのです!」
「くっ、これは動けない……! 何が狙いだ……!」
スタンドを下ろして、取り合えず、とっさに倒れないようにして、応じた。
その状態で、前を向いたまま固まる。背後を取られた上に、全力で伸し掛かられては振り払えない。無理に払って千花が転がり落ちるとか考えたくないし。
自分からぐいぐいと押し付けてくる。これは完全に確信犯だな……!?
だがその圧力に屈しそうな自分が居た。だって柔らかいんだもん。別に胸のサイズで人を比較したりとかはしないが、千花のこれは間違いなく僕専用の特攻で、僕専用の大きさを持っている。
このままじゃ降りるのにも難儀するぞ。……いや、降ろしてくれそうもないけどね! なんでがっちりと背中から前に手を回して離さないのか。これは難問だ。
「んふふー、さー、なんででしょうか? 当ててみるといいと思いますよー? 正解するまで離れません。あ、私は別に怒ってるとかじゃないですからね? アピールですアピール!」
「……ふむ」
怒らせるようなことをした覚えもない。憂さん関連でもないだろう。
とすると今日あったことだろうか。妹の事は関係がないと思う。圭さんの事……も、別
に千花が何か反応するとは思えない。かぐや嬢の事は、もっとない。
となると、あの
長年の経験が告げている。多分これが正解だ。あの女に関して、千花が何故こうしたのか? 怒っている訳ではない、と言った。つまり……僕がクルーシュチャに取った態度に嫉妬したとか、そういう事ではないだろう。僕は何もしてないし。
考えが詰まったので、思考を変えてみる。
僕が何かをしたのではなく、あの女が僕に何かをした……。僕に何かをした?
何もしてない……いや、されたか。ウインクと投げキス。
「ははあ……。マーキングとかそういう?」
好きな相手に自分の痕跡を、擦り付けることで、誰の所有物をはっきりさせる。
相合傘もこうしたマーキングの一種と言えるが……。
僕の言葉に、千花は『せーかーいでーす』と引っ付きながら言った。
「クルーシュチャさんでしたっけ。あの娘が、なんか嫌な感じがしたんですよー」
「僕は千花からぶれないよ? クルーシュチャも僕
「そんなことは分かってますよー。でも好きな人の傍にいきなり変な女が現れたら警戒します。私が安心したかったんですよー。いーちゃん、あったかいんですもん。……幸せ」
まあ確かにクルーシュチャという女が邪神系という事は、僕とかぐや嬢しか知らない情報だ。
御行氏、石上、そして千花は奴の正体を知らない。何れ話すことになるにしても、今は秘密にしている訳だ。
なんとなく千花の行動も分かる。嫉妬とか不安のような言葉に出来る大きな感情ではない。でも何かと比較したら、確かに其処にある思いはゼロではない、と。
僕が時々、千花に一方的な不安を持つように、彼女も心が波打つこともある。
「……どうせ安心したいなら背中じゃなくて正面から来ればよかったのに」
「新鮮さが欲しかったんですー」
それなら、しょうがないな、と納得した。
◆
結局、それからガレージを出たのは20分くらい後だった。もう20分間、ずーっと延々と千花が背中に引っ付いているだけだったが、別に良い。こういう風に時間を使えるのは貴重だ。
僕も千花からの温かい粒子を貰えたし良しとしよう。チカニウムとでも命名するか。
バイク通学は色んな意味で不可能だと理解したし。これは何時かのように徒歩が無難だろう。
そのまま互いに挨拶をして別れるか、と思ったら、千花はこっちに付いてきた。
「今日のお夕飯をそっちにお邪魔しようかなーって思いまして」
「それは良いけど。藤原家には伝えてあるの?」
「勿論です! ……あんまり時間もないですからね。気合を入れて勉強です!」
その日の晩御飯、千花は決意も新たにエプロンをして、憂さんから色々と手解きを受けていた。
出てきた料理は、まだちょっと雑というか、細かい部分で粗が見えていた。家庭的な技を取得するのに余念がない千花だが、流石に本職の憂さんには負ける。
けれども……僕好みの味を、学んでいるんだな、と理解した。
そういう部分で努力をしてくれる千花は最高だと思う。
味の優劣をつけることは、多分やろうと思えば出来たのだが――。
――こればかりは、比較をする気は起きなかった。
岩傘調からの女性評価
嫁 :藤原千花
身内:優華憂、妹、藤原萌葉、藤原豊実
友人:四宮かぐや、龍珠桃、津々美竜巻、TG部。
協力:早坂愛、マスメディア部。
利用:伊井野ミコ。
論外っていうか消えて欲しい:クルーシュチャ。