色々と端折っていた部分も補完。
予想以上に長くなってしまったので分割します。
時系列はちょっと巻き戻り、春先である。
その日、生徒会室では熾烈な戦いが行われていた。正真正銘の、頭脳戦である。
「ルールの説明をしましょう。まず、基本はブラックジャックです。21、もしくはその数値に一番近い人が勝ちです。――で、まずこのゲームではLP(ライフポイント)を設定します」
此処は生徒会室。人数は五人。全員揃って机に就いている。
僕はTG部で使う
普通、賽子というと6面が一般的だ。各種ゲームではそうじゃない事も多い。
TRPGだと特にそれが顕著だ。ウイルス感染で異能に目覚めた現代能力バトル系TRPGだと10面ダイス。アメリカ開発のダンジョンとドラゴンの名前を冠するTRPGだと20面ダイス。クトゥルフの呼び声では100面ダイスと幅広い。
最近では、インターネット上にダイスBOTが置かれていて、ダイス目を入れるだけで自動で判定してくれるが……、まあ今回はそんな話は野暮だな。
「各自のゲーム開始時のLPは5です。このLPは、減る事はあっても、絶対に増えません。LPが0になった者から抜けていき、最後に残った一人が一位です」
自分の前に置かれた賽子の5の面を上にして置く。
LPが減る事に、このダイス目を減らしていく。相手のLPも分かる。
「流れを説明しましょう……。まず、カードが配られ、数字で勝負が付くまで……。この一連の流れをラウンド(以下R)と数えます。R開始時に、LPが自動的に-1されます。この時LPが支払えなくなったら敗北。脱落です」
「という事は……R数はどんなに多くなっても5回までだな?」
「御行氏の認識であっています。LPは増えないので、必ず5R……もしくは、相当に運が良い勝負では6Rになりますが、それ以上は伸びません。で……」
まずRの開始時に、LPが1減ると同時に、カードが2枚配布される。
この時、カードは裏向きだ。他人のカードを見る事は出来ない。
本場カジノではディーラーも勝負相手だからオープンゲームになるが、今回の敵は自分以外の三人。ディーラー役の石上はカードを配るだけだ。だからクローズドで行う。
「で、まず配布された2枚を見たこの時点で
長机の三辺を囲む形で座る生徒会役員が四人。右辺に御行氏、底辺にかぐや嬢、僕、左辺に千花という順番。石上は上辺に位置取り『なんで僕がこんなことを』と言いながらもカードをシャッフルしていた。
勝負を選んだ場合、自動的にLPがもう1点減る。そして望むだけのカードを引くことが出来る。カードを引いた後、次PLにCorDの選択権が移る。それを繰り返し、全員が行動をした後、ラウンド中に勝負を選んだ相手と数字を比較し、21に近い一人のみが勝ちとなる訳だ。
で、ここからが肝だ。
この勝負で勝った場合、その人は、このRで失う筈のLPを失わないのである。
「例えば、1R目、僕と千花が互いに勝負をしたとしましょう」
「手順1、R開始時です。カードが配布され、互いにLPが4になります」
「手順2、勝負を選んだのでLPを消費し互いに3になります」
「手順3、そしてここで千花が勝った場合、千花がこのRで失う筈だったLP2点は失われず、そのままです。――結果、千花のLPは5、僕のLPは3になって、次Rに移ります」
「なるほど。ドロップをした場合、LPは1点減っただけで、次Rに移行するのですね?」
「流石、かぐや嬢。察しが良くて何よりです。幾つか捕捉をしておきましょう」
ドロップを宣言したプレイヤーは、即座に自分のカードを表にして公開すること。
勝負を挑み、追加でカードを引いた時、バーストをした場合、自動的に敗北すること。
複数人が同時に敗北した場合、どちらも敗北したとして勝者無し。LPは減ったままなこと。
「また両者が同じ数字だった場合、これは山札の
「R開始時にLPが0になった場合、そのRで
「出来ます。飽くまでも敗北が決定するのは『R開始時にLPが支払えなかった時』です。複数人が同時にR開始時に敗北した時も、トップを捲って順位を決めます」
大体全員にルールが浸透したところで、僕はメモ帖に流れを再度記載し、机の上に置いた。
1:R開始。各自はLP1点を支払い、カードを2枚受け取る。LPが支払えなければ負け。
2:勝負or降りるかの選択。勝負を選ぶ者は更にLPを1点支払う。
3:勝負を選んだ者の中で一番の者は、そのRで失う筈のLPを失わない。
4:CorDの宣言、カード公開等は全て親から開始。親は御行氏から順番に左に動いていく。
「後は……そうですね。ジョーカーはワイルドカード。どの数字でもOKです。何か質問は?」
「……いや。ない。ちゃんとゲームになっている。面白いな」
「そうですね。藤原さんが提案したので、どんなトンチンカンなルールになっているかと思ったら……広報の監修が入っています。受けましょうか」
因みにルール的な抜け道は無い。そういう反則は出来ないようになっている。
誰でも勝てる目がある、というのがゲームにおいては一番重要だ。
だから仮にこの戦いで、計算が行われるとすれば
――それは盤上の外側なのである。
◆
そもそもは、石上が例の如く、かぐや嬢の仕込みを発見したところから始まる。
「石上、どうしたんだそのチケット」
「あー、なんかテーブルの裏に貼ってあったんですよ。誰かが隠したんじゃないかなって思うんですが、これ広報の物です?」
「…………ぼ、僕のだね」
僅かな会話だったが、僕は理解した。テーブルの裏にチケットを貼るなんて真似をする奴は、この生徒会には一人しかいないのだ。
四宮かぐや嬢。彼女だ。恐らく喫茶店の話題を御行氏に振り、適当な話題で「一緒に行きませんか?」と誘う魂胆だったのだろう(※実際に彼女が誘う言葉を言えたかは別とする)。
かといって本人に問い正してもしらばっくれるだろう。であれば此処は僕が回収し、それとなく、かぐや嬢に渡すのが一番。そう判断して、咄嗟の機転でチケットを回収した。
だが間の悪い瞬間というのはあるもので、僕がかぐや嬢に密かに渡す前に、千花が気付いてしまった。その場の全員がチケットに意識を向けてしまう。
「あ、それって渋谷にある喫茶店のですよねー? ちょっとお値段しますけど美味しいって有名な……。それ、調さんの物なんですか? 行ってみたいですー!」
「え? ああ……」
僕が曖昧な返事をしている一瞬で、かぐや嬢が机の裏を確認する。
ほぼ同時、バッ! と身を起こし彼女は、こっちを見て口を動かした。
瞳孔が開いて、白目の領域が増えた彼女の目が『何をしているの……?』と殺気と共に押し寄せた。いや僕が悪いんじゃないって。発見したのは石上だって。
とはいえ此処で彼を生贄に捧げるほど、僕も薄情じゃない。
「いや、実は……、これ、ちょっと前から、かぐや嬢から受け取った物なんだ。その時――『行く予定の日に用事が入ってしまって……、勿体ないので、藤原さんと一緒に行ってきては?』と言われたんだけど――ええと、それが一週間ほど前のことなので! かぐや嬢、またスケジュールが変更されて、実は行けるようになったりしてません!?」
咄嗟の言い訳だが、かぐや嬢にチケットを返却する口実としては悪くない。
此処で彼女が『そうですね、今確認したら空いていました。やはり私が行きましょう』と言えば無事に返却は可能だ。其処から転じて『誰かを誘いましょうか』と提案も出来る。
まあその場合! 彼女が御行氏を誘えるのかどうか……! という部分に障害が残るが、しかしそれでもまだマシだ。僕が横取りするよりは良いだろう。
「そうですね、今確認したら空いていました。やはり私が……」
「でも、一度上げたものを返却して欲しいって我儘じゃないです?」
石上が正論を言った。かぐや嬢に10点のダメージが入った!
「ま、まあまあ。普段からお世話になってるし、その位は別に良いよ。むしろほら、かぐや嬢は色々忙しいからさ……。寛げる機会を大事にしても良いんじゃないかな」
「じゃ、自分の分もう1枚買えば良いじゃないですか。貧乏人じゃあるまいし」
石上が正論を言った。僕とかぐや嬢に10点のダメージが入った!
いや、そりゃそうだけどさ……! ちょっと引き攣る僕に気付かず、石上は止まらない。
「大体、喫茶店の場所、渋谷じゃないですか。二枚持って誰を誘うんです? 誘うだけ誘って何するんです? そりゃ岩傘広報なら藤原書記とデート出来るでしょうけどね。副会長が持っていても何の役にも立たないじゃないですか」
更に追撃のストレートパンチが放たれた。
おい石上! そこまでだ! そこまでにしておけ! 止まって! 地雷を踏んでいるから!
一言一言を重ねるたびに、かぐや嬢へダメージが叩き込まれ、同時に殺意が溢れていく。
「それに第一、返して欲しいなら、副会長から素直に言うべきじゃないです? 広報が自然に切り出したみたいになってますけど、それ嘘ですよね。大方、素直に返して欲しいと言いたいのに言えないからと広報が気を使ったんでしょ――」
「じゃあこうしよう! 此処で改めてチケットの所有権を決めるんだ!」
全部が間違っている訳じゃないから
その鋭さをタップダンスで踊る場所に注意する方向に使えって……!
僕は石上が致命傷を負う前に、慌てて割り込んだ。このまま放置しておくとコイツは殺される。それは不味い。色んな意味で不味い。
「そうだな、えーと……何かゲームをしよう。それで勝った人が、チケットを受け取るってことで。で、その後、それを誰に渡してもOK、これなら良いだろ!?」
「ゲームですか。ゲームですね? なるほど、それなら私も文句は言いません! 商品なら遠慮なく使えますー。いやーちょっとだけ複雑だったんですよータダ券貰うのー!」
千花は乗ってきた。まあそうだろう。彼女の性格的に絶対乗って来ると思った。
かぐや嬢も見えない位置でガッツポーズしている。
「(広報ナイス……!)そうですね、……偶には戯れをしても良いかもしれません。そう思いませんか? 会長も」
「……まあ、そうだな」
此処までずっと黙っていた御行氏、石上が地雷を踏んでいたことは気付いていた。
喫茶店のチケットから、かぐや嬢が誰を誘うつもりだったのか、辺りも推測していただろう。最も彼が自分から言い出すと『会長は誰を誘いたいんですか? まさか私を? お可愛いこと』となる為、ヤキモキしながら見守っていたのだ。
奇しくも僕の提案は、その場の全員へと平等に機会を与える事となった。
「渋谷の喫茶店に行ってー、その後はお買い物をしましょうね、調さん!」
「ああ。千花が優勝したら、そうしよう。僕が優勝したら……かぐや嬢に返すよ。千花を誘うのは自分の財布から出した金でやりたいからね」
「やーですねぇもう。照れますよー? あれ、これもう私勝ってます? 勝ってますよね? じゃあ楽しむだけで良いかもしれませんね、えへへへへ……」
「それで、ゲームは何にします? この人数で遊べる……簡単な物が良いですが……」
かぐや嬢の提案に、ふむと考える。
TG部には、四人で遊ぶためのゲームが色々ある。しかしルール説明をしなければならない。加えて経験やコツがモノを言う。それは僕と千花に有利だ。良くない。となると出来る限り全員が知っていて、駆け引きで勝負が出来る物……。
「じゃ、これとか如何でしょう? トランプです」
頭にチカーン☆とライトが付いた千花は、鞄を漁ってトランプを取り出した。
なるほど。簡単で分かり易いカードゲームと言えば確かにトランプだ。単純故に奥が深い。
ババ抜き、七並べ、大貧民、神経衰弱、ポーカー、インディアンポーカー……。
幾つかの候補が各自の頭に浮かんだ後、千花は不敵に笑った。
「ブラックジャックで行きません?」
ブラックジャック。
漫画の神様が描いた闇医者の事ではない。靴下に土砂を詰めて作る即席の鈍器でもない。
Aを1または11。10・J・Q・Kの4種類は10。2~9はそのままの数値。それらの和で21に近かった者が勝つ
彼女の笑顔は挑戦的だった。意味が分からない僕ではない。
「良いね。だけどやるからには真剣勝負、全力だ。
「勿論です。まあ良いんじゃないです?
わざわざ、伊達眼鏡をかけて不敵に笑う。
ピシッとその場にいた御行氏とかぐや嬢に、電撃が走った。挑発だ。千花の挑発だ。それは分かる。だが挑発だと分かっていても、本気になるのは悪くない。
本来は本気を出さない処世術を心がける、かぐや嬢も本気モードになった。
今回は、千花と僕は敵陣営。というかゲーム勝負に置いて、千花とは敵同士の方が面白い!
僕はかぐや嬢にチケットを返したい。そのかぐや嬢は会長とデートに行くためにチケットが欲しい。御行氏はその逆だ。千花は只一人、遊ぶために全力を出すだろう。
ならば僕も受けて立つまで……!
「千花。その言葉、後悔させてやるよ。……カード貸せ」
全員の肩から気勢が上がっていた。伊達に全員、この学園の生徒会役員を務めている訳じゃない。自分の頭脳と能力を存分に発揮しての戦いとなればノリノリだ。
まして賞品が掛かっている。モチベーションも十分だ。
ならば、このカードゲーム勝負が、楽しくない訳がない!
一番にカードをシャッフルしていた千花からトランプ束を受け取る。
彼女のことだ。何が仕込まれているか分かったもんじゃない。
入念にシャッフルし、それを右隣のかぐや嬢に渡した。
彼女も同じようにシャッフルし、最後に御行氏もシャッフル。そして石上に渡る。
「まあ詳しいルール最低とゲームの方法を説明しますよ……TG部で前にやったルールを応用するよ。そっちの方が面白い」
同時に駆け引きや計算も出来る。
全員の注目を集めたのを確認して、僕は口を開いた。
◆
かくしてルール説明が終わり、ゲームが始まる。
第1R開始時。石上から配られたカード2枚を確認した。
(「♠1」「♦5」。悪くないけど……)
このままで勝負した場合、出目は16だ。
此処で山札から引いて来たい数字は5~1までの何れか。トランプの一束は52枚+ジョーカー。1人2枚渡っているから、単純計算をすれば残り山札は53-8=45。その内12345は各種4枚なので合計20。そこから手持ちの2枚を引いて18枚。18/45は……微妙だ。
「
「……私はドロップしましょう。手札を公開しますね」
御行氏は勝負に出た。かぐや嬢はドロップを宣言し、手札を公開する。
「♠J」「♥5」。合計15。確かにこれはドロップが賢明な数値だ。
計算に戻る。
まず、先ほどの18/45は更に確立が減った。かぐや嬢の手元に1枚あったので17/45。
そして御行氏は
という事は、彼の手札は2枚で高めの数値だ。21~18位と予想しておこう。僕の手札で彼に勝つ為には、1ではダメ。2でも怪しい。345、この辺が1枚来ないといけない。5が表に2枚出ているから確率は10/45。そして千花のカードが不明な以上、これより低い可能性も高い。……流石1R目から20%の低確率に賭けるのは無謀だ。
(
「僕もドロップ。カードは 「♠1」「♦5」」
「……
千花は暫し眺めた後、山札からのドローを選択。
そして御行氏と千花、二人のカードが公開された。
御行氏:「♦10」「♥8」。合計18。
千花:「♣7」「♣9」「♥4」。合計20。
「私の勝ちですね……! ふふふ、このギリギリ感……! 紙一重の勝利……!」
「ああ、そうだな。……俺のLPは3だ」
不運だったか、と御行氏は息を吐く。勝負そのものは妥当な結果だった。
千花の手札から推測するに、初手で「♣7」「♥4」があったのだろう。その状態なら何を引いてもバーストせず、数字によれば御行氏にも勝てる。確率的にも40%強。勝負の姿勢は正しい。
(……と、普通は思うんだが……やはりこれは……、いや、少し観察だな)
確信はない。だが推測は出来る。そしてタイミングを計る必要がある。
御行氏のLPは3、僕とかぐや嬢は4、千花が5。まず一歩、千花がリードする。
無言で石上が、カードを配った。
◆
「
今度はかぐや嬢の調子が良いらしい。親番の初手。二枚高めである。
さてどうしたモノかなと僕は手札を見る。「♠5」「♣4」。合計の出目が9。かなり良い。
かぐや嬢の出目が18~21だとして……僕が9、10~K、Aを引けば勝てる可能性は高い。
僕が欲しいのは、A、9、10、J、Q、K。4種類が6枚で24枚。さっき御行氏が「♦10」を引き、かぐや嬢が「♠J」を引いていた。千花が「♣9」。24枚から3枚を抜いて21枚。
かぐや嬢の手札が2枚で高めなら、2枚とも僕が欲しいカードと被っている可能性は高い。
24-3-2=19。山札の残りが37枚だとして、19/37。ほぼ半々。ここは、押す。
「僕も
石上からトップを貰う。手元に来る直前、確認する。
(K、かな……?)
……出てきた出目は「♥K」。合計19だ。……これは、推測が正しいらしいな。
かぐや嬢と僕が、二人とも勝負手になったのを確認したからか、千花は降りた。
「降りましょう。「♦Q」「♠7」。良い出目だったんですけど流石に17で二人と勝負は辛いです」
「俺もドロップだな。悪くはなかったんだが……「♠4」「♣Q」だ」
「では、オープン。私のカードは――」
「♦J」「♥13」。合計20。
これは僕の負けだ。大体の絡繰りは理解したが、それで勝てないこともある。
「危ないですね。中々スリルがあります」
「本番は、ここっからですよ?」
「ですね。そろそろ皆、カードを覚えるのが辛くなってきたのではないでしょうか」
御行氏のLPは2。僕も2。かぐや嬢と千花のLPは4だ。
……この辺からが、本番だ。頭脳戦――及び記憶力、番外乱闘の時間。
純粋なゲームは終わる。
僕に親番が回ってきた。
◆
凡そカードゲーム、トランプを使うゲームにおける必勝法の一つが、カウンティングだ。
山札から出たカードを全部記憶し、次に出るカードを確率的に予想する。ブラックジャックのみならず、ポーカーなどでも使われている。
最も海外のカジノなどでは、このカウンティング、禁止されている場所が殆どだ。メモを始めとする記録は当然のことながら、指降り数える事すらもアウトな場合もある。
しかして人間の思考の中は、誰も覗けない。
本場ではトランプセットが2つ3つと使われることも多いので、このカウンティングは非常に難易度が高いのだが、幸いにもここにあるのは53種類。そして秀才揃いだ。
今までに出てきたカードは18枚。配られたカードは8枚。合計26――半分である。
僕もまだ、記憶を辿れば何となく覚えている。
御行氏、かぐや嬢の二人なら、ほぼ間違いなく記憶していると思う。千花は……怪しい。怪しいのだ。こと記憶力という点において、千花はこの中で一番低いかもしれない。
であるのに勝つ気でいる!
ならば、そこに何か隠れていると思うのは当たり前だ! 伊達に長い付き合いじゃないぞ。
(僕のLPは残り2。というか今、Rが開始してカードを貰って残り1……)
考える。此処で最悪なパターンは、此処で
喫茶店チケットは関係がない。
ゲームで負けるのは嫌だ。癪だ!
勝負をするからには勝つ! それが鉄則だ!
負けて良いと思って戦う奴は勝てない。勝利とは、貪欲に勝つ姿勢を持つところから始まる。
だから僕の選択肢は、勝負して一位を取るか、ドロップするかのどちらかしかない。
だがこういう時に良いカードが巡って来ることは中々ない。
(「♥5」「♠8」。合計13。酷過ぎる)
見えてない9~Kまでのカードは12枚。僕以外の手札と山札の合計が、33枚。
バーストする可能性は3割以上。かなり辛い。
何とか戦える6~8を引く確率も……8枚だから……8/33。それでも戦えるだけだ。負けたら終わる。……ならば無理だな。悔しいが素直に引き下がろう。まだチャンスはある。
「ドロップ。「♥5」「♠8」です」
「……むーん、私もドロップ。「♦2」と「♠K」です」
「俺は
「……………」
かぐや嬢は、止まった。綺麗な指を顎に当てて、考えている。
ここだ。伝わってくれよ!
かぐや嬢にだけ伝わるようにトントントンと三回。机の裏を小さく叩く。
やがて彼女は、何かを確かめるように、静かに
「……バーストです。「♠3」「♣J」……「♠9」。……会長の一人勝ちですね」
「そうらしいな。「♦A」と「♥9」。合計20」
……これは、いけたな?
全部を読み取れるわけではないが、大体の推測は出来る。
かぐや嬢の手札は「♣J」と「♠9」だった。そこに「♠3」を引いてきたのだ。
出し方で「運悪く♠9を引いてしまいました」と演技をしているが違う。僕が三回机を叩いた意味も、多分、分かってくれた。
最初に言った通り、僕とかぐや嬢の席は隣だ。これは千花の隣に座ったのではない。意図的にこの場所に座ったのである。かぐや嬢にチケットを返却する為の、念のための伏線だったのだが……良い具合に回収出来そうだ。
トントン。他の二人に見えない様に、物音を立てない様に、微かに靴先で合図を送られる。微かな蹴り。見ないでも分かる。かぐや嬢からの合図だ。
「参ったなー千花が一人浮きか……」
と目頭を押さえる仕草をして、横目で彼女と目を合わせる。
『千花のイカサマ、逆手に取りますよ』
『そうしましょう。お願いしますね』
…………僕がルール説明をした時。意図的に、言っていなかった言葉がある。
『
普通はしないんじゃないか? と思うかもしれない。
甘い。千花ならする。藤原千花なら絶対にする。
正々堂々した戦いをする、というのと、頭を使って勝負するのは別の話だ。僕だってインチキや反則をしないで戦えるなら戦うとも。だが相手は千花だ。言っちゃ悪いが、彼女のゲームにおける行動は性質が悪い。むっちゃ悪い。
千花が余計な反則をしないなら僕もこんな手は使わない。
だがイカサマにはイカサマを持って対抗するしかない。
ブラフ、演技など出来る限りの事を全力でやって来る。政治家は国民を騙す詐欺師である、という言葉があるが千花はそう言う意味では確かに詐欺師向きだ。禁止されていない事ならセーフですよねとしれっとした笑顔で話して実行する。
無論、バレた時は反則負けだと言われる覚悟で実行をしているのだろうが――。
こういう言葉もある。
『ばれなきゃ犯罪じゃないんですよ! いーちゃん!』
(……しかも千花的に、別にこの勝負、負けても良いんだよな……)
負けようが勝てようが、千花は僕とデートだ。
始める前に会話をしていたじゃないか。『これもう私、勝ってますよね!?』と。
つまりゲームを最大限に楽しみ、引っ掻き回すのが千花の狙い。であるなら反則、インチキ、イカサマなどという禁じ手はポンポン使ってくるだろう。大体ブラックジャックやろうと提案したの千花だし。トランプを用意したのも彼女だし。
残りLPは、僕が1、会長副会長が2、千花が3。
どっちにしろ、此処で僕は千花に勝てないと四位だ。最下位だ。
それは癪だ。一位になる為に今からでも足掻くだけ足掻く!
(向こうは絶対に事故が起きない……。何とかして隙を突くしかない……)
4R目。千花の親番。
運命のカードが配られる。
後半に続くっ!
尚、藤原千花は既に3つくらいイカサマ実行しています。なんて女だ。
1つは「事故が起きない」という原作トランプを使った技。
あと2つは何なのでしょうね?