幼馴染で隣人で許嫁な彼女と惚気たい   作:金枝篇

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副題:VS藤原千花。
イカサマにはイカサマをぶつけるんだよ!


幕間:生徒会役員達は引き当てたい 後編

 「イカサマトランプ」(マークドデック)

 つまりトランプを改造した品だ。特定のカードが他カードより小さかったり、トランプの隅に何らかの模様が付いていて、裏面を見るだけで表が分かるようになっていたりする。手品なんかで使われるアイテムだ。最近の品はかなり質が良く、判別方法を知るにはコツが要る。

 

 千花がブラックジャックをしませんか? と提案して取り出した品は、それだった。

 これは後日の話だ――僕が憂さんの問題で、生徒会を数日離れていた時の話になるが、千花はやはりマークドデックを使って御行氏&石上に勝負を挑み、イカサマを看破されて負けることになる。よりによって神経衰弱を選んだらしい。そりゃ看破されるわ。

 

 (……まあ、千花としては、ばれても良いくらいの精神だろうしな)

 

 千花はこのゲームに負けても良い。そして負けても失う物がない人間が、勝ちを狙ってくる。その強さ、その恐ろしさたるや。

 ……長い付き合いだ。彼女が、マークド・デックを持っていることは知っている。今回のトランプは新しい物だったから、その区別がちょっと付かなかったが、間違いなくイカサマアイテムだ。

 

 第2R、カードを石上から貰った瞬間に確認をした。

 

 しかし、うまい使い方だ、とも思う。

 今やっているゲームはブラックジャック。つまり誰もがスートと数字を意識する。誰もが数字を記憶することに注力し、裏面には注意を払わない。払う余裕がないのだ。

 僕は千花と長い付き合いだから気付けた。その上で僕が合図を出したから、この中で最も優れた知性を持つ、かぐや嬢が『もしや』と気付いたのである。

 

 ……石上は、そもそも余りゲームに興味がない。勝敗は気になっていても、ゲームの勝利権は如何でも良い。だから不正が無いように正確にカードを配るだけだ。だから気付けない。勝負事というかゲームに関しては真摯な態度を取るのが彼だ。

 

 更に言えば、彼は、仮にこのトランプが不正であったと気付いても、言及が出来ない。

 ディーラー役である以上『気付いて欲しい』と祈る事しか出来ないというのが一つ。

 プレイヤーに、かぐや嬢が居るから、恐怖が先立って余計な邪魔が出来ない、というのが一つ。

 

 (それに、マークドデックだからって勝てる訳じゃないしな……)

 

 事故は防げる。次に引けるカードが見えるのだから、バーストはしない。

 ただし()()()()()()()()()()()()()()()()状況を覆せる訳ではない。

 2R目の僕のように、良いカードが手に入っても、相手の手札に干渉出来ない以上、負けはある。

 

 だからこその迷彩になっている、とも言える。

 マークドデックとしての優位性を発揮するには、ブラックジャックでは不相応なのだ。

 大きなイカサマはバレやすい。逆も然り。

 

 勿論、効果はある。次のカードが分かるから事故が起きない。勝負をするリスクを減らせる。確率から次に引くカードを考え判断が必要なこのゲームでは、確定情報は大きなアドバンテージになる。これは間違いがない。

 

 しかし重ねて言うが、これは『勝てるイカサマ』ではない。『負けないイカサマ』だ。被害を極力減らすイカサマ。であれば、千花はもう複数の仕込みを持っていると、考えるべきだ。

 では、それは、何か?

 

 「勝負(コール)。ドローします。一枚下さい」

 

 千花が宣言をした。その眼には眼鏡が掛かっている。勝負前の伊達メガネだ。

 

 (……まあ、あれだよな。多分)

 

 世間には色々な眼鏡がある。そういう眼鏡の一つに、偏光(プリズム)眼鏡がある。レンズ部分が特殊な加工をされている代物だ。外傷や病気で、片目の視力・視界に障害を負った人の為に使われる。かなり強引に掛けた人間の視力を矯正・補正する。

 これを利用すると、本来は見えない角度でトランプを目視できる。推測にしかならないが……彼女はそれで別の情報を確認しているのだろう。例えば見えないインクが浮き上がるとか、より鮮明にマークが分かるとか。そういう感じで。

 

 (勝てるための情報。……となると相手の手札の確認かな)

 

 先も言ったが、このゲームでは己の手札にあるカードの裏面を入念に確認しない。

 ただ同時に、他プレイヤーの手札の裏面は、見える。手で隠れる部分も多いがかなり見える。

 おまけに――千花の座っている位置は、僕の左である。

 

 言い換えよう。ディーラー役の石上から見て、一番の右端である。

 もっと簡潔に言おう。つまり千花は、一番()()()()()()()()のだ。

 

 (手札が見えるなら、捨て札も見えるよな……)

 

 石上は右利きだ。捨てられた札を処理する際、必然、右手でカードの山を右に押しやる。

 カードの裏面から表が見える千花ならば、捨て札が分かる。全部は無理かもしれない。しかし相手のカードが分かり、捨てられた札の何割かが分かり、次カードが分かり事故が起きない。

 この時点でアドバンテージは圧倒的だ。

 

 「……ドロップだ。「♡7」と「♣8」。

 「私もドロップです。「♦7」と「♦8」。

 「勝負(コール)しかないよ僕は」

 

 さて4R目の開始。カードが配布され、LPは0になった。

 つまりここで負ければ次R、開始時に負ける。だが此処で勝てばギリギリ残る。だから勝負しかない。問題は、勝負した結果、負けたら意味がないということだ。

 

 考える。イカサマに対抗するイカサマは、効果的だが一回しか使えない。その一回を引き寄せる為にはギリギリまで自分の実力で状況を推し進めるしかない。

 

 ゲーム終了時に『イカサマをしたな!』と指摘は出来る。今ここで主張出来ると言えばそれもそうだ。しかし敗北濃厚なこの状況で主張する――それは負け惜しみというのだ。

 『負けそうになってから言われても困りますね』と返されれば終わり。第一『イカサマ禁止って言われませんでしたもーん』と主張されればその通りだ。僕はそれを加味して発言した。

 

 イカサマを逆利用して千花をしとめる! その為に、頭を回すのだ!

 

 ◆

 

 (僕の手札は「♦9」と「♣K」。……合計19……。だけど、千花は降りなかった)

 

 彼女のLP的に降りても十分勝ち目はある。というかドロップした方が勝てる。仮に僕が勝っても、僕のLPは1のまま。御行氏とかぐや嬢が1に減り、千花がLP2に減る。

 

 そうなると5R目の開始時に、千花以外の全員がLP0になる。此処で千花が勝負に出て勝てば千花の勝利。万が一ドロップしても、僕・御行氏・かぐや嬢の誰か2人は敗北。自動的に千花は2位以上。カンニングも合わさるので、千花の勝ち筋はかなり明瞭だ。

 

 だけど、それをしなかった。

 ()()()()()()()()()()

 僕の出目19に勝てる確信があるのだ。

 

 これは千花の油断だ。勝てると分かって尻尾を見せた。降りないで勝負に来た。

 

 4R目のカード配布前。残っていた山札の数は、普通に考えて26枚(ジョーカー含む)。

 その内、A+10+J+Q+K+ジョーカーの枚数は10枚だ。

 僕が1枚掴んでいるから、2枚で20以上に出来るのは9枚。

 仮に千花が、26枚の内にある10枚から2枚を引き当てていたのならば合計が20以上。僕には勝ち目がなかった。運だけは如何にもならない。

 

 だけど千花はドローをした。ドローをしたという事は3()()()()()()2()0()()()()2()1()

 

 彼女はバーストする危険を犯さない。彼女は確信をもって引いた。

 千花が確信をもって手札を高くしたと気付いたのは僕だけではない。かぐや嬢もそうだ。彼女の手札の合計は15。バーストの危険はあるが同時に勝負も出来る数値。それをしなかったのは事故を防ぎこのRで脱落するかもしれないという予想以上に、()()()()()()()()()()()と理解したからだ。……彼女は降りられる。僕にその余力はない。

 

 (さて、そうなると、だ。考えられる選択は2つ。1つは……)

 

 一つは単純に、ドローして20または21になった。何か1枚+低いカード2枚という可能性だ。しかしこれ、意外と残ったパターンは少ないのである。

 

 仮に千花のカード1枚がAだったとしよう。

 僕の手札が19だから、千花は11+?+?で20または21を目指す。

 先ほどの前提から10・J・Q・K・ジョーカーはあり得ない。

 加えて、9・8・7・5もあり得ない。これらは既に場に4枚出た(正確には先程、出揃った)。

 となるとあとはもう『場合の数』問題だ。26枚から2枚入っているAを1枚引き、残った25枚の中4枚入っている6を1枚引き、24枚の中5枚入っている3のカード&4のカード&ジョーカーから1枚を引く。面倒くさいので計算はしないが出目は低いだろう。

 Aが仮に10~Kでも同じだ。それよりはもう片方の可能性の方が僕は高いとみる。

 

 その二。千花は手元でカードが20または21になるように操作できる。平たく言えば。

 

 (カードを隠し持っている、すり替えている。……()()()()()()()()

 

 最初にカード束を取り出し、それをシャッフルしたのは彼女だ。

 そもそもの話。あのカード束の時点で、本当に全カードが揃っていたのかは分からない。

 

 本当にトランプ52枚+ジョーカーがきちんと揃っていたのか?

 実は1枚多いとか1枚少ないという可能性はなかったのか?

 ジョーカーが複数枚入っている可能性は無かったのか?

 

 ブラックジャックは、各自が2枚のカードを持つ。それが4人で5R。

 『2枚×4人×5R=40枚』。各自追加で1枚くらいは引かれるが、精々あって各R1回か2回。

 

 つまり、決着時、表に出ないカードが出てくる。

 

 実際、4R目の現在、このタイミングで山札は残り17枚(の筈)。

 僕がドローに動き、5R目に8枚が配布され、残りは8枚。6R目に勝負が流れ込んでも2枚×2で4枚配布。山札が残り4枚だ。この4枚の内訳は不明のままになる。

 

 千花の攻めっ気は、このイカサマを証明しているのではないだろうか?

 

 このRで僕が脱落すれば、6R目以後に縺れ込んだ時、山札が2枚増える。そうなると当然ぶっこ抜きが看破される可能性は減る。山札を握っているのは石上だから、カードが終わる直前まで誰も気付けない。……となると、此処で千花を僕が倒すしかないのだろう。

 

 (じゃあまあ、目には目を、歯には歯を、ということで……)

 

 手札は「♦9」と「♣K」。この時点で合計が19。

 此処でカードを引く事など、普通は、やらないのだが。

 

 「勝負(コール)。ドローするよ」

 

 僕は、素知らぬ顔でカードを1枚貰う。貰ったカードは「♦K」。

 これはバーストだ。

 ()()()()()()()()

 

 「じゃ、勝負しようか。千花の出目は?」

 「いーちゃんが負けるのは間違いありませんよ?」

 

 不敵に笑って彼女はカードを公開する。

 ――「♦4」「♣1」「♣6」。合計21。

 

 「これは……参ったな」

 

 先ほどの推測がおおよそ確定したので説明しておこう。

 千花は予め「♣1」を握りこんでいたのだと思う。恐らく最初は「♦4」「♣6」と引いていた。ここで何かしら3枚目のカードを引き、それと「♣1」を交換したのだ。

 こうすればさも合計で21になりましたよと主張が出来る。

 

 まあ指摘してもしょうがない。

 僕に出来ることは、カードを公開するだけだ。

 出したカードは三枚。

 

 「「♦9」と「♣K」、()()()()()()()()だ。合計21。引き分けだよ」

 

 千花の瞳が、見開かれた。

 

 ◆

 

 「は、はああああ!? ちょ、なん、なんですって!?」

 「偶然てのは怖いね。偶然引いた3枚目がジョーカーだったなんてねー」

 

 そんな馬鹿な、というようなガタッと千花が席を立る。

 同時に微かに(やるわね)とかぐや嬢がほくそ笑んだ。

 

 「どうした千花? 何か奇妙なものを見たような顔をしているけど?」

 「え、いや、だって、……なんで!? だって――」

 「そういう事もあるよ。偶然偶然」

 

 『だってさっきまで「ジョーカー」なんか持っていなかったじゃないですか!』かな?

 

 そりゃそうだ。隠していたのだ。

 イカサマにはイカサマを。ぶっこ抜きには、ぶっこ抜きを。

 

 別に何ということは無い。千花がシャッフルした後、僕もシャッフルをした。

 その際に()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 千花がジョーカーを抜かなかったのは、彼女自身がイカサマを仕掛けたが故の注意だ。

 ジョーカーを千花が出したら、かなり不信感を持たれてしまうしな。

 

 「さ、引き分けの時の処理をしようか。千花からどうぞ」

 「なななな――……くぅっ!!」

 

 僕がイカサマをしたと千花も気付いた。だが指摘できない。言い出したらそもそも千花の方が大きなイカサマをしているのだから、間違いなく糾弾は千花の方に行く。

 

 結局彼女は「やられた」という顔をしながら、山札からカードを引く。

 互いが同じ点数だった場合、山札の一番上(トップ)をめくって出目が大きい方の勝ち。

 

 千花が引いたのは「♥J」。

 僕は無言で、トップからカードを引く――振りをして。

 

 「「♦K」。僕の勝ちだな。……千花はLP1。僕も1だ。全員が横並びだな?」

 

 隠し持っていた、さっき引いた4枚目のK(キング)を、さも今引いたかのように公開した。

 

 これで僕がイカサマをした証拠は消えた。予め持っていたジョーカーを処理し、すり替えたカードも捨て札に行った。後は5R目に何を引くかは運否天賦に任される。

 

 「(……くっ、いーちゃん……私のイカサマを逆手に取りましたね……!?)」

 「(そっちがイカサマするから悪いの。声に出して言わないだけマシだと思いなね)」

 「(ぐぬぬ、良いです、どうせ5R目には私が勝ちますから!)」

 

 さて、残ったカードの確認だ。残りのカードは以下の通り。

 「♡1」「♡2」「♡3」「♡6」「♡10」「♦3」「♦6」「♠2」「♠6」「♠10」「♠Q」「♣2」「♣3」♣10」。そしてこの中の1枚は千花の袖の中に隠れている。

 ここから2枚、最も強い組み合わせを引き当てた奴が勝つ。

 

 「最終ラウンドを始めましょう」

 

 もう一度勝利条件を確認しておこう。

 僕の目的は、喫茶店チケットをかぐや嬢に渡すことである。

 

 そしてカードが、配布される。

 

 ◆

 

 5R目の開始時、全員のLPが0になった。

 後はもう勝負のみだ。此処で勝った奴が1位である。

 

 「このまま勝負(コール)だ。……ドローはしない」

 「そうですか。……私は、そうですね」

 

 親番の御行氏は即座に勝負に出た。かぐや嬢が考える横、僕もカードを確認する。

 

 「♠10」と「♡6」。合計16だ。残ったカードとしては妥協点。

 

 しかし御行氏は強い。単純に計算能力が高いのに加え、引き運が強いのだ。流石、努力で結果を持ってくる男。その不屈の意思はカード勝負にも影響を与える。

 2枚で高いという事は、残ったカードからして多分20か21だ。

 

 後者の場合。彼が2枚で21を作っていた場合(つまり1と10点カードの2枚の場合)、彼に勝つにはもうカードをドローして21を作るしかない。作れるパターンは10+6+3+2のみ。

 僕の場合で言えば、こっから3回連続ドローして全部2が出れば21で勝てる。

 ……無理である。これは負けたかなとせめて何かドローをしてみるか、と考えた時。

 声が聞こえた。

 

 「そういえば、ゲームを始める前に喫茶店を誘う相手なんかいない、と話をされましたが」

 「な、なな、なんですかいきなり!? 僕をおお脅すとかされても」

 「いえいえ、そんなつもりはありませんよ。ただ私も少し傷付いたというだけのお話……」

 

 各々が必死に計算をする中、かぐや嬢が微笑みながら石上に告げた。

 

 僕は思わず反応した。

 この会話、前にもどこかでした覚えがある。

 確か、かぐや嬢にラブレターが届いた時だ。もっと情熱的に誘って欲しい、と言われて――。

 

 「私とて喫茶店に出かけてみたい気持ちくらいはあります。独りだと寂しいというだけです」

 「……それは、誰かを誘いたいという意味では?」

 「いいえ? 『誘われたい』というごく当然の感覚を話しているだけですよ。まさか女王様のようにふるまって欲しいとでも?」

 「……失礼しました。そうですね、誰かが誘ってくれると良いですね」

 

 震える石上を、まあまあと宥めながら、僕は適当に話を合わせつつ考える。

 

 その話を蒸し返すか? このゲーム中に? かぐや嬢が何の理由もなく?

 ……暫し。考えて――。

 こういうことかな、と実行した。

 

 「私も勝負(コール)。ドローはしません」

 「僕も勝負(コール)。ドローしよう。……1枚貰う。此処までかな」

 「げっ……。……わ、私も引きますよー。カード下さいな」

 

 こうして全員にカードが配布された。……長かった勝負も、これで決着と思うと感慨深い。

 各々のカードが公開される。

 

 「俺は「♡10」と「♠12」。合計が20だ」

 「私は」

 

 かぐや嬢は、静かにカードをめくった。

 

 「「()1()0()」と「♡1」。合計21。……私の勝ちのようですね」

 

 「……!?」

 「(おっと千花。黙ってようね)」

 

 彼女の手札を、あり得ないと理解し、僕の顔を見る千花を、僕は笑顔で静止した。

 こうしてブラックジャック勝負は、かぐや嬢に軍配が上がったのである。

 

 ◆

 

 本日の勝敗:四宮かぐやの勝ち。

 ……本当に?

 

 ◆

 

 さて顛末というか、その後の話をしておこう。

 

 当然のことながら、それでかぐや嬢が『一緒に喫茶店に行きません?』と御行氏を誘える筈もない。御行氏の方から『俺と一緒に』と切り出せる筈もない。……だが、この流れは二回目だ。四月にあった、映画館に行くだの行かないだのというやり取りと、全く同じ形である。

 なのでしょうがない。此処でもうちょっと協力することにしよう。

 僕の目配せに、千花は『しょうがないですねー』と肩を竦めて、実行してくれた。

 

 『かーぐーやーさん! じゃあ私が誘いますよ! 私が誘ってあげます。私と一緒に行きましょう!』

 『え? ふ、藤原さん!? で、でも』

 『そうだな。そうすると良い。――ところで御行氏、次の休みは何時? 偶には喫茶店でもと思うんだけど』

 『な、なん……だと……!?』

 

 同性を誘うところから挑戦させるしかあるまい。かぐや嬢、そもそも千花を誘うのだって慣れていないのだ。将来的に、それこそ御行氏に限らず、親しい女性を誘うにも不自由するようでは困るのだ。

 

 そして僕は御行氏を誘った。

 仮に二組の予定がバッティングし、二組が同じ喫茶店に行ったとしても、偶然である。それは偶然であり、彼ら彼女らには一切関係がない話なのである。

 その約束はどうなったかって? 勿論ちゃんと実行したよ。ひょっとしたら世間ではダブルデートというのかもしれないが、仮にそうだったとしても、あの二人は認めないだろう。僕もダブルデートですよとは言わなかった。

 

 「……で、何したんです?」

 「なんのことかなー」

 「何のことかじゃないです! ブラックジャックのことです! かぐやさんのカード!」

 「あれねー」

 

 いや唐突な話題だと思ったんだ。単純な精神的な動揺を誘う意味はない。であれば何か?

 思い出して欲しい。僕から、かぐや嬢に『千花がイカサマをしています』と伝わったことを。

 ならば逆も同じ。

 

 ――まさか女王様みたいにふるまって欲しいと?

 

 あの一言がヒントだ。要するに()()()()()()だったのである。

 『クイーンを持っていますか?』という問いかけ。クイーンは無かったが10は持っていた。だから渡したのだ。僕とかぐや嬢の席は隣。つまり机の下で、カードを交換出来る。

 結果、僕の手札にあった「♠10」と、かぐや嬢が持っていた「♣3」とは交換がなされた。

 

 純粋な技量勝負、運の勝負では、御行氏の勝ちだ。

 僕を利用したとしても、一位を取ったという意味では、かぐや嬢の勝ち。

 イカサマをしたがバレなかった上、結果的にデートになったので千花も勝ちと言えば勝ちである。そもそも彼女は最初から勝っていたともいえるし。

 

 「僕の一人負けってことで良いんじゃない?」

 「……いえ。いーちゃん()()()()()()()? 気付かないとでも?」

 

 千花の目が見つめている。

 僕は思わず黙った。

 

 ……まあ、そうだね。僕が一位になる事は出来たよ。それは事実だ。

 最初の手札では無理だった。だが……かぐや嬢と交換した後の手札なら、勝てたかもしれない。

 

 あの時、残っていたカードは――「♡1」「♡2」「♡3」「♡6」「♡10」「♦3」「♦6」「♠2」「♠6」「♠10」「♠Q」「♣2」「♣3」♣10」。

 

 御行氏が「♡10」「♠Q」。合計20。

 交換後の、かぐや嬢が「♡1」「♠10」。合計21。

 交換後の、僕の手札は「♣3」と「♡6」。追加で引いたのが「♦3」。合計が12。

 千花の手札は「♣10」と「♠6」。合計が16。

 

 残りは5枚。「♡2」「♡3」「♦6」「♠2」「♣2」。

 

 そしてこれも敢えて明言しなかったルール。

 『ドローするカードは1枚じゃなくても良い』のである。

 あの状態で複数を引けば――3+6+3+『ドローの合計が9』を作れる可能性は高かった。それは認めよう。でもそれをしなかった。

 

 「あの時、いーちゃんは1枚だけ追加でドローしました。あれは――私にその戦法を取らせないためですね? 仮にいーちゃんが何も引かずに私に回した場合、私が複数枚を引いて合計21を作る可能性が高かった」

 「そういうこと。千花、1枚握りこんでいたからね。合計21にはしやすかったでしょ?」

 

 残った5枚の中、1枚は千花が握りこんでいた。

 正確に言えば、あの4R目の時に捨てそこなったカードだ。

 それを逆に利用すれば、合計21を演出することは十分に出来た。

 

 だけど僕が1枚を引いたから、千花はそれが出来なくなった。

 千花のイカサマは、山札が無くなるタイミングで露呈してしまう。本来より1枚少ないという事がばれたらアウトだ。あの時、カードを全部()()()()()千花は勝てた。

 

 ……だから僕は、それが出来ないようにした、というだけの話。

 山札を1枚減らすことで、千花はイカサマ露呈を嫌がって、カードの引ききり作戦を辞めざるを得なかった。

 

 同時に、千花のイカサマを僕がばらさない工夫でもあった。

 千花がイカサマしたと表沙汰にしないためには、僕が勝ってもいけなかった。

 

 「そういう意味では、いーちゃんの作戦勝ちです。……悔しい! 負けました! しかもかぐやさんと協力して、かぐやさんを1位に演出して! 私、私を大事にしましょうよ!」

 「ふふふ。そういって悔しがってくれると、頑張った甲斐があった。……それに大事にしてるじゃないか。だからこうして膝枕してあげてるんだし。僕の膝、硬いよ?」

 「好きな人の膝なので気にならないんですー。でも不満ですよ! 千花さんは不満です! 今度やる時は何か個人的なお願いを付けましょう。私が勝ったら私のお願いを一つ聞いて下さい」

 「また唐突だな。良いよ。じゃあ僕が勝ったら僕のお願いを聞くってことで」

 

 この時の僕は『夏休みの千花の時間を貰う』と後日、一学期の期末テストで約束する事になるとは思ってもいない。

 こういう小さな約束が積もり積もって、とんでもない要求になるとは思ってもいない。

 

 「じゃ、ほら、起きなさい。ずっと僕の膝を独占しない。そろそろ足がしびれてきた」

 「はーい。じゃあ交代です。今度は私の膝にどうぞ。あ、あと――」

 

 よいしょ、と机から何やら棒を持ってくる。棒の先端には綿毛が付いている。

 

 「なんかこういうの有名らしいですよー。耳かきリフレとか言う奴らしいですー」

 「……情報社会も善し悪しだね」

 

 藤原大地さん。娘の教育には熱心で、特に情操教育に関しては『過激な物は駄目』と言うタイプである。――だが同時に、僕相手にあれこれと篭絡する技を学ぶのは万穂さんとも話し合った末にOKが出たらしい。その線引き基準は分からないが。

 素直に、甘えることにする。

 

 「じゃあお願いします……。ところで、これさ」

 「はいはい、なんでしょう?」

 「片頬だけじゃなくて、反対側も後頭部もすっげえあったかい。当たる」

 「サービスですよサービス。服越しなら、いーちゃんなら平気です。……脱いだ方が良いって言うなら、ちょっと恥ずかしいですけど……します……?」

 「しないで良い、しないで良い。そういうのはもうちょっと先で良い…………ぁう」

 「眠かったら寝て良いですよー?」

 「……あいよ」

 

 心地よくて欠伸が出た。

 僕は、肩の力を抜いて耳を任せることにした。

 

 と、まあこうして色々あった後、一学期も終わり、僕と千花は夏休みへと突入していくのだが。

 

 今のうちに、語っておこう。

 夏休み。その溜まりに溜まった『約束』は、意外な速さで結実することになる。

 『もうちょっと先で良い』と言いながら先延ばしにしていた言葉の『もうちょっと先』が、まさか夏休みだと、この時の僕は思ってもみなかったのである。




藤原千花のイカサマ
1:イカサマトランプと眼鏡を使いカードをチェック。
2:座る位置を工夫し、1をしやすくする。
3:そもそも最初からカードを握りこんでいる。

岩傘調のイカサマ
1:やっぱり最初からカードを握りこんでいる。
2:四宮かぐやに、カードを横流し。

結論:どっちもどっち。

トランプのスート&数字は、ちゃんと確認してやりました。ミスってたらこっそり修正します。
それでは『男の女の夏休み篇』スタートと行きましょう。アニメの最終話、楽しみですね!

PS:多忙に付き更新ちょっと遅れそうです。気長にお待ちください。
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