幼馴染で隣人で許嫁な彼女と惚気たい   作:金枝篇

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副題:水着!水着!水着!!

以上!


岩傘調は見惚れたい

 今日では、ハワイは「常夏の楽園」として名高い。

 

 ここ最近は、穴場という事で東南アジアやオセアニア、ちょっと変わったところだとアフリカや南アメリカまで観光スポットとして紹介されているが、分かりやすく、値段と質が保証されていて、日本人も経験が豊富と言えばハワイが筆頭に来ることは間違いないだろう。

 真っ白いビーチに青い空、整備された街中、行きかう人々は何れも余裕たっぷり、道路には鶏が歩いている。どこもかしこも観光客で賑わい、治安も徹底的に保障されている。

 

 そして僕は今――。

 天国って本当にあるんだなあ……! と実感していた。

 

 右を見る。藤原家の三姉妹の水着がある。左を見る。我が家の二人と友人の水着姿がある。

 

 色鮮やかな可憐なる少女が六人!

 僕は千花一筋である。が、それはそれ、これはこれ。可愛く魅力的な女性陣を見て目の保養をするのは男として当然であろう。

 

 しかもここは貸し切り! 誰の邪魔も入らない! 例え海が苦手な僕でもこれは最高だ!

 

 「まずはパラソルを差して荷物を置きましょうかー。調君、宜しくね」

 「お手伝いします。軽食なども準備してありますし、この浜はそういう事が出来ますから」

 「はーい」

 

 さて、という訳で全員への感想である。

 

 まずは我が家のブラウニー:憂さん。尚、彼女が同伴したのは『今年で一緒に行けるのが最後になるでしょうから』という理由だった。だから彼女も、今日は水着だ。折角なら一緒に遊ぼうと、特に豊実姉辺りが全力だった。

 

 例え水着姿でも隙無く振る舞う彼女は、ずばり競泳水着である。

 

 上半身から下半身までをストレートに覆うぴっちりとした衣装。引き締まったスポーティな体付き。野生の動物が持つ柔軟さ・軽快さ……、機能美に溢れている。太腿まで覆うタイプでは無い。ビキニラインまでしっかりと分かる。

 

 流石に水着そのままなのは従者として行動がしにくいのか、上から薄いパーカーを着込んでいる。しかしこれが逆にエロい! パーカーの丈が腰より下くらいまでなのだ。結果的に「腰が見えそうで見えない」というギリギリを作っている。

 有体に言えば『パーカーを脱がせて恥じらいをみたくなる!』という固さと色気が同居しているのだ。……実際にやったらCQCで酷い目に合うのだろうけどね!

 

 「人手があると助かるわー。でも頼んだ身で言うのもなんだけど、お手伝いさんに任せちゃえば良いのに。ウチの護衛も手が空いてるわよ?」

 「見栄ですよ見栄。ちょっとは働きたい気持ちってのがあるんですよ」

 

 ほわほわと笑いながらおっとりと指示を出す豊実姉。

 藤原家長女にして、僕の頭が上がらない女性二人目。

 

 彼女を一言で表すなら簡単だ。非常に失礼な表現になると前置きをして言おう。

 

 でかい。

 もう、文句がないくらいにでかい。

 

 爆乳である。「たゆん」ではなく「ゆさり」。ババンとかズバーンと擬音になりそうな程に迫り出している。今まで生きていて豊実姉以上の胸部を持つ女性にはお目にかかったことがない。

 ……いやマジで大きいな……。千花はEだかFだかと聞いたことがあるが、豊実姉の場合もっと上だ。Gとかあるんじゃないか。

 

 真ん中をフックで止めるタイプの水色の水着。

 しっかり包むように胸を隠している。だが谷間まで良く見えるのだ!

 ……上からでも分かる存在感。そして形。巨乳は型が崩れ易いというが、彼女にそれは無い。垂れること無く前に飛び出ている。ロケット型という奴だ。……小学生とかそれ以前は、あれに顔を埋めたことがあるが、仮に今やったならば想像できない感じになるだろう。やる気はないけどな! 想像するのは自由だぞ!

 

 「あんまり見てるとー怒るわよー? 千花が怒るのと、私が『私じゃなくて千花を見なさい』って意味でね?」

 

 おっとり笑って僕の視線を受け流した豊実姉は、パラソルの下、白いベンチに寝そべった。どーんと山脈が出現する。その胸の間にハワイアンブルーのドリンクを抱え寝る姿勢だ。

 

 そして追加情報。下半身は白い大き目の水着で露出を減らしている。……だが! それが! 一層に胸を強調している形にもなっている!

 こう、眼で上半身の曲線を負っていくと、最終的に肌色が多いお腹に到達するのだが……、そのままちょっと下を向くと、形のいいヒップがどーんと置かれている。

 

 豊実姉はカモだ。誰も護衛が居なかったら最初に軟派され、周囲の男がそのまま持ち帰ろうとする、そういうタイプの乙女である(実際に起こりえるかは別)。

 

 「お義兄さん! お義兄さんの目が大人に釘付けですよ? 私も見て下さい! どうです!?」

 「萌葉ちゃんは可愛い。キーちゃんは……」

 

 続いて、義妹を見た。

 

 上の二人が、すらっとした女性のトップと、グラマラスな女性のトップだとする。

 萌葉ちゃんはまだまだ発展途中である。発育は良く、胸の大きさは既に高校生かそれ以上。藤原家の遺伝は強い。だが彼女の最たる魅力は、はち切れんばかりの肌の輝きだろう。

 

 これから成長をすると(きざはし)を見せるハリ。肌荒れを気にする必要もない健康的な真っ白な皮膚。水を弾いていく全身から『これから育ちます!』という予告がされているようにすら思う。普通に黒のスク水だったが、それでも十分に魅力的。これで日焼けでもしたら小麦色の肌……間違いなくより魅力的になるだろう。

 

 しかも水着を意図的に動かして、ちらちら肌色を見せている。

 止めなさい! はしたない!

 

 上二人をホテルに連れ込まれるタイプと表現すれば、彼女はハイエースで連れていかれるタイプだ。僕にシスコンの気はないが、萌葉ちゃんが本物の妹なら――どうなっていたか分からん。

 

 ……対して、その我が妹は、と言えば。

 

 「なに? 妹見て興奮するの?」

 「しない。けど素材は良かったんだなと思った」

 

 我が妹:岩傘響(いわかさ・ひびき)。通称キーちゃん。

 

 血の繋がりはあんまりない。母が消えた後に憂さんが来て、その後にやって来たのが彼女だ。向こうが年頃というのもあって会話は雑だが、別に嫌い合ってはいない。

 

 彼女を端的に言えば一言だ。

 

 ()()()

 

 身長である。あの伊井野ミコより小さい。

 僕はまあ高校生として平均ちょいくらいの身長だし、千花と15㎝差という絶妙な身長差である。その僕とは30㎝以上違う。中学生14歳の平均が155㎝くらいらしいが……彼女は150㎝もない。発育不良と呼ばれかねない低身長である。

 

 そして、その身長と釣り合いが取れたミニサイズである。どちらかと言えば憂さんのようなスラッとした体格なのだが――胸はささやか。尻もささやか。見ていて悲しくなるレベルだ。

 

 ただフォローはしておくと、素材は良いのだ。顔は可愛い。目付きが悪いし口も悪いが、取り繕えば美人。きびきび動くから小さい割に行動が遅く見えない。活動的だが天真爛漫ではない。あるのは元気ではなく体力と気力だ。全身に充実した気合が溢れている、というのか。

 

 ……長い髪をした女武芸者(ただし外見はロリとする)。その手の趣味の人が、思わず捕まえて「くっ殺」させたくなるタイプ。誰が呼んだか『近寄ると火傷する雷娘』である。

 彼女はスク水ではなく白いワンピース側の水着だった。似合っているのは認めよう。

 

 僕がそう告げると「キモい」と吐いて萌葉ちゃんと共に行ってしまった。……褒めなかったら褒めなかったで怒るだろうに、何を言えば良いんだよ、と思う。

 でもこれでも仲は悪くないのだ。彼女が家に来たばかりの頃は、悪態すら付かなかった。悪口を言い敢えるというのは互いに壁がないという意味に等しい。有難いことで。

 

 「皆、準備運動を忘れずにね。ライフセーバーさんも雇ったけどさ」

 

 勿論、女性のな。……おいっちに、さんし、と屈伸とストレッチをして入る準備をする。

 遠浅で足が付くし、基本は水遊びだ。本格的に泳ぐ面子は憂さんとキーちゃんくらい。頼めばオプションでスクーバダイビング体験とかも出来るらしい。やってみるとか話している。

 さて――さて。

 敢えて話をちょっと遠回しにして説明をした。

 肝心要の藤原千花(ぼくの嫁)を紹介しよう。

 

 「……千花さん千花さん、ちょっとこっちに。堪能したい」

 「えー? しょうがないですねー。良いですよ。いーちゃんの性癖は知ってるので。……このまま押し倒しますかね!?」

 「しない。……夏の解放感でそれをしそうな勢いがあるのが困る……!」

 「ふふふふ? そうなんですかー? ……あ、そうそう。宿泊場所……、希望すれば私といーちゃんは二人きりになれるそうですよ?」

 

 言いながら千花は、歩いてくる。

 そのまま、その辺に生えていた樹に、上半身から寄りかかった。背中からお尻を右に向け、顔と、腕と樹の間で潰れた胸部をこっちに向ける。グラビア誌とかでよく見る写真。

 

 そのまま背中に覆いかぶさったら完全に情事になってしまう。ぐぬぬ、性癖がばれてるとやり難い! GWに発見されたR18的書籍の山は、捨ても禁止令も出されていないが、我が家に来るたびに千花はチェックして、僕への攻撃研究に余念がない!

 

 いやまあ嬉しいけどさ! 許嫁が怒らず、むしろ最大限にToLoveる的なアレやソレを実践してくれることを嫌がる男は居ない!

 

 「……観てていい?」

 「その目にじーっくり焼き付けて良いですよ。私は寛大なのです。崇めなさい讃えなさーい」

 「感謝します千花様女神様」

 

 てい! と身体のめりはりを強調するように、此方を艶っぽい目で見る。

 

 水着は白だ。暑い部分と薄い部分があって、薄い部分だと彼女の珠の肌が見える。萌葉ちゃんと豊実姉の良いところを兼ね備えた弾力。プライベートビーチということで彼女は無邪気である。無邪気にポーズを決めるので、その弾力があっちこっちに暴れまくる。

 

 スタイルは勿論良い。

 

 あっちこっち、もう、僕のこの掌の中で、触ったり! 揉んだり! 摩ったり! したくなる。

 僕だって年相応の青い欲望はあるんだぞ!

 

 ……抱きとめた時等で確認しているが、水着になると一層、彼女のナイスバディさが分かる。いつぞや水着売り場に足を運んだことがあるが、あの時と違って解放感があり行動も大胆だ。狭苦しい更衣室ではなく、砂浜と青空の下、ここぞとばかりに見せつけてくれる!

 

 「……いーちゃん、ちょっと目が怖いです」

 「え、マジで? ――あー流石にちょっと僕も、あれだ。興奮する!」

 「ほほう? ほほうほほう。捕食したくなりますかーそうですかー、襲われちゃいますか! ついにへたれを返上して? ……やだもう真昼間から気が早いんですからー」

 

 なにやらくねくねと動き始めた千花だった。頬を手で押さえてテレテレしている。

 此処が二人きりならともかくね! でもここ家族の目があるからね……!

 などとやっていると豊実姉から声がかかった。

 

 「調くーん、お願いがあるんだけど良いかしらー」

 「なんです豊実姉?」

 「サンオイルお願いしたいんだけど良いかしら?」

 「喜んで」

 「あ、じゃあ義兄さん、私もお願いしますよっ!」

 「……萌葉ちゃんも? ……良いのかなあ、年近いとはいえ義妹相手に……」

 

 疚しい気持ちは少ししかない。少しはある。それは許して!

 

 だが、萌葉ちゃんである。……千花以外の女性相手には理性的に振る舞い、且つ絶対に手を出さないと決めている僕だが――昔から何かとお世話になっている豊実姉(ヒエラルキーとして逆らえないと身体で分かっている)なら兎も角、萌葉ちゃんとなるとちょっと抵抗がある。嫌なのではない。ただ、躊躇うのだ。

 

 だってほら、妹だよ? 妹の背中に嬉々としてサンオイルを塗る兄はちょっと、どうよ?

 

 同じ妹がいる身同士、御行氏とは年頃の妹の扱いが大変だと話すことは何度もあるが――向こうも向こうでやっぱり接し方には苦労しているらしい。セクハラにならないかとか、ちょっと注意しただけで反発されるとか、一緒のお風呂に入りたくないとか……。

 

 少なくともキーちゃんは嫌だって言うね。間違いない。

 

 萌葉ちゃんが年上の男子に憧れているのは分かる。年相応で可愛い。僕とはどう足掻いても「義兄と義妹」でしかないと知っているからか、恋愛的な意味では御行氏の方に意識が向いている――と、千花も話していた――が、代わりに『年上のお兄ちゃんに甘える』行動に全力だ。

 あの梅雨の日、傘を差して歩いてった時から今迄、なんというか、距離が近い!

 誘惑に屈するつもりは毛頭ない(断言する)が、そのまま全力で可愛がりたくなる!

 

 「千花―、どうするー、流石にちょっと複雑だぞ」

 「え? んー、むーん、萌葉、萌葉」

 

 呼びかけに、樹から戻ってきた千花は僕の腕を取って、自分の腕に絡める。

 千花は水着で、こっちは上半身にベストを羽織っているとはいえ腕が出ている訳で。なんか物凄い今までよりも直に体温とか柔軟性が感じられて、ちょっと固まる。いや大分、固まる。

 そのまま千花は、僕の手を取って、サンオイルの瓶を握らせた。

 

 「最初は私。次が豊実姉。最後が萌葉です。良いですねー?」

 「分かってる! それでいいよ!」

 

 姉的には良いらしい。まあ千花が良いなら……ううん……じゃあ、今回だけは良いか。ちゃんと釘を刺したし。……すっごい目付きでキーちゃんが睨んでいるけど、別に僕は悪くない。

 受け取った瓶(中身は相当な高級品だろう)の蓋を開け、僕はせっせと美人三姉妹に日焼け止めクリームを塗るのであった。序に憂さんにも。

 念を押しておくが背中以外には塗っていないからな! 唯一千花だけが「前も良いんですよー?」とか笑いながら言ってきたが、これも自制しておいた。二人きりじゃないんだから。

 

 「さてと、それじゃあ紫外線防止も出来たことだし、遊びましょう! それと!」

 

 びしっと千花は僕――ではなくその背後で、ちょっとばかり居心地が悪そうにしている津々美を指差して、忠告するように舌鋒鋭く切り込んだ。

 とはいえ、強いのは言葉だけで、顔は天然ゆるふわな笑顔だったのだが。

 

 「竜巻さんも、そんなに迷惑そうな顔をしてないで一緒に遊びましょーう!」

 

 彼女はそのまま、砂浜へと連行されて行った。

 

 ◆

 

 「父から『海外留学に行け』と話が出たんでス。アメリカまで飛んで行って勉強して帰ってこい、と。……その話、その提案自体はまだ許せるんでスよ。ただ、その背景が、ちょっと」

 

 とりあえず私服に着込んだ津々美は、岩傘家の椅子で、僕と千花の前に座って白状していく。

 津々美の実家が、国家主導のさる研究施設の運営に携わり、父親がその所長というのは聞いていた。その娘である竜巻に、将来を見据えた留学をというのは、割と納得できる話だ。

 

 「人様に言うような話でもないのでスけど、聞いて下さイ。話さないとやってけないんです……我が家の親は、はっきり言えば屑です。肩書は立派ですけど、子供から見たらあんなに嫌な家庭もありまセン。続けて良いデスか?」

 「良いよ。その代わり隠さず全部話せ。なんで真っ裸だったのかも含めてだ」

 「思い出さないで下さい! 私にも恥じらいはありますから!」

 

 恥ずかしそうにした津々美である。頬の代わりに、おでこが赤い。

 悪かった、と先を促すと、彼女は話し始めた。

 

 津々美の父は、有名な科学者らしい。その分野では世界的に名の知れた研究者であり、大学の名誉教授を兼任したり、講演会に招かれたり、書籍を発刊したり、多忙でありながら研究に心血を注いでいる人間なのだそうだ。

 

 だが問題は、それを娘にも強制しようとするところ。

 つまり……一心不乱に研究に打ち込み、結果を出し、名声を高め、大成する。

 それが()()()()()()()()()と思い込んでいるタイプの人なのデス、と彼女は話した。

 

 「我が家が異常だと知ったのは、秀知院に来てからデスよ。初等部に入って『あ、我が家の両親って毒親なんだナ』と理解しました。……そんな父ですから、唐突に切り出したんです。『海外留学に行くと言い、夏休み中に準備して二学期始まる前に出発だ』――頭おかしいでしょ」

 「……まあそれは、反発する気持ちも分かるかな」

 「でもですネ。まだ留学の話、そのものは良いんデスよ。技術開発部に所属してるのも好きだからデスし、色々鬱陶しく思いつつも、確かに科学者や研究者は私の天職だと思いマス。……父は、思考が固定されてるだけで、父なりに娘の幸せを考えてるんデス。まだ」

 

 物凄く迷惑かつ身勝手だが、娘の幸せを考えているのは間違いない、と前置きをして。

 酷く忌々しそうに、津々美は、自分の母の話を切り出した。

 

 「……母は屑デスよ。毒親どころじゃないです。屑でしかないデス。あの女は、父にも娘にも興味はありません。あるのは肩書と、権威と、見栄と、入って来る利益だけ。引っかかった父も父ですケドね」

 

 芸能界で生きていた美人の女優さんだったらしい。しかもインテリ系で通っていたという。

 しかしその実、卒業も研究も全部、裏金や実家の権力で掴み取った物。顔は良いが、性根が腐っていて、本性を知る人間は決して彼女に靡かなかった。

 

 芸能界での地位も盤石ではなく、事ある毎に男性トラブルやスキャンダルで炎上しかける癖に、自信過剰で、自分が遊ばれていることに気付かない。

 人気が落ち始めたのを知った彼女は、その時にあったコネをフルに活用し、津々美の父の元に転がり込んだのだという。

 

 研究畑一筋だった彼は、芸能界で生きていた美人女優の手腕を前にあっさり陥落。結婚した。

 ……そうして生まれたのが津々美竜巻。だが津々美の母にとっては、自分の立場を維持できればなんでも良かったのだ。

 

 良好な夫婦仲なんですよとアピールするためだけの存在。

 『娘は秀知院に通っているんですよ』と話題にするだけの女。

 

 それが津々美竜巻の実母への評価である。

 彼女は、周りから持て囃され、ちやほやされ、褒め称える人だけが欲しいという女だった。

 だから、津々美の父が研究に再び没頭するようになると、さっさと家から離れた。外に男を作って金で享楽三昧。しかし良い財布だから離婚はしない。

 旦那も旦那で、そんな妻でも外見と自慢にはなるし、不慣れな社交界でのコネ造りが得意な――何より、さえない研究者である自分を選んでくれた(と勘違いしている)――妻から離れることが出来ない。

 

 「で。さっきの『海外留学』の話に戻ります。切り出された時、母は偶然、その場に居合わせました。口では『おめでとう』って言ってましたけどネ……。……ハウスキーパーさんにこっそり、あの女の発言を録音して貰ったんデスよ。――『家が広くなって清々する。あの娘邪魔だったのよ。私に文句ばっかり言って』」

 「……竜巻さん、それは……」

 「私はその瞬間にもうキレましたね。我慢も限界デシた。トランクに荷物と金と大事な物だけ全部詰め込んで家出してきてやりました」

 「……それで、我が家に?」

 

 家出して半日位した後で、津々美も一回頭が冷え『話し合うか』と思い直したらしい。

 しかしスマホのメールにはたった一言だけ。

 

 『母さんが心配していたから戻ってきなさい』。

 

 「その場でスマホ叩き割ってやりまシタよ! ……でそれから数日、何もせずにビジネスホテルを借りて学校さぼりました。だから生徒総会は私、見てないデス。――とはいえ、学校に行ってる様子もない女子高生が連泊しているとなると、情報は洩れまス。どうしましょうか……って時に、連絡が来まシタ」

 「誰から」

 「後輩デス。技術開発部に新しく入ってくれた、一年生のイクサさんデス」

 

 ……アイツは技術開発部に入ったらしい。確かに、アイツは得意だろうな。

 

 「『こういう時は広報&書記を頼ると良いよ? クフフ』と笑って言われたので、私は、甘えて良いのかと思いながらもやって来ましタ。そしたら憂さんに出会い『とりあえず、服を洗濯しましょう。ホテルの宿では不自由だったでしょうから、お風呂をどうぞ』と」

 「その憂さんは何処に」

 「私の服のサイズを聞いて出て行きました。買い物デス」

 「……なんで全裸だったん?」

 「何度も思い出さないで下さいって! ……トランクの中から下着を持ち出すのを忘れていたんデス……。急いで着替えようと思って居間まで来たところで、運悪く」

 

 僕達が帰ってきた、と。なるほど、話は繋がった。

 しかし明日から夏休みだ。その間、我が家に滞在させるのは――どうなのだ? と思う。

 思って千花を見ると、彼女は――津々美の手をぎゅっと握って、頷いていた。感極まって全力で頷いていた。涙目だった。世話焼き(藤原ママ)気質、此処に発露せり。

 

 「そういう事なら分かりました! この千花にお任せを! お父様とお母さまに掛け合って、竜巻さんを家に滞在させます! アルバイト扱いで! ハワイにも一緒に行きましょう!」

 「……良いんデスか?」

 「良いです! 私は気にしません! 友達が悲しむ方が嫌です!」

 

 そういえば猫じゃらし騒動の時から、千花と津々美とは仲が良かったな。

 ――僕も、今の話を聞いて野外に放り出すのも気持ちが悪い。

 

 と、こうして津々美竜巻は、藤原家での夏休み臨時バイト(日給2万、衣食住完備、休憩時間及び自室あり、仕事内容:藤原家三姉妹の遊びに出来るだけ付き合う)に参加となったのだった。

 オンオフが大事なんですという主張は何処へやら、バリ島とかまで行くは予想外だったけどね。津々美が同行したことも含めて。

 

 ◆

 

 「元気デスね……。ちょっと休憩します……。インドア派には大変デス……」

 「千花もインドア派だけどね。その疲れは、本当に身体の疲労?」

 「……岩傘さん、そういうところ鋭いですよね」

 

 かくして旅行に付いてくることになった津々美も、当然ながら水着姿である。

 

 津々美竜巻の、普段は白衣に隠れている、そのスタイルが明らかになった。

 研究畑だから不健康そう……と言えばそうでもない。全体的にちょっとたるんっとしているというか、肉感的と言える、むしろ女性らしい体付きだった。

 決して太ってはいない(むしろ体重は軽いらしい)が、あちこちにある「丸み」が、発育を物語っている。胸もほどほど、お尻もほどほど、お腹のお肉も(目立たないけど)ちょこっと。

 

 チューブトップの水着に身を包んだ同級生を前に、僕は複雑だった。

 いや、津々美竜巻という女に関しては、親しみを持っている。仲のいい異性だ。友人として、話し相手として、明白に好意を持っている。だが決して恋愛感情ではない。

 

 「迷惑デシたか、やっぱり。岩傘さん」

 「そーいうんじゃないけど。……いきなり、身内の輪の中にっていうのは、戸惑う」

 

 千花相手には躊躇なく、萌葉ちゃん相手には義兄として遠慮しつつ、サンオイルを塗れるが……流石に「とても親しい」だけの異性に塗る勇気は出てこなかった。

 津々美も僕の手でされるのは『それはちょっと』と思うだろう。だから彼女の分は、千花にお願いした。キーちゃん? 彼女は憂さんがやったよ。

 

 僕の言葉に『デスよね』と彼女は頷いた。

 しんみりはしていない。だがしみじみとはしている。

 

 視界の向こうでは萌葉ちゃんと千花は水と戯れている。キーちゃんは憂さんの指導の元、シュノーケルを背負ってダイビングだ。

 ……津々美は今、そこに一人、ぽんと混ざった異物なのである。

 幾らアルバイトとして付き合っていても、友人であったとしても、輪の中には入りにくい。

 

 「だから津々美も気疲れするんだろう?」

 「その通りデス。……無理しているつもりは無いデスけど……」

 

 『知るか!』と親に文句を叩きつけて勝手に日本から飛び出してきた状態だ。アウェイでもある。加えてこの状況。幾らこっちが気を使っても、それが逆に重荷になりかねない。

 こいつにそういう顔は似合わないんだがなー。

 

 「家庭の問題があるって言われると、解決そのものに助力は出来なくても、津々美()解決する手伝いくらいは、出来るよ。やってやりたいと思う」

 「そうされたからデス?」

 「大層な物じゃないよ。皆そうでしょ?」

 

 僕は色々な人に助けられて此処に居る。

 『助けられた』って言えば大袈裟だけど、人間、大なり小なり、色んな人と関わって影響を与え合う。小さい行動がやがて大きな変化に繋がる。

 僕が広報の仕事にずっと携わっているのも、そうした機会を作りたいがためだ。

 

 ……これは夏休み後半の話になる。

 かぐや嬢が家庭の問題で花火を見に行けなくなった時。僕らは皆で花火の為に全力を尽くすことになるのだが――その詳細は、もう少し後で話すとしても――そこにあったのは、皆の勢いだった。熱意だった。情熱だった。誰かのために頑張りたい、という気持ちだった。

 だけれども、これを自分で出せない人はいる。

 色んな(しがらみ)があって、色んな束縛があって、色々な制限があって。

 それで、本来は楽しめる毎日を楽しめないのは、悲しいと思う。

 

 「良し、とりあえず、なんとなく遠慮がちになってる、この状況を変えよう。来い、津々美!」

 「え? はイ? ええ、わわわっ!?」

 「千花! ゲームやろうぜ。全員でだ」

 

 津々美という女は、もっと不敵に笑っている方が良い。

 手を引いたら、何やら津々美の顔が一瞬、固まってドギマギしていたが気のせいだろう。

 僕の言葉に、その場の全員の視線が集まった。

 

 ◆

 

 「水鉄砲ですか。なるほど。サバゲ―ですね?」

 「そういう事だ。チームに分かれて勝負しよう」

 

 運ばれてきたのは、大小さまざまな銃。何れも全部水鉄砲だ。ハンドガンタイプからショットガンタイプ、長距離型まで色々と。中には水爆弾まである。

 

 あれは夏休みに入ってハワイに行く直前のこと。

 千花に対して悪戯を働いた不届き物が居た。近くの小学校に通う男子三人組だ。彼らはあろうことか! 水鉄砲を千花と萌葉ちゃんに当てて服を透けさせた挙句、スカートの中に潜り込むなんて真似までしやがったのだ!

 

 無論、ギリギリで僕が引っ張ったので奴らに下着が見られることは無かったがな。

 マジになった僕は、即座に憂さんを呼び、装備を整え、ワルガキ三人組を綺麗に倒した。大人げない? 馬鹿を言うな。僕は高校生だから本気になっても大人げなくないんだ!

 

 可愛い許嫁に破廉恥な真似をする奴は、例え小学生であっても許さん。これで大人がやったら権力を駆使して社会的に抹殺していたところだ。

 まあそんな経緯で準備した水鉄砲の山、ハワイなら使えるだろうと手配して持ち込んできていたのである。

 

 「障子紙。金魚掬いとかで使うポイの紙だね。それが破れたら負けだ。舞台はこの島。今、藤原家の皆さんに頼んでバトルフィールドを作って貰ってる。黄色い線から出ないように」

 「ルールは?」

 「チーム戦ね。憂さんは審判。憂さんが出てくると憂さんに20キロの重しを乗せてVS他全員でも、多分一瞬で憂さんが勝つからね。しょうがない」

 

 彼女は静かに微笑むだけだった。

 ハワイでは実弾を打てるというが、彼女の場合シャレになってない。早坂君(早坂愛の男装版)は中東で両親を失ったとか設定があるらしいが、憂さんだって似たようなもんだ。彼女の場合、設定ではなく、マジで渡り歩いていた茶化せない過去だ。

 

 「豊実姉は救護係です。敗れた人は素直に降参のポーズで豊実姉の元に戻る」

 「チーム戦……。……でも五人ですよ?」

 

 僕、千花、萌葉ちゃん、キーちゃん、そして津々美だから五人だけ。

 じゃあ私は遠慮しマス……と言いかけた津々美を手で制して黙らせた。それじゃ意味がないのだ。千花と津々美が同じチームなのが、意味がある。

 

 「そっちにキーちゃんが居るでしょ。キーちゃんと萌葉ちゃんで二人一組。こっちは高校生三人で一組だ」

 「え、お義兄さん!それ大人げないですよ!不公平ですよ!ずるいですよ!!」

 「ずるくない。というかキーちゃんの戦闘能力やばいんだからな」

 「……ふうん。その言葉、私がマジになって良いって意味だよね?」

 「そうだよ」

 

 キーちゃんは、憂さんから、様々な護身術を直伝されている。

 序に本人も運動部だ。

 

 雷、というのは比喩でも何でもない。今は『用心棒の先生』くらいになっているが、その昔の彼女はもう……やばかった! 天性の素質を全力で使って喧嘩していったのだ。降れたら感電という変な比喩まで貰っていた。

 その理由が『友人や学園の皆を侮辱されたから』という全うで、他生徒が味方になるだけの正当性がなければ、真面目に退学処分であった。

 

 「良いよ? やってあげようじゃん」

 

 腰と足首にハンドガンタイプを四つ装着し、水爆弾も釣る下げ、背中に大型サーバーを背負い、手には長距離型を装備。明らかに僕より積載容量が多いのに平然としている。

 こりゃ真面目にいかないと負けるなーと思いながら、僕は千花と津々美を見ながら色々と作戦を考える。

 

 この勝負は敵陣を倒すのは本題ではない。

 

 勝利条件は――津々美を、千花と協力して、心から楽しませてやることだ!

 




※津々美竜巻がヒロインのルートはありません。
しかし、ヒロインルートが何でないんだ!と言えるようなパワーを出せたらいいなと思います。
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