花火大会が2016年開催なのですが、2016年9月9日(会長の誕生日)は木曜日……。
50話「祝いたい」で、かぐやのスケジュール表に書かれている、会長の誕生日は月曜日……。
尚、9月9日が月曜日の日は、2013年/2019年。
これは素直に史実カレンダーに合わせましょう。この辺は多少弄っても日程的な問題はない筈。中秋の名月は9月15日ですし、誕生日前から月見会までの間に、石上の勉強を見たりしていれば矛盾はないかと。そんな感じで宜しくです。
では、どうぞ!
早坂さんと話をして、分かりあったことがある。
私と彼女は似ている。親しい身内の恋愛問題に振り回されるところとか、人知れず武力を用いて問題を解決したりとか、厄介毎を解決する際の手段が自分の腕だったりとか、意外とパワーファイターな所とか(早坂さんはスタンガン使うけど)
――恋愛という物に、羨望を持っている事、とか。
「……早坂先輩とアレの相性が悪い理由が分かった気がします」
「なんです? それは」
「同族嫌悪、みたいな物じゃないかなって」
私の言葉に、早坂さんは『……かもしれませんね』と息を吐いて認めた。
正直、似ている部分は少ない。アレと早坂さんは、四宮先輩との関係は全然違うし、性別やら態度やら対人関係やら、共通点を探すのは難しい。だから『同族嫌悪』と言う言葉が不適切に思えるかもしれない。
だけど違う。あの二人は似ている。
具体的に言えば、大事な人の為に、暗躍することを辞さない所だ。
関係を公言して憚らない
関係を秘密のまま密かに
その一点は、互いに認めざるを得ない程、似ているのだ。
その容赦のなさ、徹底した行動、そして愛情。
だから手を組めるし、相手の行動が分かる。
……まあアレは分かった上で邪魔している部分もあるけど。
だから、その強さに対して、二人は反発しあうのだ。
「私はアレと兄妹。周囲が言うには似てるんだってさ。似てないと思うんだけど」
「あの男より、貴女は随分と可愛いですよ。これからも仲良くしましょう」
ハワイで、友情を結び、私は早坂先輩を、早坂さんと呼ぶ仲になった。
そして彼女経由で、四宮先輩と白銀会長の話も、聞いた。
だから、なのだろう。
早坂さんとアレが似ている部分があって、私とアレが似ているなら。
それはつまり、応援したくなってしまうのも、納得出来るのだ。不服だが。
彼らの恋愛関係を前に、羨ましいと嫉妬をする自分が居る。
彼らの関係を前に、邪険にしつつも手伝いを無視できない自分が居る。
特にそれが、親しい早坂先輩や、親友ら二人に近しい、さる生徒会の先輩方ならば――。
――手伝う理由としては十分だと思ってしまう自分が居る。
私の名前は、
秀知院学園・中等部。生徒会での役職は庶務。
そして、色んな意味で有名なアレ――岩傘調の、妹だ。
◆
「ウィンドウショッピングですよー! 今日は秋物をしこたま揃えちゃいますよー!」
四宮先輩の前で、親友:萌葉がテンション高く声を上げる。
「萌葉、ウィンドウショッピングは品物を見るだけの事を指すんですよ。しこたま揃えちゃったら普通のショッピングじゃ……」
「細かいことは気にしない~!」
四宮先輩以外の同伴者は、萌葉以外に二人。
今回は妹の抑え気味に回る(つもりらしい)、義姉:藤原千花。
四宮先輩が、最も意識をしている人の妹・白銀圭だ。四宮先輩は、彼女を気にしていた。
「お二人とこうして一緒に出掛けるのは初めてですね」
「よろしく、お願いします。四宮先輩」
「楽しみます」
私は静かに、しかし礼儀正しく頭を下げる。
噂は、高等部にも伝わっているだろう。
広報:岩傘調の妹であり、萌葉・圭の友人であり、中等部では知らぬ者なしと言われる『歩く雷』。気が強い以上に身体能力が桁外れ。不良ではないが不祥事に巻き込まれることも多く、その大半が暴力沙汰というとんでもない娘である、と。
まあ、否定はしない。出来ないだけの実績がある。
別に自分から飛び込んでいくつもりはないけど、気付けば巻き込まれているのは本当だ。
とはいえ私が、本当に己の為に拳を振るう事は滅多にない。記憶の中では数えるほどしかない。
大抵は問題解決の為に――それも義理人情や、不条理の為に――働き、縁を大事にするが為。その在り方故に、時代劇で言う『先生、後はお願いします』的な用心棒スタンスを確立している。
自分で言うのもなんだが、普段は大人しいし、成績も高レベルを維持している。暴力を使わないでも解決できることは、親身になって解決に奔走するよう心掛けている。
時々すっごい目付きになる以外は、長いまつげを持った瞳も、小さな口も、とても愛らしい――とは、親友二人の話。
だから意外と、慕われている。
というか、スキャンダルを探られても揉み消して貰えるくらいには、人気を作った。
コネを全力で磨いて、コネがあるからこそ全力で暴れても良いように手配している。
暴力事件を起こしたという先輩の話を聞き、二の轍を踏まない様に注意も受けた。
その辺、どう見ても兄とそっくりだ、と言われた。
それが気に入らないが、それが私だ。
「やっと合った日程です。大事にしましょう」
「人が多いので一列になって進みましょう! さあいざショッピングにー!」
このウィンドウショッピングは、元々夏休みに計画されていた物だ。
ハワイの天文台に足を運んだり、花火大会直前まで京都の実家に監禁されていたりと、スケジュールの多くが狂い、後回しにされていたイベント。二学期の今になって、ようやっと実施と相成った。
奇しくもそれは、白銀御行さんの誕生日、六日前である。
本日は9月3日土曜日。若干暑さは残る物の、秋の訪れを感じ、出かけるのが苦ではない空模様。
「かぐやちゃんー! 一緒に歩きましょうー!」
「え、ええ」
さて、どうやら四宮先輩は、萌葉が苦手な様子だ。気持ちは分かる。
彼女は悪い子ではない。が、ストレートな物言いに加え、愛情が微妙に捻くれているのだ。
長女:豊実さんが奔放、次女:千花
「圭ちゃん可愛いよね。ウチのクラスの男子は勿論だけど、女の子からもすっごくモテるんだよ。努力家だし、プライドは高いけど曲がったことは大嫌いで、何というか汚れてないって言うか――」
にこにこと笑顔で話した後に付け加えられた言葉に、若干の戦慄を覚えたほどである。
「ホント徹底的に汚したくなるタイプっていうか、一生地下に閉じ込めて監禁してあげたい感じ!」
「萌葉、四宮先輩が困ってる」
「い、いえ、私は大丈夫ですよ?」
「ほらほら大丈夫ですよ~。流石、萌葉の大好きランキング食べちゃいたい部門第一位!」
「他部門が何なのか知りたい」
「閉じ込めたいランキング、食べちゃいたいランキング、抱いて欲しいランキング、着飾らせたいランキング、えーと後色々です! 因みに響ちゃんは『くっ殺させたいランキング』1位です」
「それ、誉め言葉……?」
面白い会話ですね、と四宮先輩が笑った。
冷静に
どんな苛烈な性格かと思ったが、どちらかと言えば抑え役でフォロー役。困っている口調だが、その口元が楽しそうだったのが、意外だった。そう言われた。
「萌葉はこう……他人を依存させるのが好きなんです。豊実さんは甘えるのが得意で、千花義姉さんは甘えたり甘えられたりしていますが、萌葉は思い切り『甘えさせたがり』ですから。あの兄の反動で」
藤原家と岩傘調の関係はこの場に居る誰もが知る話。
豊実さんは、年下の
対して、藤原萌葉は、岩傘調に『甘やかされている』。彼は距離感には注意したまま、
そう説明をした。
「本当に、あの兄がご迷惑をおかけしています」
「それなりに関係は良好ですし、色々と助けられていますよ」
割と素直な本音である。
本当に助けてるんですか? という目を向けると、彼女は苦笑いして教えてくれた。
あの広報は有能で、使い勝手が良く、適度に場を混乱させるが、基本的には味方。
藤原千花と惚気る為にはこっちを利用したり、色々と面倒事を押し付けることはあるが、そこは許せる範囲だ。あの二人がのべつ幕無し、ひっきりなしにいちゃ付いているからこそ、此方の行動が目立たないというメリットもある。
花火大会の日に、理解したそうだ。
「……そうですか。迷惑じゃないなら、良いです」
「もう響ちゃんは固いんだから~。もっと笑顔なら人気出るんだよ~?」
「私は人気取りの為に笑顔を浮かべられるような性格してない」
「またまた、そんなこと言って。知ってるよー? 響ちゃんはキュート属性だもんねー」
「……男子の妄言、真に受けない。」
私がキュートってなんだ。圭がクール、萌葉がパッションなのは分かる。
でも私もクールで良いじゃん。
萌葉を巧みに離し、姉の方へと押し付けた後、私は四宮先輩の方を向いた。
「今日の目的は、圭で、良いですか。白銀会長の誕生日のための情報を聞くと聞きましたが」
「……その出所は広報ですか?」
「いえ、早坂先輩です。仲良くさせていただいています」
小声での問いかけに、先輩は若干躊躇った後に、頷いた。
本日の先輩の狙いは、白銀圭から、御行への誕生日プレゼントに関して情報を聞き出すこと。
しかし。だが、しかし、この場には何かと苦手な藤原萌葉が居り、白銀圭の隣には藤原千花が陣取っている。果たして上手に、彼女と話をすることが出来るのだろうか……?
「では、自然と先輩と圭が一緒になるように、やってみます」
「頼りにさせて頂きますね」
かくして。
ここに四宮かぐやと岩傘響、二人のタッグによる勝負が幕を開けたのである。
◆
ケース1:ゲームセンターにて
「響ちゃん響ちゃん、ゲーセンですよ! クレーンゲームの腕を見せて下さーい!」
「……要望は?」
「ん~、あのシャンタっくんで!」
藤原姉妹が指さした先には、可愛い(?)ぬいぐるみ。
円らな瞳と、カバの顔、蝙蝠の羽が生えたような謎の生き物だ。
任せなさい、と腕捲りをした私は――財布を確認して、先輩にお願いする。
「……細かいのが、ない。ちょっと誰か、両替をお願いしても」
そこで、ちらりと四宮先輩を見た。
お膳立てすれば頷いてくれた。では私が、と手を挙げる。
「……四宮先輩、両替の仕組み、分かりますか。圭、一緒に行ってあげ――」
「じゃあ私が教えてあげますよん!」
圭にお願いを、と言おうとした瞬間、千花義姉さんが先輩を引っ張って行ってしまった。
思わず、無言になる。
即座に戻ってきた二人の手には、百円玉が二十枚と、千円札が五枚。
どうも一万円を両替して来たらしい。勿論、これだけの軍資金があれば、余裕である。
空間認識能力には自信がある。数少ない操作で瞬く間に人気キャラを確保していく。
「……じゃあ、はい、これどうぞ。シャンタっくん、ニャルちゃん、クーちゃん、ハスター君、レアキャラのアト子さん、そして最高レア擬人化シャンタっくんまで勢揃いです」
落ち着けと自分に言い聞かせて、クレーンゲームに集中。余計な雑念を追い払って筐体に向かったおかげで、次々と景品が手元に落ちてくる。
ほどなくして、紙袋に全部入りきらない程の、大量のぬいぐるみの山が生まれた。
これ、欲しいですか? と彼女は先輩の方を見たが、趣味では無いらしい。
藤原家に全部寄付だな。持ち歩くのが大変なので、そのままコンビニに行って郵送となった。
その後も、幾つかの筐体を回る。
色々と工夫は凝らしたのだ。
例えばプリクラ。圭と先輩を並ばせてみようと、私は頑張った。
ところが。私は、この中で一番身長が小さい。最前列に固定されてしまった。
こうなると注文は出し辛い。圭と一緒、四宮先輩と一緒、のどっちかの注文ならまだしも、両方に指示となると難易度が上がる。
結果的に中等部三人が前に、高等部二人が後ろとなる。失敗だ。
例えばダンスゲーム。足でステップを踏むアレだ。
あれをやらせてはと思ったのだが、ズボンを穿いていたのは圭と私だけ。
他三人が挑戦しては足が見えてしまう。流石にそれは淑女としては無理なお願いだ。
皆の要望で難易度:最上級を楽勝で踊る。労って貰ったが、欲しいのは私への称賛ではない。
――いや、これじゃ私と圭の二人が仲良く遊んでるだけだ!
――くっ、藤原姉妹が邪魔です!
そうじゃない、そうじゃないんだ、と私は思った。四宮先輩も思っていた。
『響ちゃんのスーパープレイ見せてよ~!』と萌葉から注文を受け『AC版死ぬがよい(二周目)』を相手に気合避けしながら、臍を噛む。
そうこうしている内に、ゲームセンターからは退出。お昼の時間となった。
因みに黄流が限界だった。
ケース1:ゲームセンターでのかぐやと圭での交流:失敗
「すいません、四宮先輩。ゲームセンターで狙った私が間違いでした……」
「気にしないで下さい。あの二人の自由さは今更ですから」
◆
八年も昔になる。
憂さんが岩傘家に入り、ペスが藤原家に飼われ、その後で私が一番遅くに、あの家に入った。幸いにも秀知院初等部の入学式にギリギリで滑り込み、今に至るまで特に不自由なく育っている。
……実を言えば、岩傘の家に住む前に、アレとは出会っていた。
そして非常に憎たらしいことに、兄と判明する前は、ちょっとばかり距離が近かった。
その反動が強く出ていたのだ。
『なんというか、響さん、もう少し打ち解けても良いんだよ?』
『いえ、良いです。仲良くする気はないですから。調さん』
岩傘家に来たばかりの頃、私の態度はそんな感じだった。
『別に食事とか必要ありません。私の分は要らないです。買います』
『学校には行きます。成績も維持します。だから関わらないで下さい』
『送り迎えとか、部活動とか、気遣うのは止めて下さい。……鬱陶しいです』
私が勝手に家の中で、壁を作っていただけと言えば、そうなのだが、他人行儀だった。
だけどしょうがないじゃないか。何せあの当時、私は名前しか知らない父と兄の元に、あの母から放り出されて放り込まれた状態。接し方は分からなかった。関わり合いを恐れていた。
辛うじてコミュニケーションを取れるアレが、実の兄だと判明して、余計に行動し難かった。
だから私は距離を取った。
関わらない様にと距離を取った。
家でそうなのだから、学院でもそうなるに決まっている。
ところが、だ。
それをアレは強引に打ち破った。
『響さん。……いや、響。それは止めなさい。
憂さんの事を酷く後悔していると知ったのは、うんと先の事だ。
『甘えるのが下手ならそれでも良い。笑うのが得意じゃないのも良い。だけど、感情を殺すのは無しだ』
そう懇々と私に言い聞かせた。
暫く無視していれば諦めるかなと思ったが、諦めなかったのだ。
己一人の力じゃ無理だと分かると、アレは手管を駆使した。
まず学院で孤立しかけていた私の傍に、萌葉を派遣した。どうもあることないことを吹き込んで、私がただコミュ力が低いだけなんだと信じ込ませたらしい。その日以後、萌葉は私の傍から離れることはなく、それが発展して白銀圭も傍にいるようになった。
憂さんを使って私の世話を焼き、かといって甘やかさない程度の距離感を上手に保った。気遣いの鬼だ。
そして終いが、千花義姉さんだ。
『私の学年にも居るんですよー、氷みたいに冷たいんだけど、本当は優しい女の子が!』
『だから響さんには、そんな風になって欲しくないんだと思いますよー』
その
……どっちが先に諦めるかの勝負になって、根負けしたのは私の方だ。
アレの前で、私は声を張り上げた。
『どうして放っておいてくれないの!?』
『私は独りが良いのに! 傍に誰もいないで良いのに! どうせ皆――』
トラウマから溢れた、私の言葉を遮って。
アレは意地悪く笑った。
『そんな風に怒った顔を見たかったからに決まっているだろ、
……その日以来、私は、怒った顔は出せるようになった。
アレの掌の中に居るのが、気に食わない。
◆
ケース2:喫茶店でのランチタイム
女子高生が五人。それ程の量は必要が無いので、御洒落な喫茶店に足を運ぶ。
考えるべきは、白銀圭の懐事情だ。
――会長と同じで、無駄遣いはしないタイプですから。
――余り高い物は食べませんし、食後のコーヒーやデザートも頼みません。
目と目で会話し、頷きあう。
白銀家のお家事情は知っている。だけどこの点に関して、何かしらの援助を考えたことはない。
……友人だ。初等部の最初はちょっとだけ喧嘩もしたが(私が大体悪い)、今では親友。
そんな彼女と金銭のやり取りをして関係を破綻させるのは御免だ。施しなんか以ての外。金は友情を壊す。だから奢ることもしない。考えたこともない。
とはいえ無理に高い店に連れ込んで彼女を苦しませることも出来ない。
この辺の匙加減、かなり難しいのだが、萌葉はナチュラルにこなしている。今回の店のチョイスは千花義姉さんだ。この辺、藤原家の血だと思う。
「響ちゃんのプレイはやっぱり頭おかしいと思うんだよ~。人間卒業してると思うよ」
「いや、あれくらいは、出来る人は多いから。私より凄い人、居るから」
「でもSTGを極めて、クレーンゲーも極めて、ダンスゲーも満点叩きだせる人は居ないと思う」
「圭まで。別にあれは上手いんじゃなくて……動体視力とか反射神経とか、体力のお陰だよ」
「中等部のくせに登山部エースで、海外遠征でポーター出来るって時点で比較できない!」
酷い言われようだ。私はただ憂さんを見習って鍛えただけだぞ。
え、それでアカラサマにニンジャな動きをするのはおかしい? ……おかしいかなあ?
早坂さんだってやってるじゃん。スニーキングミッション。あれと同じだよ。
「御馳走様でした。……萌葉、そのケーキ、一口、貰って良い?」
「美味しいです~どうぞ~」
パスタを食べ終わった私は、既にケーキとジュースに取り組んでいた萌葉に声をかけた。
尚、圭は水だけだ。無駄遣いをしないで最低限のサンドイッチセットで済ませている。
なので萌葉から一口を貰う、序に、圭にも話を振った。
「……あ、甘酸っぱさが美味しい。圭、一口食べない? 美味しいよ」
「良いよ。私は頼んでないし」
「知ってる。だから一口、ね?」
私は余り甘い物を食べない。ウェイトレスさんに頼んで、フォークは入手済み。
圭に差し出す。
暫しの逡巡の後、圭は小さく口を開けて、はむっと咥えた。可愛い。
「あ、響ちゃんずるいですよ! 私もやります!」
「私も~!」
「で、では私も――」
千花義姉さんが乗っかり、萌葉が乗っかった。そして最後に四宮先輩が乗る。
よし、これなら圭と四宮先輩の距離を縮めることが――。
「……あの、そんなには、良いです。恥ずかしいので」
え、そこは待ってよ、と思った。せめてこう、四宮先輩との関係を良くする為にも、先輩からの一口は受けては貰えないかなと思うのだ。目で訴えたが、圭には通じなかった。おのれ。
え、そこは待ってよ、と思った。せめてこう、四宮先輩との関係を良くする為にも、先輩からの一口は受けては貰えないかなと思うのだ。目で訴えたが、圭には通じなかった。おのれ。
嫌がっていることを無理やりするわけにもいかない。
露骨に二人の距離を狭めるのも、なんか無理やりするみたいで嫌だし。
「え~、響ちゃんの『あーん』は貰っても他の人のはダメなんですか~?」
「言い方。言い方、変えて」
はっと背筋に嫌な感覚がした。見れば四宮先輩が、こっちを見ている。ちょっと黒い目で。
――結局、私と圭が仲良くしてるだけ……!
いかん、どうしよう。
ま、まだ時間はある。慌てる時間じゃない。言いながら私は頭を捻ったのだ。
ケース2:喫茶店でのかぐやと圭での交流 ―― 失敗
◆
その後も、どうにも上手くいかない。
毎回毎回、邪魔が入るのだ。非常に、邪魔が入るのだ。
いや藤原家の皆さんを邪魔というのは心苦しいが、しかし邪魔だ。もう圭の左右を完全に封じている。辛うじて私が時々、千花義姉さんと交代出来るが、四宮先輩と圭との間が取り持てない!
「……ごめんなさい先輩、私では力不足のようです」
「努力してくれたのは、褒めましょう」
悪戦苦闘して、三時間。
一同が服屋に足を運んだ時には、私は見えない場所で肩を落としていた。
藤原姉妹が強いのは知っていた。邪悪な千花義姉さんに、倒錯的な萌葉だ。私のような一般人の思惑は簡単に翻弄される。これはもう、余計なことをしないで、普通にした方が良いんじゃないだろうか。
ほら、工夫するよりもシンプルな方が成功するって言うし。
「……新聞配達、450件か……」
耳
藤原姉妹は平然としているし、四宮先輩に至っては『いつもは家の人間が買うから良く分かりません』という顔をしていた。
私は綺麗や清楚な服より、動きやすい活動的な衣装の方が好きなので、荷物持ちだ。
萌葉も圭も、私の事を凄いというが、でも私は圭が一番凄いと思う。
努力家で、曲がったことが嫌いで、だけど他人への心配りを忘れず、穢れていない。
親友として、彼女の事はかなり好きだ。萌葉? まあ親友だけど、雑に扱えるのも友情だし?
――あー、そうか。アレが白銀生徒会長と仲が良いのも、だからか。
なんというか……一生懸命な人を応援したくなるのだ。努力すればそれが実って、全身全霊を掛けて行った事は必ず成し遂げられ、最後まで頑張ればきっと何かが掴めるという、ロマンチスト。
なんというか……一生懸命な人を応援したくなるのだ。努力すればそれが実って、全身全霊を掛けて行った事は必ず成し遂げられ、最後まで頑張ればきっと何かが掴めるに違いない、そうじゃないと嫌だという、ロマンチスト。
――響ちゃんはキュート属性ですもんね
……私がキュートと表現されるのは、そこかもしれない。
いや本当、認めるのは業腹だがな!!
などと内心で吼えていると、携帯が鳴った。
相手を確認して、取り出して、口に当てる。
「もしもし? 何の用? 今忙しいんだけど。燃やすよ?」
『かぐや嬢と圭さんとの間を取り持とうとしてるのが見えるから、助言でもしようかなと』
思わず黙る。
おい、今どこだよ。
『その広場からスタバ見てみ。居るから』
思わず周囲を見ると、確かにコーヒー店の窓際に座る眼鏡が見えた。
ご丁寧にスーツ姿。傍らには書籍の紙袋。どう見ても外回り中に休憩している会社員だ。
あの野郎、密かに観察してやがったのか。
『まさか。偶然偶然。この辺をフラフラしてればニアミスするかなと思ってたけど』
「……簡潔に何やってるのか説明して?」
『千花が居ないから偶には一人で遊びに出たんだよ。僕だって一人で本屋を巡りたい時くらいある。本当は秋葉原か中野にでもと思った。が、出る前に千花の行き先を聞いてたからな』
「ストーカーじゃねえか! ……なんでスーツなんだよ」
『親父の代理で休みの日にあれこれ頼まれてる。偶には肩通しておかないと慣れない。……
色々理解したところで、私は本題を切り出した。
「で、私に何を助言してくれるの?」
『制御しようとするのが間違いなんだ。『かぐや嬢と圭さんを仲良くさせたいので少し二人だけの時間を作ってあげてみませんか』と素直に言いなよ。不足なら僕の名前を出して良いぞ』
「そっちは要らない。……良いよ、分かった。助言は受け取る」
私の返事に、アレが小さく笑ったのが分かった。
「――何? 私が助言を聞くの不満なの?」
『いや。昔みたいな反発でもなければ、怒る一方だけじゃない様子があって、安心してる』
「黙れ。燃やすぞ」
遠目からでも、アレがにんまりとしているのが分かった。
……私だって、少しは成長をしている。
無関心と拒絶から、怒りを出せるようになって。嫌悪も出せるようになって。今は素直な言葉も言えるようになった。それもこれも変化が悪い。
特に千花義姉さんと一緒に居る時、こっちが不満そうな顔をしているのを許さない。
憂さんが家を出るとか、ハワイでの色々とか、トラブル続きで、嫌でも私も成長させられる。
四宮先輩は『二人が居ると素直になれる』と話していた。
私も同じだ。すっごい認めたくないけど。
「分かったよ。――失敗したらそっちが悪いって四宮先輩に言うから」
『分かった。良いよ。そうしな。それと』
「なんだよ」
『お前が被害者になるとは思ってないが、お前が加害者になる可能性はある。気を付けろな』
「素直に『早く帰って来いよ』って言えっ!」
感情のままに通話を切った。
重ねて何度も言おう! 私は! アレが! 嫌いだ!
◆
結局、アレの助言通りに藤原姉妹に話をしたら『なんだ、そうなんですか』と頷いてくれた。
四宮先輩に悟られないようにささっと千花義姉さんが動き、圭を四宮先輩の横に誘導。萌葉ちゃんは不自然にならないように、我儘を言うふりをして、私達を二人から引き離す(演技を)した。
「なんか考えてるなーとは思ったんですよ」
「千花義姉さん、……もしかして邪魔してたんですか?」
「まさかー。でも響ちゃんが頑張ってる姿を、もっと見たかったのは本当ですね」
にこやかだが、義姉は、邪悪だった。
圭は無事に四宮先輩の横に座り、名前で呼ぶやりとりをしたり、クリスマスの密かな資金調達の情報を流したり、転んだ少女にハンカチを渡してあげたりと交流をしていく。圭は圭で照れているようだが、当初の目論見は達成できたと言える。
恐らく白銀会長へのプレゼント話も出来たと思われる。
「さっき其処のコーヒー店……って、気付いてたんですか。それも!?」
「鎌をかけただけです。その様子だと本当に居たんですね。今はその辺の本屋ですかねー」
思わず私がした返事に、義姉は、今度こそ「してやったり」という顔で微笑んだ。
「響ちゃんも可愛いですね。可愛い妹が増えて私は嬉しいです」
「な、なななな」
「それに、いーちゃんとも仲良いってのも確認出来ましたから。もっと安心しました」
何も言えない私だった。
結局それからは延々と、私は千花義姉さんに振り回され続ける。
最終的に別れ際、『また一緒に遊ぼうね!』と挨拶――という名でハグをした時――まで、それは続いたのであった。……なんか凄いサイズの暴力を感じた。羨ましくなんかないぞ。
さて、そんなこんなで無事にショッピングも終わったのだが。
「よ。無事に終わったようだし迎えに来た。荷物も多いだろ。タクシーは停めてあるぞ」
四宮先輩や圭と別れて、私と藤原家姉妹だけになったタイミングで、アレが顔を出す。
そりゃあ家が隣なのだから、帰る方向と時間は一緒だし。千花義姉さんとやり取りすれば、合流は難しくない。難しくないが、余裕綽々な態度なのが、腹立たしい。
「お義兄さんだ! 出迎えてくれるとか嬉しいでーす」
「はいはい。沢山買ったようだし運ぶよ。楽しそうで何より。……千花も」
「楽しかったでーす。ショッピングもそうですし、かぐやさんと圭ちゃんのやり取りを見るのもそうですし――響ちゃんの戦いも、とっても。ああ、でも、いーちゃんが迎えに来てくれたおかげで、今も楽しいです」
「そりゃ何より。……
「別に! べーつーにー! なんでも、ありません! 公衆の面前で惚気てるんじゃない!」
喜ぶ萌葉の前。
この程度は惚気にもならないよ、と二人の顔は語っていたが、私は無視して歩き出す。
自然と、足が速くなった。
私はアレが嫌いだ。
周囲を憚ることなく、見てるこっちが恥ずかしくなる惚気を全力でするアレが嫌いだ。
私から逃げずに接して、育てて、助言して、その変化を喜んでくるから嫌いだ。
心を動かすから。怒らせてくるから。怒って出した感情を受け止めるから。
素直になれない自分に怒って、羨ましい二人に怒って。
……何時か、どこかで、本音を言えると良いなと、思いながら。
私は今日も口に出す。
嫌いだ。あんな
岩傘響:兄の事は
そろそろ季節は秋に差し掛かります。
生徒会イベントや運動会イベントをどうやって盛り上げようかなと試行錯誤中。
でも真正面から取り組みます。
それではまた次回!
補足:6巻「聞き出したい」の5Pを見ると、喫茶店での注文は以下の通り。
・藤原姉妹:大きめのケーキ → 気にせず食べる強欲姉妹。
・かぐや :ショートケーキ → かぐやが好きな物。
・白銀圭 :コップのみ → お財布事情から水もしくはドリンクのみ。
描写が細かくて戦慄した。