今回は色々混ぜこんだオムニバス形式でお送りします。
これからもよろしくお願いします。
~カップラーメン・ラプソディ~
「うー、雷が鳴りやまないです……」
「ちょっと怖いね」
初等部の時の話をしましょう。
ペスがまだ来ていなかった頃。
外には凄い台風が来ていて、あちこちで浸水や停電が頻発していて、それは私達の家も例外では無くて。私といーちゃんは、二人だけで家に居ました。私の家の、私の部屋に居ました。
タイミングが悪いことに、いーちゃんの家に人は居ません。私の家にも少なかったのです。
萌葉はお母さまと一緒に少し遠くまで旅行中。お姉さまは秀知院の研修旅行中。
いーちゃんのお父さんは仕事で、お母さんは病院で、憂さんはその付き添い。
庭を突っ切って家に戻るのも大変なくらいだったので――無理に帰ればよかったのにと言われればそれまでですけど――いーちゃんが一人であの家にいるよりは、一緒に居た方が安心かなと、私は思ったのです。だから引き留めて、その夜は一緒に居ようと提案したのです。
外で、再び大きな雷が鳴ります。
「にゅひゃぁっ!? ううう、雷が怖いです……」
「大きな音と光だけだけど、怖い……?」
「怖いですよー! 私耳が敏感なんですよー! ビリビリしてぞくぞくするんですー!」
勿論、家の中には、私の家で働いている人が居るのですが、部屋の中には私といーちゃんだけ。
まだ初等部で、互いが異性だという関心が薄かったのもあって、一緒の部屋に居ました。
分厚いカーテンがあっても、外の雷音と稲光は肌で感じ取れます。停電で灯が無ければ尚の事。
懐中電灯と、コンセントを使わない電池式のランプだけでは、恐怖心は抑え込められません。
どこかで落雷が落ちる度にビクリと震える私の体を、ふわっと何かが包みました。
「……じゃあ、これで少しは、安心できる?」
いーちゃんが毛布を取り出して、私の上にかぶせました。頭からすっぽりと。
そのまま隣に座ります。そこで自分自身が一緒の毛布に入らないのは紳士的なのかワザとなのか区別できません。でもその温かさで、少しだけ安心しました。
「……残念です。ちゃんとお祝いしたかったのに」
「皆には、もうお祝いして貰ったじゃん」
「私が! もっと! お祝いしたかったんですー!」
今日は7月13日。
いーちゃんの誕生日だったのです。
勿論、忙しいとか、予定があるとかで、数日前に先んじて皆で誕生日はお祝いしています。
料理を食べて、色々な物を貰って、楽しい晩でした。覚えています。
だけれども。
「私だけのプレゼントをしたかったんですもん。乙女心ですよ、いーちゃん」
「……じゃあ、ええと」
いーちゃんは少し離れて、毛布を頭からかぶった私の前に座る。
ベッドに腰掛ける私に手を伸ばして、ちょっと気取った様子で続けた。
「千花……じゃなかった。ちーちゃんは、何をくれるの?」
私はちょっと背伸びをして、いーちゃんを見ます。
眼鏡の奥にある、ちょっと悪い目付きの瞳を見て、勇気を出して呟きました。
「目を瞑ってください」
「……!」
いーちゃんは、凄く複雑な顔をしました。
嬉しいのと困っているのと恥ずかしいのと怒っているのと。
その中にあった『良いのかな』という自責は、勿論、当時の私には分かっていません。だけど素直に喜んでいなかったことは分かりました。
私は悲しくなりました。
てっきり喜んでくれると思ったのに。嫌がっているんじゃないかと思って。
私の想いを拒絶されるようで、しゅんと気分が小さくなっていくのが分かりました。
「……やっぱ、何でもない、です!」
私はむしゃくしゃして、毛布を頭からかぶったまま、ベッドに寝っ転がりました。
悲しかったので、知らないふりをしました。
さっきまでの温かさが消えた気がします。しくしく。
「……えっと。……んっと、ちーちゃん」
聞きたくありませんーと耳を塞ごうとしましたが、手を優しく剥がされたので聞きます。
自分の顔がむーっとしているとは、どっちも気付いています。
「えっと。……僕は、ちーちゃんの事、好きだよ。でも」
「じゃあ良いじゃないですか。何でですか。好きが分からないとか言ったら怒りますよー」
「……そうじゃ、なくて」
いーちゃんは頑張って言葉にします。
「えっとまず、その、そういうのは、僕が告白してからって思ってたのが、一つ」
「――続けて良いです」
いーちゃんは言います。
恋愛において最初に好きだと伝えるのは、自分の方からだ。
だけど「普通の好き」と「愛している」の違いは分かってない。だから
それ私の勇気はどうなるんですかーと文句を言ったら、いーちゃんがしゅんとしました。
「でもそれ、私の断る理由にはなってないですー」
「おっしゃるとおりです……」
「でも私はかんよーなので続きを聞きます。納得させてください」
いーちゃんは静かに続けます。
好きなのは嬉しい。僕も好き。でも「理由」を探している。「理由」が分からないと不安になる。
理由なんか要らないって私は思うのに、いーちゃんは明確な理屈が無いと駄目なのだそうだ。
女は感情で動く。男は理性で動く。なんていう言葉があると知ったのはずっと後の事。その時は「面倒くさいことを考えてるなあ」だった。
要するに。
当時のいーちゃんはまだ、私と惚気るのに、理由を付けないと動けない人間だったのです。
更に言えば、この時から、私に我慢をお願いするような人間でもあったのです。
冷静に考えれば酷い奴です。若いからという理由でも納得しにくいのです。大人になった今、振り返るとそう思います。
「それで終わりですか? それじゃー納得しないです」
「……ごめんなさい。……でも、じゃあ、ちーちゃんが僕を好きな理由は何?」
「無いです」
私は当然の様に、自然の様に、返事が出来ていました。迷う事も無かったのです。
私の答えに、いーちゃんは目を白黒させました。
「色んな思い出はありますー。えーと、最初に出会った時の言葉とか」
いーちゃんが私に最初に出会った時、最初に話した言葉。
『なにその変なリボン? 大きさ変わるの?』
いきなり失礼な事を言ったな! と今でも思ってます。
いーちゃんは『ごめんなさい』という顔をしました。
エピソードだけは沢山ある。だけどそれは『理由』ではありません。
好きだという感情は、薄いクレープのような物なの、とお姉さまは話していた。
「お母さまと一緒に星を見に行った時に迷子になったところで探しに来てくれたりとか」
「私のコンサートに来て拍手してくれて花束を贈ってくれたりとか」
「この前の運動会での借り物競争で、私を連れてった時とか」
「そーいう色々はあるけど、そうじゃないんです」
一枚一枚では、余り味がしない薄い皮のような何かでしかない。
だけどそれが重なり、幾つもの味が感じられるようになると、段々と甘くなっていく。
時々は苦い層が挟まる事もあるけれど、それも味の一つ。お姉さまはそう語っていた。
「いーちゃんの傍、居て安心するんですもん」
「……そうなの?」
「なのです。だから傍に居ないと私はなんか、気分が悪いんです」
物理的に守ってくれるような実力は無くても。
精神的に守ってくれるにはまだ全然遠くても。
一番に自分を考えてくれて、全力で私と幸せを作るように頑張ってくれる確信がある。
顔を合わせないと何か足りない気がするし、会いたいと思った時に会えないともやもやする。
それは彼以外じゃあ、解消されない。
だから一緒に居たい。それだけなのだ。
期待で、希望で、願望で、未来だ。
「近くが良いです。それが理由です。だから放しません」
「……まいりました」
いーちゃんは『完敗』ですと言って、降参しました。
外は雨が降っていて、雷もまだ鳴っています。時計はそろそろ21時になります。寝る時間です。
私は大きな音がしたので、いーちゃんの裾を掴んで、引っ張り込みました。
「罰として、枕になってくださいー」
「……僕の誕生日じゃなかったっけ」
「私の枕になれるのがプレゼントですー!」
灯を消して、目を閉じます。
雷の音は激しいし、窓を叩く雨の音はまだまだ大きいのに、私は安心して眠れたのでした。
◆
「……で、なんで、この状況に、その話が繋がるんでしょうか」
「いえ、その後、結局、寝苦しくって目を覚ましちゃったんですよ。夏に毛布ですよ?」
狭っ苦しいロッカーの中、至近距離に、かぐやさんの顔がある。
隣では、いーちゃんと会長が一緒に入っているだろう。
私達の手の中ではカップラーメンが湯気を立ていて、いきなりロッカーに飛び込んだので姿勢も無茶で、季節はまだまだ夏なので、色んな意味で汗をかく状況だった。
校内規則87頁、設備利用規則三頁『各施設の備品の私的利用は責任者の裁量に任される』。
十分ほど前。昼食時、そんな屁理屈を唱えて会長が取り出したのは、カップラーメン。
しかも手作り特製「柚子胡椒(塩分控えめ)」もセット。
私といーちゃんは飛びついた。
だけど学園長がやってきて、慌ててロッカーの中に、避難したのだ。
「汗かいたので着替えて。そしたら真夜中に目を覚ましたからか、お腹が空いちゃったんです。いーちゃんも同じように目を覚まして。で、二人でこっそり台所に行って、何かないかなって探したんですよー」
停電と大雨の中だ。小学生が、まともな料理を出来る筈もない。
だけど唯一、給湯ポットがあって、その中にはまだ熱いお湯が入っていたのだ。
「同じようにゴソゴソ探してたら、カップラーメンを1個だけ見つけました。お姉さまがこっそり食べる為に大事に隠していた物です。それにお湯を注いで、三分待って、二人で食べました」
二人で一個のカップ麺。
食べ終わった頃、台所が騒がしいと起きて来たお手伝いさんに発見された。怒られた。
夜食を食べたことより、火傷してないかとか、そういう意味でしっかりと叱られた。
「だけど美味しかったんです。あの味は忘れないと思います」
この前、目を覚ました時、ラーメン食べに行かない? と誘われたのは、あの思い出のお陰。
いーちゃんの家にカップ麺が常備されているのも、あの時の思い出のお陰だ。
「カップ麺1個にもそーいう思い出があるんですよ」
「……藤原さん、今、一緒に起きたって」
「あっ」
遠い記憶を思い出していた私は、ふと失言をしたことに気が付いた。
しまった。かぐやさんを伺うと、その顔が私の頭から足までを見て、徐々に赤く染まっていく。
あー、えーと、これは――誤魔化せなさそうだ。
「な、内緒でお願いします。流石に学園に表沙汰にするのは問題なので……!」
「まあ、その、良いですけど。――代わりにまた、色々と相談に乗って貰いますからね?」
「それならどんとこいです」
あの日のお祝いは、あれから10年近くが経過した今では、無事に渡すことが出来ている。
今までも、これからも、私が
私は、あの場所を誰かに譲る気も、誰かに渡す気も、毛頭ないのである。
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~ハッピーライフゲーム・まるで未来を予言するような構図~
「不幸イベントですね。これはサイコロを振って出目によってハプニングが起きます。えーと私の場合は――出目1……えー、……。こ、今回は無かったという事に!」
「しない。見せなさい。何? 『不幸イベント。誘拐事件。出目1が出たら死亡』。……おい」
僕が見ると、千花はさっと目を逸らした。
逸らした方向に歩いてって覗き込むと、今度はささっと反対側を向いた。
逃げちゃだめだよと顔をしっかり掴むと、知りませんーという顔で目を瞑った。
……こいつめ!可愛いな!?
「え、マジで!? 藤原先輩、自分で考えたイベントに自分で引っかかったんですか!?」
石上が正論を叫ぶ。
TG部の双六ゲーム。某人生ゲームに似ている。
カードそのものがマスになっていて、進んだ先のカードをめくり、その効果を受ける。
一度使用されたカードは取り除かれて、後ろの人が追いつきやすくなるという仕組みだ。
序盤が学生、中盤が成人、最後は老年期となり、ゴール時点で最も資産が多かった人間の勝ちとなる。
……問題は、このゲーム、僕が一切の監修をしていないということだ。
何が起きるか僕も分からない。
その結果が『即死マス』。不幸の結果、自信満々にサイコロを振った千花の、自滅である。
石上の言葉に、目を閉じたままの千花が、ふるふると震えだす。
「内容を考えたイベントに一番に引っかかって! しかも都合が悪いからって密かにルール隠して無かったようにするとか! どんだけ面の皮が厚いんですか! 自分でクソゲー作った癖に、真摯な態度取れないのって最悪じゃないですか! うっわあ情けない……!」
「石上、ストップ。気持ちは分かるが、ストップ」
流石は正論でぶん殴る男、石上優。
僕が言うのもなんだけど、それなりに邪悪な性格をしている千花の天敵だ。
まー今回に関しては完全に千花が悪いから、擁護は出来ないんだが、彼は少々言い過ぎる。
「うー! いーちゃん! いーちゃん酷いですよ! 石上君ってば私をあんなに馬鹿にして!」
「よしよしよし。泣くな泣くな。ゲームだからそういう事もあるよ。いい子いい子」
耐え切れず決壊した千花が、泣きながら飛びついてきた。キャッチして膝の上に。
そのままよしよしと宥めながら、ゲームを再開することにした。ぐずってる千花は可愛いから抱いたままにしよう。会長と副会長の目線が「またかよ」と言っていたが気にしない。
柔らかくて暖かくて可愛らしい、花のような千花の香りを堪能しながら、サイコロを振った。
「えーと、修羅場が起きる。隣に住んでいた姉妹が貴方に告白をしてきました。姉と妹、どっちを選ぶ?」
「……姉で」
石上の問いに、ちょっと躊躇った後に選択。
彼は「ではこれを」と僕にカードを渡してきた。
「恋愛カードを1枚。これはお助けカードになります。もう1枚は呪いカード。不幸カードの時にサイコロを2倍振ることになります」
「結構キッツイな!?」
要するに姉とはいい関係で、妹とは悪い関係ってことじゃねーか。修羅場じゃねーか。
うわあと引き攣りながら、僕はカードを受け取った。
イベントはラッキー/不幸/交流/恋愛/ペット等々にジャンル別けされている。
子供33枚/大人33枚/老人33枚の全99マス。5人で遊ぶには丁度良い長さだ。
御行氏は「放課後イベント」から『ガリ勉』カードを確保。
石上は「告白イベント」から『恋愛詐欺に巻き込まれましたが、誤解は解けました』で「女性不信」に。
かぐや嬢は「ペットイベント」から『寂しがりやなトラ猫を飼える』と「相棒」カードを入手。
……何となく。何となく。何かを揶揄している気がするが、気のせいだ。気のせいに違いない。
「あ、また『告白イベント』ですね。同学年の女子から告白を受ける。受け入れるか否か」
「……さっき姉の方にOKだしたから、拒否で」
「じゃ呪いカード1枚追加です」
「待てや! ――因みにこっちにも受け入れる答え言うと、どうなってた?」
「お助けカードが1枚増えて、やっぱり呪いカードが1枚増えますね」
八方塞がりじゃねえか。
僕の嘆きを真横に、御行氏がサイコロを振る。
「えー、それは『結婚マス』ですね。一番近くのマスに居るプレイヤー同士が結婚します。結婚した二人はマスの効果を共有します」
「俺の一番近くに居るのは――」
と、御行氏の指が周囲を探る。
「四宮先輩ですね」
「「「!?」」」
ガタッと思わず椅子の音を立てたのは、僕と本人達。
「わ、
白いウェディングドレスに身を包んだ、四宮かぐや。その隣を歩く、タキシード姿の白銀御行。
二人がヴァージンロードを歩いて互いに永遠の愛を約束する、そんな景色。
僕が一瞬それを想像したが、彼ら二人もそうだったらしい。
「い、いや、ゲーム。ゲームでの話だからな」
「そうですそうです。ゲームですから!」
目の前のかぐや嬢は『か、会長と、けけけ結婚……!』という顔で動揺を隠しきれていない。
御行氏が指摘しないのは、彼もまた同様に動揺しているからだ。似た者同士である。
「僕は……えーと『学園祭で気になる人とデート』。これで『女性不信』が消えました」
石上が順調に進んでいく。
僕はと言えば、次に引いたカード――『初恋の女性が結婚する。ショックで散財する』の効果で資金5万が消えた。そこまで離されてはいないけど何となく釈然としない。
「わ、私ですね。えーと……『出産マス』。子供が産まれま――子供が産まれるの!?」
「なななんだと!? 俺と四宮のここ子ぉ!?」
「その年でお母さんですか。若いっすね」
動揺しまくる二人に比較して、石上は冷静そのものだった。
そういや夏休み前に占いの話をした時、御行氏の欲しい子供が9人とかいう話題が出ていたな。
もしや、と思う僕の前、我らが生徒会のトップ二人は順調に順調を重ねてどんどん平和な家庭を築いて行く。
『実家との喧嘩の後、和解。資産が一億円増える』
『設立した会社が上場。更に一億円増える』
『子供が産まれる。双子だった。祝い金として10万円貰える』
カードが捲れる度に、かぐや嬢は顔を赤く染めていき、御行氏は落ち着かない。
無理もない。
「会長ハッスルし過ぎじゃないですか? ……また双子ですよ。これで5人ですよ」
「いや! 俺のせいじゃねーだろ! 出産マスが多すぎるんだよ!」
「あ、ま、また生みました。これで六人です……。そ、その、ゲームですから! これゲーム! ですから会長もそんなに気にしないで良いです! それともやっぱり嫌ですか……!?」
「――っ、……いや、ゲームだからな。……き、気にしていないぞ。俺は気にしていない」
じゃあ何も問題ないっすね、と何処まで気付いているのか怪しい石上が先を促した。
僕はと言えば『前に交際を断った妹からのアプローチが来る』とカードを引いている。
どれも断っているが、どこかで不幸マスを踏んだ瞬間に即死しそうな程に呪われている。
「ゲ、ゲームなのにうっかり熱中してしまいましたね! ちょっと深呼吸をしてきます!」
「ああそうしろ! 俺は喉が渇いたから水を飲んでくる!」
今度は三つ子が産まれたらしい。
ご丁寧にも『名前を考えましょう』とまで書かれていて、退室したかぐや嬢は、今頃、必死に携帯で姓名判断を調べているのだろう。
彼女の頭の中は、幸せな御行氏との生活がシミュレートされている。
二人の感情を理解している僕からすれば、実に見ていて面白い。
茶化すのではない。あの二人の夢が実現してくれればいいなと思う。
「よ、よし、ゲームを再開だ。次……! ――『浮気が発覚する』。!?」
「……会長が浮気――?」
一瞬で、かぐや嬢の目が漆黒に染まる。こんなところで出すなよ、黒かぐや。
「いや違うぞ! 俺のせいじゃないから! カードに書かれてるから!」
「そんなに慌てないで。ほれ、僕のお助けカードやるよ。2枚持ってきな」
僕の手元に残っていた『そのイベントを無効化する』カードの効果を発動。
更に『代わりにハッピーなイベントが起きる』カードも追加で発動。
「お、おう。ええと、――『誤解が解けた。仲が親密になって子供が産まれる』……」
……流れが完璧だな。
つまりあれだ。
『御行氏が浮気をしたと、かぐや嬢が思う』→『喧嘩になるが誤解だと判明』→『仲直りの結果、子供が増える』という流れだ。なんというか本当にありそうな流れで反応に困る。
「も、もうしょうがないですね! 許してあげます!」
「いや許すも何もゲームだが、許してくれて有難う!」
一喜一憂していたかぐや嬢の精神状態は、平和かつ幸せなテンションに戻ったらしい。
そんな感じでゲームは推移していき、結果は以下の通り。
かぐや嬢の生んだ子供の数が9人になったところで、かぐや嬢はゴール。
御行氏は時々トラブルに巻き込まれるものの大きなダメージも負わずゴール。
石上はと言えば、途中で『仲の悪い女子と誤解が解ける』→『その女子と交際する』→『その女子と結婚する』というルートを重ね、そのまま適度に資産を増やしてゴール。
かぐや嬢が1位。石上は2位。御行氏は3位(かぐや嬢と夫婦なので同率1位)、僕が4位。
「……なあ千花、一つ聞いて良い?」
全体的に見れば、好評に終わった中、石上はメモ帳に改善要素を纏めている。
かぐや嬢と御行氏、二人は仕事に戻るそぶりをしながら、どことなく行動がぎこちない。あれは戻るまで暫くかかるな。
片付けに意識を向けている他三人に聞こえない様に、小声で。
「こんだけ出産マスが多い理由ってさ……」
「い、言わないで! 言わないで下さい!!」
僕の質問の意図は理解したらしい、千花はそっぽを向いている。
その頬は染まっている。
イベントを考えたのが千花ということは。
そしてここで遊ぼうと宣言したという意味は。
しかも恋愛フラグを他に建てると呪われますという宣言の意味は。
「……覚悟は良いね?」
完全に誘い文句だよなと思って確認をした。
僕の前で、千花は、ほんの小さくだが頷く。
……それ以上の説明は無粋だが、その夜は、一緒に仲良くしたとだけ伝えておこう。
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~ほんの少しだけ未来の話~
ここは、私立秀知院学園である!
明治時代、貴族や名士達の学び舎として造られたこの学園は、既に
そんな秀知院学園の生徒たちを統べる生徒会が、常人であるはずもない。
生徒会長。
四大財閥の一角を占める四宮家の血を引く男。
20年前、彼の父はこの学園で生徒会長を務め、彼の母は副会長を務めていたという。
鋭い目付きと努力の才能を父から、勤勉さと社交性と器用万能さを母から受け継いだ彼は、今日も学園を率いている。
学年試験は不動の一位。あらゆる賞状を総舐めにする才能。才能の上に胡坐をかかない努力を重ね、苦手なことにも取り組んで成長しつつ身に付ける姿には、誰もが尊敬と畏怖の目を向ける。
その血筋と高貴さ、プライドを前に、素直に関わり合える人間は少ない。
「甘えるの下手なだけですよね」
「言うな、岩傘書記。俺だって努力はしているんだ」
とはいうけど、私は知っている。
彼はただ、ちょっと生真面目で、ちょっと背負いこみ過ぎるのだ。
彼の父と、彼の母。
四宮御行(旧姓:白銀)と、四宮かぐや。
二人の良いところも、悪いところも受け継いだ、それが彼だ。
試験でも技能でもあらゆる分野で一位を取り続けるのは。
むしろ一位を取り続けねばならないと思って行動をしているのは。
家の重圧や、両親との比較や、そういった色々が大きい。
彼の両親は、根を詰め過ぎる我が子を心配しているというのに……。
「じゃーほら、私の元に飛び込んできなさい。抱きしめてあげるよー」
「しない! 年頃の女子が、そんなはしたない真似をするんじゃない!」
私は、えーという顔をする。
こんなことするの、四宮会長にだけなんだけどな。
その言葉に、彼は頬を染めてそっぽを向いた。照れてるらしい。
「御行さんもかぐやさんも、無茶をし過ぎないで欲しいって話してたよ?」
「……良いだろ
「まー四宮がそういうのは昔からだから知ってる。だから私が書記で此処にいるんだよー」
私の名は、岩傘詩歌。
肩に力が入りすぎる幼馴染を、あの手この手で可愛がることを目標にする、生徒会の書記。
親同士も仲が良く、古くからの付き合い。つまり私と彼は幼馴染である。
生徒会の仕事を終えて、私は彼と一緒に帰る。
互いの家は隣同士――と言うほどに近くはないが、歩いて通える距離だ。
治安や安全保障の意味で、徒歩での帰宅は余り歓迎されない。だから良く探せば、今もあちらこちらにSPが隠れている。その指揮を執っている
『もっと惚気て良いんだよ?』
『人の見てる前じゃやれませんー』
私は目で返事をした。
SP指揮官の彼女曰く、私の両親は、もうのべつ幕無し、どんな場所でも惚気ていたらしい。
学園の中で、公共の場で、自宅で、その恋愛脳が止まる事は無かったという。
まあ今でも自宅ではラブラブで見ているこっちが胸焼けするから、理解は出来る。
その話は今でも秀知院に、四宮会長の両親の話と共に、伝説として残っている。
曰く、生徒会室でひたすらに恋愛バトルを繰り広げていた面々。
曰く、学園を最も楽しく盛り上げた世代であり、あらゆる世代に影響を与えた一団。
曰く、庶民の生徒会長が、四宮家の令嬢を射止めた、最も素敵な告白合戦。
曰く、最もとんでもない面々が一度に揃っていた生徒会。
「というか詩歌、お前の方が生徒会長にふさわしいんじゃないのか? 良かったのか?」
「良いんだよ。生徒会長は中等部でもう満喫した。私はトップを歩くより、その下で暗躍する方が楽しいって分かったからねー」
「……そういうところ、調さんにそっくりだよな」
彼の言い分も分かる。
何せ私の母:岩傘千花は政治家だ。それも国会議員。絶大な支持を受けている女性政治家だ。
まだ30代なのに政治の第一線を突っ走る彼女は、何故か恐ろしい手腕を以て――マスコミが探しても全然、汚い情報が出てこないクリーンさで――人気を集め、どんどんと評価を上げている。
噂では内閣の閣僚に呼ばれそうになっているとか、将来的には総理大臣も見えているとか。
色んな意味で、普段の母を知っている身としては信じられない存在である。
因みに彼女のサポートをこなしている秘書であり、同時に国内最大の新聞社重役も兼任している、こっちも化け物染みた働きをしているのが、私の父:岩傘調。
最近は海外特使としてフランスまで足を運んでいたニュースが流れていたか。
「私は性格がお父様似なのです。スタイルはお母様似なので、良いところ取りなのですよー」
言いながら私は彼に腕を絡める。勿論、わざとだ。
彼は振り払わなかった。前を向いて知らないふりをしているけど、頬がやっぱり赤い。
そういう場所がとっても可愛い。
「それよりも今日は、久しぶりに会長のご両親と、私の親と、あと石上の家の人も集まれるんでしょう?」
「ああ。妹も楽しみにしている」
石上というのは、私達の一学年下に居る男子だ。生徒会の会計を務めている。
因みに彼の父も元会計で、母親はと言えば元会計監査/現在:裁判官。ものすごい仲が悪かったが最終的にラブコメをして結ばれたと、これまた親世代の伝説だ。
そして四宮会長には妹がいる。彼の双子の妹で、かなりのブラコンで生徒会の副会長。
私の親友だが、時々邪悪な女扱いされる。お兄さんを取られるのが嫌なのだ。困った娘である。
「私としては二人きりってタイミングも欲しいんですけど、誘ってくれたりしません?」
「……じゃあ」
と、私の肩を掴み、至近距離に顔を寄せる。
端正で、ちょっと眼付が悪い彼の顔が近くにある。
吐息が感じられそうな距離で、私の心臓が一段大きく跳ねた。
「二人きりになる時間を提案するか?」
「……ぁ、いえ、……あの、
思わず言葉が、意味をなさなくなる。
余裕を見せていた私の体が硬直して、彼の頬以上に自分の頬が赤くなるのが分かった。
頭に血が上っただけじゃない。ぐらぐらする。
しまった、からかわれたと思ったのは、彼の顔が遠ざかってからだった。
「攻められると弱いのはどっちに似たんだかな」
上から目線でフッと笑う姿で、意識を取り戻す。
攻めたら強いのはどっちに似たのかも定かではない。
ただ一つ分かっていることは――。
「……もう、会長の意地悪! ……でも、そういうところが好き……!」
私は、彼と惚気るのが好きだ。
親から子供に受け継がれ、恋愛合戦は、終わらない。
日付に拘ってみました。
さて次回から生徒会選挙篇。
同時に石上の話や天体観測を進めつつ、第三の試練もやっていきましょう。
頑張れミコちゃん! 敵は原作以上に強大だぞ!
ではまた次回!