秀知院の生徒は「63話 モテたい」で皆が冬服になってます。
そして「60話 呼びたくない」で石上が『来週からまた冬服ですけどね』のセリフがあります。
恐らく10月1日から冬服に衣替えとなるのでしょう。
2016年のこの日は土曜日なので、冬服での初登校は10月3日月曜日。これが「63話」。
石上の台詞から逆算して一週間前なので「60話」は9月26日から9月30日の間です。
また「61話 告ら“れ”たい」で「解散から三日間特に何もなかった」と話しています。
加えて「62話 描きたい」ではまだ皆夏服で授業を受けていますね。
つまり――。
9月26日(月):60話。皆で打ち上げ。その日に白銀が再度の生徒会選挙への申し込み票を出す。
9月27日~ :特に何もなかった。
9月29日(木):61話。三日目。白銀、かぐやへ生徒会の応援演説をお願いする。
9月30日(金):62話。美術の時間。
10月3日(月):63話。この日から冬服。
凡そこんな流れなのでしょう。
ということで、波乱の生徒会選挙篇、スタートです。
惚気っぷりは少なくても、恋愛強者としての作戦は沢山じゃ。
さて、9月も末。来週からは10月になるという、秋も始まるという日。
何時もの教室、何時もの椅子の上。そして千花は僕の膝の上。平常運転である。
周囲が『羨ましい』と告げているが気にしない。
ちょっと体重が増えてる気がする千花を載せながら、白銀と生徒会『選挙』の話をする。
大雑把なスケジュールと、当選までの要点を纏めた紙に、チェックを入れていく。
既に出願書類は提出したという。
であればここからは、作戦会議だ。
千花は僕の膝の上で、机に身を乗り出して白銀に説明をする。
「ポイントは、純院の生徒を如何に取り込むかという部分。そして異論を封殺できる人が良いでしょう。御行君の再選を快く思わない人はそこそこ居ますからね」
「純院、混院に関係なく、生徒会の席はステータスだしな。……生徒会長の特権もあるだろ? 二回連続で会長をやるとなると、異論はなくても難色を示す人は居るよ。アイツ独占しやがって、という気持ちは抱くだろうね。どうしても」
「はい、なのでここは、このわた――むぎゅう」
「千花の寝言は無視して、やっぱここは四宮さんが良いと思うな」
「ナチュラルに膝の上に載ってることは無視して言うぞ。……やはりか」
途中から寝言が聞こえたので黙らせた。
たわわな胸を張って、自信満々に自分が応援演説を引き受けますよーとか言っていた千花の口に手を回す。背中から口元にすすっと。もがもがとじたばたするが、ちょっと落ち着きなさい。
ふむ、抱き具合が前より向上している。
胸部装甲も……前より育ってないか? ……僕が育てたからか?
膝の上の臀部も前より柔軟性がある気がする。脂肪も増えたようだ。悪くない。
……いやいや、話を戻そう。千花が持つ政治家の才能を疑うつもりはない。演説の力はある。特に男子と下級生からの人気も高い。確かに白銀のサポーターとしては優秀だ。
更に言えば僕だってそれなりの能力はある。千花とは管轄が違っているが、その範囲内では――千花の影響力が及ばない生徒らへの影響はそこそこだと思う。
部活連の秀知院VIP生徒へのコネを始め、マスメディア部ら情報系は抑えているし、学園裏サイトや掲示板、SNSは僕が目を通している(個人情報の抜き出しや私的利用こそやっていないが、割と法律ギリギリを攻めているかもしれない)。
それらを駆使すれば――千花と僕だけで、勝つには勝てるだろう。
だが、此処に限って言えば四宮かぐやが最適だ。白銀との相性という物がある。
学業を奨励する秀知院では、生徒会や部活動を率先して行う生徒に、特権が与えられる。
生徒会長ともなればその労苦に見合うだけの特権――海外一流大学への推薦などが与えられる。
外部入学生で、実家が名家という訳でもない白銀にとっては、社会ヒエラルキーを一気に駆け上がるプラチナチケットと言えるだろう。
逆に言えば、そのチケットを渡さないと釣り合わない程の重圧やら仕事がある。
誰でも知ってる会社や権威を親に持つ子供らの相手をするのだ。生半可ではない。
しかも「生徒会活動で成績が落ちました」となったら本末転倒。バッシングは避けられない。
……だから白銀への『また生徒会長をやるのか』という文句は、実に身勝手な――文句だけは誰でも言えるという立場からの発言だともいえる。遠くから出る意見は何時だって自分勝手だ。
だが、そういう声だけは大きく聞こえて、しかも広がりやすい。
出来る限りきちんとした対策をしないといけない。
純院出身の生徒会長ですら、過去には実際、退陣に追い込まれたこともあると聞いた。
『広報』という微妙な役職の僕でも相当忙しかったのに、白銀は会長。生徒会の仕事のみならず、成績一位の維持に、アルバイト。
はっきり言えばスケジュールの密度が濃すぎる。
ワーカーホリック……というか、絶えず走ってないと倒れてしまうタイプというか……。強迫観念が混ざってる気もするが……。
まあ、それは良い。良くないが別の問題だ。今ここでは指摘するまい。
で、白銀がそんな激務をもう1回やる意思を固めるとは。
……果て一体何があったのか気になるところだ。
(……それを聴くのは野暮だな)
男の子が本気になる理由なんて、女の子のためって理由で十分すぎる。
打ち上げ会で『もうやりたくない』と言っていたのを翻したのだから、推して知るべし。
その相手が、四宮さんなことくらい気付けるとも。
なら此処は、その彼女に頑張ってもらうのが筋だ。
(しかし……多少のハードルをどうするかだなぁ)
懸念事項へと思考を戻す。
再び生徒会選挙に出馬するとして、問題は『再選出来るか』という部分だ。
昨年は白銀の大立ち回りがあり、その勢いが重なって支持を集めた。
勢いで――と言うと表現が悪いが、運が味方をしてくれたことは確かだ。
1年生の頃、風雅な先代会長に、生徒会に勧誘されて――確かその頃は、
実際、就任直後の熱狂が覚め、冷静になった後は、かなり白銀への影口が目立ったし、執務能力への不安や疑問が湧いていた。四宮さんを勧誘したのも『下心あり』と判断される始末(今思えば強ち、間違ってない気もするが、白銀は四宮家を利用しようと思って勧誘したわけじゃないしセーフだと思う)。
大立ち回りの影響で、先輩方は生徒会で顔を合わせるのを嫌っていた始末。
僕らはその先輩方と、殆ど顔を合わせないまま解散してしまった。
陰口は、一年間の仕事ぶりと、白銀自身の人望(と僕や千花の暗躍)と結果で黙らせた。
しかし今でも燻っていることは知っている。目立たないだけで雑草のように根を張っている。
再度の生徒会選挙となれば、その不平不満も、やっぱり同じように再度、噴出するのである。
『また白銀に任せて良いのだろうか?』
そういう不安は『今度も白銀で大丈夫だろう』という楽観的な意見を駆逐する。
人間の心理とはそういう物だ。ポジティブな要素が幾らあっても、ネガティブ要素を消し去ることは出来ない。
それを黙らせるためには、作戦が必要だ。
色々と手を変え品を変えして、支持率を上げねばならない。
その方法の1つが、応援演説という訳だが……それだけじゃあ足りないな、うん。
「……他のクラスに顔を出すのって恥ずかしいんだよな」
白銀、僕、千花は同じ2年B組。四宮さんと早坂愛は隣の2A。
「千花使って四宮さん呼び出すかい?」
「いや。……これは、俺が自分で行かないとダメだと思う」
ま、白銀ならそう言うよな。
そこで自分で行く、自分で誘うと決められるのが、白銀の長所だ。
「あのですね、さっきから私の扱い酷くないです!?」
「落ち着け千花」
そこでようやっと、僕の掌から抜け出た千花が息を荒げて吠えた。
「御行くんの演説に立候補したらダメとか、かぐやさんを呼び出すのに使うかとか!」
「確かにそう言ったが、それは千花の扱いが雑という話じゃない」
「じゃーどういう意味ですー!? いーちゃんと言えども! 納得のいく説明をしないと怒りますよふしゃー!」
警戒した猫が尾と毛並みを逆立てるような態度で僕と白銀を睨んでいる。可愛い。
そう言えばこの前、猫模様の穴が空いた上下の下着セットを見たが、千花は猫が似合うね。
白銀が『お前の仕事だろ』と目で言ってきたので、素直に宥めることにした。
「千花と一番相性が良いのは僕だろ?」
「………」
しゅうしゅうしゅう、と湯気が立ち上る音が聞こえたと思ったら、大人しくなった。
白銀と四宮さんの相性が一番良いという話と、僕と千花の相性が一番良いという話。
これは同じレベルの話題である。……変な言い方だが、言いたいことは伝わったはずだ。
千花は理解したところで、興奮が冷めたのか――そしてちょっと照れ臭くなったようで。
「そうですね!」
と恥じらいをかき消すように、真面目に頷くのだった。
やっぱ可愛いな、僕の嫁は!
◆
今頃、白銀は2Aに足を運んで、演説のお願いをしている頃だろうか。
昼休み中。仲良くお弁当を食べた僕らはコンピュータルームに居る。
「いーちゃん何してるんですー? ネットサーフィン、ではないですよねー?」
「……情報収集かなぁ」
さて、前から触れていた話をしよう。
秀知院学院にも、一般の学校と同じで、SNSや裏掲示板という物が存在する。
先生方も存在は知っていて、子供の遊びということで見逃している。
大炎上しない様に見張っている程度だ。
生徒会における広報の仕事とは、各種イベントの手配や連絡、書類の印刷、データを弄ったり確認したりして、それを他の人に正しく渡す業務。
要するに『コネを作ってコネを使え』だ。
その僕が、この裏サイトを無視することはない。
厳密に、電脳掲示板やSNSの管理全てが僕の仕事……という訳ではない。
僕のPC操作やプログラミングの技量は、その辺の高校生レベルでしかない。
秀知院にちょっかいを出す奴が、僕のスキルで対処を出来る筈もなく……ちゃんとハッキング対策やアカウント対策に、その道のプロが複数常駐して、管理を行っている。
では僕はというと、その運営に渡りを付け、転がってる情報を回収していたりする。
「生徒会の一員として、やっておいた方が良いよな」と手配して、席を手に入れたのだ。
歩いてる生徒の99%が社会的『勝ち組』と一般的に言われている家の出だ。
必然、市井の中では出ない爆弾情報なんかも転がっている。うっかり書き込まれたりもする。
高度な情報化社会の中に在って、それらが生徒や生徒会、もっといえば秀知院そのものに多大な害を与えない様に見張るのも大事なのだ。
……上手に使えば利用できるからな!
そもそも学院内にだって、潜在的な敵が居るからな! 怖いからな!
「生徒会選挙に向けて、ちょっとばかり裏工作をね」
「悪だくみですか。……いーちゃんて、こう……四天王の一角感ありますよね。眼鏡をくいってする系」
頬をつんつんとつつかれる。
殆ど肩が触れる距離で、1つのPC画面を並んで眺めている図だ。
失礼な。僕は其処までデータ系人間ではないぞ。
作戦立案と実行力では四宮さんの方が上だし、成功率で言えば千花の方が上だ。
「人間的な魅力では千花に負ける」
「まあ否定はしません! ……にへへー、褒めて良いですよ?」
「おう。千花ちゃんは優秀だ。とても可愛いし良いお母さんになるよ。僕は幸せ」
「やだもー本当のコトを言わないで下さいよー! ……ま、でもいーちゃんは、そんな私や、かぐやさんや石上君を上手に『巻き込め』ます。関わる切っ掛けを作れる。つまり盤外戦術が得意じゃないですか。今だってこれ……」
「あ、内容はトップシークレットね」」
「分かってますよー」
すすっと耳元で、聞こえないくらいに近寄り、囁く。
「御行君への悪口、BANしてますよね」
「いやいや、僕はただ見るに堪えない雑言を
物は言いようだな。
だがネガティブキャンペーンを行わせるほど僕は善良ではないんだ。
目には目を。歯には歯を。余計な裏工作には、裏工作を。真正面から喧嘩を売らせて、それを更に強い勢いで粉砕する……。こっちの戦力を過剰なまでに整え、向こうを徹底的に倒せば、敵対者は減るだろう。
恐らく四宮さんは、立候補者を減らしに動くだろう。会長を助けるために。
なら僕は、会長の支持率を『下げない様に(上げるために、ではない。ここ大事)』働こう。
投票用紙に書かれた記述と結果を改竄するのはアウトでも、白銀以外に投票する奴を先んじて減らすのはセーフだろう。
そんな訳で、僕はノートパソコンを開いていた。
生徒会室のパソコンが使用できれば良かったのだが、そうもいかない。
先日の『四宮さんが白銀を名前で呼びたい件』が終わった後、再び厳重に施錠されてしまった。
流石に二度目は無い。入れないなら入れないのでしょうがない。他の方法を使うだけだ。
僕は手元の端末を操作する。
一般流通していない特注品。ハードは軍用の最新型。OSはオリジナル。細かい部分まで全力カスタム(技術開発部作成)を加えた品だ。びっくりするほどのお値段(7桁もする)。
これでも友情割引済みである。
「まあ、今日の本題はこっちだな」
僕は一通りの閲覧を終えた後、千花を隣に座らせて『これ見てみ』と画面を促す。
そこにはこう書かれていた。
『秀知院の女子を語るスレ Part427』
「……なんです、これ?」
「書き込み式の掲示板。所謂「ちゃんねる形式」で反応が見れる」
「ああ、匿名で色々書き込んで読める奴ですか。あんまり精神的に良くないって聞きますけど」
「それは同意する。千花は見ない方が良い」
人間、名前を隠して発言が出来ると幾らでも悪辣になれるからな。
正直に言えば僕だってあんまり好きじゃない。書いてある内容に含まれる『毒』がキツイ。
とはいえ、だからこそ、本音が分かる……ともいえる。
主語が大きい意見が多いのだけが厄介だがな。
「うんと平たく言うと、高等部の美少女にどうすればアプローチ出来るかとか、誰々が何処で何やっていたとか、思い出を語って自慢したりとかしてる……」
「生産性が無いですねー。そんなことしないで真正面から行けばいいのに」
「ま、それは置いておいて。此処だね」
指差した画面の一角には、簡潔に一言。
「……『風紀委員の伊井野ミコが生徒会選挙に申請書を出した』……ですか」
「これまだ、公には開示されてない情報だね。……同じクラスの誰かが書き込んだな、これは」
伊井野ミコ。
一学期、白銀の校歌練習に付き合っていた時に、音楽室前で攻防をした娘。
謹厳実直さと清廉潔白さを塊にしたような彼女は、千花を尊敬し、僕を疎んでいる。
『あの藤原先輩が岩傘調の魔の手に落ちるのが嫌だ』という……実に……えーと……言葉を選んで肯定的に表現をすれば、千花を尊敬して、周囲を警戒している娘だ。
噛みつく子犬みたいな後輩である。
まあ
その情報がずらっと掲示板には書かれていた。
反応も様々だ。肯定的な意見と否定的な意見では、後者の方が多い。
「……伊井野さんは潔白だからね。こういう場所からの情報漏洩とか、考え付かないタイプだ」
自分が絶対にやらないから、他人もやらないだろう。
そういう思い込みと頑固さが彼女にはある。付け入る隙は其処にある。
彼女の行動と評判は、彼女が知らない所で僕の手元に入るのだ。
「こっちから悪い情報戦を仕掛けたりは……しませんよね、いーちゃんなら」
「そんな真似はしない。伊井野ミコに対する悪口も、白銀に向かう物と同じように対処する。BANするし消すように手配する。でも消す前に、僕が記憶して記録して、備えるのは自由」
繰り返して言うが、僕は伊井野ミコを虐めたい訳ではない。貶めるなんて以ての外だ。
だが生徒会選挙に出馬してくる以上、僕は全力で白銀を応援し、伊井野ミコと戦う準備をする。
反則にならない場所で、直接の投票に影響しない場所で、作戦を考えるだけである。
とりあえず、伊井野ミコのマニフェストを逐一チェックするところからだな。
先手を打って対処していけば良い。
(唯一懸念があるとすれば……あのアホ毛女が助力することだけど……)
まあアレが助力する時には、僕に宣戦布告を送り付けてくるだろうから良いや。
「四宮さんが他生徒の掌握。千花は先生との交渉や反対意見の調査。石上はプレゼンテーションの準備をする。なら僕は敵を知ろう。……67期生徒会の本気を見せてあげようじゃないか」
「……いーちゃんの原動力は何なんです?」
「白銀の応援だよ?」
「……だけじゃないですよね?」
おっと、見抜かれているらしい。
気付かれたかーという顔をすると、気付きますよーと返された。
「ん、まあ……単純に、あの場所が好きだからね」
「私『達』と一緒に何か実行出来るのが良いと」
そうだよ!
僕は、あの空間が好きで、あの場所が好きなのだ。
白銀御行と四宮かぐや。二人の恋愛勝負の場。同時に、僕と千花が惚気るための場所。
生徒会室が無くなったら――無いなら無いで、生徒会発足前みたいにペアで行動すれば良いだけなのだが――やっぱり得たものを手放すのは、ちょっと残念に思うのだ。
どうせなら二人だけより、五人揃って楽しく過ごしたいだろう!
「僕は千花と友情の為なら、献身と慈愛も、強欲と自己愛も、どっちも引っ張り出す! 悪いとは思わない!」
立ち上がって胸を張る僕の言葉に、千花は『それでこそです!』とハイタッチを返す。
よし気合入った。待ってろよ生徒会選挙。白銀チームが蹂躙してやるからな……!
「あ、なんか新しい書き込み来てますよ――えっと……『白銀御行が、四宮かぐやを、校舎裏に呼び出した』……?」
「ほほう」
そう言えば……白銀は、無事に応援演説を頼めたのだろうか?
推測する。不慣れな隣クラスに顔を出し、四宮さんを呼び出す。当然早坂愛がフォロー。
時間が欲しいと提案。四宮さん頷く。結果今に至る。
……これは頼めていないな?
なるほど。呼び出したのが誤解を招き、それが広がったか。
ふむ、と横を向くと、目を輝かせる千花だった。
ラブの香りがしますよ! と何処からか探偵の衣装を着込みパイプを咥えている。
いやそうはならんだろ。白銀が応援演説をお願いしたいって話は聞いてただろ。
……忘れた訳じゃないな。
……現場に顔出したいだけだ!
ラブの波動を感知出来るのではないかと興奮してるだけだ!
千花1人を現場に放り込むのは不味い。絶対問題にしかならない。
こうして僕は放課後、校舎裏に行くことを決めたのだった。
◆
で、校舎裏に来たわけだが。
もう生徒の数が、凄い。そこかしこに隠れて――隠れきれていないが――潜んでいる。
教室の中。二階の窓。草むらの中。遠くから望遠カメラを使ってる生徒まで居る始末。
完全に二人の告白が行われる、と全員が誤解をしている。
待機状態の四宮さんまでその気になっている!
この時期、皆、暇だからな! 気持ちは分かるけどさ!
しかし、この中で……生徒会の応援演説をお願いするのは……キツイぞ。
周囲の誰もがラブコメを期待して、白銀の告白を待っている状況だ。
応援演説をお願いしたい、と頼むだけで、ブーイングが起きて……白銀の立場が終わりかねん。
僕は千花の暴走を止めには来たが、それ以上、何が出来るだろうか。
考える。此処にいる全員を対処することは不可能だ。
生徒会時代ならば権限で一時的に撤収させることが出来ただろうが、今の僕はごく普通の生徒。
更に言えば、余計なことをして不興を買うのもやめておきたい。白銀の支持率に影響出る。
下手に騒ぐと、それこそ風紀委員が出てきて――伊井野ミコとのバトルが発生してしまう。
今から場所を移させるか?
いや……白銀は兎も角、四宮さんは、ここで僕がしゃしゃり出て場所の変更を飲み込むタイプではない。
むしろこの状況を期待している。彼女は応援演説が動機だとは知らないのだ。
クラスの女子に背中を押されて白銀を待つ姿は、完全に恋する乙女の仕草。
……どっかでこういうシチュエーションとかなかったっけな。
なんかこう本とか漫画とか映画とかで。こういう時の切り抜け方……。
……………。
閃いた。
僕は急いで携帯から連絡を入れる。
「……
『いきなりなんですの!? 私も遠目で様子を見ている最ちゅ』
「詳しいことを話している時間が無い。ただ白銀と四宮さんに関係する問題だ! やって欲しい頼みは単純なんだ。今回の一件をよりロマンチックにしたい。だから急いでくれ」
『任されましたわっ!』
二人の名前と目的を話したら一瞬で態度が翻った。
あとはタイミングの指示だな。こっちからのコール音で動いて貰えるように手配する。
紀が放送室に飛び込み、準備を整えて、僕と打ち合わせが終わったのと――。
白銀が校舎裏にやって来たのは、ほぼ同じタイミングだった。
◆
「待たせたな四宮――って何だこの状況!?」
やって来た白銀は、ここでようやっと状況を理解したらしい。
隣のクラスにまで態々足を運び、放課後に呼び出す――この一連のプロセスが何を意味しているのか。
それを認識したのだ。
(不味い、不味いぞ、これは俺が四宮に告白をする流れ……! 外堀が埋められてしまっては……)
という顔だ。このままでは自分が日和った男になってしまう、評価が下がってしまうとまで脳内にシミュレート出来たらしい。
(だが、此処で告白をする勇気など無い! ……いっそ最後の最後だけ小声で、内緒話として)
「応援してるぞ白銀。だから小声で逃げるのとか無しな!」
「ちょ、いわっ、おま、お前えええええっ!」
何か考えていた白銀の背中を押す。
小声で二人だけにしか聞こえない会話をする――これはこの場の最適解の一つだ。
だが僕は、その道を意図的に潰した。
裏切ったのか!? みたいな顔をしている白銀だが、はははまさか。
僕が裏切るわけないだろう。
白銀を――親友を裏切らないのは当然だが、それ以上に。
恋愛という物に対して、僕は常に真摯に向き合うべきだと思っていて――その僕自身の在り方を絶対に裏切れない。だから、白銀をここで告白させるなんてことはさせない。
でも同時に、小声に逃げるのもちょっとな、と思う。
だってほら……四宮さん、期待してるし。
ならばこの状態状況で、全員を失望させずに切り抜ける方法を、実行したいと思うのだ。
「まあ白銀。
「お前と比較をされても困る!」
周囲の皆は――白銀に『勇気を出せよ』という先達からの教えにしか見えなかっただろう。
だが僕の真意は、彼に正しく伝わったらしい。分かったよ、と目が頷いた。
白銀はやっぱ良い奴だ。そして凄い奴だ。心から思う。
ここで僕を信じて素直に行動してくれる姿勢がある。すっげえ嬉しい。
僕の目線を受けて、白銀は、大きく深呼吸をする。
「四宮。俺は。――俺は!!」
一瞬で周囲に静寂が広がった。
見守る誰もが、息を止め、その次の一言を待ち望む。
四宮さんですら、その言葉と勢いに「え、まさか此処で本当に!?」という顔をした。
誰もが期待する、その告白が、白銀の口から放たれ。
「俺は! ――お前キーンコーンカーンコーンい……!」
その発言に被さる様に、盛大に学校のチャイムが鳴り響いた。
誰もが白銀に集中していた分、横やりの効果は絶大だった。
なんて言ったの!? なんて返事するの!? どうなるの!? どうなったの!?
見守ってた生徒らは騒がしい。そんな様子を眺めながら、僕は満足して息を吐いた。
大音量のチャイムは、僕の合図で紀が流した物だ。
白銀の言葉に合わせて放送して貰うよう依頼した。
周囲の皆は騒音に気を取られ、白銀の言葉は殆ど聞こえなかっただろう。
ただ一人の例外は、真正面に居た四宮さんだけ。
彼女ならば――口の動きで、彼の言葉が分かった筈だ。
『お前に、応援演説を頼みたい』。
無論、四宮さんにしてみれば「そんなことだろうと思いました」と頷ける話だ。
だが――だが、しかし。
一方で、こういう主張も出来るのだ。
『――音が大きくて聞こえなかったので、もう1回お願いします』
『――何を言ったのか改めて教えてくださいませんか』
加えて、気になったからという理由で、白銀の元に
一方の白銀も、こう主張ができる。
『――あれだけはっきり言ったなら良いだろう!?』
男気を見せたのは間違いがない。白銀への評価が下がる事は無い筈だ。
そして四宮さんの『何と言ったか』に対しては、それこそ場を改めて、演説をお願いしたいと話せば良いのだ。ここよりももっと静かで、二人きりの場所で――お願いが出来る。
校舎裏という定番の場所も良いが、もっと浪漫を求めても良い。
まあつまり、僕なりの応援でもあるのだ。
「でー、ここでかぐやさんと御行君とを見てた生徒の皆は、今後の行動に注目する。必然、投票に有利に働く……いーちゃんが応援していると分かれば、いーちゃんを支持する生徒も御行君に票を入れると」
「大正解」
話は終わった、騒ぎになる前に逃げましょう、と駆けていく白銀と四宮さん。
見送った僕の傍らで、名探偵千花は玩具のパイプを片手に名推理を披露してくれた。
「いーちゃん悪党! ワルですよこれはー」
「別に悪いことはしてない。紀には後でお詫びをしておかないといけないけどね」
マスメディア部への借りは、今まで色々と貸していた分もあるしチャラで良いだろう。
紀には個人的にちょっとだけ便宜を図る。
後は突然鳴り響いたチャイムの言い訳だけ準備すれば、それで終わりだ。
我ながら良い仕事をしたな、と頷いていると、千花が懐かしい物を見る口調で言った。
「思い出しました。いーちゃんが初めて、告白してくれた時のこと」
「あったねえ、そんなことも」
「ありましたねえ。……あの二人、どうなるんでしょうねえ」
「悪いことにはならないし、悪いことになんかさせないさ」
その為にも生徒会室に、もう1回、全員で集まらなければな。
親友ら二人の恋愛勝負・告白合戦を、一番近い位置で見ることが出来る。
それも大事な好きな娘と、一緒にだ。
これ以上に楽しく幸福な景色があるだろうか? ――否である。
「選挙期間も楽しくなりそうだ」
二人並んで逃げていく、第68期生徒会長&副会長(僕の中では確定事項だ)。
その背中を、指で作ったフレームで囲む。
良い思い出になりますように、と。
詳細を省くが結果だけを言うと、伊井野ミコは蹂躙されます。
原作勢に加えて主人公がマジモードだから無理もないね!
でも彼女の株を下げるつもりもありません。頑張って欲しいですね。