幼馴染で隣人で許嫁な彼女と惚気たい   作:金枝篇

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岩傘調は計画したい

 生徒会で旅行に行きましょー、という提案をしたのは千花であった。

 生徒会が発足してから半年。ぜんっぜん関係が進展しなかった御行氏とかぐや嬢は、此処に来て互いのアピール&告白”させる”合戦を加速させている。であれば親睦を深め、そのついでに一段階関係を発展させようと考えるのは無理ないことであった。

 

 「山だ。山が良い。都会の喧騒から離れ、豊かな自然に囲まれて、コテージでも借りてバーベキューをしよう。夜は天体観測が出来るぞ」

 「そういえば会長、天体観測が好きでしたっけ」

 「うむ。天文学者になりたい、と子供の頃は思っていたくらいには好きだ。お陰で地学は勉強しないでも簡単だな」

 

 地学は、主に地質学――地震とか地層とか岩石とか――と、天文学に分かれている。

 天体運動とか星の知識だ。男子なら好きな人も多いのではないだろうか。夏の山登りとなれば中々過酷かもしれないが、その分、夜の気持ちよさは保証されそうである。

 

 「いえ、海にしましょう。海は生命の原初……。降り注ぐ太陽……」

 

 その後は何やら小声で聞き取れなかったが、「海に行けば開放的になりますよね」みたいな話をしていたんだろう。確かに水着姿は男子を篭絡させるのに効果的だ。しかし、海か、海か……。

 

 「二人はどう思う。海と山、どっちが良い?」

 「山で」

 

 僕は即答した。かぐや嬢が「えっ」という顔をする。同盟関係を結んでいる僕が、まさか海を否定するとは思わなかったのだろう。しかし僕とて、苦手なものはある。

 御行氏は僕の言葉に、かぐや嬢には見えない位置で、小さくガッツポーズをしていた。

 ちょっと眉を顰めて、僕に疑いの目を向ける。

 

 「まさか泳げないとかではありませんよね……?」

 「泳げますよ。水泳のタイムは悪くありませんし、遠泳なら自信はあります。ただ、単純に海が苦手なんですよ。海って、足付く距離が限られてるじゃないですか。……見えない届かない足の下に、何があるのか分からない、ってのが嫌いなんですよ」

 

 僕の主張に、ほーんと皆が頷いた。なんとなく分かって貰えたらしい。

 同時に僕はそういえばと思った。

 

 (御行氏、泳げたっけ……?)

 

 我らが生徒会長は、意外な程に運動音痴なのだ。

 夏の体育、水泳は体操などとの選択式だ。プールサイドと、クーラーが効いているとはいえ暑い体育館での授業、どっちが気持ちいいかと言えば前者に決まっている。故に体操などはあまり人気は無い。水着を見せるのが恥ずかしい女子は選択することが多いが、男子では珍しい。

 

 個人の自由とはいえ珍しい選択だな……? と思っていたら

 『すまんが体育の練習に付き合ってくれ』

と言われたのである。それが、昨年の事だった。

 

 当時から友人だった僕は、一も二もなく快諾し、手伝った。……手伝ったのだが、彼は筆舌に尽くしがたい運動音痴であった。ちょっと頭を抱えるレベルだった。それでも彼は死ぬ気で努力していたので、僕は一週間、その話を他の誰にも話さず、真摯に練習に付き合った。

 結果、彼は無事に体操などが出来るように成長したという経緯がある。

 その執念と努力、熱意は、僕が御行氏を尊敬するのに十分であった。

 

 その例から考えるに、彼はもしや泳げないのかもしれない……。……まあ追求しないでおこう。いざという時は、僕や石上に相談しに来るだろう。

 

 さておき。

 プールは大丈夫だし、心地よい全身運動になるから、水泳は好きだ。瞬発力は無い僕だが、持久力は割とある。水泳に限らず、陸上でも同じ。100m走は早くないが、体力測定の1500m走も、初等部時代のシャトルランでも評価はAまたはBだった。体質なのだろう。

 

 しかし、それと海が得意なことは違う。怖いのだ。自分の足の真下に、何か怪しい海の生物が存在するんじゃないか、と考えただけで寒気が走る。近くに島があるフェリーへの搭乗や、大型客船での移動するのはまだ許容できるが、直に泳ぐのだけは本当に苦手だった。

 

 「そうかそうか、岩傘広報は海がダメか! ならばやはり山だな。生徒会の全員が楽しめる方法を模索するのが健全というものだ」

 「えー、私は海が良いです」

 「「!?」」

 

 バッ、と互いに千花の方を向く。彼女はいつも通りのほんわか笑顔で、海派に付いた。

 それでこそよ、とかぐや嬢が小さく(勝った……)みたいな顔をしていた。

 

 「足が届く距離で遊ぶだけなら良いじゃないですかー。それに海には夏しかいけませんよ?」

 

 「……潮風は肌に悪いぞ? それに観光客も多い!」

 これは御行氏。

 

 「鮫とか……ダイオウイカやクラーケンとか……ダゴンとか……出そうで、ヤダ」

 こっちは僕。

 

 「四宮家のプライベートビーチを使いましょう。温水シャワーも30秒の距離です。一流のエステティシャンを呼ぶので日焼けや髪のケアも万全。鮫ハンター(フロリダ出身)や邪神ハンター(アーカム出身)を呼ぶ用意もしておきましょうね」

 

 男たちの意見を、かぐや嬢はばっさりと切り捨てた。

 

 金持ち(ブルジョワ)め……! と御行氏と僕の意見は一致する。

 この刹那、僕と御行氏は同朋だった。

 かぐや嬢には悪いが、男の友情とて大事にしたい!

 何とか……何とかならないか……!? と思考を巡らせる。

 苦手なものは苦手なのだ。こればかりは、千花が海派であったとしても譲れない……!

 この対立には勝たなければならない……!

 

 「調さん調さん、私の新しい水着、見たくありません?」

 「よし海にしよう」

 「!?」

 

 10秒前までの意見を翻して頷いた。

 御行氏が『お前ええええ!』という顔をしているが無視。

 

 悪いな、好きな人とのラブ空間は、友情よりも重い。

 

 そうだよな! 海だと千花の水着が見れるもんな!

 今まで、タンキニもパレオ付きビキニも、うっかりで下着姿までも見た経験がある僕だが、此処は初心に帰って彼女の水着を堪能するのも悪くないよね!

 四宮家のプライベートビーチなら、たわわなスタイルを他の男に見せずに済む!

 

 海に限らず、観光客が大勢いる場所に行くと、千花はナンパされるのだ。

 ほいほい付いていく程に軽い女ではないし馬鹿じゃない。断る社交辞令が上手いのは知っている。だが世間の雑草みたいな男の中は、そんな彼女の気持ちを無視してぐいぐい来る奴もいるのだ。今までは藤原家の護衛とか、憂さんとかが周囲を伺ってくれていたので、被害は無かった。だが可能性は減らしたいのだ。千花が寝取られるとか想像するだけでゲロ吐くぞ。

 

 四宮家のビーチなら、そんな心配もすることなく、水着姿で惚気て、砂浜で追いかけっこ。これは良いぞ。ベッタベタだが逆に良い。

 

 「そうだな、二人っきりでイチャイチャする頻度は最近少なかったからな」

 「そうですよ! 去年の水着も入らなくなりましたから。新しいの選びに行きましょうね!」

 「いえ、やっぱり山にしましょう」

 「「!?」」

 

 今度は、僕と千花は揃ってかぐや嬢を見た。

 かぐや嬢が、死んだような目で山に鞍替えしていた。おかしい、さっきまで確かに彼女は海だった筈。水着で解放的になれば御行氏を……と考えていたのではなかったか!?

 

 そこまで考えて悟った。

 ああ、そうだよな。かぐや嬢、美人でスタイル良いけど、胸部装甲は千花に大差で負けている。それを気にしたのだろう。比較されるものな。分かる。

 

 僕の思考を呼んだのか、怨霊みたいな目で睨まれた。

 

 いやいや、僕の思想とすると、別に胸部装甲の差は、女性的魅力においては二次的なものだ。僕は千花が巨乳だから好きなのではない。千花が貧乳だろうとも構わない。確かに抱きしめた時に良い感じにやーらかいのは否定しないが、細くても小さくてもそれはそれで有り!だ。

 

 二次性徴前の初等部時代や、実家がごたごたしていた中等部時代にも、千花を抱きしめたことはある。今とは全く違う感触だったが、その時も、とても幸せな気分になったものだ。

 

 御行氏とて同じだろう。比較対象に千花が居たとしても、むしろ好きな相手……かぐや嬢の清楚な水着姿は十分に魅力的に映る筈だ。というか惚れた女子の水着を見て喜ばない男子はいない。断言しても良い。かぐや嬢の心配は杞憂であろう。

 

 ……が、それはここでは言えないなあ。その話は出来ない。御行氏が傍にいる現状、フォローしようがなかった。気にしてる話を公の場で口に出すのはデリカシーに欠ける。御行氏に同意など求めようものなら、僕の寿命が縮む。物理的に。

 

 「海は潮風があって肌や髪に悪いし、人も多くて鮫やクトゥルフが出ます。山にしましょう」

 「さっきと言ってること違いますよ!? あと邪神は出ませんからね!?」

 

 千花が鋭く突っ込むが、かぐや嬢の意見は翻りそうもない。

 山派と海派、対立は続くかと思われたその膠着状況は、唐突に終わりを告げた。

 ずっと黙っていた石上会計が、呆れたように一言告げたのである。

 

 「河に行けば良いんじゃないです? ……仕事終わったんで帰ります」

 

 たった一言だけで気勢を削いだ会計:石上優は、無言で生徒会室から出ていく。

 流石、正論でマウントを取って殴る男。

 ……せやな、と一行は顔を見合わせて頷き、結局この話は、夏になるまでお預けとなった。

 

 御行氏とかぐや嬢の意見が揃って山だった、と気付くのは、その日の解散後だ。 

 これもしかしてナイスアシストしてたんじゃないか?

 

 ◆

 

 そんな会話をしたのが昨日の事。

 夏の計画はまだ先だなーと思っていたら、千花に「水着を買いに行きましょう」と誘われたのだ。今は四月の終わり。夏まではまだかなり時間がある。

 

 ちょっとばかり気が早いのではないだろうか?

 確かに千花の水着は気になるが……、と答えると、彼女は胸を張って宣言した。

 

 「ゴールデンウィークがあるじゃないですかー。そこで旅行に行きません?」

 「なる。東南アジア辺りなら旅行費用も安いし距離も半日かからないな。行くか」

 

 即決した。

 流石に財閥には負けるが、世間一般でいう十分にお金持ちの部類に入る藤原家。総理大臣の年収は約3500万円くらいだし、政治家の平均給与額は月収100万円くらい。加えて、政治家は特殊な公務員。副業が許可されている(というか仕事で名声を上げて政治に入る人間の方が多い)。政治以外できっちりお金を稼いでいるので、資産はかなり多いのだ。

 僕の家も、秀知院に入り肩身が狭くない程度には余裕があった。

 

 「じゃあ早速ですよ、水着です水着。善は急げです。シーズン的にはちょっと早いですが、海外旅行をする人の為に、需要はあるんですよ。それに、女の子はいつでも可愛い服が欲しいんです。見て貰うなら猶更に!」

 「なるほどね? しかし女性の水着売り場に男が居るのはちょっと居心地が悪いなー」

 「下着売り場に行くよりは良いじゃないですか」

 「それは確かにある」

 

 と言う事で、割と高めの衣類を扱う大型店舗の、水着売り場にやって来た。

 最近はネット通販も発達していて、僕もちょいちょい利用しているが、やはり実物を見て選ぶのは大事だ。サイズとか微妙な着心地とか、何より通販の買い切りと違い、その場で沢山のバリエーションを比較できる。

 

 千花は、気に入ったらしい二種類ほどの水着を選び、更衣室に入っていった。

 何やら実家から持ってきたらしい荷物と一緒だった。コーディネート用だろうか?

 

 楽しみに待ちながら、どこに行こうかな、と思いを馳せた。

 観光リゾートとして開発されている東南アジアなら、場所にさえ注意すれば治安の問題はあんまりない。きちんとしたガイドを雇って、藤原家・岩傘家の人間から護衛なんかを手配すれば犯罪に巻き込まれることは無いだろう。

 あの辺は小島も多い。ビーチを使う際に、人が居ない場所を選ぶことも出来る。

 ……ちょっと、いやかなり、心が躍るな?

 

 「いーちゃん、着替えましたよー。見て下さいな」

 「ん」

 

 しゃっとカーテンを開けて着込んでいたのは、ワンピース柄の水着だった。腰の下がスカート状になっていて全体的な露出は抑え目だ。肩こそ出ているが、首から腰下まで隠れている。

 しかしながら……。

 

 「……太腿……」

 「そうなんですよー、最近少し、この辺がぷにっとしちゃって……って何言わせるんですかもう! 女の子に体系の話をするのはデリカシーに欠けますからね?」

 「いや、白いし、良いなと」

 

 そういえば膝枕も最近して貰ってないな……。

 やって欲しいリストに追加しておこう。そうしよう。

 僕は意見を述べる。

 

 「可愛い。ただ柄があったとしても、もうちょっと華やかな方が似合うと思う。折角スタイルが良いんだから、あんまり隠すのは良くないかなと。学園とかで着るなら配慮しないといけないけど、そういうんじゃないし」

 「なるほどー。そう言うと思いました。敢えて最初は地味な奴から選んだんです。やっぱりこれじゃーダメですね。次です!」

 

 シャーっとカーテンが閉められる。その奥でごそごそと水着を脱ぐ音が聞こえてきた。更衣室の床とカーテンの隙間、微かに空いたスペースで、布達が床に置かれたのが見えた。

 

 ……このカーテンの向こう側、千花は素っ裸なんだよな……。

 

 ムラムラする感じは無い。少なくとも今は。

 いや興味がないわけじゃないよ? 性欲だって人並みにあるとは思っている。エロ本だって持っている。ただ千花は、身近過ぎて、親しすぎて、強い劣情を催さないのだ。今はまだ。

 いや、雰囲気が高まれば分かんない。その場の勢いとかあるらしいし。あーいうの。単純に僕の理性が今は勝ってるだけかもしれないし。

 

 「はい、じゃー次ですよー」

 「おー、……!?」

 

 次に出てきたのは、ホルダーネック型だった。首の後ろで紐を結んで固定するビキニ。下半身は、やはりフリルが付いたスカート型だ。胸部を覆う布地の面積は少なくないが、さっきと追加でおへそ、そして綺麗な背中がほぼ全部見えている。真っ白い肌が追加されて、さっき以上にクラっと来た。

 加えて……制服の上からでもわかっていたけど、千花は腰が細い。というかお尻が大きめだ。出るところがしっかり出ているので、腰の細さは普通でもメリハリのある体形なのである。

 

 「……ううむ……」

 

 黙り込んでしまった僕に何を思ったのか、千花は僕を手招きした。誘われるがままに近寄ると。

 

 「えい」

 「!?!?」

 

 彼女は僕の手を取って、腰の部分に手を添えさせたのだ。

 

 ……おう、なんだこれ、やばいな!?

 いや言葉に出来ないけどやばいな!?

 ちょっとアピール強いぞ今日!?

 

 別に胸や尻を触ってるわけじゃないのに、掌に感じる、感触が凄かった。

 果実が持つ瑞々しさと、ハリにがありながらも絹のような肌触り。

 仄かな温かさが手から伝わってきた。

 撫でたくなる。超撫でたくなる。そのままずっと触ってたくなる。

 それをすると流石にTPOに反するので必死に自制したが、僕が固まっている顔を見て「してやったり」と千花はニコニコしていた。

 

 「この辺はお肉が減ったんですよ。頑張ってランニングしてるんです!」

 「……。……御免、ちょっと御免、これ刺激が強い……死ねる……」

 「ワザとですよ? ここ最近は、いーちゃんに主導権を握られることも多かったですからね。 お返しですよー。それじゃー最後に着替えるので、ちょっと待ってて下さいね?」

 

 ダメだ。完全に翻弄されている。 

 今までは割と僕が攻める側に回っていたが、ガンガンに攻撃されているのが分かった。千花は時に、強かでちょっと狡い、小悪魔のようなイイ性格(性格が良いではない)になるが、まさにそれ。天然だのIQ3だの言われている彼女だが、人間を篭絡させる技は、ハイレベルだ。

 

 次は何が来るんだ、と身構える決める僕だが、この時点で大分、負けを覚悟していた。二番目で既に足がガクガクだ。ここで刺激が強い奴が来たら、下手すると鼻血が出かねない。

 しかし――。

 

 「お待たせしましたですよ。ふふふ、ご覧あれ……と言いたいんですが、ちょっと恥ずかしいので、こっち来て下さい」

 

 シャーっとカーテンは、開けなかった。代わりにちょいちょいと手招きされる。

 その仕草を前に、引き下がる事は出来なかった。

 

 これは――

 これは、覚悟を決めるしかない!

 

 これは千花からの挑戦状だ。

 逃げる事は許されない。負けるつもりもない!

 

 僕は努めて冷静さを取り戻せるように深呼吸をした。

 そして推測する。

 

 今までの感じから判断するに、よりインパクトがある奴だろう。

 おそらく露出が増える。

 所謂「普通のビキニ」を想定して……。打ち消した。

 いや、それじゃ足りないな。まず紐ビキニにしておこう。今までは下の水着がスカート風だったから、そういうのがない、鼠径部が見えそうな際どいラインの奴と仮定する。

 頭の中でイメージし、頷いた。よし、これなら耐えられる。

 

 何でも来い……!

 俺は揺らがないぞ……!

 

 意を決してカーテンの中を覗くと――。

 

 「ちょっとキツいですねー、やっぱり」

 

 スク水だった。

 スクール水着だった。

 胸元には「ふじわら」と平仮名が書かれている。

 

 かふっ、と胸から情熱とか感動とか衝撃とかが駆け巡って心を叩きのめす音が聞こえた。

 

 なんというか色々溢れそうになっている。窮屈に収まった水着の下がはちきれそうだ。

 童顔な彼女は、天真爛漫に笑い、どうですー? と首を傾げられる。反応しようと思った瞬間、プチっという音がして、スク水の肩紐がちぎれた。

 布地がぽろっと捲れて、胸の上半球が――露わに――。

 

 ……。

 …………。

 …………………それからの記憶は定かではない。

 

 ただ、分かっていた。心から理解していた。感動までしていたかもしれない。

 

 負けた。

 敗北だった。

 完膚なきまでに叩きのめされた。

 恋愛に勝負があるなら死体蹴りまでされていた。

 僕は燃え尽きたように真っ白になって、売り場の横にあるベンチに座っていた。

 

 インパクトが強すぎてそこから先は茫洋としか思い出せない。

 

 水着の序に色々買い込んだ千花の荷物を持ったこと。

 店員さんの生暖かい目で送り出されたこと。

 そして彼女の言葉を、記憶している。

 

 「心配してるようだから言っておきます。いーちゃん」

 

 「私、他の人とか――会長とか、石上君とか、他の男の子とか、……そういう人を相手にするなんて考えたこと無いです。 今日のアピールで分かってくれましたか?」

 

 「正直、うんと、うーんと恥ずかしいんです! あんな格好して、頑張って誘うの、勇気が要りました。初めてです。でも、いーちゃんを思ったら勇気が出るんです。ずっと昔からそうなんですよ?」

 

 「だから、今も待ってます。今も楽しみにしてるんです。いーちゃんが惚気てくれるのを。もっと色々考えて、色んな方法で私と惚気てくれるの、待ってます!」

 

 顔を真っ赤にしながらも、帰宅していった、彼女の言葉が、残っている。

 

 頑張って計画を立てよう、と僕は思った。

 

 今日は完全に僕の負けだ。

 ならば……今度は負けないからな!?

 千花が動けなくなるくらいに惚気る計画を立ててやるからな……!?

 

 これは、恋愛頭脳戦ならぬ――

 

 恋愛惚気合戦だ!

 

 ◆

 

 翌日、冷静になった後、死にたくなった。

 

 なんだよ恋愛惚気合戦って!?

 馬っ鹿じゃねーの!?

 

 ……でも、なあ。千花に期待しているって言われちゃったからなぁ。

 良いだろう。

 今度は、僕がやり返す番だ。

 待ってろよ藤原千花……!

 負けたって言わせてやるからな……!

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