青年1
✕月〇日
昔ここで生活していたのに新鮮さを感じる。
それこそ初めてそこへと辿り着いたかのように。
全てのものが色褪せており、無色だったあの頃の風景とは似て非なるものである。
漠然とした目的を持って飛び出した迷宮都市。
二度目に訪れた今回は、どんな刺激をくれるのだろう。
主神への報告の第一声は何にすればいいのだろう。
オラリオのシンボルであるバベルはもう目視できる。
およそ3年。
×月・日
門番がド肝抜かれた顔をしていたが……まぁ、許容範囲だろう。
嫌われ者が帰ってきたんだ。嫌な顔をされるのは仕方ないことだろう。
その点に関しては昔から変わらない。俺の心が変わってもそれに関しては揺るぎようがない。
結局の所、今も昔も……精神面はとうに達していたのだろう。
街を歩けば
……なんというか。
いや、今に始まったことではないのでそこまで重要視するつもりは無いが……。
こうして見ると神の土下座というものはオラリオならではなのだな。
主神の
とりあえず声をかけたのだが、俺自身もハデスヘッドを装備していることを忘れていたので二柱に驚かれた。
主神にはやや呆れられながら笑われた。
そしてとても優しく。
「おかえり」
そう言われた。何故だろう。途端に湧き上がったこの感情は……。
答えを
これが──。
そして、穀潰しも土下座しながらだが「おかえり」と言ってくれた。
ことある度に暇つぶし相手やらファミリアの勧誘やら、世話になってい……世話してやっていたのでこうみると懐かしいものだ。
とりあえずこの修羅場がどういった経緯でのものかを聞いたところ。
穀潰しがファミリアを作り、初めての子供だからと主神に武器を作って欲しい。
とのことでこうなっていることを知った。
一度主神に俺が打ってみるのはどうか?
と聞かれたが…。
「俺は今でもベートと契約をしているつもりだ。ベートから契約を破棄した訳でも。まして俺が契約を破棄した訳でもない。だから俺がその子に作ってはあげられない」
そう言うと主神は驚いた目でこちらを見た。
「驚いた。あなたのその言い方だと契約が無ければ造っても構わない。ということよ。随分とこの三年で丸くなったわね」
………。
確かにそうなのかもしれない。
ここを出て3年。色んなものに悩まされた。考えないよう、それから目を離してきたあること。
なんてことの無い……ただ、いつもの様に勝手に分かった気になって。勝手に分かり合えたと思って。繋がりをできたと思って。
そして自分で勝手に失望する。
少し脱線した。
色々と思うところがある。
だから、あの時俺は主神へこういった。
「なに。少し戻っただけだ」
この一言がどれだけ皮肉めいていたのか俺やあのエルフの長以外知る由もない。
しかし、あの時チクリとした胸の痛みを今は感じることは無かった。
結局主神は穀潰し、改め紐神の願いを叶えるのだった。
ある種の茶番を見せつけられ、少々溜息がこぼれる。どうも主神は
聞いたことの無い分割払いを目の前でされた。
少し同情してしまったのは伏せておこう。
何やかんや主神が武器を作り始めたので、俺は退室することにした。
神の御業も生で見ることは滅多にないが──聖剣の為となればそれは必要ない行為だ。
「鍛冶場はちゃんとまだあるわよ。あの子があなたがいない間に掃除してくれてたわ」
主神にそう言われ、脳裏に何人か過ぎった。
一番可能性が高いのは椿。同じ鍛冶師でもあるので、月に一度くらい掃除をしてくれていたかもしれない。
そして次はアミッド。あいつもあいつで忙しいので望みは薄そうだが、俺の数少ない友なのでもしや。
あとは………二人ほど理由を持つ人はいるが。如何せん別れ際が酷すぎたため無いだろう。
「誰だ?」
考えた所でわからない。
いっそ聞いてしまおうと思い、俺は主神に聞いた。
すると
「自分で会って確かめなさい。あの子はあなたがいない三年間もあの場所の面倒を見てくれたのよ。ここで私が教えるのは
その言葉を聞いて、何となく確信した。
主神は多分分かって言っているのだろう。やはり、自分の子供に甘いな。
本当に……いい
主神の部屋から出るついでに狐の面を取った。
いつまでもハデスヘッドを被る訳にも行かない。何人かオラリオでも仮面を付けている冒険者はいるのでやや好奇の目で見られるが、素顔よりはマシだろう。
いや、今考えると極東の衣装に狐の面となると。
少々奇抜だったと自覚している。
まぁともかく。工房へ着いた。
確かに外観からして清掃は怠ってないみたいだ。もっと埃が被っていても不思議ではなかったのだが……それは友のお陰だろう。
久しぶりにドアに手をかけた。
本当に久しぶりだ。
自分の工房だからかそれを強く感じる。
ドアノブに手をかける角度が、自分の体の成長を感じさせる。
帰ってきたんだな。
今はそれ以外考えられなかった。
ガチャりとドアを開けて一望する。
するとそこには友がいた。
一度治療を受けてから恩返しとして護衛をした。
その元護衛対象。
本当にあの時は何も思わなかった。
だけど、あの時の俺は愛されている彼女から何かを学ぼうとしていたのかもしれない。
今となっては知る由もないが……。
憧れてたんだと思う。
嫌われる自分から、愛される彼女に。
皆から愛される彼女のことを。
「お久しぶりですロットさん。そしてお帰りなさい」
「ああ。ただいまアミッド」
そこに居たのは数少ない友人、アミッドだった。
久しぶり……と言うのは少し気が引けた。三年しか経っていないが、やはりヒューマンの成長は早い。
アミッドも例外に漏れず、背丈などが大きくなっていた。面影は残るが、しっかりと美人になっている。
だから久しぶり……というのはしっくり来ない。
だから──ただいま。だったのかもしれない。
言葉一つ一つには意味がある。
言葉とは時に刃よりも鋭い、極東で教えて貰った言葉だ。
だから言葉には気を付けなければいけない。
自分よりも他人……。
これといった会話は殆どせずに、2人で食事をとりアミッドは帰って行った。
とても懐かしい感覚だった。
出来れば次はベートも入れて飲みにでも行きたい。