〇月?日
ベートが19歳を迎えた。因みに僕は12歳になった。
久しぶりに日記を書く気がする。何時ぶりだ?……確か魔剣ではなく聖剣を目指すようになってからか。
魔剣は元より金さえ払えば手に入れられる物で、数多くの人がその力と使い方を知っているが…。
聖剣に関しては何もわからない。斬った相手の傷が癒されるのか、はたまたモンスターしか斬れないのか。もしくはビームが出るのか。
今も尚、成果をあげることは出来ていない。
まぁ今はそんなこといいか…。
ベートによく連れていかれる豊穣の女主人に今回も飯を食うために呼ばれた。狼族は一人を好むって習性はどうやら嘘みたいだ。
どうやら今日はヤケ酒らしい。
何でもアイズに構ってもらえないやら、最近アイズの周りをうろちょろしてるエルフが居るなど。
色々と面倒だ。「雑魚がアイズの周りをうろちょろしてんじゃねェ!」と酔いながら何度も怒鳴っていた。
周りに凄く迷惑をかけていたと思うので、女将さんになるべく強くて高い酒を貰いベートに注いだ。あいつはそこそこ酒には弱い方なので30分くらいで潰れてくれたので助かる。
ガレスや椿クラスになると、朝まではかかる。
アイツらと飲みに行った記憶は早々に忘れたい。別に何かしたという訳では無いが…。泣いたわけでも無意味に絡んだ訳でもないけど。思い出したくはないな。
酒は好物と呼べるものだが、僕は酔わない…いや、酔えない─か。
〇月☆日
ベートの所の団長が僕を訪ねてきた。
ベートと仲良くしてくれてありがとう、やら社交辞令を一通り終わらせると話題は急展開を迎えた。何でも、アイズの剣を見たらしく打って欲しいとのこと。剣ではなく槍ならば大丈夫だとベートからも言われたのできた。そう言われた。
しかし、槍は作ったことがないという理由で断らせてもらった。本来ならLv6の【
別段、フィンのことが嫌いという訳では無い。
ただ、回り道をができるほど僕には余裕が無い。
やはり彼もダメ元できたらしく、そこまで落ち込むことは無かった。
そして最後にフィンから「エルフが憎いかい?」
と聞かれた。意図はわからないが僕は思った通りに答える。
「どうなんだろうな?」
確かに彼等のおかげで怒りという感情が理解出来た。そして少なからず感情が残っていることも教えて貰えた。
どうなんだろう?感情かがあると分かっただけで、理解は出来ていない。時折胸が締め付けられたり、穴が空いたりと心がざわめく。
それは感情なのか?
分からない。
フィンへの問いに、僕は答えられるだけのココロを持っていない。
僕はエルフを憎んでいるのだろうか?
〇月^日
少しダンジョンに潜ることにした。
ベートを連れていこうとしたが、外出中との事なのでソロできた。僕もLvが以前と比べると上がったので中層は勿論のこと、深層も問題ない。Lvが上がったと言うよりも、折れない魔剣という絶対的な味方がいることが何より大きい。
ダンジョンで火柱が上がる。と前までは言っていたが、焔だと周りへの被害が計り知れない。というのもダンジョンは破壊しすぎれば、抑止力としてあるモンスターが召喚される。
なんて事のないLv5相当のモンスターなので問題は無いが、出来れば戦いたくない。既に奴の爪は採取してあるのでこれ以上狩る必要もない。
とまぁ、それらの理由から焔ではなく氷を使っている。
市場で出回るのは火しかない。他の属性が任意で操れるようになったのは最近だ。つまり魔剣は火以外にも打てるということが証明された。
目当てのミスリルも入手出来たことだし帰ろう。
〇月!日
ベートに呼ばれた。何でも短剣を作れとのこと。
断ろうとも思ったが、直接契約をしているベートの要望に応えないのも何かと思い造って。
何故なのだろう……。
信条があったと思えるし、剣を渡したくないという気持ちもある。
なのに何故渡したのだろう、僕は変わってしまったのか?
……分からない。
確かロキファミリアが遠征に行くそうなので、暫くは空けるそうだ。
別に僕から出向いたことがないので無用だろう、と言えば激しく怒られた。蹴られた太腿が非常に痛い……解せぬ。
〇月^日
オラリオを出ようと思う。
理由は一つ。
聖剣へ辿り着くために、オラリオだけでは足りない。もっと視野を広めなければ行けないと思うからだ。魔剣を克服し、新しい目標も手に入れた。主神も超えろと言っている。
初めて出来た居場所から離れるのは少し忍びないが、それもまた一興と言うやつだろう。
主神に伝えたら、驚かれ反対されたが意志を見せた時渋々ながら了承してくれた。
三年、それが条件だそうだ。
旅の支度を始めた。
十振りの剣に、少しの金、そして主神しか知らない発展アビリティ《神秘》を用いて作ったマジックアイテム。と言っても武器になるようなものではなく、補助することをメインとして作ったので、戦闘スタイルが変わった訳では無い
認識阻害の兜に、生きていない物質を大量に詰め込める袋。
作れたのはそれだけだ。
旅をしながら、必要ならばもう少し増やそう。
最後にベートに挨拶してから出よう。
遠征は確か来週迄あったはず、最後にミスリルを使った装備を渡してからオラリオをでよう。
〇月!!日
初めてロキファミリアのホームに来た。
最後くらい僕から出向いてやった、感謝しろ。さておき昨日豊穣の女主人で宴会をしていたと情報があったので、翌日に訪ねた。
門番に騒がれたが、問題なく入れた。敵対するつもりは無いが、こうも睨まれたら剣に手を添えるのは仕方の無いことだろう。
特に前回あったアマゾネス。「団長の依頼を断ったのはどういう了見だぁゴラァ!」とキレられた。
流石【怒蛇】凄まじい殺気を感じる
そしてもう一人は緑色の髪のエルフ。
これは睨んでいる、というか何かを懐かしんでいる?なんだろう、初めて向けられる感情の類だ。僕は知らない。
そして、最後の一人は安堵だった。
後ろ一本に髪を結び、どこか懐かしいような顔。何年もあっていないが、直感で誰かを理解できた。
間違いないだろう。僕はこの
強く抱きしめられた。力の限り、レフィーヤは僕を抱きしめた。魔道士にとって命とも呼べる杖を投げ捨てて。
周りがざわめきく。ベートは声にならないような声が漏れており、少し前までキレていたアマゾネスも豆鉄砲をくらったような顔をしている。恐らくここの神も驚いていた。
耳元からすすり泣く声が聞こえる。
「もう誰も生きていないと思ってた」
レフィーヤのその一言で僕は全てを悟った。
「そうか、何も知らないのか…」
僕とレフィーヤが住んでいたのは、本来のエルフの森ではない。クロッゾの魔剣によって森を焼かれたエルフ達が作った代用品の森でしかない。大半のエルフはもっと広々とした森へと移動したが、約100人くらいは次の襲撃を恐れてその場に留まった。が、その小さな森も狙われる可能性が無いわけじゃない。そこで僕に白羽の矢が立った。
目には目を
歯に歯を
魔剣には魔剣を
困ったことに僕はそれ以前の記憶が無い。だけどそれについては、もう1人のエルフが教えてくれた。
「よかった、ロットだけでも生きててくれて」
そう言って今にも泣き崩れそうなレフィーヤを僕は、
「え…」
その行動にレフィーヤは動揺を隠せなかった。
それもそのはず、今まで、森にいた時からは考えられない行動をとったからだ。
レフィーヤは理解が追いつかない。
「レフィーヤ、いいことを教えてあげよう」
そして僕はレフィーヤに追い打ちをかけ、ドン底へと落とす。
彼女は今どんな心情なんだろう。やっと見つけた生き残り、その一人が元凶だと知った時、彼女はどんな顔をするんだろう。
「あの森を焼いたのも、エルフを虐殺したのも僕だ」
開いてはいけない扉を開いてしまった。
タブーに触れる行為。それに他ならない。
もうレフィーヤは考えが追いついていない。思考が止まってしまっている。
何が目の前で起きているのか理解できていない。
ただレフィーヤは目に精気を無くし、涙を流している。
「どういうことだ!」
緑色の髪をしたエルフが怒鳴り声を上げた。
噂ではこの人はエルフの王族様らしい。そんな人には分からないだろう。
「どうもこうも、ありませんよ」
これまでの仕打ちを教えてあげた。
僕が森でどんなことをされていたのか、レフィーヤが森から消えてから何をされたのか、どうして焼き払ったのか…それらのことを細かく教えてあげた。
レフィーヤはその場で嘔吐してしまう。
あまりの惨さに、王族様は信じられないという顔をしている。
しかし、その希望は神によって砕かれる。
「ウソは、ついてへんな」
神には真実か嘘か見抜くことが出来る。
それが更に追い討ちをかけることになったんだろう。できれば否定して欲しかった2人。
「…そんな、父上は」などと王族様は分からないことを言っている。
周りの面々も僕への同情と軽蔑の色で埋まってきた。
そろそろ用件を済ませて出ようとする。
元よりそのつもりで来たのだ。他に意味は無い。今日はレフィーヤに会いに来たわけでも、王族様に会いに来たわけでもない。ベートへ餞別の品を渡しに来たのだ。
「まて。お前は、その森より以前の記憶がないと言ったな。そして名前の一部も消えている」
王族様がそう言って僕の興味を惹かせた。だがそれでは足りない。
そんなもの必要ないし興味もない。
「何故だかお前には知る権利がある」
「必要ない」
「聞け!」
「お前の本名は、《ランスロット・ヴァン・アールヴ》私の弟であり王族だ」
ずっと胸に秘めていたのだろう。
嘘偽りはない。神でないが僕にも分かる。
だが、さっきも言ったように必要ない。
「僕に家族はいない、あるのは居場所と片手で数えられるほど少ない
僕がエルフ達から迫害を受けていた時お前は何をしていた?
僕が拷問を受けていた時お前は何をしていた?
モンスターと戦わされていた時は?」
「何もしてないよな、答えはそういう事だ。お互い不干渉ということにしよう」
そしてやっと本来の目的だったモノを取り出した。
ベートは珍しく動揺していたが、装備を受け取る。何も言わない、いや何も言えない。
僕は自分語りをするタイプではなかったから、彼もまた僕の過去には興味無い。剣を作る理由などは聞かれたがそれくらいだ。
「待ってもらおう【
呼ばれたのは僕の二つ名。
僕の武器を盗み出した馬鹿どもを半殺しにした時、相手方のほうがあることないこと証言し悪者に仕立てあげられた僕の忌み名。
「どうしたフィン」
「もう少しだけリヴェリアとレフィーヤに話をしてやってくれ。彼女達には言葉が必要だ」
二人を交互に見る。
その背中は弱々しくとても小さい。
「一度しか言わない」
僕は剣を握り締めた。
同盟しているファミリアでの戦闘をしようとしている。ベートは悟る、これはハッタリではないと。
「そこを退け
「待ってください!!」
その緊張感を潰したのはレフィーヤだった。
弱々しく、今にも崩れ落ちそうだったレフィーヤは自力で立ち上がり僕の前に立った。
それは凄いことだ。
だが、何故だろう。
これではまるで、昔の僕にしてくれていたようではないか。
僕が森のエルフで、それをレフィーヤが守る。
何故だろう、この喪失感は。
…ああ、そうか。
レフィーヤ、君はもう……
僕の味方じゃないんだね……。
「レフィーヤ、もう僕のことは忘れた方がいい。お互いそうしよう」
僕はなんの希望もなく、
次からは原作ですね、多分。
感想ください。