魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

2 / 74
 主人公は行方不明。
 ヒロインは未登場。
 そもそもこの作品を読んでくれている人がいるのか……。
 


第2話 AD2003 人間の条件、化物の条件

 その日、海鳴市郊外の廃工場は人で賑わっていた。

といっても集まっているのはガラの悪い連中ばかりなのだが。

 

「なあ、俺らの目的ってこの紫髪の嬢ちゃんだけだよなあ、見られたからって言ったって他のガキ攫うの面倒くないっすか?」

「何言ってんだよ、こっちの金髪はバニングスの令嬢だ、それにこの二人のお友達なら親はいっぱい金持っているはずだろ? ついでに稼ぎゃあいいんだよ、ついでによ」

「それもそうっすね」

 

 下卑た会話を繰り広げる連中にアリサ・バニングスは憤慨し、月村すずかは恐怖し、高町なのはは戦慄した。

 もう二人誘拐された子供がいるのだが、銀髪で帽子をかぶった二人はなぜか寝ている。

 ソフト帽をかぶった少年には額に縦に傷がある。

 少女はカンカン帽をかぶった前髪ぱっつんだ。

 2人は呑気に寝息を静かに立てている。

 その様子に3人は呆れ、わずかにではあったが緊張がほぐれていた。

 

「ちょっと! あんたたちこんなことしてただで済むと思ってんの!」

「ただで済むからこんなことしてんのさ」

 

男の1人がアリサに拳銃を向ける。アリサはひっと息をのむ。

 

「俺らのスポンサー様は偉大な方でよ、ここまでやらかしても俺たちの安全を確保してくれるのさ。優しくて涙が出てきそうだ。そうら、スポンサー様のお出ました」

 

 男の声と共に白スーツの男が入ってくる。

 

「氷村のおじ様……?」

「久しぶりだな、すずか」

 

月村すずかは怪訝な顔で白スーツの男、氷村を見つめる。

 

「氷村のおじ様、どうしてこんな……」

「いや、なに君の家に話があるのさ。だというのに君の家は一向に私の話を聞いてくれないからね。こうするしかなかったのさ」

 

「何がこうするしかなかったよ! こんなことして!」

「黙れ」

 

 男たちが一斉に銃を構える。

ひいっと悲鳴が上がる。

 

「やめて! みんなに手を出さないで!」

 

すずかが泣きそうな顔で懇願する。

 

「それは月村の返事次第だ。夜の一族を統べるのが誰なのかそれがはっきりしてからだ。それにしても、そのような下等種どもとつるんでいるとは、月村も落ちたものだな。吸血鬼の、夜の一族の誇りを忘れた面汚しが」

 

 氷村の言葉が放たれた瞬間、遂にすずかは静かに泣き崩れた。

 

「吸血鬼……?」

「そう! 人間を遥かに上回る知力と体力! それを維持する代償としての吸血衝動! 紛れもなく私とすずかは夜の一族、吸血鬼さ」

 

 なのはの言葉を受け、氷村は歌うように己の出自を語る。

すずかの涙を気にしないかのように。

 

「だというのに! この僕を差し置いて月村を頭にするだと! 信じられない! 誰よりも優秀なこの僕が! 夜の一族のトップに立てないなんて! しかも人間と融和だと? 有り得ない! 我々と人間の間に築けるのは上下関係だけ、友情も愛情も幻想でしかないということが分からないのか! 現にすずかは君たちに隠していたじゃないか、自分が吸血鬼であることを。この時点で対等な関係など築けないというのに」

 

「……それが何だっていうのよ」

「うん?」

「それが何だっていうのよ、このクズがっ!」

 

 アリサが勢いよく啖呵を切る。

 

「黙って聞いていたけど、全然大したことない理由じゃない! 単に自分がトップに立てなかったことへの僻みでしょう! あんたがトップじゃなくて正解よ!」

 

なのははぽかんとし、すずかは顔を上げる。

 

「あんたはすずかとは違うわ、ええ比べるのもおこがましいわ!」

「アリサちゃん……」

「わ、私だって! すずかちゃんをいじめる人は許さないの!」

「なのはちゃん……」

「フフフ……、ハハハ! 真実を知ってもなおそんなことが言えるとは、想像力の乏しい餓鬼どもだ! だがもうじきわかるだろうよ。そら、お客様のお出ましだ」

 

 氷村の言葉と共に、廃工場の入り口に人影が現れる。

若い男女が2人ずつとスーツ姿の西洋人に和服美人が帯同している。

 

「随分と大所帯じゃないか、ええ月村忍、高町恭也。ああ、さくらも来ていたのか」

 

「氷村! 馬鹿な真似はやめて!」

 

 同行していた女性、綺堂さくらが声を上げる。

 

「馬鹿な真似? それは月村の方に向かって言うべき言葉だろう? ああ、君もそちら側だったね」

「氷村とやら、今すぐアリサを、その友達を解放しろ!」

 

 震えた声で叫ぶのは金髪の青年、アリサの兄ケントである。

氷村の冷たい視線や多数の銃器にやや怯えるもその姿は毅然としている。

 

「解放? それは月村の返答を聞いてからだ。だがその様子では……」

 

 ぶぱぶぱぶぱぶぱぶぱぶぱぶぱぶぱ

 

「もしも願いが叶うなら~♪ あなたと行きたいレインボー♪ どんだけ好きかと聞かれたら~♪ おませな妄想アイロニー♪」

 

 どこからか力の抜けるような音楽と訳の分からない歌が延々と流れてくる。今までの緊迫した空気はどこへやら。

 

「だれだ、こんな訳の分からん雑音を流しているのは!」

 

全員が音源を探す。

それは銀髪の少年の帽子からだった。

帽子が上下に割れてそこにステージとファンシーな時計があったのである。

ステージ上では女子高生が歌い踊っている。

 

「「「「「「なにあの、アレ!?」」」」」」

 

全員が、いや英国紳士と京美人以外がツッコむ。

その直後銀髪の少年と少女が目覚める。

 

「妄想アイロニー、ということは3時か。不埒物を処分するにはええ時間帯やな」

「この縄の縛り方甘いのではないか? こう、締め付けるときの痛みが無いのがなぁ」

 

 少年は氷村を睨みつけ、少女は縄の縛り方にダメ出しをしている。

妄想アイロニーは流れ続けている。

 

「さっきまでの話は聞かしてもろたで。ずいぶんとまぁご立派な言い分やな。氷村とやら」

「その前にその雑音を止めろ」

「自分たちは強く賢いから人間は餌として生きるのが当然? そんな訳あるかいな。始皇帝も真っ青の傲慢っぷりやな」

「雑音を止めろ」

「どれだけ姿形が人間と乖離していようとも、友達になれるのならそれは人間で、姿形が人間でも、他人を食い物にするんは化物や。あんたは間違いなく、化物やで」

「その雑音を止めろぉーーー!」

 

 少年の言葉か、それとも妄想アイロニーのせいか、氷村は激高して少年に向けて発砲した。

 

「きゃあああああああ!!!」

 

 誰かの悲鳴が響き渡る。

 

「そんな……」

 

ケント・バニングスが絞り出すように声を出す。

 

「有り得ん……、有り得んッ!」

 

氷村は戦慄した。

 

なぜなら銃弾は少年の掌で停止していたからだ。

 

「なぜだッ! なぜ弾が止まっているッ!」

「そら、うちらの息子やからなぁ。拳銃に負けるような軟な鍛え方はしとりまへん」

「それより、いいのか? 目を離しても」

「な、何を」

 

 氷村が呟いた途端、暴風が氷村の両脇をすり抜けた。次の瞬間、悪漢共が吹き飛んでいた。

 

「人より賢い? 人より強い? それがどないした、俺らの一族は1400年も昔からそんな連中と戦ってきたんやで」

 

 少年の言葉に氷村は我を取り戻す。

 

「お、お前らは一体……」

「英国王立魔術協会理事禁術部部長、ダイヤモンド家当主。デビッド=金剛=ダイアモンド」

「神祇省外道部部長、金剛家当主。金剛=ダイアモンド=櫻子」

「両人が嫡子、国際魔術結社(International Magic Society)所属レイ=金剛=ダイアモンド。氷村遊、お前さんは文句なしの地獄行きや」

 

 少年、レイ=金剛=ダイアモンドの口角が吊り上がった。

 それを見た氷村は僅かに慄く。

 

「魔術師だと……!」

「左様、アンタ、間違うた相手に喧嘩売りましたなあ」

「くっ、だがここで全員殺してしまえばいいだけの事」

「出来ますかなあ」

「黙れ! おい、お前ら、何のために金を出したと思っている! さっさとこの餓鬼を始末しろ!」

 

 そういわれては動かざるを言えない悪漢共。

 銃を構えてレイを取り囲む。

 

「アフーム」

「仕方ないのう」

 

 アフームと呼ばれた銀髪銀眼の少女が気怠そうに呟く。

 

「ふんぬぬぬぬぬぬ、バリアー!」

 

 アフームが叫ぶと同時に手から光が溢れ出る。

 たちまちのうちになのは達を虹色のシャボン玉のようなもので包み込む。

 

「「「な、なにこれ!」」」

「「「「「「何か出た!?」」」」」」

「気合があれば何でもできる。銃弾を跳ね返すバリアーだって張れる」

「「「「「「いや、無理でしょ!」」」」」」

 

 全員から総ツッコミを喰らうも、平然とするアフーム。

 

「ならば俺も、フルアーマーモード!」

 

 レイが叫ぶと同時にレイが光に包まれる。

 光が晴れるとそこには新聞紙で出来た鎧で全身を覆ったレイがいた。

 

「「「「「「小学生の工作かよ!?」」」」」」

「ただのこけおどしだ、やってしまえ!」

 

 誰かの掛け声と共に四方八方から銃が撃たれる。

 

「なのは!」

「すずか!」

「アリサ!」

 

 兄姉たちの悲鳴が響き渡る。

 思わず目をつぶるなのは達。

 しかし、銃弾がバリアーや鎧を貫通することはなかった。

 

「あ、ありえねえ」

 

 悪漢の一人が呟く。

 全員無傷で立っていたからだ。

 

「これは、奇跡なのか」

 

 ケントが呟く。

 

「いいや、必然さ」

「我らが魔術に隙は無し。戦車砲にも負けぬよ」

 

 デビッドと櫻子が平然と言う。

 

「レイ! とっとと片づけてしまいなさい」

「イエス! ダディ!」

 

 レイが声を上げると同時に、奇妙な構えをとる。

 

「貴様らには銃弾を馳走になった。こちらもお返しせんとなあ。千客万来『ダマスカス回転寿司』!」

 

 レイの周りに魔法円が現れたかと思うと、そこから四方八方に皿に乗った寿司が飛んでいく。

 

「「「「「「なにこれ!?」」」」」」

 

 全員がツッコんだ瞬間、レイの姿がぶれる。

 レイが高速で移動し、悪漢の一人に接近したのだ。

 ひっと悲鳴を漏らす悪漢。

 にやりと笑うレイ。

 

「あたたたたたた!」

 

 掛け声と共にレイが悪漢の口に高速で寿司を詰めていく。

 

「「「「「「何やってんのこの子!?」」」」」」

 

 寿司で口いっぱいになった悪漢はなぜか気絶するのだった。

 

「まず1人」

((((((こ、怖え~))))))

 

 悪漢共は恐怖を覚えた。

 悪漢の一人が悲鳴を上げながら逃げ出そうとする。

 彼の頭に寿司が激突する。

 彼はそのまま倒れ込み動かなくなる。

 

「さあ! 心行くまで寿司を御馳走しましょ! 有難く思い!」

 

 

 

 

 

「さてと、妾達は安全な所へと避難するかの」

 

 アフームに促され、バリアーごと移動するなのは達。

 バリアーの向こうでは寿司が舞い、レイが悪漢共の口に寿司を詰めていく。

 一方で恭也と氷村が戦っている。

 荒れ狂う寿司の嵐の中、互いに一歩も引かない様子だ。

 恭也の剣戟と氷村の拳舞が飛び交う。

 しかし、恭也が優勢である。

 やがて寿司の雨が止む。

 途端に恭也と氷村の戦いが激化する。

 

「無事についたようやな」

 

櫻子が5人の前にかばうように立つ。

ブレッドは非戦闘要員である若者たちの方にいる。

 

「っ! そういえば、アイツは!」

 

 アリサがレイの方を気にする。当のレイは悪漢共を地面に並べている。

 

「な、何をする気だ?」

「記憶消去と改鋳を行う気か、あれだけの人数を同時には初めてだろうに」

 

ブレッドの言葉の通りレイが行うのは記憶消去と改鋳の魔術である。

地べたに並んだ悪漢共に呪文を唱えながら頭を金属棒で殴打していく。

 

「ジョビジョバー! ジョビジョバー!」

「いや、アレ、大丈夫なの?」

「由緒正しい記憶に関する魔術の作法だ」

「ああ、そうなの……」

 

 ブレッドの言葉に忍は呆れたように呟く。やがて作業が終わったのかレイが合流する。

 

「いやぁ、あれだけの人数は息がキツイですわぁ」

 

 レイの衣服は返り血で染まっていた。

 

「よう持ったな」

「いや、アレただ殴っているだけじゃ……」

「魔術や」

「いや、でも」

「魔術や」

 

なのははこれ以上何も言えなかった。

恭也と氷村の戦いは佳境を迎えようとしていた。

いくら若いとはいえ恭也はそうそう『神速』を多用できるわけでもない。

一方の氷村は碌に喧嘩もしたことの無い坊ちゃん育ちである。

何とかスペック差で持っているものの、戦いの経験という意味では恭也に劣る。

何か一つ、この拮抗を崩す何かが互いにとって必要だった。

 やがて氷村に疲れの色が見え始める。

 恭也はそれを見逃さなかった。

 すかさず『神速』を使う。

 恭也の視界が変化する。

 世界がゆっくりと回転する。

 刹那の見切りが氷村に出来る筈も無く、氷村は敗れ去った。

戦いの決着はここについたのである。




 読んでくれた方は是非感想をお願いします。
 一つの感想が作者の力になります。
 質問も受け付けますので、ぜひいろいろ書いて下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。