サモン・サーヴァントで起こった砂煙が晴れるとルイズは廃墟のような町に一人、たたずんでいた。ここはどこか聞こうと声をかけた相手は動く死体、ゾンビ。魔法は失敗の爆発すら起こせなくなっており、ゾンビが跳梁跋扈する無法のステイツで、ルイズは生き延びることが出来るか?

またもや混ぜるな危険を混ぜていきます、Y-ミタカです。ポストアポカリプス、プロレス、時代劇、そしてゾンビサバイバルのポストアポカリプス、あ、一周した。
さておき、ほら、可愛い子はいじめたくなるじゃないですか。結果、とんでもないところに放り込んだり、とんでもないもの召喚させるんです。
それでは、今回もお願いします。

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今回のルイズはどこへ来てしまったのか?


ルイズのゾンビサバイバル

 町、白や灰色、たまにレンガの、四角い大きな塔のような建物ばかりが森のように立ち並ぶ町。人の気配は無く、ハルケギニアであれば都市間を結ぶ街道をさらに広くしたような道路がまるで路地のように入り組む町を、それとは不釣り合いな少女が行く当てもなくさまよっている。ウェーブがかった桃色の髪に、幼く可愛らしいが気の強そうな顔は『猛禽の雛』とも思える少女の服はレースのニーハイに昨今の街中では珍しい本革のブーツ、ミニスカートとブラウスはどこかのハイスクールの制服のようだがその上に羽織るマントは世界的に有名なファンタジー小説の魔法学校の生徒のようである。皆さんご存じ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは春の使い魔召喚の儀式で失敗し、爆発の砂煙が晴れるとこのような見たこともない町に立ちつくしていたのだ。建物に書かれた記号は文字のようであるがハルケギニアのものと全く違うため読むことはできず、途方に暮れていたルイズは、建物から出てきた男を目にとめる。ボロボロの服を着て、酔っ払いのようにフラフラ歩く男に歩み寄り、ルイズは声をかける。

「そこの平民!ここはどこなの!?」

男は答えない。ルイズは少し脅かしてやろうと指揮棒のような杖を抜き、男の背に向ける。

「このわたしを無視するとはいい度胸ね、痛い目に遭いたく・・・なかったら・・・」

言い終わるより先に男は振り向いた。何者かに食いちぎられた頬、目に生気は無く、服の前側は血まみれ。半開きの口からは、

『アアアアァァァァ・・・』

と、低いうめき声が漏れている。これを見て普通の人間と思えるならば眼科の受診を勧める。

「ヒッ!!ファ、ファイアボール!!」

ルイズは人の形をしたバケモノに炎の魔法で最も簡単なファイアボールを放とうとした。いつもならば失敗でも爆発は起こる。しかしその爆発すら起きない。

「ど、どうして!?ファイアボール、ファイアボール!!」

何度唱えても同じ、そしてバケモノは一体どころか複数、建物の中から出てくる。ルイズと同年代の少女のバケモノ、姉くらいの歳のバケモノ、太った男のバケモノ、太った女のバケモノ等々。バケモノは増える一方で、ルイズは完全に囲まれてしまっていた。

「ウソ、イヤ!近寄らないで!!」

杖を振って近寄らせないようにするが効果はほとんどない。絶体絶命と思われたその時、足元を転がり、何かが通り過ぎた。通り過ぎた物は二つの丸い箱がくくりつけられており、片方からは挽き肉のようなものがこぼれている。ルイズがそれを見た瞬間、ジリリリリリリリ!!!!!と、けたたましい音が鳴り、バケモノ達はルイズへの興味を失ったかのようにそれに引き寄せられ、挽き肉を我先にと争ってむさぼり始めた。

「こっち!!」

人の声に振り向くと、ルイズより小さい少女が激しく手招きしてルイズを呼んでいる。誰であるかなど問題でない、ルイズは少女の元へ走り、彼女に導かれるまま全力疾走でその場を去った。

 バケモノの気配が無い建物で二人は一息つく。

「アタシ、ソフィー。お姉ちゃんは?」

「わたし?ルイズよ。それより助かったわ、ありがとね。」

ルイズはソフィーにそう言って感謝を示す。

「えへへ、お姉ちゃんって最近じゃ見ない、いい人そう。」

ソフィーは少し嬉しそうにするが、同時に腹が鳴り赤面する。

「アタシのゴハン、使っちゃったから・・・」

「あ、さっきの?悪いことしたわね・・・」

先ほど、ルイズを助けるために囮にしたのはソフィーが食べていたものであったのだ。

「気にしないで、ここ探せばあると思うから。」

ソフィーは周囲を見回し、棚を漁り始める。

「ソフィー、ダメよ!そんな泥棒しちゃ!」

「だいじょーぶ!もう誰の物でもないから!」

ソフィーはルイズの静止を聞かず物色を続け、先の挽き肉が入っていた筒に似た物を見つけた。犬の顔が描かれた物と、猫の顔が描かれた物だ。

「お姉ちゃんはどっちがいい?」

「えっと・・・」

ルイズも少し空腹を覚え始めていた。朝は召喚の儀式の緊張であまり入らず、バケモノから逃げてきて緊張が解けたのか腹が減ってきたのだ。

「じゃあ、わたしはネコちゃんの方を。」

「うん!それじゃ、食べよっか?」

ソフィーは容器のフタに付いた丸い金具を指で引っ張り、金属でできているというのに紙を破るように簡単に開けてしまう。ルイズも見よう見まねで丸い金具を引っ張ると、やはり紙を破るかのように開いてしまった。新鮮さを感じるうちに、今度は中身に驚く。見る限り魚の身をほぐして油で漬け込んだようなもので、ルイズは抵抗を覚えながらそれをソフィーのように手づかみで食べる。手がベトベトになったが、食べたことのない味にルイズは夢中になり、それをむさぼる。

『ああ、ブリミル様、女王陛下、姫さま、お父さま、お母さま、エレオノールお姉さま、ちい姉さま、ごめんなさい!ルイズは盗んだものを食べて美味しいと思ってしまいましたが止められません!このお魚の油漬けが美味しすぎるのが悪いのです!』

心の中で考えられる限りの相手に懺悔しながらネコ缶を貪るルイズ。缶に描かれた猫の意味、すなわち『ネコ用のエサ』であることを知ればこれまた自己嫌悪に陥ることであろう。二人でドッグフード、キャットフードを平らげ、食後の一杯に赤い花のハーブティーを飲みながら、ルイズは自分の身の上を話した。自分はハルケギニアの由緒正しいトリステイン王国の名家ヴァリエール家の三女で、今日の恩は必ず返すと。それをソフィーは楽しそうに、しかし絵本の読み聞かせを聞くように聞いていた。

 ルイズは行く当ても無いためソフィーの手伝い-と言っても泥棒とゴミ漁りであったが-をして、荷物を持って日が傾き始めた道を連れ立って歩く。ルイズは姉が二人いるが末っ子で、『妹がいたらこんな感じなのかしら?』と、少々のんきに考えていたその時、ゴロゴロと、遠くで雷の音が鳴った。

「あら?一雨来るかしら?」

ルイズはさほど気にしていないが、ソフィーの顔はみるみる青ざめていく。

「お姉ちゃん、急ぐよ?」

「え?そうね、雨に降られちゃかなわないわ。」

「違うの!とにかく急いで!!」

ソフィーが血相を変えた意味がわからずルイズはソフィーを早足で追う。たしかに周囲は奇妙であった。奇麗な夕焼け空はいつの間にか血のような紅い夜空となり、一つしか無い月は紅色に輝いている。

「え?月が一つ!?」

と、驚くルイズをよそに、ソフィーの顔は絶望に染まっていた。

「ダメ・・・間に合わなかった・・・」

キイイイィィィン!!!と、甲高い音がすると、物陰という物陰からバケモノが現れる。ゆっくりと歩いているが、数が数だ。とても逃げ切れそうに見えない。

「お姉ちゃん、こっち!!」

ソフィーはルイズの手を引いて近くの建物に飛び込んだ。手には棒きれ一本、廊下や階段でバケモノに出くわすとソフィーはその棒きれで突き飛ばし、転ばし、突破する。そして最上階、ハシゴの下にバケモノが一匹いるのをソフィーは棒きれで頭を突き、偶然にもバケモノの頭を貫いてしまい抜けなくなる。そこで棒きれは諦め、ソフィーはルイズより先にハシゴを登った。屋上への蓋のような扉を開け回りを見て、ルイズに呼びかける。

「うん、屋上にはいない!お姉ちゃ・・・キャアッ!!!」

ソフィーはハシゴを踏み外し、床へ転落してしまう。ソフィーのすぐ下にいたルイズはとっさに避け、巻き込まれて転落するのは避けられたが、バケモノ達はすでに階段に殺到し、仲間を踏み台にして階段を坂道にして二人の後に迫っていた。

「お姉ちゃん、アタシは大丈夫だから、先に屋上に上がって!!」

そう言ってソフィーは再度ハシゴを登るが転落した際に足を挫いたのか手だけでどうにか登っているためバケモノ達がどんどん後ろに迫って距離を詰めてくる。バケモノ達は幸いにもハシゴを登る知能が無いのか、最初はソフィーの下に集まるだけであったが、少しずつ数が増え、またもや仲間を踏み台にしてどんどんソフィーに近づいてくる。ソフィーはようやっと屋上の縁に手をかけたが、同時にバケモノが彼女の足をつかむ。

「アアアアァァァァ・・・」

「お、お姉ちゃん・・・助けて・・・」

ソフィーは目に涙をためてルイズに訴えかける。ルイズは無我夢中でソフィーの手をつかんだ。同時にバケモノと目が合う。このままではバケモノは屋上に殺到してしまう。そんな恐怖がルイズの心を真っ黒に染め上げた。

「・・・ゴメン、絶対後で助けに来るから。」

「え?」

ルイズはソフィーの手を離し、屋上へつながる蓋を閉め、近くに転がっていた鎖で蓋を縛った。

「イヤ!お姉ちゃ!!助け!!!開けて!!!イヤアアアァァァ!!!」

ルイズは階下から響く悲鳴、何かを咀嚼する音を聞かないように耳を塞ぐ。しばらくするとその音は聞こえなくなり、また蓋をガンガン叩く音が始まり、ミシミシと建物が軋む音が聞こえてくる。嫌な予感がしたルイズはピッタリとくっついて建つ隣の建物に飛び移ると先ほどまでいた建物はガラガラと崩壊を始めた。安堵する間もなく、飛び移った建物も巻き込まれ、崩れ始める。ルイズはさらに隣の建物に避難すると、今度は屋上が崩落して下の階まで坂道ができている。当然バケモノはそれを登ってきており、ルイズは逃げようと考えたがもう飛び移れる建物は無い。

「や、やってやる、やってやるわよ!こうなったら!!」

ルイズは近くに転がっていた鉄の棒を拾うと下から登ってくるバケモノの腕を叩くが痛覚が無いのかほとんど怯まない。滅茶苦茶に叩いているうちにルイズはバケモノの頭を叩いた。すると何発かで力を失い、坂の下に転がり落ちていく。

「(そっか、頭を潰すと死んじゃうんだ、このバケモノ。)」

ルイズはそれに気づくと登ってくるバケモノの頭を狙って思い切り叩き、仲間の死体を踏み越えて登ってくるバケモノの頭を叩くという動作を明け方まで続けた。日が昇る少し前にバケモノは来なくなり、日が昇るとルイズは外壁にくっついた途切れ途切れの金属の階段を伝って下に降りた。バケモノ達はほとんどいなくなっており、ルイズはソフィーを見捨てた、崩落したビルに戻った。

「ソフィー、いる?返事して?」

ルイズは一縷の望みをかけて呼びかけるが返事がない。バケモノの中に結果として突き落としたのだ、生きているはずがない。

「・・・いた!ソフィー!!さっきは・・・そんな・・・」

ソフィーは瓦礫の中で立っていた。何カ所もかじられ、服は血まみれ、目に生気の無い、バケモノの仲間に成り果てて。

「アアアアァァァァ・・・」

目からも、表情からも感情は読み取れない。見捨てたことを恨んでいるかもしれないし、目の前に好餌が現れたのを喜んでいるかもしれない。しかし彼女がどう思っていたとしても、ルイズにできることは一つしかなかった。

「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

謝罪の言葉を虚ろに呟きながらルイズは昨夜、何匹ものバケモノを屠った鉄の棒を強く握りしめ、振り上げるとソフィーだったものの頭めがけて振り下ろした。倒れたがまだうめき声をあげるソフィーだったものの頭へ鉄棒を突き刺し、脳を貫いて確実にその活動を停止させると、ルイズは彼女が背負っていたカバンから無事であった食料と飲み物を回収してその場を去って行くのであった。

 

 紅色の月の夜から7日、二日前に2度目の紅月夜を迎えたがその日はバケモノを一匹も見なかった。否、見るには見たのだが彼女でない誰かを追っているのか、彼女に気付く様子もなく歩いて通り過ぎていったのだ。理由はわからないが彼女には僥倖であった。いくら歩いているだけとはいえあの大群にもう一度囲まれて生き残る自信は彼女には無い。

 それはさておき、ルイズは今、町を離れていた。町ではバケモノが無限と思えるほど大量におり、一度、建物の屋上で寝て起きたら建物の周囲を大群に囲まれていたことがあったのだ。幸いにもバケモノの動きがある程度予測できるようになって、登ってこれないようにしていたおかげで襲われる前に逃げ切れたが、何度もそのような目に遭っては精神がもたないため、町の外に寝床を確保しようと考えたのだ。

「(それにしても、お腹すいたわね・・・ノドも渇いたし・・・)」

ソフィーの死体から持ってきた食料や水は尽き、探し方が悪いのか町で見つけた分では足らず、紅色の月の夜、すなわち二日前から飲まず食わずなのだ。服も着のみ着のままでサバイバルとなれば破れほつれボロボロ、そもそもトリステイン魔法学院の制服はサバイバルなど想定していないため当然だ。

 そんな彼女は偶然、一軒家を見つけた。家の周囲は木の槍を複雑に組んだ、いわゆる『逆茂木』で囲まれ、バケモノが突き刺さって一部のものは頭を潰され死んでいる。元は小さな農場の家だったものを要塞化しているのだ。ルイズはこれ幸いと人間用と思われる通路を通り、門を開けて中に入ると元通り閉め、中を見回す。家の敷地をグルッと泥を石のように硬くしたような壁が囲み、鶏が数羽、庭の一角の柵の中で放し飼いにされ、平民の一家が住んでいそうなこじんまりとした家と厩舎のようなものが建っている。厩舎の中は金属の荷車が一台、馬がいないため捨て置かれているとルイズは考える。家の扉はどこも閉ざされており、ルイズはこの一週間で身についた方法で索敵する。まず、遠くから壁に石を投げつける。これで中からうめき声が聞こえるならば中にバケモノがいる。聞こえなければ基本的には何もいない。今回はうめき声は聞こえず、ルイズは早速、ソフィーがやっていた扉の開け方で、これまでの探索でルイズも真似てやっていた方法で扉を開けることを試みた。まず、L型の金棒の先を扉の隙間に差し込み、体重をかけてこじ開ける。大きな音がして近くのバケモノが寄ってくる危険があるため周囲警戒は怠ることはできないが、今回は町外れで防壁の中、気にする必要は無い。そして室内で万一、石の音に気付かなかったバケモノがいるかもしれないため、物陰という物陰を確認し、何もいないのを確かめるとルイズは安堵した。安全を確保したからには待望の家捜しの時間だ。

「食べ物にお水、くださいな〜と。」

無論、勝手にである。ルイズはまず、町で見つけた機能的な布のカバンを寝室らしき部屋に置いた。そのカバンの使い方を描いた絵・・・顔立ちの整った若者が山を背にカバンを担いでいる姿を真似すると思いのほか動きやすかったため貰ってきたのだが、やはり背負ったままでは多少動きにくいため降ろしたのだ。その時、ルイズはベッド脇に画集のような物が落ちているのを見つけて拾う。表紙はシャープな鼻筋と美しい唇、夕日に輝く小麦畑のような金髪にラグドリアン湖のような碧眼の美女がまぶしい笑顔で描かれている。まるでその場面をそのまま切り出してきたような絵と、こちらの文字が全てのページに描かれている。字は読めないが絵は表紙の女で、服を少しずつ脱ぎながら胸や尻といった特徴的な部分を強調して描かれており、服を着ている時ですら美しい肢体をアピールして描かれている。最後は一糸まとわぬ美女が、まるで読む者を誘惑するかのような絵となっていた。ルイズはそれを見ながらふと、自分の胸を触る。画集の女はルイズの長姉並の身長に次姉のような女らしい体つきで、それに比べて幼児体型の自分にため息をついた。

「(あ、でも次に出てる黒髪の子ならわたしと同じくらいね。身長も一緒に描かれてる最初の子と比べると、多分わたしと一緒くらい・・・うわ!女の子同士でそんな・・・こんなことまで・・・って、いつまで読んでるのよ!!)」

つい読みふけっていた自分に怒りをぶつけ、家捜しを再開する。台所とおぼしき場所で、まずルイズは缶詰を探すが見つからず、かわりに堅い紙の容器を見つけた。町でもちらほら見つけたがルイズはこれを食べ物と考えていない。なぜなら、中身はかみ砕けないほど堅いビスケットのようなものが入っているだけで、町で見つけた時にイチかバチか食べようとしてあまりの堅さと不味さに捨ててきたのだ。

「何でこんなのばっかり?もう誰かが持ってっちゃったのかしら?」

独りごちたルイズはここまでの探索であることに気付いていない。まず、この要塞化をした人物はどこにいるのか、鶏が生きている以上、誰かが餌やりをしているはず、閉じられた家の中にバケモノはおらず、寝室には読み散らかされたエロ本という生活感。しかし食料探しに夢中の彼女はそれらに思い至ることができなかったのだ。

 ルイズが食料探しを始めた頃、人影が一つ、この家に近づいていた。服は多少汚れているが噛まれたようなあとはなく、バケモノのようにフラフラとでなくしっかり地面を踏みしめて歩いている。彼は家に近づいて違和感を感じた。自分よりも小さい足跡が逆茂木の外から門まで続いている。女や子供のゾンビであれば門で引っかかっているはずだがそれらしき姿はなく、近くの逆茂木に刺さっている風でもない。門を開けると鶏が騒がしい。万一、ゾンビが自分の考えつかなかった防壁の穴を通って侵入したなら鶏はとうの昔に全て食い殺されているはずであるが鶏に手を出した気配は無い。門を音がせぬよう閉じ、足音を殺して家の玄関に近づくとこじ開けた形跡がある。ゾンビであれば叩き壊すがこのドアはバールか何かでこじ開けられている。何者かが侵入したのだ。そして足跡は入ったときのものしかない、つまりまだ中にいる。家主は息を殺して慎重に中に入る。足跡から侵入者は一人、彼の考えではこの侵入者はよほどの手練かド素人の二択である。程なくして彼は侵入者・・・ルイズを見つけた。彼女の横顔を見て彼は驚いて目を見開くが、すぐに頭を振って雑念を払う。

「ったく、食べ物無いわね〜」

ポイポイとルイズは、彼が見つけた『食料』を乱雑に床に投げ捨てていく。その言葉は彼にはわからないため、彼のルイズに対する怒りは大きくなっていく。こっそりとルイズの背後に近づき彼女の肩をポンポンと叩くと同時に呼びかける。

「Hey you!」

突然のことと知らない言葉で驚き振り返ったルイズの腹に強烈な衝撃が走った。胃液が逆流し、呼吸もできなくなり遠のく意識の中でルイズは相手の顔を見た。ハルケギニアであれば珍しい黒髪黒目に平たい顔立ち、しかし目元や口元はどことなくハルケギニア人に近い特徴を持った、ルイズと同年代と思われる少年であった。

【ガキの頃親父から習ったカラテがこんなとこで役に立つなんてな。】

最後の言葉はやはり、ルイズにはわからない言葉であった。

 

 霞がかかったようなルイズの意識が少しずつ覚醒していき、目を開ける。目を開ける前から彼女はいくつも違和感を感じていた。まず手足、何かがきつく巻き付いている上、両手首は締め付けられるように痛く、記憶にある限りでは少し暑いくらいだったのに今は肌寒い。目を開けるとその理由を彼女はすぐ理解した。まず手足は縛られ、手を縛るロープは天井に繋がれ、膝立ちしかできない長さになって吊されていたため手首が締め付けられていたのだ。そして肌寒い理由は、ショーツを除く全ての衣服をはぎ取られて彼女はほとんど生まれたままの姿にされていたのだ。

【目ぇ覚めたか、コソ泥?】

ルイズの知らない言葉で尋ねられ、彼女は声の主を見た。先の黒髪黒目の少年であった。

「な!?これ、まさかアンタが!?」

ルイズは赤面して少年をにらむが少年はどこ吹く風と受け流す。

【で、オレん家荒らしたのはどうしてだ?】

「な、何言ってるの?」

ルイズは初めて少年に向けて尋ねる。

【ヒスパニックかよ・・・スペイン語、ほとんどわかんねぇのに。】

少年は頭を抱えながらルイズに彼自身を指しながら話す。

「サイト、サイト、オレ、ナマエ。オマエ、ナマエ。ナニ?」

片言のスペイン語だが、ハルケギニア公用語とスペイン語は類似点が多々あり、意味はどうにか通じていた。ちなみに、ソフィーと言葉が通じていたのは、彼女がヒスパニックで、なおかつスペイン語しか話せなかったからである。

「サイト?名前?それならわたしはルイズよ。それより、降ろしてよ!」

「ゆっくり、ゆっくりもっと!」

サイトはスペイン語がほとんどわからないため、ルイズにゆっくり話すよう頼む。

「そう・・・じゃあ、ほどいて?」

「できない、お前、怪しい。取り調べ、終わるまでそのまま。」

「ちょっと、取り調べって何よ!?」

「取り調べ、ルイズ、盗む、壊す、食べ物。」

ルイズはここでやっと、この家の家主が誰かわかった。サイトと名乗った少年がこの家を要塞化して暮らしていたのだ。

「それは・・・知らなかったとはいえ悪かったわよ。けど、どうしてこんなこと!」

「身体、見た。」

ストレートな答えにルイズは赤面するがサイトはにべもなく続ける。

「噛まれてたら、ゾンビ、なる。ルイズ、噛まれてない。確認。」

サイトはルイズからはぎ取った服を投げて返し、ルイズは立ちながら肘を器用に使って胸を隠す。

「(ゾンビっていうのね、あのバケモノ。)」

ルイズはソフィーの最期を思い出す。そして同時に、自分も噛まれたらああなってしまうと戦慄する。

「質問、お前、何?仲間は?」

ルイズが体を隠すとサイトはまた質問する。

「わたしは・・・一人よ。」

「ウソ、武器無し、どうやって生きた?」

「ずっと逃げてたのよ!食べ物漁りながら!ここがアンタの家だって知らなかったの!もういいでしょ!?出てくから!!」

ルイズはヒステリックにサイトにまくし立てると、サイトは立ち上がりルイズの手首を縛るロープを切った。

「服、着る、お前、出ていく。」

片言にジェスチャーを交えて話すサイトの言葉を訳すと、『服着たら出て行け』である。これでもサイトとしてはルイズに温情をかけている。本来、あのような家捜しをしている者がいれば殴り殺すのが当然、逆に彼も知らずに人の住処を漁っていれば同じ目に遭う。その時は『殺られる前に殺れ』が掟だ。ゾンビ発生によって世界は激変した。この国有数の大都市、ロサンゼルスは彼の目の前で灰燼に帰した。悪友は一人を除いてゾンビとなっていた。その悪友と彼の家族もロサンゼルスが自国の軍隊によって焼き払われた後からどうなったかわからない。サイトにわかるのは、世界が数日で全くもって違う物になってしまったということだ。ルイズに対しサイトはある少女の姿を重ねている。しかし似ているというだけで情けをかければ、自分一人生きるのもやっとのこの世界では共倒れになってしまうことは明白だ。残酷なようでも情けを捨てねば生きられない。

 ルイズが服を着るとサイトはナイフを持ってルイズの後ろに立ち、彼女を門の前まで歩かせる。ルイズは死刑台に登るような気持ちで歩いていた。立ち止まれば切っ先でつつかれ、無理やり歩かされる。とうとう門の前、ルイズは最後の抵抗とばかりに立ち止まり、サイトは何度も後ろからナイフでつつく。意を決してルイズは振り返る。もしかするといきなり刺されるかもしれない、しかしここを出ていけば地獄、ならばと決死の覚悟で振り返ったのだ。サイトはそれに驚くが、ルイズを刺したりせず、ナイフを向けて牽制する。

「・・・お願い、追い出さないで。」

ルイズは目を伏せてサイトに頼んだ。

「できない、出る、お前。」

「もうイヤなの、バケモノに追い回されて生活するなんて。」

懇願するルイズに、サイトは少女の幻影が重なって見えた。

『やだ、やだよぉ・・・』

「グ・・・わかった、来る。」

サイトはナイフを降ろし、ルイズに背を向けついて来るよう促す。それにルイズは安堵してついて行った。

 家に戻るとサイトは、ルイズが散らかした紙の容器の中で、蓋が破れてしまった物を二つ選んだ。蓋を完全に開け、並べるのをルイズは目で見てわかるほど嫌そうな顔をする。それに気づいているのかいないのか、サイトはケトルを火にかけ、水を沸かしている。水がグツグツと音を立て始めるとサイトはそれを容器に注いだ。幸いにも容器そのものは割れていなかったため湯が漏れることはなく、サイトは皿で蓋をする。しばらくしてサイトが皿を取ると、ルイズがかつて食べた時には硬すぎて噛み割ることもできなかったビスケットはふやけていい匂いのする、ロマリアのスープパスタのようなものになっていた。フォークを渡されたルイズは恐る恐るその麺を口にする。スープパスタとは違った辛味と酸味が口に広がり、ルイズはマナーなどかなぐり捨てそれを口に運ぶ。これはいわゆる即席麺、かつての世界であれば健康面から食べない人間、安っぽいと毛嫌いする人間も多々いたが、ゾンビサバイバルが日常となっては効率よく、簡単手軽に栄養補給ができる宝物に等しい。水がないと調理できないのが難点であるが。

「こんな、どうなってるの!?あんな硬かったのがどうして!?」

「美味いか?これ?」

かつての世界で、インスタント麺はサイトの主食の一つであった。悪い仲間達とつるみ、家にも帰らずドラッグでラリッて騒ぐ生活ではジャンクフード漬けになるのも当然であった。しかしアウトブレイクで家族を失ってからは家族の団らんがどれだけ良かったか、唯一生き残った悪仲間で、兄貴分でもあった男が彼の母親、妹、母親の恋人、その息子と前妻という奇妙な家族と共に過ごして痛感したのであった。

 サイトは家族や悪友とその家族を思い出しながら、ルイズは食べたことのない味に夢中になって食事を終えると、サイトはすぐ立ち上がる。

「食べた。」

「え?ええ、その、ありがと。」

ルイズはサイトの言葉の意味がわからずそう答える。

「来る、手伝う。」

食べた分手伝えと言っているのだ。言葉が通じないというのはかくも不便なことである。

サイトはルイズを連れ、逆茂木に突き刺さり、

『アアアアァァァァ』

と呻くゾンビの前に来た。

「オレ、見る、まわり。お前、殺す、ゾンビ。」

サイトはそう言ってルイズに鉄を巻いた棍棒を渡し、自身はクロスボウを持って周囲を見回す。ルイズはゾンビの前に立ち、息をのむ。先日、ゾンビの大群から身を守った時は無我夢中であったため何も考えていなかったが、いざ落ち着いて目の前にいるのを見ると恐怖を感じてしまう。ルイズにつかみかかろうと手を伸ばすゾンビ。しかし逆茂木に突き刺さって身動きがとれないゾンビではルイズに手を触れることもできない。ルイズは意を決してゾンビの頭を棍棒で殴った。グシャッとトマトが潰れるようにゾンビの頭が潰れ、動かなくなる。

「次、あっち。」

サイトは次のゾンビを指差し、ルイズは指示されたゾンビの前に移動すると同じようにトドメを刺し、逆茂木に刺さったゾンビを全て殺すとサイトは死体を逆茂木から引き抜き、厩舎にあった荷車に乗せると御者席にルイズと共に乗る。

「ベルト、締める。」

「べると?あ、これ?」

ルイズはサイトの見よう見まねでシートベルトを締める。するとサイトは手綱のような輪の下にナイフのような物を刺して回すと、荷車は『ブロロロロ』とうなるような音を出し、ゆっくりと動き始めた。ハルケギニアでも似たような物を彼女の通う学院のとある教師が作ろうとしているが、これはそのはるか未来を行く『ピックアップトラック』。アメリカではポピュラーな乗り物だが、荷馬車など比にならない。馬200頭ないし300頭で人間三十人分の重さの車体を動かすこのトラックは、御者ともう一人、後部座席にスコップ等工具と鉄砲、赤い大きなタンク、荷台におびただしい数の死体を載せても問題なく走って行く。ルイズは驚きながらもトラックの中、馬車より速く動く景色を物珍しそうにキョロキョロと見回していた。

 しばらく走り、家が見えなくなるほど離れたところでサイトはトラックを止め、荷台からゾンビを蹴落としてトラックを移動させ、赤いタンクに入っていた液体をゾンビの死体にまんべんなくかけ、導火線のように垂らしながら少し離れると、手から小さな火を出して導火線の液に火を付け、そこからゾンビの死体に火が伸びていき、ゾンビの死体にかけていた液体が一気に発火すると、サイトはルイズを待たせていたトラックに戻り、すぐさまトラックを走らせた。火にゾンビが寄ってくるからだ。ここまでがサイトの午後の日課なのだ。午前中は鶏の世話、卵の回収。それを終えると掃除、洗濯または物資調達である。余談だがルイズとはち合わせたのは物資調達から帰ってきた時であった。紅月夜でなければ夜はなるべく灯りはつけず早く寝るのがサイトの日常であったがルイズが来たため、少々変わることになった。

「えんかんたぁだぁでこんせるで」

スペイン語で『はじめまして』の意味になる言葉だ。サイトはルイズと意思疎通を図るため、スペイン語を勉強しなおすことにしたのだ。彼はハイスクール入学後、ろくに通いもせずに悪い仲間達と遊び呆けていた。そのツケがこのタイミングで回ってきたのである。

【こんなことならもっとちゃんと通っとくんだったな。】

後悔先に立たず、ツケというのは得てして回ってきてほしくないタイミングで回ってくるのが世の常とはいえ、世界が崩壊しヒスパニックの少女と共同生活することになるなどハイスクール入学時の彼に予測しろというのは理不尽でもある。

「サイト?まだ起きてるの?」

サイトの独り言、そして外に漏れないようにしている最低限の灯りを見てルイズは起き出して来たのだ。

「ルイズ?寝る、朝、起きる、早く。」

「わかってる。けど、何読んでるの?」

ルイズはサイトが読んでいる本を覗き込む。サイドが開いていたのはこの家にあった子供向けのスペイン語テキスト、そして古い西英辞典。本格的に勉強するには不足しているが、ここ一年以上ろくに勉強していないサイトはここからでなければ始められない。そしてルイズはハルケギニア語とスペイン語が偶然同じだったというだけでスペイン語の読み書きができるわけでなく、何が書かれているか読むことはできない。

「もしかして、読めない?」

サイドがルイズにそう尋ねるとルイズは恥ずかしそうにうなずいた。

「(ま、文盲だっていなくはねえし、コイツも前の世界で苦労したんだな。)」

サイトは彼の常識の範囲で勘違いし、ルイズのためにスペースを作る。

「一緒、する?勉強。」

そう言ったサイトにルイズは笑顔でうなずき、彼の隣に座った。

「ここ、何て書いてるの?」

「読む。【わたし、ボブ、あなたは?】

 【わたし、名前、メアリー。はじめまして。】」

と、たどたどしいスペイン語でサイトはルイズに読み聞かせる。サイトが読み聞かせながら指差す文字列に、長さから同じ意味と思われる、同じ文字だが配列や種類が違う文字にルイズは疑問を持った。

「こっちは?」

「英訳。My name is Bob.What's your name?

 My name is Mary.Nice to meet you.」

元々幼児向けのテキストなので、本当に簡単な言葉しか書かれていない。しかしルイズにとっては新鮮なものであった。

「ないすとおみいとゆう?これがはじめまして?」

「そう。はじめまして。」

ここでルイズは、サイトにこんな簡単な挨拶すらしていないことを思い出した。

「ないすとおみいとゆう、サイト。」

「All right.Me too,Louise.ああ、俺も、ルイズ。」

サイトは英語の後にスペイン語で復唱し、意味を教える。こうして夜は二人の勉強会が行われることとなった。

 

 サイトとルイズの勉強会の翌日、サイトはルイズを連れて探索に出た。食料は十分でルイズは特に必要なものがあるようには思えなかったが、サイトは必要なものがあると言って彼女を連れ出したのだ。着いたのはかつてソフィーを見殺しにし、ゾンビとなった彼女を殺した町だ。サイトは町の入り口でトラックを降りると近くにあるもので隠し、二人で町を進む。サイトはクロスボウで邪魔になるゾンビだけをヘッドショットし、ルイズは棍棒で周囲警戒するが、サイトの進路選択とクリアリングがしっかりしているためルイズにゾンビが回ってくることはない。

「女性・・・服屋さん?」

サイトがルイズを連れてきたのは婦人服店であった。ルイズの服は着の身着のままでサバイバルを続けていたせいでボロボロ、その上運動には向かない服装であったため彼女のための服を探しにきたのだ。服屋の周囲の建物は崩れてガレキとなっているか空き地であり、町中にポツンと建っている。サイトは石を投げ、店の中のゾンビをおびき出すとクロスボウで一匹ずつヘッドショットして始末していく。出てくるゾンビがいなくなるとサイトは入り口であらためてコンコンと音を立て、残るゾンビがいないか確認して中に入り、ルイズと二人で互いの死角をカバーしながら間違いなく中のゾンビが全滅したことを確認すると、サイトは店内の服を物色し始めた。サイトはルイズの体格に合った服を探し、そしてルイズの見立てでは下着と思われる物を渡してくる。片方はショーツだが、もう片方をルイズは見たことがない。丸い二つのカップと紐で構成されたそれは、胸に当てるとちょうど良さそうである。

「サイト、これ何?」

「ブラジャー、胸、着ける。サイズ、合わせる。」

ルイズは、というよりハルケギニアにブラジャーは無く、つけ方がわからない。サイトもルイズを裸にした時の見た目から大体のアタリをつけて渡しただけであるのと、男であるサイトはブラジャーのつけ方を詳しく知らない。

「つけ方、教えて?」

「悪い、知らない。」

ルイズはやむなく近くを探し、運良くつけ方が書かれた絵図を見つけた。

『はじめてのブラジャー

ブラジャーの選び方』

ルイズはそれをサイトに見せるが、サイトは苦笑いしながら、そして赤面しながらルイズに尋ねる。

「これ、読め、言う?」

「今のはわたしが悪かったわ、適当に近いサイズの、貰っていきましょ。」

そして二人は服と下着を回収し、ついでに食料を探して町を後にした。

家に帰ると逆茂木に刺さったゾンビを片付け、家に入るとルイズはサイトが夕食の準備をしている間に下着のつけ方を、絵を見ながら確認する。

「えっと、わたしの胸、トップが30インチ弱でアンダーが25インチ弱だから・・・あ、これね。」

ルイズは戦利品のうち、サイズが小さい物を探し当てて袋を破って中身を出すと、上半身裸になって絵図を見ながらブラジャーをつける。

「まず、ホックをかけて、お乳の周りのお肉を集めて・・・できた!」

と、形を整えブラジャーの中に胸を整えていく。形を整えて鏡で自分の姿を見ると、その姿に見惚れる。

「すごい・・・これ、わたしなの?」

彼女は顔には自信があったが身体、特に胸の小ささがコンプレックスであった。しかし今の彼女は胸に谷間が出来ており、ルイズはポーズを変えてあらゆる角度から自分の身体を見る。その間ずっと、キッチンで夕飯を作るサイトは赤面していた。

「(全部聞こえてるっつの!)」

しかし指摘すると話がこじれるのは明白であるため、聞こえなかったことにした。

一人ファッションショーを堪能したルイズが新たに入手した、ジーンズ、ティーシャツを着て出てくるとサイトは食事を作って待っていた。ルイズはサイトの顔が赤いのに気づくが、『暑かったのかしら?』と考え、気にしなかった。

「変わった、雰囲気。」

「あら、お上手ね、あり・・・Thanks?」

「Haha!Oh yes!You are so cute!」

ルイズはサイトの言葉をハルケギニア語訳して文章をつなぎ、照れ隠しでサイトを軽く叩いた。この声が外で逆茂木に刺さってもがくゾンビの耳にかすかに届き、

『アアアアァァァァ!!!!アアアアァァァァ!!!!』

と、激しく暴れようとする。この言葉も我々には意味がわかる。

『お前らぜってぇ喰ってやる!!!!リア充爆発しろ!!!!』

といったところであろう。

 翌日、ルイズは朝のうちにサイトから逆茂木のゾンビ処理に連れ出された。これまでどおり棍棒でやるのかと思っていた彼女だが、渡されたのは銃のようなもの。ハルケギニアで銃といえば、火打ち石で火薬に着火して撃つフリントロック銃だが、サイトから渡された銃は火打ち石もなければ火薬に着火するための火皿もない。ルイズも本で読んだことがあり、フリントロック銃のように装薬を入れる銃口をのぞき込もうとしてサイトに止められる。

「弾丸、入ってないけど、中を見ない。クセがつく、悪い。」

「え?でも、弾はどこから?」

ルイズがそう尋ねると、サイトは不思議そうにする。

「銃、見たことない?」

ルイズはこれにうなずく。

「(あ、こいつアウトブレイク直前に移民して来たばっかりだったんだな。そりゃ英語通じねぇわけだ。)」

サイトは自分の常識の範囲でルイズの生い立ちを想像し、銃の扱いを、それこそ子供に教えるように懇切丁寧に教えた。

「このスライド、引く。弾丸無い、止まる。」

と、銃の中に弾丸が入っていないことを見せるサイト。スライドストッパーを操作するのを見せ、スライドを戻し、今度はグリップから空のマガジンを取り出した。

「弾丸、この向きで押し込む。この銃、15発、入る、弾丸。」

サイトが『弾丸』と呼んだ物はルイズの知る物と全く違う。ルイズの知る弾丸は鉛の球体と火薬を紙袋で一つにしたもので、撃つ前に紙袋を破って火薬と弾丸を銃口から入れるというのをルイズも知識として知っている。弾丸の種類が違うのだ。サイトはマガジンを元に戻し、説明を続ける。

「マガジン、戻してスライドを引く。薬室に弾丸、入る。撃鉄、起きる。引鉄を・・・引く!」

サイトは手本として逆茂木に刺さったゾンビの頭を撃つ。『パンッ!』と乾いた音がしてゾンビは動かなくなった。サイトはそのまま、見える範囲にいる別のゾンビを撃つ。ルイズはその『連射』に驚いた。彼女の知る火打ち石銃は一発撃てば弾丸を装填しなおさなければならない。しかしサイトの銃はそのような操作をせず三連射した。彼女はそれを見て、サイトの銃は15発全てを引鉄を引く動作だけで撃つことが出来ると理解した。

「来る、持つ。手伝う、撃つ。」

サイトは周囲を警戒しながら、棍棒の届く距離でルイズに拳銃を持たせて補助する。

「手前のカギ、先の出っ張り、重ねて、撃つ。」

サイトがルイズの後ろから抱きつくような格好で銃の撃ち方をレクチャーする。ルイズは重なるサイトの手から、宝石を扱うかのような、はたまた花を扱うかのような気遣いを感じていた。

「次、一人で撃つ。」

ルイズは補助無しでサイトに教わったとおりに銃を撃ち、少しずつ距離を離しながら撃つ練習をする。一度、薬きょうが引っかかりサイトに直し方をあらためて教わったりしながらゾンビの処理をする。

「銃、使うのは危ないとき。音、ゾンビ、呼ぶ。」

サイトは最後に、ルイズに拳銃を使うのは最終手段だと教え、ゾンビの死体の処分にかかった。

その日の夜、夕食の準備をサイトと共にしていたルイズは、伏せられた写真立てを見つけた。彼女の記憶では最初にこの家に来た時、写真立ては立てられていた。彼女はそれに入っているのを『絵』と思い込んでいる。とてもきれいな絵だったと覚えており、立てて見る。

「え?サイト?それにこの子・・・」

ルイズが見たのは家族写真、中央に座る少女の誕生日のものらしく、後ろに父親、右隣に母親、左隣にいるのはサイトであった。それより驚いたのは、中央の少女。髪色こそ違うが顔が生き写しのようにそっくりなのだ。そんな風に驚いていると、サイトがルイズの後ろに立っていた。

「返す、大事な物。」

「あ、悪かったわ、勝手に見て。」

伏せていたのは言うまでもなく、見られたくなかったからだ。

「その、さ。聞いていいかしら?これは・・・?」

「家族。いない、死んだ、殺した・・・」

サイトの声が震えているのに気づき、ルイズは何があったのか、ある程度の予想がついた。

 

 サイトが初めてゾンビを見たのは仲間達とドラッグパーティーを開いていた廃教会の中であった。気分良くなって眠りこけていたサイトは血の臭いで目を覚まし、兄貴分のいわゆる『セックスフレンド』が他の仲間を喰っているのを見てしまった。彼はいてもたってもいられず教会を飛び出し、大通りに飛び出して車に跳ねられた。その時の生存者の一人である兄貴分も、何の因果かサイトと同じように、違うとすればゾンビに噛まれかけ、どうにかほうほうの体で逃げ出したところで車に跳ねられ、同じ病院に搬送されてきた。偶然同室になり、お互い変な幻覚を見たと話したところ、兄貴分は『まったく同じ幻覚を見るなんてあり得ない』と、ある程度ゾンビ発生を憂慮していたがサイトは『ただの偶然』と気にしていなかった。もし、兄貴分の懸念を胸に止めておけば後の悲劇は止められたかもしれない。

 退院して数日後、アウトブレイクが発生した。ゾンビと暴徒が入り乱れ、警察も軍も手に負えず、サイトと母、そして妹は家で震えていた。そんな時に父が帰ってきたのだ。当然、迎え入れると彼は酷いケガをしていた。

「サイト、救急箱!フランはお水を!!」

母に指示され、サイトと彼の妹フランは指示通りに動いた。しかし母の必死の手当てもむなしく、父は息を引き取った。廊下で横たえた父の手を胸の上で組ませ、その上に毛布をかけ、三人が悲しみに暮れていると毛布が起き上がった。当然だが毛布が勝手に浮いたのではない、父が起き上がったのだ。

「あなた!!よかった、心配したのよ、心臓も止まってて・・・」

毛布をかけていたのがまずかった。もしかけていなければ様子のおかしい父に気付いていたかもしれない。

『グアアアァァァァ!!!!』

「あ、あなた!?い、いたあぁぁぁ!!!」

父は母に噛みつき、この時の目をサイトは見て、父がもう父でないことを悟った。

「親父!お袋から離れろ!!」

彼の父は仕事で日本からアメリカに渡り、そのままアメリカで結婚してサイトとフランの二児をもうけた。彼は日本にいた頃、空手と刀術を修めており、模造刀を壁に飾っていてサイトはその模造刀を取って父を何度も殴打した。何度も、何度も。とうとう模造刀が折れた時、父は力無く倒れ、怯えて動けなかったフランも母を助けようと駆け寄ったが、母も父のように動かなくなってしまった。ゾンビによるアウトブレイクの怖いところの一つは、ゾンビ感染がよくわかっていないころの初期に、このように身内が噛まれた時に、下手に助けようとして家族が巻き込まれることだ。転化した母は、最も近くにいたフランを噛んだのだ。サイトは妹を助けようと、折れた模造刀を母の頭に叩きつけ、偶然にも突き刺さり母も動かなくなる。

「やだ、やだよぉ・・・」

フランは噛まれた痛みでなく、ゾンビになってしまうこと、そしてサイトを噛むかもしれないことに恐怖し、涙を流していた。

「大丈夫だって、フラン!気を強く持って!」

「ダメだよ、お兄ちゃんもわかってるんでしょ・・・映画とかと同じ、噛まれたらゾンビになっちゃうの。ねえ、一生のお願い・・・あたし、ゾンビになりたくない、お兄ちゃんを噛みたくない・・・パパの部屋に拳銃があるから・・・それで・・・」

サイトはフランの涙に勝てず、父親の部屋から拳銃を持ってきた。

「なるべく・・・痛くないようにして?」

「ムチャ言うなよ・・・じゃあ、親父とお袋に伝言、頼めるか?」

「うん・・・」

フランがうなずくとサイトは涙を流しながら、伝言を口にする。

「俺さ、ぜってぇそっちに行けねぇからさ、親父とお袋に伝えてくれ、今まで、迷惑かけてばっかで、ホント悪かったってよ!!」

言い切るとサイトは目を閉じて引鉄を引いた。パンッ!と一発の銃声の後、フランの額は撃ち抜かれ、恐らく痛みを感じる間もなく絶命した。サイトは自らの手で殺した家族を並べ、毛布を掛けた。以後、三人が起き上がることは二度と無かった。

 

 サイトはアウトブレイク直後の顛末を、懺悔でもするかのようにルイズに話した。彼は本来彼女にこのような話をするつもりはなかった。他人にするような話でもないし、話す方も聞く方もいい気分になるものではない。だが、ルイズにはサイトがなぜ、彼女にこの話をしたか察することが出来た。彼女は彼の妹とうり二つと言っても過言でない。妹に見立てて、まさに懺悔をしているのだ。

「・・・わたしはね、アンタの妹じゃないし、妹にもなれない。だから無責任にあんたを許すとか言えない。」

ルイズの言葉は辛辣なようだが、サイトにはむしろ心地よかった。同情するでなし、妹を知りもしないでその言を代弁するでなし、しかし懺悔を受け止めてくれているからこそ、この言い方になるのだ。

「わたしを助けてくれたのも、妹そっくりだったから、だとしても、わたしを助けてくれたのは変わらないし、わたしは一緒にいる。無責任かもしれないけど、家族の分も生きることがサイトの義務じゃないかしら?」

「ルイズ・・・ありがとう。」

この時、二人の耳にゴロゴロ・・・と、遠雷が聞こえた。ルイズは一度、ゾンビに無視されていたので気にしなかったが、サイトは顔を青くする。

【ウソだろ!?今日!?】

 サイトはばね仕掛けのように跳び上がり、彼の寝室から長い銃を持って家から飛び出した。ルイズもそれを追い、外に出た時、『キイイィィィン!!』と耳鳴りがするような音が聞こえて空が紅色に染まり、彼が家を囲む壁をハシゴで登るのに続き、一緒に外を見ると、数えきれないほどのゾンビが一直線にこちらへ向かってきていた。サイトの動揺ぶりからルイズは、逆茂木では止められないと理解する。

「弾丸、俺の部屋の隣、倉庫。箱の中、持って来れるだけ全部!」

サイトは大きな緑色の弾丸を見せてルイズに指示する。

「わ、わかったわ!」

ルイズは壁から飛び降り、地面を転がって衝撃を殺し、家に駆け込むとまっすぐ言われた部屋に向かった。倉庫には銃の絵が描かれた箱、弾丸の絵が描かれた箱、爆発の絵が描かれた箱等々があり、ルイズはまず、弾丸の絵の箱を開いた。中には先ほどサイトが見せた緑色の弾頭の弾丸、色違いの赤、そして拳銃用の小さい弾丸、銃の絵の箱から拳銃、もしやと思い爆発の絵の箱を見ると爆弾らしき物と奇妙なビンが並んでおり、ルイズはそれらも持てる限り持ってサイトの元へ戻った。

「遅い、弾丸、早く!」

「サイト、これも持ってきたけど使える!?」

ルイズはカバンに詰め込んできた予備の赤弾丸、爆弾、奇妙なビンも見せる。

「助かる、ありがとう。」

そう言ってサイトはまず、ビンを取った。手から、正確には手に握ったマッチ箱より小さい金属の箱から火を出して、ビンの栓をしている布に火を付ける。そして火のついたビンを逆茂木に引っかかってダマになっているゾンビの後ろ側目がけて投げつけた。ビンが割れると中の液体が飛び散り、それに引火してゾンビ達が火だるまになっていく。そう、このビンは火炎瓶、ビンの中にガソリンと灯油を充填し、割れることによって空気と混ざって爆発的に炎上する、地球では千年以上前にも陶製の物が用いられていたほど長く使われている武器だ。ゾンビは痛覚が無い、ウイルスのようなものが死んだ人間の脳の、運動をつかさどる部分に寄生して動かし、噛みつかせる、ひっかかせることによって自身の分身を増やそうとしているのだから。だが、脳組織は熱に弱い、野焼きのガソリンの温度でも死滅させるには十分だ。痛覚が無かろうと、組織自体が死滅すればそれに寄生するウイルスも焼かれてしまう。サイトはまず、後列のゾンビを焼き殺し、その数を減らしたのである。次に取り出したのは爆弾、鉄パイプに火薬と鉄片、小石を詰め込んだパイプ爆弾で、これまた後列を狙う。爆弾で吹き飛ばされたゾンビは頭をやられて動かなくなったもの、手足を吹き飛ばされて這いずることしかできなくなったものとなり、這いずるだけのゾンビなど捨て置いても問題は無い。

サイトが火炎瓶や爆弾でゾンビを減らす間、ルイズは拳銃で逆茂木に引っかかったゾンビに登って足場として向かってくるゾンビの頭を拳銃で狙撃していた。集中して一匹ずつ、確実に頭を撃ち抜いていく。そうしなければ、弾丸が足りない。彼女は確かにありったけの弾丸を持ってきたが、それでもゾンビが多すぎるのである。なので、可能な限り弾薬を節約するため、頭を狙撃しているのだ。二人のチームワークは言葉など不要なほどしっかりした物であったが、いかんせんゾンビの数が数であった。火炎瓶、爆弾も尽き、サイトは長い銃、ショットガンに持ち替えてゾンビの頭をスラグ弾、ショットガンで撃つ一発弾で狙っているが、ゾンビを一匹倒してもそれを踏み越えて来るゾンビは2、3匹かそれ以上。次第に押し込まれているのである。とうとうゾンビ達は壁に取り付き、壁を殴る、仲間に登りサイトとルイズに手を伸ばし始める。

「Fuck!!Fuckin’ zombies!! Die,Die,Die!!!」

サイトはルイズがまだ知らない言葉を叫びながらゾンビの頭をスラグ弾で撃ち抜いていく。ルイズに意味はわからないが、おそろしく汚い言葉を使っているというのだけは伝わる。

「ルイズ、下がる!登る、家の屋根!!」

「わかったわ、サイトは!?」

「すぐ行く、後から!!」

ルイズはそれを聞き、先に壁から飛び降り、先のように転がって受け身を取ると家の屋根に登れそうな場所を見つける。ひさしを支える支柱に足をかけてひさしの上に登り、そこから屋根に登る。この家は平屋に屋根裏部屋がある構造で屋根が高い。順番通りに登れば屋根の上にも上がれるが、それができないゾンビは仲間の上に登っても時間がかかる。サイトはルイズが屋根に登ったのを確認すると壁から飛び降り、ルイズと同じように地面を転がって何を思ったのか家の中に入った。屋根裏部屋から登ることも出来なくはないだろうが、屋根裏部屋の窓の外は足場になりそうな物がほとんどなく、危険極まりない。どちらにしても、サイトを追ってきたゾンビは家の周囲に殺到し、ひさしを壊してしまったので屋根に登るには屋根裏部屋から登るほかない。そこでルイズは屋根裏部屋の窓がある側でサイトが出てくるのを待つ。少ししてサイトが屋根裏部屋から出てきた。壁にかかった換気扇の屋根や室外機を足場にして、背中にショットガンを担ぎ、片手に何かを持っているため素早く動くことができず、屋根裏部屋の窓からゾンビが飛び出して下に落ちていき、家を囲むゾンビ達も仲間に登ってサイトに手を伸ばす。サイトはゾンビの手を蹴落としながら右手を屋根の軒にかけたがその時、足場にしていた室外機が壊されてしまった。サイトは軒に片手でぶら下がった状態になり、ルイズはサイトに手を伸ばす。

「何してんのよ!?早くそっちの手、伸ばして!!」

「できない、大事!これ!」

サイトは左手に持っている物を離そうとせず、ゾンビはとうとうサイトの靴をつかんだ。このままでは引きずり落とされるのも時間の問題である。これを見てルイズの脳裏にあることがよぎる。『ゾンビの中にサイトを突き落とせば逃げる隙が生まれるのでは?』と。前の紅月夜でルイズはゾンビ達に無視されていた。このゾンビは彼女でなくサイトに向かってきている可能性が高い。ならばサイトを突き落として反対側に逃げれば逃げ切れるかもしれない。事実、ゾンビ達は敷地内にほぼ全てが入っており、今ですら全力でジャンプすればギリギリでゾンビを飛び越えられそうになっている。

「ッ!!」

ブンブンと首を横に振り、ルイズは人間として最低な方法を振り払った。初日に、どうしようもなかったとはいえソフィーを見捨て、結果として彼女はゾンビとなってしまった。それを知った上でサイトを意図的に突き落としたりすれば、今度こそ自分は人でない何かになってしまうと考えたのである。

「Throw! Throw it to me!! I’ll catch it!!」

ルイズは覚えたばかりの英語でサイトに、とにかく自分の意思を伝えた。これにサイトは驚き、ルイズをしっかりと見据える。

「Believe!! Believe me!!!」

「All right!!」

サイトは手に持っていた物を上に投げ、同時にルイズはジャンプしてそれを取る。サイトは空いた手も軒をつかみ、足をつかんでいたゾンビの手を振りほどく。それと同時にサイトから最も近いゾンビ三匹の眉間に正確無比な射撃が吸い込まれるように命中した。ジャンプしたルイズが拳銃で撃ったのだ。その様は今日、銃の使い方を覚えたとは思えないほど美しいものである。だが、彼女も着地のことまでは考えていなかった。屋根に足がついた時、足を滑らせてしまう。あわやゾンビの群れに落ちるかと思われたルイズは何かに抱えられて屋根に戻された。落ちそうになったルイズをサイトがつかまえ、屋根に引き戻したのだ。

「約束、守る、ウソ、嫌い。」

「あ、ありがとう、死ぬかと思ったわ。」

偶然にもルイズはサイトに押し倒されたような形になっており、ルイズは羞恥で赤面し目をそらす。

「終わらない、まだ。起きる、撃つ!」

サイトはそう言って立ち上がり、ショットガンを構えて登ってこようとするゾンビを撃つ。とりあえずは安全圏にいるとはいえ、ゾンビ達を放置しておけば家を倒壊させられるかもしれないし、もしかすると仲間に乗って登ってくるものがいるかもしれない。ルイズもサイトに続き、ゾンビを片端から撃っていった。

 紅月が沈み、日が昇り動くゾンビは一匹もいなくなっていた。大部分は仲間に踏み殺されていたが、それに乗って屋根に登ろうとしていたものたちは皆、眉間を撃ち抜かれているか、はたまた頭部が原型をとどめていない。屋根の上で一晩中ゾンビを撃ち続けたルイズとサイトは大の字になって朝日を浴びている。

【生き残ったぜ・・・】

【サイト、ちょっといい?】

ルイズは英語でサイトに話しかける。

【何だ?】

【わたし、あの時、あなたを落とそうとした。わたしだけ助かりたかった。ごめん。】

まだ片言に毛が生えた程度だが、ルイズは英語でしっかりと謝罪した。

【謝る必要なんかねえだろ?俺は死んでねえし噛まれてもねえ。むしろ感謝しねえとな。ありがとよ、家族を守ってくれて。】

ルイズは今になって投げ渡された物を見た。それはサイトの家族写真。これを見たルイズは疲れた笑顔を浮かべてサイトにそれを返したのであった。

 昼すぎ、サイトは今しがた作ったバイクのエンジンがかかるかどうかチェックをしていた。二人は生き延びたものの家は半壊、ニワトリは全て食い殺され、このままここにとどまることはできそうになく、破壊されたトラックから使えそうな部品を外してバイクを組み立てたのだ。つぎはぎだらけのバイクだが問題なくエンジンがかかり、サイトはルイズを手招きする。

「Where we go?」

「I don’t know.But,It’ll be fine!」

不安がるルイズにサイトはそう答えると、ルイズはバイクの後ろに乗り、サイトの背に抱きつく。

 持てるだけの食料、水、必需品、武器を持った二人はバイクで、荒野と化したステイツを走って行くのであった。

ルイズにはまだ、ここがどこなのかはわからない。少なくともハルケギニアと地続きでないのはこの数日で彼女もいやというほど思い知らされた。だが、サイトと一緒ならば、彼の言うとおりどうにかなるだろうと思えたのだ。




途中の英語はA,B,Cの読み方で英語をぶん投げた作者の力ではこれで精一杯かつ、正しいか自信ないです。
それはさておき、今回のルイズはかなりの縛り付きです。
魔法は使えない、言葉はほとんど通じない。
なお、初期案では『がっこうぐらし!』とクロスする予定でしたが、自分が好きなゾンビものの影響で胡桃が悪者になりすぎるという問題が発生して、このように世界観を7days to die、フィアー・ザ・ウォーキング・デッドから拝借しました。
では、ご覧いただき、ありがとうございました。


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