皆殺しだ……。
ガキも……女も……。神父も……妊婦も……。
墓でこの世を埋めてやる。
掘っても 掘っても足りないくらい……。
掘っても 掘っても 掘っても 掘っても 掘っても 掘っても
掘っても 掘っても 掘っても 掘っても 掘っても 掘ってもーー。
「うあっ!?」
冷や汗をかき、息を荒げて飛び起きた。
喉がカラカラだ。頭も痛い。夢の中の“掘る”衝動が、まだ指先に残っている。
自分の手が、自分の意志じゃないみたいだった。
――なんだよ、あの夢……。
ぞわりと、背筋を冷たいものが撫でた。
汗ばんだシャツを脱ぎ捨て、窓を開ける。夜風は冷たく、そして妙に静かだった。
職場へ向かう足取りは重い。
破邪の洞窟の点検、瓦礫や土砂の運搬、書類仕事。しかも、たまにロン・ベルクが新作武器の試し切りで襲ってくる。
はぁ……夢も現実も世知辛い。
今日は何事もなければいいが……。
そのときだった。
職場の建物に入ろうとした瞬間、ぞくりとした気配を背中に感じた。
――視線。
振り向く。
……誰もいない。
いや、いる。ビルの向こう、薄暗い木立の影に、ひとりの男が立っている。
長身痩躯。上下黒の服装。静かな眼差し。まるで――。
「……仙水......忍……!?」
思わず叫びそうになったが、かろうじてこらえた。
いくらなんでも、それはない。ここは『ダイの大冒険』の世界だ。『幽遊白書』の住人が出てくるなんて、ありえない――。
《それが、そうでもないのさ》
頭の中に、突如として声が響いた。
「うわあぁぁぁぁッ!?」
驚愕のあまり、膝から崩れ落ちる。
まるでヤンキー漫画に出てくる、最初に倒されるモブキャラのようなへたり方だった。
《そう驚くな。君を転生させた神様だよ。転生先の体は私が用意したものだからね。今、その肉体を通して君の心に直接話しかけている。他の人間には聞こえないから安心してくれ》
「えっ……神様……ですか?」
呆然としながらも、視線をそっと横に流す。“仙水風の男”は――もういなかった。
いや、やっぱりあれはただの見間違いか、夢の残滓……そう思いかけた、そのとき。
《実は今日は、君に伝えておきたい“大事なこと”があってね。君に――ある男が興味を持ったんだ》
「……はぁ? ちょっと待ってください、まさかさっきの……あの仙水みたいなやつのこと!?」
《察しがいい。そうだ、今し方君を見ていた男。彼のことだ》
「やっぱりか……! じゃあ、さっきのはこの世界の住人じゃないってことですか!?」
《その通り。彼は君と同じように“こちら側”に来た存在だ。その目的は――魔界へ通じる穴を開くこと。地上と魔界を繋ぐ、恐ろしいゲートをね》
――そうか。界境トンネルッ!?
確か、幽遊白書で仙水忍は人間界と魔界に通じる穴を開こうとしていた。この世界でも同じことをしようとしているってことか。
ふざけやがって……!
《そして君は――その計画の最大の障害となる存在らしい》
「……俺が? なんで?」
《簡単さ。君はこの世界の大魔王を倒したんだ。だからこのままにしておくと、自分の計画に必ず支障が出ると踏んだのだろう》
背筋に冷たいものが走る。現実味が、一気に増す。
《だから君には、仲間を集めて、彼を止めに行ってもらう》
「ちょ、待ってください。俺はただ――この世界で、そこそこ生きるだけで……」
《それは無理な話だ。君はもう、ただの傍観者ではいられない。彼に狙われる存在になった以上、生きるか死ぬかだ》
神の声は、どこか楽しげで、どこか突き放すようだった。
その瞬間、トーヤの手のひらが熱を帯びる。
――“念”が、うずいた。
「……ったく。とんでもないヤツを転生させてくれたもんだ」
ボソリと呟きながら、トーヤはゆっくりと立ち上がる。
そして、空を見上げた。
「あ、そうだ。あいつも転生者ってことは、オレが念を貰ったみたいに、なにか能力を貰ったってことですか?」
《ああ、与えたよ》
オレは歯噛みした。
ただでさえ厄介なのに、転生特典まであるなんて。
オレに勝ち目はあるのか……?
「……やつは、あの男は、なにを願ったんですか?」
《ほぉ、知りたいか。彼の願いは――》
神様は、もったいぶるように間をあけた。
オレはごくりと生唾を呑み込み、続く言葉を待つ。
《仙水忍に、なりたい》
「本人じゃねえのかよ!!」
なりたいだけ。