「それで、
数多ある鎮守府を束ねる大本営、そのとある一室。俺は一人の男と向き合っている。
俺? 俺はしがない、それこそ数いる無名提督の一人。そこそこ活動期間が長いから、新任の提督とか悪い噂を聞く鎮守府の調査を任されることが多い、くらいが他との違いかね。
名前は
今回命令が下ったのは、前代未聞の抜擢を受けた『妖精提督』と、そいつの鎮守府についての調査。
元はと言えば、この大本営で長らく活躍している艦娘、大淀からの報告が発端だ。妖精をたくさん引き連れてるーなんて、たったそれだけで提督に任命されたその男は、なんと意思疎通まで可能らしい。
艦娘のように何となく考えを感じ取る、なんて曖昧なもんじゃない。会話が成り立つということだ。なんだそりゃ、と初めて聞いたときは思ったね。
ともあれ、そいつと妖精は切っても切れない関係だ。何せ妖精が居なかったらただの一般人だからな。それでついたあだ名が『妖精提督』。どっちかっつーと蔑称に近い。
そんな妖精提督の鎮守府に赴き、調査を終えて戻った俺は、その報告のためにここへ来たという訳だ。
「率直に申し上げますと、噂は寸分違わず本当だった、と言えるでしょうね」
俺の、ともすれば投げやりな言葉に、黒雲元帥はぴくりと眉を顰める。
多分俺の態度が気になったとかそういうことじゃないだろう。悪い意味で、そういう小さなことを気にする
「……つまり、異常な数の妖精を鎮守府に囲っていることも、妖精と会話が成り立つということも。……工作艦や兵装実験艦の存在無く、改二改装まで成功したということも、事実だったと。そう言うことですか?」
「仰る通りで。私の鎮守府から一人、無作為に選定した他の鎮守府二ヵ所から、それぞれ一人、計三人の艦娘と共に向かいましたが。
当該鎮守府からの報告書と、妖精の反応を見る限り虚偽の報告は無いという結論に至りました。ついでに、定期調査の摘発事項には一切触れてませんね。必要があれば、同行した艦娘にそれぞれ報告書の作成を指示しますが」
隠していることはあるだろうけどね。そこまで報告してやる義理は無い。あくまで俺の所感でしかないっつーのも理由の一つだけど。
「報告書の必要はありませんが……成程。妖精は海原を気に入っているから力を貸しているのであって、その知識や技術を体系化する意思は無いという、あの報告書もただの事実を記したものだったと」
「そう捉えて良いかと」
「ふざけた話ですね」
苛立ちを隠そうとはせずに、彼は窓の外へ視線をやった。
まぁ気持ちは理解できなくもない。この男は提督という職務に対してちょっとした選民思想を抱いているからな。
ロクな訓練も受けずに提督に抜擢された海原は気に入らないだろうし、あわよくば利用してやろうと考えていたはずだ。
大本営も一枚岩じゃない。海原を提督に据えた他の元帥に対する攻撃手段として、この調査は必要不可欠だった。結果としては無駄に終わったと言えるが、ただでは起きないのがこの黒雲という男である。
「……ふむ。空山中将、暁光鎮守府の後任の話は把握していますか?」
「は? ええ、まぁ。まだ決まっていないはずでしたね。元帥閣下が持ち回りで作戦の指揮を執っていると聞いていますが」
「その通り。しかし我々も暇ではないのでね。最前線が後退しないよう維持するのも大切ですが、最も守りを堅くすべきはこの大本営です。ここが疎かになってはいけない」
「理解しております」
言うなれば大本営は、深海棲艦に対する最初で最後の砦だ。ここの陥落は日本滅亡と同義だろう。黒雲元帥の言葉に違和感はない。意図は測りかねるが。
「海原提督は、新任にも拘わらず良くやっています。その働きのおかげで、彼の鎮守府近海は比較的安全になったと言えるでしょう。故に、あそこは担当鎮守府が決まっていない提督を着任させ、腰を据えて育成に取り組むべきだと思うのですよ」
海原と新人提督の二人体制で運営するってことか? 監視の目を強化するということだろうか。あまり意味のある行動とは思えないが。
……いや、そうか。だからこその暁光鎮守府か。
「委細承知しました。私の方で辞令を出しましょうか?
……階級を新米少佐から少佐への昇格とし、暁光鎮守府への異動を命令する、と。そんなところでしょうかね」
「助かります。貴方のそういうところ、私は高く評価していますよ」
「恐縮です」
できれば評価せずに無視して欲しいもんです。
それに……
「新しく分かったことがあれば、すぐに連絡をお願いします。では下がって良いですよ、ご苦労様でした」
「重ねて承知しました。失礼いたします」
頭を下げて退室し、細くため息を漏らす。
そうしていると、外で待っていてくれたらしい俺の秘書艦がパタパタ駆け寄ってきた。
「お疲れ様です、司令官!」
「や、ブッキー。待たせてわりーね。つか、先に甘味処行かなかったの?」
右手でゴメンしつつ聞くと、ブッキー……駆逐艦吹雪は、頬を膨らませて俺を睨んだ。
「一人で食べたって美味しくないですもん。一緒に行きましょうよ」
「えー……、俺ちゃん甘いもん苦手なんだけど」
「じゃあ抹茶でも飲んでてください。私、久しぶりにパフェ食べたいです」
「それ一緒に行く意味あんのー? ブッキーが食い終わるまでずっと抹茶飲んでるとかヤだよ?」
「黒雲元帥とのやり取りとか、今後の身の振り方とか。相談することなんていくらでもあるでしょう?」
「帰ってからでいーじゃん。重いしさ」
「重いから、ですよ」
そう言うと、甘味処へ向かって俺の少し前を歩いていたブッキーは、スカートを翻しながらくるりと振り返った。
「司令官はチャラいくせに変なとこで真面目なんですから。
お茶でも飲みながらのんびり相談しないと、一人で悩んじゃうでしょう?」
……ヤだなぁ。付き合い長いと行動パターンが読まれちゃって。
「わーかったよ。……俺もたまにはアイスとか食おっかな。ブッキー、アイスあった?」
「ありましたよ。あといい加減ブッキー止めてください」
「気が向いたらね」
急に路線変更したので困惑した、と感想をいただいたので、言い訳をば。
たくさん艦娘出したいけど一人一人建造描写するのがしんどいのです(´;ω;`)
見切り発車故の自業自得なのですが……話が進まない。
すでに存在する鎮守府への異動ならば、ある程度登場する艦娘の自由が利くのでこのような展開にさせてもらいました。
ブラック鎮守府とさせてもらってますが、そう重い内容にはならない予定です。