そして聖杯を使う機会もあったので、その時の妄想を…
腕いっぱいに『光』を持って、走る。
色素の薄い廊下を息が切れるほど、激しく駆けていく。
その目的地に行った回数はもう、両の手には到底収まらないけれど。
どれだけ長い時が経ってもこの気持ちが揺らぐことは無いのだと、私は荒く息を吐きながら思った。
━━ああ、マスターさん。どうしましたか。そんなに息を切らして。
どんな状況でも、どんな時代でも、どんな場所でも、変わらないその声音を聞き、安堵を感じる。
━━新しい和菓子の試食でしょうか?それだと私はとても喜びます。ええ。では早く食べさせてください。勿体ぶるのはずるいです。
先程まで腕に抱えていた『ソレ』を後ろ手に回し、体で隠す。
━━さあ、隠していないで。早く。何をニヤニヤしているのです。
いつもと変わらない声で、いつもと変わらないそのマイペースさに思わず頬が緩んでしまう。
私はゆっくりと彼女に歩み寄る。
━━やっと観念しましたか。ではでは早速。
どこからか食器一式を取り出し、戦闘態勢の整った彼女はメガネをくい、と指で押し上げてからキラキラと輝く目をこちらに向ける。
そろそろ、ネタばらしをする頃合いだろう。
…残念ながら、彼女の望んだものとは全く違うモノだけれど。
━━これは
彼女の眼前に、小さな黄金の聖杯を差し出す。
それは光源が無いこの部屋でも自ずと輝き、彼女の端正な顔を照らした。
『私は、これからも貴女と旅がしたい。』
『そして』
『ずっと、美味しそうにお菓子を食べる貴女を見ていたい。』
彼女がおもむろに顔を伏した。
それに釣られるように彼女の癖毛が、萎れてしまった。
…機嫌を損ねてしまった。
彼女の食欲は時に恐ろしい。
これは不味いと、私は慌てて聖杯を近くのテーブルに置き、また駆け出した。
少し頬が熱かったけれど、走れば気になんてならなかった。
2度目の全力疾走を終えて、彼女の部屋の前で立ち止まり、息を整えた。
ポケットには料理が得意な赤い英霊に作ってもらったお手製クッキーが入っている。
『今度こそ。』
そう自分を鼓舞して、自動ドアの前に立った。
先程と、明らかに空気が違っていた。
聖杯の黄金と、夜の暗闇。
それ以外の色がこの部屋には無く、人の気配もしなかった。
━━マスターさん
黒い部屋の中で、赤い電流が迸った。
その電流は聖杯の光にも劣らず、煌々と燃えていた。
━━先程は失礼しました。
バトルドレスに身を包んだ彼女の雰囲気は、つい30分前まで見せていた食欲旺盛な少女のものではなく、歴然たる「英霊」のモノだった。
━━もう一度、私に言ってくださいますか?
そのあまりの美しさに、私は握っていたクッキーの包みを落としてしまった。
しかし彼女はそれには目もくれず、自分の背後にある聖杯を掴み、私の前まで歩を進めてきた。
━━貴女の
聖杯を手渡しながら、そう言うのだ。
少し高い目線から送られるその言葉に、思わず身が竦んだ。
しかし両の足で踏ん張り、水滴がこぼれ落ちつつある目をしっかり開いて、口を開いた。
『わ、たしは、これからも、あな、貴女と旅が、したい。』
『そして、っ』
『私と、おいしいお菓子、食べよぅ……?』
途中から涙が溢れて、嗚咽で言葉も途切れ途切れで、格好がつかないマスターだと、自分でも思った。
でも、彼女は
━━ええ。
━━いつまでも、貴女と共に。
そう、言ってくれた。
お菓子が大好きなバーサーカーに聖杯を捧げました。
まだ人理修復は終わっていませんが、頑張っていきたいです。
大騎士勲章をくれ。