ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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エイプリルフール企画 IF崩れた日常

 彼らは、突如として現れた。

 始めは果実の異変として。それは全国で点々と発生し、やがて日本中を被い尽くした。……だが、殆んど人間は気にもしない。何かがおかしいとは思いながらも、他人事だったのだ。

 真剣に悩み、困るのは農家の人だけ。

 専門家は変異した果実があまりに規格外に過ぎ、結論を中々出せない。そうしているうちに声だけがデカイ無能がこれは病気だ毒があると騒ぎたて。

 そして一般人は変異した果実には毒があると思い込み、手も着けなかった。変異した木ごと焼いた人もいる。

 なにより……一部の人間が果実の有用性や特異性を指摘しても、誰も彼も耳を貸さなかった。変異した果実を食べた無謀な勇者は嘘つき呼ばわりされ、その有用性を論文にした植物学者はコネしかない無能に潰された。

 

 あぁ、誰も彼も思いもしなかった。これが、前兆だなんて。チュートリアルだなんて、考えもしなかったのだ。もし、もし仮に『彼女が』居たならそうでなかっただろうが……そこに『彼女』は居なかった。

 テレビは若き植物学者を潰した無能を持ち上げ、才を持て余し気味だったアイドルの失墜劇を面白しろ可笑しく取り上げる。

 新聞ではオタク系の人間がネットで犯罪を犯したと論点をすり替えてネットやオタクそのものを批難し、その脇に小さく偉大な鹿児島出身の元陸軍少佐と、その弟子だった元総理の死を悼む文言を書く。

 世界は回っていた。異物の無い世界は予定通り回り……予定通り壊れる。

 

 怪物……別の世界でポケモンと呼ばれた者達の出現だ。

 

 最初は大した事はなかった。生物が変異したとはいえ、それはごく限られた範囲、限られた種類だけで、日常が変わると思える程ではなかったのだ。そもそも数だって少なかった。

 ……しかし、それは最初の数ヶ月だけ。人々がその存在に慣れようとした頃、事件が起こる。

 通称『針蜂事件』

 多数の死傷者を出した、悲しい事件。最初の怪物事件だ。

 

 事が起こったのは寒さの出始めた秋。関東各地の森や林から大型の蜂らしき何かが一斉に出現したのが始まりだ。

 最初に犠牲になったのは、この蜂をSNSにあげようと刺激した大学生達。その襲撃……いや、惨殺劇を生き残りがSNSに上げたのが始まりだ。

 林に近づく彼ら、飛び出す大きな針蜂、そして━━次の瞬間、串刺しにされ、あるいは射出された針に撃ち抜かれる若者達。……世間は、彼ら大学生達に非があるとは考えない。むしろ虫ごときが人を殺したと怒りとパニックを生み出した。更に悪い事に被害はそこだけではすまない。関東各地で発生した針蜂達は人も動物も、同じ怪物すら襲って殺していくのだ! その被害者は最終的に、5万人近くまで増えてしまっていた。

 

 これに対する政府の反応は鈍かった。総理大臣が首脳会議の為に海外にいた事もあるし、野党が足を引っ張った事もある。結局、自衛隊の出動が行われたのは針蜂出現から丸2日たった後だったのだ。

 しかし、そうして出動した自衛隊にも被害が出た。意気揚々と出撃した歩兵は串刺しにされ、敵討ちだとその仲間が小銃を発砲するも中々死なない。事はどんどんと大きくなり、歩兵の火器では殲滅困難との報告が上がる。……が、これに対する政府と民間人の動きは鈍い。政府は野党が足を引っ張っており、マトモに機能していなかったのだ。更に民間人の避難が遅れていたのも問題だった。地震ならまだしも虫ごときで避難する人間は半数以下で、残った大勢の人々の為に、自衛隊はより強力な火器……戦車や対戦ヘリの投入が出来なかったのだ。

 結局、自衛隊は針蜂殲滅まで歩兵の火器で対処するしかなく……多数の殉職者を出すに至った。ある若手の自衛隊員は言った。政府がもっと早く動いてくれれば、民間人が直ぐに避難してくれていれば、と。

 しかし世間や民衆というのは勝手だ。そうやって悪条件の中で奮闘した自衛隊に彼らは、罵倒を叩き付けた! 煽った者がいたのは明らかだ。しかし、殆んどの民衆は本気で罵倒していた。武器を持っていながら蜂の駆除も出来ないのかと、おかげで何人死んだと思っているのだと。……被害が広がったのは、虫ごときと侮って避難しなかったのが原因だというのに!

 だが流れは止まらない。世論は流れに流され、煽りに煽られ、ついに自衛隊の解散まで話が進んでしまったのだ! 存続の危機に陥る自衛隊……しかし、そんな自衛隊を救ったのは、皮肉にも新たな怪物だった。

 

 識別名称『青暴龍』

 かの暴龍の出現により、再び関東はパニックに陥ったのだ。

 

 記録によればその龍は何の変わりもない池……いや、ドブ沼から現れたらしい。そして、針蜂同様直ぐに人を襲い始めた。違うのは個体数が一匹にも関わらず、針蜂よりも高い破壊力を持っていた事。その巨体で暴れたかと思えば、空に登って光線を撃ち、あるいは凄まじい水流を吐き出す。出現して僅か二時間で人工密集地にあるビル街が壊滅し、数千人が犠牲となった。

 これには虫ごときと侮った人間も我先にと逃げ出し、政府もある程度まとまって動いた。結果、暴龍出現から3時間後に自衛隊の出動、及び武器の無制限使用が許可される。……しかし、マニュアル通りの事にこだわる政府と民間の動きは遅すぎたのだろう。既に被害は甚大な物に拡大。後に記録された事によれば針蜂事件と同数の死傷者が出ていたらしい。

 

 だが、そんな事は現場には関係ない。暴龍と対峙した自衛隊に、死んだ者を気にかける余裕などなかった。

 何せ、邂逅一発目に放たれた光線により対戦ヘリが2機撃墜され、一拍置かれて放たれた水流で戦車3台が行動不能に陥ったのだ。……余裕を持って掛かれる相手ではない。死力を尽くした戦いだった。

 

 この戦いそのものは一時間以内に決着する。いかに暴龍といえど誘導弾と戦車砲による集中攻撃には耐えれなかったのだ。

 しかし、かの龍もただやられた訳ではない。攻撃を避け、反撃を撃ち込んでくる事も多く……最終的に対戦ヘリ4機、戦車10台、分散展開していた歩兵100名が犠牲となった。

 だが、我々は勝った。そう思った数日後……事件は更に起きる。暴龍に恐れをなし、自衛隊の戦力強化を打ち出した矢先の事だ。

 

『土浦幽霊事件』

 

 まるでバラエティーの企画であるかのようなそれは、どこまでも現実だった。

 死傷者数不明。行方不明者約2万人。意識不明者3万人。

 誰にも気づかれずに被害をだし、意識不明者に関しては医者も匙を投げるこの事態は、数ヶ月の混乱の末オカルト的なモノだと仮定される。行方不明者や意識不明者は神隠しにあったか、幽霊に呪い殺されたのだと。

 以前なら鼻で笑う事件。しかし、人々は既に常識というものがクソの役にも立たない事を察し始めていた。

 そして、悪い事は続く。

 

『地下鉄寸断事件』

 

 謎の怪物が掘った穴により地下鉄が突如として寸断、あるいは地盤そのものが崩落し、関東各地で多数の民間人が生き埋めとなった事件。

 死傷者数20万人。行方不明30万人。大災害だ。

 

『小規模地震多発事象』

 

 穴を掘った謎の怪物を含める複数の怪物達が時折おこす小規模な地震。これは日常的に起こり続けており、被害は増える一方。

 

『東海原発爆破事件』

 

 異常の中でも稼働していた原発が突如として爆発。辺りに放射性物質がバラ蒔かれた事件だ。回収された記録映像には新手の怪物が自爆する光景が収められており、事故ではなく事件となった。

 被害者数、不明。

 復旧の見込み、無し。

 またこの事件を切欠にアメリカ第7艦隊はその殆んどがハワイまで後退。事実上のアメリカ軍の撤退が始まった。

 

『伊豆半島消滅事件』

 

 それはこの異変の中でも極め付きといえる異常事件だ。ある日突然、何の前触れもなく伊豆半島が消滅した。そこにいた人々ごと消滅したのだ。行方不明者は数えきれず、推測としての数字があるのみ。

 直前に未確認の人形怪物が現れ、何かを伝えたとされるが詳細は不明。確かなのは伊豆半島が消滅したということだけだ。

 またこの事件がトドメだったのか、アメリカ軍はアジア方面から完全撤退。日米首脳による電話会談が行われ……関東全域に対する核攻撃が決定された。

 そこにどの様な取引があったのか、あるいはアメリカの横暴なのかは分からない。分かるのは……日本は3度目の核攻撃を受けるという事のみ。回避策は、無い。

 

 ━━関東全域に対する核攻撃まであと3日。この日、陸上自衛隊第3臨時戦闘群は避難民の護衛を行っていた。

 彼らはいつどこから何が出てくるか分からない状況で、パニック状態の避難民を関東から脱出させるのが任務だ。危険極まりなく高度で過酷な任務。しかし、それに従事している正規の自衛隊員は半数以下で、殆んどが入ったばかりの新兵ばかり。最低限小銃が撃てる程度の訓練された、敬礼すら覚束ない連中だ。

 迷彩服に慣れてないのが明らかに分かる彼らのそれは、末期戦のソレを思い起こさせるが……事実そうだった。関東にいた自衛隊の戦力の損耗は絶望的で、他の場所から人を回して貰ってもなお足りない。故に半ば徴兵する形で人員を増やし、それを適当な名前を当てはめて使っているのが、この陸上自衛隊第3臨時戦闘群だった。

 そして、その戦闘群も今や消滅の危機にある。

 

「第3小隊どうした!? 第3小隊! 返事しろ! おい!!」

「青暴龍の群れ、更に接近! 第1戦車小隊、壊滅!」

「上に支援要請だ! このままでは避難民ごと全滅するぞ!?」

「待ち伏せしていた第5小隊との交信途絶!」

「隊長! 第7小隊から援護要請!」

「後続の第4臨時戦闘団との通信、未だに回復しません!」

「第2戦車小隊前進を開始せよ! 残存する第1戦車小隊車両との合流を目指せ!」

「針蜂と交戦中の第2臨時戦闘団より通信! 我戦闘能力を喪失、援護は……不能!」

「こちらに向かっていた第5戦闘団より連絡! 岩サイの群れと遭遇し交戦中との事です!」

「せ、青暴龍、更に接近! 間もなくここも光線の射程に入ります!」

「クソッ、状況は最悪だっ……!」

 

 怒号と、悲鳴。第3臨時戦闘群の作戦指揮所は混乱のルツボにあった。辛うじて統制が取れているのは……青暴龍の群れ相手に逃げ場なんて思い付かないからか。少なくとも、誰も彼も絶望に顔を歪めている。

 この絶望に、予兆なんてなかった。充分に警戒しながら避難民を護衛し、一団が大きな池を通り過ぎ始めたとき、彼ら青暴龍は池の水面を割って現れ、一団向けて一斉に襲い掛かって来たのだ。

 先ず始めに近くにいた民間人が吹き飛び、続いて彼らを護衛していた新兵が消し飛ぶ。それからは被害を出しながら避難民を落ち着け、統率し、逃がし、そして……地獄の遅滞戦闘が始まったのだ。

 その結果は……指揮所を見るに明らかだろう。避難民は逃せたが、代わりに自分達が消し飛ぶ事になった。誰に恨み言を言えばいいのか、何が悪かったのか、それすら定かではなく、彼らはゆっくりと絶望に身を浸していく。

 

 しかし……そんな猶予すら許されず、絶望と相対する事になった者達もいる。今、前線で戦っている者達だ。

 

「う、うわぁぁぁ!? あ、足がぁぁぁ!」

「ジョージがやられた!」

「こっちも駄目だ! 助けてくれぇ!」

「チクショウ! 奴らアサルトライフルを豆鉄砲みたいに!」

「駄目だ、勝てる訳がない……!」

「後退! 後退しろー!?」

「慌てるな! 落ち着いて対応しろ!」

「隊長! 暴龍が光線を━━」

「なっ━━!?」

「た、隊長がやられた!」

「そんな! 俺達はどうれば……うわぁぁぁ!? こっちに来るなぁ!」

「バカ野郎! 騒ぐんじゃ━━ギイヤァァァ!?」

「ふざけるな! ふざけるなぁぁぁ!」

 

 怒声と悲鳴、怒りと絶望。思うがままに剥き出しのまま吐き出されるそれらは、間違いなく彼らの本音だ。何故、どうして、こんな事に、こんな事を、何故自分が。

 困惑する者は弾け飛び、絶望した者は瓦礫に潰され、怒りを持った者は……血に濡れた武器を手に取る。

 

「頭の中でギャンギャン煩いんだよっ……! この、ヘビ畜生どもがァァァ!」

 

 この騒動が始まってから無秩序に情報を頭に送り込まれ続け、また自分を肯定出来ない男は発狂していた。もし彼に夢があれば、理解者が居れば、仲間が居れば……それはもう、叶わないifだ。

 そして、男は手に取ったRPG-7を青暴龍向けて構える。真っ直ぐこちらに向かって来る暴龍を睨み、待ち、両者がぶつかりあうその寸前、引き金が引かれる。

 

 一瞬。爆発音━━

 

 青暴龍の口内に叩き込まれたRPG-7はその威力をいかんなく発揮し、暴龍を内側から粉砕してみせた。そしてその近くにいた男も。

 あぁ、男が最後に見た光景はなんだったのだろう? 最早それを知る者は誰もいない。

 

 暴龍達は自らの同族の亡骸を気にする事もなく、当然それを討ち取った戦士の生死も気にせず、怒りの表情のままに進撃を開始する。

 彼らの目的は何なのか、知る者は……ここにはいない。

 

 ━━この日、陸上自衛隊第3臨時戦闘群は文字通り全滅した。青暴龍に蹂躙されたのだ。更に第2、第4臨時戦闘群も壊滅しその損害は立て直しが絶望視される程。

 そして、彼らが辛うじて作戦を成功させた3日後。関東全域に対する核攻撃が実行され……その全てが未確認生物により迎撃された。

 

『やはり、人間は愚かな存在でしかなかった。甘い幻影に惑わされるのも終わりだ。……これより始まるは戦争。人とポケモン、お互い生存を賭けた戦いだ!』

 

 そう語った未確認生物により、その日から『ポケモン』との戦争が始まった。避けれたはずのそれはごく自然に受け入れられ、お互いの生存権を賭けた戦いへと発展していく。

 ━━人類は、選択を誤った。滅亡のカウトダウンが……始まったのだ。




 今回はエイプリルフールという事もあり、以前要望のあったifモノに挑戦しました(雑なのは許して許して)なお、こちらのルート分岐は『シロちゃん』が居ない場合にのみ発生します。

この作品の魅力、面白かった部分、読んでいる主な理由は?

  • 単純に現代×ポケモンが好き
  • TS要素(勘違い要素含む)
  • 掲示板回
  • 侵食されていく過程、描写等
  • 感想に書いてやるから待ってろ!

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