ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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第18話 配信、全国放送! ~キャタピーゲット~

『━━さて、シロちゃんの説明で皆様もポケモンがどういう生き物なのか? ある程度はイメージが掴め始めた事でしょう。なので、今から実際にあるポケモンを見て、更にゲットしようと思います。……では、一度スタジオにカメラをお返ししますね』

 

 番組が始まってどれくらい経っただろうか? スタッフさんが用意したフリップを使い、指示のカンペを見つつ、ユウカさんにフォローされながらたっぷりと語った気がするが……具体的な時間や、説明の出来はサッパリだ。

 とはいえ、ユウカさんがサクサク進行しているので━━あまりの猫被りに驚いたのは言うまでもないが━━問題はないのだろう。

 そんな事を思いつつ、スタスタと歩いていくユウカさんに続いて私も移動する。チラリとカメラの方を見てみるが……どうやら今は撮っていないようだ。一安心。

 

「どう、でしたか?」

「とっても良かったわよ。これならポケモンを信じる人が出てくるのは間違いないでしょうね」

「そうですか?」

「えぇ。頑張ったわね」

「わっ、ぅぅ……?」

 

 ポフポフなでなでと頭を撫でてくれるユウカさんに気恥ずかしさを覚えつつも、説明が出来が良かったと聞いてホッと一息つく。

 なんというか、肩の荷が降りた気分だ。ホンの少しの説明に人とポケモンの未来がかかっていたからなぁ……

 

「さ、て……次はポケモンのゲットだけど、大丈夫?」

「えっ、と。確か相手はキャタピーで、説明は別にやるんでしたよね?」

「えぇ、CGなんかを使ってスタジオの方でね。モンスターボールの事から、ポケモンをゲットするにあたっての危険性。キャタピーの事も簡単にだけど説明しているはずよ。後は……呼んでおいたゲストに語らせたり、かしら?」

「ゲスト……」

 

 ユウカさんの話をふんふんと聞いていた私は、ふとその単語に嫌な感覚を覚える。テレビに出てくる専門家とか、ゲストとか、そういう輩はロクな事を言った記憶がないからだ。大抵テキトーな事しか言わないモノだろう。

 そんな奴らがポケモンに対してどう批判するか……考えたくもない。

 

「不安?」

「はい。そういう人達って、その……」

「大丈夫よ。ちゃんと選別したから好意的な事、あるいはマトモな疑問や注意点を話すはず。この現場に来ている子なんて……あぁ、居たわね」

「?」

 

 ユウカさんがそう言ってどこかに視線をやり、今の今まで私の頭上にあった手のひらを離す。暖かさが消えるのに合わせて、その視線を私も追ってみれば……女の子が見えた。周りのスタッフとは格好が、あるいは纏う気配が違う少女が一人。あの子がゲストだろうか? だとするとあの少女がキャタピーのトレーナーになる訳だが……

 

「あ! ユウカさん!」

 

 こちらに気づいたのか、ゲストだろう少女が手を振りながらこちらに走り寄ってくる。元気の良さそうな子だ。年頃は……高校生程か? 身長的には私より上だった。

 

「今日は来てくれて有り難うね」

「いえいえ! ユウカさんの頼みですし。何より、私もポケモントレーナーになれるんですから!」

「そうね」

「?」

 

 茶髪寄りの元気な子がユウカさんに機嫌良く話かけているのを見ていた私は、ふと違和感を覚える。

 

 ━━少女と仲良さそうなユウカさん? 違う。では少女の方に? 

 

 ホンの少しだけ考えて、やがて答えは出た。

 違和感の原因は少女が『ポケモントレーナー』という単語を使ったからだ。今その単語を使えるのは前々から私の配信を熱心に見ていたシロ民ぐらいで、つまりこの少女は……

 

「で、この子が『シロちゃん』ですね?」

「えぇ、貴女は見るのは初めてだったわね」

「はい! ユウカさんに勧められてから、配信は時たま見てましたが……思ったよりも、可愛い子ですね!」

「か、可愛い……? て、わっ!?」

「わー! もう、可愛いです! それとちっちゃいです!」

 

 どうやら私の配信視聴者らしい少女は、パーソナルスペースが恐ろしく狭いらしい。なんと会って間もないうちに私を撫で回し始めたのだ。

 頭を撫で、抱き付き、頬ずりまで始めだす。

 疾風怒濤のボディータッチ。恐ろしいのはそれらに下心を感じられず、手慣れている気配すら感じられるところか。どうやらこの少女にとってこのくらいのボディータッチは日常茶飯事らしい。……根本的に、私とはタイプの違う少女だ。目が回ってくる。

 

「そこまでよ。そろそろ時間だから、準備して」

「あっはい。スミマセン。……じゃあシロちゃん、また後でね」

「はい。……はい? はい」

 

 私が目を回しているうちに顔見せは終わったのか、何がなんだかよく分からないままに少女は私達の元から走り去っていった。

 分かった事といえば少女が配信視聴者である事と、元気の良い事ぐらいだが……まぁ、充分だろう。

 

「キャタピーは、任せられそう」

 

 ポツリと小さく呟いて、一人頷く。あれだけ元気が良く、気持ちのいい性格をしているのだし、それは間違いないだろう。

 私はそう確信してカメラの前に立つ。番組の続きは……不安なく進められそうだった。

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 不知火白が一人のトレーナーの誕生を認めていた頃。

 都内某所の料亭。その大きめの個室で、ある男が胃を痛めていた。

 

『ご覧の番組は。新しい未来へ、イトウ自動車。と。ご覧のスポンサーの提供で、お送りしています』

 

 個室に持ち込まれた大型の液晶テレビに映るスポンサー━━軒並み伊藤家関連の企業という清々しさ━━を横目で見つつ、その男は胃の痛みに耐える。

 なぜそんな事をしなければならないのか? その答えは目の前にあった。

 

「うーむ。信じがたい。実に信じがたい」

「確かに。ポケモン? という生物は信じがたい生き物ですな」

「全く。眉唾物の生き物の話をああも真面目に喋られると、妙な気分になります」

「あれならツチノコの話をされた方がまだ真面目に聞ける」

「いや、全く持ってその通り」

 

 彼の前に居るのは高そうなスーツを来た、自分よりも一回り以上は年上の男達。彼らは国会議員や大企業の役員、あるいは地元の有力者であったり旧華族の人間だ。それとその関係者や、強い影響力を持つ人物も居たりする。……所謂、権力者だ。彼の推測でしかないが、恐らく上級国民と呼ばれる連中よりも更に一段上の者達だろう。文字通り格が、生まれが違う者達だ。

 そしてその権力者達が彼の胃を痛める切っ掛けであり、より決定的な原因は、彼の身分にあった。

 

「しかし、現にそこにポケモンが居ますからなぁ」

「この紫色のネズミですか。チーズをむさぼっているあたりそうは見えませんが……」

「だが、あのボールに出入り出来る、奇妙な生き物にはかわりない」

「確か名前は……あぁ、キミ。何だったかな?」

「ぇ、あ、はい。コラッタです」

 

 権力者の疑問に、もう何度目かの返答を返す男。

 そう、男は世界で二番目のポケモントレーナーであり、ネットでコラッタニキと呼ばれる男だ。ポケモントレーナーになる前の職業はフリーター。それも二十代でしかなく……コラッタニキは場違い感を拭えない。なぜ自分が権力者と、それも上位数パーセントの権力者とテレビを見ているのだ? と。

 

「そう、コラッタ。何とも可愛いらしい名前だ」

「元は少女が付けたらしいですから……そうだったな?」

「あ、はい。そうです。全てのポケモンの名付け親はシロちゃんです」

「シロちゃん……不知火白か」

 

 そうだ。シロちゃんだ。あの白いロリっ娘の為に自分はここに居るのだ! 

 そう男は心の中で『きあいのハチマキ』を締め直し、何気なく目の前に並べられた高そうな料理に手を伸ばす。だが……

 

 ━━味が分からない。

 

 間違いなく旨いはずの、高級料理。しかしなぜか味がしない。直ぐ近くでは相棒のコラッタがバリバリと、高級チーズを山程むさぼっているというのに……

 締め直したはずの『きあいのハチマキ』が、ほどけて落ちた気がした。

 

「不知火白。ポケモンの生みの親。年齢不明、家族関係も不明。両親の顔すら知らない少女……でしたか」

「愛に飢えた少女が何気なく見た夢が具現化したのがポケモン……でしたか?」

「余計な事をしてくれたものですな」

「全くだ」

「そこのネズミですら鉄板を噛み切って見せた……全てのポケモンが具現化したときの被害は想像出来ません」

「余計な事を━━」

「いっそ不知火白を━━」

「しかしそれは━━」

 

 口々に流れる不知火白への言葉。それの多くは悪意に濡れており、まるで不知火白こそ諸悪の根源と言いたげ。それどころか時間が経つにつれて極端な意見まで出てくる始末。

 普通なら、彼らに同意するのが正解だ。それがどんな内容でも、権力者には媚びておくのが利口なのだから。しかし……生憎コラッタニキは、シロ民だった。

 

「シロちゃんは! シロちゃんが、悪い訳ではありません……」

 

 勢い良く反論を述べ、しかし権力者達の凄まじい睨みに耐えかねて尻萎みになるコラッタニキ。しかし、彼に続く者がいた。

 

「彼の言う通りだ。あの少女が悪い訳ではない。仮にあの少女が悪いというなら、彼女を救えなかった我々も……いや、全ての人が悪いのだからね」

「確かに。それを言われては反論のしようがない」

「それに、彼女と彼らは新しい可能性も提示してくれています」

 

 伊藤元総理と、彼の支持者達だ。彼らによって個室の空気は完全に変わった。今目が向けられているのは不知火白への罵倒ではなく、彼女達が提示した……コラッタニキが持ち込んだ資料だ。それは新しい利益であり、利権だった。

 きのみの医療活用。電気ポケモンによるエネルギー問題の解決。特殊技能を持つポケモンによる環境浄化等々━━

 他にも様々な資料が持ち込まれ、それらは全て権力者の前に鎮座している。それらがどう見えているか等、わざわざ考えるまでもない。間違いなく宝の山だ。巨万の富も、支持率アップも、不老長寿も思いのまま……これに食い付かない権力者がいるはずもなかった。

 

「とはいえ、これらもポケモンが誰にでもゲット出来て始めて実現出来る事だ。……先ずは、見守ろう」

「……そうですな」

 

 コラッタニキを含めた男達の目が、再びテレビへと向かう。

 胃を痛めていたコラッタニキは気づかなかったが、どうやら番組の企画は既に進んでいたようで、バカデカイ芋虫……キャタピーがテレビに映っていた。

 相対するのは、最近よくテレビで見かける可愛いらしいアイドルだ。確か現役の女子高生だったはず……そんな風にコラッタニキが思い出しているうちにも企画は進む。

 

『━━なるほど。では今ならあのキャタピーに、このモンスターボールを投げつけるだけでゲット出来るんですね?』

『はい。あのキャタピーは今は寝ていますし、キャタピー自体強い種族ではないので……恐らくゲット出来るかと』

『ふむふむ。そして万が一ゲット出来なくても餌で釣り、それでも駄目ならポケモンバトル! ですね』

『はい。その場合はポチだとどうやってもやり過ぎちゃうので、餌で釣られて欲しいところですが……』

『あー、ポチちゃんワンコ……というか狼ですからね。芋虫なキャタピー相手は手加減しようがなさそうです。でも大丈夫ですよ、シロちゃん! 何せ餌として高級ハチミツと、新鮮な生野菜を用意してますから!』

『確かに。それならゲットした後の関係もスムーズに進められそうです』

 

 見れば番組はキャタピーゲットの寸前まで進んでいたらしい。二人の少女と眠りこけるキャタピー。そして餌として高級そうなハチミツと生野菜が映されていた。

 どうやらあのキャタピーも、コラッタニキがゲットしたコラッタと同じ様にもてなされる様だ。

 

 ━━俺は飯の味も分からないってのに。

 

 コラッタニキがそんな愚痴を喉から胃へと戻しているうちに少女二人の話が終わったらしく、モンスターボールが高々と掲げられる。

 いよいよゲットの瞬間だ。

 チーズをむさぼるコラッタ以外の面々がテレビを凝視し、部屋の空気が一気に重くなる。

 

『ではっ! いきます!』

『はい』

『せぇーいっ!』

 

 デタラメなフォームから放たれるモンスターボール。外れるかと思われたそれは、意外にも弧を描いてキャタピーへと向かい━━そして。

 

『わぁ……』

『…………』

 

 キャタピーがボールへと収まった。

 だが、まだだ。まだ入っただけ。ゲットではない。現にボールは不安定に揺れており、今にもボールを壊して中のキャタピーが出て来てしまいそうだ。

 一揺れ、二揺れ、三揺れ━━

 

 ━━カチッ。

 

 音が、した。

 ゲット成功だ。

 

『や、やりました! 私やりました! シロちゃん、私やりましたよ!』

『はい。キャタピーゲット。おめでとうございます』

『イェーイ! これで私が三人目のポケモントレーナーですね! あっ、ユウカさん見てましたか!?』

『えぇ……そうね。三人目のポケモントレーナー誕生ね。えぇ、見てたわよ』

『あれ? 何か不機嫌……?』

 

 これで自分に続くポケモントレーナーが現れた。そうシミジミと思いを噛み締めるコラッタニキ。

 しかしそれも数秒の事。同室の空気が更に重くなった事で感慨にふける事も出来なくなる。権力者達の気配が、変わったのだ。

 

『さぁ、キャタピーを出してあげて下さい。顔見せをして、なついてもらわないと』

『はい。ではキャタピー! 出ておいで━━━━わぁ、感動ですね! キャタピー寝てますが!』

『のんびりした子なのかも知れません。……可哀想ですが、起きて貰いましょう』

『はいはい。キャタちゃん起きてーご飯だよー』

 

 権力者が権力を手に入れたのが偶然でないのなら、当然彼らはそれに見合うだけの力があるはずだ。特に、新しい()()の匂いには敏感だろう。

 例えばつい先ほどまでは利権に成りうるか微妙だったが、今この瞬間利権に成るのが確定した……ポケモン利権など。

 あぁ、 ポケモン達が生み出す利権は間違いなく膨大な数に上り━━そのポケモン利権を手に入れた者が次の時代の勝者になる事は、誰の目にも明らかで……権力者からすれば是が非でも手に入れなければならない物になったのだ。

 そして、それらポケモン利権には、二番目のポケモントレーナーであるコラッタニキ自身も含まれる。

 

『わぁー。いっぱい食べますねぇ……キャタちゃん』

『お腹空いてたのかも知れませんね。……でも、なついてくれそうで良かったです。ちょっとアレなゲットの仕方でしたから』

『普通は起きてるときに餌付けしたり、話したり、バトルで認めさせたりするんでしたよね? 確かに今回は……アレですね。前後逆になってます』

『まぁ、その辺りはスタジオで補足して貰いましょう……では、一旦CMです。この後はポケモンバトルをやってみましょう』

『え゛? キャタピーでポチちゃんに挑むんですか……?』

『その、手加減するので……宜しくお願いします』

『や、やります! やってみせます!』

 

 テレビの向こうで少女が悲壮な覚悟を決めたとき、コラッタニキもまた覚悟を決めていた。

 何せ権力者達の気配や目が違うのだ。既に料亭の個室は利権を奪い合う戦場となり、コラッタニキは解説役から獲物に成り下がる。

 

 コラッタニキが複数人の老人からうちの孫娘は年頃でして……などと、言外にご令嬢との見合いの話を進められ、何も入ってない胃をひっくり返しそうになるまで──後数分の事だった。




 この作品は。新しい世界(性癖)を切り開こう、ハーメルン作家キヨ。と。読者の皆様の応援で、お送りしています。

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