ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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第二章 決戦! カントー!
第21話 動き出すモノ


 ━━政府公式会見より、一ヶ月。

 ━━九州本土より北へ約130キロ。

 ━━北緯34度25分。東経129度20分。

 ━━対馬。

 ━━内陸部、洞窟内。

 

 この日、普段人が寄り付かないとある洞窟内には多くの人間が居た。懐中電灯で暗闇を照らしながら二、三人で一塊となって注意深く足を進める者達……背丈も服装もバラバラな彼らだが、その動きは悪くない。むしろ良く訓練されているといえるだろう。

 それもそのはず。一人を除けば彼らは警察官であり、あるいは普段SPの真似事をしている警備員や傭兵なのだ。そして除いた一人もただ者ではない。

 

「……間違いない。つい先程までここには複数人の人間が居た」

「サイコメトリー能力って奴ですか。確かなので?」

「さぁ、な。俺自身能力には半信半疑だ。……が、少なくとも能力はそう言ってる」

「それは、なんとも……」

 

 現在確認されている唯一の超能力者にして、サイコメトリー能力の使い手。通称、筆頭犬兵。

 シロちゃんガチ勢でありながら、彼女にいっさい絡むことの無かった彼がなぜ対馬の洞窟に多数の人と共に居るのかといえば……この洞窟が元シロ民を含むテロリストの拠点だと推測されたからだ。そして、その推測は彼の超能力によって━━それを信じるならだが━━裏が取れた。凡そ間違いないと。

 

「まぁ、何にせよ、調べてないのは後少しです。居るとしたらそこでしょう」

「あぁ、充分に注意して……ん?」

 

 筆頭犬兵を含む一団が先へ進もうとしたところ、背後から足音が響く。すわテロリストの奇襲かと身構えて振り返り、各々が懐中電灯を向けて見れば……そこに居たのは自分達と同じ、しかし別の道を調べていた一団だった。どうやら別の道を調べ終わり、こちらへと合流したらしい。

 

「その様子だと、そちらは外れか?」

「あぁ、こっちはちょっとした居住区で、人は居なかった」

「となると……」

「この先だろうな」

 

 一団が合流し、各々が頷いて先へと足を進める。慎重に、しかし確実に。その中で筆頭犬兵は妙な違和感を覚えていた。

 

 ━━おかしい。静か過ぎる。

 

 恐らくそれは他の者も思っているだろう。だからこそ警戒して進んでいるのだ。しかし……筆頭犬兵のそれは彼らより一歩前に進んでいた。

 

 ━━何だ? この徒労感は……?

 

 それは今まで無数に引いてきたハズレと同じ感覚。バカな、そんなはずはない。この洞窟の出入り口は少数とはいえ武装した警官隊が塞いでいるし、内部に先程まで居たのは能力で確認済みだ。それこそテロリストのリーダー格であろう元シロ民と、そのスポンサーや協力者達が居たのも確認している。ハズレなはずがない。

 筆頭犬兵はそう思ってはみるが、それでも徒労感は無くならない。まるでここもハズレだといわんばかりに……

 

「これは、扉か?」

「重厚だな……鉄なのか?」

「各員、装備の点検。居るとしたらここだぞ」

 

 そうこうしているうちに一団はそれらしい扉の前にたどり着く。重厚な、しかし最近になって後付けされたと見える鉄の扉だ。他の場所に居なかった以上、居るとしたらここに立て籠もって居るのだろう……そう全員が確信し、各々装備を点検していく。

 それが終われば隊列の変更。バリスティックシールドを持った者が前に、拳銃を持った者がその後ろに続き、徒労感に悩まされる筆頭犬兵は最後尾だ。

 そして、遂に準備が終わり、突入の瞬間が訪れる。

 

「よーし。各員突入用意。分かっていると思うが我々の装備ではポケモンに勝てない。万が一テロリストがポケモンを出してきた、あるいはいた場合は直ちに後退。催涙弾と麻酔銃、及びスタングレネードによる無力化を試みる。……良いか? 良いな? よし。先頭、扉を開けれるか確認してくれ」

 

 不幸にも彼らの中にポケモンを持つ者は一人も居ない。しかし居ないなら居ないなりにと効果的と推測される作戦を練っており、突入の準備は万端だった。

 そうして先頭が扉に手を掛ける。大方鍵が掛かっているだろうと思いながら━━しかし。

 

「これは、開く……?」

「何?」

 

 ギッ、と。微かだが扉が動く。まさかテロリストども、鍵を掛け忘れたのか? そう各々が隣の者と目を合わせる中、筆頭犬兵は酷い徒労感に襲われていた。間違いなく、ハズレだと。

 

「隊長、突入を」

「そうだな、各員━━突入!」

 

 これ以上嫌な感覚に襲われたくない筆頭犬兵は一団の隊長の背中を押し、結果として一団は一斉に前進を開始する。

 先頭が鉄の扉に盾をぶつけて押し開きつつ突っ込み、後に続く者がその先を照らせば━━誰も居ない。見えるのは洞窟の岩肌、そして幾つかのコンテナだ。

 

 ━━どこかに隠れて居るのか?

 

 そう各々が目を凝らし、懐中電灯を動かすが……人が居る様には見えない。かといって他の道がある訳でもなく、完全な行き止まりだ。

 おかしい、ここに居るはずだ━━そう一団が警戒する中、筆頭犬兵がスルリと盾持ちの横を通り抜けて先へと進む。

 

「あ、おい!」

「大丈夫だ。ここもハズレだからな」

 

 うんざりだ。そう言わんばかりにスタスタと歩き、部屋の中央まで歩いていく筆頭犬兵。そうして進んだ彼を襲う者もおらず、一団も各々警戒しつつも先へと進んで筆頭犬兵と合流する。

 そうして全員がハズレを確信し……興味が移るのはコンテナだ。

 

「居ない様ですな」

「ハズレ……いや、こんなものがあるのだから逃げられたか。抜け道でもあったか?」

「洞窟ですからね。なんとも。しかし、こんな大きなコンテナをどこから……」

 

 部屋に幾つか置かれたコンテナは、貨物船やトラックで運ぶタイプなのだろう。かなり大きい。少なくとも彼らが通って来た場所から運べるとはとても思えない大きさのものばかりだ。

 そうして一団が頭にクエスチョンマークを浮かべつつ、何気なくコンテナの扉に手を掛けてみれば……開いた。やはり鍵は掛けてないらしい。そう呆れつつ中身を見てみれば、呆れは吹っ飛んだ。

 

「バカな、何だこれは!?」

「銃が、こんなに沢山……!」

「AK47にM16、トカレフに……お、M700もか」

 

 そこにあるのは乱雑に、しかし無数に置かれた銃器の数々だ。どうにも銃に詳しいらしい警察官の一人言を信じるなら、種類も様々に用意されているのだろう。

 

「凄まじい物だな」

「えぇ、全く。西側東側問わず揃えられています。とはいえ、全て中華製コピー品の様ですが……ん?」

 

 銃に詳しい警察官はこれらの銃をコピー品だと断じた後、何かに気づいたのか手に取っていたライフル銃をおろして別の物を取る。それは鉄の筒。そのままでは役に立ちそうにもないが、少しでも知っている者にはそれが何なのかはおよそ想像がついた。つまり。

 

「バズーカか?」

「いえ、RPG7。ロケットランチャーですね。その発射機の部分です」

「……要するに、物騒な物って訳だろ?」

「まぁ、そうですね」

 

 確かに物騒には変わりないと銃に詳しい警察官が苦笑しつつRPG7を床に下ろしていると、別の警察官が慌てた様子で走り寄ってくる。どうやらロクでもない物を見つけたらしい。

 

「隊長! こちらに来て下さい」

「どうした? 何か見つかったか」

「はい。その、自分では判断しかねる物が……こちらです」

 

 いったい何を見つけたというのか? そう疑問を持ちつつ移動してみれば……なるほど、確かに判断しかねる物が別のコンテナ内に転がっていた。

 

「これは……砲弾か?」

「ふむ…………戦車砲弾ですね。以前ロシアの博物館でみたのとそっくりです。これは、T-34の砲弾か?」

「T-34?」

「戦車ですよ。ソ連が生み出した傑作戦車にして、現役の骨董品です」

 

 現役の骨董品というのはある意味矛盾した言葉だが、事実だから手に負えない。

 そう苦笑する警察官の横を筆頭犬兵はスルリと通り過ぎ、コンテナ群の奥へと進んでいく。面倒な事になったと思いつつ。

 

 ━━戦車とはな。何をする気か知らないが……やり過ぎだろう。

 

 いくら何でもこれはない。奴らめ、目的と手段が入れ替わって暴走してるんじゃないのか? そう内心で吐きつつ他のコンテナを覗いてみれば、そこにも銃や砲弾、あるいは砲そのものが放置されている。

 恐らく運び込んだまでは良かったが、他に良い隠し場所も無く、そのまま今日を迎えて放棄せざるを得なくなったのだろう。その点でいえば今回はアタリだった。

 もっとも、大元を絶たなければまた同じ事が繰り返されるだけだが。

 

 ━━まぁ、どんな手段で手に入れ、どうやってここに運んだかはだいたい想像がつくけどな。

 

 そう鼻で笑って先へと進む筆頭犬兵だが、やがて完全な行き止まりにぶち当たる。抜け道も見られないし、やはりテロリスト自体は逃がしたか……そう思ったとき、脳ミソがふと何かを感じ取った。

 その感覚に導かれてみれば━━

 

「なんだ、この紙切れ……?」

 

 そこにあったのは落としてから間もないのだろう、まだ真新しい紙切れだった。何気なく拾って見れば……どうやらメモ用紙の切れ端らしく、幾つかの震えの酷い走り書きが書いてあった。

 

「壁画、神、ポケモン。存在しない。過去……人類史の否定。不知火白、特異点。インベーダー? 消えた存在、概念。取り戻せない。そして、全ては侵食され消え失せる━━何だ、これは?」

 

 意味不明。そう言って間違いない文字の羅列を一通り読んだ筆頭犬兵は、そのあまりのデタラメ具合に紙を捨てようとする……が、ふと自分の能力を思い出して改めて意識を集中する。

 サイコメトリー能力。いつの間にか覚醒していたこの能力を使えば、コレが書かれた当時の事を見れるのではと期待したのだ。

 

 ━━さて、上手くいくか……?

 

 サイコメトリー能力は固体に対しては効きづらく、また思念が残らないゴミに対しても効果を発揮しない。しかしこのメモの切れ端が所謂『たいせつなもの』ならそれなりの情報を見れるはず……そう意識を集中していけば━━

 

『洞窟』『奥へと続く通路』『先にある壁画』

『荒れ狂う大地』『荒れ狂う海』

『メモに書き殴る推測』『焦燥』『勘違い』『改変』『自我が崩れ━━

 

 ブツリ。

 そこで記憶の再生は止まる。ニガテな固体、それも紙切れ相手である事を考えればかなり健闘したが……何がなんだかサッパリ分からない。

 強いていえば変態テロリストが━━今までもそうだったが、これからはそれ以上に━━発狂し、その原因がこの洞窟の奥にある壁画だという事だろう。

 しかし……

 

「どこにもそんな道は……いや、崩れたのか」

 

 記憶で見た壁画の間へと続く通路はどこにも無く、あるのは岩肌ばかり。しかしよくよく懐中電灯で照らして見てみれば、どうにも崩れたらしい場所を見つける事が出来た。恐らくこのメモが書かれた後に崩れたのだろう。道は完全に塞がっており、幸か不幸か、壁画を見る事は出来なさそうだ。

 

「お前は、いったい……何を見たんだ?」

 

 今は討つべき敵となったかつての同胞が見たナニカ。それに激しく嫌な予感を感じつつ……しかし、何も出来ずに筆頭犬兵は警官隊と合流する。ここで得るべき情報は他にないと判断して。

 

 ポケモンが世間に広まって一ヶ月。事態は大きく動き始めていた━━




 現代×ポケモン×TSの作品が増えてきて嬉しい限り……

 と言う訳で。他作品との差別化を兼ねて、当作品はこういう方向性で行きます。
 Q.要するに?
 A.ポケモンvs近代兵器vsダークライ。

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