ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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 時期が合ったのでネタ山盛りのクリスマス短編。
 時系列的にはジョウト編以降シンオウ編前の想定。


クリスマス企画 メリークリシミマス

 西暦20XX年。クリスマス。

 とある集団が都内某所の広場を占拠した。

 降り続く雪の中、たった一年間の平穏は終わった。

 そして、現状で唯一の対抗戦力であるシロ民達は━━二つに分かたれていた。

 

「我らがシロちゃんに忠勇なるシロ民達よ、今やリア充の半数が我らがポケモン化の変化に付いてこれず時代遅れとなった。この輝きこそ、我等シロ民の正義の証しである」

 

 都内某所の広場を占拠した、背丈や格好すらバラバラな集団。共通点といえば首もとの白いチョーカーぐらいしかない集団の前で、軍服を着た老け顔の坊主頭が何やら熱く語っていた。まるで演説をするかの様に。

 

「決定的打撃を受けたリア充に如何ほどの戦力が残っていようと、それは既に形骸である」

 

 身振り手振りを交え、聴衆に語りかける坊主頭。その目には異様な熱量があり……またそれを聞く者達の目もまた、異様な熱を持っていた。そう、復讐心にも似た熱を。

 やがて坊主頭は息を吸い、バッと手を振って声を放つ。

 

「敢えて言おう、カスであると!!」

 

 力強く、ハッキリと断言する。敵は弱いと。

 その言葉に揺らぎはなく、ただ確信のみがあった。思わず信じてしまう程の真実があったのだ。

 

「それら軟弱の集団が我らシロ民を討つ事は出来ないと私は断言する」

 

 力強い口調から一転。落ち着いた様子で、当たり前の事を語るように真実を示し、一度言葉を切る。

 そして坊主頭はサッと聴衆を見回し、再び口を開く。

 

「人類は我等選ばれた優良種たるスーパーマサラ人化した超人に管理運営されて、はじめて永久に生き延びることが出来る。これ以上クリスマスなどという、非リアを苦しめる下らない行事を続けては人類そのものの存亡に関わるのだ」

 

 少々事が大きい、というかイマイチ筋が通っているかすら怪しい事を語る坊主頭。しかし、聴衆はその変化に気づかなかった。先程まで当たり前の事を言っていたのだ。ならばこれも当たり前の事であると。

 何より……クリスマスという行事は、彼らにとって不要な物だった。

 

「リア充の無能なる者どもに思い知らせ、クリスマス中止の為に我らシロ民は立たねばならんのである!」

 

 グッと拳を突き上げ、坊主町は演説を打ち切る。クリスマス中止の為に立てよシロ民! と。

 それに答えるのは同じ思いで集まったシロ民達だ。彼らも拳を突き上げ、思い思いの声を上げる。

 

 クリスマス中止!

 今年こそクリスマス中止を!

 ジークシロちゃん!

 

 熱狂は絶頂に達し、怒号となって辺りを支配して━━それを先頭に立った坊主頭が止めようとした……その瞬間。坊主頭の視界に影が差した。

 

「待てぃ!」

 

 制止の声!

 突然響いたその声に、聴衆達も声を上げるのを止めて辺りを見渡す。どこだ? どこから声がしたのだ? と。

 

「力と力のぶつかり合う狭間に、己が醜い欲望を満たさんとする者よ、その行いを恥じと知れッ!人、それを……外道という!」

 

 混乱の中にあるシロ民達を置き去りに、声は続く。熱い魂でもって、熱い言葉を投げ掛けて。

 その先を見れば……おぉ、ゴウランガ! なんと近場にあった街灯の上に人影が見えるではないか! シロ民達の上を取る姿は実際ニンジャめいたアトモスフィアを感じる!

 

「何奴!?」

「貴様に名乗る名前は無いっ!」

 

 思わず坊主頭が人影に誰何(すいか)の声を上げる。だが人影はそれに答えて名乗りを上げる事はせず、とぁあああッ! と威勢よく街灯から飛び降り、見事に着地。魂の熱さは戦士のそれだが、その動きは実際ニンジャだ!

 その身のこなしを見て、ならばと坊主頭は襟をただして人影と向き合う。そして両手を合わせて━━オジギ。

 

「ドーモ、エリートシロ民です」

 

 オジギをするのだシロ民。格式ある伝統は守らねばならぬ……

 そう思ったかは定かではないが、坊主頭は綺麗なアイサツをしてみせた。瞬間、坊主頭の背後に爆炎が上がる! おぉゴウランガ! これはオモチャによる物ではない。間違いなくポケモンの“わざ”である“ほのおのうず”を改良した物だろう。どうやら近く居たコーディネーター志望のシロ民が気を効かしてエフェクトを入れたらしい。

 決まった。完全に決まった。見事なアイサツだ。そしてアイサツをされれば、返さねばならない……! 古事記にもそう書いてある。

 

「━━ドーモ、エリートシロ民=サン。シロちゃん親衛隊です」

 

 バンッと手を合わせ、綺麗にオジギ。瞬間、背後に降り注ぐ無数の稲妻! エレクトリック! アイドル二人組のパフォーマンスめいたそれは実際スゴイ。

 

「なぜ止める! 親衛隊! クリスマスは中止されるべきだ……お前もそう思うだろう!?」

 

 アイサツは終わった。ならばとシロ民の一人が親衛隊に声を掛けた。なぜ止めるのかと。クリスマス中止を思う心は一つのはずだと。

 その声は次第に大きく、増えていく。クリスマスを中止せよと。

 この日の為にシロ民達は準備し、結集したのだ。今更退けはしない。坊主頭なんて演説の為にコスプレまでして、声真似演説の練習もしたのだから。

 だが、そんな声に親衛隊は答えない。いつの間にか暗闇から現れたり、空から現れたりして数が増えてはいたが、やはり答えない。

 

 ━━最早武力衝突しかない。

 

 そうシロ民達が思い始めたとき。充分に数が増えた親衛隊の一人が懐から何かを取り出す。それはカードの様で……そして。

 

「静まれぇい! 静まれぇい!」

 

 突如として声を張り上げ、シロ民に黙れと告げる親衛隊。その凄まじい気迫に押され、僅かな時間だがシロ民達が口を閉じる。そして、ソレが彼らの前に示された。

 

「このブロマイドカードが目に入らぬか!!」

 

 堂々と親衛隊がシロ民達に示したソレ。それはブロマイドカードだった。描かれているのは……白髪赤目の幼さの残る少女。シロちゃんだ。しかもサンタコス(ミニスカート)という異例中の異例の格好。ロリは最高、枕草子にもそう書いてある。

 バカな。あり得ない。合成か何かでは?

 シロ民達に動揺が走り、あまりの衝撃に沈黙が降りる。それを好機とみたのだろう。親衛隊が畳み掛ける様に口を開いた。シロちゃんは騒動を望まぬと。

 

「我らがシロちゃんが望むのは人とポケモンの共存だ。決してポケモンを使って悪事を働いたり、テロを起こす事ではない。━━ここは退いてくれ。悔しさは分かる。だが、その悔しさを晴らす為にポケモンを使えば……それは最早シロ民のあるべき姿ではない! テロリストだ!」

「っ━━!」

 

 だからここは退け。今ならまだ間に合う。そうシロ民達に語り掛ける親衛隊。

 その言葉に思うところがあったのだろう。シロ民達は渋々ながらも矛を収めようとし始める。……だが、何も言わずに退くのも収まりがつかない。そんな考えから一人のシロ民がポツリと口を開く。お前らはどうなんだと。

 

「お前らはそれでいいのか? 企業はポケモンをエサに商業戦争を起こしているぞ? それはポケモンを道具にしている事じゃないのか!? シロちゃんだって良い顔はしてなかったはずだ!」

「……あれは、仕方ないだろう。スポンサーをないがしろにする訳にはいかない」

「スポンサー? スポンサーだと? 我々シロ民はいかなる権力、財力、武力……どんな力にも屈しない! そうじゃないのか!?」

「それは理想だ! 現実は違う……!」

「……分かっているさ。だが、それでも、我々が理想を示さなければ、後に続く者は何を信じれば良いんだ? 何を旗に集えば良いんだ? ━━それを示すんだよ。今、この日も! あの日と同じ様に!!」

「バカどもめ……っ! あの日と今では状況が違う。命令違反も同然だぞ!?」

「あぁ、分かっているさ。ポケモンとダンスだ!」

 

 意見は平行線。交わる事はない。ならばポケモントレーナーらしく、ポケモンバトルで決めるしかあるまい。そうエリートシロ民とシロちゃん親衛隊の何人かが腰にあるモンスターボールに手を伸ばしたとき……ポツリ、と。呟きが漏れる。そのブロマイドカードどこで買えるの? と。

 

「……何?」

「いや、そのミニスカサンタのシロちゃんのブロマイドカード。俺も欲しいなーと。……どこで買えるの?」

「…………」

 

 どこで買えるんだ? そんな素朴な疑問に親衛隊員が一斉に目を逸らす。

 お前言えよ。

 嫌だよお前が言えよ。

 俺帰ってもいい?

 そんな声が聞こえる様な目逸らしに、まさかとエリートシロ民が声を上げる。売り切れか? と。

 

「……限定品だ」

「……何の」

「お前らを止める作戦参加者限定の、限定品だ」

「…………」

「…………」

 

 沈黙。

 10秒、20秒、30秒……長く、重い沈黙が辺りを支配する。

 何せ親衛隊員の一人が白状してしまったのだ。このブロマイドカードは自分たちしか持っておらず、それ以外誰にも、どこにも無く……他の者はもう手に入れれないと。

 あまりに重い沈黙はその後まる一分は続き━━やがて一人のエリートシロ民がハッと何か思い付いたかの様な表情を見せる。なんだ、あるじゃないか。手に入れる方法がと。

 

「殺してでもうばいとる」

「!?」

 

 自分は手に入れれない。だが目の前の相手は持っている。なら……後は簡単だと。

 その原始的にして野蛮な考えは辺りへ一斉に伝染し、およそ全てのシロ民達に感染。そして、最初の一声が上がるのに時間は要らなかった。

 

「ヤロォブッコロッシャァアアア!」

 

 野郎オブクラッシャー。その一声を皮切りに次々とシロ民が親衛隊へと殴り掛かる!

 ポケモンを出さず、素手で戦おうとしているのはなけなしの理性の勝利か、それともポケモンバトルをするに価する相手と見なしていないのか。何にせよ、雪の降る広場は昭和の野球場へと変貌し、ここに大規模な乱闘が勃発した。

 

「ふざけやがってぇ! てめぇそれは抜け駆けってもんだろォン!?」

「うるせぇ! これは俺のモンだァアア!」

「突撃ィィィ!」

「着剣セヨ!」

「着剣!」

「貴様は強くない」

「モアイ……」

 

 よくも抜け駆けしやがって。お前らだけズルいぞ。そんな声がシロ民達から響き、それに親衛隊は喧しい。こんな事をしているお前らが悪いと答える。そこにOTONAの姿は一人も無く、小学生レベルのケンカしか無い。

 

「だいたいシロちゃんに忠誠を誓ってれば逃さなくて済んだんだよ! このヴァカどもが!」

「うるせぇ! 何が親衛隊だ! この狂信者どもめ! 俺だって彼女くらい欲しいわ!!」

「ハッ! だから貴様らは二流止まりなのだァァアアア! 肉欲に踊らされている人間が一流に成れるかァ!」

 

 彼女欲しい! バカが、どうせモテないんだから独身貴族として研鑽のみを積め! そんな最早本題からズレている罵倒を交わし、拳を叩き付け、乱闘は地獄絵図を描く。

 

「うぉぉおおおお!」

「チェストォオオ!」

 

 逆だったかも知れねぇ。そんな事を思っているかは定かではないが、シロ民達は全身にオーラにも似た何かをまとわせ、拳を叩き付け合う。

 スーパーマサラ人化した超人同士の決着は……まだ、暫く掛かるのだった。

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 シロ民達が内ゲバに勤しんでいる頃、ある意味原因となったシロちゃんはといえば……

 

「あー、うあー……」

 

 執務や利権調整、ポケモン絡みの事件解決やカバーストーリーの調整で疲れきり、田舎のおばあちゃんもかくやといった状態だった。

 つい先日もポケモンをクリスマス商戦の戦術に組み込みたい菓子メーカーに、オブザーバーとして幾つかアドバイスを送ったり、ポケモンの生態を考えつつマスコットを選出━━差し当たりデリバードをプッシュしておいた━━したりと、何かと忙しかったのだ。

 その上シロ民向けのエサを用意する為に━━いい加減慣れ始めてしまった━━写真撮影も行っており、とてもではないがクリスマスどころでは無かった。

 

「もふ、もふ……」

 

 自ら望んだポケモンと人との共存の道。しかしその道には幾つもの障害があり……幾つかは無理矢理壊すにしても、全て壊すつもりがない以上、チマチマとした仕事が無くなる事はない。

 それは彼女も分かっている。しかし分かっていても疲れは出るもので……

 

「も、ふ━━」

「グルゥ……」

 

 執務と外仕事の僅かな時間に相棒であるグラエナをモフり、そのやわらかで暖かい毛と、仕方ないやつだといわんばかりの穏やかな視線に包まれてまぶたを閉じる。

 来年はゆっくりケーキ食べよう。あ、ポケモン用のケーキも作らなきゃ。……そんな事を考えながら。

 

 彼女達が穏やかにポケモンと過ごすには、まだ少し時間が必要だった━━




・シロちゃんのブロマイド(クリスマス限定品)
 不知火白がクリスマスで仮装した姿が写されているカード。クリスマス当日に行われた、クリスマス中止を求めて暴徒化したシロ民に対する鎮圧任務に、ボランティアとして参加した者にプレゼントされた。
 ハロウィンのときとは違い、コスプレ内容はミニスカサンタのみだが、アングルやポーズ等が異なる物があるので種類自体は幾つかある。普段肌を露出させる事を嫌がる少女のミニスカ姿、しかもかなり際どい物もあるという噂により配布後1日で凄まじいプレミアが付いた。
 また配布数の少なさ、親衛隊の独占、持ってない者を煽る様な見せびらかしの結果、案の時昭和の野球場めいた乱闘が発生。これを事件としてマスコミに報道させない為に、対テロ訓練のカバーストーリーを作成するはめになった。なお書類を用意する為に、相棒たるグラエナを抱き枕にしてスヤスヤと眠っていたシロちゃんが叩き起こされたが、その事実は「おめでたい年末にわざわざ苦労話を聞かせたくない」というシロちゃんの意向もあってあまり知られていない。



 現代ポケモンの作品がかなり増えた様です。更新停止状態だった人が復活していたりするので、一度検索かけてみるのもありかも?

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