ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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第3話 検証、オレンの実

 LEDの明かりが照らす部屋の中、私はパソコンにかじりつく様になりながら椅子に座っていた。時刻は既に日を跨いでおり、今の私はきっと……酷いしかめっ面をしているに違いない。

 

『やっぱり、新しい情報は無いんですか?』

 

 愛用のキーボードを叩き、掲示板にそう書き込む。そして書き込んでから気づくのは、その文章がもう二度目だと言うことだった。

 

『無いな』『無い』『ニュースサイト巡ったけど、どこも一緒だった』『やっぱりシロちゃんが一番詳しいで』『ポケモンの設定をまとめてるサイトが一番詳しく書いてる状況やからな』

 

 そう、きのみ検証板と名付けられたソコでの会議は堂々巡りになりつつあったのだ。新しい情報を求める私と、私に何かを期待するシロ民達で。……私だって何も分からないのに、何を期待しているのやら。

 まぁ、私はこの件を徹底的に追究するつもりだが、このままでは追究し終わるより先にシロ民達が落胆し、飽きてしまうだろう。彼らはあくまで善意の協力者、飽きてしまうのは仕方ないし、無理強いも出来ないのだから。……仕方ない。情報が足りないが、踏み込もう。

 

「はぁ、ふぅ……」

 

『今集まっている情報で、検証を始めます』

 

 深く、しかし短く深呼吸して、検証開始を宣言する。

 

『よっしゃ』『待ってました』『シロ様、我らに知恵を!』『おい犬兵、身内が暴走しとるぞ』『あれはドM犬兵だ。身内ではない』『見捨てられてて草』『シロ様ぁー!』

 

 スルスルと流れるスレを追いながら、私は何を話したものかと悩む。

 今集まっている情報は殆んどが知っている物ばかりで、検証も何もなくオレンの実だと言ってくるのだ。検証する事がない。しかし問題は私がそれを信じれない事。ポケモンが現実に現れるなんて、それこそファンタジー。幻想だからだ。

 ならば検証の焦点は……私が信じるしかない情報を手に入れる事、これだろう。

 

『先ずはオレンの実からいきましょう。手元にある人はどれくらい居ますか?』

『持ってない』『俺も持ってない』『手元には無いな。近所で見かけたが』『冷蔵庫にあるわ。取ってくる』『俺はこたつの上に置いてたな。違和感しかなかった。ちょっと取ってくる』『手元に幾つかあるで。少しかじったけど……本当にクソ不味いんだな、コレ』『なぜ食ったし』

 

 私自身手元にあるオレンの実を引き寄せながらコメを読む。持ってない人も多いが……持っている人もまた多い様だ。案外手に入れ易いのか? ……聞いてみるか。

 

『皆さんどうやってオレンの実(仮)を手に入れたんですか? 私は配信中言ったように、ミカンの木を植えてる近所の人から譲って貰ったのですが……』

 

『庭で取って来た。オレンの実は庭になってた。小さめの柑橘系の木で、ミカンの木ではなかったと記憶している』『俺はシロちゃんに同じく。近所の人から貰った』『食うんじゃなかったよ……あぁ、俺は公園になってたのを拝借した。……いや、シロちゃんの言ってた奴じゃね? って気になったら、つい』『つい、じゃないだろ……』『今は反省してる。だがシロちゃんの力になれるなら後悔は無い』『ワカル』『ワカルマーン』『犬兵、仕事しろ』『いや、逮捕状無いから……』『無能犬兵』『わうーん……』

 

 ふむ。どうやら比較的手に入れ易い様だ。全国的に発生しているせいもあるのだろうが……オレンの実がなる条件は緩いのか? 確かにゲームでは果実とは思えないスピードで成長するし、大した世話も必要無いが……

 

「案外、植えたら勝手に育ったりするかな」

 

 そう思わず呟いてから、思う。ポケモンのオレンの実ならあり得ると。

 だが今は夜。やるにしても他の要素を試してからにすべきだろう。となると……

 

『なら、回復効果を試しましょうか。比較的手に入れ易いようですし、気軽にやりましょう』

 

『ok』『りょ』『OK!』

『でも回復効果ってもどうするんだ?』『設定では10回復、だっけ?』『10か、ショボいな』『ショボい言うな』『回復……やっぱ怪我を治す感じか?』

 

『私もよく分からないのですが、怪我を治すと仮定しましょう。オレンの実を持っている人で怪我をしている人は……居ますか?』

 

『してない』『俺もしてない』『擦り傷一つ無い』『軽く怪我してるがオレンの実が無い』『無能ばかりじゃねぇか!』『オマエモナー』

 

 まぁ、そうそう都合良くはあるまい。ならば。

 

『じゃあ先ず私が怪我をして食べてみますね』

 

 そう書いてどうやって怪我をしたものかと思案する。

 家の中でお手軽に出来る怪我……やはり道具を使うのがいいだろう。刃物とか。そうすると台所まで行って包丁を……ん? 

 

『いやいやいや』『オイオイオイ』『待って、お願いだから待って』『女の子が怪我はアカンやろ』『シロ闇』『おい、誰か早く怪我して食え!』『お前がやれ、手元に刃物がない』『除草』

 

 何やらコメントが騒がしい。別にハラキリする訳でもないのだが……

 

『よーし、ここはリスカのプロである俺がリスカしてやるよ! カッターもあるしな!』『オレンの実は?』『ある。行くぜ!』『逝け。早よしろ』『シロ様は見ているだけでいいので怪我はしないで下さい! むしろ怪我をするなら私に! 私を!』『そうだ……いや、本来なら見るのも駄目だろ。後ドM犬兵は今すぐ黙れ。教育に悪い』『シロ民そのものが教育に良くないと思うのですがそれは』

 

 どうやらいつの間にか話が進み、善意の協力者が既にリスカに及んでいるようだ。怪我はしないでくれという声もあるし、ここは様子見かな? 

 

『おい、どうだ?』『リスカの実況は要らんから、結果だけを言え』『おーい、返事は?』『……まさか切りすぎて逝ったのか』『オイオイオイ』『誰か、蘇生魔法』

『やったか?』『やったか!?』『やったか?』『バ○ス!』『やったかっ!?』『ファミキチ下さい』『やったか』『コイツ直接脳内に……』『おい、誰だ滅びの呪文唱えた奴』『ちくわ大明神』『おい誰だ今の』

『まだー?』『おい、ガチで逝ったのか?』『そんなことよりおうどんたべたい』『人選ミスか……』『カップラーメンでも食ってろ』『太るからヤダ』

 

「何かどんどん脇に流れてる……」

 

 まぁネットだしこんなものだろうとは思うが……しかし遅い。切り過ぎたというより、迷っているのか? やはり包丁を取って来るべきか。

 私はそう結論付けて席を立つ。部屋に置いてある姿見に映った自分の姿──中学一年生で止まった身長と童顔。肩口を過ぎる伸ばしに伸ばした真っ白な白髪。いつもは死んでるが、今日はなぜか輝いている紅い瞳。眠そうな目元とゆったりとしたネルのパジャマ──を横目に、足を踏み出そうとして一応とばかりにコメントを再度確認すると……あった。

 

『オレンの実ヤバイ。マジ、ヤバイ』

 

 そのコメントに心がざわつく。だってその物言いではまるで……いや、確認だ。確認が先だ。落ち着け。

 私は急く気持ちを押さえて再度席に着き、微かに震える手でキーボードを叩く。

 

『どうしたんですか? 何が、どう、ヤバイのか、落ち着いて書き込んで下さい』

 

『シロちゃん食い気味?』『そりゃ食い気味にもなるだろ。……おら、早よ書き込め』『食い気味シロちゃん可愛い。食い気味シロ民コワイ』『コワイ!』『いいから、早よ』

『オレンの実を一口食ったら、リスカした傷が秒速でふさがった。三度繰り返したが全く同じ。リスカの傷ぐらいなら秒速で治る。深めに切っても治った。ヤバイ、ナニコレ。ファンタジー?』

 

「──っ!」

 

 間違いない。オレンの実だ。食べただけで傷を治すなんて、オレンの実の効果そのものだ。

 あぁ、あぁ……なんという事か。ポケモンが、ポケモンが、()()()()()()()()()()()! 

 

『え? マジ?』『冗談だろ?』『マジだ。お前らも確かめて見ろ。マジファンタジーだから』『ちょっと俺も試して見る』『なぁ、深夜テンションの冗談だろ?』『予感が当たったか……明日近所を巡らないとな』『ねぇ、マジなの?』『マジだって言ってるだろ? 嘘だと思うんなら試せば?』『オイオイオイ……え、マジ?』『ヤベェ、冗談かと思ったらマジだ。クソ不味いけど怪我が治った。ナニコレ』

 

「…………はぁ、すぅ──はぁ……よし」

 

 コメント欄は大荒れだ。信じる者、信じない者、半信半疑な者……信じない者が一番少数派のようだが、直ぐにでも鞍替えする事になるのだろう。

 あぁ、断定しようこれは。

 

『間違いなく、オレンの実のようですね』

 

『え? シロちゃん信じるん?』『そりゃシロちゃんは一番信じたいだろうし……てかさ、今気づいたけど他の『きのみ』もこんななんじゃないか?』『他のきのみ……チーゴとか、ナナシか』『そういやチーゴぽいのが庭のイチゴに成ってたわ。明日収穫しとこ』『信じてる奴大杉ワロタ』『信じれないシロ民は間抜け面晒さない様にな』『お前は信じるのかよw』『薄々こうだと思ってたしなぁ』『だよな。嘘にしては規模がデカ過ぎるし、一致する箇所が多すぎる。シロちゃんがやった……訳じゃないだろうけど。預言者的な?』『マジか……』

 

 コメント欄はどんどん信じる者が増えている様だ。預言者云々は……今は脇に置いておこう。チーゴやナナシも恐らくポケモンのソレ。とはいえ検証は必要だし、手に入れておくべきか。……これでやれる事は全部か? 他に何か出来る事は──そうだ。栽培。

 

『今日の検証はここまでにしましょう。取り敢えずオレンの実は本物、という事で。そして明日は本物だと思われるオレンで栽培を試みようと思います。興味のある方は各自で栽培に挑戦してくれますか? その後このスレで報告し合う……というのはどうでしょう?』

 

『ok』『任せろ!』『りょ』『賛成』『オレンって栽培できた? 時間かからない?』『確かだいたい半日で育つし、一個から二、三個生るはず。詳しくはウェキな』『水やりとか肥料は?』『あるに越した事はないが無くても育つはず。ウェキ見ろ』『ヤベェなオレンの実』『よし、今から植えて来る。庭で良いよな?』『良いんじゃね? 割りとどこでも育つっぽいし』『家に庭無いんだけど……』『近所の公園の端っこにでも植えてろ』『それだ!』『そして不審者として職務質問されるんですね分かります』

 

『では、宜しくお願いしますね。私は落ちます』

 

『乙』『お疲れ様』『おやすみ』『任せとけ! バリバリー』『やめて!』『シロちゃんおやすみー』

 

「ふぅ……」

 

 スレから出てパソコンの電源を落とした私は、深めに息を吐いて肩の力を抜く。

 だが、心はちっとも落ち着かない。急く様な気持ちは強くなった。……当たり前か。

 

「これが、本物……か」

 

 オレンを手に眺めながら、そうポツリと呟く。

 この世界にポケモンは居なかった。だが、今、こうしてオレンの実は現れた。ならば……今は居ないポケモン達も、やがて現れるのでは? そんな突飛な考えは、頭にこびりついて離れない。それどころか確信だけが強くなる。彼らが、ポケモン達が、近づいていると。

 

「考え過ぎ、かな。…………寝よう」

 

 果たして考え過ぎなのかどうなのか。それもやがて分かるだろう。そう思いを蹴り飛ばし、オレンの実を机の上に戻して布団に潜り込む。

 私が寝付けたのは、それからかなりの時間が過ぎた後だった。

 

 

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