10000字超えとか初めてです。 書きたいことが増える増える。
「––––ようやく、巡り会えました」
第一声。 壁銀の髪をツーサイドアップにまとめ、古代ベルカの戦装備に身を包んだ黒いバイザーの女性は、高町ヴィヴィオにそう言った。
零と合流してから十数分後、ノーヴェ達とも別れてどうでもいいような話しをしながら帰宅路についていた二人だったが、途中で零が合流地点に鞄を忘れて来たことが判明。 ついて来て欲しいと言われたが、練習で疲れていたヴィヴィオにそこまでのやる気は無く、直ぐ側のベンチで待っていると言って、休憩していた。そこにバイザーの女性は現れた。
バイザーの女性の声は、ヴィヴィオとの出会いに対するものなのか、微かに震えているように聞こえる。
「..........どちらさまでしょうか?」
ヴィヴィオは一見普通の反応をしているように見せかけ、いつでもデバイスのセットが出来るよう、警戒を強める。 自分が何者であり、どんな目的で"造られた"か理解しているからこその冷静な対応。 またあのような事件を起こそうと企む輩ならば、この場で叩くか、なんとか逃げ切って零と合流するか。
ヴィヴィオとしては前者を選びたいところだが、真っ先にその選択肢は捨てた。 零のような破格の魔力を持つわけでもなく、なのはほどの硬さも、フェイトほどの機動力が有るわけでもない。 『聖王の鎧』は先の事件で失った。 万が一、相手が戦闘機人クラスの戦闘能力を持っていたならば目も当てられない。
ここは安全策、弾幕で目くらましを行い、その隙に全速力で逃げよう––––決断を下したヴィヴィオの行動は速く、周囲に虹色のシューターを作り出し、アスファルトに叩きつけようとした。
その直前に、女性がバイザーを外す。
「......覚えて、いませんか?」
「––––ッ!!」
冷静さを保っていたヴィヴィオの息が詰まる。 脳が、視界が、一瞬違う世界に飛ばされるような感覚に見舞われる。 街灯で薄暗く照らされた一本道は瞬時に火の海へと変貌し、木や草は瓦礫へと徐々に変化していく。
目の前に立っている"男性"は身の丈ほどの豪華な装飾を施された大剣を自分に向けて構えている。
その目に宿るのは様々な感情を全て押し退けて出てきた『悲しみ』ただ一つ。
何者かとの戦闘後なのだろう、満身創痍の男性は、必死の形相でヴィヴィオに言葉を掛ける。 その声は痛々しいほどに掠れ、ほんの一部分しか聞き取ることが出来なかった。
だが、ほんの少し、たった一言でも、確かに聞こえた言葉。
『––––オリヴィエッッ!!』
「––––クラウス....? っ....」
世界が再び、急激に変化した。 さっきまで視界に映っていた地獄のような火の海は何処にも存在せず、無数の瓦礫は夜風に吹かれ揺れる草木に戻っている。 満身創痍な男性は、バイザーを外し、素顔を曝け出した女性に戻っていた。
壁銀の髪と碧と紺の虹彩異色は、ヴィヴィオの脳に眠る、ある人物についての記憶を呼び覚ますのに十分すぎるほど衝撃を与えた。
『覇王』クラウス。 かつて、世の平穏を願い『ゆりかご』に搭乗しようとしたヴィヴィオの複製母体であるオリヴィエを止めるため、戦いを挑んだ『王』。 それが今、再び現れたのだ。
ヴィヴィオは自分の––オリヴィエのことを調べ続けている。 彼女はいつ産まれ、どのような幼少期を過ごし、何をきっかけに誰と知り合い、どんな生活を送り、最後は何を願ってゆりかごへ乗ったか。 そのために無限書庫の司書資格を取り、零に無茶を言ってSランク級の秘匿資料を閲覧させてもらい、卿を護衛に古代ベルカのオリヴィエに所縁のある危険地帯に行ったこともある。
二〇年分にも満たない記憶の中でも、最も楽しく、しかし最も哀しい想いを共有したクラウス––その子孫と思われる人物との出会い。 時代を越えた再開に動揺を隠すことは難しい。
「美しい金色の髪、鮮やかな紅と翠の虹彩異色、そして今の反応。 貴女は、『ゆりかごの聖王女』オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの複製体で間違いありませんか?」
「....半分正解、半分は不正解です。 オリヴィエの複製体であることは間違いないんですけど、わたしは、高町ヴィヴィオって名前がありますから」
ヴィヴィオは覇王に堂々と自分がオリヴィエの複製体であることと、自らの名前を伝える。 何者かも分からない不審者相手にここまで情報を伝えるのは余りにも愚かであろう。 だが、その目から動揺は既に消え去り、代わりに強い『意志』が宿り始めていた。
「これは失礼しました....。 ではヴィヴィオさん、貴女に二つ、確かめたいことがあります」
「ええ、どうぞ」
覇王は"名前"で呼ばなかったことの非礼を詫び、ヴィヴィオに二つの質問を投げかける。
「一つは、冥府の炎王イクスヴェリアの居場所」
「..........、」
「もう一つは、
聖王たる貴女と、覇王である私の拳––––どちらが強いか」
拳をグッと握りしめ、壁銀の魔力を纏わせながら覇王はそう言い放った。 宿るのはヴィヴィオとまた違った、明確な『意志』。 特に二つ目の質問は、一つ目の質問とは次元が違うほどに言葉の重さに差が出ている。
両者の間にしばし沈黙が流れ、覇王が再び口を開こうとした瞬間、「そうですね....」と、ヴィヴィオが先に口を開いた。
「一つ目の質問に関しては、わたしの口からは言っていいのか分かりませんから保留で。 で、もう一つ、わたしと覇王さんのどちらの拳が強いかは......今から試す、ですよね?」
言葉を終えたヴィヴィオの体が虹色の魔力に包まれる。 強い光に反射的に目を瞑った覇王だったが、徐々に弱まる光に瞼を開くと、そこには自分と同じほどの背丈にまで姿を変えたヴィヴィオが立っていた。 装着されたバリアジャケットは、オリヴィエの戦装備の名残りが垣間見える。
「..........意外です。 争いを拒みそうな、淑やかな雰囲気でしたが....そうでもないようで」
「無益な争いは大嫌いですよ。 けどこれはわたしと覇王さんの人生に関わること、だからこそ、この決闘は当然受け付けます。 それに....わたしは高町ヴィヴィオであって同時にオリヴィエ・ゼーゲブレヒトでもあるから......彼女の遺した運命は、全部受け止めるつもりです」
「......お言葉、感謝いたします」
小さく頭を下げてから、覇王は静かに構えをとる。 すると、ヴィヴィオは「ストップ」と、急に待ったを掛けた。 やる気に満ち溢れていた覇王は何事かと構えを解く。
「ここじゃ色々と壊しちゃいけないものもあるし、移動しましょう。 少し行ったら野外練習場がありますから、そこで」
可愛らしいウインクをしてそう言うと、ヴィヴィオは練習場のある方向へと駆け出す。 何かを急いでいる、そんな印象を受けたが、覇王も置いていかれないよう、それに続き駆け出した。
目的地の野外練習場にはものの数分で到着した。 小型ナイターのから発せられるやや黄色を帯びた光が、格闘技・魔法による怪我の防止のため敷き詰められた緑色の特殊な弾力性を持つ素材のタイルと、向かい合う聖王と覇王を照らし出している。
(ようやく......この時が来た。 夢では、ない....!!)
覇王は数メートル先で準備運動を行うヴィヴィオの姿を改めて見つめ直し、今、己が置かれている状況を再確認する。 相手は紛れもない聖王女で、後一分もしないうちに始まるであろう"決闘"に備え、コンディションを整えているのだ。
どれだけ夢にまで見たろうか。 覇王イングヴァルトの直系の子孫として、記憶継承者の自覚を持ったころから脳裏に焼き付いて離れない、悲しい記憶。 オリヴィエがゆりかごへの搭乗を決意し、クラウスに最後の別れを伝えに来た、あの時。 自身の振るえる全身全霊、全ての力を出し切ってもなお、彼女を止めることが出来なかったことに対する、無力な自分への怒り、二度と彼女に会えない悲しみ、止まらない涙を隠して救いを求めた彼女を救えなかった後悔。 自分で経験したことのない、何百年も前のこと。 それがまるで自分の記憶のように、昨日体験したかのように覇王にのしかかっていた。
記憶継承者に託された覇王の悲願。 呪いとまで思い、憎み恨んだこともあった。 けれど、断片を繋ぎ合わせ思い出す記憶が増えれば増えるほど、悲願を叶えたい––そんな使命感に駆られた。
長い年月に渡って続いた記憶の連鎖を、もう誰も苦しまないよう、ここで終わらせるために。
「ルールは制限時間六分の一本勝負。 どちらかが戦闘不能か降参をした場合に決着....問題ありませんか?」
「制限時間、ですか。 何かご都合でも....」
「いえ、別にわたしは都合悪くないんですけど....魔導師ランク総合AAA+の"騎士様"がわたしを感知してここに来るまでの時間ですね。 さっき『先に帰ってる』って趣旨のメールを送ったので時間はあります。 それまでに決着をつけなきゃ、たぶん激おこ状態で、容赦無しに覇王さんに攻撃しそうですから」
魔導師ランク総合AAA+、そのキーワードだけで覇王の中の戦闘意欲を掻き立て、なら来るまで待ちましょう、と言いそうになったが我慢して言葉を呑む。 魔導師ランクは本来、任務遂行能力をランク付けしたもので直接的な強さで決定されるものではない。 しかし、ランクが高い=任務遂行能力が高い=それに見合った戦闘能力を持つ、この図式は間違ってはいない。 高難度の任務をこなすにはそれなりの能力が要求されるのは当然のことである。
ヴィヴィオの言った魔導師ランクAAA+は、優秀な者は本気を出せばある程度の規模の都市なら機能を完全に破壊可能な能力の保有を意味する。 まともに正面衝突すれば苦戦は必須であり、下手をすれば聖王との決闘の機会を失う。
「分かりました。 六分間で十分です。 この三六〇秒で––––覇王流の強さを証明しましょう」
「なら、わたしはストライクアーツ....と、高町式魔法戦技の強さを見せちゃいますっ」
互いの顔付きが変わった。
覇王は己の記憶刻まれた悲願を達成するため、ヴィヴィオは目の前の覇王を名乗る少女とオリヴィエの遺した運命を受け入れるため、戦う。
両者の近くにホロウィンドが現れ、決闘開始のカウントダウンがスタートする。
十、
(....綺麗な構え。 きっと、いい師と仲間に囲まれて強くなってきた方に違いない)
九、
(凄い威圧感....。 この人、いったいどれくらいの練習を重ねたんだろう....)
八、
(私と違って、純粋に格闘技を楽しみながら)
七、
(わたしには想像もつかない、記憶の枷を付けて)
六、
(......ここで、決着をつける)
五、
(......なら、わたしが終わらせなきゃ)
四、
「ハイディ・E・S・イングヴァルト....」
三、
「オリヴィエ・ゼーゲブレヒト....」
二、
「––––アインハルト・ストラトスッ!!」
一、
「––––高町ヴィヴィオッ!!」
ゴゥッ!! と、魔法陣を展開した両者から魔力が溢れ出す。 虹色と碧銀の魔力が呑み呑まれ溶け合い、全ての人を魅了することさえ可能であろう、言葉に出来ない美しさが生まれる。
三百年前、余りにも巨大な力を持ってしまった女性は、自らを犠牲に世に平穏をもたらした。
三百年前、巨大な力を持った愛する女性を救えなかった青年は、後悔からただひたすらに強さを求め、戦場の中で散っていった。
長い時、永遠にも思えた時間。
壊れて止まっていた運命の歯車が、
「推して参りますッ!!」
「いきますッ!!」
今、動き出した。
先に動き出したのはヴィヴィオの方だった。 カウントがゼロになったと同時に何よりも速く、アインハルトに突撃したのだ。 対してアインハルトは動かなかった。 回避はしない。 ただ、聖王の攻撃を、真っ正面から受け止める。
スピードを乗せた飛び膝蹴りが、両腕をクロスして防御の構えをとったアインハルトに直撃する。
(––––ッッ、パワーなら私の方が上。 けど速い!!)
「スパァーク....!!」
この一撃は通らないと分かっていたのか、左拳に電撃を発生させ、追撃の構えを見せる。
反撃・回避どちらも間に合わない。 だが、電撃の発生を確認出来ただけでも、次の攻撃は把握可能であった。
(追撃ッ、 スタン付与!!)
「スプラッシュッッ!!」
回避・反撃が飛んでこないのを確信して放たれたフルパワーの拳撃は、最初の飛び膝蹴り以上を衝撃を発生させ、タイルを削りながらアインハルトを無理矢理後退させる。 が、その顔に焦りや痛みによる表情は無く、冷静にヴィヴィオの動きを分析しているように伺えた。
次は確実に反撃される。 ヴィヴィオにそれを理解させるのには、アインハルトの一連の行動は十分だった。
(ほぼ不意打ち気味の先制攻撃にフルパワーのスタン攻撃を加えて防御を抜けなかった....。 この硬さ、記憶通りの覇王さんの戦い方ならハードヒッターで間違いないはず)
「いい拳です。 やはり貴女は聖王女....今度は、こちらから行かせてもらいます」
(熱くなるな、わたし....! わたしにオリヴィエみたいな戦いは出来ないし、するつもりもさらさらもない。 真っ正面からのド突き合いじゃ一〇〇パーセント押し負けるッ!!)
思考を張り巡らし、動きを止めるヴィヴィオ。 が、その隙を見逃すほど『覇王』は甘くない。 十メートル以上離れていた距離を歩法(ステップ)で一気に詰める、時間にして一秒にも満たない。
初撃だった飛び膝蹴りのお返しと言わんばかりに繰り出された歩法の速度を乗せた拳を、紙一重で躱す。 脇腹の部分のバリアジャケットが引き裂かれたように破壊された。
小さな、だが確かな痛みに表情が歪む。 だが、相当な速度で突っ込んで来たアインハルトは、まだヴィヴィオに拳を突き出した体勢で背中を向けている。
拳を叩き込むには力が乗らない体勢、ならばヴィヴィオが選ぶ魔法は一つ。
左手の平に高速で魔力が集まり圧縮され、直径十センチメートルほどの魔力球が完成する。 単純な術式で高威力––零の考案した名もない魔法は、魔力運用技術に優れかつ高速並列処理型のヴィヴィオが使用し、初めて最大効率・速度で発動を可能にする。
発動が完了しても無防備な背中はそのまま。 直撃すればただでは済まない。 必殺の威力を秘めた魔力球を背中にぶつけようと腕を動かし始めた。
瞬間、
「––––《不動山》」
アインハルトの動きが"完全に"止まった。
「えっ––––」
思わず、声が出る。 あれだけを速度を出した状態だったにも関わらず、アインハルトは最初から動いていなかったかのように停止したのだ。
愕然とするヴィヴィオの視界の端に、アインハルトの腰部が映り込む。 彼女の腰から足のつま先にかけて魔力光と同じ色をした帯状の布のようなものが幾重にも巻きつき、先端部がタイルに突き刺さって完全に身体を固定していた。
《覇王流・不動山》
どれほど強い衝撃を受けても、地中深くまで根を張り巡らせた大樹のごとくその場に留まり確実に反撃へ繋げ、敵を討つ。 古武術『覇王流』の技だった。
記憶ではない、初めて目の当たり覇王流にヴィヴィオの動きが僅かに遅れた。 アインハルトを縫い付ける帯状の魔力布は消え去り、右手が魔力で光り輝き出す。
ヴィヴィオに自分の失態を後悔する時間は無い、 構わず狙い通りに腕を突き出す。 振り向き様に攻撃をされたとしても攻撃が到達するのはヴィヴィオの方が早く、発動させている魔法は当たれば魔力爆発でアインハルトを吹き飛ばす。 さらに砲撃魔法で追撃を行えば勝利は決まったのと同じ。 更に魔力を上乗せする。
そう、ヴィヴィオの"身体"を狙うならばアインハルトは敗北するだろう。
では、"身体以外"に攻撃するなら、どうなのだろうか?
身体から最も離れた位置ある、アインハルトの攻撃がヴィヴィオの身体より早く到達するモノ。
例えば、魔力爆発で攻撃する魔力球目掛けて、魔力付与打撃を打ち込んだら。
ヴィヴィオが本当の狙いに気付いた頃には、時すでに遅し。 ありったけの魔力を込めれられた横薙ぎの手刀は、吸い込まれるように神々しい輝きを放つ虹色の魔力球に伸び、
刹那。 光が、魔力が、空気が爆ぜた。
◆
「たーだーいーまー......」
ヴィヴィオの『帰るね』メールを受け取り、ちょっとショックを受けながらも全力疾走で高町家に帰宅した零は、よろよろとした足取りでリビングのドアを開ける。 晩御飯の準備を終え、二人の帰宅を待っていたなのはとフェイトは、やけにテンションの低い零の姿を見て顔を見合わせた。
「おかえりー....どうしたの零君? なんかいつも以上にお疲れみたいで」
「おかえり。 何かあったの? 大丈夫?」
零はそのままフラフラと歩き、ソファーに座って本を読んでいるフェイトの膝に寝っ転がる。 これをする時は大抵ヴィヴィオとの間に何かあった場合に限られる、それを知るフェイトは「ヴィヴィオがどうしたの?」と、聖母のような微笑みを浮かべ、ゆっくり頭を撫でる。
「聞いてくださいよぉ......ヴィヴィオったら酷いんです。 俺が公民館に荷物を忘れて、待ってってあげるって言ったくせに急に『帰る』なんてメールしてきて....あ、ヴィヴィオどこ? こうなりゃ、コチョコチョの一つでもしてやらねば」
なのはとフェイトの表情が明らかに曇った。 撫でてくれていた手が急に止まったのに気付き、起き上がった零は首を傾げるが、即座に空気の変化を察知する。
嫌な予感がした。 『襲撃犯』、『覇王』、『聖王女』、短い時間の間に、零の頭の中には考えたくも無い単語が三つ浮かんだ。
母親の顔から『魔導師』の顔に変わりつつあるなのはの口から発せられたのは、零の予感をほぼ的中させたも同然のものだった。
「ヴィヴィオは......まだ、帰って来てないよ」
◆
零達が異変に気付き始めたのと同刻。 覇王と聖王、時を越えた両者の激突は更に激しさを増す。
「ソニックシューターッ! スクランブルシフトッッ!!」
自らに気合を入れ直す意味もある掛け声とともに周囲に現れた六つのシューター。 純粋な格闘技術では劣ると判断したヴィヴィオは、射撃魔法を含めた魔法戦技全般を徐々に加えていく。
機動性重視と思われるの六つの誘導弾に、アインハルトは覇王流の一つである《旋衝破》で迎撃を試みる。 弾核(シェル)を破壊せず掴み投げ飛ばす、古代ベルカの使い手でも一部の者にしか出来ない高等技術は、技を知る者への牽制にもなる。 実際にヴィヴィオは先ほどこの《旋衝破》をまともに喰らい、浅くないダメージを負っている。
それでもヴィヴィオは––––一直線に、アインハルト以外には目もくれずを走り出した。 シューターが撃ち出される気配は無く、右拳に魔力を纏わせ、近接格闘に持ち込む算段でいるようだ。
一定の距離まで近づかれると《旋衝破》の構えを解き、アインハルトも遅れて駆け出す。 拳により強く身体強化魔法を重ね掛けし、同じく魔力を纏わせる。 自分の装甲の硬さとシューターを威力を天秤に掛け、装甲が上回ると結論付た行動だった。
「はぁぁぁッッ!!」
アインハルトの顔面目掛けて右拳が迫る。 まだシューターに動きは無い。 意識を割きつつも、アインハルトは左腕で拳撃を受け止め、右拳で頬を打ち抜くフックを放つ。 これだけ密接していれば攻撃から防御に切り替える魔力の伝達速度がいかに速くとも、攻撃の魔力を一〇〇パーセント防御に移し切るのは不可能。 限りなく覇王に近い素質を持つからこそ成り立つ相打ち戦術、防御の上から砕いて打ち抜く。
防御を抜く右フックがヴィヴィオの左腕に当たる瞬間、空間に静止していたシューターの一つが動き出し、 密接状態の二人の身体の間をすり抜け、防御の左腕と攻撃の右拳の間に割り込むような位置で停止した。
(構わないッ、打ち抜くッ!!)
そのまま防御ごと砕く勢いで拳はシューターに接触する。
ボンッ! と、シューターが接触面から小さな爆発を起こした。 数分前の魔力球の爆発の規模と比べれば天と地ほどの差で、ダメージも無いに等しい。 しかし、爆発は確かに役割を果たした。
物体の持つエネルギーの進行方向とは全く真逆の方向から衝撃を受ければエネルギーは、物体の速度は少なからず減少する。 些細な量・速度であろう。
だが、"攻撃分の魔力を防御に移す時間"としては十分過ぎる。
「ぐっ....!! んっのぉッ!!」
「なっ!?」
アインハルトの拳が弾かれた。 格上のハードヒッターの一撃を防いだのに加えて、弾き飛ばしたのは偶然と言っていい出来事だ。 もう一度やれと言われても恐らくヴィヴィオは無理だと言うはずだ。 今、たまたま運良く出来ただけ。
それでも、突如として舞い降りた『ラッキー』。 それをみすみす失うほど、ヴィヴィオも愚かでは無い。
「抉り、飛ばすッ....!」
一〇歳ちょっとの少女にしてはおっかないセリフを漏らして防御に回した左腕の魔力を左拳に移し、右腕が弾かれたことによって打ち込んで下さいと言わんばかりのガラ空きの鳩尾に、抉るような下からの拳をねじ込む。 格闘評論家が居るなら高評価を出すこと間違い無しのクリーンヒット。
「がぁッ..! っあぁぁぁぁッ!!」
一撃はアインハルトの肺の空気を押し出し、胃の中に溜まっていた液体が口の中に嫌な味を広げる。 なんとか膝を着きそうなのを根性で耐え、嫌な味に染まり掛けてる肺の空気を声と一緒に吐き出しながら渾身の力を振り絞り、左足でタイルを踏み抜く。
軸足の付けていたタイルを崩されたヴィヴィオの身体がグラリと揺れ、前のめりにバランスを崩す。 踏み抜きから間を置かず、ハードヒッターの真骨頂とも言える防御を抜く重い一撃、右膝蹴りが同じように鳩尾に決まる。
「ッッッッ〜〜!?」
これまで経験したことの無い重過ぎる膝蹴りを鳩尾に受け、ヴィヴィオの身体がくの字に折れ曲がる。 肺が酸素を求めるが、呼吸がままならない。
額に脂汗を浮かべ、腹部を抱えたまま数歩後ろへ下がり、タイルに片膝を着く。
(ぐぁっ、ぐぅ....っ、この子は、強い。 今、しか....無いッ)
アインハルトはスッと右手を手刀の形にして腕を上げる。 膝が笑って足場に不安定さが残るが、彼女に他の手は無い。
深呼吸を一回。 一気に力を練り上げる。
《覇王・断空拳》
足から練った力を拳の直打又は撃ち下ろしとして叩きつけて攻撃をする、アインハルトが一番最初に修得した覇王流の花形。 相手は満身創痍、この一撃を決めれば行動不能に出来る。
前髪が降りてヴィヴィオの表情は伺えない。三百年前とは同じようで同じでは無い、今度は覇王が勝利が目前。
「......高町、ヴィヴィオさん。有難うございました....!」
オリヴィエ・ゼーゲブレヒトではなく、高町ヴィヴィオという一人の少女に敬意を示し、せめて痛みを知らず気を失う様に一思いに《断空拳》を振り下ろす。
バギィッ!! と、骨にヒビを入れ、砕いたかのような軽い音が辺りに響いた。
「––––どう、いたしましてェ....!! でも、ちょーっとだけ、お礼を言うのが早すぎますねェ....!!」
不屈の炎を宿す目に、背筋が凍るような錯覚にアインハルトは見舞われた。 《断空拳》が、アッパー系の拳撃に止められたのだ。
振り下ろされた手刀はアッパー系の拳撃に相殺されているかに見えるが、手刀を相殺した拳から感じたのは、生温かく、ぬるりとした感触。 ポタポタとこぼれ落ちるのは赤い液体。
「拳が......!?」
その液体の正体は血液。 ヴィヴィオの拳撃《アクセルスマッシュ》は、断空拳の威力の相殺などしておらず、自ら拳に大きなダメージを与えた。 ノーヴェが見れば激怒しそうな無茶無理無謀でも、反撃へと繋げる一手にはなる。
追撃の危険を伴う回避より、右手を犠牲に確かな反撃をヴィヴィオは選択したのだ。
「ッおおおぉぉぉォォォォッッ!!」
「っ!? はぁぁぁァァッ!!」
叫びにも近しい雄叫びを上げ繰り出される左拳。 ヴィヴィオ覇気を身体全体で受け、硬直していたアインハルトも弾かれたように断空拳に使った右腕を戻し、右拳を放つ。
格闘技を学ぶ者同士の鋭い拳が交差し、互いの狙い通りの部位へ突き進む。 防御に割く魔力も神経も筋肉も捨て、全神経・魔力をこの攻撃に集中させる。
何にも阻まれず進んだ両者の拳が、互いの顎を捉えた。
ミシミシと骨が軋む音が拳を通じ二人に伝わってくる。 意識を刈り取るため全力で振り切られる拳、殴られた方向に顔が傾いていく中でも、二人の視線は互いの瞳から決して外れない。
拳を振り切った後、二人は連続してバックステップを行い距離をとる。 速く鋭く的確に急所を狙う拳のヴィヴィオも、重く伸びる必殺の拳のアインハルトも、あの拳が決め手になるとは微塵も思っていない。
「全力ゥ、全開ッッッ!!」
母親譲りの掛け声とともに、残り魔力を全て込められた魔力球が生成される。 限界まで圧縮された虹色の魔力は更なる輝きを放つ。
「貫きますッ! 《閃空》!!」
握りしめた右拳の形をを貫手に変え、練り上げた力と魔力を纏わせる。 先ほどとは圧縮率が桁違いに高いのか、魔力光が深い緑色に変色している。
技の発動を完了させ、地面を蹴ったタイミングは同じだった。
二人の視界は顎を捉えた拳撃の影響でぼやけて、お互いをシルエットとでしか認識出来ていない。 故に近接格闘を避け、己の持つ最強の一撃で相手を倒すことが最善の策だと考えたのだ。
たった六分間だけの決闘、時間にして二ラウンド分しかない短い時間。 アインハルトは列強の王達に高いのか勝利する悲願を、ヴィヴィオは記憶の茨に縛られた覇王を救うお人好しを。 それぞれ望みは違えど、最後はその道が交わることを願って戦う。
距離はどんどん縮まり、技の接触まで一メートルと少ししかない。目で己の意志を語りながら、見つめ合う。 加減は少しも感じられなかった。 恐らく、誰かが仲介に入ったとしても本人達は気付かないだろう。
––––ましてや、人間よりも遥かに小さいナイフが二人の丁度仲間に降ってきたとしても、気が付くことはない。
ナイフがタイルに突き刺さった次の瞬間、ヴィヴィオとアインハルトの間に三つの人影が割り込んだ。
黒髪の青年はヴィヴィオとアインハルトが技を使っている手の手首を掴み止め、栗色のサイドテールの女性はヴィヴィオの真正面に壁のように立って勢いを殺し、金髪の女性も同じようにアインハルトの真正面に立ち勢いを殺した。
「時代を越えた出会いってのも感動的っちゃ感動的だけどさぁ....殺し愛みたいなのは、良くないと思うんだよ紅影さんは」
「こらヴィヴィオ、なんて顔してるの? それじゃゆりかごの時と一緒だよ」
「勝負の真っ最中だろうけど....お話、聞かせてもらっていいかな」
感知に成功した零、なのは、フェイトの三人が現れたのを見た途端、限界を超えていたヴィヴィオとアインハルトの二人は緊張の糸が切れたのか、ガクンと両膝を着き意識を手放した。
展開がちょいと急でしたが、ここから原作が徐々に変化していきます。 ヴィヴィオさんちょっと男っぽかったかも。
あと、初の戦闘描写だったのでかなり不安です。 何かアドバイスやご指摘があればお願いします。
意見、感想を貰えるとさらに頑張れる。
次回→超スピード!?