もっとサクサク進められたらいいな。
〜登場人物〜
『紅影 零』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。この物語の主人公。思い立ったら即行動をモットーに生きる。ヴィヴィオには過度なスキンシップをよくとる。
『高町ヴィヴィオ』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。零とは幼馴染であり親友。零に対して素直になれないことが多々あるのが悩みなツンデレ少女。
『高町なのは』
時空管理局本局戦技教導隊所属の教導官。エース・オブ・エースの二つ名を持つオーバーSランク魔導師であり高町ヴィヴィオの義母。よくヴィヴィオと零の関係にちょっかいをかける。
後方支援その4
『聖王教会』。数ある次元世界の一つ、第1管理世界ミッドチルダのベルカ自治区に本拠地を構える巨大な宗教組織。 かつて混戦の様相を呈したベルカの戦乱を治めたゆりかごの聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを信仰し、同時にベルカ自治区の治安維持も担当することでよく知られる。
他にも、有事の際に教会を守る教会騎士団、ベルカ式の使い手なら誰もが憧れる『騎士称号』を与える権限、ミッドチルダ政府および時空管理局への強い発言力を有する。
聖王教会の運営する私立学校、Stヒルデ魔法学院はミッド最大の教会支部と隣接する形で作られ、シスターや騎士団一同は日々生徒達の学園生活を見守るのも大切な仕事の一つとして考え動く。
校門の前に立ってる女性、シャッハ・ヌエラもその一人として数えるべき存在だ。
「..........来ません、か」
腕時計の針は八時十五分を示す位置に進み、なお秒針を動かし続ける。
教会シスターの長と教会騎士を掛け持つ多忙な身のシャッハがこうして校門の前に立っていることには、時空管理局地上本部より高く、八千メートル級の海溝よりも深い事情があった。
ある少年少女二人がまだ登校していないのだ。
一人は聖王教会において、『超』が付くレベルの重要人物。聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを信仰する聖王教会から見ればまさしく『生きる信仰対象』となる。その身に何かあれば、色んな人の首が飛ぶ。
もう一人は時空管理局において、『超』が付くレベルの重要人物。対テロ戦闘型LS級魔導艦をも凌駕する召喚獣を多数使役し、首都防衛に大きく貢献している。 その身に何かあれば、何かした奴が召喚獣に消し飛ばされる。
こんな二人がなんの連絡も寄越さず遅れているとなれば、心配するのは当然のこと。 何者かの襲撃に合ったのでは?---魔導師ランクAAA+がそう簡単にやられるとは考えにくいとはいえ、最悪の状況を想定する必要性はないとは言えない。
念には念を。その意味を込めて、シャッハは二人のうち片方の親、エース・オブ・エース、高町なのはに連絡を取るのであった。
『シャッハさん?どうしたんですか?......ヴィヴィオ達が?ああ、それなら大丈夫です。 今、私も用事があって教会の近くにいるんですけど––さっき、塀を乗り越えるの見ましたから』
シャッハは「ありがとうございます」と言って通信を切る。
大きな深呼吸の後、再び端末を操作して、学院に通信を入れる。
『高町ヴィヴィオさん、紅影零くん。シスターシャッハがお呼びです。至急、職員室まで来てください』
ヴィヴィオと零は、目の前が真っ暗になった。
◆
「––––それで、なぜ遅刻したのですか?」
職員室のほぼ中央に位置するシャッハの机。 そこにはStヒルデ初等科の制服を着た少年少女と、おかっぱ髪のシスターが一人。言わずとも、ヴィヴィオ、零、シャッハの三人だ。シャッハは一教師としての役目を果たすために、二人の遅刻理由を問う。
「「ヴィヴィオ(零くん)が寝坊したからです」」
さっそく証言に食い違いが生じ、数秒ほど顔を見合わせたヴィヴィオと零はお互いのほっぺたを引っ張り合う。
職員室の教師、シスターはその光景に苦笑いする。
高町ヴィヴィオと紅影零が職員室に来るタイミングは常に同じで、大抵は零の起こす問題にヴィヴィオが巻き込まれていることが九割を占める。 意見が食い違うとほっぺたをグニグニ引っ張り合うのはもはや恒例行事と化したStヒルデ魔法学院職員室の名物。
「ふぃふぃおふぁてふぉひゃなひゃなきゃったのかわるひ(ヴィヴィオが手を離さなかったのが悪い)」
「ふぉーいうせろひゅんこひょ、わらひをおきょひゃなきゃったのにゃわるひ(そーいう零くんこそ、わたしを起こさなかったのが悪い)」
互いに一歩も譲らず、仁義なきグニグニ合戦を続ける。ただの口論ではなく、ほっぺたを引っ張るという行動にでる辺り、二人がまだまだ子供だと感じさせられる。
微笑ましいと言えば微笑ましいが、あくまでも今はお説教中であるので。
「むんっ!」
ゴチン!!と、ゲンコツが落ちる。
「「いぃッ!?!?」」
突如襲いかかった鈍く響く痛みに、声を揃えて蹲る。 日頃トレーニングしている二人を遥かに超える量の修練を積むシャッハの拳は女性にもかかわらず重く、確かに『騎士』であると証明させるかのような一発を繰り出す。
「いいですか?私は今まで貴方達をここに何度も呼び、何度も叱ってきました。 心底嫌なことでしょう、怒られて嬉しい人間なんていません」
(....ガチギレじゃなかったら怒ったヴィヴィオ可愛いから怒られても嬉しけどなぁ)
「ですがね、これも全て貴方達を思ってのことなんです。二人は将来、聖王教会と時空管理局に大きく関与することになるでしょう。 その時は今のように守ってくれる人はいません。 一人でも戦っていける強い子に育ってほしいと、私は思っているんです」
「ヴィヴィオ、聖王教会にそんなに関与するの?」
もう既に自分の意思で管理局に関与している零。ある意味、巻き込まれて、全くとは言わなくともあまり強くない意思で聖王教会に関わるヴィヴィオ。 両者の立場の違いを理解する零は聖王教会と深く繋がりを持ちたいか尋ねてみる。
「えぇー......。 私、なんかそういう宗教とか堅苦しいのはちょっと無理かも。 どうせなら、将来はパティシエールとかになりたいな」
「そりゃいい!ヴィヴィオの作るお菓子は美味しいもん!あ、帰ったらプリン作ってプリン!」
「プリン、ね。 ......うん、気が向いたら作ってあげる」
「........」
なかなか為になることを言ったつもりが、一瞬でプリンの話に呑まれたのには流石にショックを受ける。
そもそも十歳児に組織のどうこうを教えようとすること自体が無駄であるのに加え、本人達は自由人。今も説教のことを忘れてプリンに関して熱く語っているような状態である。
『彼を相手にするなら、柔軟な思考が出来なければ苦労する』。幼い頃から仕える女性がかけてくれた言葉の意味をしみじみ感じる。
よし。と、心の中で気合を入れ直し、体を二人に向き直す。抹茶プリン派の零、チョコプリン派のヴィヴィオもそれに気付き、プリン討論を中断した。
「........まあ、貴方達も四年生に進級。新しい仲間や授業のこともあって浮かれて眠れなかったことでしょう。今回は大目に見ておきます」
零&ヴィヴィオ、無言でハイタッチ。
「––が、反省文は書いてもらいます。原稿用紙十枚分」
▼ ゼロとヴィヴィオは にげだした!
▼ しかし まわりこまれてしまった!
「げぇっ!?」
「これでも移動系魔法を専門としているので。いくら『超万能型(スーパーオールラウンダー)』の貴方相手でも、空ならともかく、陸で負けるわけにはいきません」
最高のスタートダッシュを切った二人の目の前に一瞬にして現れる修道騎士シャッハ・ヌエラ。 陸戦AAAランクは伊達ではないようで、総合AAA+の零を超える速さで立ちはだかる。
シャッハは前線に出て殴り合うガチンコの近接型。 対する零は主に後方からの召喚獣による支援攻撃に特化––しているが、ほぼ全距離に対応することが可能な万能型。射撃魔法に関する大問題を抱えているものの、現状問題なく使用出来る。
単純なランクだけを見ると、零の方が有利に思われる。
ここで重要になるのは『陸戦』と『総合』の違いだ。
魔導師ランクを設定する基準として『陸戦』、『空戦』、『総合』の三つが存在する。 陸戦、空戦は文字通り大地を踏みしめて戦う者と、大空を舞って戦闘する者のこと。多くの魔導師は空を飛ぶのを夢見て空戦魔導師を目指すが、『空戦適正』という空戦を行うに当たって必須となる適正が障害になる確率が極めて高い。
なぜならこの空戦適性、完全に才能に左右されるのだ。『魔力量が多くて魔法適性も高いけど、空戦適性がないから陸戦魔導師になる』なんて話はザラにある。 つまり、空に憧れる陸戦魔導師達は今日も努力する。
もう一つの『総合』は、世間一般で一種の救済措置として認識されている。総合ランクとは空陸戦どちらかだけでなく、両方をランク決定要素に含んだ魔導師ランク設定方法。
例えば、空陸戦ともにCランクの魔導師Aがいたと仮定する。魔導師Aはどちらのランクも成長が乏しいため、これ以上のランクアップは望めない。
総合ランクが役に立つのはこの時だ。陸空戦技能の二者を総合、通常のボーダーラインを低くしてランクを決定することで、高い魔導師ランクを得られる。 器用貧乏向けとも言う。
「詰み」
陸に特化した騎士、陸空戦を行えるが陸に特化してるとは言い難い魔導師。力の差を把握した聖王女様はポンと零の肩に手を置く。
陸では勝ち目がない。 どうしようもない事実を悟り、逃げの構えを解く。 「よろしい」と満足げに頷き、こちらも構えを解いた。
「罪から逃げるなど言語道断。 よって貴方には反省文二枚追加」
まさかの反省文追加に「うぐっ」と息を詰まらせた言葉を漏らす。
「ぷっ、ダメだなぁ君は」
「何を言っているんですか? 貴女も逃げようとしていたので同じように反省文二枚追加ですよ?」
「!?」
余裕たっぷりに零を笑っていたヴィヴィオにも反省文が追加された。
「さぁさぁ。 二人とも、いつもの生活指導室に行きなさい。 途中で逃げたら反省文に加えて騎士専用トレーニングも加えますよ!」
騎士専用トレーニングの言葉に顔を青くした二人は脱兎のごとく職員室を飛び出し、生活指導室に直行する。いい思い出を持っていないようだ。
嵐が生活指導室へ走り去ったのを見届け、シャッハは自分の椅子に座ってため息をつく。
「あの二人。本当に大丈夫なんでしょうか・・」
引き出しから小さな入れ物を出し、中の錠剤を二錠、ペットボトルの水で流し込む。
入れ物のラベルには確かに『胃薬』の文字が書かれていた。
ここのヴィヴィオさん、あんまり優等生じゃない。新鮮だと思いませんかね。
でもさっそくグダグダし始めてるね!
意見、感想、待ってます。
次回→作者の頑張り次第