後方支援!その7
わたしの友達、紅影 零くんはすごく変わった性格をしてる。何が変わっているかって、この歳になっても恥じらいというものを一切持たない。
四年生になっても一緒に手を繋いだり、寝たり、お風呂に....は最近いっしょに入ってない。たまに侵入しようとしてくるも、大抵なのはママが立ち塞がるから安心して入浴出来る。お風呂上がりにはバリアジャケット姿で睨み合っていることが大半で、たまにフェイトママが仲介している....何やってるんだろうか。
そんな彼は今もわたしの手をとって教室へと繋がる廊下をスタスタ歩き続けている。人混みの中でもあるまいし手を繋ぐ必要性なんて一パーセントもないのに、無理矢理こうしてくるから一回は振り払った。
でもやめた。捨てられた子犬みたいな目をしてきたからしょうがない。
何度でも言うと、しょうがなく、仕方なくです。
「ヴィーヴィオー。お昼ご飯はなに作ってくれるの? 個人的には肉じゃがを所望す」
「肉じゃがぁ? 四日前になのはママが作ってたはずだけど。また食べるの?」
「ヴィヴィオが作ることに意味があると言ったじゃないか。なのはさんには出せない味があるの」
なのはママに出せない味....彼の言う言葉はよくわからない。料理上手のなのはママが出せない味なんてわたしが出せるわけないのに、本当に無茶な要求ばかりしてくる。
加えてこの嬉しそうな笑顔。新手の煽りかと疑いたくなり、眉間にシワが寄るのがわかった。
不機嫌オーラを察してくれたのか、彼は足を止めわたしに振り向く。真剣な表情で両肩を力強く掴んできたのでちょっとだけびっくりとした。......かっこ良くないこともない。
「もっとジト目で、ほっぺた膨らませた感じでおなしゃす」
..........前言撤回。どうしようもない変態だった。
「ねぇ君さ....自分がどうしようもない変態だって自覚はあるの?」
「自覚っていうか何というか、そう教えられたからなんとも言えぬのさ....」
「あぁ....主に八神司令とフェイトママだっけ。二人が一番君に愛情を注いでたよね。君の変態性....いや、人格を形成したのはあの二人って言っても過言じゃない」
「でも同じ環境にいたヴィヴィオが俺と性格が真逆になるのはおかしい。もっと、こう....か弱い少女っぽく」
「ごめん。わたしのお母さんはか弱くないんだ」
あっ(察し)、とか言ってやがる。後でママに報告しよう。
『子は親の背中を見て育つ』。この言葉を残した先人は尊敬すべきだと勝手に考えてます。彼は八神司令から過剰なスキンシップ能力と性癖、フェイトママから中二病を。わたしはなのはママから不屈の心と....認め難いけど性癖を。
同じ六課で育っても、関わる人の違いでここまで変わるのは人間の神秘かもしれません。絶対神秘。
もちろん、彼もわたしも『親』となってくれた人がママたちでよかったと感じてる。今の幸せな日常––––彼が奇想天外なことをやってのけて、驚いて、笑って、たまに泣いて。彼がこういう性格じゃないと出来なかったし、わたしがこういう性格じゃなかったら素直に楽しめなかったはず。
でも、わたしはともかく彼には本当の"血の繋がった"親がいる。何処にいるのかは知らないし分からない....つまり、彼は『次元漂流者』ってやつなのです。
「いいー天気だなぁ。こんな日こそ外で走り回るべきなのに、なーんで始業式とかする必要があるかな。....そうだ! 今度、学年規模の鬼ごっこをしよう。まず––––」
最近彼、自分は次元漂流者ってこと、忘れてるんじゃないかと思うことが度々ある....というか絶対忘れてるよあれ。ここ一年くらい彼の故郷についての話をしてないし。完全にこの世界を謳歌してる。
本人は楽しそうに鬼ごっこもとい、シスターシャッハの胃を痛める計画を無意識立ててるけど、わたしはそんな謎に包まれた彼の過去についてすごく気になる。
「ほんとにどこから来たのやら....」
「VIPからきますた」
「板に帰りなさい」
「ヴィヴィオのまな板に帰れと申すか」
わたしの胸部に熱い視線を送ってきたからアイアンクローをプレゼントしてあげることにした。
「ごめんね。よく聞こえなかったよ....で、誰がまな板なのかなぁ?」
「じょじょじょ冗談だよヴィヴィオ。ヴィヴィオはまな板なんかじゃいさ。どっちかっていうと将来はボンキュッボンなナイスバディ、安産型になる予定だもんね! だからおっぱいも同年代の子に比べて大きくて最近は男子の視線が気になるんでしょっ」
「安産型ってのは余計。けど....よく見てるね、わたしのこと」
アイアンクローしてる右手に少し力が入る。
「痛いですぅぅよぉぉぉヴィィィヴィオさぁぁぁぁん!?」
どういった意図で見てるのかは後でじっくり聞き出すとして、わたしをちゃんと見てくれているっていうのは嬉しくなくもない。
彼がなにやらギブアップのサインを送ってるのに気付いた。力を込め過ぎた。
涙目になってるから一応、ごめんなさいしておく。
「いてて....そのまま握り切られるかと思った」
「それなんて南斗水鳥拳」
「実はヴィヴィオはあの伝説の拳法、聖王神拳の伝承者であった。聖王神拳は触れただけで相手を爆発四
散。......オリヴィエさんってたしかメチャクチャ強かったよね?」
「強かったけどそんな殺人拳の開祖ではないと思うよ。ま、その戦技がわたしに遺伝してるとは到底考えられないけど」
一応、わたしは人造魔導師。クローンとも言える、人工的に造り出された人間。わたしの複製母体....簡単に言えばオリジナルとなった人、『ゆりかご』の聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。彼女は魔法と武術の両方に優れていて、そこらの国々では敵なしだったみたい。最後は愛する人の制止を振り払って『ゆりかご』に乗り、戦乱を終わらせた......って、伝記には書いてあった。
詳しいことは知らない。クローンだからってオリジナルの能力や記憶を完全に受け継ぐわけじゃないから、当時オリヴィエが愛する人とやらにコークスクリューをかました記憶なんて残っていない。
残っていませんよ?
「だよねー。こっちとしてもその方が都合がいいわけだし、程よくか弱いなら乙女らしさが出るというもの」
「ほほぅ。つまり今は乙女らしくない、と」
「拳がヒュンヒュンと風を切る音出してる時点で乙女と言うのはどうかと」
「魔法少女だもん。しょうがないよ」
「ヴィヴィオの魔法少女の定義はおかしい」
いろんな定義がおかしい人におかしいと言われる筋合いは無い。魔法少女は何したって可愛いってなのはママが言ってたからそうなんだよ。
でも二○歳越えて魔法『少女』はアウトかな。
「....っと、ここが教室みたい」
「んぉ? おぉ、ここが」
薄っぺらな世間話もそこそこに、わたしたちの目の前に現れたのは『4ーA」と書かれた札が取り付けられた教室。教室から初等科四年生として一年間を過ごす場所。
Stヒルデは入学してから数回のクラス替えがある。初等科二年、四年と中等科一年、二年の計四回。
初等科五年制、中等科二年制の基本七年間の在学で生徒たちは社会の立ち回り方を教え込まれる。
ちなみに中等科を卒業してからも更に知識を深めたい人は高等科に進学する人が多い。わたしと彼も将来的には高等科に進学したいと考えてる。
「....ふふっ」
ともあれ、今日から一年間、彼と一緒に過ごす学校生活は心躍る。去年は違うクラスだったから、その分を取り返すくらい楽しまなきゃ。
「ほんじゃまぁ、行きますか!」
「空回りしない程度で」
わたしたちは、教室への引き戸を力強く開けた。
「諸君! 待たせたなッ!!!」
開け放たれた引き戸の音に教室中の視線が集まった。うっ....なんかこいう大勢の人に見られるのは苦手。
対して彼はこの視線が心地よいと言わんばかりに、満足げな表情を浮かべている。目立ちたがりな、彼らしい反応だと思った。
三八の視線をものともせずにわたし手を引き、スタスタと教壇に上がって、彼は直ぐに白いチョークを手に名前を書く。
......みんなの前なのに手を離す気配がまるでない。振り払おうにも無駄に強く握られていて、無理。..........春先なのに身体が熱い。ああ、もう。だから彼とは外に出たくない。
「初見の人は初めまして。そうでない人も初めまして。Stヒルデでは知名度が高いと自負してるけど、自己紹介したいからするね。––––三ーC組出身、紅影 零! 好きな食べ物は卵で得意な魔法は召喚転送魔法全般! これから一年、楽しくやっていけたらいいと思ってます! よろしくっ!」
恥じらいの一つもなく、教室中に響き渡るハリのある声で、彼は堂々と『自分』を宣言した。すっごいドヤ顔してる。元気よく弾けすぎだと思うけど、このくらい堂々としてるのは、ちょっぴり羨ましい。
しばらく静寂に包まれていた教室だったけど、直ぐにそれは破られ、クラスメイトたちがワイワイ騒ぎ出した。
「なーにやってたんだよ、遅いぞ零ぉ」
「こーえーくん遅すぎぃ!」
「そうだぞ!お前がいなきゃ、このクラス始まんねぇぞー!」
「ヴィヴィオちゃんとなーにしてたのー?」
最後に変な声を聞いた気がするけど気にしないことにした。
主に声を上げているのはおそらく、元三ーCのメンバー。『紅影 零』という存在と一年間を過ごして、その姿に魅了された人たち。
彼と同じクラスになれば一年間、密度の高い充実した学校生活を送れるという噂は結構有名で、今日のクラス替え発表を息を飲んで見守っていた人もいるとかいないとか。
やっぱり、彼には謎カリスマ性あるんだよね....。
「ほらほら。ヴィヴィオも自己紹介して!」
「..........なら手、離し....て!」
自分の喉から出たあまりにも小さく、掠れた声に、自分が一番驚いた。いつものように冷静に、ハッキリとした声が出ない。どんどん身体が熱くなっていく。わたしはこんなに大変な目にあってるのに、彼ときたら何か問題でも? と言いたげに首を傾げてキョトンとしてくれやがってる。
お、落ち着け高町ヴィヴィオ。こここんなことで顔を赤くして声が出せなくなるなんて、まるでわたしが彼に手を繋がれて恥ずかしがってるみたいだよ。彼へのこの感情、誰にも悟られるわけにはいかない。なのはママたちにだって知れてないことをクラスメイトに知られちゃったら元の子ないんだから!
だから、わたしはわたしの持つ言葉で、この場を乗り切る。みんなにわたしの思いを隠し通せる絶対の言葉。なのはママが使ってたって、八神司令が言ってた伝家の宝刀....!
大きく深呼吸して、一瞬、たった一瞬だけ心を落ち着かせる。相手の攻撃を紙一重で躱し、全力のカウンターを打ち込むように、彼の目を見て、全力の出せるだけの声で、わたしは言い放つ。
「べ、別に!君のことなんか!全っ然好きじゃないんだからっ!」
何故か、わたしはツンデレと呼ばれるようになった。
なんか冷たいヴィヴィオって書くのがすごく難しい。てか、ツンデレを書くのが難しい。先人はどんな考えで書いていたのか気になる今日このごろでした。
意見、感想とかあったら書いてくださいな。
次回→作者の頑張り次第