作者の妄想でした。
暗い、暗い、暗い部屋。太陽の光が一切届かない、闇に閉ざされた一室。
時空管理局本局の地下室の一つに数えられる部屋。この部屋の入室できるのは中央部に設置された培養器の中の『モノ』を知る人間だけ。
大型の培養器の中は青白く発光する謎の液体に満たされ、這うような薄暗い光が部屋を異質さを物語っている。
『..........、』
培養器の中の『モノ』は静かに、なんの動きも見せず、液体に浮いていた。万が一、培養器内の『モノ』を何も知らない一般人が見てしまえば、その人に常識があるならば、真っ先に管理局に通報するだろう。
なにせ、人が入っているのだから。
性別は女性。歳は一○歳前後に見え、体型は痩せ型。ウェーブのかかったブロンドの髪をクラゲの足のように揺らし、何故か逆さまになって浮いている。布という布を一切纏っておらず、人間が生まれる瞬間と同じ姿をして、ただただ静かに目を閉じている。
まるで、何かを待っているかのように。
『––––––』
突如、鍵のかかったように閉じられていた瞼が上げられる、いや、逆さまなので下ろされる。開かれたのは蒼き双眸。濃い蒼色の瞳は同系色である培養器内の液体が、まるで透明かのようにはっきりと主張する。冷たさと暖かさを備えた、全てを見透かすような瞳。
その視線は、周り中のよく分からない大型機材ではなく、真っ直ぐに、室内と室外を繋ぐ唯一の扉に向けられていた。
ミサイルの直撃に耐え得る強度を誇る特殊な素材と魔法術式で組まれている強固な四重層の扉が次々と開かれ、扉の向こうの光が差し込む。
「おはよう。気分はどう?」
当然の如く培養器の二メートル前ほどまで歩いて近づいて来た人物は、少女になんの躊躇いもなく、親しげに話しかける。
部屋の照明が着いていないため、人物はまるで影人間のように見える。
発光する液体の色が、入って来た人物を薄っすらと照らし、ほっそりとしたボディラインと、腰まで届くであろう長い髪を微かに浮かび上がらせた。女性だ。
『....貴女がここに来るなんて、珍しいですね......奴らに動きが?』
「......うん。ついに動き出したみたい。でも、まさかここまで早い段階で動くのは、ちょっと想定外だったかな」
『想定外....か。ふふふっ。この程度、想定内ですよ』
怪しげな笑みを浮かべる少女に女性は一瞬、呆気を取られるも、直ぐに口元が三日月の形に歪む。「そういうことですか」と、少女の意図を理解し、笑ったのだ。
自分たちの手の平の上で踊る、『奴ら』に。
『くふっ、くくっ....くく、くはは、くはははっ!』
「ふっ、ふふふ....ふっははははっ!」
『「くっはっはっはっはっ!!!!」』
二人は笑いは徐々に邪悪なものになり、互いに声を張り合うかのように大声で、悪の組織の重要人物のように高らかに笑う。
「エターナルハート、フェイトさん。なにしてるですか?」
––––そして予想外の人物の登場に硬直する。
『フェイトさん』と呼ばれた女性は邪悪な笑みを貼り付けたまま、ギギギと錆びた機械人形の首を動かすように不自然な動きで後ろに振り返る。
振り返った先には、これまた培養器内の少女と同い年ほどの年齢の少女が片手に何かの書類を持って佇んでいた。
茶地のジャケットに青いネクタイを締め、同じく茶地のタイトスカート––––時空管理局地上部隊に所属する者の着る制服だ。ジャケットの裾ほどまである空色の髪と爽やかなレモン色の髪飾りが暗い雰囲気の部屋をほんのり明るい雰囲気に変える。
「リ、リイン? ななななんでこんなところに....?」
空色髪が特徴の少女、リインフォースツヴァイ、略してリイン。管理局唯一の『ユニゾンデバイス』という少々特殊なデバイス兼人間。
リインは固まっている二人の硬直を解くように口を開き、話し始める。
「それはこっちのセリフです。わたしは技研からエターナルハートのデータリンクシステムの調整準備を任されて来たんですよ」
手元書類を『フェイトさん』––––時空管理局本局執務官、フェイト・Tハラオウンに突き出す。
小難しい専門用語の羅列で、見ているだけで頭が痛くなりそうな資料の隅っこには、『時空管理局本局第一技術開発研究部 室長 シスイ・ティミル』と書かれたサイン。これは本局の技術開発研究部から正式に仕事を託されたという証になる。
書類を見せられたフェイトはバツの悪そうな表情で「タイミング悪すぎだよぉ....」と、リインに聞こえない音量で呟く。
『あれ? データリンクの調整ってたしか最終日じゃなかったっけ。今日は魔導式偵察機の調整だったような......』
『エターナルハート』の名で会話が進んでいる培養器内の"デバイス"、通称、エル。曰く、個人端末に求める全てを実現させた、管理局が誇る『ぼくのかんがえた最強のでばいす』。今年でちゃっかり三十路。
その性能ゆえの一週間に渡る調整スケジュールを記憶の奥から引っ張り出し、本日は行わないはずの総合偵察システムの調整に疑問の声を上げる。
「うーんとですねぇ....何やら技研全体に緊急要請がかかってるみたいで、唯一、エターナルハートの調整が許可されているほどの技術者の揃う第一技研を回さないわけにはいかない状況、とのことらしいです」
『わたしよりも優先すべき要請で、全技研が動く要請かぁ......よっぽどの大事だねー』
会話のため、口を開く度にポコポコでる気泡を目で追って、特に興味を示さないエルに、リインはやれやれといった感じで「さっそく始めるですよ」と言葉をかける。
早足で培養器前まで進み、設置されているコンソロールパネルを慣れた手つきで叩く。デバイスだけあってか、高い処理能力でホロウィンドウに表示されるエラーや警告をハイスピードで次々と消していき、三○秒経たないで、データリンクシステムの中枢に辿り着いた。
これまでの膨大なリンクデータの記録をストレージ型デバイス『蒼天の書』に一旦移し、不備がないかをチェックする。濁流のようにスクロールする文字を一字一句漏らさず、リインは処理し続け––––、
ピタッと、手が止まった。同時に凄まじい速度で流れるデータも停止する。
「..........これは」
深刻な表情のリインが凝視しているのは、データリンクによりエターナルハートに受信されたとあるデータの一部。
データ名『魔法少女リリカル☆オリヴィエ』。
聖王教会監修の元、一種の布教活動として深夜枠で放送されていたアニメだ。
映画でも作ってるのかと疑うほどの戦闘シーンの作画と、熱い恋と友情の物語が話題を呼び、何を間違ったか、毎週日曜一八時三○分の放送枠を手に入れた謎の作品。現在は第四期が放送中。
リインは目にも留まらぬ速さで後ろを振り向く。恐らく、このデータをデバイスにダウンロードしようと目論んでいたアニメ大好き執務官を捉えるために––––––、
「フェーイートーさーん!!––って、いないっ!? いつのまに消えたですかっ!!」
『今日は早めに帰宅して家族サービスするって言って、リインちゃんが振り向く五秒ほど前、かな? いやー
、家族思いないい人だねぇ』
つい五秒前、家族のために高速移動魔法で早めに帰宅して行ったアニメ大好き執務官の焦りようを思い出し、「はっはっは」と棒読みのごとく笑う管理局の最高傑作なデバイス。
同じく「あっはっは」と笑う管理局唯一のユニゾンデバイス。
そんなユニゾンデバイスから一言。
「......エルちゃん。データリンクを私的に利用したことについて、まず言うことは?」
『ごめんなちゃい』
ちっちゃな二人だけで、何処と無く広くなった部屋に、謝罪の声が響いた。
◆
管理局で人型高性能デバイス二機が漫才のようなものを繰り広げているのと時同じくして、Stヒルデ魔法学院の別館図書館に何やら分厚い本と格闘する少女が一人。
「『データリンクシステム––時空管理局本局を中心とした統合情報伝達システムのことを指す。全管理世界の衛星や専用施設から様々データを受け取り、それを瞬時に処理して本局から地上本部や各支部、次元巡航艦に送信して的確な指示を出すことができる画期的な情報伝達システム』....全然意味わかんないだけどこれ。零くん、なんでこんなの読めるんだろ」
その意味のわからないシステムを使い、管理局地下施設で母親の一人が自分を題材としたアニメをダウンロードしようと目論んでいるのも知らず、高町ヴィヴィオは、顔をしかめながら『世界の超技術』という本のページをパラパラとめくる。
百科事典並みに分厚く、変に難しい言葉を使っているあたり、対象年齢が明らかに高い。いくら賢い文系のヴィヴィオと言えど、完全に理解するのは一苦労、といったようだ。
しょぼついた目をギュっと閉じ、背中を椅子に預けながら大きく背伸びをして固まった体をほぐす。
(......やっと学校が終わってクレープを食べに行こうと思えば、ホームルーム長が決まってないから魔法戦で決めるとか、なに考えてんの)
ちらりと時計に目を向けてみれば、時は既に一二時まで五分とないところまで進んでいた。
零が「ちょっくら行ってくる!」と言ってからはや三○分近く経ち、一緒にクレープを楽しみにしていたヴィヴィオとしては、徐々に上がっていく怒りのボルテージを抑えるのは難しいことだ。ましてや、零の強さを知っているヴィヴィオは、普通の学生相手に魔法戦でここまで時間がかかるはずない。当然のようにそう思っている。
頬を膨らませて不機嫌さを滲み出しているヴィヴィオの後ろに近づく影が二つ。
「ヴィーヴィオっ!!」
「わひゃっ!?」
首筋に冷たいものを押し付けられる感覚がヴィヴィオを襲う。肩が大きく跳ね、読んでいた本を床に落とし、鈍い音が図書館に静かに伝わる。
やっと来たか。と考えるも、直ぐにその考えを捨てる。零ならこんな回りくどいことはせず、一気に抱きついてくるのが当たり前。
自分をファーストネームで呼び、親しく接する人間、さらには図書館に訪れる人間となればかなり絞られる。
「だーれだ?」
「二人? さっきのはリオ、今のは....コロナ。うん、間違いない」
「「大正解!!」」
背後にいた二人の少女は、素早く机を挟んで向こう側に駆ける。
一人は頭に黄色い大きなリボンがついたカチューシャをしている、明るげな雰囲気の黒髪ショートカット。もう一人は腰の下辺りまで伸びた灰色の髪を、青と白の水玉模様のキャンディがついた二つのゴムで結ぶ、おっとりした雰囲気のツーテール。
もちろんヴィヴィオは二人のことをよく知っている。今学期、四年生になって、同じクラスになった友人だ。コロナ・ティミルは一年生で、リオ・ウェズリーは去年の末に出会い、四年生になった現在も深い交流のある仲だ。
一度、床に落ちた本を拾い上げ、ポーズを決めてウインクしてくる二人に、少々の疑問を持って話しかける。
「ここにいるのは言ってないけど....わざわざ探したってことなら、なにか用事があるの?」
「用事というか、学校終わった瞬間に師匠を引っ張って教室出て行ったのに、さっき師匠が屋外魔法戦場でクラスメイトとか教会騎士相手に大立ち回りしてたから、なにかあったのかなーって」
コロナの言った教会騎士の単語に、ヴィヴィオは、何処か納得した表情になる。
(なるほどね。クラスの人だけじゃなくって教会騎士も....。デバイス無しの今の彼じゃ、厳しいかも)
ある程度の予想をつけ、椅子から勢いよく立ち上がる。早足で本を元あった場所に戻し、自分の急な行動に驚く二人の横を通る。
「あ、ちょっとヴィヴィオ!? どこ行くのっ」
スタスタと歩調を緩めることなく歩いてゆくヴィヴィオを、リオがやや慌てながらも、止めようと声をかける。
リオの声に一旦足を止め、窓から差す太陽光を含み一層美しく輝やく金色の髪を揺らし、こう言う。
「いつまでもレディを待たせる、どうしようもない変態紳士さんを迎えに、だよ。二人も来る?」
仕方なく、という口調とは裏腹に、小さく笑う口元。
コロナとリオは顔を見合わせ、互いの意見が一致のを確認して頷く。二人の意見を代表してコロナが真剣な表情で一言。
「ヴィヴィオ、デレるのはちょっと早いよ。それじゃチョロインになっちゃう......それはそれで面白いけど」
「コロナ、少しだけ二人っきりにならない? もちろん、最後に聞こえた事についての話しで」
デレは否定しなくとも、チョロインは認めないヴィヴィオの話し合いが始まる。
デバイスがリアルタイムでデータリンクできたらかなり強くね?と思った。描写がないだけで原作ではされてるかもしれないけど。
意見、感想とかあったら嬉しいです。
次回→三月にはなる